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青春の翻訳法
青春の翻訳法 文明の星時間 Ⅲ タイトル 青春の翻訳法 文明の星時間Ⅲ 著 茂木健一郎 者 出 版 社 毎日新聞社 発 売 日 2011 年 2 月 25 日 ページ数 254p 「サンデー毎日」人気連載をまとめた本の第 3 弾「青春の翻訳法」です。超人気脳科 学者の若返りの発想、至福の歴史エッセイ全48篇。単行本化第三弾!とあります。 週刊誌は殆ど読まないのでどんなことが書かれているのだろうとかと興味津々で本 書をまず開いてみました。 第1章 忘却から歴史が始まる ・美空ひばりのコンサート・ブームの歴史・英語で読む漱石・等伯の余白 ・隕石とクレーター・電子ブックリーダー・スーパーボウル ・忘却から歴史が始まる・青春の翻訳法・日本人は12歳・文明のピンポン外 交 ・英語は 20 歳を過ぎてから・ゴジラの恐怖・空海の天才 第2章 日本語を「脱藩」させる ・御柱の静謐・鎖国は続いている・ショパンの望郷・キャッチ22・ハリー・ポッタ ーの想像力 ・神は妄想である・下流の宴・アメリカ再び・恐竜たちの時間・遙かな尾瀬・日 本語を「脱藩」させる ・ポトラッチの覚悟・茶の本・家族の時間・「坊ちゃん」と現代・ゲゲゲの生命哲 学 第3章 越境せよ! ・螢とお母さん・シンガポールの輝き・ベトナム旅行記・越境せよ・龍馬は小さく 始めた ・啄木の真摯・ジョイスのlダブリン・「私塾」の時代・民主の女神再び・コンピュ ータが人間を超える日 ・15 歳の旅立ち・遊びの勝利・ダライ・ラマとの対話・お熱いのがお好き・隠れ キリシタンの「受難」と「情熱」 ・TEDの革新) さて、茂木氏の本(以下茂木本)は、ざっと読んでみてもきらりと光る文章が随所に ちりばめられています。茂木本を読んだ人の感想は、「面白かったが何も残らなかっ た」という人と、「同じテーマでも、自分とは異なる見方、考え方を持っていて面白い」と 大きく二つに分かれるようです。茂木ファンは後者に多いのかな。 面白かったと思われた箇所をいくつか挙げてみると 「等伯の余白」では、空白は、人間の脳にとって大切な「育み」のきっかけとなる。空 白があると、脳はそれを想像力で補ったり、穴埋めしたりしようとする。空白は、脳が 潜在的な力を発揮するための貴重な呼び水となる。5億数千年前に起こった「カンブ リア爆発」で生命の種類が一気に増えたのも、その前に地球が赤道まで氷雪に覆わ れた「スノウボール・アース」の時期が存在したから、すなわち、生態学的に見て「空 白」があったからだというのですが、これ本当かな? 「キャッチ22」では、アメリカの小説家ジョセフ・ヘラーが 1961 年に発表した、ヨーロ ッパ戦線で闘うアメリカ兵から見た、戦場での不条理について描いています。「キャッ チ22」というタイトルは、一般に与えられた選択肢の中のどれを選んでも、必ず困っ た状況に陥るという不条理な状況を表現する言葉になったといいます。いわゆる、「ト レードオフ」と同じ意味に使われるようです。たとえば、『普天間基地問題は、鳩山政 権にとっての「キャッチ22」となった』というように。 「神は妄想である」は、茂木氏が、出張先の列車の中で、電子書籍リーダー「アマゾ ン・キンドル」を使って、原書を一気に読んで、大いに引き込まれたという本の書評で す。茂木流に判り易く解説しています。私たちの善悪の感覚は、宗教とは関係なく、生 物として生きている中で「進化」してきたものである。他人を思いやったり、お互いを尊 敬したり、パートナーを愛したりといった人間らしい性質は、すべてダーウィンが創始 した進化論で説明できるというドーキンスの主張を紹介しています。 これについては、私の「神は妄想である」(書評)もご覧下さい。 「遙かな尾瀬」では、この土地の所有者は一部が東京電力(以下東電)だそうです。 大正時代に、その豊かな水源に注目して、ダム用地として東電が買い取ったものだと いいます。しかし、時代の流れの中で、自然保護思想の盛り上がりもあり、ダム計画 は消滅します。現在は、尾瀬国立公園全体の約4割、特別保護地区の約7割が東電 の所有であり、そのため東電も保護活動をやっているといいます。 今回の東日本大震災で福島第1原発事故の対策費用がかさんだ東電は、電気事 業の遂行に必要不可欠な資産を除き売却する方針を明らかにしています。東電は多 額の賠償金を支払わなければならないため、尾瀬を手放すことになるのでしょうか。 江間章子作詞、中田喜直作曲の「夏の思い出」で有名な尾瀬、泥炭層が何千年も かけて蓄積した「高層湿原」としての尾瀬、ここを訪れ多くの人が癒される尾瀬の今後 はどうなるのでしょうか。 「TEDの革新」 では、「次世代のハーバード」とまで言われるTEDを紹介していま す。そもそも、TEDとは、「技術」(Technology)、「教育」(Education)、「デザイン」 (Design)それぞれの英語の頭文字をとった略語で、毎年アメリカのカリフォルニア州 ロングビーチで開催されるTEDという会議の名前です。 ここでは、マイクロソフトのビル・ゲイツや進化生物学のリチャード・ドーキンスなどの 著名人がやってきて短いスピーチをします。 全体を貫くスローガンは「広げる価値のあるアイデア」です。有名、無名に関わら ず、短時間で、本気で全力投球の講演をし、新しい世界を創る、革新的な考えなどが やり取りされる場です。 ある意味で、日本の「講演文化」に対する「黒船」の襲来だとも言われています。私 も、インターネットで公開されているTEDの映像を幾つか見て、一気に魅了されまし た。 Webページに無料で提供されている講演を見ようと思えば「TED」 (http://www.ted.com/)にアクセスしてください。英語の得意な人はそのまま、苦手な 人は、映像数は少し減りますが日本語、フランス語を始めとして、多くの言語による 「字幕」もついています。 「TED」の過去の映像を見てみると、結構面白いものがそろっています。私が見て面 白かったもので、日本語の字幕のついているものをいくつか拾って紹介しましょう。 o ジェームス・キャメロン 「アバター」を生み出した好奇心 映画「アバター」の監督。 o ビル・ゲイツ 「ゼロのイノベーション」 ゲイツエネルギーについて語る。マイクロソ フト社の共同創業者・会長。 o チャールス・アンダーソン 「海を越えるトンボとの遭遇」 海洋学者 ウスバキトン ボの話で、楽しそうに話しているのが印象的です。 o エイソー・ベンダーが実現する「超人ハルク」 人間の筋肉の代わりをするロボット の話。システムが暴走した時が心配ですね。 o ジェナ・レヴィン 宇宙が奏でる音。 o ビル・ゲイツ 教育制度を破壊する米国における州予算。 o ステファーノ・マンクリー 植物が持つ知性の根。 o ジュリアン・アサンジ なぜ世界に Wiki-Leaks が必要か。 o アル・ゴア 元大統領が気候の傾向を警告。 o スーザン・ブラックモア 「ミームとテーム」 「ミーム・マシンンとしての私」の著者 で、ドーキンスのミーム理論をさらに推し進めた心理学者。 o アリサ・ミラー ニュースのニュースについて 報道の量を地図の面積で表示 これ は面白い。 o スティ-ブン・ホーキング 宇宙に関する大きな疑問を問う。 o ジークフリート・ウォルドヘック レオナルド・ダ・ヴィンチの本当の顔。こんな手もあ るのですね。 o ダニエル・デネット 危険なミーム 哲学者 考え方に沢山のヒントがあります。 o アラン・ケイの考える 「アイディアについてのすべてのアイディア」。プレゼンテー ションが上手い。 o ジェームス・ワトソンが語る DNA 構造解明にいたるまで。 o ビョルン・ロンボルグは世界の問題に優先順位をつける 「環境危機を煽ってはい けない」の著者 早口なのには驚きました。 著者のウェブページ:http://www.lomborg.com/ バイオグラフィ、正誤表、各種論 争へのリンク、出演ビデオなど多数。 o リチャード・ドーキンスが語る 「奇妙な」宇宙 「盲目の時計職人」、「神は妄想であ る」などの著者 動物行動学者、進化生物学者。 など面白い話の他にも、それは気付かなかったなというような話、考え込んでしまうよ うな話など盛りだくさんです。時間にして3分~15 分程度なので、インターネットにアク セスしたら、必ず一度は覗いておきましょう。きっと、頭の体操になりますよ。 また、「TED.com WEB サイト上では簡単に確認することのできない、最近公開された TED talk 日本語字幕の情報を提供しています。」と記載されたコーナーまであります。 茂木本の楽しみ方は、 ・ 「文章のいたる所にちりばめらえた未知の分野の面白くて知的な話」、 ・ 「知ってる話題なのに理解度が格段に深い話題提供」、 ・ 「興味を持ちながら読まずにいた本の内容の新しい発見」、 ・ 「同じ問題を考えているのに、自分とは全く異なる見方、考え方を持っている面白 さ」、 ・ 「全く未知の分野の、最新の動向(TED)の紹介」、 などに重点を置いています。読みやすく、しかも楽しく読めるところが茂木本の特徴で す。 最後の「TED の革新」などは、「海外留学が出来なかった人」や「海外出張がこれま でになかった人」などにはお勧めです。海外でのプレゼンテーションは大変参考にな りますし、話し方、間の取り方など成功例、失敗例も合わせて大いに参考になります。 その場の雰囲気が直接伝わってくるところも良いですね。 その他、TED から中学・高校の英語の授業で手頃なテーマを1つ選び、生徒たちに 英語で討論させるというのも良いかも知れません。中学・高校の英語の先生方は是 非検討してみては如何でしょうか! 2011.6.2