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光増感部位を有する Ru アクア錯体の合成と酸化還元挙動

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光増感部位を有する Ru アクア錯体の合成と酸化還元挙動
光増感部位を有する Ru アクア錯体の合成と酸化還元挙動
中央大院理工 芳賀研究室 M1 増野
真也
<緒言>
現代社会の発展は化石燃料を用いたエネルギーの獲得の上に築かれたが、その結果とし
て地球規模の環境破壊を引き起こしている。これを解決して持続可能な社会を築くために
は、新たなエネルギー資源の開発が必要である。代替エネルギー源の代表例として水素と
酸素を用いた燃料電池が挙げられるが、水素の貯蔵法に対する技術的問題がある。そのた
め、貯蔵が容易なアルコール等の有機物を用いた燃料電池の開発が考えられる。現在、有
機物を電気化学的に酸化する触媒の開発が重要な課題となっている。酸化触媒として Ru ア
クア錯体を 2 電子酸化した Ru オキソ錯体は酸化反応活性種になることが知られているが、
2 電子酸化するために Ce(Ⅳ)などの酸化剤や電
4+
気エネルギーが必要である。1)本研究では酸化
Ru1
剤を使用せず、光エネルギーにより Ru オキソ
錯体を生成させることを目的として、光増感部
と触媒部を組み合わせた Ru 錯体の合成を目指
2+
している。錯体の構造を Fig.1 に示す。本錯体
は ITO 基板上に光増感部位(Ru2) 、触媒部位
Ru2
(Ru1)が垂直に配向し、2)電極への電子の流れを
光により制御できることが期待される。また、
電子移動の比較のため単核 Ru アクア錯体も
合成した。これら錯体の ITO 電極表面上での
電気および光化学特性を検討した。
Fig.1 ITO 基板上での二核および単核 Ru
アクア錯体の構造
<実験>
合成
錯体 1 の合成を Scheme 1 に示す。2-エトキシエタノール中で 3 を架橋配位子と反応させ
て 4 を得た後、
エチレングリコール中で 4 と Ru(bpy)Cl3 を反応させて 5 を収率 74%で得た。
その後、2M トリフルオロメタンスルホン酸により 5 のリン酸基を加水分解して1
1を収率
45%で得た。錯体 2 の合成を Scheme 2 に示す。エチレングリコール中で 6 を Ru(bpy)Cl3 と
反応させて 7 を得た後、2M トリフルオロメタンスルホン酸により 7 のリン酸基を加水分解
して 2 を収率 60%で得た。同定は 1H NMR 及び ESI-MS によって行った。
N
H2 O
N
RuII
N
N
N
N
H2O
RuII
N
N
N
Ru
N
II
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
O
P
O
O
O
P OO P
O
O
P OO
O
O
O P O
O
O P O
O
O
O
P O
P OO
O
(OTf)4
(PF6)3
N
Cl
Ru
N
N
N
N
N
2) KPF6 aq.
3) Sephadex LH20
3
Scheme 1 二核錯体 1 の合成
Ru
N
N
N
N
N
N
N
N
EtO
EtO
EtO
EtO
EtO
Ru
N
N
N
1) 2M triflic acid
N
N
N
N
7
6
Scheme 2 単核錯体 2 の合成
P
O
2) KPF6 aq.
EtO
EtO
P
O
EtO
EtO
P
O
EtO
EtO
reflax,48h
P
O
EtO
2) KPF6 aq.
N
Ru
EtO
P
O
EtO
EtO
P
O
EtO
EtO
EtO
EtO
EtO
EtO
P
O
N
OH2
N
N
P
O
(PF6)2
PF6
N
1) Ethyleneglycol
P
O
5
80 ℃,3h
P
O
P
O
N
Cl
Cl
P
O
N
N
4
Cl
Cl
P
O
EtO
EtO
P
O
EtO
EtO
P
O
EtO
EtO
P
O
EtO
EtO
P
O
EtO
EtO
EtO
EtO
2) KPF6 aq.
P
O
N
N
HO P OH HO P OH HO P OH HO P OH
O
O
O
O
2
60 %
P
O
N
reflax,48h
N
N
N
N
N
P
O
74 %
N
Ru
2) KOTf aq.
EtO
N
140 ℃,1h
N
N
EtO
N
N
1) 2M triflic acid
N
Ru
EtO
N
N
N
120 ℃,2h
EtO
N
N
N
N
1) Ethyleneglychol
N
Ru
EtO
N
1) 2-Ethoxyethanol
EtO
N
Ru
N
Ru(bpy)Cl3
N
NCHCH3
Cl
Ru
N
N
EtO
N
N
Cl
N
N
N
2.5
N
(PF6)2
N
OH2
N
N
N
N
HO P OH HO P OH HO P OH HO P OH
O
O
O
O
1
45 %
8.0
ε / 104M-1cm-1
<結果および考察>
UV-vis スペクトル測定
錯体 1 および錯体 2 の UV-vis 吸収スペクトルを
Fig.2 に示す。錯体 1 および 2 の MLCT 帯はそれ
ぞれ 492 nm、505 nm に観測された。
錯体 1 の 310 nm
付近の吸収帯は錯体 2 に見られないことから架橋
配位子のπ-π*遷移と考えられる。360 nm の吸収
帯はビスベンズイミダゾール、290 nm は 2,2’-ビピ
リジンのπ-π*遷移と考えられる。
錯体1
錯体2
6.0
4.0
2.0
0
250
400
600
800
Wavelength / nm
Fig.2 錯体 1 および 2 のメタノール中
での UV-vis スペクトル
電気化学測定
測定に使用した錯体修飾 ITO 基板は、親水処理し
た ITO 基板を 25 µM 錯体溶液(CH3OH / H2O = 1:1
v / v)に 12 時間浸漬後、同溶媒で洗浄し、窒素気流
で乾燥した。
錯体 1 および 2 のサイクリックボルタモグラム
ITO 基板上に修飾した錯体 1、2 のサイクリック
ボルタモグラムを Fig.3 に示す。錯体 2 は E1/2 = 0.54
V vs Ag / AgCl、錯体 1 は E1/2 = 0.75 V (Ru1)と 0.96 V
(Ru2)に Ru(Ⅱ/Ⅲ)に帰属される可逆な酸化還元波が
観測された。また、ピーク電流値が掃引速度に対し
て一次に比例したことから、錯体 1、2 は ITO 基板
上に固定化していることが判った。
錯体2
0.54 V
0.2μA
錯体1
0.96 V
0.75 V
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Potential /V vs Ag/AgCl
Fig.3 錯体 1 および 2 のサイクリックボ
ルタモグラム(ITO 電極, 0.02 V / s,
0.1M NaClO4 aq.)
錯体 1 の光電気化学測定
(a) + 0.4 V
Anode
錯体 1 を修飾した ITO 基板に MLCT に相当する光(500 nm)
10nA
を照射した時の光電流応答を各印加電圧ごとに示した(Fig.4)。
Ru1(Ⅱ)-Ru2(Ⅱ)である+0.4 V では、光照射時に酸化過渡電流
on
off
(b)
+
0.8 V
が観測された(Fig.4 a)。この電流は励起された Ru(Ⅱ)から ITO
off
電極への過渡電流と考えられる。次に電位を+0.8 V にすると、
40nA
還元過渡電流が観測された(Fig.4 b)。この時、Ru1(Ⅱ)は Ru1(Ⅲ)
Cathode
on
に酸化されるので、Ru1(Ⅲ)-Ru2(Ⅱ)の励起された電子が Ru1(Ⅲ)
(c) + 1.2 V
へ移動し、さらに電極から Ru2(Ⅲ)へ電子移動が起こったと考
20nA
light on
Anode
えられる。+1.2 V(Fig.4 c)では光定常酸化電流が流れることか
(500nm)
off
ら、水を酸化している可能性がある。
2
6
Time / s
10
Fig.4 錯体 1 修飾 ITO 電極に
500 nm の光を照射した
ときの電流応答
錯体 2 の光電気化学測定
錯体 2 を修飾した ITO 基板に光(500 nm)を照射した時の印加
電圧の違いによる光電流応答を測定した(Fig.5)。Ru(Ⅱ)であ
る+0.3 V では光応答電流は観測されなかった。Fig.2 より錯体
1 に比べて錯体 2 の MLCT の吸光係数が小さいため、電極へ
の励起された電子の注入が起こらなかったのではないかと考
えられる。Ru(Ⅲ)である+0.8 V では光定常電流が流れることか
ら、水が電子供与体として働いている可能性がある。
+0.8 V
Anode
light on
(500nm)
1nA
off
5
10
15
20
Time /s
Fig.5 錯体 2 修飾 ITO 電極に
500 nm の光を照射した
ときの応答電流
<結論>
・単核および二核 Ru アクア錯体 1、2 の合成に成功した。
・二核 Ru アクア錯体 1 では、各酸化状態(Ru1(Ⅱ)-Ru2(Ⅱ)、Ru1(Ⅲ)-Ru2(Ⅱ)、Ru1(Ⅲ)-Ru2(Ⅲ))
において、異なる光応答電流が観測された。この挙動は単核 Ru アクア錯体 2 の場合と大
きく異なり、光増感 Ru 部位(Ru2)を連結することで過渡電流を制御できることが判った。
<参考文献>
1) L.A.Gallagher et.al. J. Am. Chem. Soc. 2001,
2001 123, 5308
L.A.Gallagher et.al. Inorg. Chem. 2005
2005, 44, 2089
2) M. Haga, K. Kobayashi, K. Terada, Coord. Chem. Rev. 2007
2007, 251, 2688
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