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幼稚園および保育所における 言語障害(問題)児の実態

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幼稚園および保育所における 言語障害(問題)児の実態
幼 稚 園 お よ び保 育所 にお け る
言 語 障 害(問 題)児
の 実態
佐藤
泰正
瀬尾
政雄
)
は
じ
め
に
一 般 に 言 語 障 害 児 とは ,発 音 や発 声 の障 害,リ
的 機 能 の障 害 を も って い る児 童(Berry,Eisenson)と
ズ ムの障 害,構 音 や 音 の産 出の 障 害,言 語
い うよ うに定 義 され て い る。
今 回 の実 態 調査 で は 特 に就 学前 幼 児 を調 査 の対 象 に して い る の で,幼 児 の言 語 能 力 の発 達
段 階 か らす れ ば 障 害 児 と断 定す る の に は問 題 もあ ろ う。 しか し現 実 に は どれ くらい こ うい う
言 語 障害 児 が 存在 して い るか を把 握 す る こ とは極 め て大 切 な こ とで あ る と思 い 研 究 を 進 め る
こと に した 。
そ の場 合,従 来 の言 語 障害 の定 義 や 範 囲 で は収 容 し きれ な いが,言 語 指 導 の上 か らは 見 過
ごす こ との で きな い 分 野 も考 慮 した。
つ ま り,綜 合 的 な言 語 活 動 の面 か らみ る と園 で は何 も話 さ ない 無 口な 子 が い る か と 思 え
ば,反 対 に 時 や場 所 も}ら ばず,お
し ゃべ りばか り して い る多 弁 児 もい て,こ れ らに つ い て
も言 語指 導 の上 か ら無 視 は で きな い。
また,言 語発 達 の面 か らは,そ の発 達 の 程 度 が 極 端 に 遅 れ て い る言 語 遅滞 児 や そ の 反対 に
極 端 に進 み す ぎて い る言 語 過 熟 児 の存 在 も言 語 指 導 の上 か ら無 視 で きな い。 後 者 の場 合 な ど
特 に 障害 児 とい うレ ッテル はつ け に くい 。
しか し,教 育 の場 の中 では,現 状 で は一 種 の言 語 問 題 児 とい え る だ ろ う。
こ うした 例か ら 明 らか な よ うに,本 研 究 は い わ ゆ る言 語 障害 児 とい う従 来 の 固定 的 な狭 義
の定 義 で な く,こ こで使 う言 語 障害 児 とは 広 義 の 言 語 問 題 児 っ ま り言 語 につ い て何 等 か の問
題 を有 す る幼 児 の こ とであ る とい うこ とを 理 解 して もらい た い 。
したが って,通 常 の言 語 障 害 児 の カテ ゴ リーを 拡 大 して 言 語 問 題児 を も含 め た もの を も対
象 に して そ の実 態 をつ か も うと した 。
(47)
1目
的
最 近 は,幼 児 の言 語 に つ い て の 関 心 も高 ま りそ の発 達 や 指導 に つ い て の 研究 は数 多 く発表
され て い る。 しか し,幼 稚 園 や 保 育所 に 在 籍 して い る就 学 前 幼 児 の言 語 障害 の 実態 は まだ正
確 に把 握 され て い ない 。
そ こで,本 研 究 では,前 述 した よ うに 就 学 前 幼 児 に お け る言 語 障害 児 の実 態 を 明 らか に し
よ うと した 。
しか し,調 査 方 法,障 害 分 類 や程 度 の 規 定 な どまだ解 決 す べ き多 くの 問 題 もあ って ・ これ
が 完全 な調 査 結 果 とは断 言 で き ない 。 よ り充 実 した 実 態 調 査 の 必 要 性 を 今 後 に 認 め つ つ そ の
際 の参 考 資 料 とな れ ば幸 い と思 う。
H調
査
方
法
1)調
査 期 間;昭 和45年5.月 ∼8月
2)調
査 対 象;幼 稚 園2,688人(4歳
児 ・5歳 児)
保 育 所1,150入(4歳
児 ・5歳 児)
3)調
査 地 域;東 京 が ほ とん どだ が,関 東,東 北,北 陸地 方 の 都 市 ・農 村 部 に も及 ん で い る。
4)資
料 収 集;(1)資
料 収 集 は 幼稚 園教 諭 養 成課 程 の2年 生 が あ た った 。 教 育 実 習 中 に 担 当
した クラ ス の幼 児 と夏 休 み に 帰省 した郷 里 の 幼稚 園 また は保 育 所 の幼 児 に つ い て の資 料 を
教 師 よ り得 て, さ らに 可 能 な 限 り各 自で 確 認 した 。
これ ら の結 果 を報 告 して も らい,レ ポ ー ター と共 に そ の資 料 の 妥当 か つ 正 確 さを 期 し
(2)
て,で
き るだ け じ ゅ うぶ ん な検 討 を加 えた 。 そ の際 に 分類 の基 準 と した もの を 次 に 述 べ
る。
5)障
害 の分類基準
障害 の 分類 基 準 につ いて は,過 去 に 多 くの分 類 が それ ぞ れ の立 場 か らな され て い るが,こ
こで は 次 の よ うな観 点 か ら四 つ に 分 類 した 。
(1)聴 覚 的 判 断 に よる異 常
(2)器 質 的 欠 陥 等 に よ る障害
(3)総 合 的 言 語 活 動 面 の 問 題
(4)総
合 的 言 語 発 達 面 の 問題
以 下,こ の 四 分 類 の 内容 につ い て少 し説 明 を加 え る。
(1)聴
覚 的 判 断 に よ る異 常
これ は 耳 で聞 い た 場 合 に 明 らか に異 常 と聞 き とれ る場 合 で,次
(48)
の三 つ に な る。
①
発 音 の異 常 が きわ だ って い る もの
発 音 の 異 常 とは,特 定 の音 を習 慣 的 に 誤 って 発 音す る もの と言 わ れ てい るが,一 般 に幼 児
音 や幼 児 語 といわ れ る もの を この分 類 に 入 れ て あ る。幼 児 語 の み の使 用 とい うこ と で あ れ
ば,言 語 発 達 の遅 滞 とい う分 類 へ 入 れ る こ とが 妥 当 と思 うが,実 際 に は 幼 児 語 の 使 用 と幼 児
音 とは分 離 しに くい実 状 な の で こ こに 入 れ た 。 幼児 語 の使 用 とい って も発 達 段 階 か ら比 較 的
多 く常 用 す る場 合 で,極 端 で ない 場 合 は対 象 と して い な い。
②
声 の異 常 が きわ だ って い る
声 の 高 低 ・強 弱 の異 常 や声 の質 の異 常 を この 分類 に 入 れ る。低 い声,小
さい 声 な どに よ っ
て言 語 不 明瞭 とい う場 合 も こ こには い るわ け で あ る。
③
吃
音
いわ ゆ る 「ども り」 で,話 の リズ ムの異 常 の場 合 で あ る が,こ れ も症 状 に よ って は 「一 次
性 ど も り」 と 「二 次 性 ども り」 とに 分類 され た りす るが,こ
こ では,ど
も りの 疑 い の あ る よ
うな もの まで含 め てあ る の で,特 定 の場 合 つ ま りみ ん な の前 で話 す 時 のみ,ど
に,ど
も る とか まれ
も って話 す とい うよ うな ケ ース も含 まれ て い る。 した が って,特 別 の 指 導 や 治 療 を要
しな い とい う程 度 も含 まれ てい る。
(2)器
質 的 欠 陥等 に よ る障 害
①
口蓋 裂 に と もな うこ とば の 異 常
②
脳 性 マ ヒに と もな うこ とば の異 常
③
精 神 薄 弱 に と もな うこ とば の異 常
④
聴 力 障 害 に と もな うこ とば の 異常
こ う した 病気 や原 因等 に と もな って生 じる言 語 障 害 は,こ
とば の 発達 の遅 滞 や 発 音 の 異
常,声 の 異 常 とい う症 状 を 示す が,本 調 査 の処 理 に 際 して は,(1)(3)(4)の 分 類 の 中 に は頻 数
と して 入 れ て な い。 例 え ば,聴 力 障 害 のた め に,こ とば の 発 達 が お くれ る とか 発 音 や声 の異
常 に よ る言 語 の不 明瞭 が あ って も,そ れ は こ の分 類 の中 で,聴 力 障 害 に と もな うこ とば の異
常 と して処 理 して い る。
な お,本 来 な ら,失 語 症,自 閉 症 に よ る言 語 障 害 児 が あ れ ば この 分r,rY`..入
れ るの が 妥 当 と
思 うが 本 調 査 で は そ の 例 が なか った の で こ こに は あ げ て な い こ とを付 記 して お く。
(3)総
合 的 言 語 活 動 面 の 問題 児
こ こで は,集 団生 活 の 中 で示 す 幼 児 の 言 語 活 動 で,言 語 生活 の態 度 と して問 題 の あ る も
の。 つ ま り家 で は し ゃべ る が 園 では何 も話 さ ない,言 語 活 動 を何 も しな い場 合(縅 黙 児)と
か,そ
の逆 に,時 や 所,場 所 も考 え ず しゃべ りま く る とい った 多弁 児 とか,乱 暴 な言 葉 や 下
品 な こ とば ばか り使 って 園 で の生 活 を乱 して い る もの な どが,言 語 指 導 の問 題 児 と して考 え
られ る。 抽 出 され るの は,当 然 極 端 な場 合 の み で あ る。
(49)
(4)総
合 的 言 語 発 達 面 の 問題 児
精 神薄 弱 とい うよ うな は っ き り した原 因 の分 って い る もの 以外 に,極 端 な言 語 発 達 の遅 れ
て い る幼 児,そ の 反 対 に,同 年 令児 に比 較 して極 端 に進 みす ぎて大 人 っぽい こ とば のみ しか
使 わ な い 幼 児(言 語 発 達 過 熟 児)も,指
導 上,問 題 を含 ん で い る とい え よ う。
以 上 に 述 べ た 分類 基 準 に よ って,調 査 した 資料 を整 理 して ま とめた ものを 次 にか か げ,そ
の 考察 を 進 め て み る。
1[【 結 果
(1)全
と 考 察
体 の 出現率
全
対
象
体
出
現 率(表1)
障害(問 題)児 数
調査人員
出 現
幼
稚
園
.::
125
4.600
保
育
所
1,150
64
5.6°0
体
3,838
189
4.9°o
全
率
言 語 障害 の 出現 率 につ い ては,言 語 障 害 の 定 義 の しか た,障 害 の 程 度 の きめ 方 お よび 調査
者,地 域,年 令 に よ り異 な り把 握 しに くい といわ れ て い る が,一 般 には,2∼7°oと
いわ れ
(1)
て い る。 た とえ ば,ア メ リカ聴 覚 言 語 学 会 の報 告 か ら算 出 した 出現 率5%と
い う数 値 や,
(2)
林,大 熊 両 氏 の調 査 結 果 に よ る5%台 の 出 現 率 と比 較 す る な ら本 調 査 の結 果4.9%と い う数
値 は,一 応 妥 当 な結 果 と推 測 で き る。
ち な み に,昭 和42年 度 に文 部省 が実 施 した 言 語 障 害 児 の調 査 「教 育 上 特 別 な 取 扱 い を必 要
とす る児 童 生 徒 」 の 出 現 率 は0.3300で そ の うち年 令 別 にみ た 場 合,6歳
児 では0.63%と
なっ
て い る。 しか し,こ の 調査 は 「教 育 上 特 別 な取 り扱 い を要 す る児 童 生 徒 」 とい う条 件 が つ い
て い る こ とで 明 らか な よ うに言 語 障害 児 特 殊 学 級 に,該 当 す る児 童 生 徒 を 想 定 し て い る の
で,こ の 「程 度 」 の解 釈 を 緩 和 す る こ とに よ って,も
っ と高 率 に な る こ とが容 易 に推 測 され
る。
(3)
また,佐 藤 氏 の大 阪 市 の小 学 生 対 象 の調 査 結 果 で は,0.74%の
もち ろ ん,小
出 現 率 とな って い る。
・中学 生 と就 学 前 幼 児 との 年 令差 や発 達 段 階,特 性 等 を加 味 して 考 え た 場
合,当 然 そ の分 類 や 基 準 の置 き方 に ち が い が あ る こ とは 明 らか で あ る。
しか し,こ
うした 種 々 の問 題 点 を 内 面 に は か か え な が ら も,本 調 査 で得 られ た5°o前 後 の
出現 率 は就 学 前 幼 児4,5歳
児 の もの と して 一応 考}ら れ る数 値 で あ ろ う。 な お,今 後 の調
査 研 究 の成 果 に 期待 す る と ころ大 で あ る。
(50)
(2)障
害 別 出現率
(表2)出
分
類
(1)聴
基
準
覚 的判 断
障
害
名..'e出
躰
保 育園
現率%
出瑚 隣 出瑚
発
音
障
害
39
1.45
22
1.91
1.59
3.0
音
声
障
害
4
0.11
3
0.26
0.16
0.2
音
14
0.52
12
1.04
1・:
0.7
口 蓋 裂 に 伴 う異 常
5
0.19
2
o.i7
0.18
0.1
脳 性 マ ヒに伴 う異 常
2
0.07
1
1t:
11:
0.2
精神 薄弱に伴 う異 常
5
0.19
7
0.61
0.31
一
聴力 障害 に伴 う異 常
7
0.26
2
0.17
0.23
0.5
30
1.12
7
0.61
0.95
一
弁
5
0.19
2
0.17
0.18
一
品
8
0.29
2
0.17
0.26
一
言 語 発達 遅 滞
9
0.33
4
0.35
言 語 発達 過 熟
6
0.22
0
0
吃
(II)器 質 的 欠 陥
細}口
'、、、
(皿)言
語 活 動
多
乱
(IV)言
米 国例
暴
・下
iO
.34
語 発 達
全 体 の 出現 率 が 約5%と
0.16
0.3
一
い う結果 に な った が,そ の 内訳 は ど うな って い るか,障 害 別 に そ
れ ぞれ の 出 現率 を整 理 した のが,表2で
あ る。
(3)
比 較 す ぺ き適 当 な 資料 が手 も とに な い の で ア メ リカ の例 を表2の 右 端 に つ け て 両 者 を 比 較
して み る。 発 音 障 害 を除 け ば,両 者 に は極 め て近 似 した 出 現率 と して示 され て い る こ とに 気
づ く。 とい うことは,全 体 の 出現 率 のみ な らず,障 害 別 出 現率 もか な り信 頼 のお け る数 値 と
な って い る と言 え る ので は あ る まい か。
分 類 基 準 や程 度 の差 異 は,当 然 あ るに して もな か なか 興 味深 い結 果 とい え よ う。
ち な み に,佐 藤 氏 の報 告 で は,小 学生 の場 合,発 音 障 害0.2°0,音 声 障害0。1%,ど
た は ど も りの疑 い0.09%と
な って い るが これ は,あ
も りま
とで年 令 別 に 考察 す る と ころ で,そ の発
達 段 階 を加 味 して検 討 してみ た い 。
また,保 育 所,幼 稚 園 に お け る言 語 障害 の 出現 率 につ い て み る と全 体 の出 現 率 と障 害 別 出
現率 の 両 者 に つ い て顕 著 な差 は 見 られず,幼
稚 園 と保 育 所 の間 に は,特 に 差 異 は な い もの と
思 わ れ る。 次 の 障害 の割 合 の項 で,さ らに 施 設 に よ る比 較 を して み る。
(3)全
障 害 に対 す る 各 障 害 の 割 合
全 障 害 に 対 す る各 障害 の割 合 を幼 稚 園 と保 育所 別 に整 理 した の が表3で あ る。
幼 稚 園 の上 位 障 害 名 は,発 音 障 害,無
口,吃 音 とな り,保 育 所 で は,発 音 障 害,吃 音,無
ロ
の順 位 であ る。 下位 障害 名 をみ る と,幼 稚 園 で は,脳 性 マ ヒに伴 う言 語 の異 常,音 声 の 障 害
(51)
(表3)割
障
害
幼 稚 喇
名
割
合
保
育
所
陣
合%
合1平
22人
均(00)
34.4
30.5
4.7
3.1
発
音
障
害
39人
音
声
障
害
3
2.3
3
音
14
10.3
12
口 蓋 裂 に 伴 う異 常
5
3.8
2
3.1
3.5
脳 性 マ ヒに 伴 う 異 常
2
1.5
1
1.6
1.5
精神薄 弱に 伴 う異 常
5
3.8
7
10.9
6.1
聴力障害 に 伴 う異 常
7
5.3
2
3.1
4.6
吃
29.3
13.4
..
鉦
口
30
22.6
7
10.9
多
弁
5
3.8
2
3.1
3.6
'、 、、
..
乱
暴
・下
品
8
6.0
2
3.1
5.0
発
達
遅
滞
9
6.9
4
3.1
6.6
発
達
過
熟
6
4.5
0
0
3.0
が あげ られ る。 保 育 所 では 言 語 発 達 の過 熟 と脳 性 マ ヒが あ げ られ る。 保 育所 と幼 稚 園 との 間
に は,言 語 障 害 に 関 す る限 り極 端 な ち が い は な い もの と思 わ れ る。
(4)年
令 別 ・性 別 出 現 頻 数 と 割 合
(表4)割
障
害
名
4歳 児
割
合
5歳 児
割 合[ 男 児1割
合
合%
女
児1割
合
発
音
障
害
40
36.4
21
24.1
40
33.3
21
27.3
音
声
障
害
4
3.6
2
2.3
2
1.7
4
5.2
音
12
10.9
14
16.1
22
18.3
4
5.2
口蓋 裂に 伴 う異 常
3
2.7
4
4.6
5
4.2
2
2.6
脳性 マ ヒに伴 う異 常
2
1.8
1
1.2
3
2.5
0
0
精神薄弱に伴 う異 常
4
3.6
8
9.2
6
5.0
6
9.1
聴力障害に伴 う異常
5
4.5
4
4.6
5
4.2
4
5.2
20.7
13
10.8
24
31.2
吃
妊
口
19
17.3
18
多
弁
6
5.5
1
1.2
1
0.9
6
9.1
・下
品
7
6.4
3
3.4
10
8.3
0
0
'、 、、
乱
暴
発
達
遅
滞
5
4.5
8
9.2
9
7.5
4
5.2
発
達
過
熟
3
2.7
3
3.4
4
3.3
2
2.6
(110)(°o)(87)(°o)(120)(°o)(77)(°o)
(52)
①
年
令
別
考
察
まず,調 査 の手 落 か ら,4歳
児 ・5歳 児 の年 令 別 総 数 及 び 男 ・女 児 の総 数 の厳 密 な数 値 を
提 示 で きな い こ とを お詫 び す る。但 し,9割
程 度 の確 定 数 か ら言 えば,年 令 別,男 女 別 と も
ほ ぼ均 等 した数 値 で あ った こ とを 付 記 し以 下 そ の立 場 か ら言 及 してみ た い 。
総 体 的 に み れ ば,4歳
で は,そ
児 か ら5歳 児 に か け て,約2割
の減 少 を 見 出す こ とが で き る。
の減 少 の大 な る項 目 は と い うと,言 語能 力 の発 達段 階 か ら考 え て も容 易 に 予 測 で
きる よ うに,発 音 障 害 の減 少 で あ る。 幼 児 音 は6歳 に な れ ば ほ とん ど消 え る とい わ れ てい る
こ とか ら考 えて も,4歳
児 か ら5歳 児 に か け て の消 失 度 は 半 減 して い る。 しか し・5歳 児 の
障 害 の比 率 か らす れ ば,24.1%と
高 率 を 示 して い る。 い か に そ の発 達 の著 しい時 期 で あ るか
が分 る と と もに,い か に この 時 期 の適 切 な 指導 が必 要 か も よ く理 解 で き る。
次 に,多 弁 児,乱 暴 な こ とば つ か い とい う言 語 生 活 の マ ナ ー の習 得 にか か わ る言語 生活 の
態 度 に つ い て み る と,僅 少 例 だ が,は
っき りと減 少 して い る。 教 育 効 果 の あ らわ れ が,は
き り示 され て い る。
っ
、
これ に ひ きか え,5歳
児 にな って 無 口な 子 どもが ふ え て い る こ とは,教 育 効 果 よ りも,次
に述 べ る性 差 に そ の原 因 の一 端 が 求 め られ よ う。
② 男 女 別 考 察
一 般 に,女 児 が 男 児 よ りも言 語 能 力 に お い て優 位 に あ る こ とは,こ れ まで も多 くの研 究 に
よ って 裏 づ け られ て い る。本 調 査 の 男女 別 の比 較 を全 障 害 につ い て比 較 す る と男3:女2の
比 率 とな る。4:1の
比 率 を示 す 研 究 も あ るが,女 児 の優 位 性 を 示す こ とに は変 わ りが ない 。
特 に性 差 の顕 著 な 例 と して よ く と りあ げ られ る吃 音 につ い ては,男8:女1と
報 告 もあ るが,こ こ では 男 児22人 に 対 して女 児4人
で,5.5:1と
い うよ うな
い う比 率 を 示 して い る。類
似 した 数 値 とい え よ う。
優 位 性 の逆 転 して い る無 口(縅 黙 児)の 項 では,東 京 都 の小 学 生 の調 結 果 に よれ ば,そ
の
比 率 は男2に 対 して 女4と な って い る。
本 調 査 の結 果 で もほ ぼ2:4の
比 率 とな り性 差 の特徴 に よ るち が い が こ うした 結 果 に な っ
て い る こ とを示 して い る。 また 発 音 発 声 に つ い て も男2:女1で,他
(5)障
の結 果 と類 似 して い る。
害 別原 因の分析
次 に原 因 が は っ き り して い る器 質 的 欠 陥 に 伴 う障害(分 類 丑)を 除 いた 言 語 障害 に つ い て
その 原 因 を さ ぐ って み る。 もち ろ ん,言 語 障害 の原 因 は単 純 か つ 画一 的 な も ので な い が,そ
れ らを考 慮 に入 れ な が ら その 原 因 とな って い る と思 わ れ る もの を家 族 の話 や 教 師 の観 察 した
結 果 等 に よ って推 測 して み る。
①
発
音
障
害
〔
幼 児 語,幼 児 音 が い ち じる しい場 合 〕
ア.養 育 態 度 に 原 因す る と思 わ れ る もの
(53)
・溺 愛 や過 保 護30例
・幼 児語 幼 児 音 を家 族 も使 う11例
・共 稼 ぎ,商 店 等 で多 忙 で放 任3例
イ.生 育 環 境 に原 因す る と思 わ れ る も の
・末 っ子9例
・一 人 っ子8例
・祖 母 つ子8例(小
計)25例
・友 人 や 弟 妹 に 同化 して使 用3例
こ こで み られ る障 害 原 因 のタ イ プは,き わ め て常 識 的 だ が,一 人 っ子 や 末 っ子 で養 育 主体
が祖 母 に あ る場 合 で,溺 愛 しす ぎ で,親 や家 族 も幼 児語 ・幼 児 音 を使 用 して い る とい う典 型
的 な タ イ プが あが って くる。
問 題 は こ う した 幼 児 の障害 が 固定 化 しな い よ うな配 慮 が 教 育 老 側 に も家 庭 側 に も必 要 だ と
い うこ とで あ る。 た だ,年 令 別 の と こ ろで も触 れ た よ うに4歳 児 と5歳 児 とで は そ の 出現 率
が 半 減 して い る こ とが 救 い とい え よ う。
②
音
声
障
害
声 が小 さい とい うのは,本 人 の性 格 や 自信 の な さ とい うよ うな事 例 だ った が,声 が大 きい
例 で は養 育 者 が 耳 の遠 い祖 母 で あ った とい う例 もあ った 。 しか し,全 般 的 に原 因不 明 とい う
も のが 多 か った 。
③
吃
音
・入 の前 で 緊 張 した りあわ て て ものを 言 う場 合 に ども る とい うケー スが ほ とん どで あ る
。
・周 囲 に ど も りの 人 が い て そ の真 似 か ら と思 わ れ る ケ ース
。 例 え ば,親 せ きの おLい さ んが
ど も りで そ の人 と よ く遊 ぶ よ うに な って か ら。 父 親 が 軽 い ど も りで父 親 の ど も りか た と似
て い る。 近所 の ど も りの子 と遊 ぶ よ うに な って か ら ど もる よ うに な った とい うよ うな ケ ー
ス が あ りい ず れ も二 次性 の ど も りと言 え る症 状 を 呈 して い た。 そ のほ か に あ げ てみ る と,
・母 親 が非 常 に神 経 質 で あ る。
・左 利 きを注 意 され る と ど もる。
とい うよ うな もの もあ った 。 い ず れ も専 問家 に よ る治 療 指 導 を受 け ず に,そ
の うち何 とか な
るだ ろ うとい う軽 い気 持 でい る保護 者 が 多 い。 この障 害 は特 に 一 生 の 問 題 で あ り人 間形 成 の
上 か ら も大 事 な こ とな の で,適 切 な 指 導 や 治 療 の機 会 や場 が是 非 も うけ られ る こ とを 望 み た
いo
④
無 口(緘
・養 育 態 度(溺
黙 児)
愛 ・過 保 護)11例
(厳 格 ・ネ申経 質)2例
・性 格 要 因(内
気 ・恥 か しが り)10例
・生 育 環 境(末
っ 子 ・一 人 っ子 ・祖 母 っ子)14例
・環 境 変 化(引
越 ・編 入)3例
(54)
幼 児 語 ・幼 児 音 と同様 に末 っ子 や 一 人 っ子 で親 や祖 母 に 溺愛 さ れ て育 て られ た とい うケ ー
スが 大 部 分 を 占め て い る。 また,内 気 とか 恥 か しが りとか 気 が 小 さ い とい った 性 格 的 な要 因
も,過 保 護 と関 係 して い る場 合 も あ る。 過 保 護 のた め 親 は 発 言 の機 会 も与Lず 何 で も先 まわ
り して や って しま った り,集 団生 活 の場 に もなか な か な じめ ず 益 々引 っ込 み思 案 に な って話
す ことに 自信 を失 って い くとい う こ とに な って し ま う。
核 家 族 化 の 傾 向 に よ る幣 害(過 保 護)も
あ ろ うが,問 題 は 少 数 精 鋭 を め ざす 一 人 っ子 とか
二 人 の うち の末 っ子 とい うケ ース が こ うした幼 児 を生 み 出 して い る よ うだ 。
⑤
多
弁
児
・母 親 が教 育 熱 心 で あ る3例
・末 っ子 ,一 人 っ子 で あ る3例
・共 稼 ぎや 多 忙 で放 任2例
母 親 が 教 育 熱 心 であ る とい うこ とは,そ の子 ど もが 常 に母 対 子 とい う1対1の
関係にな ら
され て い る こ と で,こ の 関係 が子 ど もに と って は一 番 安 定 した 状 態 で あ る。 した が って 園 の
生 活 で も,一 対 多 の関 係 が な か な か理 解 で きず,先 生 と1対1の
関 係 を持 続 す る こ とに よ っ
て安 定 感 を得 よ うと して こ う した現 象 が あ らわ れ る。 また,逆 に 常 に 教 育 マ マに よ って 監 視
され 息 の つ まる思 い を して い る子 ど もに と って,園 の生 活 の み が 自己 を発 散 で き,欲 求 不 満
の解 消 の場 に な る ケ ース もあ った 。
放 任 の場 合 は,園 の 先生 の 関心 を独 占 した い とい う愛 情 の不 足 を 満 た す た め の補 償 行 為 と
して多 弁 児 とな って い る ケー ス も見 られ た 。
原 因 は 家 庭 に あ りとい う感 じで あ る。
⑥
乱 暴 か つ 下 品 な こ とば
こ う した 例 は,明 らか に 障害 とい うよ り問 題 児 とい うケー ス で あ る。
結 果 的 に は,親 の こ とば つ か い に影 響 され て(鮮 魚 商,土 建 業)と か,兄 弟 が 男 の み と
か,注 意 や 関 心 をひ くた め とい うケ ー スが2∼3例
ず つ 見 られ た 。
さす が に,女 児 に は な く男 児 の み で あ った 。
これ も,生 育 環 境 に 原 因 が あ る よ うだ が,年 令 別 の項 で考 察 した よ うに,入 園 当 初 に くら
べれ ば,段hと
こ うした 問 題 児 の数 が 減 少 して い るの で,指 導 の面 で注 意 して い け ば 一 番 矯
正 の可 能 性 の あ る分 野 とい え よ う。
た だ,注 意 や 関心 を ひ くた め にす る場 合 に つ い て は,そ の原 因 を さ らに 深 く突 き とめ る こ
とか ら指 導 に入 らな けれ ば な る まい 。
⑦
言語発達遅滞
器 質 的 欠 陥 に よ ら ない 総 合 的 言語 発 達 の 遅滞 が生 じて い る例 と して は,共 稼 ぎの 家 庭 の 双
生 児 の ケ ー スが あ った 。 常 に二 人 だ け で遊 ん で い た た め に 他 の子 ども達 と遊 ぶ 機 会 もな く二
人 だ け で通 じ合 う言 語 生 活 を して い た こと に よ って二 人 と も同程 度 の 言 語 発 達 の 遅 滞 とな っ
て い た。
(55)
また,話
しは じめ の時,引 越 しを して,母 親 が 方 言 を 気 に して 近 所 づ きあ い を しな い の で
子 ど もも近 所 の子 と遊 ぶ機 会 が な か った た め とか,知 能 は 正 常 だ が,父 を は じめ 兄姉 と もに
言 語 が遅 れ て い た とい う遣伝 的要 素 が考 え られ る ケー ス もあ った。
い ず れ も家 庭 指 導 の あ り方 に よ って解 決 で きた ケー ス といZ.よ う。
と もあ れ,入 園 前 の家 庭指 導 の実 態 が 確実 に把 握 で きな いた め に,具 体 的 な 原 因追 求 とは
な らず,原 因 不 明 と しか 言 い よ うの な い ケ ース が 多 か った 。
⑧
言 語 発 達 過熟
い わ ゆ る大 人 っぽ い 話 し方 ば か り して,幼 稚 な言 い方 を馬 鹿 に した り,意 味 も よ く理 解 で
ぎな い の に 大 人 の よ うな 言 い まわ しば か り して い るケ ー ス で あ る。
大 別す る と,知 能 の優 秀 さか ら完 全 に 幼 児 期 を 卒 業 して い る場 合 と単 に大 入 の真 似 で そ う
した 表現 を して い る場 合 とに な る よ うで あ る。
厳 密 に は,両 者 は..す
場 合 もあ るが,こ
る こ とも あ る し,時 に は 分 離 して い る こ と もあ って区 別 しがた い
うした 幼 児 に共 通 してい る こ とは,一 人 っ子 で,接 触す る の は大 人 ばか り
で,母 親 が 非常 に教 育 熱 心 で あ る とい う環 境 に 育 て られ た子 ど もが 多 い こ とで あ る。
前 老 の よ うに 優秀 す ぎ る場 合 よ り も,つ め こみ に よ る物 真 似 的 な 大 人 っぽ い言 語 の使 用 と
い う見 せ か け の 言語 発達 の過 熟 児 につ い て は,指 導 者 が そ の本 質 を 鋭 く見抜 くこ とが大 切 と
な ろ う。
Vl要
約
1。 言 語 障害(問 題)児
の出 現率 は,4,5歳
児 に お い て5°o程 度 で あ る。
2.幼
稚 園 と保 育 所 と の間 に,障 害 に つ い て の差 異 は な い と言xる 。
3.米
国 で算 出 され た 出現 率 と本 調査 の 出現 率 との 間 に は,極 め て類 似 した 数 値 が 見 出 され
る。
4.全
障害 に対 す る各 障 害 の割 合 で,10%以
上 を 占 め て い る の は,発 音 障 害,縅 黙 児 吃 音 の
三 つ で あ る。
5.年
令 別 発 達段 階 か ら,4歳
児 か ら5歳 児 に か け て の 障害 の減 少 率 は約2割
で あ る。 特
に,発 音 障害(幼 児 音)の 消失 が 目立 った 。
6.性
差 に よ る比 較 で は,女 児 の優 位 性 が は っき り示 され た。 特 に,吃 音 では 男5.5に
対し
て 女1の 割 合 とな る。
7.障
害 別 原 因 で は,ど
こに も共 通 して い る こ とは,末
っ子 また は一 人 っ子 で,祖 母 や 両 親
に 溺 愛 され 過 保 護 に育 て られ,性 格 的 に も内 気 で あ った り我 ま まで あ る とい った タ イ プが
圧 倒 的 で あ った 。
8.共
稼 ぎに よ り養 育主 体 が祖 母 で あ る とか 両 親 が 共稼 ぎの代 償 と して 溺愛 す る とい う事 例
が 特 に 目立 った 。
(56)
9.言
語 障 害 児 に 対 す る教 育 的配 慮 や措 置 が家 庭 の側 で 欠 け て い る面 が 目立 つ 。 例 え ば幼 児
語,幼 児 音 を 家 族 の 者 も使 う。 吃音 児 へ の し っか りした指 導 を受 け てい な い 等 。
お
わ
り
に
本 調 査 を進 め るに あた って,調 査 資 料 収集 に御 協 力 い た だ い た各 幼 稚 園 及 び 保 育 所 の先 生
方,ま
た進 ん で調 査 に 当 た って くれ た 方hに 深 く感 謝 の 意 を 表 した い。
本 調 査 の結 果 か ら得 られ た もの を参 考 に して,次 回 に は よ り詳 細 な研 究 報 告 を した い と思
って い る。
注 及び 参 考 丈 献
(1)特 殊 教 育 用 語 辞 典
(2)(3)福 沢 周 亮 著
(4)佐 藤則 之 著
(7)S.カ
日本 文 化 科 学 社1970磯
言 語 障 害 児 の実 態
(5)言 語 発達 研究 会 編
(6)佐 藤泰 正 編 著
第1法 規1970
幼児の言語
風 間書 房
話 し こ とば の家 庭 治 療
障 害 幼 児 の心 理 学
ー ク著 ・伊 藤 隆 二 訳
日本文 化 科 学 社
日本 文 化 科 学 社1971
特殊教育入門
日本 文 化 科 学 社1970
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