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論文要旨・審査の要旨

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論文要旨・審査の要旨
学位論文の内容の要旨
論文提出者氏名
論文審査担当者
論
文
題
目
南谷
主査
窪田
哲朗
副査
戸塚
実
鈴木
真衣
喜晴
Dysregulation of the DNA damage response and KMT2A rearrangement
in fetal liver hematopoietic cells
(論文内容の要旨)
<結言>
トポイソメラーゼⅡ(TOP2)阻害剤、エトポシド(ETO)は mixed lineage leukemia (MLL)
遺伝子の再構成を持つ二次性白血病を誘発することが知られている。また乳児白血病が MLL 遺
伝子の再構成を持つことから、TOP2 阻害剤の子宮内での暴露が MLL 遺伝子再構成に関与して
いることが示唆される。そこで、マウスを用い子宮内での ETO 暴露による Mll 遺伝子への影響
を検討した。その結果、胎児肝造血細胞では ETO の感受性が母体骨髄細胞よりも強かった。ま
た chromatin immunoprecipitation (ChIP) 解析を用いたこところ、Mll 遺伝子に DNA 損傷が起
こることが明らかとなった。さらに、RNA シークエンスを用いたところ、ETO による様々なキ
メラ mRNA が同定されたが、Mll 遺伝子を含むキメラ mRNA は野生型マウスでは観察されなか
った。一方、DNA 損傷応答の異常を持つ Atm-/-マウスで同様の検討をしたところ、Mll 遺伝子
を含むキメラ mRNA が確認された。これらの結果は、ETO 処理だけでは Mll 遺伝子の再構成の
発生に十分ではなく、DNA 損傷応答の欠損などの遺伝的背景がある条件下で Mll 遺伝子再構成
が起こることを示している。
<対象と方法>
マウス:動物実験は東京医科歯科大学の動物実験規定に基づき実施した。また、C57BL/6 マウ
スを使用し、動物実験ガイドラインのもと安楽死は二酸化炭素を使用した。
エトポシド(ETO)濃度検討:胎児マウス肝細胞を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で
血清分画の ETO 濃度を測定した。
胎児マウス肝造血幹細胞(FL-HSC)の分離:胎児マウス肝細胞から Ficoll-Paque Plus を用い
て単核球を分離し、CD117 陽性、CD45 陽性細胞を MACS システムで回収した。
フローサイトメトリー(FACS): DNA 二本鎖および一本鎖切断を含む DNA 損傷の分子マ
ーカーである γH2AX(セリン 139 リン酸化 H2AX)を検出するため、FL-HSC および母体骨髄
単核球細胞(mBM MNC)を FITC 結合 γH2AX 抗体と反応させ、次にヨウ化プロピジウム(PI)
と反応させた。リン酸化 H3 陽性細胞は、アレクサフルオロ 488 結合リン酸化ヒストン H3 セリ
ン 10 抗体を用いて検出した。
免疫沈降反応(ChIP)解析:ウサギポリクローナル γH2AX 抗体をコーティングしたプロテイ
- 1 -
ン A ダイナビーズで免疫沈降後、DNA は QIA quick PCR 精製キットを用いて精製した。 PCR
プライマーは KMT2A/Kmt2a の領域で作成し、 PCR は 96℃30 秒、60℃30 秒、72℃30 秒、35
サイクル増幅の条件下で行った。
Western Blotting 解析:単離した FL-HSC からタンパクを抽出し、一次抗体として抗 ATM
(4D2)抗体、抗リン酸化 ATM セリン 1981 抗体、抗 γH2AX 抗体を使用した。二次抗体として
西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識した抗マウス抗体を使用した。
RNA シークエンス(RNA-seq):E13.5 の妊娠マウスに 3 日間連続で 0.5mg/kg の ETO を腹
腔内投与(IP)し、最後の投与から 24 時間後に胎児を取り出した。FL-HSC から全 RNA を抽出
し 、 TruSeq RNA ラ イブ ラリ プレッ プキ ットを 用い て作製 した ライブ ラリ ーをイ ルミ ナ
HiSeq1500 で解析した。
染色体スライド標本:FL-HSC を培養し、KCl で処理後、DAPI 染色を行った。
データ解析:融合 mRNA はトップハットソフトウェアを用いた。RNA-seq のアノテーション
は、DAVID バイオインフォマティクスリソース 6.7、ヒートマップはクラスタリング MeV4.0 を
使用した。統計はマンホイットニーU 検定または t 検定を使用した。 P 値<0.05 を有意とした。
<結果>
母体曝露後の胎児の ETO 濃度:胎児における ETO 濃度は急激に減少し、投与後 2.5 時間で検
出されなくなった。
ETO IP 後の FL-HSC および mBM MNC における DNA 二重鎖切断:FL-HSC において ETO
0.2〜0.5mg/kg で最小限の DNA 損傷が誘発されが、ETO 0.5mg/kg では FACS による γH2AX
陽性細胞の検出は認められなかった。従って、高濃度の 10mg/kg を in vivo で使用したところ、
ETO IP による γH2AX 陽性細胞は、mBM MNC に比べて FL-HSC で 2 倍ほど高かった。アポ
トーシスの割合は、ETO IP 後 4 時間でピークに達し、mBM MNC に比べて、FL-HSC で 5 倍ほ
ど高かった。
ETO IP 後の細胞周期の変化:S 期の細胞の割合は mBM MNC より FL-HSC で 2 倍ほど高く、
リン酸化ヒストン H3 陽性細胞の割合は FL-HSC および mBM MNC の両者で ETO IP 後 0.5〜4
時間で一時的に減少した。細胞周期別に見ると、G1 期の細胞の割合は FL-HSC で一過性に減少
したが、mBM MNC では明らかな変化は認められなかった。S 期の細胞の割合は両者で IP 後 3
時間で増加し、その後減少したが、mBM MNC に比べて FL-HSC でより顕著だった。G2 期の細
胞の割合は両者で徐々に蓄積された。次に γH2AX 陽性細胞を各細胞周期別で見たところ、S 期
および G2/M 期で mBM MNC に比べ、FL-HSC でより 8~10 倍多く検出された。
ETO によって誘発される KMT2A 損傷:BV173 細胞における KMT2A 再構築は、サザンブロ
ッティングにより ETO 1μM 処理でわずかにバンドが検出された。ChIP 解析では、KMT2A で
顕著に DNA 損傷を検出した。Ba/F3 細胞でも同様に、ChIP 解析により Kmt2a で顕著に DNA
損傷を検出した。また、BV173 に種々の濃度の ETO 処理後 ChIP 解析を行ったところ、DNA 損
傷は 0.5μM で検出された。次に、E13.5 の妊娠マウスに ETO 0.5mg/kg IP 後、FL-HSC の ChIP
解析で DNA 損傷を検出した。
ETO 投与による FL-HSC の反応:これまでの結果から DNA 損傷を誘発するために必要な ETO
の最小濃度を 0.5mg/kg と定め検討を行った。様々なキメラ融合 mRNA は検出されたが、Kmt2a
- 2 -
を含むキメラ融合 mRNA は検出されなかった。その細胞の遺伝子発現パターンを解析したとこ
ろ、MAPK、WNT、JAK-STAT、SHH および NOTCH 経路を含む、細胞増殖を加速するいくつ
かの経路が上方抑制された。
DNA 損傷後の細胞周期調節不全は Kmt2a 再構築を引き起こす:ATM 欠損 FL-HSC は ETO
暴露後の染色体損傷を確認した。また FL-HSC の RNA-seq 解析を行ったところ、キメラ融合遺
伝子は野生型マウスより ATM 欠損マウスで多く検出され、ATM 欠損マウスでのみ Kmt2a を含
むキメラ融合 mRNA を検出した。
子宮内 ETO 暴露後に増殖性白血病は発症しない:0.5mg/kg の ETO または DMSO を妊娠 13.5
日から 3 日間投与し、仔の数や死産を比較した。仔の genotype を行うと DMSO 処理及び ETO
処理群間で Atm+/+ 、Atm+/- 、Atm-/-のそれぞれの数の差はなかった。
<考察>
幼児急性白血病は、胚または胎児の発生中におこる疾患として知られる。最近の疫学的研究に
より、乳児白血病の発症は KMT2A 再構築をもたらす TOP2 阻害剤の子宮内曝露関与が示唆され
た。しかし生命倫理上、ヒト胚を用いた研究はできない。そこで、TOP2 阻害剤への母体曝露が
Atm 欠損の有無に関わらず、Kmt2a 再構築を誘導するか検討するため、マウスモデルを用いた
研究を行った。また本研究は、ChIP 解析を用いた KMT2A の損傷を検出する新規の方法を開発
した。本研究では、FL-HSC は mBM MNC よりも TOP2 阻害剤に対して高感度で、G2/M 期の
γH2AX 陽性細胞は FL-HSC の中で有意に多かった。この原因として、FL-HSC 中の G2 期に引
き継がれる S 期での DNA 損傷量もしくは S 期の DNA 修復経路の損傷が考えられる。
染色体転座を引き起こすためには、DNA 二本鎖切断に加え、DNA 修復経路における細胞周期
調節機構の欠損のような要因も必要である。すなわち、ATM 経路の変異または欠陥による TOP2
阻害剤に対する感受性の増加は、KMT2A 再構築乳児白血病発症につながると考える。また、白
血病の発症は、分化抑制に加えて細胞増殖の活性化を必要とする。本研究では、MAPK および
JAK-STAT などの細胞増殖に関与する経路が上方抑制されたことから、ATM 欠損など DNA 損
傷応答調節機構の欠損かつ増殖性経路の活性化は、DNA 再構築の持続にもかかわらず細胞を増
殖することが明らかになった。
次 に 、 RNA-seq を 使 用 す る こ と に よ っ て 子 宮 内 エ ト ポ シ ド 暴 露 で ATM-/- 胎 児 に の み
Kmt2a-Ptp4a2 の融合 mRNA を検出した。以上の事から、TOP2 阻害剤への暴露は野生型の動
物モデルにおいて KMT2A の再構築のために十分ではないことを示した。さらに、我々は Kmt2a
損傷と DNA 損傷応答に欠陥がある場合でも、乳児白血病の完全な発症のためには十分ではない
ことを示唆しました。
以上の知見は、KMT2A 再構築に加えて、他の因子の同定が乳児白血病の発症のメカニズムの
理解を向上させることを示唆している。
- 3 -
論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号
甲 第 5028 号
論文審査担当者
主査
窪田
哲朗
副査
戸塚
実
南谷
鈴木
真衣
喜晴
(論文審査の要旨)
学位審査論文 Dysregulation of the DNA damage response and KMT2A rearrangement in fetal
liver hematopoietic cells.(PLoS ONE に掲載,DOI:10.1371/journal. pone.0144540)について
審査した。
トポイソメラーゼ 2 阻害薬のエトポシドは,固形癌や血液腫瘍の治療に広く用いられているが,
KMT2A 遺伝子の再構成を伴う白血病を二次的に誘発し得ることが知られている。乳児期に発症す
る白血病には KMT2A 遺伝子を含む染色体転座が認められることが多く,胎児期におけるトポイソ
メラーゼ 2 阻害薬,または同様の効果を有する様々な環境物質への暴露が誘因となっている可能
性が考えられる。そこで本研究では,乳児白血病発症の分子機構の解明を進めるためにマウスモ
デルを作製し,妊娠中の母体にエトポシド投与を投与して胎児への影響を解析した。
その結果,母体の骨髄単核球と比較して,胎児肝造血幹細胞は,エトポシドによる DNA 切断を
受けやすいことが明らかになった。クロマチン免疫沈降法を応用した独創的かつ高感度な解析法
を用いたところ,母体がエトポシド投与を受けた後の胎児肝造血幹細胞に Kmt2a 遺伝子の傷害を
検出することができた。また,そのような細胞では,様々な種類のキメラ mRNA が誘発されている
ことが,次世代 RNA シークエンス法により証明された。Kmt2a 遺伝子を含むキメラ mRNA は,DNA
損傷応答が障害されている ATM 欠損マウスにのみ認められ,野生型マウスでは誘発されなかった。
以上より, DNA 修復能が障害されている場合には,エトポシドに暴露された胎児の細胞に Kmt2a
遺伝子の再構成が生じることが示唆された。
本研究は,稀少ではあるが予後不良の難病である乳児白血病について,その発症の分子機構の
解明に貢献する重要な知見を提供したものである。研究方法は良く検討されていて,少量の試料
から目的の DNA 傷害を検出するための技術的な工夫も凝らされており,高度な解析が行われてい
る。このような研究がさらに発展して,治療法や予防法の開発につながることが期待される。
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