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オーストリアにおける再生可能エネルギーの現状(その1)
調査報告 ウイーン ●オーストリアにおける再生可能エネルギーの現状(その1) オーストリアの再生可能エネルギーの最新状況について、2008 年 10 月にオーストリア 1 の電力規制局である E-Control が発表した報告書 を参考とし、同国の再生可能エネルギ ーにおける現状や支援制度、将来予測、最新技術について一部最新情報を交えて 2 回に渡 り報告を行う。 1. 再生可能エネルギー市場の現状 1.1 エネルギー消費にみる再生可能エネルギーの現状 オーストリアのエネルギー政策は、持続可能なエネルギーシステムの構築を目標に据え、エネルギー 効率の向上と再生可能エネルギーの利用拡大に重点を置いている。環境に優しいとされる再生可能エ ネルギーは、国内で際限なく自給できるというメリットを持つため、オーストリアでは数十年前から いわゆるグリーンエネルギーが積極的に利用されている。同国の国内エネルギー総消費量に占める再 生可能エネルギーの割合は、2006 年の時点で 22.4%であった。また、国内電力総消費量に占める比 率も 61%と、消費エネルギーに占める再生可能エネルギー比率は EU27ヵ国の平均値と比べて非常に 高い (表 1 参照) 。図 1 には、 エネルギー総消費量に占める小規模水力発電を除いた再生可能エネルギー の内訳について示す。 オーストリア * 国内総消費量 その内の再生可能エネルギー比率 電力消費量 その内の再生可能エネルギー比率 EU27 ヵ国 ** 1,442 PJ 76,417 PJ 22.4% 7.1% 68 TWh *** 3.358 TWh 1) 2) 15.6% 1) 61% 備考:1) 総発電量、2) 国内総発電量に占める割合 出典:* Statistik Austria, Energie-Control GmbH, ** Eurostat, *** Energiebilanz 表1:2006 年におけるオーストリアと EU のエネルギー消費 地熱 太陽熱 ヒートポンプ 3% 0% 2% 産業廃棄物 7% 風力/太陽光 3% 燃料用木材 30% 家庭ゴミ 6% その他のバイオ 燃料 12% バイオディーゼル 3% バイオガス 1% 下水消化ガス 0% 廃棄物ガス アルカリ水溶液 13% 0% ペレット 8% 廃材、チップ、樹 廃材、チップ、樹皮 皮 12% 12% 2 図 1 エネルギー総消費量に占める小規模水力発電を除いた再生可能エネルギー利用の内訳(2006年) 1 http://www.e-control.at/portal/page/portal/ECONTROL_HOME/OKO/DOWNLOADS/BERICHTE/OEKOSTROMBERICHT/ECG-Oekostrombericht_ENDVERSION_Final% 20Document_2008-10-2.pdf 2 編者注: 図 1、2 の出典: OeMAG, E-Control -1- 調査報告 ウイーン 1.2 種類別にみた再生可能エネルギーの現状 森林と水資源の豊富なオーストリアでは、水力とバイオマスが主に再生可能エネルギー 源として利用されている。燃料用木材をはじめとするこうした天然資源を活用した昔なが らのエネルギー源は、今や電力生産技術と組み合わせてその利用が促進されている。特に 風力、太陽光、バイオガス、地熱などを利用した発電所「グリーン電力発電所」が生産 するグリーン電力は、ここ数年で急増した。欧州では消費電力に占める再生可能エネル ギー比率の拡大に向け、EU 再生可能エネルギー指令(Directive 2001/77/EC)で EU 加盟 諸国にそれぞれの再生可能エネルギー比率の目標値を設定しているが、オーストリアでは 2007 年の段階ですでに風力、固形バイオマス、小規模水力発電によるグリーン電力量が 2010 年までの目標値の約 90%に達している(詳細は第 2.2.2 章参照) 。参考までに、図 2 に 2007 年における買い取られたグリーン電力の内訳を示す。 オーストリアの 2007 年の発電量は合計 643 億 kWh で、そのうち 72%(463 億 kWh)を 再生可能エネルギーが占め、さらにその 8 割以上が水力発電(380 億 kWh)によっている。 地熱 0% 水力(支援対象 の小規模発電) 27% 廃棄物・下水消 化ガス 1% 太陽光 0% 液体バイオマス 1% バイオガス 8% 風力 35% 固形バイオマス 28% 図 2 買取グリーン電力の内訳(2007 年) 1.3 グリーン電力発電量の推移 グリーン電力法で支援されるグリーン電力発電量(詳細は第 2.2 章参照)の 2003 年か ら 2007 年の推移をみると、2003 年には 2.3TWh だったものが 2007 年には 5.0TWh とほぼ 倍増している。そのうち、小規模水力発電を除く「その他」のエネルギー源によるグリー ン電力量も、同時期には 597GWh から 4,230GWh へと約 7 倍に激増している(図 3 参照)。 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 出典: Öko-BGVs, OeMAG, Energie-Control GmbH 2007 年 2008 年 上半期 2008 年 下半期 備考: Zunahme = 増加、1. Halbjahr = 上半期 図 3 小規模水力発電を除いた支援グリーン電力量の推移 -2- 調査報告 ウイーン 表 2 は固定買取制度(詳細は第 2.2.3 章参照)のもとに買い取られたその他のグリー ン電力量(買取金額)の 2003 年から 2007 年までの推移をエネルギー源別に示したもので ある。2003 年に買い取られたその他のグリーン電力は金額にして 5,300 万ユーロであっ たが、2007 年には 4 億 5,800 万ユーロと、大幅に増加している(消費量では 7 倍に相当)。 風力 固形バイオマス バイオガス 液体バイオマス 太陽電池 廃棄物・下水汚泥消化ガス 地熱 その他のグリーン電力 合計 支援対象の小規模水力発電施設 グリーン電力 合計 2003 27.75 8.53 4.73 0.22 6.76 4.85 0.20 53.04 149.16 202.19 2004 71.42 28.67 12.80 2.30 7.54 5.06 0.18 127.98 174.48 302.46 2005 102.85 59.09 29.31 4.61 8.42 4.39 0.19 208.86 162.63 371.49 2006 135.20 137.28 49.22 7.53 8.68 3.80 0.27 341.99 93.20 435.19 2007 156.70 216.92 60.74 9.82 9.53 3.65 0.23 457.58 79.93 537.52 出典:OeMAG 表 2 支援対象のグリーン電力買取総額推移(2003 ~ 2007 年、単位:百万ユーロ) 1.4 市場価格の推移 グリーン電力法第 20 条(連邦官報 I 第 149/2002 号)に基づき、電力規制当局であ る Energie-Control GmbH(以下「E-Control」とする)は、四半期ごとに電力の市場価格 の平均値を算出・公表している。図 4 は、2003 年第 1 四半期から 2009 年第 1 四半期まで の市場価格の推移を表したものである。 出典:E-Control 図 4 グリーン電力の市場価格の推移(2003 年~ 2009 年) -3- 調査報告 ウイーン 2. 再生可能エネルギー利用促進に向けた政府・自治体の取り組み オーストリアの再生可能エネルギー促進政策は、連邦レベルと地方自治体レベル(連 邦を構成する 9 つの州レベル、および市町村レベル)で複数存在する。そのため、すべて の支援制度を取り上げ、国全体の制度として概観するのは困難であるため、本レポートで は連邦レベルの取り組みを中心に紹介する。 2.1 連邦レベルでの再生可能エネルギー支援対策と法的枠組み オーストリアで再生可能エネルギー促進を連邦レベルで管轄するのは、経済・家族・ 青少年担当省(以下「経済省」とする) 、運輸・革新・技術省、農林・環境・水資源管理 省(以下「環境省」とする)である。このうち、経済省はエネルギー政策全般を管轄して おり、 中でも再生可能エネルギー発電に対する優遇固定買取制度を実施している。また、 運輸・革新・技術省は、主にエネルギー効率や再生可能エネルギー技術をテーマとするエ ネルギー関連の技術開発・研究活動プロジェクトを推進している。いずれも環境に優しい 経済体系づくりを目指すものである。そして環境省は、エネルギー資源の確保と地球温暖 化防止対策として、化石燃料から再生可能エネルギーへの方向転換を目標に掲げつつ、環 境技術の開発を推進している。 オーストリアの再生可能エネルギー利用促進政策は、主に 2003 年 1 月 1 日に施行され たグリーン電力法に基づいている。同法は EU の再生可能エネルギー指令を基盤に、欧州 のエネルギー政策に推進するための法的枠組みでもあり、電力消費に占める再生可能エネ ルギー比率の目標値などを定めている。また、鉱物油税法ではバイオ燃料促進に向けた減 税措置を、環境支援法では再生可能エネルギー投資の補助金制度などを規定している。以 下の章では、主にグリーン電力法と環境支援法に基づく再生可能エネルギー支援対策につ いて紹介する。 2.2 グリーン電力法に基づく支援対策 2.2.1 EU 再生可能エネルギー指令とオーストリアの再生可能エネルギー目標 域内電力市場における再生可能エネルギー源より生産された電力の促進に関する欧州議 会及び理事会指令(Directive 2001/77/EC) (以下「再生可能エネルギー指令」とする)は、 再生可能エネルギー源が電力消費量に占める比率の目標値(達成は義務づけられていない) を設定している。また、同指令は加盟各国のグリーン電力生産者支援計画の評価、電力発 生源認証制度の確立、新規のグリーン電力生産者に関する行政手続き等の合理化などにつ いて指針を示している。 再生可能エネルギー指令では、電力消費全体に占めるグリーン電力の割合について、そ 3 の目標値を 1997 年時点の 13.9%から 2010 年までに 22% と設定している。欧州委員会が まとめた 2004 年 5 月の評価レポートでは、EU15 ヵ国は今の状況では 2010 年までの目標 値を達成できず、再生可能エネルギー比率はわずか 18 ~ 19%にとどまると予測している。 同指令の付属書には、各国の目標値が規定されている。図 5 は、1997 年から 2006 年まで の供給電力に占める再生可能エネルギーの比率および再生可能エネルギー指令の目標値を 3 EU15 ヵ国における再生可能エネルギー比率の目標値。EU25 ヵ国については 21%。 -4- 調査報告 ウイーン 各国ごとにまとめたものである。 出典:E-Control, EU-RL2001/77, EurObserv’ER 図 5 1997 ~ 2006 年の EU25 ヵ国における電力供給に占める再生可能エネルギーの割合の 推移と EU 指令 2001/77 の目標値 4 図 5 でも明らかなように、オーストリアは 1997 年の時点で再生可能エネルギー比率が すでに 70%に達しており、EU25 ヵ国で唯一、電力消費に占める再生可能エネルギー比率 が 50%を超えていた。なお、そして 2010 年までの達成目標値は 78.1%となっている。当 初、この目標値は達成可能な現実的な数値であると見られており、電力消費量全体が増加 する中、再生可能エネルギー比率 70%というきわめて高いレベルを維持するには、さら なるグリーン電力生産拡大が必要となっている。 1997 年の発電量に占める割合が最も高かったのは水力発電で、約 65.5%(56.1 TWh) であった。今後もこのパーセンテージが変わらないとすれば、電力消費はますます増加傾 向にあることから、その他の再生可能エネルギー消費量を年間 1.2%ずつ拡大する必要が ある。その拡大率を 1997 年から 2010 年まで合計すると 15%となる。また、水枠組指令 の実施により、2010 年以降は水力発電を取り巻く状況がさらに困難になることが予想さ れている。 2.2.2 グリーン電力法が定める目標値 EU の再生可能エネルギー指令を基盤に、欧州のエネルギー政策に推進するための法的 枠組みとなっているグリーン電力法では、発電源の種類を小規模水力発電と「その他」の グリーン電力発電(風力、バイオマス、バイオガス、太陽光などを発電源とするもの)に 分け、それぞれ電力消費に占めるグリーン電力比率の目標値を設定している。グリーン 電力法第 4 条が定める小規模水力発電の 2008 年の目標値は 9%であった。この目標値は、 4 棒グラフ左から、オーストリア、スウェーデン、ラトビア、ポルトガル、デンマーク、フィンランド、スロベニア、 スペイン、スロバキア、イタリア、ギリシア、ドイツ、フランス、アイルランド、オランダ、チェコ、英国、 ハンガリー、ルクセンブルク、ポーランド、ベルギー、リトアニア、エストニア、キプロス、マルタ、EU -5- 調査報告 ウイーン 追加の投資支援対策を通じて発電量が約 300 GWh 拡大されれば、達成できる見込みだった。 ところが、小規模水力発電施設の拡大措置が講じられたにもかかわらず、目標は達成でき 5 ない見通しである 。電力消費量全体が増加することで、9%の絶対量も必然的に増加する ためである。 一方、その他のグリーン電力の目標値は、2010 年までに 10%となっている。2008 年 上半期の時点で電力消費に占めるこれらのグリーン電力の比率は 7.9%(2007 年上半期 は 7.6%)であった。すでに当局が支援対象施設として承認しているバイオマスおよびバ イオガス発電施設の建設が完了するため、2008 年末までに 7.9%を上回る見込みである。 2010 年の目標値 10%を達成させるには、関連施設のさらなる拡大が必要である。 2.2.3 グリーン電力の固定買取制度 経済省が設定する再生可能エネルギー発電に対する優遇固定買取制度とは、グリーン 電 力 法 2006 年 改 正 法 に 基 づ い て 設 置 さ れ た 責 任 当 局(Oekostromabwicklungsstelle, OeMAG)が電力を買い取り、法の規定に従って毎年調整される買取価格(feed-in tariff) を支払う制度である。買い取りの対象となるのは、以下の条件に当てはまる発電所である。 旧式の施設:2003 年 1 月以前に建設され、当局の認証を受けているもの 近代化された施設:グリーン電力法 2006 年改正法に基づいて 2002 年 12 月 31 日から 2004 年 12 月 31 日までに当局の認証を受けているもの 新設の施設:2004 年 12 月 31 日以降に当局の認証を受けているもの また、施設は以下の 2 種類のタイプに区分されている。 小規模水力発電施設:再生可能エネルギー源である水資源を利用して電力を生産する 6 施設(発電容量 10MW 以下) その他のグリーン電力施設:再生可能エネルギー源を利用して電力を生産する施設。 風力、太陽光、地熱、波力、潮力、バイオマス、有機分を多く含む廃棄物、廃棄物ガ ス、下水汚泥消化ガス、バイオガスなどがある グリーン電力施設の認証は州レベルで行われており、認証を受けた施設は OeMAG とグ リーン電力売買契約を締結する。OeMAG は買い取った電力を個々の電力会社に配分し、電 力会社はそれについて購入・補償額を支払う仕組みとなっている。この価格は基本的には 市場価格よりも高いため、電力会社にとって追加コストが発生することになる。この追加 コストは電気料金として消費者に負担させることができるが、それは義務づけられていな い。そのため、この追加コスト分が電気料金に反映されるかどうかは電力会社によって異 なると同時に、消費者には電力会社を選ぶ自由がある。一方、グリーン電力はこの購入・ 補償料金のほかに接続一括料金で賄われている。これは購入・補償料金とは異なり、消費 5 達成状況は 2009 年 2 月の時点で未発表。 オーストリアでは、水力発電施設を規模ごとに以下のように区分している。 「大型水力発電施設」 発電容量が 20MW を超えるもの 「中型水力発電施設」 発電容量が 10MW 〜 20MW 以下 「小型水力発電施設」 発電容量が 10MW 以下 6 -6- 調査報告 ウイーン 者は必ず負担しなければならない料金となっている。 電力会社へのグリーン電力割当量は、最終消費者への配電量によって決定される。具体 的に例を挙げると、市場シェア 5%の電力会社には、生産されたグリーン電力の 5%を割 り当てられるということになる。この割当量は、OeMAG によって毎月調整されている。し かし、実際に生産され、電力会社に割り当てられるグリーン電力の量は天候(風や雨は特 に小規模水力発電に影響する)などによって毎日異なる。そのため、日ごとに当面の予想 量が算出され、あらかじめ電力会社に通知されている。予想量と実際に生産されたグリー ン電力の量に生じる差異は、 補填エネルギーでカバーされる。その費用は OeMAG が負担する。 2003 年のグリーン電力法により、これまでにグリーン電力支援のために 30 億ユーロが 拠出されている。さらに、2006 年改正法では 10 億ユーロが追加された。2005 年には、2 億 7,400 万ユーロがグリーン電力と熱電併給施設に投じられている(小規模水力発電に 5,700 万ユーロ、 「その他」のグリーン電力施設に 1 億 4,900 万ユーロ、熱電併給施設に 6,800 万ユーロ) 。上記のとおり、これらの資金は電力会社がグリーン電力について支払 う購入料金と、最終消費者が支払う接続一括料金で賄われている。このうち接続一括料金 の制度は 2007 年 1 月 1 日に開始されたもので、最終消費者(配電網への接続)の種類に よって料金が異なる。たとえば、配電レベル 7(一般家庭)の場合は年間 15 ユーロとな っている。 2.2.4 グリーン電力認証制度 オーストリアでは 2004 年 7 月以降、各自治体に共通するグリーン電力認証制度が実施 されている。電気事業および電気事業関連組織法(以下「電気事業法」とする)第 45 条 および第 45a 条に基づき、国内の最終消費者に電力を供給する電力会社はいずれも年次精 算書にグリーン電力証明を表示することが義務づけられている。同証明は電力の最終消費 者に対し、利用したエネルギー源(一次エネルギー源)の個々の割合を明らかにし、供給 された電力の品質を評価するための指針となるものである。その内容は、電気事業法第 45a 条 4 項に基づいて E-Control が管理しており、同機関が作成するグリーン電力証書に 関する指針を通じて、グリーン電力証書の注意事項等が詳しく説明されている。2008 年 4 月 29 日には 2007 年度グリーン電力証書の監査が行われ、国内の配電会社の大部分が監査 の対象となった。 オーストリアのグリーン電力証書制度は、グリーン電力証書の提示と利用について非常 に厳しい規定を設けている。電気事業法 2006 年改正法ではそうした規定がさらに強化さ れ、2007 年 1 月 1 日以降は一次エネルギー源のほかに、電力生産に伴う環境への影響に ついても報告しなければならなくなった。電力会社には、最終消費者に供給された電力総 量に占める CO2 排出量と核廃棄物の量を、消費者が受け取る精算書のほか、広告等に g/ kWh 単位で明示することが義務づけられている。 1) 発電源証明 グリーン電力施設の事業者は、発電源証明(EU 指令 2001/77/EC 第 5 条)をもって実 際に再生可能エネルギーを生産し、 公共の送電網に供給した事実を証明することができる。 -7- 調査報告 ウイーン この発電源証明は欧州エネルギー証明制度(EECS)の基準を採用している。電力の質と発 生源を明らかにするために、発電事業者は少なくとも以下の点について無償で情報を提供 しなければならない。 公共の送電網に供給した電力の量 発電設備の種類と最大容量 発電期間と発電場所 使用したエネルギー源 グリーン電力施設の事業者は、再生可能エネルギーを販売した場合、電力会社からの要 請に応じて発電源証明を無償で提供しなければならない。電力会社が最終消費者に電力を 供給する場合には、その発電源証明はグリーン電力証書のための証明に利用することがで きる。 2) 電力証明データバンク オーストリア全国に共通するグリーン電力証書制度が導入されると、 E-Control は発電 源証明を管理するデータバンク(電力証明データバンク)を設置した。この電子データバ ンクは、生産電力量の証明書を作成し、電力会社間で情報を交換し、グリーン電力証書の 際の評価材料として利用するためのものである。また、二重払いといった詐欺行為のリス クを下げる機能も持つ。このデータバンクは電力市場に関与するすべての団体が利用でき るが、発電事業者に特に参加を義務づけるものではない。 電力買取制度の対象となるグリーン電力の量はすべて E-Control に申告されており、 それらの証明はデータバンクを通じて各電力会社に配布される。さらにデータバンクは、 買取制度の対象グリーン電力ではないものに関する発電源証明と、その他すべての電力に 関する証明も発行できる。こうしてオーストリア国内の最終消費者に電力を供給する電力 会社は煩雑な手続きを経ることなく、認証ラベルを入手できる仕組みとなっている。 また、他国とも発電源証明をやり取りできるように、2007 年 11 月にはデータバンクが 国家間登録ハブに接続された。そのため、現在ではこのハブに接続しているフィンランド とオランダのデータバンクとも発電源証明を送受信できる。その他の EU 加盟国でも、現 在各データバンク利用拡大が進められている。 データバンクに保存される証明書には、その他の品質特性などを記載することができ るため、国際的な電力取引の目安として非常に役立っている。さらに E-Control の価格算 定システムでは、最も安価な電力を供給する事業者を探すことができる上、利用された一 次エネルギー源別に配電会社を特定することもできるなど、各ユーザーのニーズに合った サービスが提供されている。 2.2.5 中型水力発電施設向けの投資補助システム グリーン電力法第 13 条は、発電容量が 10 ~ 20MW 以下の中型水力発電施設について投 資補助金の支給を定めている。 対象となるのはグリーン電力施設として認証されたもので、 建設期間は 2006 年 7 月 1 日から 2013 年 12 月 31 日まで、操業開始は遅くとも 2014 年 12 月 31 日までとしている。この投資補助制度は、2014 年までに合計 150MW 規模の中型水力 発電施設を建設することを目的とした支援システムである。 -8- 調査報告 ウイーン 補助金額は投資額(ネット)の 10%まで、ただし発電設備出力キロワットあたり 400 ユーロの投資手当とプロジェクトあたり計 600 万ユーロが最高限度となっている。さらに これらの限度額とは別に、環境関連の追加投資費用を基準に算出する地球温暖化防止補助 金の EU 補助枠を通じて支援対象となる費用の 40%まで支給することができる。 2.2.6 熱電併給技術の支援 オーストリアの火力発電所はその大部分が熱電併給施設である。2006 年の火力発電量 は約 24.5TWh で、 そのうちの 17.8TWh が熱電併給施設を利用したものであった(図 6 参照)。 熱電併給火力発電 熱電併給以外の 火力発電 水力発電 その他 再生可能エネルギー 出典:E-Control 図6 発電施設の種類別に比較した発電量の割合(2006 年) 熱電併給技術は国レベルでも欧州レベルでもその利用と開発が奨励されている。オー ストリアでは、グリーン電力法第 13 条に定める熱電併給施設対象の投資補助システムを 通じて、2014 年までに合計 2,000MW 規模相当の熱電併給施設を建設することを目指して いる。同システムは、新設もしくは改修(改修費用が新規投資費用の 50%以上に相当す るもの)される熱電併給施設のうち、発電容量が 2MW を超えるものについて投資補助金の 支給する制度である。対象となるのはグリーン電力施設として 認証されたもので、建設 期間は 2007 年 7 月 1 日から 2013 年 12 月 31 日まで、操業開始は遅くとも 2014 年 12 月 31 日までとしている。 新規に熱電併給施設を建設する場合、投資額(ネット)の最高 10%の補助が受けられる。 ただし、施設の規模によって限度額が以下のように異なる。 発電容量 100MW までの熱電併給施設は、発電容量 kW あたり 100 ユーロの投資手当を 限度とする。 発電容量 100MW ~ 400MW の熱電併給施設は、発電容量 kW あたり 60 ユーロの投資手当 を限度とする。 発電容量 400MW を超える熱電併給施設は、発電容量 kW あたり 40 ユーロの投資手当を 限度とする。 さらにこれらの限度額とは別に、環境関連の追加投資費用を基準に算出する地球温暖化 防止補助金の EU 補助枠を通じ、支援対象となる費用の 40%までを支給することができる。 -9- 調査報告 ウイーン 1) 熱電併給電力の発電源証明 2004 年 2 月に採択された EU 指令 2004/8/EC(熱電併給推進指令)では、高効率の熱電 併給に関する発電源証明の導入を規定している。同指令の内容は、電気事業法(連邦官報 第 106/2006 号)で国家法として導入されたが、各州で定める実施に関する法令の適用を 拡大しながら、実施を進める必要がある。 発電源証明データバンクの運営者である E-Control は、現在特に再生可能エネルギーの 発電源証明、再生可能エネルギー証明(RECS)、電気事業法第 45a 条 6 項に定めるその他 の証明について管理しているが、すでに 2007 年末の段階で EU 指令 2004/8/EC と欧州エネ ルギー証明制度(EECS)に基づく熱電併給発電源証明を既存のデータバンクにも導入でき るよう、システムの拡大を提案している。国内法と EECS 基準を基盤に、電力証明データ バンクを熱電併給発電源証明の管理に利用するのが狙いである。 しかし、これまでのところ高効率熱電併給施設の発電源証明の需要はそれほど高くはな い。再生可能エネルギー源を利用した発電の発電源証明は法定グリーン電力証書に利用さ れるが、それとは対照的に高効率熱電併給の発電源証明の必要性はそれほど高くない。 2) 化石燃料を用いた熱電併給 2003 年 1 月 1 日以降、既存の近代化された熱電併給施設を対象とする支援対策が、グ リーン電力法第 12 条および第 13 条に基づいてオーストリア全国で進められている。 2003、2004 年についてはすべての施設について一律の補助金が給付されたが、2005 年以 降は各施設の外部費用を基盤に経済省が金額を算定している。熱電併給支援制度の資金は、 電力の最終消費者が納める一律の熱電併給使用料で賄われている。 また、2006 年 10 月 1 日から施行されているグリーン電力法改正法では、新規の熱電併 給施設を対象とする支援制度(2012 年まで)と高効率熱電併給の発電源証明の導入のほか、 熱電併給支援制度の資金調達のシステムが新たに規定された。 以下、2007 年 4 月からグリーン電力法に基づいて実施されている熱電併給施設の支援 制度の仕組みを表にまとめた。 - 10 - 調査報告 ウイーン 定義 支援条件 支援形態 支援終了 支援額 法的基盤 既存の 熱電併給施設 2003 年 1 月 1 日 以 前 に 建設された熱電併給施設 で、建設の際に認可を受 けたもの。 近代化された 熱電併給施設 2001 年 10 月 1 日 以 降 に 操業を開始した熱電併給 施設で、近代化の費用が 全設備(建物を除く)へ の新規投資額の 50%以上 にのぼるもの。 新設の 熱電併給施設 2006 年 7 月 1 日以降に着工 さ れ、2012 年 9 月 30 日 ま でに建設に必要な各種許可 申請がなされており、遅く とも 2014 年 12 月 31 日まで に操業が開始される施設で、 近代化の費用が全設備(建 物を含む)への新規投資額 の 50%以上にのぼるもの。 1. 施設が公共の地域熱 1. 施設が公共の地域熱 1. 発電容量が 2MW 以上。 供給に利用されてい 供 給 に 利 用 さ れ て い 2. 施設が公共の地域熱供給 る。 る。 に利用されている。 2. グリーン電力法第 13 2. グリーン電力法第 13 3. グリーン電力法第 13 条 2 条 2 項に定める効率基 条 2 項に定める効率基 項に定める効率基準を満 準を満たす。 準を満たす。 たす。 3. 施設の維持に必要な 3. 施設の維持に必要な 4. EU 指令 2004/8/EC 第 4 条 外部費用を証明するも 外部費用を証明するも に基づき、一次エネルギ のがある。 のがある。 ー源を節約している。 施設維持のための追加コ 施設維持のための追加コ 投資への補助金の支給。 スト(費用から収益を差 スト(費用から収益を差 投資額の 10%まで し引いたもの。投じられ し引いたもの。投じられ 100MW 以下の施設は kW あ た資本の利子に係る費用 た資本の利子に係る費用 たり 100 ユーロ を除く)をもとに熱電併 を考慮)をもとに熱電併 100 ~ 400MW の 施 設 は kW 給電力向けの補助金額を 給電力向けの補助金額を あたり 60 ユーロ 設定・支給。 設定・支給。 400MW 以上の施設は kW あ たり 40 ユーロまで 2008 年 2010 年 2012 年 2007 年 最高 5,450 万ユーロ(新設の熱電併給施設への 1,000 万ユーロを含む) 2008 年 最高 5,450 万ユーロ(新設の熱電併給施設への 1,000 万ユーロを含む) 2009 年 最高 2,800 万ユーロ(新設の熱電併給施設への 1,000 万ユーロを含む) 2010 年 最高 2,800 万ユーロ(新設の熱電併給施設への 1,000 万ユーロを含む) 2011 年 最高 1,000 万ユーロ(新設の熱電併給施設のみ) 2012 年 最高 1,000 万ユーロ(新設の熱電併給施設のみ) 2006 ~ 2012 年 新設の熱電併給施設への支援総額 最高 6,000 万ユーロ グリーン電力法第 12,13 条 出典:E-Control 表 3 熱電併給支援制度の概要 2003 補助金の給付を申請した熱電併給施設数 2004 2005 2006 2007 53 44 41 40 40 グリーン電力法第 13 条 3 項に定める 熱電併給エネルギー(GWh) 5,404 5,791 5,889 5,455 4,820 グリーン電力法第 13 条 4 項に定める 熱電併給エネルギー(GWh) 764 733 811 710 1,075 6,169 6,524 6,701 6,165 5,877 エネルギー総量(GWh) 出典:E-Control 表 4 支援対象となった熱電併給電力の発電量 - 11 -