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高等学校における 観点別評価について

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高等学校における 観点別評価について
SPECIAL EDITION
観点別評価
課題となっていくと思われる。
本稿では,指導要録の改訂の元となった教育
高等学校における
観点別評価について
課程審議会の答申等から調べるてみることによ
って,今後観点別評価がどのようになっていく
のかについて,まずまとめてみたい。次に,調
べていく中で疑問に感じた点について報告をし
大西 俊弘
たい。
奈良女子大学文学部附属
2 「評価」について
中等教育学校教諭
専攻 数学教育・教育工学
(1)高校教師の特殊性
趣味 登山・散策
大型書店の教育書コーナーに行くと,小学校
や中学校の教員向けの教育書は数多く並んでい
1 はじめに
るが,高等学校の教員向けのものは数が少ない。
学習指導要領・指導法・評価論関係の書籍に関
私は 20 年近く京都府の公立高等学校に勤務
した後,3年前に現在の勤務校(中高一貫6年
しては,特にその傾向が強いように思われる。
制の学校)に異動した。赴任した年から,前期
専門教科の内容には興味があるが指導法や評価
課程生(中学生)も教えることになったが,中
論については関心が薄い方が,高等学校の教員
学校の教材等について勉強不足の面もあり,戸
には多いといえるのではないだろうか。
したがって,平均的な高等学校の教師は(小
惑いや失敗がいくつかあった。その「戸惑い」
の1つが「観点別評価」であった。言葉だけは
学校・中学校中心の)教育界で評価に関して常
知っていたが,内容はよく知らず,初年度はど
識となっているような事柄をあまり知らない
のように評価を付けるのか不安で仕方がなかっ
(または常識とはなっていない)ということが
起こりうる。この点を十分に認識しておかない
たことを覚えている。
以前の私をも含めて,高等学校の一般的な教
と,教育課程審議会等の答申を読んでもよく分
員が,観点別評価に触れる機会は,高校入試に
からなかったり,議論が噛み合わないので注意
おいて中学校から送られてくる調査書(内申書)
が必要である。そこで,本稿では「評価」とい
を整理する場合ぐらいのものであろう。しかし,
う言葉の定義から入り,用語の共通理解をして
調査書に観点別の評価が記載されていても,そ
から議論を進めたい。
(2)高校教師にとっての「評価」
れを合否判定の直接的な資料にしている学校は
高等学校の先生方に,
「評価」や「評価活動」
ほとんどなかったのが実情であり,観点別評価
は高等学校の現場では,それほど重要視はされ
のイメージを尋ねると,次のような回答される
てこなかったといえる。
方が多いのではないだろうか。
しかし,新学習指導要領の実施に伴い,指導
①「評価」=「評定」
要録の様式や評価の観点も改訂され,観点別評
②学期末や年度末にのみ行う作業
価・絶対評価の考えがより強く押し出されるよ
③定期考査の得点を重視
うになった。今後は,高等学校においても観点
【表1】高校教師の「評価」観
別評価をどのように実施していくかが,大きな
2
SPECIAL EDITION
観点別評価
いわゆる「座学」の教科ほど,上記の③の支
「終末での評価」と「過程での評価」は,ど
持者が多いであろう。提出物や小テストも加味
ちらも大切なものであるが,【表1】の高校教
はするが,それらを中心に評価をしようとは考
師の「評価」観は,高等学校の現場での「終末
えていないわけである。
での評価」偏重に由来しているといえる。高等
極論すれば,多くの高等学校では,通知票を
学校でも今後は,「過程での評価」をより多く
作成する一連の作業が評価活動であると認識さ
取り入れることが求められていくであろう。
れている。評価の対象はあくまで生徒であり,
また,教育活動には達成目標があり,その実
評価の時期は学期末(年度末)であり,知識・
現に向かって教育活動が正しく行われているの
技能の習得量(や質)で主に判定しているとい
かチェックするのが教育評価であるという認識
える。
も,教育界では広く共有されている。このこと
(3)教育界での「評価」
は,下図のように図式化して,英語の3つの頭
それに対して,教育課程審議会答申や教育学
文字を用いて,
「PDS」と表現されることが多い。
の文献では,もっと広い意味で「評価」という
Plan(計画)
言葉が使われている。
↓
まず,学校教育における評価の目的は,次の
Do (実践)
ようにまとめられることが多い。
Feedback
↓
教師にとって
See (評価)
①授業計画の確認・調整
【表4】教育における「PDS」
②理解が遅い生徒の早期発見
→必要な手だてを講じる
すなわち,「評価」は授業実践と対になるも
③カリキュラムや指導法の検証・改善
のであり,学期末だけでなく日常的に行われ,
評価の結果は授業計画の作成にすぐにフィード
生徒にとって
バックされるべきものであると考えられている。
①学習活動の反省と改善
また,評価される対象も,生徒だけでなく,教
【表2】教育評価の目的
師やカリキュラム自体も含まれている。
これに対して,「評定」を付けるとは,観察
(1)
やテストの結果を基に,あらかじめ設定した基
また,石田恒好氏 によると,教育における
準に従って点数や記号等をつけることと定義さ
評価には次の2つの側面があるという。
れる。
①学習の過程での評価
したがって,「評価」=「評定」では決して
→確認と調整を重視
ない。高等学校の教員は,この点を深く認識し
ておく必要がある。
②終末(学期末)での評価
→反省と改善を重視
【表3】教育評価の2つの側面
3
の基本的な考え方」として5点を挙げている。
3 観点別評価
答申の要点をまとめてみると,次のようになる。
(1)観点別評価とは
(1)
「学力」とは
観点別評価とは,教科の教育目標を基本とな
基礎的・基本的な内容の習得
{
る4つの領域に分類してとらえ,各領域の達成
学力
度を評価しようとする考え方である。この領域
「生きる力」
(2)今後の「評価」の方向性
を「観点」という。
①目標に準拠した評価 (絶対評価)
1 関心・意欲・態度
学習指導要領に示されている目標に照らし
2 思考・判断
てその実現状況をみる評価
3 技能・表現
②個人内評価
4 知識・理解
個々の生徒のよい点や可能性,進歩の状況
【表5】観点別評価の4つの観点
などの評価
(3)
「評価」と「指導」の関係
(2)評価規準とは
①指導と評価の一体化
「関心・意欲・態度」など,数量的な評価が
→
計画
(PLAN)→実践
(DO)→評価
(SEE)
なじみにくい観点を評価するためには,具体的
な「評価規準」を定め,観察法や質問紙法など
②評価に関する説明責任
を用いる工夫が必要になる。
生徒・保護者へ評価の説明→学習の改善
「評価規準」は,耳慣れない言葉であるが,
(4)評価方法の工夫改善
「評価基準」と混同しやすいので注意が必要で
①評価の種類
ある。両者は,次のように定義される。
総括的な評価のみ
→分析的な評価,記述的な評価も
評価規準:criterion(クライテリオン)
②評価を行う場面
「∼ができる」
「∼が分かっている」と 学習の結果のみ
いうように,質的に設定された目標。
→学習前や学習過程における評価も
教育目標に照らして,学習の成果を質的 ③評価の時期
にとらえたもの。
学期末や学年末のみ
評価基準:standard(スタンダード)
→単元ごと,時間ごとの評価も
「80点以上はA」
,
「60点以上は合格」
④具体的な評価の方法
というように,数量的な到達目標。
ペーパーテストのみ
学習の成果を数量的にとらえたもの。
→観察,面接,質問紙,作品,ノート,
【表6】評価規準と評価基準
レポート,自己評価,相互評価等も
(5)学校全体の取り組みの重要性
4 教育課程審議会答申の評価観
①教員間の共通理解が不可欠
②校内研究・研修の重要性
教育課程審議会答申(2)では,
「これからの評価
4
SPECIAL EDITION
観点別評価
③観点別学習状況と評定関係
5 新しい指導要録での(評価)
「観点別学習状況」・「評定」がともに目標
(2)
に準拠した評価(絶対評価)となったことによ
教育課程審議会答申 では,指導要録の様式
り,両者の性格の違いは,次のように説明され
についても具体的に答申している。
ている。
(1)小・中学校の指導要録
観点別学習状況……分析的な評価
①観点別学習状況
評定…………………総括的な評価
平成3年改訂の指導要録では,
「観点別学習状
況」の評価が新設され,目標に準拠した評価
また,観点別学習状況の評価を,どのように
(絶対評価)への転換をはかられた。今回の改
評定に総括するかの具体的な方法等については,
各学校で工夫することになっている。
訂でも,4つの観点により目標実現の状況を3
段階で評価することは,ほぼそのまま維持され
改訂年度 観点別学習状況
た。数学科における4つの観点は以下のとおり
昭和55年
である。
なし
4つの観点によ
数学への関心・意欲・態度
平成3年
数学的な見方や考え方
り3段階で評価
(絶対評価)
数学的な表現・処理
評 定
集団に準拠した
評価(相対評価)
集団に準拠した
評価(相対評価)
4つの観点によ
数量,図形などについての知識・理解
目標に準拠した
平成13年 り3段階で評価
評価(相対評価)
(絶対評価)
【表7】数学科における4つの観点
【表9】小中学校の指導要録の変遷
②評定
昭和55年改訂の指導要録までは,集団に準拠
(2)高等学校の指導要録
した評価(相対評価)のみであった。平成3年
①評定
改訂の指導要録でも,「評定」は観点別学習状
基本的に現状維持であるが,教育課程審議会
況の評価を補完するものであるとされ,集団に
答申(2)では,4つの観点を十分に踏まえながら
準拠した評価(相対評価)のままであった。し
評定を付けることを求めており,評価規準の研
かし,今回の改訂では,平成3年改訂の指導要
究開発も促している。
録の考え方を更に発展させ,評定についても目
②観点別学習状況
標に準拠した評価(絶対評価)に改められた。
教育課程審議会答申(2)や「指導要録の改善等
評定の段階については,現行と同じで変更はな
に関する通知」(3)で例示された高等学校の指導
い。
要録の「参考様式」には,観点別評価を記入す
小学校1・2年…………評定は行わない
る欄は設定されていない。その意味では,従来
{
小学校3年以上…………3段階 絶対
中学校の必修教科………5段階
評価
中学校の選択教科………3段階 通りである。
しかしながら,「答申」・「通知」のどちら
においても,観点別評価を重視する姿勢が強く
打ち出されている。特に「通知」では,「別添
【表8】小・中学校の評定
5
このうち,大変なのは③∼⑥である。⑤⑥に
3」として「各教科の評価の観点及びその趣旨」
が新設され,各教科の評価の観点とその趣旨が
ついては,次に具体例を示し,③④に関しては
列挙されている。その内,数学に関する部
次節で述べることにする。
(2)観点別学習状況の評価と評定の関係
分を抜粋すると以下のようになる。
観 点
関心・意欲
・態度
上記の⑤⑥の作業を詳しく述べると,次のよ
趣 旨
数学的活動を通して,数学の論
うになる。
理や体系に関心をもつとともに
ア 単元ごとに,「関心・意欲・態度」「思考・
数学的な見方や考え方のよさを
判断」「技能・表現」「知識・理解」の4つ
認識し,それらを事象の考察に
の観点にそって,ABCの3段階で評価を
極的に活用しようとする。
する。
イ 単元ごとの評価を積み上げ,年間を通じて
数学的活動を通して,数学的な
数学的な見
方や考え方
表現・処理
知識・理解
の,観点ごとの評価をまとめる。
見方や考え方を身に付け,事象
ウ 4観点のABCの数をもとに,5段階の評
を数学的にとらえ,論理的に考
定を付ける。
えるとともに思考の過程を振り
返り多面的・発展的に考える。
観点別評価を付ける元となるデータ(小テス
事象を数学的に考察し,表現し
ト,レポート,自己評価等々)が多ければ多い
処理する仕方や推論の方法を身
ほど,この作業は大変な作業となる。また,テ
に付け,よりよく問題を解決す
ストの点数・行動観察記録・自己評価といった
る。
性質が全く異なるものを,どのようにして扱う
数学における基本的な概念,原
のかという問題もある。
教育課程審議会答申(2)・「指導要録の改善等
理・法則,用語・記号などを理
(3)
に関する通知」
のどちらにおいても,その具
解し,知識を身に付けている。
体的な方策は述べられていない。現場の創意工
【表10】数学科の4つの観点の趣旨
夫に任されているわけであるが,ここが一番頭
を悩ませるところになると思われる。
6 評価の具体的な方法
⑤⑥の作業の一例を次に挙げる。これは,あ
くまで単純な例である。実際の評価の場面では,
(1)評価活動の手順
もっと複雑な計算・考察が必要になるであろう。
1年間の評価活動を行う手順の1例を挙げる
ア 単元材ごとに行った観点別の評価を数値に
と次のようになる。
置き換え,観点別に平均点を算出する。
①評価に関する共通理解
<例> A=3点,B=2点,C=1点
②教科の目標と評価の観点の共通理解
イ アで求めた平均値をもとに,観点別学習状
③各学年・各単元ごとの評価規準の設定
況の評価の総括評価(学期末・学年末の評
④指導・評価計画の作成,評価方法の決定
価)を,次の換算表を用いて行う。
⑤観点別学習状況の評価
⑥評定
【表11】評価活動の手順
6
SPECIAL EDITION
観点別評価
<例> 各観点の平均値 総括評価 2.51∼3.00
A
1.51∼2.50
B
1.00∼1.50
C
③章ごとの目標の確認
章(学習指導要領のまとまり)ごとの目標
④章ごとの評価規準の作成
章ごとに4つの観点別に示した評価規準 ⑤節ごとの目標の確認
【表12】総括評価換算表
節(単元)ごとの目標
ウ 観点別評価の総括に用いた4つの平均値の
⑥節ごとの評価規準の作成
平均値を求め,5段階評定を算出する。
節ごとに4つの観点別に示した評価規準 <例> 4つの観点の平均値 5段階評定 2.61∼3.00
5
2.16∼2.60
4
1.86∼2.15
3
1.41∼1.85
2
1.00∼1.40
1
で②を節の内容に即して具体化したもの ⑦各授業ごとの指導と評価の計画の作成
各授業時間ごとに③に基づく具体的な評 価規準と評価の方法を示したもの。
【表14】評価規準作成の手順
(2)評価規準の具体例
【表13】5段階評定換算表
【表14】の手順に従って評価規準を作成する
7 評価規準の作成
具体例を,上記の資料(5)から引用する。
①「数学Ⅰ」の目標(指導要領より)
(1)評価規準作成の手順
小学校・中学校の評価規準に関しては,国立
方程式と不等式,二次関数及び図形と計量 教育政策研究所から報告書(4)が出ており,詳細
について理解させ,基礎的な知識の習得と な具体例が示されている。また,都道府県の教
技能の習熟を図り,それらを的確に活用す 育委員会・教育センターや,教科書会社のHP上
る能力を伸ばすとともに,数学的な見方や にも多数の評価規準の例が掲載されている。
考え方のよさを認識できるようにする。
②「数学Ⅰ」の評価の観点とその趣旨
しかし,高等学校に関する評価規準の研究成
果は,2003年3月現在ではほとんど発表されて
観 点
いない。私が調査した中で見つけることができ
されている資料のみである。この「指導と評価
数学的活動を通して,方程式と不等
関心・ 式,二次関数及び図形と計量におけ
意欲・ る考え方に関心をもつとともに,数
の年間計画・評価規準の作成のための参考資
態度
たのは,岐阜県総合教育センターのHP上で公開
趣 旨
学的な見方や考え方のよさを認識し,
料」 によると,評価規準の作成の手順は以下
それらを事象の考察に活用しようと
のようになる。
(表現は一部改変した)
する
(5)
数学的活動を通して,方程式と不等
①科目の目標の確認
数学的 式,二次関数及び図形と計量におけ
学習指導要領より
な見方 る数学的な見方や考え方を身に付け,
②科目の評価の観点及びその趣旨の作成
や考え 事象を数学的にとらえ,論理的に考
新学習指導要領及び指導要録改善通知に 方
示された当該教科の評価の観点及びその えるとともに思考の過程を振り返り
多面的・発展的に考える。
趣旨をもとに作成
7
表現・
処理
方程式と不等式,二次関数及び図形
化を考察し,関数の最大値・最小値を求め と計量において,事象を数学的に考
ることができるようにするとともに,関数 察し,表現し処理する仕方や推論の
を用いて数量の変化を表現することの有用 方法を身に付け,的確に問題を解決
性を認識できるようにし,それらを具体的 する。
事象の考察に活用できるようにする。
方程式と不等式,二次関数及び図形
⑥「二次関数の最大・最小」評価の観点と趣旨
知識・ と計量における基本的な概念,原理
観 点
・法則,用語・記号などを理解し,
理解
趣 旨
・二次関数の値の増加・減少につい
基礎的な知識を身に付けている。
関心・ てグラフを用いて捉えようとす
意欲・ る。
【表15】数学Ⅰの評価の観点
③「二次関数」の章の目標(指導要領より)
態度
・具体的な事象の考察に二次関数の
二次関数について理解し,関数を用いて数 最大・最小の考えを活用しようと
量の変化を表現することの有用性を認識す する。
るとともに,それを具体的な事象の考察や ・二次関数の値の増加・減少につい
二次不等式を解くことなどに活用できるよ 数学的
うにする。
な見方
④「二次関数」の章の評価の観点とその趣旨
観 点
趣 旨
や考え
方
二次関数とそのグラフや値の変化に
て,グラフを用いて考察すること
ができる。
・具体的な事象の中に,二次の関数
関係を見出し,式表現することに
よって,最大・最小について考察
関心・ 関心をもつとともに,関数を用いて
意欲・ 数量の変化を表現することの有用性
することができる。
態度
を認識し,二次関数を活用しようと
数 y = ax 2+ bx + c の最大値または最
する。
小値をグラフを用いて求めること
・定義域が実数全体のとき,二次関
数学的 関数的な見方や考え方を身に付け,
ができる。
な見方 具体的な事象について,関数を用い
・定義域が制限された二次関数の最
や考え て考察することができる。
表現・ 大値・最小値を求めることができ
方
処理
表現・
処理
知識・
理解
る。
関数を用いて数量の変化を表現し,
・具体的な事象の中に二次の関数関
そのグラフを用いて,関数の値の変
係を見出し,式表現することがで
化を調べることができる。
きる。
二次関数とそのグラフ及び関数の値
・変数のとる範囲に注意して,最大
の変化について理解し,基礎的な知
値・最小値を求めることができ
る。
識を身に付けている。
知識・ ・二次関数の最大値・最小値の意味
【表16】二次関数の評価の観点 理解
⑤「二次関数の最大・最小」の節の目標
を理解している。
【表17】二次関数の最大・最小の評価の観点
二次関数のグラフを通して,関数の値の変 8
SPECIAL EDITION
観点別評価
⑦各授業時間ごとの内容と評価の観点・方法
【第1時間目】
【第4時間目】
○二次関数の最大・最小
○最大・最小の応用
・二次関数 y =ax +bx+c の値の変化 ・具体的な事象の中に,二次の関数 2
主な学
習内容
について,グラフを利用して捉え 主な学
2次の係数が正のとき最小値が存 習内容
在し,負のとき最大値が存在する 表現することを考える。
・具体的な事象の考察に,二次関数 の最大・最小の考え方を用いて, ・最小値を求める。
最大値や最小値を求める。
「幅が 20cmのトタン板がある。両 もとに最大値・最小値の意味を振 端から同じ長さだけ折り曲げて,断 り返る。
面が長方形の雨樋を作るとき,流れ ○二次関数 y=2 x 2−4x+4,
る流量を最大にするにはどのように y=−x −6x−4のグラフをかき,関
折り曲げるか。」を取り扱い,二次 数の値の増加減少について調べ,
関数の最大・最小の考えを用いて, 2
主な学 最大値・最小値を求める。
流量が最大になる場合の折り曲げ方 習活動 ・二次関数の値の増加・減少につい 主な学
・評価 てグラフを利用して捉えることが 習活動
の観点 できる。【数学的な見方・考え方】 ・二次関数 y=ax 2+bx+cの最大値
・評価
の観点
または最小値をグラフをかくこと 方法
関係を見出し,二次関数を用いて ことを理解し,二次関数の最大値 ○一次関数 y=2x−1( −2≦x≦3)を
評価の
を考察する。
・教具を活用して最大になるのは, どのような場合か意欲的に見出そ うとする。
【関心・意欲・態度】
・関数関係を文字や記号を用いて表 によって求めることができる。 現できる。(数学化)
【表現・処理】 【数学的な見方や考え方】 ・最大値・最小値の意味を理解して 【表現・処理】 いる。 【知識・理解】 ・二次関数として表現した式をグラ ・机間指導により,最大値・最小値 フに表現し,定義域に注意をして の意味を理解しているかを把握す 最大値を求めることができる。 る。
【表現処理】 ・2つのグラフを対比させ,関数の ・教具を活用して予想した結果発表 値の増減について,どのようなこ ・「最大になる場合を求めるには, とがいえるのかを発表させる。 数学的にどのように考えればよい 評価の か」を発問し,その反応をみる。 ・行動観察
方法
・数学化した後の一人一人の問題解 決を机間指導により観察する。 (中略)
・応用課題として,断面が台形の場 合について,レポート提出する。
9
点のどれに該当するかが記載されている。小学
8 疑問点・問題点
校等では,かなり作問のノウハウが蓄積されて
(1) 「関心・意欲・態度」の評価方法
いるようである。高等学校においてもノウハウ
の蓄積が急務である。
「関心・意欲・態度」の評価には,教員の主
(4)授業をしながらの評価
観が入りやすいとしばしば指摘される。
私は,教員間で十分に意思疎通をはかり,評
授業中に生徒の様子を観察し,評価していく
価規準をきちんと作れば,ある程度客観的な評
ことが推奨されている。目立つ生徒や指名して
価はできると考えている。しかし,現場の教師
答えさせた生徒に関しては可能であるが,1ク
は仕事に追われているので,十分な意思疎通を
ラス全員を4つの観点にわたって毎時間観察す
はかる時間を確保しにくい現実がある。
ることは不可能である。このような疑問・反論
また,目立たない生徒や自己表現が下手な生
に対して,「今日はこの1列だけと決めて評価
徒の「内に秘めた意欲や関心」を,観察法やレ
すればよい」・「今日はこの観点のみ評価する
ポートだけで見抜くのは,困難であり,質問紙
と決めればよい」・「座席表形式の補助簿を作
やテストとの併用が必要である。私の娘が小学
って書き込むとよい」といった回答がなされる
校時代に,社会科のテストを受けて「関心・意
ことが多い。1年間この作業を繰り返せば,全
欲・態度」を問う設問を1つだけ間違えたこと
ての生徒について全ての観点で評価ができると
があった。そのため,大の社会科好きであるに
いうわけである。この回答に何となく違和感を
も拘わらず,社会科の観点別評価で「関心・意
感じるのは私だけであろうか。
欲・態度」の欄に「C」が付いたことがある。
授業というものを,野球の打撃練習に例えて
そのような機械的な評価だけは避けたいもので
みたい。打撃投手(教師)は,打者(生徒)の
ある。
打撃の調子(学力)を上げるのが仕事である。
(2)
「観点別学習状況の評価」と「評定」の関係
不振の打者には,打ちやすいボールを投げて自
本稿の5の(2)で示したように,観点別学
信を回復させ,強打者の場合には,速球を厳し
習状況を評定に直す作業はかなり大変である。
いコースに投げることも必要になる。打者(生
また,理念が明確でないと混乱する可能性もあ
徒)の特徴や得意なコースを事前に把握してお
る。例えば,「関心・意欲・態度」だけがAで,
くことは,打撃投手(教師)にとって,必要な
あとの3つはすべてCである生徒と,その逆の
ことである。また,打席(教室)での様子を観
生徒がいた場合どちらの評定が良いことになる
察することによって,その日の調子を見抜くこ
のだろうか。
とも大切である。すなわち,打撃投手(教師)
(3)4つの観点を活かした作問
にとって,観察能力は必須である。しかし,打
小テストや定期考査の作問においても,今ま
撃投手(教師)はあくまで投球(授業)が本業
で以上に出題意図(4つの観点の何を評価しよ
であって,投球の途中で記録を付けたりするべ
うとしているのか)を明確にする必要がある。
きではない。打撃投手(教師)は,特徴的な出
理屈では何となく分かっても,いざ作問となる
来事を覚えておくにとどめ,練習(授業)後に
と戸惑うことが多いのではないか。
簡単な記録を残す程度で十分なのではないか。
小学校では,教材業者作成のテストが花盛り
ノートに打撃練習の詳細な記録を付けたりする
であるが,それらを見ると問題ごとに4つの観
のは,スコアラーなどの専門家に任せるべきで
10
SPECIAL EDITION
観点別評価
あると私は考える。観点別評価の実践例の多く
は,教師に授業者としての役割と評価者として
の役割を負わしているが,授業中の教師の本務
は教えることであることを再確認しておきたい。
「評価のための評価」に明け暮れたり,授業が
参考引用文献・WEB
おろそかになっては本末転倒であろう。
(1)石田恒好 「新教育課程における評価の課
9 おわりに
題(1)評価の目的と評価・評定のちがい」
「指導と評価」2000 年4月号 図書文化
新しい高等学校の指導要録の様式の中に,観
点別学習状況を記入する欄は新設されなかった。
(2)「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の
評価の在り方について」
そのため,観点別評価にすぐに取り組まなけれ
教育課程審議会答申 平成 12 年 12 月
ばならない状況ではない。しかし,教育界の流
(3)「小学校児童指導要録,中学校生徒指導要
れは,観点別評価重視の方向へ明らかに進んで
いる。今年度から実施された新学習指導要領は,
録,高等学校生徒指導要録,中等教育学校生
早く改訂されるのではないかと予想する向きも
徒指導要録並びに盲学校,聾(ろう)学校及
ある。もしそうなった場合,指導要録も改訂さ
び養護学校の小学部児童指導要録,中学部生
れることになるが,私は,次期改訂では観点別
徒指導要録及び高等部生徒指導要録の改善等
学習状況の評価が導入されると予想している。
について(通知)
」文部科学省 平成 13 年4月
そうなった場合にあわてることのないよう,今
(4)「評価規準の作成,評価方法の工夫改善の
から評価規準等の研究を深めていきたいもので
ための参考資料−評価規準,評価方法等の研
ある。
究開発(報告)−小学校編・中学校編」
国立教育政策研究所 教育課程研究センター
平成 14 年2月
(5)「指導と評価の年間計画・評価規準の作成
について」岐阜県総合教育センター
http://www.gifu-net.ed.jp/ssd/sien/hyouka_kou
/index.html
(6)「高等学校学習指導要領解説 数学編理数
編」 文部省 平成 11 年 12 月
(7)「絶対評価と指導要録の記入 ―絶対評価
をどう行うか―」仙台市教育センター
http://www2.sendai-c.ed.jp/~center/h14/sessions
/sidou/contents3.html
(8)「学習評価マニュアル これからの学習評
価」新潟県立教育センター
http://www.nipec.niigata.niigata.jp/data3
/cur2_1.html
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