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北海道さけ・ます
,化場
研究報告 第 799号 n-lR
頁
ユーラップ川に 放流した北米産ギンザケについて
石 田
佐々 本
On the COho
昭
金
Salmon
夫・田
吉・根
中
本
哲
義
transplanted from
River, HOkkaid0.
彦 ,亀 山
昭
U.S
・
四
郎
A . into Yurappu
Teruo ISHIDA, Tetsuhiko TANAKA, Shiro KAMEYAMA,
Kingo
SASAKI and YOshiaki NEMOTO
ま
え
が
き
1973 年12 月に合衆国からギンザケ卵10 万が北海道さけ・ますふ化場にとどいた。そのうちの 9 万が八
雲事業場に収容され,ふ化した稚魚はひれ切除標蒜 を施した後,ユーラップ川に放流された。不幸なこ
とに・放流間近になって眼球が白洩失明するものが続出し大半が 被思した。 しかし失明をま ぬがれ
た稚魚は放流後順調に生育を続けた。放流後のギンザ ケ 幼魚の生長,分布,行動について数回の観察が
なされ,初歩的な知見がえられた。
この軟文は北海道で始めてのギンザケ移殖の経過をふくめ,放流した年の秋までの観察結果をまとめ
たものである。
稚魚放流までの 経過
オレゴン州の E 昭 Ie creek 国立ふ化場からのギンザ ケ発眼卵 9 万が八雲事業場に到着したのは1973
年12 月
尺 25 日で,卵は直ちにふ化槽に収容された。 この時のふ化槽水温は 6 . 9 で , 死卵は 235 であ った。
1974 年 1
月
7
日
ふ出開始, 1 月 21
日
ふ出終了,稚魚はふ化室内のふ化水槽 ( I 間換算) 24 本に分けて
収容した。 2 月始め浮上開始,下旬に卵黄の吸収が終 る 。 放流直前の 5 H26
日までの死亡数は I, 07f で
あ った。
給餌は 2
月
15 日より開始,始め I 日当り200 R のさけ稚魚用乾燥餌料を与え,その後,量をまし
4
2kg を 6 回に分けて投与した。
4 月 26 日から 5mIo 日までの間に標詩のため,あ ぶらびれ切除を全数について実施した。この切除は
きわめて確実になされ,ほほ100% 完全なものであ った。
月以降は I
日
標誌をほどこした際, 奇型と眼球 白洩のものを除いたが,その数はあわせて 8 , 000 余 であ った。奇型
の発生率は高く,
主として体後半の背椎骨が幾つにも湾曲短小化したものであ った。
重量法による算定でほほ 8 万と推定された稚魚は 5 月
尺 28 日に放流した。放流作業の途中で 眼球の白洩
したものが異常に高い率で存在していることに気づき, 300 尾を抜き取り検査したところ約 7 割が犯さ
れていた。この数字は肉眼による点検でやや不確実であることと,潜在的な被患魚もあ ったであろうこ
とを考えると,正常な魚の割合は悲観的に低かった可能性があ る。
流
放
ユーラップ川を放流河川に選んだ理由は, もともとこの川にはギンザケの遡上があ 刀疋田 , 1956),
北海道さけ・ます
ン . 化 場研究業績第 2?4l 号
7J
北海道さけ・ます
L、 化場:研究報告 第 29 ぢ
本来の佳類相を乱すという問題が少ないこと,河川の形態が適度の流速のふちを持ち, ギンザケの生息
に適していると考えられる ( Hartman,
1965) , 悔にでてからの条件が噴火湾および三陸沖の親潮水域
というさけ・ますの生育の場として好適なところに恵まれていること,等によるものであった。
ユーラップ川のどの部分に放流するかは,
ので,
JIBP-PF
釣規制関係の制約により・下流部の支流は除くことにした
の調査区域として 使われ,川の 条件がよくわかっており,透視度が高く行動観祭が允
分行えるキソンぺ タン川の I 地点 (St
八雲事業場に接し
D) と,
・
Ul の生物生産カ が高いと
みられるセイヨウべツ 川に 2 地点 (A ,
B) ,
ユ ―フ
□
I 地点 (St
・
およびその下流にサクラマスのみを放流する
C) を定めた (図 I L
放流は 5 月
H28
tn
日に行った。この時すでに融
雪による増水は大体おさまっており,
Jll
ぺ クン川では数m
キソン
先を透視できるだけ澄んで
いた。セイヨウべツ川は I 年中水が洩 ってい
る川なので,この時も洩 っていた。放流時の
水温は St .
(11
: 00),
: 20)
A
が11.5@C
(11 : 40) , B13.4@C
C13.7@C(14:
, 11.3C
u4
放流地点を前日の 5
ホンセイヨウ
べッ
1l
せ 'づ うべっ 格
場-
上遊楽 格
St .
A
00),
: 00)
D10.6C
(12
であった。
月
27 日に調べた所,
ではエゾイワナと,
銀毛の徴候の死ん
ど みられないサクラマス幼甘がかなりの密度
で生忘、 しており, St . B では銀モ化したサク
St .
ラ マス幼也が多数みら ナ した。
D
ではサク
ラ マス幼魚の姿は全くみらナ Lなかった。
放流尾数は St
・
A
に 2 万,
B に 2 万,
St
C は サクラマス稚魚、
を 5 万,
St . D は 12 時20
分にギンザケ椎魚、 を 4 万, U4 時4(@分にサクラ
南市 刀
マス稚魚、
を 2 万放した。 St . D にギンザケと
f
サクラマスの双方を放したのは両種の競合の
占
状態を観察するのが 目的であった。
放流時の魚の大きさは, ]00 尾の抜取リ調
5km
図@
査でギンザ ケ 47-64mm
,平均
R66mm , 平均I . 85
g ,サクラマスは3i.3i-64inni ,平均46niTii
, 0 . .34
- 3 . 0 K ,平均I . 07K であった。
ユーラップ川の地図
放流後の観察結果
放流翌日 :St B では眼球をおかされていない正常の稚魚がふちの内側のゆるやかな流れの部分で,
・
流
れにさからいながら小範囲を前後,上下しながら活発に摂餌 していた。放流点から上流への移動は僅か
で,少数の個体が30-40m
上流までのぽ っているのが見られたにすぎなかった。放流点には多数の個体
が留まっていたが,下流への分散もなされていた。 しかし その範囲は確めなかった。
眼球白洩個体は放流方をふくめてその下流の岸の茂みの石の後などにひそんでいた。St . B から 3km 桂
下流の地点を点検したところ,
そこでも周辺の川岸の浅みに至る所でみもれた。 しかし正常な個体は全
くみられなかった。
St B で採集した正常個体 5 尾 と白 油個体 8 尾の 胃 内容を検したところ,正常個体はいつれも陸上昆虫,
・
J2
ユーラ ソプ 川に放流した
北米産ギンザケについて
ュス リカ幼虫などを多数たべていたが。白洩した
いた他は空胃のもののみであ った。
エ卜
口二
行った100m
程の区間のいづれでも・ 正常な ギン
ザケとサクラマスがぶちのゆるやかな流れにでて
活発な寸辮を行つていた。
両種はこの時には
全く 混リ
あ っており,行動に差は認められなかった。眼球
0
<AY
JUNE
JULY
AUG
SEPT
白沖個体は岸辺の流れのない所にひそんでいた。
OCT
St.@肋、ら 1km 程下流の他 占 を調べたところ,眼
St . B および D のギンザケの生長
図2
球白洩個体のみが占々 と川岸にひそんでいたが
・
正常個体はみられなかった。
u4
日
なかった (w
・
: 00-16
T
・
: 00)
17.0C)
: St B ではギンザケ幼伍がふちの深みに群れており,浅みにはみられ
・
6 m12
。 採集した 18 個体を検したところ,
I 尾が眼球 白沖個体であ った他は全て正常
のもので,白洩個体は殆どがすでに生活力を失って消失したものと判断された。
St D ではギンザケ幼奄は,川岸のよどみや浅く流れのゆるやかな分流の部分に集中しており, 瀬に
・
でている個体は殆んど認められなかった (w
月
I
日
定では6f-
:
・
T.
12.4@C)0
St B ではギンザケ 幼魚が多数順調な生育を続けており,漁獲した24 尾にっいての体長測
・
100mm ,平均78mm になっていた (W
・
7
T
・
15.9C
。
ェ
2 : 30) 。
下流の八雲事業場下のポンセイヨウべツ 川合流魚附近のふちで試みた漁獲ではギンザ ケ 3 尾 (平均体
長76imn) とヤマべ4 尾 (平均体長 78mm) がみられた。 またポンセイヨウべツ 川内ではサクラマスのみが
10 尾漁獲された (平均体長 78nim)@
・
セイ 日ウべツ川と本流との合流点から約 Ikm 下流のふちでの観察では,サクラマスのみが数尾群れて
いるのが観察され,
その地点の分流で試みた漁獲でもサクラマスのみが漁獲された。
St D では放流点上流30m から下流約 100m の区間で漁獲されたギンザケは19 尾 で体長61-78inm , 平
均 68iiiint
サクラマスは 13 尾, 54-86mm ,平均71mm であ った (水温14 . 0@C, IO: 45L 。
St D から 4km 程下流の上遊楽橋の附近では浅く流れのゆるやかな分流にギンザケがかなりの密度で
生活しているのがみられた。漁獲を試みたところギンザ ケ 15 尾 (体長58-75mm ,平均69inm) ,サクラマ
ス 6 尾 (61-81mm ,平均69mm) であ った。
・
・
7 @ 29 日―8 月 I
ョ
日
A
: St .
では放流点かもその上流30m
のE 間でギンザケ 4 尾とサクラマス 5 尾が
漁獲され,放流とからその丁30m の区間ではギンザケのみ10 尾が漁獲された。それらの体長は71-106
mm 。
平均86mm であった (W
・
T
・
17 . IL , 14 : 00) 。 放流魚より30m 以上上流のところは流れの速い瀬が続
いており,そこにはギンザケの分布はみられなかった。
St B では放流点のふちと,その50m
・
下のふちで 28 尾漁獲があ り,その体長は67-97mm
,平均
80mm で
あ った。いつれもふちのかしらの部分には少 く, ・中央部かも
後部にかけて分布が多かった。放流点の ノ、
ちではぶちがしらで体長 ]70-
St D では放流点から40m
・
(71-90mm
180mm の 1 十のサクラマスが漁獲された (W .
下のふちと, さもにそれから80m
,平均82mm) ,サクラマス19 尾 (60-
放流点下40m のふち (長さ 6 - 7 m ,
約 2 時間行った。その際,
mm
巾 3
m
1IImm ,平均91mm)
,深さ I m)
T.
18 . 8C ,
15
: 00) 。
下のふちで行った漁獲でギンザ ケ 9 尾
がとれた (W
・
T
・
16 . IC
・
15:00) 。
では反射鏡併用ののぞきによる行動観察を
ふちには 1 + の大型をふくむ10 数尾のサクラマ ス
と
7-8
尾のギンザケ , 200
程のウグイ数尾がいた。
ぶちがしらには 1
+
のサクラマスを先頭に, ・その側方と
後方に 0
おり,その部分にはギンザケはいなかった。 0+
みにそって,
+
のサクラマスが定位して摂餌 して
のサクラマスの分布はふちの流れでえぐられた側の深
ぶちの中頃より幾分後方にまで及んでいた。
J3
北海道さけ・ます
、 化場:研究報告 第 29 号
ノ
ギンザケはぶちの深みとは反対側の流れの比較的ゆるやかな場所とふちの後部にかけて分布していた。
ギンザケはサクラマスのように I 点に定位してえさの流下をまつというより。数10cm の範囲内で水平,
垂直方向に移動しながら流下してくるえさをたべていた。ただし 頭は水の流れてくる方向に向けてお
り,パトロ□ ル的な移動ではなかった。他のギンザケが近づいてくると,その方向に突進して追い払う
のが幾度もみられた。 ギンザケがサクラマスに近づくと,サクラマスはギンザケに突進し・ギンザケは
常に追い払われた。その場合,サクラマスがギンザケ よりも大型だとは限らなかった。ウグイはギンザ
ケ ,サクラマスの両種ともに干渉しあ うことなく,ぶちの中をパトロ―ル していた。
日
: St B で漁獲を行い, 8 尾をえた。体長は90・
14 : 15L 。 この 8 尾の 冑 内容を調べたところ,
ウの成虫. カメムシ。
クラマス ( 126mm)
10 月
n25
日
・
T
・
8. 5
それは殆んどがカゲ 口
甲虫やくもなどで, 流下水生昆虫は殆んどみられなかった。同時に漁獲されたサ
も全く同様の餌 をたべていた。
St B のふちではかなりの流速で水がながれていた。
: 前日の雨でかなり水量がましており,
ギンザケは流れの中心部にはおらず,
尾,
110mm .平均102mm であった (w
胃は餌によって充満しており,
・
10 月 i8
で ,
わきの流れのゆるやかな所に分布しており,放流点のふちでは 7
その下のふちで 4 尾漁獲された。いつれの個体も体形がすんなりとし,休色にギンザケ特有の緑色
があ らわれ,いわゆる銀モ化の傾向があ らわれているように見受けられた。体長は89-
107mm ,平均99
mm であった。
St D では放流点からその丁 200m の間をのぞきによる透視と,漁獲を行ってみたが,ギンザケの姿
は全くみられず,サクラマスも数尾がみられたのみであ った。約 Ikm 下流の南満河橋周辺でも同様であ
・
った。
その他の情報 : ユーラップ川は ギンザケ 放流に伴う措窩 として,支流の―つの鉛 川合流魚 (図 T ) か
ら上の部分を禁漁措置としたので,ぞの区間の釣情報はえられなかったが,鉛川合流点から下流ではサ
クラマスに似た見なれぬ佑 を釣ったという話が大分きかれた。それがギンザケであることはほほ [ちが
いなかろう。
興味あ ることに,―番下流の支川であ るサランべ 川でそれらしい伯 が釣れたという情報であ る。そう
であれば. ―度下流まで下り,
再び文川に湖上した個体があ ったことになる。
議
三ム
ー田口
HartmaH
(1965) によれば,フリティシュ・コロンビアのいくつかの川のギンザケ 幼魚は川の上半
分の川床が安定し, 魚のかくれ場の豊富な, 小さなぶち と ゆるやかな瀬のある部分に高い密度で生息し
ており。 5 -8
月には瀬に少 く。 ふちに多くみられると云う。
今回の放流後の観察でもギンザケ幼也はふちに分布しぶち 以外の場所としては川岸のどどみや浅く
流れのゆるやかな分流の平瀬に―時期みられただけであ った。この分流や川岸のよどみへの分布は, 荒
れ川であ るキソンぺ タン川の場合,ぶちで・ さえも場合によって好適なすみ場所でなくなるごとを示唆し
ている。 また,定量的な判定こそしなかったが,セイヨウべツ )1lと キソンぺ タン川では前者の方がギン
ザケの定着状態が良好であ り.その理由としてキソンぺ タン川が荒れ川で,余りゆるやかな流れでない
淵 しかもたないのに対しセイヨウ べツ 川がゆるやかな淵 をもつということが考えられた。
これらのことから.ギンザケの生育に適した条件としては,ゆるやかな瀬と沢山のふちのある川が望
ましいことは明らかなようである。
寒い地方の甘 にとって, 冬の越冬場所はきわめて重要なので,ユーラッフ川がその条件をどの程度f荷
しているかは今後の重要課題であろう。 St B では10 月下旬でも暖かい季節と同じ状態で生息しており
・
St D では全く姿を消していたことは,サクラマスの場合 (石田。 197I) と同様,越冬条件のある所で
・
は寒くなっても移動せず。条件のない所では他所に移動するということを示唆している。
サクラマスとギンザケの両種が自然の分布域に殆んど重複のないことから,生態的地位が同じため共
存が難しいのであろうという見解が―般に持たれてきた。今回の観察でも, 両種の摂取する餌 の種類に
は 差が認められず,えさを摂 る場所もよちが―般であるという点で共通していた。 しかし同じ位の 犬
f4
ユーラップ川に
放流」た北米産キンザケについて
きさの個体問ではギンザケに対しサクラマスが常に優位にたち,近づくギンザケを追い払うという 点と,
ぶちの中でR@ 餌する場所がサクラマスではぶちの頭の瀬からのおちこみの所が常に優位の個体で占めら
れ,その部分が最もよい場所と考えられるのに対し,ギンザケではぶちの中央部に,サクラマ ス との干
渉がない場合でも,多くみられる点で差異がみられた。ギンザケがf,聚耳 する際,サクラマスのように I
点に定位せず,ある範囲内を上下左右しながらまちうけるということは,流れのゆるやかなふちの中央
部での索餌に適した仕方とみることができよう。
そのような両種の習性にみられる幾分の差異を通して,―つ のふちの中を両種がすみ分けて生活を続
けたことは今回の観察で確められた。 しかし 両種の種々の密度条件下での相互関係,それを通しての
生活の場の変化など,今後明らかにしなければならない点は多 ぃ。
ギンザケの生長は図 2 に要約したように,かなりの生息密度が観察期間中維持された St B において,
・
10 月末で平均体長locm という値を示した。この値は Chapman
(1962)
の示した Deer
Creek および
Flynn Creek での数年間の値にくらべてはるかに良好であ る。 北米におけるギンザ ケ 幼魚の低い生長
は高密度に由来する部分が大きいと考えられ,ユーラップ川での良好な生長が必ずしもギンザケの生息
条件の良好さを示すものではないが.少 くとも暖かい季節の生息条件はユーラップ川のそれはギンザケ
にとって悪いものでなかったことは明白であ る。
越冬条件の良否は残された問題だが,それに問題がないことが判明したら,北海道におけるギンザ ケ
資源の造成は行ってみる@f ィ直 が充分あるといってよいであろう。
引
Chapman,
D. W.
1962. Aggressive
behavior
用
文
献
fn juvenile coho
salmon
as
a cause
0f emigration
J. Fish. Res. Bd. Canada, 19(6). 1047-1080.
Hartman,
G. F. 1965. The role 0f behavior fn the ecology and interaction Of underyearling
coho
sa@mon
(Oncorhynchus
Res. Bd. Canada,
上田裕薙.
ん
isutch)and
stee@head
trout(Salmo
gairdneri)
22(4), 1035-1081.
1956 ,北海道沿岸及び河川で捕られる太平洋鮭鱒類, 姻イヒ場 試験報告,1T : 25-44
石田昭夫.1971 。 やまべの話,北方林業。267 号 (23 巻 6 号 )
f5
・
26-28.
. J.Fish
Fly UP