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算数・数学科における「評価」の参考資料
算数・数学科における「評価」の参考資料 本資料は、国立教育政策研究所発行(平成23年11月)の「評価規準の作成、評価方法等の工夫 改善のための参考資料【小学校算数】【中学校数学】」に基づいて作成しています。 1 評価の目的 ☆「児童・生徒」は、自らの取組の成果と課題を明確にし、その後の取組に生かす。 ☆「教師」は、児童・生徒のあらわれを基に自らの指導の成果と課題を明確にし、その後の指 導に生かす。 ポ イ ン ト 評価には 、「児童・生徒のための評価」という意味合いと 、「教師が自らの指導を振り 返るための評価」という意味合いがあります。また、 「指導と評価の一体化」の視点から、 評価されることや評価することがゴールではなく、次の取組や指導へのスタートとなるよ うにしたいものです。児童・生徒に対しては、個に応じてこれまでの取組の頑張りを認め たり、今後の努力点を明確に示したりすることによって、その後の取組への意欲の向上に つなげることが大切です。 2 評価で大切にしたいこと ☆妥当性・・・意図した資質や能力を正しく評価しているか。 ☆信頼性・・・誰が評価しても同じ結果になるか、本当に正しい評価をしているか。 ポ イ ン ト 例えば、「数学的な(見方や)考え方」を評価するために、児童・生徒に文章問題を提 示したとします。このとき、「問題文の表現が難しく、児童・生徒が問題そのものを理解 できない」のであれば、算数・数学の力というよりは、国語の力の影響を大きく受けてし まいます。この場合、評価の妥当性に問題があるといえます。同様に、「算数(数学)へ の関心・意欲・態度」の評価を、授業中の挙手の回数や提出物の状況だけで判断するのも、 評価の妥当性という点から注意が必要です。また、同じあらわれをしている児童・生徒に 対して、評価が異なるのは、評価の信頼性という点で好ましくありません。評価の「妥当 性」や「信頼性」をできるだけ高めていくことが大切です。 3 なぜ観点別学習状況が重視されているのか ☆観点別学習状況は、学習指導要領の趣旨(「学力の3要素」)を反映したものである。 ☆児童・生徒の学習状況の詳細な把握により、きめ細かな指導の充実につなげることができる。 ポ イ ン ト 算数・数学科における観点別学習状況の4観点は、学力の3要素と密接な関連をもって います。現行学習指導要領において重視されている3つの学力を育成するために、算数・ 数学科においては4つの観点で迫ることが求められています。4つの観点で評価すること により、個々の児童・生徒の学力をより詳細に把握することができ、きめ細かな指導に生 -1- かすことができます。例えば、「一次方程式を解く」学習場面では、移項して正しく計算 することはできていても、なぜ移項すると符号が変わるのかその意味が分かっていない生 徒がいます。その生徒は 、「技能」は良好といえますが 、「知識・理解」は不十分である といえます。このような生徒には、「知識・理解」の不十分な点を補う指導が必要です。 学力の3要素 観点別学習状況 小学校 小学校 中学校 中学校 算数への関心・意欲・態度 数学への関心・意欲・態度 算数への関心・意欲・態度 数学への関心・意欲・態度 主体的に学習に取り組む態度(=学習意欲) 数学的な考え方 数学的な見方や考え方 数学的な考え方 数学的な見方や考え方 思考力・判断力・表現力 等 数量や図形についての技能 数学的な技能 数量や図形についての技能 数学的な技能 基礎的・基本的な知識・技能 数量や図形についての知識・理解 4 数量や図形についての知識・理解 数量や図形などについての知識・理解 数量や図形などについての知識・理解 「観点別評価」と「評定」の関係 ☆「観点別評価」が主、「評定」は従である。 ポ 「3 イ ン ト なぜ観点別学習状況が重視されているの か」で述べたように、現行の学習指導要領では、 副次的 観点別学習状況による評価が重視されています。 評定 よって 、「観点別学習状況」を主とした評価を行 い、数値による「評定」はあくまで副次的なもの と捉えることが大切です。つまり、まず「観点別 評価」を行い、それに基づいて「評定」を行うこ × 主 ○ 観点別評価 とになります 。「観点別評価」と「評定」を行う 順序が反対にならないように注意しましょう。 5 評価規準とは ☆「評価規準」について、「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料【小学 校算数】【中学校数学】」に次のような記述がある。 ・「 学習指導のねらいが児童・生徒の学習状況として実現されたというのは、どのような状 態になっているかが具体的に想定されている必要がある。このような状況を具体的に示し たものが評価規準であり、各学校において設定するものである。【 ( 小学校算数】【中学校 数学】」p7) ポ イ ン ト 「評価規準」は、児童・生徒が当該の学習場面で目指す状態であり、B(おおむね満足 できる)の状況を表します。評価規準を具体的に設定しておくことは、学習指導要領の目 標や内容に基づく指導を行う上で不可欠なことです。「評価規準の作成、評価方法等の工 -2- 夫改善のための参考資料」等を参考にしながら、各学校で学年、領域、単元等に応じた評 価規準を作成することが求められています。 6 「評価規準」と「評価基準」の違い ☆「評価規準」・・・B(おおむね満足できる)の状況 ☆「評価基準」・・・A(十分満足できる)・B(おおむね満足できる)・C(努力を要する)の 状況を判断する判定基準 ポ イ ン ト 例えば・・・ ◇評価基準 ◇題材 「連立方程式を加減法で解く」 授業の残り5分間で小テストを行い、 (1)を加減法で正しく解ければB、 (1)(2)を加減法で正しく解ければAとする。 ◇評価規準 「加減法を用いて連立方程式を 解くことができる。」(技能) (1) 3x+y=4 x+y=-5 (2) 3x-7y=2 5x-9y=14 中学校2年で指導する「連立方程式を加減法で解く」学習場面を例に考えてみます。 「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料【中学校数学】」に、技能の 観点の評価規準が「加減法を用いて連立方程式を解くことができる。」と記載されていま す。これが、B(おおむね満足できる)の状況となります。学習指導案に書く目標や評価 に当たる部分では、これに類する文言が記載されることになります。しかし、これだけで は実際に評価する場面で、A(十分満足できる )・B(おおむね満足できる)・C(努力 を要する)を判断することができません。そこで、より具体的に「こういうあらわれだっ たらBで、こういうあらわれだったらA」という判定基準を設けておく必要があります。 これを「評価基準」と考えます。C(努力を要する)については、B(おおむね満足でき る)に達していない状況と考えればよいので、C(努力を要する)の評価基準を設定する 必要はありません。 7 観点別評価をどのように行うか ☆学習指導要領を踏まえ、算数・数学科の特質に応じた評価の観点及びその趣旨は以下のと おりである。 【小学校算数】 算数への 関心・意欲・態度 数理的な事象に関 数学的な考え方 数量や図形について の技能 数量や図形について の知識・理解 日常の事象を数理 数量や図形について 数量や図形について -3- 心をもつとともに、 算数的活動の楽し さや数理的な処理 のよさに気付き、 進んで生活や学習 に活用しようとす る。 的 に と ら え 、 見 通 の数学的な表現や処 し を も ち 筋 道 立 て 理にかかわる技能を て考え表現したり、 身に付けている。 そのことから考え を深めたりするな ど、数学的な考え 方の基礎を身に付 けている。 の豊かな感覚をも ち、それらの意味や 性質などについて理 解している。 【中学校数学】 数学への 関心・意欲・態度 数学的な 見方や考え方 数学的な事象に関 心をもつとともに、 数学的活動の楽し さや数学のよさを 実感し、数学を活 用して考えたり判 断したりしようと する。 事象を数学的にと らえて論理的に考 察し表現したり、 その過程を振り返 って考えを深めた りするなど、数学 的な見方や考え方 を身に付けている。 数学的な技能 事象を数量や図形な どで数学的に表現し 処理する技能を身に 付けている。 数量や図形などに ついての知識・理解 数量や図形などに関 する基礎的な概念や 原理・法則などにつ いて理解し、知識を 身に付けている。 ☆各観点の特質に応じて評価を行うことが大切である。以下、「評価規準の作成、評価方法等 の工夫改善のための参考資料【小学校算数】【中学校数学 】」に記載されている各観点の留 意事項を取り上げる。 関心・意欲・態度 ・「生徒の挙手の回数などだけを数えるよりも、学習している数学に対する関心・意欲・態 度を捉えることが大切である。」【 ( 中学校数学】p54) ・「「 おおむね満足できる」状況としては 、「同じ数を○などで囲もうとしている」「乗って いる人の数が同じかどうかを確かめている」「□個ずつ、幾つ分などの言葉を用いて説明 しようとしている」「かけ算を用いて説明しようとしている」などの状況が考えられる。 特に学習活動の観察によって評価を行う場合にこのような具体的な児童の姿を想定してお くことは、評価を適切に行う上で有効である。」【 ( 小学校算数】p91) ポ イ ン ト 「関心・意欲・態度」の観点は、算数・数学の学習に即した関心や意欲、学習への態度 等を対象とします。挙手の回数や提出物の状況など表面的な状況のみで評価することがな いように留意しましょう。 数学的な(見方や)考え方 ・( 400÷2.5の計算の仕方を考える場面で )「個人解決における「数学的な考え方」を評価 する方法としては学習活動の観察が有効と考えられる。具体的にはノートに書いている様 -4- 子を観察する。しかし、限られた個人解決の時間の中で、児童全員のノート記述を分析し、 評価を行うことができるとは限らない。そこで、幾つかの工夫が考えられる。一つは、こ の個人解決の場面で表れるであろう児童の様子を前もって想定し、学習状況に応じて指導 することに重点を置くことである。例えば、本事例の場合は、「2.5は0.1が25個という考 えを用いているか」「25mの長さを基に考えているか 」「除法に関して成り立つ性質を用 いて考えているか」「図を活用して考えているか 」「言葉や式を書いているか」などであ る。また、授業終了時にノートを回収し、・・・」【 ( 小学校算数】p85) ポ イ ン ト 「数学的な(見方や)考え方」の観点は、「思考力・判断力・表現力」を評価するもの であり、表出された結果のみならず過程におけるあらわれを適切に評価することが大切で す。(ペーパーテストによる評価も大切ですが、それのみで行うことがないようにしたい ものです 。)また 、「表現」については、基礎的・基本的な知識・技能を活用しつつ、各 教科の内容に即して考えたり、判断したりしたことを、児童・生徒の説明・論述・討論な どの言語活動等を通じて評価することに留意しましょう。 技能 ・「ペーパーテストなどで、全生徒を一斉に評価することが考えられる。本観点においては、 二次方程式を解くことの技能の評価が中心になるが、「○問中、□問正答できればおおむ ね満足」というように量的に評価するのではなく、問題の難易度を工夫するなど質的に評 価する必要がある。」【 ( 中学校数学】p56) ポ イ ン ト 「技能」の観点は、「できるか、できないか」がはっきりと分かりやすいため、小テス トや単元末テストなどのペーパーテストの結果を中心に評価する方法が考えられます。た だし、A(十分満足できる )、B(おおむね満足できる )、C(努力を要する)を判断す る際は、量的に見るのではなく、質的に見ることが大切です。 知識・理解 ・「ペーパーテストなどで、全生徒を一斉に評価することが考えられる。本観点においては、 用語や記号などの意味を理解しているかどうかの評価だけでなく、作図の方法や問題を解 決する手順などの評価も含まれることに注意する必要がある。」【 ( 中学校数学】p56) ポ イ ン ト 「知識・理解」の観点は、「理解できているか、いないか」がはっきりと分かりやすい ため、小テストや単元末テストなどのペーパーテストなどの結果を中心に評価する方法が 考えられます。 8 単元における評価をどのように行うか ☆単元における評価について、 「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料【小 学校算数】【中学校数学】」に次のような記述がある。 ・「 ある単元(題材)において、あまりにも多くの評価規準を設定したり、多くの評価方法 を組み合わせたりすることは、評価を行うこと自体が大きな負担となり、その結果を後の -5- 学習指導の改善に生かすことも十分できなくなるおそれがある。例えば、1単位時間の中 で4つの観点全てについて評価規準を設定し、その全てを評価し学習指導の改善に生かし ていくことは現実的には困難であると考えられる。」【 ( 小学校算数】p14) ・「毎時間で全ての児童に対して四つの観点全てにわたって評価資料をとるのは、現実的で はなく、また必ずそうしなければならないわけではない。そこで、単元の目標を分析して、 各時間のねらいにふさわしい1~2観点に評価項目を精選し、・・・」【 ( 小学校算数】p73) ・「 一つの学習活動においても、学習の目標に応じ、「知識・理解」や「技能」の観点で評 価を行うことも、「数学的な考え方」の観点で評価を行うことも可能であるが、学習活動 を通じて児童に身に付けさせようとしている資質や能力に対応して学習評価を行うことが 重要であり、そのための評価規準を適切に設定する必要がある。」【 ( 小学校算数】p69) ポ イ ン ト 例えば右の例のように、ある児童・生徒に対して、毎時 間4観点全てで評価を行うことは適切ではありません。評 時 関 考 技 知 1 A C B A B B B A A C C B C C A B B C A A C B C B B C A B B B B A A B B A 10 B C B A 総括 B C B A 2 価を行うことが大きな負担となり、本来あるべき指導が十 3 分に行えなくなるのでは本末転倒です。そこで、1時間で 4 行う評価の観点を1~2観点に絞ることが考えられます。 5 6 ただし、評価の観点が単元の目標や本時の目標から外れた 7 ものにならないように、最も適切な観点を設定することに 8 留意することが大切です。そういった点からも、適切な評 価規準を設定することが求められます。 9 × ・「 4つの観点を同じ方法で総括することは必ずしも必要ではなく、むしろそれぞれの観点 の特性に配慮して総括の方法を定めることが適当である。例えば、「数学への関心・意欲 ・態度」については、学習とともに生徒の数学に対する関心や授業に取り組む意欲、その 成果を生かそうとする態度が高まってくると考えられることや、今後の学習への動機付け などに配慮すると「ウ 単元の後半の評価を重視する方法」を取り入れることが考えられ る。」【 ( 中学校数学】p58) ・「 生徒の学習の状況は指導とともに変化するものである。特に「数学的な技能」や「数量 や図形などについての知識・理解」については、最初に評価した段階では課題があっても、 その後の学習を通じて単元の終盤までに改善が見られる場合もある。こうした生徒の変化 を把握するため、単元末テストや定期テストの結果などを参考にして、これまでの評価結 果を適宜補正し、観点別評価の単元における総括の資料とすることも考えられる。」【 ( 中 学校数学】p58) ポ イ ン ト 4観点にはそれぞれの特質があるため、総括の方法についても4観点を一律に同じ 方法で行う必要はありません。各観点の特質を踏まえて最も適切な方法で行うことが 大切です。また、単元末テストの扱いについては、それぞれの授業で行う評価を補う ものとして適切に位置付けたいものです。ただし、単元末テストをどの程度の割合で 単元の評価に反映させるかについては、評価の妥当性・信頼性の視点から十分に検討 する必要があります。 -6- 単元における評価方法(例) 単元における総括の方法(例) ア 数値で表して合計や平均値などを用いる方法 (A=3、B=2、C=1として・・・) 関 1 考 技 B 2 3 A B2回、C1回 だから・・・ 4 イ 一番多い評価を用いる方法 (Aが3回、Bが2回、Cが0回なら・・・) 5 6 C 7 B 後半重視 8 ウ 単元の後半の評価を重視する方法 (C→B→B→B→Aなら・・・) 9 知 B A 9 A B 重み付け A 単元末テストを実施し、 本単元の総括評価を 微調整する。 B B A 10 総括 B B 本単元の最終総括評価 B B A A A B 評定はどのように行うか ☆評定について、「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料【小学校算数】 【中学校数学】」に次のような記述がある。 ・「 小学校については 、「AAAA」であれば3、「BBBB」であれば2、「CCCC」で あれば1とするのが適当であると考えられる。それ以外の場合は、各観点のA、B、Cの 数の組合せから適切に評定する必要がある。なお、観点別学習状況の評価結果はA、B、 Cなどで表されるが、そこで表された学習の実現状況には幅があるため、機械的に評定を 算出することは適当ではない場合も予想される。」【 ( 小学校算数】p17) ・「 中学校については 、「AAAA」であれば4又は5、「BBBB」であれば3、「CCC C」であれば2又は1とするのが適当であると考えられる。それ以外の場合は、各観点の A、B、Cの数の組合せから適切に評定する必要がある。なお、観点別学習状況の評価結 果はA、B、Cなどで表されるが、そこで表された学習の実現状況には幅があるため、機 械的に評定を算出することは適当ではない場合も予想される。」【 ( 中学校数学】p17) ・「どのような評価規準、評価方法により評価を行ったのかといった情報を保護者や児童・ 生徒に分かりやすく説明し、共通理解を図ることが重要となる。」【 ( 小学校算数】p13【中 学校数学】p13) ポ イ ン ト 評定を行う際に起こりうる問題点の例を下に挙げました。こうした問題に対応する ためには、どのような評価規準や評価方法によって評価を行ったのかを保護者や児童 ・生徒に説明することで共通理解を図り、説明責任を果たすことが大切です。 起こり得る問題点 例 起こり得る問題点 例 太郎君は、AAAAで「4」と評定した。 花子さんは、AAABで「5」と評定した。 校内で、評価と評定の相関図を作成し、それに 基づいて評定した。 例 AAAA=5 AAAB=4 ◎逆転現象が起こらない。 ◎子どもにも保護者にも AABB=4 分かりやすい。 ABBB=3 ▲「幅」に配慮できない。 BBBB=3 ・・・ ・太郎君はオールAで「4」に納得がいかない。 「何を頑張れば5になるのだろう???」 ・評定した先生自身も、2人の評価と評定に逆 転現象が起こっていることに違和感が・・・。 -7-