...

解説 実験事例8 世界のバイオーム(生物:生態)

by user

on
Category: Documents
14

views

Report

Comments

Transcript

解説 実験事例8 世界のバイオーム(生物:生態)
解説 実験事例8 世界のバイオーム(生物:生態)
Ⅰ
準備上のポイント
(1)実習1
・ 色鉛筆を持参するよう事前に連絡しておくとよい。実習費で消耗品として購入しておくと
便利である。
(2)実習2
・ 常緑樹と落葉樹の葉をそれぞれクラスの人数分(一人に一枚配れるように)準備する。常
緑樹の葉としては、アラカシやクスノキが身近で準備しやすい。スダジイやマテバシイなど
でもよい。落葉樹の葉としては、ケヤキやカエデの他、サクラやナンキンハゼなどでもよい。
ブナやミズナラなどは、山に登った時に採集し押し葉標本にして保存しておくとこのような
実習に使うことができる。
(3)落葉樹は秋以降は落葉して既になくなっている。世界のバイオームを学習するのは 3 学期で
あることが多いので、秋になるまでに葉を採集しておき、押し葉標本にしておく必要がある。
Ⅱ
実験操作上のポイント
1 実習1
・作業(1) 教科書や資料集にある図をみながら、年平均気温(-20、-10、0、10、20、30)と
年間降水量(0、1000、2000、3000、4000)の数値を記入する。
・作業(2) 照葉樹林、夏緑樹林などバイオームの名称を記入する。この図では熱帯多雨林と亜熱
帯多雨林は境界を描いていない。年平均気温がおおよそ 25℃を境に左側が亜熱帯多雨
林、右側が熱帯多雨林とするとよい。
・作業(3) 森林・草原・荒原それぞれに複数のバイオームがある。それらを太い線でひとくくり
にする。
・作業(4) 落葉樹には夏緑樹林と雨緑樹林がある。
・作業(5) 日本には亜熱帯多雨林、照葉樹林、夏緑樹林、針葉樹林のバイオームがみられる。
・作業(6) 神戸は照葉樹林、那覇は亜熱帯多雨林、秋田は夏緑樹林の場所にデータの点がくる。
なお、針葉樹林の場所に点がうてる適当な都市は見当たらなかった(たとえば、帯広は
夏緑樹林の場所になってしまう)が見当たらなかった。
・作業(7) バイオームの成立に影響する要因は年平均気温と年間降水量である。また、地中海性
気候の地域に成立するのは硬葉樹林である。
・作業(8) ・雨緑樹林 乾季には降雨がなく乾燥するので落葉して休眠するため
・夏緑樹林 冬季にはかなり低温になるので落葉して休眠するため
※ 作業7と作業8は生徒に発表させたり、黒板に書かせて説明させるなど、生徒の言語活動を取り
入れるとよい。
2 実習2
(1) 常緑樹、落葉樹のそれぞれについて、葉一枚をスケッチする。葉は葉柄がついた状態である
方が好ましい。枝と葉柄の境にある離層ができる面に言及するとよい。
(2) 常緑樹の方が落葉樹より緑が濃いように見える場合もあるが、違いがはっきりしない場合も
ある。緑が濃く見えるかどうかは、一つには、葉の厚さが関係しているだろう。クチクラ層は
常緑樹(この場合は照葉樹)で発達しており、葉の表面につや(光沢)がある。ケヤキなどの
落葉樹にはクチクラ層は発達しないので葉の表面に光沢がない。葉の厚さは手で持った時の感
触で判断する。葉の切片を顕微鏡で見た映像を示すと効果的である。これら以外に、常緑樹は
葉が硬くしっかりした感じであるが、落葉樹は葉が薄くて柔らかい印象をうけるなどといった
といった点に気がつく生徒が多い。
(3) 常緑樹の葉は2年から数年程度の寿命があり、また、冬季であっても照葉樹林が成立する
ような暖温帯では光合成を盛んにしているものと思われる。このように一年を通じて光合成
ができる環境においては、丈夫で長持ちする葉をしっかり作ることに意味がある。丈夫で長
持ちする葉をつくるには多くのコストが必要だが、それを上回る光合成が期待できるからで
ある。クチクラ層の形成にも多くの物質やエネルギーを投資するのであるが、葉の寿命を長
くするための投資として必要なのであろう。
一方、落葉樹はおおよそ5月ごろに若葉が展開し、11 月ごとには落葉すると考えると、
葉の寿命は約6か月ほどであり、その期間で行う光合成でコストを上回るような光合成能力
の高い葉をつくらなければならない。葉を丈夫にすることにかけるコストを減らして光合成
能力を高くすることにコストをかけ(たとえば、光合成関連のタンパク質の量を増やすなど
が考えられる)
、常緑樹の葉より短い光合成期間でコストを上回るだけの光合成が可能にな
る。
※ (3)の常緑樹と落葉樹のちがいは、植物の環境への適応ととらえることもできるし、適応戦
略の選択としてコストと利益の関係から議論することもできる。発問を設定し、グループ協議を
取り入れ、発表させると、時間はかかるがクラス全体で理解が深まる。
発展として、針葉樹の低温乾燥への適応へとつなげることができる。エゾマツやトドマツ、オ
オシラビソなど針葉樹の多くは常緑樹である。冬季の生育環境がより厳しい地域で常緑性である
ことを考えさせるとよい。
Ⅳ
実験の効果
1 実習1
・生態分布図に色をつけたり書き込みをしたりしながら、それぞれのバイオームの特徴を理解で
きる。
・世界のバイオームの中に日本のバイオームの水平分布を入れ込んで理解できる。
2 実習2
・常緑樹と落葉樹の特性の違いについて考察することにより、それぞれが生育する地域の気温な
どの環境要因との結びつきを知ることができる。
・常緑樹と落葉樹をある程度見分けることができるようになり、身近な自然に対する興味関心が
高まる。
Fly UP