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1 .透析医療の社会経済的な価値の見える化
全人力・科学力・透析力・for the people 透析医学.医薬ジャーナル.2014(抜粋) 田倉智之 医療経済 価値 費用対効果 保険財源 腎不全 国際比較 E i 彊軍話国I ! ; . ; ] 副 司会 : 副同事語草書信司 1.透析医療の社会経済的な価値の見える化 斗透析医療の社会経済性を論じる背景 腎不全の医療費は,過去 1 0年間 ( 2 0 0 0年代)で大きく増加している 。圏内総生産 ( g r o s sd o m e s t i c p r o d u c t:GDP)のや!Jぴ率が 1 0%前後であるなか,さらには国民総医療貨が 23%程度であるのに比 べて,その増加率は 48%と顕著であるけ。医栂保険制度は一般に,財源均衡作用などの影響を受け るといわれており ,近年は症例数が多い瓜l 波浄化療法を中心に, 当該領j 或の診療報酬評価は抑制さ れてきたと考えられる I1。 このように,腎不全治療を取り巻く経済の状況が厳しさを地すなか,費用効果に優れた介入を臨 床現場に促すとともに,社会経済性の高い医療技術を診療報酬で積極的に評価をする動きも散見す る。なお,腎不全の治療システムを持続的に発展させるには,限られた医療資源を有効活用するの と同時に,その価値に見合った適正な医療財部の確保が必要であり,社会的な観点から全体最適化 を志向した検討も望まれる 。 以上のような背景のなか,生存率が世界において最良であるわが国の透析患者-は,人口あたり患 2 0 1 1年)を超える状況にある へ そ 者数で世界第 2位の密度となっており,医療費も年間1.4兆円 ( のため,当該分野を引き続き発展させるには,経済的な議論が不可欠と想像される。 斗透析療法に関わる医療経済の国際比較 世界 1 9カ国における血液透析患者・を調査対象とした研究である DOPPS試験 ( D i a l y s i sO u t - comesandPr a c t i c eP a t t e r n sS t udy)によると,わが国の末期腎疾忠 C e n d s t a g eI ' e n a ld i s e a s e: ESRD)症例の平均医療費は年 1 M ] 約3 9 千 US$ j年 ・患者(購買力平佃i で1 i1i正)となっており,世界的 ) にみて平準なレベルにあると考えられる(図 1。 一方,国民一人あたりの平均医療貨に対比させると,わが国の透析療法を含む慢性腎不全の治療 費は,医療費全体の負担水準に比べて若下大きい傾向にある。 つまり , 国民 l人当たりの医療費に 対する腎不全患者 1人の治療費の比は,国際的に上位 ( 平均 1 2 . 5倍に対しわが国は 1 5 . 1倍)で,国 民負担に対して相対的に医療費を多く透析療法にかけており,医療財源の適正規模と併せて資源配 ) 分のバランスが問われることになる ( 図 1。 以上のような経済的な実態を適切に l 岨関するには,それによって得られる効果.特に社会的な成 果(アウトカム ) について論じることがE喪となる 。すなわち,透析療法に関わる質の指僚との対 2 8 6 1.透析医療の社会経済的な価値の見える化 ~I * l ! ll 600 • nU u 内 n υ U ︽ ︽ U nu pDaq J r a U o( :=annuale ) ( 問 n d l t u r e perESRDp a t l e n t It o t a lh e a l l he x p e n d l t u r e ___ 1 翌rcapl 回) 18*1~ 米国 7 . 8 2 ニュージーランド 916 スベイン 1086 オース トラリ 7 1116 カナダ 1 1 . 8 1 スウ ェーデン 1204 フランス 12 . 2 2 ドイ‘'/ 1329 ベルギー 1446 イタリ 7 1471 日本 1511 英国 1771 内 υ庁 館 周 凪 M択 F州 明 (aE'悼のつけr ) 制緩凶E肘Q 3川記矧︿ Rs=0 . 7 4 8 p=0.013<0 . 0 5 7 0 . 0 2 0 . 0 │ニュージーランド│ 1 0 . 0 0 . 0 0. 0 1 . 0 2 . 0 3 . 0 4. 0 5 . 0 6 . 0 7 . 0 8 . 0 国民 1人当たりの総医療費(千 US$ p p p ) スピアマン順位相関分析 図 1 国民 1人当た りの医療費と腎不全患者 1人の治療費の関係 iと国民の総医療Ifl平均を先逃諸国の中で比べると, 日 末期腎不全の平均治療 v 本は腎不全治療費が相対的に多い状況にある。 p p p:p u r c h a s i n gpowerp a r i t y( 購買力平価) ( H e al t ha taG l a n c e2 0 0 9OECDINDI CA TORS / Endst a g er e n a ld i s e a s eand e c o n o m i ci n c e n t i v e s:ISHCOF) 比で,その医療貨の大小を整理することも望まれる 。例えば,米国における透析施設のデータ ベー a l y si sF a c il it yCompare)では, I 至適ヘモグロビン 1 0. 0- 1 2 . 0g/dL以外の忠 スである DFC(Di .I尿素除去率 (ureareductionrate:URR)65%以上である忠者の比率 J .I! 忠者生存率」 脅の比準J などが質の指棋となっている 。 そこで,透析導入後 l年以上の死亡率と ESRD忠者の治療貨の 関係を,先進諸国で整理したもの 0 0人年当たり の死亡数が 5 . 2人と が図 2である。わが国は,医療貨が平準的であるものの,患者 1 以も低く,資源消費で何られる診療成果が優位なカテゴリに分類される 。 斗 医療経済的な価値評価の理論と手法例 I l l f i f l 自は一般に,“もの ( 有形. 1rr~J~ ) " の“意義,意味"を指すと考えられている 九医療分野にお ける 社会経済的な価値評価には,この概念のもとで次に示す 2つのアプロ ーチが挙げられ, それら I ( のi l l , j 愉のようにバランスよく論じるのが重要と考えられる(図 3)九 をI c o s t e f f e c t i v e n e s sa n a l y s i s:CEA)である(相対評価) 。 その一手法に, , っ 口は, 白用効果分析 ( m川町Jl-Jと 噌分効果の比較を行 うI自分費用効果比 Cincrementalcosteffectivenessratio:ICER)が ある : ' i J F Jが増えてもそれ以上に効果が仲びるのであれば,いわゆるパフォーマン この ICERは. 1 ス (代1 1 1効巣)が良くなるという考え方になる 。なお,実際に社会経済的な価値を論じ,医療技術i . i ' H l l i ( h e al t ht e c h n ol ogyassessment:HTA)を完結させるには,実体経済との│見l 係を監理すること も守!まれる。 l 'OSS n a t i o n a lincome:GN I)など町 の実体経済へ : つ 川は,労働生産や社会資本,国民総所得 Cg )。または,医療を取り巻く環境(医療財源、など)や病態の の;必刊を 考服する慨念である(絶対評価i tや作齢など)に対して,社会的な感情にも配慮しつつ使議 (benef i t )を議論する方法が 機/j-.(治少t 287 第 4章透析医療の社会経済 2 5 (点線:平均) 死 亡 ・ -! • ・ φ ・ ・ 率 20 透 析 導 1 入 後 1 5 i . 1 米国 日本 米国 EJ 節目以上) 1 6 , 0 3 32 3 . 2 3 1 6 2 . 8 6 2 . 3 8 . 7 1 <45 4 . 5 45-54 1 6 . 8 1 5 . 9 55-64 2 7 . 8 2 1. 1 65-74 2 7 . 2 2 2 . 9 ! 1 9 . 4 2 5 . 7 7 5五 M a l e(%) 6 1. 8 5 5 . 4 Bl a c k(%) 2 9 . 8 指尿病性腎症の割合 3 2 . 6 4 9 . 1 患者数 年齢 ( m e a n ) た り 日本 . 1 1彊・ 。1 0 • 十… +ー - 苓一一一一一一一 年 間 100 人 当 1 0 勤ーーー E - 2 0 。 o f E S R D(%) 3 0 4 0 50 6 0 7 0 末期腎不全 1人当たりの年間医療資(千US$ p p p ) 図 2 透析導入後 1年以上の死亡率と慢性腎不全患者の治療費の関係 末期腎不全の治療貨によって創出される成果を透析導入後の生命予後にす ' J ! ( 用は小さく成巣が大きい)。 ると, 日本は費用対効よ裂が高い ( 'l c l,M o r t a l i t yr i s ki shighsoona f t e ri n i ( B r u c cM Robinson,e ta l:WOl j E n c lst a g eJ ' e n a ld is t i a ti ono fh e m o c l i a l y s i s .K i c l n e yI n t e r n a t i o n a. l2013. e a s eandcconomici n c e n t i v e s:I SJ ICOF) あり,診療に対する国民の支払芯思矧 C willingnesstopay:WTP)の調査結果などを活用する場合 もある 。 英! H、準公的市場において,最適な財源規模を 例えば,市場-規模の適正化に資する経済原理が御Jき 論じるには,国民の互助精神に基づいて医療の意義を貨幣価値に換算することも検討に価すると思 われる 。 ただし,個人の世~践を金銭換算する便益の検討は,伝統的に抵抗感が存在する点に配慮が 必要である 。 斗透析療法に関わる価値評価の報告例 3釘lで述べた方法にそって,透析療法に関わる価値評価i を行ったケースを紹介する 。 まず, CEAの例を述べる 。 わ が 国 で も 外 来 維 持 血 液 透 析 に 対 し て , 血 液 透 析 C hemodial y s i s: HD)および血液透析泌過 Chemodiafiltration:HDF )の ICERを試行した小脱税ながらも多純設研 究 の 報 告 が 1編ある 九 それによると,効果の指標として効用 ( u t i l i t y )を観察し,磁得された質調 強生存年 ( 0 . 7 7 6: ! :0 . 0 1 5Qaly)と診療報酬請求 ( 4, 9 8 2, 7 3 6: ! :7 , 8 5 2円 /年 )から HDFのベースラ 2 8 8 1.透析医療の社会経済的な価値の見える化 のけプ 価の 評つチ 値 2一 価る口 療おア 医に 費用効果分析など 【 相対評価] (仮想経済) [ 絶対評価] (実体経済) 規定された資源 「配分の評価」 成果に見合う資源 「規模の評価」 車の両輪として必要 図 3 医療資源の有効活用と医療財源の適正規模を論じることを目指した医療分野に おける社会経済的な価値評価の 2つのアフローチ(準公的市場において) 将来的に医療分野を持続的に発展させ,国民の幸福を最大化するには,この 2つのア プ ローチの歯車がうまくかみ合うことが望まれる。 ( 文献 5より引用) 表 1 外来維持血液透析の費用効果分析の例 ( Mean: l :SD) HDF HD 効用 ( t .Q a l y ) . 0 1 6 0 . 7 7 6土 0 0 . 7 4 9: ! :0 . 0 2 4 費用 (6JPY / y e a r ) I CER ( b a s el i n eVS.no i n t e r v e n i t on;d e a t h ) ( J PY/ Q a l y ) I n d e x 982 , 736土 9, 5 6 1 4, 910 . 736: l :7, 852 4, 6, 417 , 843 6, 552, 050 HDFの医療 1 1 jは HDに比べて大きいが,対する効用値の改普は HD Fのほ うがさ らに大きいため, HDFは費用効果に俊れている 。 HDF・he m o d i a f i l t r a ti on ( 血液透析泌過),日D :h e m o d i a l y s is ,ICER:I nc r 干 ment alCostE f f e c t i v e n e s sRat i o(増分費用効果比) ( i T ! 者作成〉 インの ICERを算出すると, HDよりも低い 6 41 . 7( 万 円 /Qa!y) となっている ( 表 1) 。 続いて, 参考の域を出ないが,使益評価の例を挙げる 。前述の臨床経済研究の分析結果であ る「独 得-された れる HDの質調整生存年 ( 0 . 7 4 9Qaly)J と国民に対する医療費負担の WTP調 査 か ら導き出さ 11Qal y獲得あたりの許容負担額 ( 6 5 5 . 2万 円 )Jの要紫 や症例数などから,透析療法 に伴 うわ が国全体の便益総計をモンテカルロ ・シミュレ ー ション法で算出した報告がある 九 現 役 世 代 の 支 払意思額に限定されるが, 平均 ( 期 待 値)で年間 l兆 5, 2 0 3億円の 全体 便 益 ( 2 01 1年推 計う にな り, 笑際の公的医療費に比べると , 国民が認める価値は 61 1億 円多 いと推察される 。 斗まとめ 社会的な影響の大きい透析領域の発展には, 1 社会経済的な価値の見える化」を行い,関係者 と共 289 第 4' t , i : 透析医療の社会経済 有を図ることが不可欠である 。特に,限られた医療資源の有効活用のために ,1 1 用効果の研究 ( 相 対評価)を推進することが希求される 。一方, ESRD患者の幸福 (well-being)の増進に向けて,医 療財源の適正規模に関する探求(絶対評価)も盟まれる 。 ( 田 倉 智 之) 文献 1 )四倉智之:神経内科領域の臨床経済学的な価値説明について.臨床神経学 5 0( 1 1 ):1 0 5 5 ・1 0 5 7,2 0 11 . 2 )凹倉智之・医療経済からみた透析医僚の実態整理.透析医会雑誌 27( 1 ):4 4・4 8,2 01 2 . 3 ) 日本透析医学会統 3 十鯛資委且会 :図税わが国の慢性透析療法の身状 2 01 1年 1 2月 3 1n 現 . ( . E .n 本透析医学 会 , 2 0 1 2 4)田倉智之:医療伎術の経済評価の制度上の意義と活用の方向性一医療後器の社会経済ガイ ドラインが日街 すもの. 日本医科犠械学 7 7( 12 ):8 3 6 8 4 6,2 0 0 7 . 5 )U I倉智之・ 4 位血性心疾忠治療における QOLとコストペネフィット一実地診療への応Jn. Me d i c a lPra c t i c e 3 0( 3 ):1 0 2 5 1 0 3 1,2 0 1 3. 6) T akuraT,KawanishiH,MinakuchiJ,e la l:C o s l e f f e c t i v ea n a l y si so fo n l i n eh e m o d i a f i l l r a l i o ni nJa - p a n .B l o o dP U I i f i c a t i o n3 5( S u p p l1 ):8 5・8 9,2 01 3 . 7) 悶倉智之,上月正1噂 , 上塚芳郎ほか:文払:lF:志と財源規伎を盤合させる公的保険の収 i総:J.~織の理論併策に 日 !l する研究科学研究費助成事業 ( 学術研究助成必金助成金,平成 2 3年度 機傍, 2 01 3 . 290 平成 2 4年度).科学技術H 辰輿