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スイカ耐病性共台`園試1号`の特性
スイカ耐病性共台‘園試1号’の特性 1 情報・成果の内容 スイカ栽培は、つる割病などの土壌病害の発生により生産が不安定となっている。特に スイカ共台‘強剛’を利用している地域では収穫期に萎凋や枯死する株が多発し、砂丘畑 では収穫期に葉の枯れ上がりがみられる。このため、耐病性が強く収穫期まで良好な生育 を維持できる新しい台木が求められている。そこで、世界スイカ遺伝資源銀行に保存して いる野生スイカ種子を活用して、つる割病に強いスイカ台木‘園試1号’を育成したので 紹介する。 ‘園試1号の特性’ 耐 病 性:ユウガオ台‘かちどき2号’、共台‘強剛’よりつる割病に強い。 果実品質:ユウガオ台や共台‘強剛’を使用した場合よりも糖度がやや高く、食味も 良い。 生 育:ユウガオ台よりも低温伸長性がやや劣るため、早植の場合、草勢が弱 く果実肥大がやや劣る 2 試験成績の概要 (1)育成経過 世界スイカ遺伝資源銀行に保管している種子をは種し、発芽後の幼苗時につる割病 菌を接種して全く発病しない株を選抜した。この選抜株を栽培して自殖種子を採種し た後、再度は種を行い、接種・選抜・自殖種子の採種を繰り返し、より病気に強いも のを選んだ。この作業を5∼6世代繰り返した系統の中から、安定してつる割病に強 い系統‘園試1号’を選抜した。 (2)栽培試験 ア 場内の萎凋株常発ほ場 2002∼2004年の3年間、共台(園試1号、ケルン等)、ユウガオ台(かちどき2号、 パワーサンタ等)、カボチャ台(No.8等)を供試し、4月中旬定植、株間40cm、2本 整枝1果穫りの前進中型トンネル栽培で、萎凋の発生状況を調査した。 表1 場内萎凋株常発ほ場での‘園試1号’の特性(2002) 枯死株率 品種・系統名 萎凋指数 (%) 共 台 園試1号 5.0 36.7 ケ ル ン 35.0 64.3 ユウガオ台 かちどき2号 パワーサンタ 70.0 20.0 86.7 53.3 カボチャ台 No.8 15.0 37.5 注)萎凋指数は、萎凋程度を0:なし∼3:枯死の4段階で評価し、 次式で指数化した 萎凋指数=Σ(萎凋程度×個数)/(3×総個数)×100 ‘園試1号’は、萎凋指数がカボチャ台の‘NO.8’と同等に低く、萎凋しにくく て枯死株の発生も少なかった(表1)。 イ 場内健全ほ場 3月下旬∼4月上旬定植、株間80cm、4本整枝2果穫りの前進中型トンネル栽培で 果実特性を調査した。 ‘園試1号’は、ユウガオ台と比較すると果皮は薄く、糖度は同等以上に高かった。 しかし、低温伸長性が劣るため、初期生育が緩慢で草勢がやや弱く、果実肥大がやや 劣った(表2)。 表2 場内健全黒ボク畑ほ場での‘園試1号’の生育特性及び果実特性(2002) 一果重 果皮厚 糖 度 (Brix) 果肉硬度 初期生育量 品種・系統名 つる長(cm) 葉数(枚) (kg) (mm) 中心部 種子部 境界部 (N/Φ3mm) 園試1号 42.7 4.5 6.75 11.4 13.1 12.6 9.4 0.79 かちどき2号 パワーサンタ 52.6 51.7 6.3 6.0 8.86 9.15 14.3 14.4 12.5 12.9 12.1 12.5 8.5 9.1 0.89 0.85 注)初期生育量は定植(4/2)∼摘芯(4/14)の期間に伸長したつる長と展開葉数 そこで、‘園試1号’の低温伸長性が劣る点を克服するため、春先の地温が上昇し やすい砂丘畑及びスイカ共台‘強剛’を利用している黒ボク畑で比較試験を行った。 何れも3月下旬定植の4本整枝2果穫りの前進中型トンネル栽培とした。 (ア)砂丘畑(大栄地区) ‘園試1号’は、ユウガオ台‘かちどき2号’に比べ、草勢が旺盛で葉色が濃く、 葉の枯れ上がりが少なかった。いっ泌液量も多く、根の活性が高いと推察された。果 実肥大、糖度については何れも同等以上で、砂丘畑での栽培適性は高かった(表3)。 表3 砂丘畑における‘園試1号’の栽培及び果実特性(2005) 萎凋 葉の枯れ いっ泌液量 糸 状 菌 の 品種名 草勢 葉色 指数 上がり指数 (ml/日) 検 出 果重 (kg) 糖 度(Brix) 中心 種子 境界 かちどき2号 4.3 6.3 35.0 57.0 357.5 なし 9.85 12.4 12.8 9.2 園試1号 4.5 1.7 45.8 27.0 739.5 なし 9.98 12.6 13.0 9.8 注)草勢は0:枯死∼5:極強の6段階で評価 萎凋指数は、萎凋程度を0:健全∼3:枯死の4段階、葉の枯れ上がり指数は葉縁褐変の程度を0:なし∼3:強の4段階で それぞれ評価し、次式により指数化した。 萎凋指数・葉の枯れ上がり指数=Σ(萎凋程度・葉縁褐変程度×個数)/(総個数×3)*100 (イ)黒ボク畑(倉吉地区) ‘園試1号’は、‘強剛’よりも草勢が旺盛で萎れにくく、果実肥大・果実品質も 同等以上に優れた(表4)。 表4 黒ボク畑における‘園試1号’の栽培及び果実特性(2005) 萎凋 枯死株 いっ泌液量 糸 状 菌 の 葉色 品種名 草勢 指数 率(%) (ml/日) 検 出 強 剛 園試1号 果重 (kg) 糖 度(Brix) 果肉硬度 中心 種子 境界 (N/¢3mm) 3.6 47.2 12.5 42.1 65.0 Fu、Mo、 Ma 6.49 11.4 10.8 7.5 0.70 4.1 3.3 0.0 48.1 499.2 Fu、Mo 6.76 11.7 10.9 8.3 0.77 注)草勢、萎凋指数については表3を参照 糸状菌の検出は、つる割病菌をFu 、黒点根腐病菌をMo 、炭腐病菌をMa で示し、ゴシックは高率に検出されたことを示す。 3 利用上の留意点 (1)つる割れ病以外の土壌病害に対する耐病性については、特に付与していない。従っ て、萎凋株発生ほ場においては発生要因を考慮して使用する。 (2)ユウガオ台と比較すると低温伸長性が劣る。このため、草勢が弱く果実肥大が劣る ので、砂丘畑ほ場以外では早植を避ける。 4 試験担当者 ( 野菜研究室 研究員 前田英博 )