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ゾルゲル法を用いた有機無機ハイブリッドEL薄膜の開発

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ゾルゲル法を用いた有機無機ハイブリッドEL薄膜の開発
ゾルゲル法を用いた有機無機ハイブリッドEL薄膜の開発
庄山昌志*,世古成樹**,宇野貴浩**,久保雅敬**,伊藤敬人**
Development of Organic/Inorganic Hybrid Electro Luminescence Thin Films by the
Sol-Gel Method
Masashi SHOYAMA , Shigeki SEKO, Takahiro UNO, Masataka KUBO
and Yoshihito ITOH
Organic/inorganic hybrid electroluminescence (EL) thin films were successfully prepared
by
the
sol-gel
method
to
improve
the
durability
to
the
air
or
water
component.
Poly-phenylene-vinylene (PPV) and tetra -ethoxy -silane (TEOS) w e r e u s e d a s EL material and
inorganic glass component, respectively, and the hybrid thin films were prepared by the
spin-coating method. As a result, addition of dimethyl-diethoxy-silane (DMES) to the PPV/TEOS
was very effective to obtain the crack -free hybrid thin film.
Key words : electroluminescence, organic/inorganic hybrid, thin film, sol-gel method
Metal Cathode
1.はじめに
Electron Transport Layer
Organic Emitter
有機ELは自発光デバイスであり,高輝度,高コ
Hole Injection Layer
ントラスト,高速応答性,広視野角など優れた特
ITO Anode
Glass Substrate
性を有している.有機ELの研究において,大きな
ブレークスルーは,1987年のTangらによるトリス
(8―ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)
という低分子系EL材料の報告であり 1),それ以降,
各種ドーピング 2)や 三 重 項 励 起 子を利用し たリン
図1
有機 EL 素子の構造
光材料の開発 3 ),お よ び 高い量子効率と白色発光
を目的としたマ ル チ フ ォ ト ン構造など 4), 国内外
しかし,一般に有機 EL 分子は,空気中の酸素や
での研究開発が盛んに行われている.
湿気による酸化反応や加水分解反応などの劣化反
有機ELは,電極間に有機化合物の薄膜が挟まれ
応を受けやすく,そのために発光寿命が短い欠点
たサンドイッチ状の構造を有するディスプレイデ
が指摘されている.そのために,発光素子全体を
バイスである(図1).それぞれの電極から移動
封止缶とよばれるシールド技術によって空気と遮
してくる電子と正孔が,有機EL層中で再結合する
断することが行われている(図2)
.これは,素子
ことにより生じる,EL分子の励起とそれに引き続
全体を窒素ガスで覆い,さらに,乾燥剤によって
く発光現象を利用するものである.
水分を捕捉するというものである.しかし,この
ような封止缶は,素子の構造を複雑にし,製造コ
*
工業研究部電子材料研究グループ
**三重大学工学部分子素材工学科
スト的にも不利である.
そこで本研究では,低コストな有機 EL 材料の封
2.実験方法
止技術の確立を目的として,ゾルゲル法を用いて
有機高分子と無機ガラスとは性質が大きく異な
無機ガラスと有機 EL 高分子のハイブリッド化を
ることから,溶液法であるゾル−ゲル法において,
行い,その薄膜成型技術について検討を行った.
有機高分子を共存させても,その低い混和性から
ハイブリッド EL 材料の場合,有機 EL 分子は,無
相分離が生じ,有機高分子をガラス中に均一に分
機ガラスマトリックス中に均一に分散されている
散させることは困難である.すなわち,多くの場
ので,空気と完全に遮断されており,上述した副
合,有機分子同士の会合によって高分子の析出が
反応を受けにくいと考えられる.すなわち,有機
起こり,結果として不均一なゲルの生成が観測さ
EL 分子の優 れた発光特性と 無機ガ ラ ス の高 い堅
れる.しかし,有機高分子と無機ガラスとの間に
牢性を兼ね備えた新しい発光材料を創製すること
何らかの相互作用が存在する場合に,均一な混和
が可能である.さらに,薄膜化にあたっては,ハ
が可能となる.
イブリッドの前駆体であるゾル液を使用するので,
筆者らのグループによるこれまでの研究におい
スピンコート法やディップコート法などのような
て,ジホスホニウム塩化合物とジアルデヒド化合
簡便な手段用いることができる.このことより,
物の Wittig 反応によって調製したポリフェニレ
従来の蒸着法等に比較して,安価な作製プロセス
ンビニレン(MEH-PPV)のゾルゲル法によって,均
の実現が期待できる.
一なハイブリッドゲルが得られることを見出した
5-7)
.この場合,高分子の鎖末端に存在する高極性
置換基とシラノール基との間の静電的な相互作用
の発現によって,有機高分子と無機ガラスとの均
Desiccant
Lamination Body
一な混和が可能になったと推定している(図4).
N 2 Gas
Metal Cathode
EL Device
O
Adhesive
OHC
ITO Anode
CH=CH
MeO
図4
MeO
MEH-PPV とシリカとの均一ハイブリッド形成の
封止缶の構造
模式図
Glass
Cathode
CH2PPh3
n
Glass Substrate
図2
O
O
Si O
O
O
O Si O
O Si
O
O
O
Si O
OO
本報告では,有機 EL 材料には,代表的な高分子
系 EL 材料である MEH-PPV を用い,テトラエトキシ
Organic EL Material
シランの混合溶液(ゾル液)をスピンコート法に
よって,ガラス基板上に塗布し,その後の加熱反
Anode
Organic Conducting Material
応によって共加水分解を行った.薄膜化にはスピ
ンコーティング法を用い,薄膜の形状を保持した
まま,ハイブリッドに誘導する検討を行った.実
図3
有機/無機ハイブリッド 型発光素子 の構造
施経過としては,まず,バルク条件を用いた薄膜
形成,次に,添加剤を用いた薄膜形成について検
討を行った.
3.結果と考察
バルク成形条件と同様に,MEH-PPV,テトラエト
O
キシシラン,ジオキサン,1 規定塩酸,及び乾燥
O
O
O Si O Si O Si O
O
O
O
O Si O Si O Si O
O
O
O
制御剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)の
混合物をガラス基板上にスピンコートし,その後,
基板を 80 度に保持した電気炉内に 1 時間放置する
ことにより,硬化させ,ハイブリッド薄膜を得た.
O Si O Si O Si O
O
O
O
見かけ上は均一のハイブリッドが形成されたよう
であった.しかし,陰極材料であるアルミニウム
の蒸着を行ったところ,アルミニウム薄膜には多
くのはがれが観測された(図5).
図7
テトラエトキシシランのゾル−ゲル法から得ら
れる4点架橋構造のゲル
そこで,密な網目状構造を緩和し,生成ゲルの
柔軟性を向上させることができれば,高沸点の乾
燥制御剤を使用しなくても亀裂の防止が可能にな
ると考えた.具体的には,3 点架橋剤であるメチ
ルトリエトキシシラン,2 点架橋剤であるジメチ
図5
アルミニウム 薄膜のはがれ
ルジエトキシシラン,及び柔軟なポリシロキサン
このようなはがれの原因としては,ハイブリッ
構造を有する2官能性のシラノール末端ポリジメ
ド中に残存する高沸点溶媒である DMSO が,アルミ
チルシロキサンをゾル−ゲル反応における添加剤
蒸着時に気化したためであると推定した.そこで,
として用いることにした(図8).
DMSO を含まない MEH-PPV,テトラエトキシシラン,
ジオキサン,及び 1 規定塩酸の混合物をスピンコ
ートし,同様な方法で硬化反応を行った.しかし,
CH 3
EtO Si OEt
OEt
CH 3
EtO Si OEt
CH 3
CH 3
HO Si O H
n
CH 3
得られたハイブリッドの表面には数多くのクラッ
クが生じ,均一な薄膜が形成しなかった(図6).
図8
種々の添加剤 の化学構造
MEH-PPV を 1 mg 使用し,テトラエトキシシラン
に上述した添加剤を加え,バルク成形条件におけ
るゾル−ゲル法を行った.添加剤の添加量を変え
て行ったゾル−ゲル反応の結果を表1にまとめる.
表1
ゾル−ゲル反応結果
Additive
図6
多数のクラックが生じたハイブリッド 薄膜
すなわち,テトラエトキシシランのゾル−ゲル
法から導かれる酸化ケイ素ネットワーク構造にお
いては,全てのケイ素原子が架橋形成に関与して
いるので(4 点架橋),丈夫な被膜が得られる反面,
乾燥制御剤の存在しない硬化反応においては,急
CH 3
(EtO) 4Si
(EtO) 3SiCH3
(EtO) 2Si(CH 3)2
HO Si O H
,g
,g
,g
1.00
1.50
1.65
1.00
1.50
1.65
1.00
1.50
1.65
1.00
0.50
0.35
-
1.00
0.50
0.35
-
1.00
0.50
0.35
速な体積収縮のために亀裂が生じたと考えられる
(図7).
Conditions: MEH-PPV, 1 mg; dioxane, 3 mL, 1N HCl, 0.5 mL, 100 o C, 48 h.
Mn of Silanol-Terminated Poly(dimethysiloxane) = 4,000.
Appearance
n
CH 3
,g
Crack
Crack
Crack
Turbid
Clear
Clear
Phase Separation
Phase Separation
Phase Separation
まず,3 点架橋剤であるメチルトリエトキシシ
得られたハイブリッドは見かけ上均一で,蒸着
ランについては,添加量を変えてゾル−ゲル法を
したアルミにもはがれや剥離が観測されなかった
行っても,すべての場合に,得られたゲルに亀裂
(図10).すなわち,高沸点溶媒である乾燥制御
が観測された.すなわち,3 点架橋を導入しても,
剤を添加しなくても,架橋点をコントロールする
なお,もろい性質の改善には不十分であったこと
ことにより,蒸着特性に優れ,亀裂のない均一な
がわかった.また,最も柔軟性を付与すると考え
ハイブリッド薄膜が得られることがわかった.
られるシラノール末端ポリジメチルシロキサンを
添加した系では,亀裂のない比較的柔らかいゲル
が得られたものの,有機高分子が析出し,不均一
なゲルが得られた.この理由としては,ポリシロ
キサンと有機 EL 高分子との低い相溶性のために,
相分離が起こったためであると説明できる.一方,
2点架橋剤であるジメチルジエトキシシランを添
加した場合,テトラエトキシシランと同量のジメ
チルジエトキシシランを添加した場合は,有機ポ
リマーの析出に由来する濁ったゲルが得られたが,
図10
ハイブリッド薄膜から成る発光素子
添加量を減少させることにより,有機ポリマーの
析出が肉眼上観測されず,また,亀裂のない均一
な透明ゲルを得ることができた.すなわち,ジメ
4.まとめ
チルジエトキシシランを適当量添加することで,
代表的な有機 EL 高分子である MEH -PPV を,
ゾル−ゲル法によるハイブリッドの薄膜成形が可
ゾルゲル法により無機ガラスとハイブリッド化し,
能になることが示唆された.
その薄膜化に成功した.薄膜の硬化反応中の亀裂
以上の実験によって得られた知見をもとにして,
を防止するために,各種添加剤の効果を調べ結果,
テトラエトキシシランの重量に対して 1/3 のジメ
2 点架橋剤としてのジメチルジエトキシシランを
チルジエトキシシランを添加し,溶媒としてジオ
適当量添加することで,相分離に由来する有機 EL
キサン,酸触媒として1規定塩酸を用いてゾル液
高分子の析出やゲル表面に亀裂やはがれのない均
を調製し,ITO ガラス基板上にスピンコートして
一なハイブリッド薄膜が得られることがわかった.
から,電気炉内で硬化反応を行い,さらに,アル
また,この薄膜成形においては,乾燥制御剤を
ミ蒸着を行った(図9).
使用していないので,ハイブリッド中に高沸点溶
媒が残存することがなく,蒸着特性が優れている
ことがわかった.
O
CH=CH
MeO
5 mg
O
n
O
3 mL
OEt
EtO Si OEt
CH3
EtO Si OEt
OEt
CH3
1.50 g
0.50 g
1N HCl
0.5 mL
参考文献
1) Tang, C.W. and Van Slyke, S.A., Organic
electroluminescent diodes, Applied Physics Letters,
51, P.913 (1987)
Spin Coating
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Electroluminescence of doped organic thin films,
80 C, 1 h
o
Journal of Applied Physics, 65, P.3610
(1989)
3) Baldo, M.A., Lamansky, S., Burrows, P.E.,
Al Deposition
Thompson, M.E. and Forrest, S.R., Very high efficiency green organic light-emitting devices on
図9
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P.4(1999)
4)
Kido,
J.,
et
al.,
2003
SID
International
6) T. Mori, M. Kubo, T. Itoh, and M. Kawaguchi,
Symposium Digest of Technical Papers,
Synthesis of Pi-Conjugated Poly(arylene
Vol., 30, Book2, 964-965(2003)
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5) C. Takimoto, M. Kubo, T. Uno, and T. Itoh,
Preparation of Pi-Conjugated Polymer-Silica
Composite by Sol-Gel Method, Polym. Prep. Jpn.,
Vol. 51, 2290-2291 (2002)
Poly m. Prep. Jpn. Vol. 52, (2003)
7) M. Kubo, C. Takimoto, T. Mori, T. Uno, and T.
Itoh, Preparation of Poly(2-methoxy-5(2-ethylhexyloxy)-1,4-phenylene vinylene)
(MEH-PPV)/Silica Composite by Sol-Gel Method,
Materials Research Bulletin (in review)
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