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業務用省エネ照明に参入し ニッチ分野で活躍する

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業務用省エネ照明に参入し ニッチ分野で活躍する
調査
研究員
田原真一
Shinichi Tahara
業務用省エネ照明に参入し
ニッチ分野で活躍する
県内中小企業
■改正省エネ法の施行や震災後の電力供給不足を背景に、白熱灯や蛍光灯から、LED照明に代表される“省エネ
照明”への切り換えが進んでいる。
■業務用省エネ照明は汎用品が使えないことも多いことから、大手メーカーが本格的に参入していない。このた
め、独自の技術やノウハウを生かし、中小企業が異業種から参入する形で業務用省エネ照明の開発に乗り出す
ケースが県内でも相次いでいる。
■県内には全国有数の光・電機分野の企業が厚く集積している。こうした企業群が業務用省エネ照明の特性を生か
しつつ、ユーザーの潜在的なニーズに合うプラスアルファの機能を付加できれば、数多くのニッチ分野を開拓で
きる余地は、さらに拡がるだろう。
平成 2 2 年4月に改正省エネ法が施行され、企
白熱灯などに比べて消費電力量を抑えることがで
業のエネルギー使用量が制限されたことや、東日
き、製品寿命も長いという特徴がある。経済産業
本大震災後の省エネ意識の向上をきっかけに、L
省の工業統計調査によると、平成 2 2 年の全国の
ED照明に代表される“省エネ照明”の普及が進ん
電気照明器具の製造品出荷金額は 6 , 8 4 5 億円と、
でいる。省エネ照明は、発光方法を変えることで
4年前と比べて+ 2 . 3 %の増加にとどまる一方、
省エネ照明が含まれる「その他の電気照明器具」
図表1 全国の電気照明器具の製造品出荷金額の推移
白熱電灯器具
蛍光灯器具
水銀灯器具
その他の電気照明器具
で電力不足に直面したことで、企業や家庭が省エ
7,000
537
598
ネ照明への切り替えを加速させていることから、
1,476
6,000
出荷金額はさらに伸びているとみられる。
1,946
1,422
5,000
独自の技術やノウハウを生かし
業務用省エネ照明に参入する県内中小企業
4,000
現在、注目を集める省エネ照明は、LED照明
3,000
や無電極照明が代表的だ(図表2)。このうち、工
2,000
場や店舗、屋外など業務用として使われるものは
1,000
特殊で厳しい環境で用いられるため、量産される
H18
H19
H20
H21
H22
(年)
資料:経済産業省「工業統計調査」
18
進んでいるため、1 , 9 4 6 億円と 3 . 6 倍に拡大して
いる(図表1)。また、2 3 年以降も東日本大震災
(億円)
8,000
0
は、白熱電灯器具や蛍光灯器具からの切り替えが
SERI Monthly April 2013. No.581
汎用品が使えないことが多い。技術面で先行する
大手メーカーも需要があることは把握している
図表2 主な省エネ照明の特徴と課題
主な特徴と課題
特徴
・LED
(発光ダイオード)を用いた照明
・消費電力は白熱灯の2割程度、蛍光灯の7∼8割程度
・白熱灯や蛍光灯などの代替として、家庭やオフィス、店舗で普及
・さまざまな形状にできるため、小型化も容易で幅広い種類の照明器具に適用
課題
・高温になると発光効率が低下
・白熱灯や蛍光灯と比べると高価格
特徴
・内部に電極を持たず、コイルに高周波の電力を送ることで発光する照明
・消費電力は水銀灯の2割程度
・主に水銀灯の代替として、工場や商業施設の天井用、屋外照明などとして利用
・長時間(現状、約6万時間)点灯する
課題
・小さい出力の照明には不向き
・現状、電球タイプしかない(蛍光灯やネオンタイプはない)
LED照明
無電極照明
資料:各種資料より当所作成
が、開発コストに比べて販売数量が見込めないこ
とから、積極的に参入していない。
こうした状況から、業務用省エネ照明ニーズに
応えるため、独自の技術やノウハウを生かし、中
小企業が異業種から参入する形で開発に乗り出す
ケースが県内でも相次いでいる。以下では、具体
的に企業の取組みを見ていこう。
光の“質”にこだわった展示会用省エネ照明
静岡ホビーショーをはじめとする展示会での照
明を手がける㈲タニモト電機(静岡市清水区)は、
▲写真1:タニモト電機の展示会用照明「エルスポ」
平成 2 3 年にイベント展示会場専用の照明器具「エ
切り替えて消費電力を 8 0 %削減したほか、展示
ルスポ」を開発した。長年、照明器具の取付工事
品を本来の魅力的な色で見せるためにLEDチッ
やブース内照明工事において、多種多様な照明器
プやレンズなどの部品の選定にも細心の注意を
具を扱ってきたことで、光源の違いや、器具の形
払ったという。また、展示会の照明は、目立たな
状による利点や問題点を現場サイドから掌握。
いコンパクトな形状が求められるため、同業者や
LED が次世代の光源になることを確信するとと
装飾デザイナーからアドバイスを受けて、改良を
もに、省エネの観点からニーズは大きいと考えて
重ねた。 いた。
製品化に当たっては、ハロゲン照明をLEDに
このように、性能とデザインの両面にこだわ
り、5年の歳月をかけた製品は、「料理や宝石な
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業務用省エネ照明に参入しニッチ分野で活躍する県内中小企業
※ 1 安定器:高周波の電力を電球内部のコイルに送る無電極照明の主要部品。
に取り組み始めた。
水銀灯などの代替照明として期待される無電極
照明は、1つひとつの部品が性能や製品寿命を大
きく左右するため、心臓部となる安定器 ※1 の基
板を自社で開発。電子部品の選定や配置なども試
行錯誤を繰り返し、約2年をかけて製品化にこぎ
つけた。
この照明は、消費電力量が水銀灯の2割と少な
い上、光が拡散しやすく陰ができにくいため、設
置数が少なくて済み、導入費用・維持費用とも低
く抑えられる点が評価され、大手照明メーカーの
製品を抑えて、磐田市内の大型商業施設の駐車場
照明として導入されている。
現在は、省エネ照明の開発に特化し、全国に
1 0 0 以上ある販売代理店を通じて、ユーザーの細
▲写真2:磐田市内に設置されているTOSMOの
屋外照明
かな要望を吸い上げ、今までにない照明を提供し
ど、展示品の見せ方に妥協を許さない業者からの
る防犯目的の照明には、衛生管理の視点から虫が
評価が高い」
(谷本社長)という。現在、「エルス
近寄りにくい光を照明に採用したほか、可燃性ガ
ポ」は、自社で保有する 1 2 0 台しかないものの、
スを扱う化学プラント用には、照明の点灯で引火
評判を聞きつけた同業者からレンタルの要望が増
しないように特殊なガラスで密封した防爆タイプ
えている。
など、大手メーカーが参入してこない特殊な環境
現在、展示会用の高性能な新製品の開発を手が
ている。たとえば、食品工場の屋外に設置してい
で用いる照明の開発に注力している。
ける一方、大手建設会社から患者の心理に配慮し
すでに製品の供給先は 1 , 0 0 0 社を超え、グルー
た新しい照明を新築病院に導入したいとの話も舞
プ年間売上高は5億円を突破、順調に業績を伸ば
い込んでいる。今後は、光に関するデータの収集
している。今後は開発担当者を増員し、地元の温
を進め、展示会用照明以外の分野にも参入してい
室メロン農家向けに成長速度を早める照明の投入
く方針である。
を目指すなど、他社に先駆けて新市場を開拓して
いく考えである。
省エネと付加機能を両立させる新照明を開発
磐田市に本社を置く㈱TOSMOでは、重電
20
自然光と人工照明を組み合わせ、長期停電対策の需要に対応
メーカーから発電所の電力制御機器の開発を請け
㈱スカイプランニング(浜松市北区)は、光拡散
負ってきたが、リーマン・ショック以降の開発案
型天窓による自然光と人工照明・蓄電給電装置を
件の急減を受けて、平成 2 2 年から自社製品づく
組み合わせた「自立型エコ照明システム」を開発し
りを決定。これまで電力制御機器の開発・設計で
た。従来は、独自に開発した光拡散型天窓を工場
培った電圧制御技術が生かせる無電極照明の開発
や倉庫、スポーツ施設に提案してきたが、さらな
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の技術を融合して製品化にこぎつけた。この照明
は災害発生時の非常用というイメージが強いが、
通常時の使用でも自然光を取り込める状況であれ
ば、従来と比較して消費電力を 7 0 %近く削減で
きるため、すでに県内外の自治体から多くの問い
合わせが寄せられている。
現在は、実証試験の最終段階を迎えており、4
月以降、㈱伊藤建築設計事務所(愛知県名古屋市)
を通じて、国や関東・東海地方の自治体を中心に
本格的に売り込んでいく方針である。
省エネ性にプラスアルファの機能を加え
潜在的な業務用省エネ照明のニーズを掘り起こす
省エネ照明には、光の明るさや色を自在に調整
できる、さまざまな形状にできる、低温でも発光
効率が落ちない、といった従来型照明にはない特
▲写真3:スカイプランニングら4社で共同開発した
「自立型エコ照明システム」の実証試験の様子
性が数多くある。事例で取り上げた3社は、こう
る販路拡大を模索する中、東日本大震災直後の避
つなげていた。
した特性を製品の機能に昇華させ、需要の喚起に
難所で電気の供給が途切れ、避難者が不便な生活
たとえば、タニモト電機は、LEDの光の色や
を強いられている実状から、パイフォトニクス
明るさを自在に調整することで、展示品を魅力的
㈱・㈱中遠電気・㈱伊藤建築設計事務所および静
な色で見せるスポットライトを生み出し、ユー
岡県工業技術研究所と連携、静岡県の「新エネル
ザーの心をつかんだ。また、TOSMOは、特殊
ギー活用研究開発助成事業」の採択を受けて災害
な光の色で虫を寄せ付けにくいという付加価値を
時に役立つ照明システムの共同開発に着手。具体
照明に取り入れた。そして、スカイプランニング
的には、日中は天窓から自然光を取り込みながら
は、天窓と人工照明、蓄電給電装置をパッケージ
太陽光発電で蓄電する一方、夜間や悪天候時に
化して提供することにより、外部からの電力供給
は、蓄電した電力で人工照明を点灯させるシステ
が途絶えても安定した明るさを保てる新しい照明
ムである。
で、災害時の長期停電対策というこれまでにな
人工照明には、光技術ベンチャーのパイフォト
かったニーズの掘り起こしに挑んでいる。
ニクス㈱
(浜松市中区)のLED照明を採用。天窓
これらの企業も含め、県内には全国有数の光・
から得られる明るさに応じて不足分を自動的に調
電機分野の企業が厚く集積している。こうした企
整することで常時一定した明るさを確保できるよ
業群が業務用省エネ照明の特性を生かしつつ、
うにした。さらに蓄電給電装置は、県内で非常用
ユーザーの潜在的なニーズに合うプラスアルファ
蓄電池のノウハウを有する㈱中遠電気(掛川市)の
の機能を付加できれば、数多くのニッチ分野を開
大容量蓄電・直流給電の技術というように、各社
拓できる余地は、さらに拡がるだろう。
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