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収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析

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収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
37
共同研究5 内生的成長モデルの応用に関する研究
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
高橋 青天
0.はじめに
Romer(1986)と Lucas(1988)により強調された収穫逓増技術の外部効果と内生的成長とい
う理論的視点は,過去10年以上に渉り,マクロ経済学,とりわけ成長論や発展論に大きな影響を
与え,またそれに関する膨大な論文が生産された。その成果は Aghion and Howitt(1998)を見
れば一目瞭然であろう。このような理論的分析の流行にもかかわらず,これら理論を直接支持す
る実証的研究の多くは,集計されたマクロ・データを使ったものであり,データの制約のために
産業レベルでの研究それほど多くはない。なかでも Hall(1988 ,1990)は,米国産業間の規模
の経済性を計測し,かなり大規模な経済性と生産の外部性が存在するという,Romer などの理
論を支持する計測結果を得た。この結果に関して,Bartelsman(1995)は計測上の定式化の誤
りを指摘し,Hall が得たような大規模な規模の経済性は認められないと結論付けた。さらに,
Basu and Fernald(1995 ,1997)の一連の研究では,米国のほとんどの産業で,規模の経済性は
せいぜい収穫一定であり,産業間の生産の外部性はほとんど認められないという結果を報告して
いる。これらの実証研究からわかることは,集計されたデータを使った場合,集計操作のために
規模の経済性が強く出る可能性があるということである。このことは,一種類の資本財や,代表
的産業部門として一部門しか考慮しない,ソロー・タイプの外生的成長モデルやローマー・タイ
プの内生的成長モデルが重大な問題を持っていることを示唆している。分析技術の観点から言え
ば,大域的な分析を行うためには位相図による分析に頼らねばならず,このことは,資本ストッ
クを示す状態変数を1変数に制約せざるをえないことを意味している。
本稿の目的は,上記の実証分析の結果を踏まえ,収穫一定の技術を持ち,多数の資本財から構
成され,人口成長率が外生的に与えられている最適成長モデルを構築し,その最適経路(=均衡
経路)の大域的性質をしらべることである。多数の資本財を含む最適成長モデルは,消費ターン
パイク理論として,1970年代から多くの研究成果が報告されている。その成果をまとめたものと
して McKenzie(1984 ,1990 ,1998)をあげることができるであろう。しかしながら,これら
成果は,生産関数や効用関数から構成される構造型モデルに関してではなく,そこから導かれた
誘導型モデルに関するものであった。本稿では,誘導型モデルで証明された消費ターンパイクの
諸成果を多数の資本財を含む多部門新古典派最適成長へ応用し,最適経路の大域的定性分析を行
った Takahashi(1985 ,1990 ,1992 ,1999 ,2001)の結果とその応用をなるべく簡潔に解説す
研 究 所 年 報
38
ることである。多部門モデルでの最適経路の大域的定性的分析は,一見,非常に複雑で手におえ
ないように思われる。ところが,以下で説明されるように,もし各部門の生産技術が収穫一定で
さえあれば,大域的分析は局所的分析に限定することが可能である。このことは,線形近似され
たシステムのみを分析することにより,最適経路の大域的行動を分析できることを意味している。
より詳しく述べると,後に述べる非代替定理から,最適定常経路を内点として含むフォン・ノイ
マン=マッケンジー・ファセットと呼ばれる平面が,誘導型モデルの目的関数表面に存在する。
この平面上の動学を分析することにより最適経路の大域的動学と局所的動学を同時に明らかにす
ることができるのである。重要なことは,非線形システムに含まれる線形構造を分析することに
より,非線形システムそのものの動学を分析できるという点である。
第1節では,一次同次な新古典派生産関数からなる,多数資本財を含む新古典派最適成長モデ
ルの解説とその誘導型モデルへの変換が解説される。第2節は,J. Scheinkman(1976)と L.
McKenzie(1983)により研究された,消費ターンパイク定理の証明方法の解説に当てられてい
る。また,次節で重要な働きをするフォン・ノイマン=マッケンジー・ファセット(Von
Neumann=McKenzie Facet)の概念とその性質が第3節で説明される。第4節では,これまで
に導入された概念を使って,より特殊な二部門古典派最適成長モデルを分析し,最適定常経路
(修正黄金経路とも呼ばれている)の近傍での最適経路の動きが,フォン・ノイマン=マッケン
ジー・ファセットの動学的性質で分類されることを見る。さらに,この結果を使って,最適経路
の局所安定性と Benhabib and Nishimura(1985)で得られた最適経路が二期の周期解となると
いう定理を,より弱い仮定のもとで証明する。第5節で,二部門で得られた大域的漸近安定性の
結論が,2種類以上の多資本財を含むモデルへの一般化が検討される。付論では,本文で使用さ
れる重要な基本概念が定義され,いくつかの定理が証明されている。
1.構造モデルと誘導型モデル
ここで研究する構造モデルは Srinivasan(1965)の二部門新古典派最適成長モデルを多資本財
へと一般化した Burmeister and Graham(1975)モデルである。
(0 < r < 1) (1.1)
_
subject to k (0) = k
(1.2)
(1.3)
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
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(1.4)
(1.5)
(1.6)
ただし,記号は次を意味している。
g
=人口成長率 (0
r
=主観的割引率,
r
= (1+g) / (1+r) ,
( g< r)
u
=代表的個人の効用関数,
g
1), = t 期における一人当たりの消費財消費量,
= t 期における第j部門の一人当たり生産量,
=初期資本ストックベクトル,
=j部門の一人当たり生産関数,
= t 期にj部門で使われるi資本財の量,
= t 期にj部門で使用される労働量,
=i資本財の減価償却率(0< d i <1)
。
di
これからの議論のために以下のような標準的仮定を置く。
仮定1.1 1)uは強凹かつ単調増加な
上で定義された連続微分可能な関数である。2)
もし c →0であれば,u →−∞。
仮定1.2 1)すべての財は,一次同次かつ連続微分可能で,強準凹な
生産関数
上で定義された
で生産される。2)すべての財の生産には,少なくとも一つの資本財投
入が必要である。3)すべての財の生産には,労働投入が直接的,間接的に必要である。
ここで(1.3)式から(1.6)式は,Benhabib and Nishimura (1979a)で示されたように,社会
1)
的変換関数 c (t) = T ( y (t), k (t) ) にまとめることができる。ただしベクトルは断りのないかぎり,
行ベクトルを表すことし,列ベクトルは転置行列記号“ ’ ”で示すことにする。ここで,y
( t ) = ( y1 (t), …, yn (t) ) および x (t) = ( x1 (t), …, xn (t) ) である。さらに,社会的変換関数は凹かつ連
続微分可能な関数となる。社会的変換関数を使い,x が期首資本ストック行ベクトルを,z が期
末資本ストック行ベクトルを表すとき,次を定義する。
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定義1.1
-
V (x, z) ≡ T [ (1+g) z−x (I − D ), x]
ここで
である
以上の議論より(1.1)(
- 1.6)からなる問題は,次の誘導型問題に書き換えられる。
いま,t 期と t −1期の任意の二期間を考え,k (t −1) と k (t +1) が与えられているとき,k (t)
についての最大化問題は次のように定義される。
さらに,内点解しか考えないとすると,次式が最適解の必要条件として求められる。
Vz ( k (t −1), k (t)) +r Vx( k (t), k (t +1) ) =0 ( t
1) (1.7)
ただし,
V1 (k (t), k(t+1) ) = (∂V (k(t), k(t+1) )/∂ k1(t), … ,∂ V (k (t), k (t+1))/∂ kn(t)),
V2 (k (t−1), k (t)) = (∂V (k(t+1), k(t))/∂ k1(t), … ,∂ V (k (t+1), k (t))/∂ kn(t)),
また, 0 はn次元ゼロベクトルである。ここで,最適経路上で(1.7)式はすべての期間 t 0
で成立せねばならない。
(1.7)式はオイラー方程式(Euler equations)と呼ばれている。
さらに,オイラー方程式を使って,最適定常経路は次のように定義される。
定義1.2 最適定常経路(optimal steady state)
�k (t)=k(t+1)=k r とは,次のオイラー方程式を
満たす最適経路でる。
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
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Vz(k r, k r)+rVx (k r, k r)=0
r
これからは,最適定常経路を“OSS”
,あるいは,ベクトル表示で“k ”と表示することに
する。また,最適定常経路上での価格は,社会的変換関数の偏微分係数を使って次のように定義
できることに注意しよう(Burmeister and Dobell ,1970 ,の9.5節を参照)
。
r
r
q = ∂ u(c )/∂c,
r
r
r
r
p i = −q ∂ T (y , k )/∂ yi (i=1, 2, … ,n),
r
r
r
w i = q r∂ T (y , k )/∂ ki (i=1, 2, … ,n),
また r
r r
r r
r r
w 0 = q c +p y −w k ,
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
ただし,p = ( p 1, …, pn ), w = (w 1, …, w n ), y = ( y 1, …, y n )’, k = ( k 1, …, k n )’
。
これら価格を使ってオイラー方程式に現れる偏微分を書き換えると以下のようになる。
Vx( kr, kr ) = −p r (I−D) + w r,
かつ (1.8)
Vz(kr, kr) = − (1+g) p r
いま,これら関係をオイラー方程式(1.7)式に代入すると,
さらに計算すると,
r
r
p i = wi / (r +d i ) (i=1, … , n) (1.9)
が求められる。この結果からオイラー方程式は,
各資本財の裁定条件式を表していることが分かる。
2)
各部門の生産関数が微分可能な一次同次であり,主観的割引率 r が与えられたとき,仮定1.1
と仮定1.2のもとで,各部門の費用関数も一次同次関数となり次で定義される。
さらに,費用最小化条件(価格=単位費用)とオイラー方程式から導かれた(1.9)式より,
最適定常経路に関しては次が成立しなければならな
(1.10)
(1.10)式から,次の重要な定理が OSS に関して証明される。
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補 題1.1(OSS上での非代替定理)主観的割引率 r が与えられたとき,
(1.10)式を満たす,少
3)
r
r
なくとも一組の相対価格ベクトル p /w0 と相対要素価格ベクトル w /w0 が存在する(ただし,
以下の議論では各価格ベクトルは賃金率 w0 =1と基準化する)
。さらに,これらの価格に対応し
r
た投入係数 ∂ C i/∂ wj = a ij (i = 0, 1, …,n ; j = 0, 1, …, n) も決まる。
証明 Burmeister and Dobell(1972, p.242), Burmeister and Kuga (1970)の定理1,あるいは,
入谷・久我(1999)の10.6 節を参照。■
こうして選択された OSS 上の技術行列を次で表すことにしよう。
r
ここで aij のiは投入物を,jは生産部門を示している。ただし,i=0 は労働投入を,j=0 は
r
消費財生産部門を表している。また,仮定 1.2 は OSS 上では,技術行列 A を使って,仮定 1.2 ’
として表すことができる。
4)
仮定1.2’
すべての正の要素価格ベクトルについて,下記の非負の投入行列 A は分解不能行列
r
r
r
r
であり,さらに行ベクトル a 0 = (a 00 , a 0.) の要素はすべて正である。
さらに OSS の性質を強めるために,以下の一連の仮定を追加する。
仮定1.3 主観的割引率 r が与えられたとき,
存在する。ただし,行列
,
は下記のように定義されている。
を満たす技術行列
が
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かつ
である。
この仮定は,実行可能性条件(viability )と呼ばれ,投入量以上の生産物が生産可能である,
という条件である。詳しくは Burmeister and Dobell(1970)を参照。
仮定1.4 主観的割引率 r
5)
r
r
0 は r <1/l’である。ここで,l’は行列 a ( I −D a ) -1 の最大固有根
r
(フロベニウス根)であり,a は最適定常経路上で選択される技術行列を表す。
仮定1.4は,主観的利子率が,定常均衡経路を不可能にするほどは大きくないという条件であ
る。これらの仮定のもとで,次のもっとも基本な定理が証明される。
補題 1.2 仮定 1.1,仮定 1.2 さらに仮定1.4 のもとで,次が成立する。
1)V (x, z) は,凸集合 D 上で定義された凹関数である。
¦z¦<h<∞となるような h>0 が存在する。
2)(x, z)∈D かつ¦x¦<x<∞のとき,
3)(x, z)∈D で あ れ ば , x ’>
_ x か つ 0<
_ z ’<
_ z が 成 立 す る す べ て の ( x ’, z ’ ) は 集 合 D に 属 し ,
か つ V (x’, z’) >V
_ (x, z)である。
4)¦z¦>
_ uであれば,(x, z)∈D に 関 し て ,¦z¦<k¦x¦(0<k<1)となるような u>0 が存在する。
証明 Takahashi(1984)を参照。■
McKenzie(1986,Theorem 7.1を参照)は,誘導型モデルが補題1.2の1)から4)までの性質
を満たす場合に,OSS が存在することを証明した。この結果と補題1.1より,仮定1.1 ,仮定1.2
と仮定1.4のもとで,我々の構造型モデルを社会的変換関数によって誘導型モデルへと変換した
場合でも,OSS の存在が保証されることになる。ターンパイク定理を証明するためには,最適
定常経路の性質をさらに強める必要がある。
r
補題1.3 主観的割引率 r が与えられたとき,最適定常経路を表す正のベクトル k ( ≫0) が一意
に存在し,それに付随する価格ベクトルもすべて正ベクトルとなる,すなわち
r
r
r
( q , p ) ≫0,w ≫0
である。
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証明 付論(A.5)で証明されている。■
この結果を使って,最適定常経路上での市場均衡条件と費用最小化条件が以下のように表せる
ことに注意しよう。
(市場均衡条件)
かつ (費用最小化条件)
これらの関係をそれぞれ解くことにより,
さらに,
r
が最終的に求められる,ここで b は次で定義される。
この行列に関して,次の「一般化された資本集約度条件」を定義する。
定義1.3 行列 A の逆行列 B のすべての対角要素 b ii が正(負)で,
非対角要素 b ij が負(正)
r
r
r
r
r
であるとき,この行列 A は,SSS-I 条件(SSS-II 条件�)を満たすという。
r
この条件の意味を考えるため n = 1 のケースを考えてみよう。このとき逆行列 B は下記で表
される。
したがって,SSS-I 条件が成立すれば,
あるいは,
こうして,SSS-I 条件は,資本財部門の生産が消費財部門のそれよりも資本集約的であること
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を意味している。同様にして,SSS-II 条件は,逆に,消費財部門が資本集約的であることを意
味している。こうして,Inada(1971)で詳しく研究されたように,n = 1 のとき,これら条件は
良く知られた二部門の要素集約度条件と同値になる。さらに,n = 2 の場合には,これらの条件
から集約度条件を導くことができる。すなわち,SSS-I 行列は,消費財部門よりも資本財部門が
資本集約的である集約度条件を,また,SSS-II 行列は消費財部門が資本財部門よりも資本集約
的である集約度条件となる。しかしながら,n
3 の場合には,
「一般化された資本集約度条件」
r
と通常の集約度との関係は明確ではない。いま,r = 1 の OSS(k* と表示)で評価された A 行
列(A* と表示)について一般化された資本集約度条件,SSS-II 条件を仮定する。
仮定1.3 技術行列 A* は逆行列を持ち,SSS-II 条件を満たす。
この仮定のもとで,OSS は r = 1 の近傍で,r に関して連続的に動くことが証明される。
r
補 題 1.4 仮定1.3のもとで,適当な正の値が存在し <1
,最適定常経路を表すベクトル k
r
は, r Œ [ r, 1] の連続なベクトル関数となり,k r = k ( r ) = (k1( r ), … ,kn( r ) )’と表示される。
証明 オイラー方程式を k*と r = 1 の近傍で直接展開することにより,以下のヤコビ行列が求
められる。
J (k*, 1) = Vx x (k*, k* ) + Vx z (k*, k* ) + Vz x (k*, k* ) + Vz z (k*, k* )
このヤコビ行列は(1.8)式をもう一度 x,y に関してそれぞれ偏微分することにより求められ
る。このとき,次の関係が成立していることに注意する。
Tyy = [−∂ p / ∂ y], Tyx = [−∂ p / ∂ k], Txy = [∂ w / ∂ y], Txx = [∂ w / ∂ k] (1.11)
ただし,各行列は,社会的変換関数 T (y, k) のヘッセ行列に含まれる次の小行列を表す。
これらの関係を考慮してヤコビ行列を計算すると
ここで,それぞれのヘッセ行列の小行列は k* で評価されているので,
(1.11)式から,もし b*
が正則であれば,
[∂ k / ∂ y] * = { [∂ p / ∂ w] * }’ = ( b*) -1
さらに,ヘッセ行列の対称性から,
[∂ p / ∂ k] = − [∂ w / ∂ y]’
が成立している。これを(1.11)式に代入して,
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T*yy = ( b* ) - 1 T*xx ( b* ) - 1 ,T*yx = − { ( b* ) - 1 } ’ T*xx, T*xy ( b* ) - 1
が求められる。これら関係をヤコビ行列に代入して整理すると,
J ( k*,1 ) = ( b* ) - 1 [ b*− ( g I +D) ] T*xx = ( b* ) - 1 [ b*− ( g I +D) ]
が求められる。村田(1977 ,p.9)より
det A* = a*00 det ( b* ) -1
が成立している。 A* が逆行列を持ち正則なので, b* も正則となる。よって [ b*− ( g I +D) ] が正
則であれば証明が完了する。これは,第5節の定理でも使われる,行列が行に関するドミナント・
ダイアゴナル(優対角)行列となることにより証明される(Burmeister and Grahm(1975)
, Theorem
2を参照)
。■
この補題により,最適定常経路上のすべての価格ベクトルと技術行列の各要素は, r Œ [ r, 1]
の連続関数となる。
2.消費ターンパイク理論
ここでは,Scheinkman(1976)とその一般化を行った McKenzie(1983)の論文でターンパ
イク定理の証明に用いられたロジックを簡単に説明する。さらに,それらの定理が適用可能とな
るための条件を明らかにする。彼らが最適経路の最適定常経路への大域的漸近安定性(ターンパ
イク定理)の証明に使った方法は,損失価値法(value-loss approach)と呼ばれる方法である。
いま,V関数が強凹性を満たすと仮定する。このとき,図1を描くことができる。
最適定常経路に対応する点は,図中では点Mで示されている。強凹関数の性質により,N点を
図1 損失価値
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通る支持超平面が一意に存在し,それに直交するベクトルとして価格(シャドー・プライス)ベ
クトルが求められる。いま,最適経路が最適定常経路の近傍から離れ続けるとしよう。例えば,
今期と来期の資本ストックがP点に在ったとする。このときの損失価値はV関数と超平面との距
離 RQ では測ることができる。もし最適性が任意の e −近傍からは離れ続けると,明らかに損失
価値の和が増加し,結局最適経路の最適性の定義に矛盾することになる。こうして,最適経路は
この近傍を計画の大部の期間訪れなければならないことが証明される。この損失価値法は,もと
もと Ramsey(1928)や Atsumi(1965)などによりターンパイク定理の証明に使われた。ところ
が,我々の問題のように目的関数に割引率 r が入ると,損失価値も割り引かれてしまうので損失
価値が蓄積せず,この矛盾を導くことが難しくなる。
Scheinkman(1976)は損失価値法を,目的関数が強凹であり,かつ割引率が正であるような誘
導型モデルへと適用し,二段階でターンパイク定理を証明した。第一段階は,損失価値法を適用
してビジット・レエンマ(Visit lemma )と呼ばれる補題を証明する。
補題2.1(ビジット・レエンマ)任意の e >0に対して,適当な r ’>0が決まり,r ’ < r <1
に関して,最適経路は少なくとも1回は,最適定常経路の e −近傍に入らねばならない。 図2には,最適経路がある有限期間の間近傍を訪れることが破線で概念的に描かれている。
第二段階では,V関数の微分可能性を使い,オイラー方程式を最適定常経路の近傍で展開し,
その特性根を調べることにより局所安定性を証明する。また,局所安定性は,最適定常経路がサ
ドル・ポイントの安定となることを示すことにより証明される。オイラー方程式(1.7)を最適
図2 ビジット・レンマと近傍ターンパイク
研 究 所 年 報
48
6)
定常経路の近傍で線形近似し,V rxz の行列式がゼロでないとすると,次の(2.1)式が求められる。
r -1
r
r
r
r
z t+1= − (Vxz
(2.1)
) (Vxx + r -1 Vzz ) z t − r -1 (Vxz ) -1 Vzx z t - 1 r
ここで,すべての行列は最適定常経路で評価されており,z t = k t− k である。
まず,最適定常経路の近傍で,
(1.7)式のオイラー方程式を線形化した差分方程式(2.1)の特
性方程式の特性根の絶対値が1より大きい根と1より小さい根を同数だけ持つことを示すことに
より,最適定常経路がサドル・ポイント安定となることが証明される。このとき次の補題2.2が
重要な働きをする。
補題2.2 l が(2.1)式の特性根であれば,1/rl もその特性根となる。
証明 Levhari and Livitan(1972)を参照。また,重複根も許す場合の証明は,Becker and Boyd
(1997)の Lemma 12を参照。■
割引率 r が1か,あるいは1に十分近いとき,もし n 個の特性根の絶対値が1よりも大き(小
さ)ければ,他の n 個の特性根の絶対値は1よりも小さく(大きく)なる。こうして OSS の近
傍でのサドル・ポイント安定が証明される。しかしながら,サドル・ポイント安定の証明だけで
は,局所安定性の証明には不十分であることに注意しよう。例えば,図3の CD で表示された安
定多様体の場合,A点より出発する経路は,どのようにしても安定多様体には明らかに乗れない
ので局所安定性は成立しない。
この点は McKenzie(1963)で初めて問題とされたが、長い間無視された。Scheinkman は二次
図3
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
49
r
の微分係数よりなる OSS で評価された V zz 行列が正則である,という条件のもとで,図3の CD
で表示されるような垂直の安定多様体のケースが生じないことを証明した。割引率 r を十分に
1に近づけると , 補題2.1から,最適経路はすくなくとも1回は最適定常経路の近傍を訪れなけれ
ばならない。このとき,安定多様体に乗る経路が最適経路となることが,横断条件と強凹性より
証明される(Scheinkman(1976)の補題16を参照)
。こうして,最適経路は OSS へと収束せね
ばならない。ここで,r の連続的変化とともに安定多様体も r ともに連続的に変化することは,
Hirsch-Pugh 安定マニホールド定理(Palis
�
and de Melo(1982)
,p.75 を参照)により保証される。
McKenzie(1983)は,Scheinkman(1976)の結果をV関数が最適定常経路を含む平面を持つ場
合へと拡張した。ここで図4を見てみよう。このとき,V関数は強凹ではなく,フラットな部分
を持つ凹関数となっている。M点は最適定常経路を示している。最適定常経路を含む平面を (x,
z) 平面へ投射したものは,フォン・ノイマン=マッケンジー・ファセット(以下 VMF と表す)
と呼ばれ,次で定義される。
図4
定義2.1 VMF は,以下で定義された集合である。
r
r
r
r
r
r
r r
r r
F (k , k ) = { (x, z) ŒD : [V (x, z) + r p z−p x] = V (k , k ) + r p k −p k }
McKenzie(1983)は,Scheinkman(1976)と同様に,二段階でターンパイク定理を証明する。
まず,r = 1 のときの VMF 上に周期解が存在しない,という条件のもとで損失価値法を適用し
て次の近傍ターンパイク定理(リャープノフ安定性 とも呼ばれる)を証明する。
研 究 所 年 報
50
定理(近傍ターンパイク定理)1)r = 1 のときの VMF 上に周期解が存在しない。2)VMF
の近傍から乖離すると,一様な損失価値が発生する。これら条件のもとで,最適経路は,最適定
常経路の任意の e − 近傍に対して r ”( Œ ( 0 , 1 ) ) が存在し,すべての r ( Œ [ r ”, 1 ] ) に関して,最
適経路はその近傍から出ない。また,r を1へ近づけることにより,いくらでも小さな e を取る
ことができる(図2の実線の経路で概念的に示されている)
。
証明 McKenzie(1983)の定理3を参照。■
この結果と前に説明した局所安定性を証明することにより,r を十分1に近づけることによっ
てターンパイク定理を証明することができる。ここで注意すべきことは,Visit Lemma および近
傍ターンパイク定理の証明には微分可能性の仮定は一切不必要であり,一般的な条件のもとで成
立する,という点である。すなわち,ターンパイク定理の証明で,微分可能性は第2段階の局所
安定性の証明でのみ必要となる。ここまでの議論を,包括的に詳しく研究した論文として
McKenzie(1984)がある。また,McKenzie(1990, 1998)では,これらの議論が証明なしで簡潔
に解説されている。
3.フォン・ノイマン=マッケンジー・ファセット
この節では,誘導型モデルに関して定義された VMF が,我々の構造型モデルでどのように特
徴付けられるかを考える。次の補題は VMF に関するもっとも基本的なものである。
補題 3.1
r
r
(x, z) ŒF (k , k ) が成立するのは,1)から3)を満たす (c, y)’
1)c = c
0 が存在する場合に限られる。
r
2)
3)
が成立するときである。ここで,
は n + 1 次元の単位行列,
-1
また G は以下で定義される行列である。
証明 VMF の定義より,
r
r
r
r r
r r
u( c ) +rp z−p x=u ( c ) +rp k −p k
が成立している。さらに,
(1.9)式から,オイラー方程式は,(r I + D) P r = Wr を意味している。
また,蓄積方程式から,
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
r
r
51
r
k = 1 / ( 1 + g ) [ y + ( I −D ) k ]
かつ
z = 1 / ( 1 + g ) [ y + ( I −D ) x ] が成立している。これらを上記 VMF の定義に代入することにより,
r
r
r
r
r
r r
r r
[u ( c ) −c] + [ c + p y −w x ] = [u ( c ) −c ] + [ c + p y −w k ]
あるいは,
r
r
r
r
r
r r
r r
{ [u ( c ) −c] − [ u ( c ) −c ] } + { [c+ p y −w x ] − [ c + p y −w k ] } = 0
r
が求められる。いま,c ≠ c としよう。u 関数が強凹関数なので,第一項は負となる。したがっ
て,等号が成立するためには,第二項が正とならなければならない。しかしながら,このことは,
r
社会的変換関数 T ( y, k ) が凹関数であることに矛盾する。よって,c = c (条件1)
)かつ
r
r
r
r r
r r
c+ p y −w x = c + p y −w k
が成立せねばならない。
このことは,VMF 上では,OSS と同じ技術行列が選択され,市場均衡条件と最小費用条件2)
が満たされることを意味している。■
この補題から,VMF 上での動学は,条件3)の蓄積方程式で表されることになる。補題の条件
r
r
2)を y に関して解くと,y = b x + b .0 が求められる。ここで,各行列は,以前に定義された,
r
B 行列の部分行列を表している(第1節を参照)
。こうして,条件3)は次のように書き換えら
れる。
r
z = ( 1 / ( 1 + g ) ) ( b r + I − D) x − ( ( 1 / ( 1 + g ) ) b.0 (3.1)
次に,VMF の次元を分析してみよう。もし,V関数が強凹関数であれば,明らかに VMF の
次元はゼロとなる。ところが,各部門が収穫一定の技術で生産を行っている我々の場合,V関数
は単なる凹関数にしかならず,VMF は有限の次元を持つことになる。
r
r
補題3.2 dim F ( k , k ) = n − 1
n
h
証明 いま,d0 = 0 かつ
h
h
h
h
であるような再配分ベクトル d = ( d 0 , d 1 , … , d n ) を
i
考える。この再配分ベクトルを使って,以下のベクトルを定義しよう。
補題3.1から,を十分小さく取ることにより,明らかに条件1)から条件3)を満たすように
研 究 所 年 報
52
r
r
することができるので,( x h, z h ) ŒF ( k , k ) である。また,労働制約より,このような一次独立
な再配分ベクトル d h は n -1個しか取れない。したがって,VMF の次元も n -1次元となる。■
この補題から,VMF の次元は資本ストック k の次元よりも1だけ小さくなる。次の仮定を置
くことにより,資本ストックの次元を n に回復すことができる。
r
r
仮定3.1 OSS の近傍で,消費の限界効用は一定である;du ( c )/dc = 1, d2 u ( c )/dc2 = 0.
r
r
補題3.3 仮定 3.1 のもとで,dim F ( k , k ) = n が成立する。
r
r
証 明 OSS の近傍で,仮定3.1は [u (c) − c] = [u ( c ) − c ] を意味している。したがって,c = c
r
が成立するように消費財部門に労働を配分する必要がなくなり,自由度が一つ増える。それゆえ,
VMF の次元も一つ増え n となる。■
第2節で近傍ターンパイクを証明するときに重要となる,VMF の近傍での「一様な損失価値」
を証明するときに重要となる補題を掲げておく。
r
r
補題 3.4 F ( k , k ) は r Œ [ r, 1] に関する連続写像となる。
証明 VMF が上半連続であることは定義から容易に証明できる。さらに下半連続であること
は,第1節の補題1.4 から証明される。詳しい証明は Takahashi(1985)を参照。■
4.二部門最適成長モデル
1節で述べたように,誘導型モデルによる消費ターンパイク理論の成果は,Benhabib and
Nisimura(1979a, 1979b)や Yano(1990)を除き,一般的な新古典派最適成長理論への適用はほ
とんど行われなかった。その最大の理由は,構造型モデルである新古典派最適成長モデルを誘導
型モデルへ変換したとき,各部門の生産関数に関する収穫一定性の仮定から,目的関数 V が強
凹とはならず,最適定常経路を含む平面部分が V 関数の表面上に存在するからである。このた
め,このようなケースを分析した McKenzie(1983)からもわかるように,ターンパイク定理の
証明はかなり複雑になる。
ここでまず,誘導型モデルと生産関数から成る構造モデルとの橋渡しをする第2節で導入され
たフォン・ノイマン=マッケンジー・ファセットを二部門モデルに関して詳しく調べることにし
よう。3節での補題3.1により,新古典派モデルでは VMF は次のように再定義できる。
定義 4.1
r
r
F ( k , k ) は,次の条件⑴から⑸を満たし,かつ,c ( t )
である。
0と y ( t )
0が存在するようなの集合
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
53
r
⑴ 1 = w0 a10 + w a10 ,⑵ p = w0 a01 + w a11 ,⑶ 1 = a00 c ( t ) + a10 y ( t ) ,
r
r
⑷ k ( t ) = a 01 c ( t ) + a 11 y ( t ) ,⑸ k (t + 1) = y ( t ) + (1−d ) k ( t ) ) 。
ここで,消費財価格は1に基準化され,さらに,単純化のため人口成長率は1と仮定されている。
⑴と⑵式は費用最小化条件であり,⑶と⑷式は労働と資本財の需給均衡条件である。さらに,
⑸は資本財の蓄積方程式である。この定義から,VMF 上の各点は最適定常経路と同じ価格ベク
トルの超平面によって支持されている。従って,VMF 上の各点では,最適定常系路上で選択さ
r
れると同様の技術行列 A (この行列は仮定1.2’で定義されている。
)
が一意に選択される。い
ま,消費財部門が資本財部門に比べた要素集約度を次のように定義しよう。
定義 4.2(集約度条件)
r
r
r
r
r
r
a 11 /a 01 < a 10 /a 00 が成立するとき,消費財部門は資本財部門に比べて資本集約的 であり,a 11 /a 01
r
r
> a 10 /a 00 のとき,資本財財部門は消費財財部門に比べて資本集約的 である。
消費財部門が資本集約的であるという仮定のもとで,貿易理論でよく使われる図5を ( y ( t ) ,
c ( t ) ) 座標平面上に描くことができる。
図5
r
r
ここで ( y , c ) は最適定常経路に対応した生産ベクトルであり労働制約直線と資本制約直線
r
の交点として描かれている,また, ( 1 , p ) はその価格ベクトルである。さらに,労働制約線が
上から資本制約線を切っているのは,上記で仮定した資本集約度の仮定のためである。A点とB
点では,生産の特化が生じている。
研 究 所 年 報
54
-
r
いま,OSS { k } よりも大きい k ( t ) (< 1 / a 10 ) が与えられたとしよう。このとき,資本制約線を,
r
r
価格ベクトル (1, p ) をそのままにして労働制約線に沿って上方向へ移動すると,新しい交点E
-
-
が求められる。また,E点で,対応する生産ベクトル ( y ( t ), c ( t ) ) が求められる。さらに,この
-
値を蓄積方程式⑵へ代入することにより,次期の資本ストック k ( t + 1) が得られる。こうして求
-
-
まった資本ストックのペア ( k ( t ), k ( t + 1 ) ) を ( x, z) 平面にE点としてプロットすることができ
る。k (t) をさらに変化させ,同様の手順を繰り返し行うことにより,図6のように ( x, z) 平面上
に直線 AB を描くことができる。このとき,産出平面上の労働制約線 AB が平面上の直線 AB に
ちょうど対応していることが分かるであろう。この直線 AB から両端を除いた部分がフォン・ノ
イマン=マッケンジー・ファセットである。
図6
⑶と⑷より,
r
r
y ( t ) = b k ( t ) + b 01 (4.1)
r
r
ここで, b と b 10 は下記で定義されている。
さらに,蓄積方程式⑸と(4.1)式より
r
r
k ( t + 1 ) = [ b + (1−d )] k ( t ) + b 10 (4.2)
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
55
h ( t + 1 ) = k ( t ) − k r と定義することにより,差分方程式(4.3)が求められる。
h ( t + 1 ) = [ b r + (1−d )] h ( t ) (4.3)
明らかに VMF 上の経路の動きは,この差分方程式を調べることにより求められる。いま,適当
に単位を選ぶことにより,行列の値を次のように,基準化することができる。
前節の議論から,局所安定性のためには,すくなくとも二次の微分係数より成る行列式
ゼロではない,という条件が必要であった。二部門モデルで
r
Vx z
が
は次のように計算される
(Benhabib and Nishimura(1985)を参照)
。
(4.4)
r
r
これより, b = − (1−d ) 以外では Vx z はゼロとはならない。
二部門誘導型モデルにおいて,最適経路が大域的にどのような振る舞いをするかは,近傍ターン
パイク定理と局所的な最適経路の動きを見ることにより明らかにすることができる。近傍ターン
パイク定理が新古典派生産関数を持つ多部門モデルで成立することは,Takahashi(1985)で厳
密に証明されている。この証明で重要なポイントは,VMF の近傍で一様な損失価値が生じるこ
と示すことである。この点は,VMF が r に関して連続であるという補題3.4より証明される。
上記定理により,r を1に十分近づけることにより,最適経路は最適定常経路の近傍に入り,
けっしてそこから出ない。こうして,この近傍内での最適経路の動きを調べることにより最適経
路の大域的振る舞いが明らかにされることになる。2部門モデルの場合,近傍内での最適経路の
動きは,次の補題で明らかにされている。
とする(ただし,b* は r = 1であるときの br を示す)
。この
補題4.2 いま,
∼
~
とき,1> r >0 が存在し,r Œ [r, 1] に対して,最適経路
は OSS へ漸近収束するか,
あるいは周期2の周期解に収束する。
証明 付論(A.6)で証明。■
この補題から,最適経路の局所的性質は,どんなに複雑な場合でもせいぜい周期2の周期解に
しかならないことが明らかになる。最適経路が最適定常経路の近傍でどのように変化するかは,
r = 1 ( r = g ) が成立する VMF 上の動学によって分類される。4.1 節では,VMF が不安定多様体
となるケースを,4.2 節では,VMF が安定多様体となるケースをそれぞれ考えよう。
4.1 ケース1:
(4.3)式より,VMF 上の経路はすべて発散する。言葉を換えて言えば,VMF は不安定多様体
となる。これから,VMF 方向の特性根の絶対値は
題2.1より,特性方程式(2.1)は
となることがわかる。このとき,補
も固有根として持つ。ゆえに,それに対応し
研 究 所 年 報
56
た固有ベクトルで張る線形空間が安定多様体となる。こうして,r = 1の近傍から r を選ぶこと
により,最適経路は補題4.2より最適定常経路に漸近収束し,局所安定性が成立する。この結果
と近傍ターンパイク定理とを合わせることにより,次のターンパイク定理が証明される。
7)
定理1(ターンパイク定理 )
8)
ケース1のもとで,r '>0 が存在し,r Œ [ r ' , 1 ) と十分性 を満たす任意の初期ストック k0 につ
いて,
となる。
次に,ケース1が成立したままで,次の仮定を追加しよう。
仮定4.1 ここで r は補題4.2で求められたものである。
~
このとき次の重要な定理を証明することができる。
定理2(安定周期解の存在)
仮定4.1が成立するとき,
が存在し,
となる割引率に対応する最適経路
は,2期の周期解に収束する。
証明:仮定4.1から,
を選ぶことにより,
このとき,補題2.1から特性根
とすることができる。
を同時に持つことが判る。こうして OSS
で全不安定となる(図2を参照)
。このことは,最適経路が対応する OSS に漸近収束できないこ
とを意味している。補題4.2より,最適経路は2期の周期解に収束せねばならない。■
こうして,VMF が不安定多様体となる場合には,ターンパイク定理が成立するか,あるいは
2期の周期解へ収束することが証明された。定理2の結果は,Benhabib and Nishimura (1985)
の定理5で,V関数の定義域 D 上のすべての点で,Vxz≠ 0である,というより厳しい仮定のも
とで証明された定理である。彼らは,VMF を導入しなかったため,不動点定理により2期の周
期解の存在するための十分条件を求め,それを使って証明した。ここでは,VMF を導入するこ
とにより,より弱い仮定のもとで,直接的に証明されている点が異なっている。
消費ターンパイク理論では,割引率 r が1に十分近づけば,最適経路は安定的となり,割引
率 r が0に近づくと周期解やカオスが発生されることが知られている。たとえば,r を0へ十分
近づけると,仮定4.1で定義された区間の幅が無限大となり,周期解の可能性が非常に高くなる。
r
逆にどのような1に近い割引率に関しても,定理2で証明されたように,b と r とを適当に取
ることにより周期解を発生させることは可能である。
4.2 ケース2:
この場合,
(4.3)式より VMF 上の経路は再び漸近安定となるので,VMF 自体が安定多様体と
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
57
なる。また,r を十分1に近く取ることにより,VMF を r = 1 の近傍で安定多様体とすることが
可能である。こうして,局所安定性が成立し,前節と同様に近傍ターンパイクと合わせることに
よりターンパイク定理が成立する。
5.多部門モデルへの一般化
この節では,4節で証明された2部門モデルでの結果を,1節で説明された多資本財を含む多
部門モデルの場合へと拡張する。ただし,以下では,1節での設定と同様に,人口成長率 g はゼ
ロではないと想定する。
r
ここで,前節で求められた行列 Vxz は1節での結果を使い次式を求めることができる。
(5.1)
4節の1資本財モデルでの(4.4)式から,多資本財ケースでは上式のようになることが容易に
想像できるであろう。さて,各部門の生産関数の凹性と,一般化された集約度条件のもとで,行
r
列 Vxz の行列式はゼロにならない。こうして,二階の連立定差方程式(2.1)を求めることができ,
補題2.2が成立する。
同様にして3節の(3.1)式より,ファセット上の経路の動きを表す定差方程式は下記のよう
に一般的に書き換えられる。
(5.2)
r
ただし,h ( t ) = x − k , h ( t + 1 ) = z − k である。
r
(4.3)式との違いは,人口成長率 g を含むことと,d が行列 D に書き換えられた点だけである。
さらに,局所安定性の証明には次の補題が適用される。
補題5.1 x を定常解として持つ次の定差方程式体系を考えよう。
x( t +1 ) = ( C + I ) x (t)
ここで,
かつ行列 C は n×n 行列とする。このとき,もし行列 C が行に関する負のド
9)
ミナント・ダイアゴナル(優対角)を持てば,C + I は,下記に定義されるノルムにより x ( t ) = 0
で縮小的(contractive)であり,体系は大域的漸近安定となり,リャープノフ関数は
である。ここでノルム
は
と定義され,c i は正の定数である。逆に,もし行
列 C が行に関する正のドミナント・ダイアゴナルを持てば,体系は全不安定となる。
証明 前半は,Newman(1961 ,pp27-24)で証明されている。後半の全不安定性の結果は,
正のドミナント・ダイアゴナルを持てば,その行列の固有根が正の実部を持つことから容易に導
かれる。■
研 究 所 年 報
58
補題4.1を適用するために,
(5.2)式の係数行列が下記のように変形できることに注意しよう。
(5.3)
定理4 VMF は,行列 b r が SSS-II であれば安定多様体となり,SSS-I のときには不安定多
様体となる。
証明 行列
が負のドミナント・ダイアゴナルを持つことを証明すれば十分で
ある。
最適定常経路上の資源制約より,次が成立している。
yr = b r k r + b 0r (5.4)
r
r
r
r
ここで b 0 = ( b 00 , b10 , … , b n0 ) 。
さらに,蓄積方程式より,
y r = ( D + g I ) k r (5.5)
が成立せねばならない。
(5.4)と(5.5)より,
(5.6)
r
r
が求められる。もし,行列 b が SSS-II であれば,− b 0 < 0 が成立し,問題の行列が負のドミ
ナント・ダイアゴナルを持つことが分かる。こうして,補題5.1の条件をすべて満たすので,補
題を適用してファセット上の経路の漸近安定性が証明される。こうして,VMF は安定多様体と
r
r
なる。さらに,b 行列が SSS-I であれば,− b 0 > 0 が成立し,問題の行列は正のドミナント・
ダイアゴナルを持つ。再び補題5.1の第二の結果から,VMF は安定多様体となる。■
以上の定理4より,2部門モデルで得られた定理1を多部門モデルへと一般化できることが容
易にわかるであろう。定理2は,2部門モデルに関してのみ成立する補題4.1に依存しているた
めに一般化はできない。
6.おわりに
本稿では,最近の実証分析結果をふまえ,各産業部門が収穫一定の技術を持つという仮定のも
とで産業部門をベースにした多部門モデルを構築した。そうして,その最適経路の大域的分析を
行った。人口の成長率が与件として与えられている外生的最適成長モデルを中心的に分析してき
たが,この議論をほとんど修正することなしに,本源的要素を含まないルーカス型内生的最適成
長モデルへの適用も可能である。このように,人的資本を含むルーカス型内生的成長モデルと新
古典派多部門外生的成長モデルとの間には,その分析に関しては想像されるほどの大きな差異が
ないと言えるであろう。より詳しい議論は,Takahashi(2001)へ譲ることことにする。
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
59
付 論
この付論では,本文で用いられる基本概念や定理が解説され,また,本文での重要な定理が証
明されている。
(A .1)
文中では,断りのないかぎりベクトルは列ベクトルを表すものとする。行ベクトル
は転置記号“ ' ”で表示する。
(A .2)
ベクトルと行列の大小関係を示す符号の定義は以下ので示される。
⒜ x がベクトル,0 ゼロベクトルを表すとき,
がすべての i に関して成立。
がすべての i に関して成立し,かつ,ある i に関して xi >0 。
がすべての i に関して成立。
(b)A が任意の行列を,0 がゼロ行列を表すとき,
がすべての ( i , j ) に関して成立。
がすべての ( i , j ) に関して成立し,かつ,ある ( i , j ) に関して a i j > 0 。
がすべての ( i , j ) に関して成立。
(A .3)
正方行列 A が交換行列 P で
と変換されるとき「分解可能行列」と呼ばれ,そのような変換が不可能な場合,
「分解不可能」
と呼ばれる。ただし,B1 , B 2 は正方行列を表し,0 はゼロ行列を表す。
(A .4)
フロベニウス定理:正方行列 A > 0 が分解不可能であれば次が成立する。
⒤ A > 0 の最大固有根(フロベニウス根)l F が存在し,それは単根かつ正の実数である。
(ii) l > l F に関して,( l I − A) - 1 ≫ 0 が成立する。
(A .5)
補題1.2の証明:次の関係が成立することは明らかである。
研 究 所 年 報
60
もし,左辺の行列の逆行列が存在するとすれば,下記が成立する。
仮定1.3より,左辺の第一項の逆行列は存在し符号> 0 を持つ。仮定1.4より,フロベニウス定
理( 付 論(A4) を 参 照 ) が 成 立 し, 左 辺 第 二 項 も 符 合 > 0 と な る。 こ う し て,
となることが示された。定常経路と資本の市場均衡条件から,
または
が成立する。こうして,c f > 0 が与えられると,一意に y r (>0 ) ベクトルが決まる。ここで,労
働市場の均衡条件から,
r
が 成 立 し て い る。 よ っ て, 実 際 c > 0 が 一 意 に 決 ま る。 い ま, あ る i に 関 し て,
r
とする。これは,すべての j について k ij = 0 が成立することを意味する。
r
このことは,投入行列に関して,すべての j について a ij = 0 が成り立つことを意味している。よ
r
って,
「分解不能行列」の仮定に反する。こうして,すべての i について,k i > 0 でなければな
r
r
r
らない。さらに,蓄積方程式より,y i = ( g + d i ) k i が成立しているので,y i > 0 が,すべての i
r
r
r
についても成立せねばならない。こうして,k ≫ 0 ,y ≫ 0 かつ c > 0 が一意に求められる。
また,各価格が正となることは,次のようにして示すことができる。非代替定理と,同次関数
に関するオイラーの定理より,定常経路の価格方程式は下記であらわされる。
p r = a 0r + pr ( g + D ) ar
または,
p r = a 0r ( I − ( g + D ) ar ) -1
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
r
ここで a 0 = ( a 00 , a 01 , …, a 0n ) かつ p = ( p 0 / w 0 , p 1 / w 0 ,…, p n / w 0 ) である。仮定1より a 0 ≫ 0 ,
さらに仮定2より,二項目の逆行列は ( I − ( g + D ) a ) -1 ≫ 0 となるので,価格ベクトルは正となる。
r
(A.6)
補題 3.2 の証明:Vxz* は,集約度条件に依存して,正,負の符号をとる。いま,Vxz* <
~
0して証明をする。正の場合も同様に証明可能である。Vxz* < 0 なので,r Œ[ r , 1 ] について V r12 <
~
0 となるような r > 0 が存在する。いま OSS の近傍を次で定義しよう。
収穫一定技術を持つ多部門経済の成長と循環の大域的分析
61
r
~
ここで,各 r Œ[ r , 1 ] について,それぞれ対応する e ( r ) ―近傍のすべての点に関して V 12 < 0
が成立するような近傍を見つけることができる。すなわち,次が成立する。
~
ここで,limsup はすべての {k r} ( r Œ[ r , 1 ] ) に関して取られている。ここで,近傍ターンパイ
-
ク定理を適用することにより,e’ >0 について,r >0 が存在し,どのような最適経路も近傍 Ne (kr )
~
-
にトラップされる。いま r = Max { r, r }と再定義すると,Benhabib and Nishimura(1985 ,定理
r
3)を Ne (k ) へ適用することができ,証明が完成される。
注
1)
を解くことにより求められる。
2)これからは,主観的割引率 r が与えられたと書く代わりに,r が与えられると書くことにする。
3)以降,最適定常経路に関する変数には,上付き文字 r が使われる。
4)付論(A. 3)を参照。
5)付論(A. 4)を参照。
6)V関数の2階の微分は二次の偏微分を要素とする次の行列で定義されている。∂ V ( x , z ) / ∂ x = Vxx ,
2
2
∂ V ( x , z ) / ∂ x∂ z = Vxz , ∂ V ( x , z ) / ∂ z = Vzz
2
2
2
7)ターンパイク定理が現実にも観察できるかどうかに関して,OECD 諸国,特に旧西ドイツでそのよう
な現象が観察されることが,Brems(1985)で報告されている。
8)資本ストックが十分性を満たすとは次のように定義される。(x, y) ŒD かつ y > x が成立するとき,資
本ストックは「拡張可能」と呼ばれる。さらに,
有限の経路 {k0 , k 2 ,…, kr} に関し x = k0 , (k1, k t+1) ŒD ( t = 1,
「十分性」を満たすと呼ばれる。
…, T ) が成立するとき,資本ストックは,
9)行列Aが負(正)のドミナント・ダイアゴナルをもつとは,下記の関係が成立するような正のベクト
ルh
が存在し,負(正)の対角要素を持つときである。McKenzie(1959)を参照せよ。
参考文献
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, Endogenous Growth Theory(Cambridge, Mass., MIT Press)
2)Atsumi, H.(1965)
, “Neoclassical growth and the efficient program of capital accumulation,” Review of
Economic Studies 32, 127-136.
3)Bartelsman, E.(1995)
, “Of empty boxes: Returns to scale revisited,” Economics Letters 49, 59-67.
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, “Are apparent productive spillovers a figment of specificatin error?,”
Journal of Monetary Economics 36, 165-188.
5)Basu, S. and J. Fernald(1997)
, “Returns to scale in U.S. production: Estimates and implications,” Journal
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6)Becker, R. and J. Boyd(1997)
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7)Benhabib, J. and K. Nishimura(1979a)
, “The Hopf bifurcation and the existence and stability of closed
orbits in multi-sector models of optimal economic growth,” Journal of Economic Theory 21, 421-444.
研 究 所 年 報
62
8)Benhabib, J. and K. Nishimura(1979b)
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