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珠江デルタ都市 広州
2010 年 2 月 22 日 珠江デルタ都市 広州 森記念財団研究員 久保隆行 2009年の夏に香港大学にて開催された、Asian Urbanization Conference にて発表された研究 において、Mega Region や Polycentrism などのキーワードのもとに北京・天津地帯、上海を中心 とした揚子江デルタ地帯、そして香港から北西へ連なる珠江デルタ地帯などに関する報告が多く を占めていた。GPCI では現在のところ都市単位に機能別に指標を測定してその総合力を算出し ているが、都市が連携して機能を分担しあう側面も今後は検証してゆかねばならない。 カンファレンスのなかで、香港大学の Chang 教授が珠江デルタ地域の現状について、”Hong Kong as Store at the Front and Guangdong as Factory at the Back”との報告がなされていた が、表通りの華々しい店舗の背後に巨大な工場群が控える現在の珠江デルタ地域の様相を生々 しく伝える言葉だと感じた。そんな工場の役割を果たしてきた珠江デルタ都市のひとつの深センが、 ロンドン市が毎年2回発表している Global Financial Centres Index (GFCI)の2009年秋のラン キングに番外から5位に彗星のごとくランクインしてきた。そして、珠江デルタ都市のもう一つの雄 である広州についても GaWC の格付けにおいて既に世界都市 B - の評価を得ている。 今回は香港大学から改めて GPCI を題材とした特別講義の依頼を受けた機会を生かし、珠江デ ルタ地域の工場からの脱却を進める広州と深センの最新の状況を探ってきた。 City Profile Guangzhou ■広州 ■東京 23 区(参考) 人口: 7,607,220 人(2006 年) 人口: 8,806,000 人(2009 年) 面積: 7,434.20 ㎢(2006 年) 面積: 621.81 ㎢(2007 年) ■深セン ■香港(参考) 人口: 8,363,000 人(2009 年) 人口: 7,010,000 人(2008 年) 面積: 1,952.84 ㎢(2009 年) 面積: 1,104 ㎢(2008 年) Dongguan Shenzhen Hong Kong Tokyo 1 COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. ALL RIGHT RESERVED. Guangzhou Tianhe New Area Blue: Tokyo Yamanote Line 1 2 3 5 4 6 1:Guangzhou East Station 2:Tianhe Stadium 3:CBD 4:Guangzhou TV Tower 5:Pearl River 6:Guangzhou International Convention Center 2 COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. ALL RIGHT RESERVED. 都市のスケール 広州市のスケールは上海市よりもさらに一回り大きく、世界の都市のなかでも横綱クラスの規模 である。人口は近年増加をたどり、流入者も含めると 1,000 万人を超えると言われている。都心部 については広州駅から珠江沿いのかつて租界であった地区の間を中心とする旧市街地から、そ の東側の広州東駅方面にかけて開発が著しい天河(Tianhe)地区が連なる。前頁の地図で東京で 言えば山手線の上半分くらいのエリアが近年急速に開発されている状況となっている。 珠江新城核心地区 天河地区のなかで、広州東駅の周辺から珠江にかけて新市街地の都市軸が形成され、2010 年 の秋に開催されるアジア大会を目標に CBD の開発が急ピッチで進められているエリアである。地 元出身の知人に言わせれば、北京や上海がオリンピックや万博を都市開発の起爆剤として掲げ てきたように、広州もまたアジア大会開催というお題目のもとで大会に直接関係しない施設の整 備まで一気に行って国際的なプレゼンスを向上させたいとの狙いがあるそうだ。そして、後述する 深センも 2011 年のユニバーシアード大会開催を掲げて同様な動きを見せている。 広州の新 CBD の軸線上には巨大な緑地広場が計画されており、その両側を超高層ビルが取り 囲むように林立する。広州東駅に対面する軸線上には、東京スカイツリーの建設が発表されるま ではアジアで一番の高さの電波塔となる予定であった全高 610m の広州テレビタワーが間もなく 竣工を迎えようとしている。さらに、この新しい街のゲートを形づくる高さ 440m のツインタワーの西 側のウェスト・タワーもほぼ外観が完成しているが、東側のタワーについてはさらに高くして設計を やり直しているとのことである。そのほかにも目玉はたくさんあり、ツインタワーの足元には建築家 Pearl River New Town Project (CBD) 3 COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. ALL RIGHT RESERVED. Zaha Hadid による宇宙船が不時着してきたようなデザインのオペラハウスや香港の設計事務所 によるキューブ状の博物館が目を引く。その他にも各国の有名建築家や設計事務所が手がける 建築物が目白押しで、街の完成後はちょっとした建築博覧会になるような勢いが感じられる。 Pearl River New Town Project (Model) Guangzhou TV Tower Guangzhou Financial Center – West Opera House (Model) CBD Office Towers Opera House (Construction Site) 4 COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. ALL RIGHT RESERVED. CBD 地下開発 地上に計画されている施設群にもまして目玉となるのがここに計画されている地下空間である。 中国の都市といえば、北京の天安門広場や上海の人民広場のように壮大な広場が中心に計画さ れていることが一般的であるが、この広場は地下空間も計画的に利用しようと試みられている点 で画期的である。どこの国でも都市計画を行う際に地上の施設の用途や形状についてこと細かく 規定を行って長期的に理想的な都市にシェイプさせてゆくことは従来行われてきたが、地下につ いても壮大なマスタープランを策定しながら街を形づくって行くことについては世界的に見てもあま り例はない。とくに、歴史のある都市においてはさまざまな既成事項が障害となって面的な地下開 発を行うことは困難な状況である。 CBD Underground Development (Construction Site) CBD and the Central Plaza COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. 5 ALL RIGHT RESERVED. およそ 100ha にまたがるこの開発区域はニューヨークのセントラルパークの半分弱、東京の皇居 の7割ほどの都心の広大なスペースである。このような劇的な開発ができるのは、21世紀のテク ノロジーと巨大な国土と資本をバックにした新興国ならではの特権かもしれない。 CBD Central Plaza B1 CBD Central Plaza B2 CBD Development Area 6 COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. ALL RIGHT RESERVED. Same-scale Area in New York Same-scale Area in Tokyo 7 COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. ALL RIGHT RESERVED. 広州国際コンベンションセンター 広州を語るうえでもう一つ忘れてはならないのがコンベンション産業である。広州は歴史的に広州 交易会と呼ばれる国際見本市が早期より行われており、中国でも代表的なコンベンションとしてそ の地位を受け継いできた。今世紀に入り、従来のコンベンションセンターの建て替えを機に広州を 世界ナンバー1 のコンベンション都市として成長させるべく、新しいコンベンションセンターの開発 が計画された。当時は中国における国際コンペがまだ数少なかったころに当時所属していた設計 事務所にてプロジェクトに参画したのでここに紹介しておきたい。CBD の予定地からさらに東に行 った珠江の対岸のおよそ 70h をこの施設群が埋め尽くす。コンペ当初は以下の写真の右半分の 第一期だけが実施対象で左側半分は構想のみであったが、それでも延床面積が30万㎡を超え る規模であった。基本設計を行いながら工事が同時に進むという異常事態のなかで、2年弱の工 期を経て2002年に完成。その後も構想部分であった第二期ゾーンは記憶にある形で完成してい たが、さらに周辺にも次々と施設が拡張して100万㎡を超える世界一の規模のコンベンションセ ンターが誕生していたのだ。 Guangzhou International Convention Center (Left: 2nd phase, Right: 1st phase) Guangzhou International Convention Center (1st phase) 8 COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. ALL RIGHT RESERVED. そのようななかで、2009 年秋に行われた広州モーターショーは記憶に新しいであろう。東京モータ ーショーをはるかに凌ぐと呼ばれるこのイベントの会場を日本の設計事務所が手掛けたことを知 る人は少ないであろう。コンベンション都市として、世界ナンバー1のハードを手にした広州は、今 後ソフト面での充実が課題となるであろうが、その動向が注目される。 Guangzhou International Convention Center (1st phase) Guangzhou International Convention Center (Left: 4th phase, Right: 3rd phase) およそ5年ぶりに訪れた広州は、予想をはるかに凌ぐ速度で変貌していた。開発もさることながら、 スモッグが以前よりも悪化したことを地元の知人に指摘するとその通りと応えられた。アジア大会 の開会式に技術的に晴天をもたらす画策を政府は行っているのであろうか。 知人の車で陸路にて深センに向けて広州をあとにした。 つづく 9 COPY RIGHT © 2010 THE MORI MEMORIAL FOUNDATION. ALL RIGHT RESERVED.