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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
Title Author(s) Citation Issue Date URL 体細胞クローン牛発生異常に関連する遺伝子の探索( Abstract_要旨 ) 大石, 昌仁 Kyoto University (京都大学) 2006-03-23 http://hdl.handle.net/2433/144102 Right Type Textversion Thesis or Dissertation none Kyoto University 【536】 氏 名 おお いし まさ ひと 大 石 昌 仁 学位(専攻分野) 博 士(農 学) 学位記番号 農 博 第1547号 学位授与の日付 平成18年 3 月 23 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第1項該当 研究科・専攻 農学研究科応用生物科学専攻 学位論文題目 体細胞クローン牛発生異常に関連する遺伝子の探索 (主 査) 論文調査委貞 教 授 佐々木義之 教 授 今 井 裕 教 授 遠 藤 隆 論 文 内 容 の 要 旨 体細胞クローン技術は畜産分野において多大の期待が寄せられている。しかし,体細胞クローン牛作製の成功率は現段階 では極めて低く,妊娠中に流産や死産が多発し,産まれたとしてもその生存率は60%程度にすぎない。とくに,妊娠60日齢 前後において高頻度で流産が起きることが知られており,これらの流産と胎盤の形成異常の関連が指摘されている。そこで, 本研究では,マクロアレイ法を用いて遺伝子の発現を網羅的に調べることにより,発生異常に関連して発現量が変化する遺 伝子をターゲットに,体細胞クローン牛の発生異常に関連する遺伝子を探索した。 第1章では妊娠60日齢前後のウシ胎児および胎盤に発現する遺伝子のカタログ化を行った。マクロアレイ解析にはできる だけ多くの重複のないプローブ遺伝子を集めることが不可欠であるが,ウシではまだEST解析が進んでいない。ウシの遺 伝子をカタログ化することは,ウシの遺伝子発現プロファイリングをする上で大変重要であり,さらにアレイ技術等に応用 して遺伝子機能の特徴づけなどにつながる。そこで,胎児および胎盤のcDNAライブラリーよりそれぞれ5,357個および 1,126個のクローンを単離し,その3,側のシーケンス解析を行い,これらの配列をDDBJデータベースに登録した。ホモロ ジー検索を行い,重複する配列を除いたところ合計4,165種類の重複のないユニークなクローンを単離することができ,60 日齢の胎児および胎盤にどのような遺伝子が強く発現しているかが明らかになった。 第2章では体細胞クローンにおける正常牛と発生異常牛との間での遺伝子発現プロファイリングを行った。カタログ化し た重複のないユニークなクローン3,353種類を用いてマクロアレイを作成し,体細胞クローン牛の流産が多発する妊娠60日 齢の胎盤における網羅的な遺伝子発現プロファイルを調査し,体細胞クローン牛発生異常に関連して発現量が変化する遺伝 子の抽出を試みた。クローン牛発生異常個体(CD)とクローン牛生存個体(CL),人工授精牛生存個体(AI)の胎盤での ゲノムワイドな遺伝子発現の差を調べた結果,2頭のCD間,CLとAI間で発現量に差のある遺伝子数に比べて,CDと CL,CDとAI間では発現量に差のある遺伝子が明らかに多く,3種類の胎盤においてCDが異常な遺伝子発現プロファイ ルを持つことが示された。 第3章ではデータベースを用いた配列情報の伸張並びに体細胞クローンにおける発生異常に関連する候補遺伝子の機能検 索を行った。マクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイル解析で発生異常個体において発現量に変化があった遺伝子の半 数近くがESTもしくは未知遺伝子であった。そこで,アッセンブルcDNAデータベースと5,シーケンス情報を併用して, 配列情報の伸張を行い,他の種とのオーソログを用いてホモロジー検索をすることにより,未知であった遺伝子258個のう ち235個が既知のものに当てはまった。さらに全ての既知遺伝子に対して遺伝子の機能を検索した。その結果,体細胞クロ ーン牛の発生異常と関連していると考えられる候補遺伝子として∫G乃,〃月AJ,〃βA2,£P7署および且Fr臥Ⅳ−ヱを同定 した。 第4章では体細胞クローン発生異常との関連候補遺伝子について,別のサンプル個体を用いたマクロアレイ解析によるコ ンファメーションを行った。新たなサンプルを用いたマクロアレイでも,∫G招ではクローン牛発生異常個体で発現量が高 一1262− く,〃βAヱ,ガβA2,∫PT3および∫PTβ爪けでは発生異常個体で発現量が低く,これらの遺伝子発現の異常が体細胞クロ ーン発生異常と強く関連していることが示唆される。 これら5つの遺伝子が体細胞クローン牛発生異常の直接の原因遺伝子であるかどうかは現時点ではわからないが,今後イ ンサイチューハイブリダイゼーションやGFP融合タンパク質の作製等によってその局在を調べたり,RNA干渉技術によ りこれらの遺伝子発現量を調節したりすることによって,これらの遺伝子の発生に関わる機能を明らかにしていく必要があ る。それによって,遺伝子発現の変化を発生異常に結びつけることができれば,これらの遺伝子発現を制御することによっ て体細胞クローン牛の成功率を改善することが期待される。 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 体細胞クローン技術は畜産分野における画期的な技術であるが,その成功率はいまだ極めて低く,妊娠中に流産や死産が 多発し,産まれたとしてもその生存率は60%程度にすぎない。とくに,妊娠60日齢前後において高頻度で流産が起きること が知られており,これらの流産と胎盤の形成異常との関連が指摘されている。そこで,本研究では,発生異常に関連して発 現量が変化する遺伝子をターゲットに,体細胞クローン牛発生異常関連遺伝子を探索している。得られた主な成果は以下の とおりである。 1)妊娠60日齢前後のウシ胎児および胎盤cDNAライブラリーよりそれぞれ5,357個および1,126個のクローンを単離し, その3,側のシーケンス解析を行い,これらの配列をDDBJデータベースに登録している。それらについてホモロジー検索 を行い,合計4,165種類の重複のないユニークなクローンを単離し,60日齢の胎児および胎盤にどのような遺伝子が強く発 現しているかを明らかにしている。 2)カタログ化した重複のないユニークなクローンを用いてマクロアレイを作成し,体細胞クローン牛の流産が多発する 妊娠60日齢の胎盤における網羅的な遺伝子発現プロファイルを調査し,体細胞クローン牛発生異常に関連して発現量が変化 する遺伝子の抽出を試み,クローン牛発生異常個体における異常な遺伝子発現プロファイルを明らかにしている。 3)データベースを用いて体細胞クローンにおける発生異常に関連する候補遺伝子の機能検索を行った結果,体細胞クロ ーン牛の発生異常と関連していると考えられる候補遺伝子として∫G乃,ガ且4J,〃且42,ぶPT署および5アT署Ⅳ−ヱを同定し ている。 4)体細胞クローン発生異常との関連候補遺伝子について,新たなサンプルを用いたマクロアレイでも∫G乃ではクロ ーン牛発生異常個体で発現量が高く,ガβAJ,ガβA2,∫PT3および且PT月爪けでは発生異常個体で発現量が低く,これら の遺伝子発現の異常が体細胞クローン発生異常と強く関連していることを示唆している。 以上の結果,妊娠60日齢前後における体細胞クローンの発生異常に関連する5つの候補遺伝子を放り込んでいる。これに よって,体細胞クローン発生異常のメカニズムを解明する糸口が得られたことになり,体細胞クローン技術の確立並びに家 畜繁殖学,動物遺伝育種学の発展に寄与するところが大きい。 よって,本論文は博士(農学)の学位論文として価値あるものと認める。 なお,平成18年2月14日,論文並びにそれに関連した分野にわたり試問した結果,博士(農学)の学位を授与される学力 が十分あるものと認めた。 −1263−