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中山間地域活性化に向け静岡型グリーンツーリズムを

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中山間地域活性化に向け静岡型グリーンツーリズムを
研究員
岩本真弥
Masaya Iwamoto
◆新東名高速道路の開通は、静岡県の中山間地域にとって、交流人口を
ひら
増やす大きなチャンスをもたらすもので、この好機を活かして内陸フロンティアを拓
中山間地域活性化に向け静岡型グリーンツーリズムを
く手法の1つとして、農業体験等の余暇活動を楽しむグリーンツーリズムの振興が注
目されている。
◆にぎわいをみせるグリーンツーリズムの先進事例をみると、地域住民との「心の交流」
や「ほんもの」に触れることをセールスポイントとしており、他の地域資源とも「連携」
することで人を呼び込んでいるのがわかる。
◆静岡県内の中山間地域の活性化のためには、他の地域や海での体験、産業観光などと
も組み合わせて南北間でも連携し、ストーリー性を持った体験プランを提供する、い
わば“静岡型グリーンツーリズム”を地域の総合力で展開していくことが期待される。
図表1 グリーンツーリズムの概念図
パーキング・サービスエリアの来場者数も
都市農村交流
定 住
二地域居住
一時滞在
農村滞在
ターチェンジ(IC)周辺地域を「内陸フロン
滞在型市民農園
援農ボランティア
(ワーキングホリデー)
農家民宿
農家民泊
農作業体験
体験型修学旅行
ティア」と位置づけ、魅力ある地域づくりに
子ども体験学習
着手した。これまで活性化が進まなかった中
地域食材、食育
農産物直売所
交流目的
公的施設
自然体験、レクリエーション
観光農園
資料:農林水産省
図表2 農村地域でしたことがある活動と
今後したい活動
0
10
農産物直売所の利用
実家や親せきの農家の手伝い
自然体験・レクリエーション
観光農園の利用
短期
(数日程度)
の暮らし
農家レストランの利用
農作業体験
長期(1カ月程度以上)の暮らし
農家民宿の利用
自分の子どもの体験型修学旅行、
子ども体験学習
援農ボランティア
(ワーキングホリデー)
滞在型市民農園の利用
その他
20
30
(%)
40
50
33.8
40.8
23.4
15.5
17.4
27.7
15.6
25.0
12.1
14.4
11.1
31.5
9.1
14.6
6.4
10.1
3.5
16.4
2.7
13.1
0.6
6.4
したことがある
0.4
今後したい
8.0
2.6
1.2
注:都市住民を対象として実施したインターネット調査(回答総数 1,081人)
資料:農林水産省「農村に関する意識調査」
(平成 23(2011)年2月調査)
20
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2 . 8 万人と、好調な滑り出しを見せる新東名
高速道路(以下、新東名)。静岡県では、イン
グリーンツーリズム
長期田舎暮らし
1日当たりの交通量が平均5万台、新型
山間地域にとっては、交通アクセスが向上し
たメリットを活かし、地域活性化を図る好機
が到来したといえる。その実現の手段とし
て、今ある地域資源を活用した「グリーン
ツーリズム」が有効ではないかと考えられる。
そこで本稿では、新東名沿線の中山間地域
の活性化に向けて、県内ではどのようなグ
リーンツーリズムを展開していくべきか、考
えてみたい。
多様な形態を包含するグリーンツーリズム
宿泊・滞在型にも高いニーズ
グリーンツーリズムとは、「緑豊かな農山
漁村地域において、その自然や文化、人々と
の交流を楽しむ滞在型の余暇活動」のことを
いう。その中身は、農産物直売所や観光農園
のような日帰り観光的なものから、農作業体
験や滞在型市民農園など、宿泊して、じっく
りと農村の暮らしを楽しむものまで、多岐に
わたる(図表1)。
都市住民を対象に農林水産省が行ったアンケー
図表3 新東名IC付近のグリーンツーリズム関連施設(抜粋)
トによれば、農村地域で“したことがある”活動
としては、
「農産物直売所の利用」や「自然体験・
レクリエーション」
、
「観光農園の利用」など手軽
な日帰り型の余暇活動がグリーンツーリズムの中
心となっている(図表2)。また、「農家民宿の利
浜松いなさIC
浜松浜北IC
遠州森町IC
用」や「子どもの体験型修学旅行、子ども体験学
習」
、
「滞在型市民農園の利用」では、“今後した
島田金谷IC
い”と実施を希望する人が経験者を大きく上回っ
ており、こうした宿泊・滞在型メニューを充実さ
せることが活動の振興につながるとみられる。
ここで、静岡県内のグリーンツーリズム関連施
設の整備状況をみると、全体では 1 7 3 軒を数え、
そのうち体験スポットが 1 1 5 軒で、野菜などの収
穫体験やそば打ちなどの手作り体験ができ、飲食
施設を備えるところも数多く、日帰り型のグリー
ンツーリズム関連施設は比較的充実しているとい
える(新東名IC付近の抜粋図表3)。そのほか、
新静岡IC
新清水IC
新富士IC
長泉沼津IC
●はままつフルーツパーク
●竜ヶ岩洞
●わだ共和国
◇清水の里
●県立森林公園
●とよおか採れたて元気むら
●浜北森林アスレチック
◇天竜山の市
●コテージアクティ
●ならここの里
●森町体験の里 アクティ森
●夢街道匠塾
●大久保グラススキー場
●加工体験施設やまゆり
●藤枝市陶芸センター
◇さくら茶屋
●うつろぎ
◇アグリロード美和
◇真富士の里
◇水見色きらく市
●やませみの湯
●やまめの里
◇内房農林産物直売所
◇JAするが路オレンジコート
●シャイニングフィールド
●富士ミルクランド
●柚野いずみ加工所
◇柚野農林産物直売所
◇JAなんすんJAふれあい市
(●…体験、見学施設、◇…農産物直売所)
資料:静岡県グリーンツーリズム協会
「ふじのくにまるごと体験ガイド」より当所作成
け入れている※2 。
利用者の7割弱は北九州市を中心に近畿、中国
体験型修学旅行等の受け入れについては、県内に
地区からの教育旅行の学生が占める。残りの2割
は7つの協議会があり、積極的に誘致に取り組ん
強は一般の個人客で、九州の都市部からの利用者
でいるものの、滞在型市民農園(クラインガルテ
が多いが、東京や大阪在住の固定客もいる。
ン)は数ヵ所、農家民泊施設は昨年、天竜区に第
1号が誕生したばかりという状況にある。
安心院では、一度農泊に来られたお客様を「遠
くの親戚」と位置づけ、“心の交流”によって「第2
以下では、地域の交流、にぎわい創出が期待さ
のふるさと」になることを目指している。農村の
れる農家民泊や滞在型市民農園を中心に県内外の
日常こそが最大の地域資源と捉えて、普段着のお
事例をみてみよう。
もてなしをするところに大きな特徴がある。
あ じ む
とら
具体的には、農家が受け入れるのは1日1組だ
事例①農村民泊(大分県宇佐市安心院町)
地域全体でもてなす“心の交流”によって
「第2のふるさと」をめざす
けで、受入家族と一緒に野菜の収穫やタケノコ狩
名湯で知られる由布院、別府温泉から程近い、
そのものを体験してもらう。また、夕食や風呂に
り、炭焼きなどの農作業をしたり、いろりを囲ん
で家族の一員となって食事をするなど、農村生活
地域人口約 8 , 0 0 0 人の安心院町。日本のグリーン
ついては、地域住民との交流も深めてほしいとの
ツーリズム発祥の地といわれる同町は、平成8年
思いから、近隣の食堂や温泉も利用できる。
から“農村民泊(通称:農泊) ”に取り組み、今
こうした心の交流が利用者の心を満たし、口コ
では6 0軒超の農家が年間約8 , 2 0 0人の宿泊客を受
ミで宿泊客を増やしていった。また、その後も手
※1
※ 1 農村民泊:一般には「農家民泊」と言うが、安心院町では「村全体でお客様を迎えよう」という思いから、「農村民泊」と呼んでいる。
利用料金は素泊まりで 5 , 0 0 0 円。農家での食事は 1 , 5 0 0 円、農作業体験は 1 , 0 0 0 〜 1 , 5 0 0 円のオプションとなっている。
※ 2 年間約 8 , 2 0 0 人の宿泊客を受け入れている: 一般客の受付はNPO法人安心院町グリーンツーリズム研究会が、教育旅行の受
付は財団法人日本修学旅行協会が行っている。
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中山間地域活性化に向け静岡型グリーンツーリズムを
▲安心院の農家民宿「竜泉亭」
▲フロイデン八千代の景観
▲しずおか教育体験旅行の里山体験
紙のやり取りや農産物・加工品の注文を受ける間
的景観により、非日常性を味わうことができる。
柄になったり、かつて教育旅行で訪れた学生がリ
そして、地元住民との交流が活発なことも大き
ピートする形で関係が継続したりしている。
な魅力となっている。都市と農村の交流を基軸に
農家だけではなく、安心院全体で受け入れる姿
したまちづくりを進めてきた旧八千代町では、れ
勢が、経済的なメリットを町として享受できる仕
んげまつり、ホタル観賞会、ご来光登山など多く
組みづくりにつながり、新たな協力者を呼び込む
のイベントが開催されているが、同園の利用者が
ことにも成功している。
それらの準備・運営に参画している。地元住民を
園内に招き入れる取組みも盛んだ。たとえば、園
事例②滞在型市民農園(フロイデン八千代)
地元住民との交流の仕掛けを作り
新しいコミュニティを形成する
た
か ちょう
兵庫県多可町(旧八千代町)にある「フロイデン
八千代」
※3
は、日本初の滞在型市民農園である。
内にある喫茶室のコーヒー無料券を地元住民にも
配布し、テーブルを囲んで談笑したり、カラオケ
教室などの催しにも招待、同園を訪れる人は年間
延べ1万 7 , 5 0 0 人にも上る。
農園の利用者の平均年齢は 6 7 歳。週末ごとに
コテージつきの農園が 6 0 区画もあるが、開園以
訪れコテージに連泊する利用者も多く、単に農作
来入居待ちの状態が続いている。
物を作るのではなく、退職後の新たなコミュニ
この農園は大都市に近いこともあり、利用者は
近隣都市の住民を中心に、大阪や神戸の居住者も
ティを求める人たちのニーズを満たせることが、
フロイデンの高い人気の要因といえよう。
少なくない。これらの都市からの所要時間は1時
間半から2時間と大きな負担にならず、都市と農
村を行き来する二地域居住のライフスタイルを楽
しむことができる。
また、園内は赤い屋根のログハウス風の建物が
事例③体験学習(しずおか体験教育旅行)
「ほんもの体験」にこだわりながら
周辺施設と連携し、地域全体で受け入れる
静岡市清水区の「しずおか体験教育旅行」は、静
点在するなど、本場・ドイツを意識して作られて
岡市内の観光関連業者 3 3 団体で構成されており、
いる。旧八千代町では、風景がドイツのバイエル
バブル崩壊で観光客が減少する中、景気に左右さ
ン地方に似ているとして、チャペル付きホテルや
れにくい観光として体験型の教育旅行に着目し、
農村レストラン、直売所などもドイツ風にデザイ
県中部地区への誘致活動を行っている。平成7年
ンしており、八千代の自然ともマッチしたドイツ
の発足以来、地道な活動を続け、今では年間 2 0 0
※ 3 フロイデン八千代: 土地は 1 7 名の地元住民が所有。利用者の受付は多可町役場およびフロイデン八千代管理組合が行う。利用料
金は入会金が 3 5 万円、年会費が 2 7 万 6 , 0 0 0 円。
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校、延べ7万人の学生を受け入れている。
同団体が高い実績を上げている要因としては、
を推進するためのポイントをまとめると、まずは
地域にあるものを活かす発想が求められる。利用
第1に、
「ほんもの体験」へのこだわりがある。同
者が求めるものは、農山村の営みや生活、文化な
団体が提供する体験プログラムは、各地域の特徴
どの「ほんもの」に触れることであり、そこで得ら
を活かした体験内容であるべきという方針で貫か
れる知的刺激が、利用者を満足させるからだ。
れている。たとえば、従来その土地で行われてい
4
4
また、受け入れる地域には、よそ者を快く受け
なかったそば打ちを体験商品化しても、それは、
入れる気持ちが欠かせない。体験や二地域居住
わざわざ静岡まで来て行わなければならない体験
は、手段であって目的ではない。安心院やフロイ
ではなく、支持されることは難しい。利用者が求
デン八千代では、地元住民との交流を重視してい
めるのは、単にそばを打つことではなく、そば打
たが、都市生活者はグリーンツーリズムを通じた
ちを通してその土地の生活、文化に触れ、知的刺
「心の交流」を求めており、その提供には地域全体
激を受けることだからである。
のもてなしの心が不可欠といえる。
第2に、
「多様なメニュー」の提供だ。体験プロ
本県のグリーンツーリズムの普及にも、そうし
グラムは、わさび作り体験、農作業体験など中山
た取組みを通じて都市住民を満足させるコンテン
間地域で行うものだけではなく、海釣りや地引あ
ツを育てるとともに、単体ではなく、他の観光資
み体験、歴史文化体験、産業観光体験など約 4 0
源と「連携」していくことが必要だろう。
種類もあり、各学校は、その中から体験したいも
のを自由に組み合わせることができる。
他県との差別化を図らなくてはならないのは、
体験型の教育旅行に限った話ではない。静岡には
体験型の教育旅行は、単体のプログラムで集客
海や山だけでなく、歴史、文化、産業など豊富な
を図ることは難しく、地域全体で呼び込む発想が
観光資源がある。たとえば、わさび栽培発祥の地
欠かせないという。大型テーマパークと違って、
である静岡市の有東木で収穫体験した後、焼津港
1つの体験で丸1日満喫することが難しいだけで
でマグロの水揚げを見学し、自分で卸したわさび
なく、そのプログラムが他では体験できないよう
をつけて食べたり、あるいは天竜美林で下草刈り
な内容でない限り、差別化を図ることができない
や伐採を体験してから、製材工場や地域材を使っ
からだ。しずおか体験教育旅行では、各地域で
た住宅の建築現場を訪れたりするなど、単体では
「ほんもの」の素材の掘り起こしを継続的に行い、
演出できないストーリー性を持ったプランを提供
各体験施設や宿泊施設と「連携」することで、その
う とう ぎ
していくことが有効といえる。
点を克服した。そして、単にプログラムを一覧で
交通インフラとともに、集客ツールとしての顔
紹介するだけでなく、各施設間をストーリーでつ
を持つ新東名を、都市住民への情報発信や交流の
なげ、関連業者全体で1つのパッケージを作り上
きっかけ作りの場として活用していく。そして、
げているのだ。
中山間地域同士の水平的なつながりに加え、海で
の漁体験や平野部の産業観光など南北の軸でも連
「ほんもの体験」、「心の交流」、「連携」を軸に
グリーンツーリズムの拡大を図る
これらの事例から、滞在型グリーンツーリズム
結できる総合的な魅力を活かし、地域全体で迎え
入れる“静岡型グリーンツーリズム”の展開を期待
したい。
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