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Page 1 3-4-日本の地域開発政策全体に対する評価 3._4 1。日本の地域
第 三章 日本 の地域 格差 是正政 策と産 業立地政 策の変遷 3.4. 3.4.1. 日本 の 地 域 開 発 政 策 全 体 に 対 す る評 価 日本 の 地 域 格 差 の 変 遷 3.4.1.1. 人 口 と地 域 所 得 の 格 差 本 節 で は 、これ ま で レ ビュ ー して き た 地域 格 差是 正政 策 に従 って 、 日本 の 地域 格 差 が 実 際 に どの よ うに 変遷 して い る か に つ い て 、実 際 の デ ー タ を元 に論 じてみ る。地 域 格 差 に 関連 す る代表 的指 標 と して 、まず 、 人 口の推 移 を見 て み よ う。 前 述 の よ う'に、 人 口規模 と地域 格 差 是 正 (政策) との 関係 は複 雑 で あ る。 人 口 自体 を地 域 格 差 と して捉 え る の で あれ ば、人 口 (ある い は人 口密度) の平 準 化 が 地 域 格 差是 正 に繋 が る。 これ は相 対 的 地 域 格 差 是 正 の うち、 地 域 的 配 分 の 不 平 等 (地域 間 不 平 等) の解 消 に 当た る。 一方 、 人 口が 生 み 出す 所 得 や 付 加 価値 を基 準 に据 え るの で あ れ ば 、通 常 は 一 人 当 た り県 民 所得 な どが指 標 とな り うる こ とか ら、人 口の 平 準化 は 県民 総 生 産 等 との対 応 関係 で 地 域格 差 の 是 正 に も拡 大 に もな る と考 え られ る。 こ こ で 単 に 地 域 別 人 口 の 配 分 に つ い て 示 し て お く と 、表3-24の 東 海 、 近 畿 内 陸) とそ の周 辺 よ う に な り 、概 ね 大 都 市 圏 (関 東 臨 海 、 (関 東 内 陸 、 近 畿 内 陸) で 人 口 が 増 加 し て お り 、 沖 縄 を 除 く 地 方 圏 で は概 ね 人 口が 減 少 し続 け て い る こ と が 分 か る 。 次 に地 域 所 得1に つ い て 、 地域 的配 分 の不 平 等 (地域 間 不 平等) を示 す 地 域 所 得 と、 一 人 当 た り配分 の 不 平 等 (地域 間 不 公 平) を示 す 一 人 当 た り地 域所 得 の変 遷 を それ ぞ れ 分析 してみ る。 ま ず 地 域 所 得 総 額 (表3-25) に つ い て は 、高 度 成 長期 の1960年 代 ま で は概 ね 関 東 臨 海 、近 畿臨海 、東 海 な ど の 大 都 市 圏 で シ ェ ア が 上 昇 し て い る が 、石 油 危 機 を 挟 む1970年 代 前 半 で 一 度 こ の 動 き は 逆 転 して 地 方 の シ ェ ア が 上 昇 し 、 再 び 安 定 成 長 期 に 入 る と 、 大 都 市 圏 、 と り わ け 首 都 圏 で の 地 域 所 得 総 額 が 大 き くな る 。 こ の こ と は 、 経 済 の 成 長 が 常 に 大 都 市 圏 を 中 心 に 行 わ れ る こ と を 示 して お り、 高 度 成 長 期 に 政 府 が 意 図 した 地 域 格 差 是 正 は 、 地 域 的 配 分 の 不 平 等 (地 域 間 不 平 等) を 是 正 す る も の と して の 方 向 性 は 確 か に 実 際 の 状 況 に 合 致 して い た こ と に な る 。 しか し実 態 と して は 、 成 長 と と も に 格 差 が 拡 大 し て い る こ と か ら 、 成 功 し な か っ た と捉 え る こ と も で き る だ ろ う。 結 果 と して 、1960年 が 、1980年 に は28.5%、1998年 に は305%と に 全 国 シ ェ ア が27.3%だ った 関東 臨 海 次 第 に 上 昇 して お り、 近 畿 臨 海 は シ ェ ア を 落 と して い る が 東 海 、 近 畿 内 陸 、 関 東 内 陸 等 も 軒 並 み シ ェ ア を 上 昇 させ て い る こ と か ら 、 地 域 的 配 分 の 不 平 等 (地 域 間 不 平 等) は 解 消 さ れ な か っ た と い う こ と が で き る だ ろ う。 一 方、 一 人 当 た り地 域 所 得 の 推 移 に つ い て は、 状 況 が や や 複 雑 と な っ て い る。 例 え ば 大 都 市 圏 で も、 首 都 圏 に あ た る 関 東 臨 海 は1980年 代 を 除 い て 伸 び 率 が 全 国 平 均 を 下 回 っ て お り、ま た 近 畿 臨 海 も ほ ぼ 同 じ よ うな 動 き を 示 し て い る の に 対 し て 、東 海 は 全 国 平 均 で み て も 上 昇 率 が 高 い こ と が 多 い 。 地 方 圏 もや は り同 じ よ うに ば ら つ き が あ り、 一 概 に 共 通 性 が あ る と は い え な い 状 況 に あ る。 し か し 、 総 じ て み れ ば 、 関 東 臨 海 は1960年 一 方、1960年 に1.44 (全 国 平 均 の1.44倍) と 対 全 国 比 が 最 高 だ っ た 時 期 か ら 、1980年 に は1.16と 大 幅 に 下 降 し、 に0.60と 最 低 だ っ た 南 九 州 (沖 縄 は 除 い て い る) が1980年 に は0.80と 大 幅 に 上 昇 し て い る こ と か ら 、こ の 頃 ま で に 相 対 的 地 域 格 差 は か な り の 程 度 解 消 さ れ た と 考 え る こ と が で き る だ ろ う。山 崎 朗2も 、 同 様 の 分 析 で 一 人 当 た り県 民 所 得 で 見 た 地 域 間 格 差 は 縮 小 して い る と 述 べ て い る 。 し か し1980年 以 降 は 、 1 地 域 所 得 デ ー タ の 元 と な っ て い る 県 民 所 得 に は 、1975年 の 前 と 後 で 統 計 デ ー タ 収 集 の 方 法 に 段 差 が あ り、 変 遷 を 比 較 す る の に は 、や や 正 確 さ に 欠 け る 面 が あ る。 しか し こ こ で は 対 全 国 比 と い う形 で 地 域 間 比 較 を 行 っ て い る こ と か ら 、 そ う した 誤 差 は そ れ ほ ど影 響 しな い と判 断 して い る。 2 山 崎 朗 (1998)、p.40 144 第 三章 日本 の地域格差是正政 策 と産 業立地政 策の変遷 地 域 格 差 の 是 正 が そ れ ほ ど 大 き な 動 き と し て み られ な い 。1980年 代 は 特 に 景 気 回 復 か ら バ ブ ル 景 気 に 向 か っ て 格 差 が 拡 大 し 、 特 に 首 都 圏 の 一 人 当 た り所 得 が 上 昇 し た 。 前 述 の 谷 沢 弘 毅3が 唱 え たW字 う し た 状 況 をGRPの ジ ニ 係 数 で 比 較 し、1955年 ∼61年 が 拡 大 傾 向 、1961年 仮説 は、こ ∼79年 が 縮 小 傾 向 、1979年 ∼92 年 が 拡 大 傾 向 と分 析 し た も の で あ っ た 。 こ の よ うに 、人 口 、地域 所 得 総 額 、一 人 当 た り地 域所 得 を比較 す る と、人 口は 戦 後 を 通 じて ほ ぼ 同様 に 大都 市圏 へ の集 中 が 見 られ 、 そ れ に対 し地 域 所 得 総 額 は経 済成 長 期 や 安 定 期 に は 大都 市 圏 に集 中 した が 、 不 況 期 に は 地方 圏 に 分 散 す る傾 向 が あ る。 この 傾 向 か ら考 えれ ば、一 人 当た り地域 所 得 は 人 口の大 都 市 へ の流 入 に した が っ て 地 方 圏 で よ り高 くな っ てい くと考 え られ る が 、実 際 そ の 通 りに 日本 の 地域 格 差 は改 善 され た。 しか し1980年 ま で に ほ ぼ1990年 代 後 半 と同 じ水 準 ま で 改 善 され 、そ の後 は 景気 の前 進 ・後 退 に よ っ て前 進 す れ ば 大都 市 圏 の 上 昇 、後 退 す れ ば地 方 圏 の 上 昇 とい う形 に な っ て い る。 こ うした状 況 は、 ご く か いっ ま ん で言 え ば 、経 済 が好 況 な程 、大都 市 圏 の活 動 が 活 発 にな って 人 口 も富 (所得) も大都 市 圏 に集 中す るが 、人 口は長 期 的 な トレ ン ドに 従 って ほ ぼ 一様 に大 都 市 圏 へ の集 中 を見せ るの に対 して 、所 得 は 経 済 状 況 に敏 感 に反 応 して い る。1980年 代 ま で に 一 人 当 た り地 域 所 得 の 格 差 が 大 幅 に 是 正 され た の は、高度 成 長 期 の 人 口の集 中 が経 済 活 動 の集 中 よ りも遙 か に急 激 だ っ た 、す な わ ち 大都 市 圏化 が 大幅 に進 ん でい た こ とを示 す も の で あ る。 3 谷 沢 弘 毅 (1999) 145 表3-24 地 域 別 人 口 と 人口 シ ェア の 推 移 出 典:『国 勢 調 査 』(イン ター ネ ット) 出 典:『完 結 昭和国勢総覧 表3-25 日 本 統 計 年 鑑 』(1995)、『第 五 十 一 回 ネ ット) 県 民 所 得 とそ の 地 域 別 シ ェア 第 一 巻 』(1991)、『第 四 十 四 回 日 本 統 計 年 鑑 』(2002)(イ ンター 出 典:『完 結 昭和国勢総覧 第 一 巻 』(1991)、『第 四 十 四 回 表3-26 一 人 当 た り地 域 所 得 の 推 移 日 本 統 計 年 鑑 』(1995)、『第算五 十 一 回 日 本 統 計 年 鑑 』(2002)(イ ン ター ネ ット)、『国 勢 調 査 』(イン ター ネ ット)、な どよ り筆 者 計 、編 集 。 第 三章 日本 の地域 格差是正政 策 と産業立地政 策の変 遷 3.4.1.2. 工 業 化 と 人 口移 動 や 所 得 格 差 の 関係 さて 次 に 、 こ う した人 口や 地 域 所 得 の 格 差 是 正 の 目的対 象 で あ った 政府 の 政 策 が 、そ の主 要 な方 法 とな った 基 幹 産 業 、 す なわ ち工 業 の 地 方分 散 と どの よ うな関係 に あ っ た か を レビ ュー してみ よ う。 高 度 成 長 期 以 前 につ い て は 、 伊藤 善 市4が、 実 質 国 民所 得 と格 差係 数 の相 関 を調 べ 、 両者 に は プ ラス の 関係 が あ る こ とが判 明 した と して い る。 こ の分 析 は1948年 か ら1958年 とい うもの だ が 、 こ う した認 識 を踏 ま えて 、前 述 の よ うに所 得 倍 増 計 画 と全 国 総 合 開 発 計 画 が 策 定 され 、戦 後 日本 の 経 済成 長 と同時 に地 域 間 の 所 得 格 差 是 正 が 目指 され る こ とに な った と解釈 で き る。 しか し、実 際 に新 産 ・工特 の よ うな政 策 を行 っ て も、 工業 と人 口の 分 散 は パ ラ レル に は生 じず 、工 業化 が 積 極 的 に分 散 され て も 人 口が それ につ い て こず 大 都 市 圏 に集 中す る状 況 が 見 られ た。これ を踏 ま えて 下 河 辺 は 、 「スケ ー ル メ リ ッ トが き いて 立地 企 業 が われ わ れ の想 像 して いた 労 働 生 産 性 よ りも遙 か に高 か? た」5と述 懐 して い る。 これ は 非 常 に皮 肉 な 話 で 、経 済 発 展 に伴 う技術 革新 が 、労働 集 約 性 を抑 え て資 本 ・ 技 術 集 約 型 に な り、ま た そ うい っ た産 業 が 中 心 とな って い った。 当時 はま だ 円高 の時代 に は な っ てお らず 労 働 集 約 型 産 業 に 決 定 的 に 影 響 す る 労 賃 に は 、周 辺 諸 国 との 間 に 致命 的 な程 の差 が 出て い た わ け で も な く、 ま た ア ジ ア諸 国 の 多 く もま だ 工 業化 以 前 の 段階 で あ っ た とこ ろが 多 か っ た。 した が って 、下河 辺 も指 摘 す るよ うに 、 明 らか に 工場 は分 散 してい るの だ が 、 人 口がつ い てい か な か っ た とい う解 釈 に な る。 た だ し、 この こ とは 必 ず しも否 定 的 な意 味 の み を持 つ とい うわ けで は な い。 資本 ・技 術集 約性 が 高 い 工 場 が地 方 に移 転 し人 口が そ れ に 伴 う程 増 えな け れ ば 、一 人 当た り県 民所 得 は確 実 に 上昇 し、相 対 的地 域 格 差 の うち 、 一 人 当た り配 分 の 不 平等 (地域 間 不 公 平) が解 消 され る こ とに な る。 藤 本 義 治6は、1970年 ∼ 1990年 に お け る各 自治 体 の 人 口一 人 当た り県 民所 得 と製 造 業 依 存 率 の 関係 に つ い て調 べ 、東 京 を除 い た府 道 県 で 製 造 業 依 存 率 と一 人 あた り県 民 所 得 に 明 らか な 正 の相 関 をみ る こ とが で きた と して い る。こ こで東 京 を 除 い た の は 、当時 す で に振 興 して い た 東京 一極 集 中や グ ロー バ ル化 の影 響 に よ り、特 殊 で 付加 価 値 の 高 い産 業 が 東 京 に集 中 して い る影 響 を排 除 した た め で あ るが 、地 域 格 差 是 正 の た め の地 域 開 発 戦 略 は 、確 か に 一 人 当 た りの所 得 格 差 を減 少 させ る こ とが で きた と して い る。 た だ藤 本 は、個 別 の 地 域 (藤本 の場 合 は 県) で み た 場 合 、両者 の 関係 は 大 きな ば らつ きがみ られ 、 この こ とは 工 業 以 外 の他 の部 門の 産 業集 積 が 大 き く影 響 して お り、 農 業 や 観 光 、 サ ー ビス業 な どの 産 業集 積 が所 得 水 準 の 向 上 に 寄 与 して い る7と推察 して い る。 こ う した 影 響 は 、 産 業 の 高 付 加 価 値 化 、 そ して グ ロ ー バ ル 化 、 情 報 化 が 喧 伝 され る よ うに な る と ま す ま す 顕 在 化 し 、 工 業 と地 域 格 差 の 関 係 は 次 第 に 薄 い も の とな っ て き て い る 。 一 般 論 と して も 、 清 成 忠 男8が 「情 報 活 動9に は 、 集 積 が 集 積 を 呼 ぶ と い う集 積 効 果 が 働 く た め 、 東 京 圏 が 肥 大 し て い く 」 「グ ロー バ リ ゼ ー シ ョ ン が 進 め ば 進 む ほ ど 東 京 へ の 、 特 に 情 報 機 能 、 金 融 機 能 等 の 集 積 が 進 む 」 「グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン が 進 む と 、地 域 間 競 争 が 強 ま り、地 域 間 格 差 も 広 が る 」と 指 摘 して い る。よ り具 体 的 に は 、神 野 直 彦10が 、 租 税 負 担 率 と経 済 成 長 率 の 関 係 が 高 度 成 長 期 か ら安 定 成 長 期 に い く に し た が っ て 逆 相 関 に な っ て き て 4 伊 藤 善 市 (1965)、p.18 5 下 河 辺 淳 (1994)、p.79 6 藤 本 義 治 (1994)、p.54-59 7 藤 本 義 治 (1994)、p.94 8 清 成 忠 男 (1989) 9 当時 は ま だ 現 在 の よ うに情 報 産 業 が発 展 して い た わ け で は な い の で、 この情 報活 動 とは高付 加 価 値 製 造 業や サ ー ビス 産 業 に必 要 な情 報 の 収集 活 動 の こ とを指す と考 え られ る。 10 神 野 直 彦 (1999) 149 第 三章 日本 の地域 格差是正政 策と産 業立地政 策の変遷 お り、所 得 再 分 配 に 適 合 した 多 収 性 に 富む 所 得税 や 法 人税 を国 税 に集 中 させ た こ とに よっ て 中央 集 権 的 体 制 を維 持 して きた 国 が 転機 を迎 え て い る こ と を指摘 して い る。神 野 に よれ ば 、こ の こ とは重 工 業 を基 軸 と す る産 業 構 造 が行 き詰 ま り、情報 産 業 を 基軸 とす る産 業 構 造 に移 行 しは じめ た た め 、自 由に 動 き回 る 資本 所 得 の 課 税 はお ろ かそ の把 握 さ え困 難 に な り、相 対 的 に所 得 の 高 い大 都 市 圏 が よ り大 きい成 長 を 達成 す る た め と して い る。 ま た 、 この こ ろ に は グ ロー バル 化 が進 展 し、地 方 に移 転 して い た 工 場 等 の 生産 機 能 が 日 本 の高 い 労 働 賃 金 を嫌 っ て周 辺 の ア ジア諸 国 に進 出す る、い わ ゆ る産 業 の 空 洞化 が 生 じる。吉 田敬 一11は、 日本 の 空 洞 化 現 象 を少 し詳 しく見 て み る と、 どの 産 業 、ま た どの地 域 で も 同 じよ うな空 洞化 が起 こ っ てい る わ け で は な く、国 内 の 地 域 間分 業 構 造 を反 映 して 空 洞化 現象 に地 域 間 に激 しい差 が出 て い る と報 告 して い る。 首 都 圏 は質 的 に優 れ た 労働 力 や ノ ウハ ウ、 さ らには 情 報 力 ・ネ ッ トワー ク等 が ポ イ ン トとな っ て 、 空 洞 化 の 影 響 は それ ほ どで もな い が 、比較 的 単 純 な工 程 の 、成 熟産 業 の工 場 が 立 地 す る地方 圏 で は企 業 の 離 脱 が 激 しい。特 定 の製 品 の 量 産 、組 立基 地 と して の性 格 が強 い地 方 圏 の 工 業 地 帯 で は 、地 域 内 の 中小 企 業 の集 積 度 が低 い た め 、独 立 志 向 の 強 い類 型 の 中小 企 業 が発 生 ・発 展 し うる基盤 が 弱 く、 コス ト競 争 力 の 強 い 海 外 生 産 拠 点 と直 接 的 に競 合 し移 転 を余儀 な く され た 産 業 ・企 業が 多 か った の で あ る。 しか しこ う した状 況 に対 して 、政 府 の 視 点 は極 め て楽 観 的 で あ っ た と佐 々木 雅 幸12は報 告 して い る。 経 済 企 画 庁 (『地 域 経 済 レポ ー ト (平成2年 版)』) や 国 土庁 (『国 土 レポー ト'90』) の報 告 に よれ ば 、1990 年 前 後 の景 気 拡 大 の プ ロセ スは 、(1)日本 経 済 の グ ロー バル 化 ・ソフ ト化 ・サ ー ビス化 の 進 展 →(2) 高 次経済 機 能 と人 口の東 京 一 極 集 中 の促 進 →(3) 東 京 の 世 界都 市化 に よ る都 心 部 か らの地 価 急 騰 →(4) 資 産効果 によ る東 京 圏 で の 高水 準 の 消 費 支 出→(5)これ が 内 需振 興 の 引 き金 と な り、東 京 圏 か ら順 次 、地 方 中枢 都 市 、地 方 中核 都 市 、地 方 都 市 そ して 、地方 圏全 体 へ と景 気 が 波 及 し、各 地域 の産 業 構 造 を 内需 中心 に転 換 しつつ 雇 用 構 造 を 改 善 し、つ い に は 地 方 圏 の 賃金 水 準 ま で押 し上 げて 、地域間 雇 用 者 所 得 格 差 は縮 小 に 向 か う兆 しが あ る と して い た。 一 方、 通 産 省 の 報 告 書13は、 工 業 集 積 度14と 人 口及 び 一 人 当 た り県 民 所 得 係 を 、1970年 1992年) の4期 、1980年 、1989年 (及 び そ の 伸 び 率) (人 口 と 一 人 当 た り県 民 所 得 は1988年)、1993年 の相 関 関 (一 人 当 た り県 民 所 得 は に お い て 算 出 してい る。 それ に よれ ば 、 まず 工 業集 積 度 と人 口の相 関 につ い ては 、そ の絶 対 値 同 士 の 相 関 が 各 期 で 高 い も の の 、1970年 に は0.842で あ っ た も の が1993年 に は0.768と 相 関 が や や 減 少 しつ つ あ り 、産 業 構 造 の 転 換 や グ ロ ー バ ル 化 の 進 展 に よ り、 人 口 と 工 業 集 積 度 の 関 係 が 若 干 薄 れ て き て い る と して い る 。 一 方 、 伸 び 率 に 関 連 し た 指 標 は そ れ ほ ど 大 き な 相 関 を も っ て お ら ず 、 ま た 各 期 の 間 で の ば らつ き も 大 き な も の と な っ て い る 。 特 に 、 工 業 集 積 度 の 伸 び と 人 口 の 伸 び と の 相 関 は 全 期 を 通 じ て 見 る と 0.123と 殆 ど相 関 が な く 、人 口 の 誘 導 に は 殆 ど 寄 与 して い な い こ とが わ か る 。工 業 集 積 度 と一 人 当 た り 県 民 所 得 と の 相 関 に つ い て は 、 や は りそ の 絶 対 値 同 士 の 相 関 が 高 く 、1970年 の0.884に 対 し1993年 の0.854と 相 関 は そ れ ほ ど 低 下 して い な い 。 伸 び 率 に 関 し て は や は り各 期 ご とで ば ら つ き が 大 き く な る が 、全 期 を 通 じ た 伸 び 率 同 士 の 相 関 は0.737と か な り大 き な も の に な っ て お り、工 業 集 積 度 の 伸 び と 一 人 当 た り県 民 所 得 の 11 吉 田 敬 一 (1995) 12 佐 々 木 雅 幸 (1991) 13 日 本 立 地 セ ン タ ー (1996)、p.141 14 工 業 集 積 度 と は 、 土 地 等 の 資 源 に 対 す る 工 業 活 動 の 割 合 で 示 し た 値 で 、 単 な る 工 場 の 分 布 で は な く 、 生 産 活 動 を 主 体 と し た 工 業 の 地 理 的 な 分 布 を 表 す 。 具 体 的 に は 市 町 村 毎 に 、工 業 粗 付 加 価 値 の 人 口 に 対 す る 特 化 係 数 と 、 工 業 出 荷 額 の 可 住 地 面 積 に 対 す る 特 化 係 数 を 足 して2で 日本 立 地 セ ン タ ー (1996)、p.129よ り。 150 わ っ て%で 表 示 し た も の で あ る。 第三 章 日本 の地域格差 是正政 策と産 業立地政 策の変遷 成 長 に は 相 関 が 大 き い こ と が わ か る。 本 論 文 で は 、5年 業 関係 の 指標 ア 毎 の 人 口 、 県 民 所 得 、 一 人 当 た り県 民 所 得 の シ ェ ア (あ る い は 全 国 比) の動 向 と、工 (製 造 業 出 荷 額 、 付 加 価 値 額 、 従 業 員 一 人 当 た り付 加 価 値 額 、 事 業 所 数 、 従 業 者 数) (あ る い は 全 国 比) 動 向 を 比 較 して み た のシェ (表3-27)。 表3-27 人 口 ・所 得 と工 業 化 の 関 係 出 典: 表3-24∼26に 準 ず る。 こ れ を 見 る と 、 製 造 業 出 荷 額 、 付 加 価 値 額 、 従 業 員 一 人 当 た り付 加 価 値 額 が 地 域 間 の 比 較 で ほ ぼ パ ラ レ ル な 動 き を 示 し て お り、 こ れ ら と一 人 当 た り地 域 所 得 と の 関 連 が 深 い 。 こ の こ と は 、 製 造 業 の 実 質 的 な 生 151 第 三章 日本 の地域 格差 是正政策 と産 業立地政 策の変 遷 産 額 や 付 加 価 値 額 の格 差 改 善 と、一 人 当た り地域 所 得 の 改善 に深 い 関係 が あ る とい うこ とで あ り、工 業 化 に よ る地 方 の 生 産 額 増 強 は 、一 人 当 た り地 域 所 得 、す な わ ち一 人 当た り配 分 の 不 平 等 (地域 間 不公 平) の 改 善 に効 果 が あ る こ とが 示 され てい る こ とに な る。 しか し県 民所 得 (総額) とは それ ほ ど大 き な 関係 が な い。 これ は 、製 造 業 出荷 額 等 の シ ェ ア が増 え て も、総 体 と して の所 得 シ ェア が 上 昇 す る とは 限 らな い こ と を示 してお り、地 域 的 配 分 の 不 平 等 (地域 間 不 平 等) の 改善 には な り得 な い こ とを示 して い る。 一方 、従 業 員 数 や 事 業 所 数 は 、製 造 業 出荷 額 等 とは異 な っ た動 き を示 して い るの が わ か る。従 業 者 数 は 、全 期 を通 じて人 口 とほ ぼ 逆 相 関 の よ うな 関係 に あ るが 、この こ とは ま さに工 業 化 に よっ て 人 口を移 動す る よ うな地 域 的配 分 の不 平 等 (地域 間 不 平 等) の 是 正 が 為 され な い こ とを示 して い る。事 業 所 数 につ い ては 、1980年 ま で は人 口 とか な り強 く関係 して い るが 、そ れ 以 降 は 関係 が な くな り、特 に1985年 か ら1990年 ま で は ほ と ん ど逆 相 関 の 関係 に あ る。た だ 事 業 所 数 は 規模 に よっ て も特 質 が違 うの で 一般 に 分析 が難 しい と考 え られ る。 結 論 と して 、 日本 の 地 域 格 差 は 、工 業化 とか な り密 接 な関係 が あ る と考 え られ るが 、それ は 地域 間 不公 平 と捉 え られ る 一 人 当た り地 域 所 得 でみ た 格 差 との 場 合 で あ り、地 域 所得 で み た 場合 は 必 ず しも密 接 な 関 係 に な い とい うこ とが わ か る。工 業 の 分 散 に は確 か に成 功 したが 、地 域格 差 の一 部 是 正 に は第 三 次 産 業 の 進 展 に よ っ て 人 口が 移 動 した こ と と深 く関係 が あ り、人 口の集 中の 動 き 自体 は どの期 の 地域 開発 政 策 に よ っ て も止 め る こ とが で き な か っ た とい うこ とに な る。 152 第 三章 3.4.2. 日本 の地域 格差 是正政 策と産 業立地政 策の変遷 日本 の 地 域 格 差 是 正 政 策 へ の 評 価 こ う して 日本 の 地域 格 差 是 正 政 策 と実 際 の 地 域 格 差 の 指標 につ い て、主 要 論者 の 既存 文 献及 び基 本 的 な デ ー タ を用 い て観 察 し、 ま た そ れ を本 論 文 の 枠 組 み で あ る地域 格 差 是 正 概 念 の 捉 え方 、 す なわ ち絶 対 的 ・ 相 対 的 格 差是 正 と地 域 間 不 平 等 ・不 公 平 とい う分 類 か ら分 析 して きた。 次 に こ こで は 、 これ ま で紹 介 した 個 別 議 論 を 踏 ま えて 、地 域 格 差 是 正 政 策 を 中心 とす る国 土 政策 全 体 、あ るい は そ の 中 心 的 存在 と しての全 総 計 画全 体 に 対 して 様 々 な論 者 が 総 合 的 な評 価 を して い るの で 、それ らを紹 介 し、本論 文 で も国 土政 策 全 体 の位 置 づ け が 地域 格 差 の 定 義 に 基 づ い て ど う変化 して い るか に つ いて 述 べ る。 3.4.2.1. 全 総 全 体 に 関 す る 評 価 ま ず他 の 政 策 に比 して変 わ らず 一 貫 して 地域 格 差 是 正 を訴 え る全総 の性 質 ・特 徴 付 け は 、比 較 的初 期 の 全総 で の 議 論 か ら行 わ れ て い る。 八 十 島 義 之 助1は、 三全 総 ま での解 説 を踏 ま え て 、全 総 の 目的 が 「いず れ も国 土 の 均 衡 あ る発 展 、す な わ ち 、現 実 は と もか く と して38万 平方 メー トル の 国 土 が そ の特性 は地 域 に よ って 異 な る と して も、同 じよ うに 発 展 して い く こ と を願 っ て い る」 と して 、地 域格 差 是 正 、 中で も地 域 間 不 平 等 の 解 消 を 目指 して お り、そ の傾 向 が 四全 総 ま で続 い て い る と して い る。但 し、個 別 議 論 で み る と、 伊藤 滋2が、 全 総 と三 全 総 が地 方 分 散 論 で あ るの に対 し、新 全総 が機 能配 置論 で あ っ た と して 異 な っ た定 義 を して い る よ うに、 地 域 格 差 是 正 へ の 取 り組 み 方 が違 っ て いた と して い る。 地 域 格 差 是 正 の 手 法 か らみ た 特 徴 付 けは 、国 土 審議 会 調 査 部 会 産 業 専 門委 員 会3が 、 工業 開 発 が 一貫 し て 地 域 振 興 と地 域 格 差 是 正 の 手段 だ っ た こ とを 述 べ て い る。 それ は 、 工 業 が 、 農 林 水 産 業 な ど と く らべ 、 地 域 の 生 産 力 を著 し く高 め 産 業連 関効 果 が 大 きい こ と、サ ー ビス 業 の よ うに 地域 の 消費 水 準や 都 市集 積 度 に必 ず しも依 存 せ ず に 立 地 可 能 な こ と、等 の た め で あ っ た と して い て 、そ の 手法 が 実際 に適 切 な もの で あ っ たか ど うか は さて お い て も、全 総 計 画 (少な く とも四 全 総 ま で) が こ うい っ た 思想 の元 で行 われ て きた こ とにつ い て の異 論 は ほ とん ど見 られ ない 。 全 総 計 画 の 評価 に つ い て は 、前 述 の よ うに 、それ に加 え て よ り細 密 な 各 種統 計 に よ り、格 差 に 関す る様 々 な指 標 が提 示 され 、そ れ な りの議 論 も行 われ て い る。 とこ ろ が、 これ ま で も度 々 述 べ て きた よ うに 同 じ指 標 を 見 て い るは ず に も関 わ らず 、国 土 政 策 の 評価 は論 者 に よっ て大 き く分 か れ て い る。 この こ とは直接 的 に は各 論 者 の 立脚 点 に よ る もの で あ るが 、よ り本 質 的 に は 是正 の 目的 とな っ て い る地 域格 差 の 定義 が 的確 か つ一 義 的 に な され て い な い故 と考 え られ る。そ う した 議論 のす れ 違 い は 、端 的 に 下 河 辺淳 と本 間 義 人 の 見解 に示 され るの で 紹 介 して お こ う。 これ ま で も多 く紹 介 して き た が 、歴 代 の 日本 の 全 総 計 画 に 主 に政 府 側 の 政 策 担 当者 と して 携 わ っ て きた 下河辺は、 「 一 言 で い う と、 日本 の 高度 成 長 期 ぐ らい地 域 格 差 が 縮 小 した こ とは 世 界 に 類 例 が ない で す。 だ か ら、私 は そ こで は大 威 張 り して 、 「 想 像 以 上 に格 差 が縮 ん だ 」 とい って い る わ け です 。(中 略) 総 合 的 な 政 策 の 下 で 、地 域 格 差 が世 界で 例 を 見な い ほ ど縮 ん だ とい う結 果 が 出 た わ け です 。 」4と して 、格 差 縮 小 が 達 成 され 、 全 総 計 画 に よ る地 域 格 差 是 正 に 肯 定 的 な 見方 を示 して い る。 確 か に他 国 と比較 して も、 日本 の 地域 格 差 の度 合 い は 高度 経 済 成長 を達 成 しな が ら非 常 に小 さく、また 高 度 成 長 の過 程 で 次 第 に小 さ くな って い る こ とは 前 述 の 統 計 か らもか な りの程 度 い え る こ とで あ る。た だ 、 1八 十 島 義 之 助 (1987) 2伊 藤 滋 (1985) 3国 土 審 議 会 調 査 部 会 産 業 専 門 委 員 会 (1982) 4下 河 辺 淳 (1994)、p.92 153 第 三章 日本 の地域 格差 是正政 策 と産 業立地政 策の変 遷 過疎 過 密 とい った 状 況 の 悪 化 は 、 そ う した地 域 格 差 の 減 少 が 都 市 化 に よ る 人 口集 中 に よ る過密 の 弊 害 や 、 農 村 の 人 口減 少 に よ る過 疎 や 農 業 シ ステ ム崩 壊 が 引 き金 と考 えれ ば 、国 土 政 策 と して 本 当に成 功 して い る の か 、あ る い は格 差 とい って も ど うい った 観 点 で は 成 功 し ど うい っ た観 点 で は 引 き続 き問題 が残 され て い るの か を 明確 化 す る必 要 が あ る と考 え られ る。 一方、 ジ ャー ナ リズ ム の 立場 か ら論 説 を続 け る本 間義 人 は、 「 全 総 計 画 は第 一 次 以 来 一 貫 して 日本 列 島 の過 密 過 疎 の解 消 を最 大 のモ チ ー フ に して きた は ず で あ る。第 一 次 全 総 計 画 が ス ター トして か ら既 に30年 が たつ が 、そ の過 密 過 疎 の解 消 が 実 現 され る ど こ ろか 、逆 に過 密 の 象 徴 た る東 京 へ の 一 極集 中 と地 方 の 過 疎化 は進 行 す るば か りで あ る。 全総 計 画 とは い っ た い何 で あ っ た か とい う疑 問 で あ る。 」5と して実 質 上 第 五 次 ま で 策 定 され て い る全 総 計 画 につ い て 常 に 批 判 的 な 立 場 を とっ て い る。特 に地 域 格 差 是 正 につ い て は 、全総 が 一 貫 して 過 疎 過 密 の解 消 を最 大 のモ チー フ に して きた の に 、人 口、産 業 の 吸 引 源 で あ る大都 市 対策 に 関 して は 意 図 的 に避 け られ て き た こ とを批 判 して い る6。さ らに 、全 総 か ら三 全 総 まで の 内容 に触 れ て 、そ の 計 画 主 題 が公 共 投 資先 をハ ー ド面 に特 化 し、ま た国 土計 画 に不 可 欠 の土 地 利 用 計 画 は もち ろん 、 地方 にお け る文 化 ・教 育 、福祉 、情 報 、国 際化 な どの ソフ ト面 につ い て は ほ とん ど触れ られ て い な い こ と を 、 そ の失 敗 の 主 要 な原 因 の 一 つ と して挙 げて い る7。 こ う した本 間 の 主 張 は 、そ の 時 ど きの 世 論 に 照 ら してみ た場 合 の 全 総 計 画 の 特 徴 、 と りわ け否 定 的 な面 を 見 た も の で あ っ て 、そ の 一部 は必 ず し も正確 で は な い、あ る いは 適 切 で は ない と考 え られ る部 分 も あ る。 三全 総 の と こ ろで 前 述 した よ うに、教 育 ・文化 等 に つ い て全 総 計 画 が 全 く触 れ て 来 な か っ た わ け で は な い し、ま た 「 ハ ー ド面 に 特 化 して い る」 とい う主 張 は 確 か に そ の通 りか も しれ な い が 、全 総 計画 が国 家 政 策 全 体 で は な く、そ の 一 部 の フ ィ ジカ ル プ ラ ンを担 う国 土政 策 で あ る以 上 、 ソ フ トの 部分 の ウェイ トが 多 少 小 さ くな っ て い て も致 し方 ない 面 が あ り、原 因 の所 在 は全 総 計 画 自体 よ りもむ しろ、全 総 計画 とそ の他 の 国家 レベ ル の 計 画 との 関係 や 、省 庁 間 の セ クシ ョナ リズ ム等 に関係 す る部 分 だ と考 え る こ とが で き るだ ろ う。 た だ 、大 都 市 対 策 が 意 図 的 に避 け られ て き た とい う傾 向 に つ い て は 、本 論 文 で も レビ ュー して きた よ うに確 か に そ の傾 向 が 見 られ る。全 総 計 画 で は 一 貫 して 地域 格 差 の 是 正 を旗 印 に新 産 業都 市 、大規模 プ ロ ジ ェ ク トや テ ク ノポ リス政 策 な どが 繰 り出 され て きた わ け だ が 、そ の 背 後 で都 市 政策 ・住 宅 政策 にお いて 、 宅 地 ・空 間 の供 給拡 大 策 が行 わ れ8、都 市 の基 盤 整 備 もそ れ な りに行 われ て き た。 こ う した 事 実 は 、第 一 章 で示 した 「 ホ ンネ とタテ マエ の 関係 」 を示 す と共 に 、それ が過 疎 過 密 とい った 問 題 を解 決 に 至 ら しめ る こ とな く結 果 と して 国 土 政 策 が 否 定 的 に 見 られ る こ との原 因 をつ くって きた とい え る。 一 方 、全 総 計 画 とい うシス テ ム に つ い て の評 価 も様 々 に 為 され て い る。 今 野修 平9は、 四 全 総 まで の 経緯 を、経 済社 会や 国民 生 活 の行 く末 を示 して基 本 的 方 向 に 向 け て誘 導 す るガ イ ダ ンス プ ラ ン と して の性 質 と、基盤 整 備 の (総合 的) 計 画 と して これ に対 す る責 任 を持 つ プ ロジ ェ ク トプ ラ ン とい う性 質 に分 類 し、財 政 難 と戦 後 体 制硬 直化 が露 呈 した 後 にお い て も、前 者 の機 能 は必 要 で あ り、合 意 形 成 上 、今 後 も機 能 す べ き こ と を再確 認 して お く必要 が あ る と主張 して い る。一 方 、石 田頼房 10は、こ う した国 家 に よ るガ イ ダ ン ス プ ラ ン 自体 に つ い て、 「 国 土 計 画 か ら地域 開発 政 策 や都 市 開発 政 策 5 本 間 義 人 (1992)、p.228 6 本 間 義 人 (1992)、p.228-p.232 7 本 間 義 人 (1992)、p.3-p.5 8 本 間 義 人 (1992)、p.2419 今 野 修 平 (1997)、p.55-60 10 石 田 頼 房 (1987)、p.252 154 第 三章 日本 の地域 格差 是正政 策 と産 業立地政 策 の変 遷 をブ レー ク ダ ウ ン させ てい く方 式 を確 立 させ た。従 っ て 地 方 自治 体 の側 も 、地域 開発 を考 え る とき に地 域 の 実 態 を踏 ま えて 考 え る よ り も国 の計 画 の動 向 、よ り具 体 的 に は 、い か な る国 家 プ ロ ジェ ク トが 導入 可能 か とい うこ と を探 る よ うに な る」11と して その 弊 害 を指 摘 してい る。 本 論 文 で は 、基 本 的 な立 場 と して 、 全 国 レベ ル の 地 域格 差 是 正 政 策 は そ の バ ラ ンス を 取 るモ チ ベ ー シ ョンが 生 まれ うる中 央 政府 に よ っ ての み 追 求 され うる (この こ と 自体 は 必 ず し も地域 の 自主 性 を削 ぐ こ とに は 繋 が らな い) こ とか ら、国家 レベ ル か らみ た 地 域 格 差 の 政 策 を レ ビュー して い るの で あ り、そ うい った 意 味 で は今 野 の 意 見 に 与す る形 とな って い る。 た だ 、伊 藤 滋12が 「日本 の政 治 は地 方 の政 治 家 が支 配 して い る とい われ て い る。 ・・・地方 選 出 の 政 治 家 が 東 京 を利 用 して 、地 方 に い ろ ん な利 益 を還 元 す る とい うの が 、 日本 の 政治 シ ス テ ム で あ る。 した が っ て こ うい うシ ステ ム の上 で作 る国 土計 画 は 、地 方 の こ と を重 要視 せ ざ るを得 な い。 ・・・地方 の 主 張 は ど う して も今 の 国 土 計 画 に入 れ ざ る を得 ない 状 況 です 。 」 と指 摘 す る よ うに 、表 面 上 、 地域 格 差 是 正 政策 が 均 衡 化 とい った 積 極 的 理 由 に基 づ い てい て も、実 際 の全 総 計 画 が 必 ず しもそ うい っ た積 極 的 理 由 を反 映 して い る とは 限 らな い こ と も指摘 して お こ う。 国 が別 に 策 定 す る経 済 計 画 との関 係 につ い て は、小 林 良 邦他 が 「 経 済 計 画 の モ デル に 匹 敵 し うる よ うな 総合 的 計 画 技 術 が 、い か ん な が ら国 土 計 画 の 領 域 で は 登場 してお らず 、そ の こ とが 一つ の 計 画体 系の 総 合 化 、 リンケ ー ジを 技術 面 で 阻 害 して い る」13と して 手法 上 の問題 点 を指 摘 してお り、そ こに は 「 経 済計 画 が総 需 要 管 理 政 策 を主 体 とす るマ ク ロ経 済 の将 来 設 計 に 主 眼 をお き 、また 、 どち らか とい え ば 民 間部 門 の 活 動 を も含 めた 将 来 予 測 的 性 格 を強 く持 っ てい るの に 対 し、開 発 計 画 は 総 合 的 な 地域 開発 を 主軸 とす る国 土利 用 (した が っ て フ ィ ジカ ル な要 素 の 強 い) 体 系 の設 計 に 目的 をお い た政 府 と して の 実施 計 画 的 な色 彩 がや や 濃 い 」 とい う策 定 シス テ ム 上 の 問題 が あ る と分 析 して い る。後 述す る タイや マ レー シ ア を は じめ と す る他 の ア ジア 新 興 工 業 国 の多 くが 、 「 経 済 社 会 計 画 」 とい っ た形 で 、経 済 指標 の 目標 な どを含 めた 政 策 づ く りを 行 って い るの と対 照 的 とな っ てい る。 一 方本 間義 人 は 、 この 点 につ い て彼 の 問題 意 識 と合 わせ 、 「 経 済 主 義 に 基 づ きハ ー ドに特 化 して しま った の は ・・・、国 土 計 画 が経 済 計 画 (高度 成 長 政策) か らブ レー クダ ウ ン され て 策 定 され た もの で あ る が ゆ えに 不 可避 の選 択 で あ った か らに他 な らな い。それ は 日本 株 式 会社 の 経 営 に と っ て避 け る こ とに で き な い途 で あ っ た の で あ る。 この 結 果 、計 画 の 総合 性 とい う観 点 も失 われ た 。」14として い る。国 土 計 画 が 経 済 計 画 か らブ レー ク ダ ウン され て 出 来 た か ど うか に つ い て は、 前 述 の所 得倍 増 政 策 と全 総 の 具 体 的 な経 緯 を み る と必 ず しもそ う言 い切 れ な い 点 が あ る こ とは否 めな い が 、結 果 と して 計 画 の 総 合 性 が失 われ た 原 因 と して 、元 々統 合 して つ く られ るべ き政策 が2つ に 分か れ て い た た め 、お 互 い に (特に 経 済 計 画 が 国 土 計 画 に対 して) 本 来 の 目的 に そ ぐわ な い よ うな影 響 を与 え て し ま って い た とい うこ とが で き るか も しれ な い。 3.4.2.2. 日本 の 国 土 政 策 全 体 へ の 評 価 次 に 、 全 総 計 画 も 含 め た 日本 の 地 域 開 発 政 策 全 体 に つ い て の 特 徴 付 け 、 ま た 肯 定 的 ・否 定 的 評 価 に つ い て も レ ビ ュ ー し て お く。 大 西 隆15に よ れ ば 、 日本 の 地 域 開 発 政 策 は 、 種 々 の ハ ンデ ィ キ ャ ップ を 持 っ た 特 定 の 地 域 の 振 興 を 図 る 11 石 田 頼 房 (1987)、p.252 12 伊 藤 滋 (1998) 13 小 林 良 邦 他 (1979)、p.85 14 本 間 義 人 (1992)、p.33 15 大 西 隆 (1998) 155 第 三章 日本 の地域 格差 是正政 策と産 業立地政 策の変遷 もの と、産 業 立 地 を 通 じて 地 域 振 興 を図 る もの とに 大別 で き 、前者 に は 山村 、離 島 、過 疎 、半 島 な ど大都 市 か ら離 れ 、 交通 不 便 の た め衰 退化 傾 向 に あ る地 域 の振 興 策 が あ り、後者 に は 前述 の新 産 ・工 特制 度 を は じめ、 テ ク ノポ リス 法 、頭 脳 立地 法 、 リゾー ト法 、地 方 拠 点都 市 法 な どが あ って 、特 に後 者 は産 業誘 致 や 振 興 を通 じて 地 方 の 活 性 化 を図 ろ う とす る政 策 で 、地域 開発 政策 の 代 名 詞 と して 注 目 され 続 け て い る。本 論 で 論 じて い る地 域 格 差 是 正 政 策 との関 連 で は 、衰 退 地域 の地 域 振 興 策 と、産 業誘 致 の た め の地 域 振 興 策 の 種類 分 け が 重 要 で あ る と考 え られ 、そ の 主 要 な役 割 を果 た して きた 、あ るい は果 たす と想 定 され て きた もの は後 者 で あ る と考 え られ る。一 部 で 、前者 の よ うな政 策 が 地 域格 差 是正 政 策 の 中 で も重要 で あ る と考 え る意 見 が あ り、 ま た 本 論 文 で も こ う した格 差 は 過密 過 疎 問題 (絶対 的 地域 格 差) と捉 え て い る もの の 、 実 際 に 国 レベ ル の 地域 格 差 に 与 え る影 響 は小 さ く、ま た各 全 総 計 画 に お い て も、こ う した 衰 退 地 域 の振 興 は各 地 域 別 計 画 の 中 で 豪 雪 地 域 、離 島地 域 とい っ た形 で明 記 され て は き た が 、地 域 格 差 是 正 政 策 の 主流 と して は捉 え られ て 来 な か っ た。 この こ とは小 杉 が、国 土 政 策 の性 質 と して国 際 競争 力 の 強 化 と企 業 合理 性 の追 求 を背 景 に して進 め られ た 、産 業 政策 的 性 格 の 強 い地 域 「 開 発 」政策 で あ っ た こ とを指 摘 して い る16こ とか らもい え る。 こ こで は 、 こ う した こ とを前 提 に まず 日本 の 地 域 開発 政 策全 体 につ い て 、(1) 是 正 の 手段 と して の 工業 の 評 価 、(2) 中 央 政府 主 導 、(3) 政 策 の 弱 体化 、 の3点 か ら レ ビュー してみ よ う17。 (1) 是 正 の手 段 と して の 工 業 の 評 価 地域 格差 是 正 の 手 段 と して用 い られ た 工業 の 地 方 分 散 に つ い て は、 大 薗他18が、 「 過密 ・過 疎 の解 消 、 地域 格 差 是 正 とい う課 題 は 、本 来 そ の解 決 に は相 当長 期 を有 す る性 格 の もの で あ り、か つ 一 人 工 業 立 地政 策 のみ な らず 総 合 的 課題 で あ る こ と を考 え合 わせ る と、種 種 の経 済 的評 価 は あ る にせ よ 、む しろ これ ま で の諸 立地 政 策 の果 た した役 割 は 大 き か った 」 と して 肯 定的 な見 解 を示 して い る。 大 西 隆19も、 「日本 の 戦 後 の 国 土計 画 に は 必 ず 産 業 立 地 政 策 が伴 っ て きた。そ して 産 業 立 地 の 地域 的 展 開 とい う意 味 で は あ る程 度 成 功 を収 め て き た とい え る。 」 と肯定 的 な見解 を示 して い る。 しか し公 害 ・環 境 問 題 の 悪 化 、他 方 で第 三 次 産 業 へ の 基幹 産 業 の転 換 とい った 流 れ か ら、否 定 的 な 見解 の方 が が よ り多 く見 られ る。 古 くは 宮 本 憲 一 が 、拠 点 開発 に よ る地 域 開発 方 式 が 、産 業 基盤 の公 共投 資の 集 中∼ 重 化 学 工 業 の誘 致 ∼ 関連 産 業 の発 展 ∼都 市 化 ・食 生 活 の 変化 ∼周 辺 農 村 の 農 業 改 革 ∼所 得 水 準 の 上 昇 に伴 う財 政 収 入 の増 大 ∼ 生活 基盤 へ の公 共 投 資 ・社 会 政 策 に よる住 民 福 祉 の 向 上 、 とい っ た 流れ に 沿 っ て行 わ れ て い る と図式 化 し、 これ が 「 後 進 国 開 発 方 式 の 国 内 地域 へ の適 用 」で あ り、一 国 の 開発 方 式 を狭 い地 域 内 の 開 発 に 当 て は め た とい う点 で 経 済 学的 に は基 本 的 に 誤 っ た もので あ る と指摘 して い る20。確 か に結 果 か らみ る と、工 業 の 分 散 に は あ る程 度 成 功 した が 、そ の 当地 で の 関連 産 業 の発 展 ・都 市化 に は 必ず 16 小 杉 毅 (2000) 17 大 西 (大 西 隆 (1998)) は、 後 者 の 地 域 振 興、 産 業 立 地、 地 域 計 画 の 法 制 度 を、 次 の よ うな 特 徴 で ま とめ て お り、 こ こ で も そ れ に 基 づ い て 地 域 格 差 是 正 に よ り関 連 の 深 い も の に つ い て 、 取 り 上 げ る こ と に した 。 (1)国 主 導 の 地 域 計 画 …国 の 関 与 が 強 い 。(2)制 度 の 長 期 化 …特 実 上 う ち 切 ら れ た の で あ る が 、 …当 定 地 域 総 合 開 発 計 画 は10年 度で事 初 の 目的 を 達 成 した り、 す で に 実 状 に 合 わ な く な っ て い る と指 摘 さ れ て も 、 長 期 的 に 継 続 さ れ る傾 向 に あ る。(3) 優遇 措 置 の 弱 体 化 、 指 定 箇 所 の 増 加 …優 遇 措 置 を見 る と 、 直 接 的 な 財 政 援 助 な ど が な く な り、 税 制 、 金 融 な ど 民 間 投 資 優 遇 策 に シ フ トす る傾 向 に あ る。(4)議 員 立 法 …地 域 開 発 法 の 多 く は 議 員 提 案 に よ っ て 作 られ た こ と も 特 色 で あ る 。 18 大 薗 英 夫 ・藤 井 隆 ・飯 島 貞 一 編 著 (1980)、p.116 19 大 西 隆 (1992) 20 宮 本 憲 一 (1975)、p.198 156 第 三章 日本 の地域 格差 是正政 策と産 業立地政 策の変 遷 しも繋 が らず に人 口は 大都 市 に逃 げて しま った 点 を、グ ローバ ル 化 以 前 の 国 単位 で の 開発 が 人 口で閉 鎖 さ れ た 形 に な って い る の に対 し、国 内 地域 間 の移 動 は基 本 的 に 可能 で あ る とい う原 因 に 求 め る視 点 は理解 で き る。 実 際 に 後 進 国 開 発 方 式 が適 用 され た か ど うか に つ い て は 、 詳細 な 検 討 の 余 地 が あ る と思 おれ る が 、 少 な く と も重化 学 工 業 の 誘 致 が 関連 産 業 の発 展 に必 ず しも繋 が らなか った 点 は確 か で あ る。 開発 途 上 国 あ るい は 新 興 工 業 国 との比 較 とい う点 で は 、 谷 口興 二21がタイ につ い て 分析 した文 献 にお け る、日本 の 地 域 開 発 の 特 徴 付 け も興 味 深 い。谷 口は 、日本 に お け る一 連 の 地域 総合 開発 計 画 の特 徴 と して 、 「 産 業 の移 動 の 多 くが 環 境 へ の あ り うべ き害 を軽 減 す る こ とを 目的 と した か 、あ るい は 工 業 的資 源 、例 え ば 工 業用 水 、電 力 、等 の利 用 にお け る地 域 間 の 調 和 (公正) の観 点 か らな され た もの で あ る、 とい うこ と で あ る。 言 い換 えれ ば 、所 得 の よ りよい配 分 に 対す る気 配 りは なか った し、 また 、地 域 間 の所 得 分 配 の 改 善 を 図 る もの で は なか っ た。 …日 本 は 国 土 が狭 く、そ れ ゆ え 日本 人 は環 境 、工 業 用 資源 の劣 悪 化 、 あ るい は 工業 の発 展 に 用 地 が 不 足 しな い か否 か とい っ た 点 に よ り大 き く注 意 を 払 っ て き た の で あ る。」 とい う見 方 を示 して お り、 こ う した 見方 は 、これ ま で見 て きた よ うな 日本 の地 域 開 発 論 者 の 見 方 とは 必ず しも 一 致 して い な い。全 総 計 画 を中 心 とす る 日本 の国 土 政 策 は、 地 域格 差 是 正 政 策 にお いて 確 か に 所 得 の配 分 に も (少 な く と も タテ マ エ 上) 気 を配 っ て き た こ とは、全 総 計 画 中 の記 述 な ど をみ て も確 か と思 わ れ る が、 実 際 の 政 策 にお い て は 工 業 本位 の政 策 で あ っ た とい う捉 え方 とい う意 味 で宮 本 の見 方 と似 通 って い る。そ して や や 結 果 論 的 で は あ るが 、 こ うした 見方 は あ る程 度 正 し く、 工業 は 分 散 され た が 、地 域 間 所得 分 配 は 偏 った もの とな り、た だ しそれ が人 口移 動 に よっ て 一 人 当た りの値 で はか な りの 程 度 格 差 が補 われ バ ラ ン ス の とれ た もの と な った とい う言 い 方 が で き る だ ろ う。 ま た 前 述 した よ うに竹 内淳 彦22は、 東 京 か らの分 散 が全 国的 な均衡 で は な く大都 市 圏 と して の器 の拡 大 を意 味 す る とい っ た 見 方 か ら、 「この 基本 的視 点 を欠 い た とこ ろに 、全 国 スケ ー ル で の 工 業 分散 政 策 が 思 うよ うに 行 わ れ な い原 因 が あ る。す な わ ち 、国や 地方 自治 体 あげ て の 強 力 な分 散 政 策 に も か か わ らず 、東 京 地域 を含 む 大都 市 工 業 地 域 へ の集 中 は却 って 強 ま って い る」 と批 判 して い る。 さ らに小 杉 毅23は、地 域 格 差 是 正 の 方 法 が 工 業 に偏 る一 方 で、 産 業構 造 の転 換 に伴 う第 三 次産 業 の集 積 集 中 に 対す る配 慮 が 欠 け て い る こ とを示 して 、三 大都 市 圏 、 と くに 東 京 圏 へ の 中枢 管 理 機 能 を 中心 とす る 産 業 ・人 口の 集 積 集 中 は 、一 方 で都 市 圏 の過 密 ・過 大 、他 方 で は 地 方 圏 との経 済 的 地 域 格 差 を拡 大 して い る が 、 これ らを抑 制す る実 効 あ る措 置 は ほ とん どな い こ とを批 判 して い る。 (2) 中 央政府 主導の 地域開発 次 に 、国主 導 の 地 域 計 画 とい う観 点 か ら も様 々 な特 徴 付 け が な され て い る。 も と も と地 域 格 差 是 正 とい う概 念 は対 象 の 地域 を包 括 して 管理 す る組 織 か ら しか そ の 政策 の モ チ ベ ー シ ョンが 得 られ な い こ とは前 述 した通 りだ が 、近 年 は 、地 方 分権 議 論 の 進 展 や 国 家 を含 め た財 政 難 、 さ らに は規 制 緩 和 とい った 経済 政 策 の流 れ か ら、 国 主 導 の こ う した政 策 には 批 判 的 な意 見 が 多 く見 られ る。 古 くは横 山桂 次24が、 「(1) 地域 開 発 は 、 地域 住 民 の福祉 と発展 、 自治 体 財 政 の 充 実 を 目標 に 、工 場誘 致 と して始 め られ るが 、結 局 は進 出 企 業 の利 益 の た め に住 民 の 犠 牲 に お い て展 開 され る。(2) 地域 開発 の決 定 過程は、国―県 ― 市 町 村 と上 か らの 政 策 の 下 降 と して現 れ 、住 民 の意 見 が 代 表 され な い ば か りか 、 自治 体 21 谷 口 興 二 (1994)、p.5222 竹 内 淳 彦 (1996)、p.110 23 小 杉 毅 (2000) 24 横 山 桂 次 (1963) 157 第 三章 日本 の地域 格差是正政 策と産業 立地政 策の変遷 内 で は 、執 行 部 の議 会 に 対す る優位 性 、企 画部 門の 権 限 拡 大 、 自治 体 の 「 経 営 体 化 」 な ど民主 的 統 制 を排 除す る形 で 進 め られ 、 さ らに は 、地 方 の 国 へ の 依 存 を 強化 す る結 果 とな る。 ま た 、企 業 の進 出 に伴 っ て発 生 す る 巨大 な利 権 は 、 それ を巡 る政 党 ・議 会 の 関 与 に よ っ て住 民 不 在 の 政 争 を 引 き起 こす こ とに もな る。 しか しな が ら、(3) 上 か らの 工 業 化 は 、町 内 会 ・部 落 会 等 地縁 集 団の 住 民 統 制機 能 の 喪 失 を もた らす とと も に、地 元 の負 担 や 犠 牲 は住 民 の 中 に権 利 意 識 を生 み 出 し、多 くの 問題 点 を は らみ つ つ も、地域 の民 主 化 に つ な が る地 域 開 発 へ の 反 対 運 動 を生 み 出 しつ つ あ る」 とい う三点 を指 摘 し、 大 嶽秀 夫25はこの指 摘 が そ の 後 の 地 域 開発 研 究 に お い て 何度 も確 認 され て き た と して い る。 こ うした 批 判 は、大 嶽 が い うよ うに 、個別 の 地 域 開発 を批 判 す る文 献 か ら非 常 に 多 くの指 摘 が な され て き て い るが 、 こ う した批 判 は一 般 的 に 、当該 対象 政策 の問 題 点 の指 摘 に 限 られ てお り、そ の政 策 の 元 とな っ て い る 国 土 政 策 、及 び 地 域 格 差是 正 とい った 目的 に 照 ら して 具 体 的 な 改 善 点 を述 べ た よ うな文 献 は 、管 見 の 限 りな い に 等 しい 状 況 で あ る。 も ち ろん オー ル ター ナ テ ィ ブ と して 「 内 発 的 発 展 論 」 が理 念 的 に用 い られ る こ とが度 々 あ るが 、そ れ は あ くまで (一部) 地域 で の 成 功例 と して の取 り上 げ られ 方 で あ り国土 政 策 に照 ら して各 所 で 内発 的 な発 展 を 目指 す 方 が 地 域格 差 是 正 に有効 で あ る とす る よ うな具 体論 は 出て き て いな い 。 む しろ 、前 述 の よ うに 矢 田俊 文26が 「 一 村 一 品運 動 で が ん ば りま し ょ う とい う話 と―極 集 中構 造是 正 とい う話 の 間 に は 、相 当 の落 差 が あ る とい うこ とを確認 して頂 か な い とい け な い。 …よ うす る に、地 域 づ く りで は本 当 に 優 れ た例 を沢 山 挙 げ て い る 大分 県 で さえ 、人 口減 少 率 は 高 い とい うこ とに、今 の 国 土 シ ステ ム の 大 変 大 き な 問題 は残 っ て い る 」 と指 摘 し、また 特 に 四全 総 当時 の東 京 一極 集 中の 時代 に 清成 忠 男27も 「 企 画 庁 で の研 究 委 員 会 で 議 論 の 対 象 に な った の は 、大 分 県 の 一 村 一 品 運 動 の よ うな過疎 地 域 を含 む と ころ で の 地 域 振 興 が 振 り出 しに 戻 った の で は な いか 、限界 が見 え て き た の で は な いか とい うこ とで した。広 域 東 京 圏 の 形 成 か ら外 れ て い る よ うな 一村 一 品 運 動 に は 、限 界 が あ る こ とが 明確 に な っ た わ け です 。 …も ち ろん 内 発 的 な地 域 の 中か らの 活 性化 努 力 は不 可 欠 です が 、 それ だ けで は も うど うに も な らな い。つ ま り大都 市 か らの イ ン パ ク トで 地域 の 内発 力 を引 き 出す の で な い と地 域 振 興 は難 しくな っ て い る とい う感 じを持 ちま した。 」 と指 摘 した よ うに、 国 土政 策 と して の内 発 的 発 展 の効 力 には 限 界 が あ る と考 え られ る28。 た だ し近 年 特 に 著 しい地 方 分 権 議 論 の 中で 、 シ ャ ウプ報 告 に基 づ い た既 存 の税 制 シ ステ ム29を批 判す る 意 見 が あ る。原 田泰 は 、地 方 交 付 税 交 付 金 を は じめ とす る、中央 が税 金 を集 め て地 方 に分 配 す る とい うシ ス テ ム が 、シ ャ ウプ博 士 自身 が 考案 した よ うな地 方 自治 の 活性 化 に は な らず 、む しろ逆 に 地 方 の モチ ベ ー 25 大 嶽 秀 夫 (1999)、p.172 26 矢 田 俊 文 (1996)、p.40 27 清 成 忠 男 (1988)、p.63 28 そ の 他 に も、 黒 田 (黒 田 彰 三 (1996)、p.51) が、 「地 域 に 雇 用 機 会 と収 入 を も た らす も の, す な わ ち 地 域 を 活 性 化 す る 産 業 と して 「ソ フ ト化 」 「サ ー ビス 化 」 に 対 応 し て 「 観 光 」 産 業 と 「伝 統 工 芸 品 」生 産 が 本 格 的 に 考 え られ だ し た の で あ る。 しか し こ う した 産 業 の 盛 衰 は ど ち らか と い う と経 済 全 体 の 景 気 の 状 況 に 影 響 さ れ る こ とが 大 き く, 地 域 開 発 の 牽 引 力 と して 期 待 され る に は,無 理 が あ っ た 。 日本 経 済 が 低 迷 して い る と き に そ の よ う な 産 業 が 活 発 化 し て く る 機 運 は 少 な く, 製 造 業 で 公 害 も 少 な く, 雇 用 吸 収 力 の あ る 産 業 の 出 現 が 期 待 さ れ て い た 。 」 と述 べ て い る。 29「 中 央 が 全 国 の 富 を集 め 、 そ の 富 を 地 方 に 分 配 す る と い う シ ス テ ム が 本 当 に 完 成 し た の は 、 戦 後 の カ ー ル ・シ ャ ウ プ 博 士 に よ る 地 方 財 政 …税 制 改 革 の 結 果 で あ る。 …現 在 の 日本 の 地 方 財 政 ・税 制 は、 基 本 的 に は コ ロ ン ビア 大 学 の 財 政 学 者 シ ャ ウ プ 博 士 に よ っ て 作 られ た も の で あ る 。 」 原 田 泰 (2001)、p.131よ り。 158 第 三章 日本 の地域格差 是正政 策と産 業立地政 策の変遷 シ ョン を 奪 っ て しま っ た と指 摘 して い る30。この こ とは 直 接 的 に 国 土 政策 が規 定 して い る こ とで は な い が 、 国土 政 策 の 実行 手段 の 一つ の 拠 り所 と な って い る こ とは確 か で あ り、国 土 の均 衡 あ る発 展 とい っ た 思想 は 税 制 に も強 く表 れ て い る こ とに な る。 こ うした既 存 の 税 制 を改 め 、地方 政 府 が 税 を集 め そ れ を そ の地 方 の 公 共 目的 に使 う こ とで 、前 述 の 内発 的発 展 に よ り 自治 体 の 政 策 が 活性 化 され 地 域 の 振 興 に 繋 が る可能 性 は 確 か に あ る が 、こ う した 地 方 分 権 論 にお け る主 張 、極 論 す れ ば地 方 へ の 権 限 移 譲 がす べ て の 自治 体 を活 性 化 し、自治 体 全 体 の底 上 げ と過 疎 過 密 の 弊 害 を含 め た格 差 の是 正 に繋 が る とい う論理 に は飛 躍 が あ る と考 え られ る。 (3) 政策 の 弱 体 化 さ らに 、上 記 の2つ の観 点 、及 び 第 一 章 で 述 べ た 「 ホ ンネ と タテ マ エ」 に も関係 す る こ とで あ るが 、地 域 格 差 是 正 の た め に用 い られ た政 策 (優遇 措 置) の 弱体 化 や につ い て の評 価 も レ ビュー してみ よ う。 一 般 的 に は 、小 杉 毅31が 「 本 来 、地 域 「 開発 」 政 策 に も開発 だ けで な く保 全 ・抑 制 とい っ た 意 味 が含 ま れ るの だ が 、日本 の 地域 「開発 」政 策 は開 発 中心 の誘 導措 置や 助 成 措 置 に重 点 が 置 かれ 、規 制 措 置 の整 備 ・ 人 口は緩 慢 で あ った 」 と して 、 地域 格 差 是 正 に必 要 な政 策 で あ る (集中地 域 の) 規制 と (衰退 地域 の) 優 遇 に つ い て 優 遇 の み が 中心 で行 われ 、そ の 結 果 と して 、 「 新 産 業都 市 ・ 「 工 特 」(旧 全 総) や 巨大 工 業 基 地 (新全 総) の建 設 構 想 …、1970年 代 半 ば 以降 の 低 成 長 期 に指 定 され た モデ ル 定 住 圏 (三全総) や テ ク ノポ リス 等 の 諸 政 策 も産 業 ・人 口の 地方 分 散 (定着) や 経 済 的 地 域 格 差 の 是 正 に 寄 与す る もの と期待 さ れ た が 必 ず しも実 効性 は高 くな い」 と結 論 づ けて い る。前 述 した よ うに 、実 際 に行 われ た工 業 に対 す る規 制政 策 は 、1960年 前 後 に 制 定 され た 工 業 等 制 限 法 と工場 等 制 限 法 くらい で 、そ の後 の産 業 構 造 の 転換 に合 わせ て一 部 で検 討 され た オ フ ィス 立 地 の 規制 も、 直接 的 に は32行われ て い な い。 こ う した こ との 背 景 に は 、規 制 的 な 手 段 に 対 して民 間 の側 か ら常 に反 対 が あ る こ とが 挙 げ られ るだ ろ う。 日本 の経 済成 長 に つ い て は 、米 商務 省 が 「日本 株 式会 社 」 と批 判 した よ うな、統 制 会 等 を中 心 と した官 主 導 の経 済振 興 シス テ ム に よ る もの で あ る とい う見方 も多 い33が、実 際 は 末廣 昭34が大川 一 司 ・小 浜 裕 久35等 の文 献 を踏 ま えて 、日本 の 高度 経 済成 長 は 主 に 市場 メカ ニ ズ ムの 作 用 と民 間部 門 の ダイ ナ ミズ ム に よる も の で あ り、 産 業 政策 もそ う した 市場 メ カ ニ ズ ム を補 完 した も の とい う見方 を示 して い る36。この こ とは 、 大枠 にお い て経 済成 長 が優 先 され 、民 間 活 動 を規 制 す る よ うな政 策 は よほ どの弊 害(例 えば公 害 な どに よ る人 的被 害) が生 じな い 限 りは 具 体化 され な か っ た こ とを示 して お り、国 土政 策 が こ う した産 業 の誘 致 に 30 原 田 泰 (2001)、p.187 31 小 杉 毅 (2000) 32 間 接 的 に は 、 都 心 で の 容 積 率 規 制 が 規 制 手 段 と して あ げ られ 実 際 に 規 制 も され て い る が 、 そ う した 政 策 が オ フ ィ ス 立 地 を 規 制 し分 散 す る よ うな 形 で 行 わ れ た 形 跡 は な く、む し ろ 需 要 以 上 の 規 制 値 を 設 定 し た た め バ ブ ル 経 済 の 元 と な っ た と い う指 摘 が 多 く 存 在 す る 。 33 滝 田 洋 一 『二 十 世 紀 を 解 く 一 政 治 の 百 年 』 日本 経 済 新 聞 朝 刊2000年12月31日 朝 刊19面 34 末 廣 昭 (2000)、p.146 35 大 川 一 司 ・小 浜 裕 久 (1993) 36「 大 川 ・小 浜 の 次 の 結 論 、 つ ま り 「わ れ わ れ は 戦 後 日本 の 高 度 成 長 に お い て も っ と も 重 要 な フ ァ ク タ ー は 産 業 政 策 で は な く、 民 間 部 門 の ダ イ ナ ミズ ム で あ る と 考 え る。 も ち ろ ん、 産 業 ・輸 出 振 興 政 策 も 一 定 の 役 割 を 果 た した こ と は 事 実 で あ る。 しか し、 民 間 部 門 の ダ イ ナ ミ ズ ム 、 い い か え れ ば 市 場 メ カ ニ ズ ム に 基 づ い た 効 率 指 向 的 な 経 済 運 営 を 助 長 す る よ うな 形 で 産 業 政 策 が 行 わ れ た と こ ろ に 戦 後 日本 の 高 度 成 長 の 秘 密 が あ る 」(大 川 ・小 浜1993)と い う見 解 は 、 日本 経 済 研 究 者 達 に よ る最 近 の 理 解 、 「産 業 政 策 が 成 功 した の は 、 市 場 メ カ ニ ズ ム の 作 用 を 間 接 的 に 援 助 した 場 合 に 、 限 定 さ れ た の で あ る 」(橋 本 他1998) い う理 解 と も ほ ぼ 共 通 し て い る 。 」(末 廣 昭(2000)、p.146) 159 と 第 三章 日本 の地域 格差 是正 政 策と産 業立地政策の変 遷 つ い て持 つ影 響 力 の 限 界 を 示 す もの と思 われ る。 グ ロー バ ル 化 が 地域 格 差 是 正 政 策 の弱 体 化 に 繋 が っ た とす る見 解 は 、管 見 の 限 りま だ 見 あ た らな い。 し か し、全 総 の 時 代 に 新 産 ・工 特 や 工 業 (場) 等 制 限 法 な ど強 力 な 政策 を打 ち 出 して 過 疎 過密 と と もに地 域 間 不 平 等 の 是 正 を 目指 し、あ る い は 三全 総 の時 代 にハ イ テ ク産 業 の集 積 を 目指 して 当初 は1ヶ 所 の み の指 定 だ った テ ク ノ ポ リス政 策 が26ヶ 所 指 定 され 地 域 間 不 平 等 の 是 正 を担 うよ うに な っ た の にひ きか え、グ ロ ー バ ル化 が進 展 して きた90年 代 以 降、 産 業 立地 の地 方 分 散 を担 う新 しい政 策 は で て こな くな っ た。 特 に 1990年 代後 半 以 降 は 、逆 に 大都 市 圏 を含 め た都 市 の 振 興 を 目指 した 政策 (中心 市街 地 活 性 化 法 等) が出 始 め 、一 方 で 地 域 間 不 平等 を 担 っ て き た テ ク ノポ リス ・頭脳 立 地 、新 産 ・工特 、工 業 (場) 等 制 限 法 に 関す る法 律 は 廃 止 ま た は縮 小 され て お り、 地 域格 差 是 正 を担 う政 策 は 明 らか に 弱 体化 して い る こ とが わ か る。 3.4.2.3. 総 合 的 な 見 解 さて 、 これ ま で の 議 論 を踏 ま え な が ら、そ れ ぞれ の論 者 が これ ま での 国 土 政策 に対 して どの よ うな見 解 を示 して い るか に つ い て も、 一応 押 さ えて お き たい。 まず 経 済成 長 期 の 評価 に つ い て は 、 大薗 他37が、 「 経 済社 会 的 な 立 地条 件 は地 域 間 に お い て 質 的 に平 準 化 され 、地 方 都 市 の都 市 力 の 充 実 と相 ま って 地域 構 造や 、工業 立地 動 向 の 平 準化 傾 向 を もた ら した」と し、 「 地域 開発 政 策 の 基本 的 理 念 は 四半 世 紀 余 りに わ た る着 実 な施 策 の積 み 重 ね に よっ て 、そ の効 果 を現 して 来 て い る」 と結 論 づ けて 、戦 後 一 貫 して大 都 市 の 抑 制 、地 方 の 開 発 振 興 の た め に行 わ れ た 日本 の地 域 開発 政 策 を評 価 して い る。 しか しど ち らか とい え ば こ う した 見 方 は 少数 派 で あ り、特 にバ ブ ル期 が過 ぎ て低 成 長 の時 代 に 入 り、不 況 、財 政 難 や 地 方 分権 、 さ らに は開 発 か ら環境 へ の 市 民意 識 の変 化 を踏 ま えて 、批 判 的 な 見 解 が 多 く見 ら れ る よ うに な る。大 薗 他38も 「 若干 の課 題 」と して 、(1) 地 方分 散 政 策 の さらな る強化 (規制 ・優 遇 と も)、 (2) 特 に 開発 の 遅 れ た遠 隔地 で の特 別 措 置 の導 入 、(3) 生 活 ニ ー ズ も含 め た人 間 居 住 の 総 合 的 環境 の整 備 、と い っ た 事項 を挙 げ て い る。 工業 の分 散 に は 前 述 の よ うに 肯 定 的 な 見方 を示 して い た大 西 隆 も、四 全総 に基 づ い た議 論 を踏 ま え て 「 一 極 集 中 の解 決 と地 方 の 活 性 化 とい う問題 は別 々 に考 え るべ き だ と思 う。地方 を全 地 方 一 括 で 扱 うの は 無 理 が あ る。今 回 の 地域 拠 点 都 市 法 で も考 え方 の整 理 が必 要 だ ろ う。 …日 本 の地 域 政 策 は、伝 統 的 に 、 大 都 市 以 外 で は全 部 同 じ比 重 で 、地 方 の 中 に濃 淡 の 強 弱 は な い とい う考 え方 が あ る よ うだ 。 …「 地方 都 市 の 育 成 」 とい う場 合 に は 、全部 が 同一 視 され る。 これ ま で も 中枢 都 市 を 育成 しよ うとす る議 論 は あ っ たが 、政 策 的 ウェ イ ト付 け は され て こなか った。 それ が今 後 非 常 に大 きな 問題 に な っ てい くの で は な い か。 」39と して 、 地 方 分 散 あ るい は 地 方 の活 性 化 とい う考 え方 か ら国 土政 策 が 必ず し も適 切 な もの で は な か った とい う見 解 を示 して い る。 こ う した見 方 は 、低 成 長 期 に 入 り、国 土政 策 や 地 域格 差 是 正 政策 の意 義 が 見直 され る1990年 代 後 半 に は よ り強 い 形 で 表 れ る こ とに な る。 代 表 的 に は 原 田泰40が、 「 都 市 は 画 一 化 され 、 選 ばれ るた め の真 剣 な競争 は 存在 しな い。 …地 域間 格 差 が 常 に 解 消 され る よ うに 補 助金 が そ そ ぎ込 まれ て きた の で 、都 市 が人 々 の真 に望 む もの を探 り当 て る 37 大 薗英 夫 ・藤 井 隆 ・飯 島 貞 一 編 著 (1980)、p.49 38 大 薗英 夫 ・藤 井 隆 ・飯 島 貞 一 編 著 (1980)、p.116-117 39 大 西 隆 (1992)、p.38- 40 原 田 泰 (2001)、p.180- 160 第 三章 日本 の地域 格差是正政 策 と産 業立 地政 策の変 遷 競 争 は 生 じ な か っ た 。 」 と し て 、 地 域 格 差 是 正 政 策 に 否 定 的 な 見 解 を示 し て い る 。 しか し一 般 的 に 地域 格 差 是 正 とは 反 対 の 意 味 で 用 い られ る 「 都 市 間 競争 」 とい う概 念 に つ い て は松原 宏 41が、 「これ ま で の 我 が 国 の地 域 開 発 政 策 を 振 り返 っ てみ る と、新産 業 都 市、 鉱 業 整備 特別 地域、 テ ク ノ ポ リス に 見 られ る よ うに 、一 つ の拠 点 も し くは 中 心 市 を核 と して周 辺 地域 を も含 め た 県域 を それ ぞ れ全 国 に 多数 指 定 して い く方 式 が 採 られ て きた。 しか し、それ らの指 定 地域 間 で は企 業 誘 致 競 争 が激 しく展 開 さ れ た り、産 業 基 盤 等 へ の投 資 が過 剰 に行 わ れ る とい う傾 向 が 強 く、地域 間 の連 携 や 「 個 性 化 」 は極 め て希 薄 で あ っ た。 工 業 の 分 散 に代 わ り、都 市機 能 の 分 散 が重 視 され る今 日に お い て も、 こ う した 地 域 間 ・都 市 間 の競 争 関係 は 「 都 市 間 競 争 の時 代 」 と呼 ばれ る よ うに依 然 と して 支配 的 で あ り、都 市 間 の連 携 や機 能 分 担、 「 個 性 化 」 の追 求 は未 だ 理念 の 域 を 出 て い な い の が 実状 で あ ろ う。 」 と して 、む しろ これ まで は都 市 間 が不 要 な競 争 に駆 り立 て られ て 同 じよ うな 失 敗 を 各所 で繰 り返 した とい う批判 の仕 方 を してお り、原 田 とはか な り違 う見 方 を示 して い る。 こ う した 、地 域 間 の 競争 と協調 とい う側 面 に は 多分 に政 治 的 な影 響 が か らむ こ と に な る。 蒲 島郁 夫 は 、 戦 後 日本 は経 済 成 長 ・経 済 的 平 等 ・政 治 参 加 の拡 大 ・政 治 的 安 定 の4つ を 同時 に達 成 した まれ なケ ー ス と して地 域 開 発 政 策 に高 い評 価 を示 して い る42が、 そ の要 因 と して 「 農 民 の 高 い 政 治参 加 が 、都 市 か ら農 村 へ の 政 治 的 な所 得 の再 分配 を もた ら し、平 等 な経 済成 長 を達 成 した 」 「 有 権 者 の 側 に も都 市 か ら農村 へ の 所 得 再 分 配 を許 す 気 分 が あ っ た。公 共 事 業 を通 じて都 市 の 富 を地 方 に 分散 す る こ とは 、ふ る さ とへ の 「 仕 送 り」の よ うな もの だ っ た か らだ 」 と して 、 これ まで の 政 治構 造 の 中 で地 域 格 差 是 正 が 保 た れ て き た こ と を指 摘 して い る。 田村 明43は この点 をや や 否 定 的 な観 点 か ら、 「 地 域 開発 は 中央 の論 理 で 中央 集権 的 に行 わ れ 、地 域 の 自治 体 は 中 央 の 指示 に 追 随 し、指 定 の 陳 情 に 奔 走す るだ けだ っ た。 中央 が 地 域 を統 制す るた め に は 、指 定数 を絞 り込 む よ りも、 ば らま きの 方 が 有 効 だ。 その 結 果 、特 別 の 地 域 を除 く と効果 的 な投 資 に な っ て い な い 。」 と指 摘 して 、政 治 家 の 影 響 力 が 地 域 格 差 是 正政 策 以 外 の 政 策 目的 に 対 す る効果 的 な 投 資 に な って い ない こ とを指 摘 して い る。この こ と はす で に 述 べ た テ ク ノポ リス 地 域 の 指 定 に典 型 的 に見 ら れ る もの で あ る。 3.4.2.4. ま と め 大 西 隆44は、 これ ま で の 国 土 政策 に 関 して 前 述 の よ うな 見方 を示 した後 で 、現 行 制 度 の改 革 を考 察 し、 (1)現行 地 域 開 発 制 度 の廃 止 (まず 現行 制 度 は 、指 定 地域 が広 範 で優 遇 措 置 も限 定 的 で あ り、政策 効 果 が 疑 わ しい。 この た め、 新 産 都 市 、 工 特 地域 や 、過 疎 、半 島振 興 な ど地域 開 発 制度 はす べ て廃 止 す る) (2)地域 計 画 の 策 定 と内 容 (策定 主 体 の分 権 化 、保 全 ・再 利 用 ・開発 の た めの 計 画) (3)地域 計 画 の 実 現 手 段 (各地 域 で ナ シ ョナ ル ミニマ ム が 実 現 され る に は、一 定 の財 政 力 が確 保 され る こ とが 必要 で あ り、 そ の た め の 基本 的 手段 と して 、地 方 交 付税 制度 を維 持 す る。 ま た 、国 と して 各 地 に重 要 政 策 の 実施 を 促 す た め の奨 励 的 な補 助金 制度 を 時 限 で実 施 す る) とい う3点 を 改 善 点 と して 主 張 して い る 。こ う した 指 摘 は 、地 域 格 差 是 正 とい う 目的 とそ の 他 の 政 策 目的 、 ま た そ の 手 段 に つ い て も 明 確 に 分 割 し 、 ま た そ の 手 段 に つ い て も よ り分 か り易 い 形 で 分 類 し、 さ ら に 時 代 に よ る 変 化 に 対 応 で き る た め に 時 限 を 設 定 す る と い う仕 組 み と い う こ と に な る 。 41 松 原 宏(1996) 42 芹 沢 洋 一 『コ ラ ム:二 十 世 紀 を 解 く-政 治 の 百 年-』 43 田 村 明(1997) 44 大 西 隆(1998) 161 日 本 経 済 新 聞 朝 刊2000年12月31日 朝 刊13面 第 三章 日本 の地域 格差是正政 策 と産 業立地政 策の変 遷 しか し、 地 域 格 差 是 正 の概 念 につ い て は、 下 河 辺45が、 「 格 差是 正論 の 中身 と して 、 情報 化 社 会 で は情 報 サ ー ビス のイ ン フ ラ的 な 差 が い け な い とい う議 論 が か な り出 て きた わ け です。…情 報 の格 差論 とい うの が 大 き くな っ て 、これ は所 得 格 差 論 とは 全 然 違 った機 会 の 均等 と して の格 差 論 が議 論 にな るわ け です 。 そ の うち に も っ と複 雑 に な った の は 、東 京 は 貧 し くて 、 自然 の あ る地 域 は 豊 か だ とい う発 想 が 出て きた か ら、環境 の 格 差 論 が 、む し ろ東 京側 か らい わ れ る よ うに な っ た。 した が っ て 、そ の 地域 格 差 論 とい うの は か な り綿 密 に議 論 しな い と政 策 に つ な が らな い 」 と指 摘 す る よ うに 、非 常 に複 雑 な 、そ して 内容 的 に は 一 意 的 に定 義 出来 に くい テ ー マ で あ る。特 に 同 じ状況 で あ って も、格 差 を容 認 す る か ど うか は最 終 的 に は 国 民 の 意 思 に委 ね られ る こ とか ら、 多 分 に政 治 的 な影 響 が あ る と考 えな けれ ば な らな い。 45 下 河 辺 淳 (1994) 、p.210 162