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調 査 報 告 - 日本産業機械工業会

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調 査 報 告 - 日本産業機械工業会
調
査
報
告
__________________________________ ウィーン
●黒海沿岸経済圏投資環境視察ミッションに参加して
(ルーマニア、ブルガリア、トルコ)
(その1)
2007年1月にEU加盟を果たしたルーマニア、ブルガリアの投資環境が注目される中、新たに
EUと国境を接することとなったトルコ(イスタンブール以西)の視察環境を調査する黒海沿岸
経済圏投資環境視察ミッションがジェトロ・ウィーンセンター、ブカレスト事務所、イスタンブ
ール事務所共催で2007年11月上旬に実施された。今回、本ミッションに参加して得られた知見を
中心に2回にわたり報告する。なお、図表は本ミッションで受領した事前配布資料とセミナー配
布資料を参考にして作成し、それ以外の資料を引用した場合は別途記載している。
1.ルーマニア
ルーマニアにおいては、ブカレストで投資環境セミナーが開催され、ルーマニアに進出してい
るYAZAKI Romania S.R.L、Makita EU S.R.L訪問を行った。また、Makita社においてルーマニア進
出日系企業を招いてパネルディスカッションが開催された。ルーマニア概況と併せて以下に報告
する。
YAZAKI
S.R.L
Romania
Makita EU S.R.L
ルーマニア地図
1.1 ルーマニア概況
1.1.1 基本事項
面積:23 万 8,391 平方キロメートル(日本の本州とほぼ同じ)
人口:2,162 万人(2006 年)
首都:ブカレスト(人口 192 万 5,000 人(2005 年))
言語:ルーマニア語
宗教:ルーマニア正教、カトリック
-1-
調査報告 ウイーン
1
1.1.2 経済概況
1989年の体制転換後は、国営企業民営化の遅延、農地私有化に伴う混乱等のためにルーマニア
経済は大幅に悪化し経済成長もマイナス成長であった。しかしながら、2000年に実質GDP成長率が
1.6%となって回復基調となり、それ以降は平均5~6%の成長を続けている。2000年には40%を超
えていたインフレ率も2006年には5%以下にまで低下し、マクロ経済は安定化の傾向にある。以下
に2002年以降の主要経済指標を示す。
2002
実質GDP成長率(%)
2003
2004
2005
2006
2007上半期
4.9
4.9
8.3
4.1
7.7
一人当たりGDP(ドル) 2,088.4
2,721.5
3,464.3
4,539.2
5,633.4
22.5
15.3
11.9
9.0
4.87
1.6
経常収支(百万ユーロ) -1,623
-3,060
-5,099
-6,888
-9,973
-7,812
貿易収支(百万ユーロ) -2,752
-3,955
-5,323
-7,806
-11,759
-7,833
財政収支(百万レイ)
-3,950
-4,395
-3,693
-2,268
-5,651
-750
-2.6
-2.3
-1.2
-0.8
-1.7
-
15.8
18.1
24.5
27.7
31.5
消費者物価上昇率(%)
※
財政赤字対GDP比(%)
対外債務残高(10億ユーロ) 15.0(ドル)
5.8
-
失業率(%) 統計局
8.4
7.4
6.3
5.9
5.2
4.0※※
失業率(%) ユーロスタット
8.4
7.0
8.1
7.2
7.3
7.2※※
備考:※インフレ率(年末)、※※2007年6月現在
出典:ジェトロホームページ、国家予測委員会、統計局、中央銀行、IMF資料
表1-1 ルーマニアの主要経済指標
2
1.1.3 貿易概況
ルーマニア国家統計局の貿易統計によると、2005年の輸出は前年比17.5%増の222億5,510万ユ
ーロ、輸入は23.9%増の325億6,850万ユーロとなっている。
輸出については、最大輸出品目である繊維製品が伸び悩み0.1%減となっている。これは、西欧
の服飾産業が賃金水準の低さから製造委託を行っていたが、賃金上昇に伴って事業環境が厳しく
なっているためと予想されている。一方、機械・電気機器(前年比18.6%増)、金属・同製品(同
12.8%増)
、鉱物(同81.1%増)
、輸送用機器(同47.5%増)の伸びが目立った。鉱物については、
石油・同関連製品などの輸出拡大が影響し、輸送用機器についてはルノー傘下のダチアが供給す
る低価格戦略車「ロガン」の好調を反映している。国・地域別に見ると、EU25ヵ国が全体の67.6%
を占めて最大の輸出先となっている。イタリア(全体構成比19.2%、伸び率6.4%)は、生産委託
された契約工場からの既製服および履物輸出が主体であり、ドイツ(同14.0%、10.3%)は機械
類部品および自動車関連製品が主な品目である。その他、米国(前年比68.0%増)
、トルコ(33.1%
増)などへの輸出拡大が目立っている。
輸入については、主要輸入品目とその前年比増減率を示すと、機械・電気機器(前年比22.1%
増)、鉱物(43.8%増)、繊維製品(0.5%増)となっている。機械・電気機器ではコンピュータ、
周辺機器が34.1%増となっており大幅に伸びている。鉱物は原油価格高騰を反映して大きく伸び
1
2
編者注:本章は、外務省ホームページも参照。
編者注:本章は、ジェトロ貿易投資白書(2006 年度版)を参照。
-2-
調査報告 ウイーン
ている。国内消費が好調であることから輸送用機器(37.1%)の輸入も伸びている。国・地域別
に見ると、EU25ヵ国が全体の62.2%を占めて最大の輸入先となっている。輸出と同じくイタリ
ア(全体構成比15.5%、伸び率11.5%)とドイツ(全体構成比14.0%、伸び率16.1%)が上位2
ヵ国であり、イタリアは皮革、綿が主な品目でこれは国内の裁縫工場への原材料供給と考えられ
る。ドイツは、機械類、自動車が輸入の中心となっている。第3位の輸入相手国であるフランス
も自動車が中心となっている。その他の国については、ロシア(伸び率50.2%増)が原油価格高
騰の影響で輸入額が大幅に拡大している。トルコ(同44.2%)からも乗用車や自動車部品、カラ
ーテレビを中心に年々増加している。中国(同54,5%)についても引き続き拡大傾向で電線原材
料であるフェロモリブデン、コンピュータ部品、周辺機器、携帯電話が特に多かった。
ルーマニアの主要商品別輸出入を表1-2、主要国・地域別輸出入を表1-3に示す。
輸
繊維製品
出
輸 入
2004年
2005年
金額
金額 構成比伸び率
4,224 4,219
2004年
19.0 △0.1 機械・電気製品
2005年
金額 伸び率 構成比 伸び率
6,250 7,630
23.4
22.1
機械・電気製品 3,324 3,941
17.7
18.6 鉱物
3,527 5,073
15.6
43.8
金属・同製品
2,923 3,296
14.8
12.8 繊維製品
3,317 3,332
10.2
0.5
鉱物
1,362 2,465
11.1
81.1 輸送用機器
2,429 3,330
10.2
37.1
輸送用機器
1,198 1,767
7.9
47.5 金属・同製品
2,199 2,876
8.8
30.8
履物・帽子・傘等 1,237 1,290
5.8
2,084 2,436
7.5
16.9
化学製品
771
995
4.5
29.0 プラスチック・ゴム製品 1,535 1,941
6.0
26.5
プラスチック・ゴム製品
710
864
3.9
21.8 食品・飲料・タバコ
730
864
2.7
18.4
木材・木工製品
883
836
3.8
0.4 皮革・毛皮製品
658
706
2.2
7.3
17.5 合計(含その他)26,281 32,569 100.0
23.9
合計(含その他)18,935 22,255 100.0
4.3 化学製品
出典:ルーマニア国家統計局、経済通商省
備考:2005年値は暫定値
表1-2 ルーマニアの主要商品別輸出入(単位:100万ユーロ、%、通関ベース)
-3-
調査報告 ウイーン
輸
2004年
出
輸
2005年
金額
金額
13,807
15,043
67.6
12,399
13,222
イタリア
4,014
ドイツ
2004年
2005年
金額
金額
9.0
17,065
20,251
62.2
18.7
59.4
6.6
14,564
16,937
52.0
16.3
4,270
19.2
6.4
4,515
5,032
15.5
11.5
2,832
3,123
14.0
10.3
3,918
4,551
14.0
16.1
フランス
1,608
1,656
7.4
3.0
1,866
2,196
6.7
17.7
英国
1,259
1,213
5.4
△3.7
860
934
2.9
8.6
オーストリア
590
692
3.1
17.3
919
1,206
3.7
31.2
オランダ
603
598
2.7
△0.9
488
576
1.8
18.0
スペイン
375
540
2.4
44.0
578
727
2.2
25.8
ギリシャ
507
475
2.1
△6.4
355
374
1.1
5.5
ベルギー
374
387
1.7
3.3
393
467
1.4
18.8
EU新規加盟国
1,408
1,822
8.2
29.4
2,501
3,314
10.2
32.5
ハンガリー
724
923
4.1
27.4
832
1,077
3.3
29.5
ポーランド
250
325
1.5
29.8
659
940
2.9
42.8
363
593
2.7
63.4
282
317
1.0
12.1
ロシア
98
187
0.8
90.9
1,792
2,690
8.3
50.2
ウクライナ
63
136
0.6
115.5
716
418
1.3
△41.5
1,324
1,762
7.9
33.1
1,098
1,583
4.9
44.2
米国
539
906
4.1
68.0
752
897
2.8
19.2
中国
158
156
0.7
4.7
854
1,319
4.1
54.5
日本
38
64
0.3
66.1
353
469
1.4
32.8
合計(含その他) 18,935
22,255
100.0
17.5
26,281
32,569
100.0
23.9
EU-25
EU-15
ブルガリア
トルコ
構成比 伸び率
入
構成比 伸び率
出典:ルーマニア国家統計局、経済通商省
備考:2005年値は暫定値
表1-3 ルーマニアの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%、通関ベース)
対日貿易については、貿易統計(通関ベース)によると2005年対ルーマニア輸出は前年比104.4%
増の1億7,970万ドル、輸入は49.1%増の1億5,599万ドルであった。
日本の輸出については、商品別では電気機器(前年比223.3%増)で約4割を占め、輸送用機器
(同169.5%増)
、一般機器(同25.0%減)が続く。最大の品目は自動車の部分品であり前年比16
倍と急成長している。これは、2004年以降住友電気工業・電気電装グループや矢崎総業、タカタ
などの自動車関連部品企業の製造拠点拡張や増設、操業の本格化が背景にある。
日本の輸入については、原材料(前年比102.7%増)、繊維製品(29.0%増)で約7割を占めて
いる。原材料については、木材が103.2%増と昨年に引き続き伸びている。繊維製品は先述した賃
金上昇やレイ高等のコストアップ要因によって国内繊維産業の競争力低下の影響を受け、木材に
抜かれている。
以下に、日本の対ルーマニア主要商品別輸出入について表1-4に示す。
-4-
調査報告 ウイーン
輸
電気機器
通信機
出
輸 入
2004
2005 年
2004
2005 年
金額
金額 構成比伸び率
金額
金額 構成比 伸び率
22,680 73,320
2,963
40.8
6,050
3.4
輸送用機器
14,549 39,205
21.8
乗用車
12,589 15,763
8.8
自動車の部分品 1,405 22,606
一般機械
原動機
金属・同製品
鉄鋼
科学光学機械
36,169 27,137
223.3 原材料
29,849 60,499
38.8
102.7
木材
28,114 57,124
36.6
103.2
41,818 53,922
34.6
29.0
衣類・同製品 41,292 53,468
34.3
29.5
6,121 11,999
7.7
96.0
△25.0 化学製品
4,808
5,440
3.5
13.1
医薬品
238
2,253
1.4
846.8
1,219
1,076
0.7
△11.7
104.2
169.5 繊維機器
25.2
12.6 1,508.7 機械機器
15.1
15,526
6,525
3.6
△58.0
7,509
11,987
6.7
59.6
5,847
8,119
4.5
38.9 金属・同製品
2,351
1,708
1.1
△27.4
1,595
7,829
4.4
鉄鋼
2,102
1,198
0.8
△43.0
104.4 合計(含その他)104,653 155,991 100.0
49.1
合計(含その他) 87,917 179,703 100.0
391.0
プラスチック製品
出典:財務省「貿易統計(通関ベース)」から作成
表1-4 日本の対ルーマニア主要商品別輸出入(単位:1,000ドル、%)
1.2 ルーマニア投資環境について
ブカレスト商工会議所より、ルーマニアの投資環境説明会が開催された。そちらで得られた知
見や2007年6月にウィーンにて開催された中東欧・南東欧ビジネスセミナー資料、ルーマニア投資
庁ウェブサイト、Larive Romania社レポートからルーマニア投資環境について報告する。
2007年1月にブルガリアと共にEUに加盟したルーマニアであるが、2006年において投資家に
とって非常に関心の高い国となっている。ルーマニア投資庁によると、2006年の外国直接投資(F
DI)残高は91億ユーロと記録を更新した。2000~2006年におけるFDI推移について下図に示
す。同庁によれば、ビジネス環境改善の結果や16%の一律課税、外国パートナーの前向きな関心
がFDIの劇的な流入への後押しとなったと予想している。投資分野としては、通信(22.1%)
、
サービス部門(12.26%)
、貿易部門(11.13%)、機械製造(9.94%)、電力産業(3.51%)
、金属
部門(3.54%)と続く。2006年後期時点でのFDI主要投資企業を表1-5に示す。国別に見れば、
2007年3月末時点でオランダが20%とトップであり、それにオーストリア(13.74%)、フランス
(9.91%)、ドイツ(9.83%)と続く(表1-6参照)。2007年に対する予測について、FDI投資は
順調で10億ユーロ程度と予想されているが、2004年の新規10ヵ国に進出したものの、まだルーマ
ニアへ進出していない企業の投資が大きく影響するであろう。投資可能性のある分野としてはイ
ンフラ関係、物流関係、輸送、エネルギー部門が挙げられる。これらは西欧と比較して遅れが目
立つ分野である。
-5-
投資額(百万ユーロ)
調査報告 ウイーン
10000
9000
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
9,082
1,147
1,294
1,212
2000
2001
2002
5,183
5,213
2004
2005
1,946
2003
2006 (年)
図 1-1 ルーマニアへの外国直接投資額推移(2000-2006、単位:百万ユーロ)
会社名
投資会社
Automobile Dacia SA
Mittal Steel Galati SA
A&D Pharma Holdings SRL
Rompetrol Rafinare SA
Renault SA
Mittal Steel Holding AG
A&G Pharma Holdings NV
The Rompetrol Group NV
Telemobil SA
Inquam(Romania) SA
Cosmote Romanian Mobile
Telecommunications SA
Hiproma SA
Cosmote Mobile
Telecommunications SA
Bearbull SAS
SC Kaufland Rumanien
Warenhandel GMBH
Raiffeisen International Bank
Holding AG
Mechel International Holdings
AG
Kaufland Romania SCS
Raiffeisen Bank SA
Mechel Campia Turzii SA
国
業種
フランス 自動車
スイス 鉄鋼生産
オランダ
製薬
オランダ 石油精製
英領バー
通信
ジン諸島
ギリシャ
通信
フランス
小売業
ドイツ
小売業
オースト
リア
銀行
スイス
金属
出典:ルーマニア投資庁
表1-5 ルーマニア外国直接投資上位10社(2006年後期時点)
国名
登録企業数
登録済外貨持込資本価値
資本合計割合
オランダ
2,787
3,210
オーストリア
4,357
2,182
フランス
4,877
1,574
ドイツ
14,569
1,561
イタリア
22,314
736
米国
5,043
674
英国
2,901
630
キプロス
2,693
617
ギリシャ
3,712
553
オランダ領アンティル諸島
12
546
合計
135,883
15,888
出典:Statistical bulletin of the National Trade Registry Office
20.20%
13.74%
9.91%
9.83%
4.63%
4.24%
3.97%
3.88%
3.49%
3.44%
100%
表1-6 外国資本登録によるルーマニア外国直接投資上位10ヵ国(2007年3月末現在)
-6-
調査報告 ウイーン
インフラ設備については、まず道路整備であるが遅れていると言える。2007年6月現在、西側
への道路は片側1および2車線が主流である。高速道路については、ブカレストおよび黒海最大
の港であるコンスタンツァ間はほぼ完成したが、それ以外は現在建設中および計画中である。以
下に高速道路整備状況を示す。
図1-2
3
高速道路整備状況(実線部:建設済、点線部:建設中および計画中)
統計局によると、労働力については2005年末時点で労働力人口は914万7,000人で、その内訳は
農業・狩猟・林業部門が31%、鉱工業が25%、商業が11%、官公庁および軍6%、建設6%とな
っている。EU内では比較的安いと言われている給与も年々高くなってきている(表1-7参照)
。
また、雇用者側は社会保険料としてグロス給与の27.9~41.1%を負担する必要がある。
2001
2002
2003
2004
2005
ルーマニア レイ
422
532
664
818
968
ユーロ
162
170
177
202
267
対ユーロ平均レート(レイ) 2.6026 3.1255 3.7555 4.0532 3.6234
備考:ユーロ換算数値は、該当年のユーロ・レイ平均レートを基に算出
出典:統計局、予算委員会、中央銀行
表1-7 ルーマニア国内平均給与(平均、グロス、月額)
2006
1,140
323
3.5245
一方、労働者の能力については実際に事業をしている企業からのヒヤリングによると悪くない
ようだ。「きちんとした訓練を行えば問題ない(矢崎総業)
」といった意見が聞かれる。商工会議
所からのプレゼンテーションの言葉を借りれば、新規EU10ヵ国と比較してもITや研究開発を
含むエンジニアリング、建設部門に対して非常に有能な技術者が多い。実際、ドイツのシーメン
スや米国のマイクロソフト、フランスのルノーといった企業がルーマニアに研究開発拠点を置い
ている。むしろ、ブカレストや外資の進む地域を中心に失業率が低下しているため、雇用確保の
方が切実な問題のようである。
次に、EU加盟による影響であるが、外国企業がルーマニアへの進出を真剣に考えている。E
3
出典:中南東欧ビジネスセミナー資料抜粋(在オーストリア日本大使館およびジェトロ・ウィーンセンター共催、2007
年6月)
-7-
調査報告 ウイーン
U基金による中期的な成長・開発ポテンシャルが増加していることや欧州輸送回廊とのつながり、
戦略的立地などがその理由だ。多くのEU企業は既に西欧に近いルーマニア西部に進出しており、
そういった地域では労働力不足や人件費の上昇が見られている。一方、北東地域においては、製
造コストは低いもののルーマニアから他のEU諸国へ移ってしまい同じく労働者不足に悩まされて
いるのが現状である。
上記の労働力不足以外にも、EU諸国に通ずる道路インフラ網の整備が現在進行中であること、
他のEU諸国と比較しても官僚主義および汚職頻度が高い、といった課題は残されたままである。
1.3 ルーマニア見学企業について
1.3.1 YAZAKI Romania S.R.L
矢崎総業は、ブカレスト北60kmに位置する工業都市プロイエシュティに2004年5月に第1工場
をオープンして、2006年6月までに2,850万ユーロを投資している。製品は、自動車部品のワイヤ
ハーネスであり、具体的にはトヨタ ヤリスのエンジン部分のワイヤハーネス、トヨタ アイゴ&
プジョー 107&シトロエンC1、フォードのフィエスタのワイヤハーネスである。将来的には、
トヨタのロシア工場への出荷も予定している。
¾ 工場従業員は、約3,400名であり3シフト24時間体制で生産を行っているが、夜間の人数は少
ない。従業員1人あたりのネットの売上げは、300ユーロ/月とのこと。なお、従業員の3分
の2は女性である。
¾ トレーニング期間を4週間設けており、最初の1週間はプロセスや基本説明、ルールを教え、
その後試験→仮免許→現場作業→免許発行という流れになっている(免許制を使用している)。
現在の離職率は、3.5%である。
¾ 従業員の3分の2は基礎英語能力がある。
¾ 部品は基本的に日本から輸送しているが、一部タイ等からも購入している。ルーマニア部品
については、品質もそれほど良くはなく種類も少ない印象を持っている。
1.3.2 Makita EU.S.R.L
2007年2月に工場が稼動し、10月に開所式が執り行われたばかりの工場である。工場は、ブカ
レスト郊外のブラネシュティ村に位置し、欧州では3番目の生産拠点である。主製品は、電動工
具(電動ドリルおよびグラインダー)である。
¾ 部品の輸入、商品の輸出を考慮して、ルーマニアの主要港であるコンスタンツァ港側のブカ
レスト東20kmにあるブラネシュティ村に工場を建設した。次工場用地も確保している。
¾ 建設前の工場敷地には、電気、水道などのインフラが全く無かったためすべて自前で整備を
行った。
¾ 中国工場で製造していた欧州向け製品を同工場に製造移管している。理由としては、欧州の
顧客に対するレスポンス時間の短縮である。中国で生産する場合は生産調整に時間がかかり
非効率である。今後は、中東地域へも出荷予定である。
¾ 輸送時間は、フィンランド、スペインで5日かかる。
¾ 現在の従業員は180人程度であり、生産現場の従業員の9割以上は地元から来ており、1割が
ブカレストから来ている。マネージャークラスになると半分ずつの割合に変わる。今後は、
さらに東の村から従業員を確保する予定である。
¾ 部材調達について、現在では8割以上輸入しているが、今後は内製化、現地調達を進めてい
く予定である。
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調査報告 ウイーン
1.4 ルーマニア進出日系企業とのパネルディスカッション
今回のミッションでは、在ルーマニア日系企業5社(マキタ、ニコン、伊藤忠商事、YKK、
カルソニックカンセイ)を招き、参加者とのパネルディスカッションが行われた。本ディスカッ
ションでは、ルーマニアにおける投資環境等について、率直な意見交換が行われた。
労働組合
¾ ルーマニアでは、EUに習って従業員が100人を超えると代表者を選んで労働組合を結成する必
要があり、実際に力を持っている組合はいくつか存在する。ただ、自社ではそのような強い
組合に属しているわけではなくこれまでも対応に苦労したことは今のところない。
¾ ただ、企業によっては労働組合が政府に直接交渉を行って、企業への要求を法制化してしま
ったことや、国営企業を買収した企業が組合の対応に苦慮していたことを聞いたことはある。
インフラ設備
¾ 工業団地に工場があるため水道等は問題ないが、道路については主要道路以外の整備状況は
良くない。
¾ 元々電気の無かった農地に工場を設立した。そのため、電線を10km引くことになるなどイン
フラ整備に数千万円追加となったものの、土地代が無いに等しかったため工業団地設置想定
よりも安くコストが上がった。一度、急に次週停電する旨の通知を受けたことがあったが、
その場合は事務所内の電気は発電機を稼動し賄ったことがある。
¾ グリーンフィールドで、電気、ガス、水はないに等しい状態であった。電気は近くの変電所
から1.5km専用線を引き、ガスも近くのガスラインから引き、水は上水道がないために井戸水
から取水ラインを引いた。こうしたインフラ整備については、政府と交渉したはずであるが
結果的にすべて持ち出しで行ったこともあり、投資者が負担するのが原則のようだ。
¾ 2004年の工場稼動後、停電は月に1、2度瞬時であるが経験している。電気の質があまりよ
くないようだ。
雇用確保
¾ 作業者については、農業をやっていた人を雇っているために工業になじまない人がいて退職
する人はいるものの作業員の取り合いというのはまだない。マネージャークラスについては、
良い案件があれば退職する傾向は感じている。
¾ 相談を受けた事例として、進出してきたばかりの西欧企業に特定分野、例えば有能な経理担
当者や営業マネージャー等の人材を引き抜かれた事を聞いたことがある。
¾ 中間管理職については引き抜きも多く、人材不足を感じる。5割増の給料を提示される場合
もあるようで、高い給料のところに転職してしまう傾向がある。それは、一般従業員も同じ
である。若年層は募集に集まりにくく、それは国内に留まらず国外に出ているためと推測し
ている。
¾ こちらに進出するときに、マネージャークラスについては確保が難しくヘッドハンティング
した。今後は引き抜きにあう可能性があり、いかにモチベーションを維持させるかを考える
必要がある。なお、引き抜き時には元の給料のプラス30%から交渉した。
¾ 今後進出される場合は、労働者コストに悩まされる可能性がある。聞いた話であるが、ある
大学教授の手取りが月1,000ユーロで彼も満足もしているとのことだが、エンジニアリング会
社を経営している息子に雇用について聞くと、若いエンジニアの確保のため手取り月800ユー
ロの給料で募集をかけても場合によっては雇用確保できないこともあるという。ルーマニア
だけに留まらず、他のEU諸国をも視野に入れているからと推測している。
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調査報告 ウイーン
従業員教育
¾ 新工場立ち上げ時に、イギリス、日本、中国に研修を行った。そして研修後に、彼らが学ん
だことを新入社員向けのマニュアルを作成させて利用している。彼らが作るマニュアルは、
日本のものと比較して文字を少なく、写真を大きくするなど易しく作られている。
経理処理、税務関係
¾ ルーマニアは、1980年代後半のフランスの会計原則をベースに若干修正を加えたものとなっ
ているが、一般の国際基準とは乖離している。当社は米国基準の会計原則を利用しているた
め、国際基準、ルーマニア基準の2段階の修正を行っている。会計書類にサインできる人間
は試験等の厳しい関門をクリアする必要があり人材は限られるため、そうした上位経理担当
者の採用は難しいのではないかと考える。
¾ 駐在員事務所で会社と比較してそれほど厳しくはないが、今年EUに入った影響で今後厳し
くなるという話も聞いている。しかし、はっきりとしたことは分からない。
¾ 制度変更という点では、財務省法令によると会計については来年度(2008年)欧州規格に即
した国際標準に調和したものに変更される予定だ。ただ、法律が数週間に1度のペースでマイ
ナーチェンジされるなど非常に流動的であり、その法律改正のスピードに対応していくのは
非常に難しいと考えている。
¾ 実際の税務調査を受けたことがないため、はっきりしたことは言えないが現地の担当者に聞
くと、前触れなしに調査を行うことがあるようだ。
¾ 税務調査について、抜き打ちで来ることが数ヵ月に1度程度の頻度である。通常の経理業務
だけでなく、そういった調査に対応できる人材の数は必要であろう。
ルーマニア立地メリット(地勢学的メリット)
¾ 既にイギリス、ポーランドに進出しており、今後はトルコやロシア市場を視野に入れて東側
寄りのルーマニアを選択した。
¾ 進出を検討していた時には既にポーランドやチェコ、ハンガリーの人件費は非常に増加して
おり、ルーマニアの人件費に着目したのが最初であるが、それだけではなく英語能力や他の
能力に着目して進出した。
¾ イギリス、ドイツに工場を持ち売上げの半分を欧州地域が占めているが、その中でロシアで
の売上げの伸びが著しい。また、バルカン半島諸国の市場規模も伸びているため、そういっ
た点を視野に入れてこちらに進出した。
¾ 人材の質については、真面目だという印象を受ける。教えたことはきちんと行う。
¾ 客先の近くで客先の要望に応じた製品を提供しなければならないため、多種類のものを短い
期間で提供する必要がある。そのため、中国で同種類のものを大量生産して輸入するだけで
はうまくいかない。一方、労働集約的な業種であるために人件費の安い所に作るに越したこ
とは無い。そういった側面を考慮しながら、こちらに進出を決めた。ただ、ルーマニアの人
件費は上昇しているために今後は客先の対応にすばやく対応したり、品質を上げたりするこ
とで差別化を図らなければいけないと考えている。
環境規制
¾ WEEEについて、現在調査を開始したところであり現時点で把握していることは、今年EU
に加盟したこともあり環境省から具体的な適用方法を示したもの、工場側が従わなければな
らないような指令は発表されていない。今後は、工場側のデータを蓄積して対応していきた
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調査報告 ウイーン
¾
¾
いと考えている。
化学物質によっては、書類審査だけの短期間で終わるものもあれば長期間かかるものもある
ようだ。排気、排水に関する対応については、自分達だけでは対応できないために環境コン
サルタントにお願いしている。
現在国内法レベルで具体的はみられないものの、遅かれ早かれEU規制に対応していくと思
われる。進出時には、自己申告で排出物質の数値を提出している。今後も、西欧での他工場
があるために、同様の対応をすればよいのではないかと考えている。しかしながら、ルーマ
ニアの傾向として担当者レベルによって法解釈が異なることがあるため、1つ1つ裏づけを
取りながら対応していく必要があると考えている。
物流について
¾ 部品を中国から輸入しているが、すべてコンスタンツァ港から運んでいる。同港はかなり混
みはじめており、港湾設備が追いつかなくて船は着いているものの荷揚げがスムーズに行わ
れないこともある。
¾ ロシアへ輸出する場合は、トラックで北上してフィンランドまで運び、ロシアへ納入してい
る。
ルーマニア当局の対応
¾ 投資インセンティブを受けるためには、最新の内容を確認するために投資庁に直接足を運ん
で確認しなければ難しいのではないだろうか。
¾ 法律関係が煩雑であるが、投資庁を介さずに直接政府に問い合わせて一つ一つ確認する必要
がある。
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