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想定外を想定する「ケタ違い品質」

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想定外を想定する「ケタ違い品質」
ものづくり編
7
法則
ホンダ流超え
創刊
周年号特集
20
ニトリホールディングス
想定外を想定する「ケタ違い品質」
家具販売チェーンがものづくりで自動車メーカ
を劇的に変えてきた。東南アジアにある自社工場
ーを超える─。にわかに信じがたい話だが、同
の改革にとどまらず、350 社以上ある取引先に乗
社のナンバー2 である杉山清取締役専務執行役員
り込み、無償で生産指導を繰り返してきた。
は「この 2 年間、リコールがない」ことに自信を深
ホンダで培ったものづくりの知恵を惜しみなく
めている。杉山専務はホンダで生産事業部長を務
伝え、生産性と品質を同時に引き上げる。そして最
め、2004 年にニトリに転じた人物で、ホンダ時代
終的にはニトリとの取引価格に還元してもらう。
には「品質の神様」と呼ばれた。ホンダのものづ
品質では一切の妥協を許さない。ニトリは家具
くりの生き証人が「ホンダ流超え」を確信してい
業界のリーディングカンパニーに上り詰め、社会
るというのだ。最近、自動車業界で注目を浴び
的責任を負う立場になった。期待と要望は高まる
る、 基幹部品を組み合わせたモジュール生産も
ばかりだ。その使命感が杉山専務を突き動かす。
「既にニトリで始めているよ」と言ってのける。
まして「クレームやリコールが出れば、お客様
「お、ねだん以上。
」をうたう低価格の家具販売
にご迷惑をかけ、コスト高にもなる」
。そこで品質
で躍進を続けるニトリは、全国に 250 店以上を構
保証のPDCA(計画・実行・検証・見直し)サイク
える小売業だ。ただし、家具の製造から輸入、配
ルを確立して「ケタ違い品質」を実現すると、杉
送までを全て手掛けるメーカーであり商社であり
山専務は本誌に宣言した(次ページの図)
。
物流会社でもある。杉山専務がニトリに招かれた
理由はここにある。2007 年から本格的に家具の
品質向上に取り組み、ニトリのものづくりや物流
家具も家電もバラして、問題点を突き返す
何がそんなにケタ違いなのか。杉山専務は東京
本部の一室に案内してくれた。そこでは「技術評
価会」が実施されている。プロジェクターで映し
出された画面には、安全な製品を販売するのに欠
ホンダから転じた「品質
の 神 様 」である 杉山清
専務執行役員
東京本部の一室で、家電製品の技術評価を実施しているところ
写真撮影:北山 宏一
APRIL 2012 日経情報ストラテジー
039
かせない、人体損傷や誤作動災害、健康影響、火
て取り扱わなかった実績まである。ケタ違い品質
災事故、耐久強度、そして実利用環境でのライフ
の実現には時に、製品を市場に出さないという
「止める覚悟」が必要になる。
テストといった管理項目が並ぶ。
これらは 2011 年 1 月から始めた「FMEA( 故
ニトリが 2011 年 3〜8 月に実施した技術評価は
障モード影響解析)
」と呼ばれる技術評価手法に
486 回に達する。不合格は 90 に及び、18.5%を採
基づく確認事項。
「“想定外”まで漏れなく想定す
用しなかった。それだけ歯止めをかけたわけだ。
ることで安全品質を提供する」
(杉山専務)
情熱は周囲をも動かす。ホンダからは 10 人の社
これまで家具の品質といえば、強度を指す時代
員が杉山専務を慕って、ニトリに移ってきた。ケタ
が長く続いた。当然、技術評価会では取引先から
違い品質を実現するには取引先を指導できるだ
届いた発売前の製品をバラし、骨組みだけに力を
けのひとづくりが欠かせないと、杉山専務は徒弟
かけて「意地悪
(耐久)
テスト」をする。問題が見つ
制度を設けた。ホンダ出身者に付けて、マンツー
かれば改善要求を出し、再提出を依頼。次のテスト
マン体制で若手を一人前に育てている。
で合格しなければ、市場には出さない。
自らは毎月、中国や東南アジアの取引先に出向
加えて、FMEAに基づく評価では、切り傷や
いて指導する。時には店舗や物流センターも訪
やけど、感電、アレルギー物質、発火などの可能
れ、顧客が見て理解しやすく選びやすい品質表示
性まで確認。約 200 人いるモニターを通じた家庭
や陳列になっているかまで確認。製品を運ぶ時
でのライフテストも経て、製品化を決定する。
に、工場で作り込んだ品質を劣化させていないか
技術評価の対象は家具だけではない。今後ニト
も調べる。販売はディーラー任せの自動車メーカ
リは「住まいの全領域に進出する」
(同)
。小型家
ーとは異なり、扱う品質領域までケタ違いだ。
電などの品ぞろえが急増することは確実で、既に
2012 年 3 月、ニトリは中国にある取引先 5 社の
電気製品の技術評価も始めている。2011 年度に
現場で、品質と生産性改善の工場見学会を開く。
は家電量販店が市場回収を発表した 5 つの製品に
この場に 100 社の取引先を招き、杉山専務率いる
ついて、ニトリは事前に「不合格」の判定を下し
品質業務改革室が指導したモデル職場である 5 社
の実例を現場確認を通
じて共有する。
●「ケタ違い品質」を実現するための品質保証サイクル
取引基本契約
・FME A
( 故 障モード 影 響 解
析)を用いた技術評価会
1 新規工場評価)
・QAV-(
・実利用環境でのライフテスト
計画反映・取引先評価
・クレームを分析するQIM
(品
質改善会議)
・保守拠点のCSC
(カスタマー
サービスセンター)
・事故の予兆を知らせるEWS
(早期警戒システム)
040
日経情報ストラテジー
APRIL 2012
取引先品質保証
マニュアル
P
A
ケタ違い
品質の実現
C
・QAV-2
( 継続工場指導)
・配送現場の物流品質向上
そして 2012 年度は生
産性 30%向上、スペース
30%削減、中間在庫ゼロ
を目標に掲げる改善対象
D
工場を20〜 30 社まで拡
市場品質
情報フロー
・販売前の安全品質確認
・200人体制のお客様相談室
大する計画だ。ホンダ流
を超える、杉山専務のも
のづくりの集大成なので
ある。
(川又)
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