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TED CONFERENCE 2005
それは生物学だったのか、
化学だったのか。
■TEDとは何か
最初、それはT.E.D.すなわち、テク
ノロジー、エンターテインメントおよ
びデザインの世界の非常に輝かしく、
エネルギーに溢れた粒子を操って、衝
突させ、火花が散るのを観察する、一
種の文化的な推進力として機能しまし
た。それ以来TEDは、イベントから力
へと進化し、その影響は、ひたすら大
きくなり続けているように見えます。
BARRY M. KATZ
きっかけは、1984年、リチャード・ソール・ワー
またTEDが出席者や出席を希望する人びと、また
マンが開いた最初の会議でした。やがてそれは、毎
年カリフォルニア州モントレーで開催される3日間の
会議で知られるようになりました。そこには、科学
者、IT起業家、デザイナー、宇宙飛行士、パフォー
ミング アーチスト──つまりは分類しがたい夢想家
TEDについては何も知らないけれど、その生活が
TEDで行なわれていることによって変わるかもしれ
ない人びとに実際に与える影響を分析することでし
た。
たち、綺羅星のような人びとが集まりました。
カルト的な名声と目を瞠るような遺産を持つこの
会議は、3年前、パキスタン生まれでイギリスで教育
を受けたメディア起業家、クリス・アンダーソンの
手に渡りました。会議を引き継いだ意図を問われ
て、彼は 「私の第一の望みは、この会議を台無しに
しないこと」ときわめて率直に答えました。
「アイデア、テクノロジー、メディアおよび
市場の力を」主に開発途上国における延命
プロジェクトに活用する.
.
.
アンダーソンは、私財を投じて設立したサプリン
グ財団によって、TEDを運営しています。この財団
スチールケースの調査
チームは、会議での人びと
の振る舞い方およびスペー
スがこれらの人びとの活
動をどのようにサポートす
るか、あるいはサポートし
ないかを調査しました。
そこでわかったことの
一つは、人びとは自分が
どの程度会議の内容に関
係しているかに応じたさ
まざまな振る舞いを示す
ということであり、また、
ほとんどの人がイベント
の終了までに複数の参加
レベルを頻繁に移動する
ということでした。
積極的に関与する人も
いれば、静かに情報を吸
収するだけの人もおり、
周囲をこそこそ動き回る
人もいます。また群れを
なして 小さなグループを
形成する人もいれば、グ
ループから離れて電話や
コンピュータのところに
長居する人もおり、また、
メイン イベントに出たり
入ったりして、
“現実逃避”
する人もいます。
の使命は「アイデア、テクノロジー、メディアおよ
び市場の力を」主 に 開 発 途 上 国 に お け る 延 命 プ ロ
ジェクトに活用することにあります。
毎年、アドバイザリー チームがプレゼンターの選
択に役立つ包括的なテーマを選択します。が、これ
は必ずしも、プレゼンターが聴衆に向けて行なう18
分間のプレゼンテーションに反映される必要はあり
ません。
■自然からのインスピレーション
■情報経済の生みの親は生物学か
TED 2005のテーマは、「自然からのインスピレーショ
ン」というものでした。二重らせん構造の共同発見
者でノーベル賞受賞者のジェームズ・ワトソンなど
の生物学者、生体模倣の高度な技術分野で活躍する
サイエンスライターのジャニン・ベニュスなどのジ
ャーナリスト、有機的で超自然的な形状が分子構造
や骨格を思わせる作品で知られるロス・ラブグロー
ブなどのデザイナー、そして、「タンパク質のよう
経済学者で、ビジネスエコロジストのスタン・デイ
ビスが今年度の議論を際立たせるために一つの挑発を行
にツイストするニューハンプシャーの4人の男」とし
てアーティスト活動を開始したモダンダンス・カン
パニー「ピロボラス」など多彩なミュージシャン、そ
して発明家、作家、写真家、外科医、チョコレート
製造業者などが集まりました。
これは、私たちの思考と実務が、空間を移動する物理
的な塊から時間の中の知識の流れに移行すること、つま
り万物の行動は原子運動やビリヤードの球の動きのよう
にすべて予測可能なものとする物理学から、個々の行動
自体はランダムでカオス的であるけれども、全体のシス
テムの行動は完全に予測可能であると考える生物学へ、
シフトすることを意味しています。
そして、ある時は大学教授、ある時は作家、また
ある時はシリコンバレーのおせっかい焼きとして知
られる私、バリー・カッツは「360 e-zine」からTED
を体験するためにそこに派遣されました。私の目的
は、TEDとはそもそも何なのかを知ることであり、
TEDにおけるイベント
スペースのデザイン
いました。
「工業の生みの親となった科学は物理学だったが、こ
れからの情報経済の生みの親となる科学は生物学だ」と
彼は問題を提起したのです。
これは、魅力的な考え方でしたが、あまりにもその場の
思い付きにすぎないように思われたので、私はTEDのユ
ニークな環境を利用して、その点を調査してみました。
人びとの嗜好とニーズ
に適応するためには、イ
ベントスペースもまたよ
り効果的にならなければ
なりません。スチールケー
スの研究結果はモントレー
カンファレンスセンターで
開催されるTEDの運営に
活用されています。
たとえば、カンファレ
ンスセンターにはメイン
ステージのある500席の
劇場のほかに、じゅうた
んや毛布やクッションの
ある多数のインフォーマ
ルな「リビングルーム」
のようなスペースがあり、
参加者はそこで複数のプ
レゼンテーションを見る
ことができます。それら
の中間には、インターネッ
トに接続できるスペース
やカフェ、ディスプレイ
エリア、すき間、小部屋、
休憩所およびその他の休
憩スペースがあり、さら
には23,000平方フィート
(2,137m2)のダンスホー
ルまでがあって、すべて
何らかの形でTEDのため
に機能しています。
2
会場の内外での
人々との対話
TM
Bix seating by Metro at TED
会議の中心地は、700∼800人のテクノの名士たち──私は、何人か
のシリコンバレー長者や相当数のCEO、CFO、CTO、CIOおよびCOO
をそこで見かけました──を収容する広くて、居心地のいいホールで
す。彼らは静かに、前を向いて、注意深く発表者の話に耳を傾けます。
しかし、ホールの外側では、スチールケースがソニーやスターバック
スやその他いくつかのTED協賛企業と共同で、1人1台のラップトップ
コンピュータと大画面のフラットパネル ディスプレイを備えた流動的
なラウンジ風の環境を作り出し、人びとが自由な社会的交流とイ
ンフォーマルまたはフォーマルなプレゼンテーションを行うことがで
きるようにしていました。
これは、明らかに一見の価値のある場所です。そこで私は、グロー
バル ビジネスネットワークや長期の大規模構想を構築したロングナウ
財団──年に1回時を刻む1万年時計を作っています──のスチュワー
ト・ブランド理事長との会話に没頭しました。
ブランド理事長にとっては、前述の考え──スタン・デイビスが提
案した「情報経済の生みの親となる科学は生物学だ」というテーゼは
正しいように思われました。1970年代以来、伝説的な『Whole Earth
Catalogue』や『Co-Evolution Quarterly』を通して、ブランドはこの複
雑な時代に意味を持つ最も将来性のあるツールは生物学であるという
考え方を推進してきました。
この時代に彼の雑誌に寄稿したのは、エコロジストのグレゴリー・
ベイトソン、発明家のエイモリー・ロビンス、教育家のイワン・イリ
イチ、詩人のゲイリー・スナイダー、起業家のポール・ホークンなど
の最先端にいる人びとでした、今日ではビジネスから軍事まであらゆ
る活動分野で、生物学的な隠喩が使われるようになりました。この会
議に長期にわたって関与しているブランドは、TEDがこの知性の方向
転換に役立ったと感じています。
他の人びとは、前述の考え方に必ずしも同調しませんでした。
私は、カリフォルニア州立大学バークレイ校のロバート・フル教
授(生物学)の、足、靴および動物の移動運動の屈折したバリ
エーションについての魅力的なプレゼンテーションの直後に、
彼のところに立ち寄りました。
「いや、いや、いや、違うよ」と彼は大いに怒りました。
「“マスター・サイエンス”のようなものが物理学から生物学に移
行したということが重要なんじゃない。こうしたカテゴリーがすべて
崩壊したことが重要なのだ。TEDで何が重要かと言えば、集合、
統合、境界を越えること、そして専門領域という考え方そのものをな
くすことなんですよ」と彼は説明しました。
参加者の中にはさらに異議を唱える人もいました。私は、速いペー
スの議事進行の休憩時間の間に『Wired』を創刊した編集者のケビン・
ケリーに話を聞きました。
「いいや、生物学は情報時代の生みの親となる科学ではありま
せん。生物学の生みの親となるのが情報なのです」とケリー・デ
イビスは、逆の考え方を示しました。
■ジム・ハケットとTDE
さらにいろいろな意見を聞きました。
私はときおり、新鮮な空気を吸うために外へ出て、スチールケース
のCEOであるジム・ハケットや彼の友人でスチールケースのグループ
企業で、シリコンバレーの最も優秀な設計コンサルタントであるIDEO
の創業者デビッド・ケリーのところに駆けつけました。
ハケットは、最初のTEDコンファレンスが、熱狂的に開催されたと
きの興奮と純粋な知的エネルギーを思い出してくれました。Javaの最
初の公式発表があり、Macintosh の最初の紹介があり、ジェイロン・
レニアによるヴァーチャルリアリティ環境の最初の展示がそこで行わ
れました。1998年にスチールケースが株式上場した日に、ハケットは
ニューヨーク証券取引所の開場ベルを鳴らすと、すぐに飛行機に飛び
乗って、モントレーに行き、そこで他に40社もの「TED協賛企業」が
既に同じベルを鳴らしていたことがわかってがっかりしました。
3
「我々こそが、病気と極端な貧困を見たり、アフリカの海を見渡して、
この状況に耐えられないと言うことのできる最初の世代です」−ボノ
しかし、いろいろなことを見たり聞いたりするうちに、ハケッ
トは会議の過激な内容と伝統的な形式との間の対照を考えるよう
になりました。
「コンピュータの力を使って、エネルギーをホールから出して、ロ
ビーに導くことができるだろうか」、「外部の放送を利用して、
聴衆の数を2倍にし、相互批判するのではなく、聴衆同士の親密度
を高めることができるだろうか」、「スクリーンを資料を投影す
るだけのものではなく、アイデア、イメージおよび情報のネット
ワークをサポートするものにできるだろうか」
スチールケースのデザイナーは、混雑した空間における人びと
の行動を研究し、分類しはじめ、その成果をTEDについて積み重
ねられた考察に移植しました(2ページ参照)。
■TEDのエネルギーをどう活用するか
デビッド・ケリーは、これにさらに考察を加えました。誰もが認め
るようにTEDがエリートを集め、今後も集め続けることは真実で
すが、この結果、興味深い動きが出てきました。多くの参加者が連続
してプレゼンテーションが行なわれるステージを通り過ぎて、リソー
スをより賢く消費する方法を探しています。別の参加者は私に次のよ
うにコメントしました。「TEDは最初はお金儲けのためにあり、次に
人とのコネクションを付けるためのものとなり、今は変化を生み出す
ためにあるように思えます」
この再編成は、会議の優先度に変化に明らかに表れています。主任キ
ュレーターのクリス・アンダーソンはそれを次のように説明していま
す。「第1回のTED以来ずっと、参加者が驚異と可能性の感覚にインス
ピレーションを受けて会議を終えてきました。この数年間、我々はこ
のようなエネルギーを利用できる方法を探しています」
■TEDにおけるボノ
著名なミュージシャンで世界的な人道活動家のボノが今年度から創設されたTED賞を受賞しました。彼
の受賞スピーチはどのようなものだったでしょうか。以下に一部を紹介します。
「私がテクノロジーの賞を受けるのは意外なことです。U2がiPodを発明したのではなく、広告に登場し
ただけであることをまず私は指摘すべきでしょう」
「地政学的なリアルな世界は、デジタルワールドから、つまりここに集まられたみなさんが障害を取り除
いた世界から学ぶべきことがたくさんあります」
「アフリカでは毎日6500人が、薬が不足しているという理由で、本来予防でき、対処できる病気であるエ
イズで亡くなっています。たんに大義を語っているのではありません。緊急事態なのです」
「歴史書が書かれるときに、我々の時代は、3つのことで思い出されると思います。デジタル革命、テロ
との闘い、そして、アフリカの火種を消したかどうかの3つです」
■第1回TED賞はボノなどへ
今年、アンダーソンはTED賞を創設し、地球上の苦しんでいる人
を救い、生活を改善させた3人の個人に授与しました。受賞したの
は、アイルランドのロックスターで全世界でエイズ支援活動を展
開しているボノ、人類が地球に与える影響を記録する写真家のエ
ドワード・バーチンスキィ、埋込み型除細動器(ICD)、インシュ
リンポンプ、冠動脈ステントなど多数の医療・救命器具の発明者
ロバート・フィッシェルの3氏です。
受賞者はそれぞれ3つの願いをすることが求められました。TEDから
の10万ドルの賞金とTEDコミュニティーがその実現を支援します。ボ
ノの「我々こそが、病気と極端な貧困を見たり、アフリカの海を見渡
c 2005 Steelcase Inc. All rights reserved.
して、この状況に耐えられないと言うことのできる最初の世代です」
という受賞スピーチは、忘れがたいものでした。
「マスコミの馬鹿騒ぎでしょうか?」
「 お金持ちや有名人の自己満足のお祭り騒ぎでしょうか?」
私はこのような質問をクリス・アンダーソンにぶつけましたが、即
座に彼は次のように答えました。
「皮肉屋の人たちの批判とは反対に、ほとんどの人がよりよい世界を望
んでおり、それを実現する手段をここで見つけたいと思っています」
そのことに目を向ける必要があります。
来年のTED 2006のテーマはすでに発表されています。「私たちが作
り出す世界」というものです。入場券は既に完売しています。
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