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第7章 中国の耐震設計基準
第7章 中国の耐震設計基準 7.1 中 国の 耐震 設計 基 準の概 要 3.5 節 に お い て 示 し た 通 り 、 中 国 の 耐 震規 定 で は 、 設 計 用 の 入力 は 各 地 方 ご と に 定め られた 烈度(12 段 階)に応じ て設 計用 の入 力 加速度( 設計用 せん 断 力係数 )として 定め ら れ て い る 。ま た 、 建 物 の 用 途 ご との 耐 震 等 級 ( 甲 、 乙 、丙 、 丁 ) や 、 そ れ ぞ れに つ い て 建 設 可 能 とな る 規 模 等 の 制 限 も 規定 さ れ て い る 。 こ れ らは 、 国 家 規 格 G B 、 地方 規 格 DB、 技術 指針 的位 置 づけの 業界 標準 JC J 等とし て定 めら れて い る。 こ れ ら 規 格 を制 定 ・ 発 行 す る 機 関 の中 心 と な っ て い る の は、 中 国 国 務 院 直 属 の 国家 品 質監督 検査 検疫 総局(AQSIQ, http://www.aqsiq.gov.cn/)や、国家 標準 化管理 委員 会( SAC, http://www.sac.gov.cn/) な ど で あ り 、 さ ら に 分 野 ご と に 関 連 す る 機 関 と 連 携 し て 規 格 の 制 定 作 業 に当 た っ て い る 。 建 築 分野 で は 、 主 と し て 日 本の ( 旧 ) 建 設 省 に 相 当す る 中 華人民 共和 国住 房和 城 郷建設 部( MOHURD, http://www.mohurd.gov.cn/。単 に「 建設 部」 とのみ 称す るこ とも あ る。) が基 準の 策定 に関 与して いる 。 中国政 府は 今回 の地 震 を受け 、2008 年7 月に 耐震設 計基 準を 見直 し 7-1) てい る。 その 主 な 内 容 は 、約 1 割 が 倒 壊 な ど 大 きな 被 害 を 受 け た 学 校 建築 を は じ め 多 く の 人 が集 ま る 建築物 の設 計用 せん 断 力係数 のグ レー ド を 1 ランク 引き 上げ たこ と と、設 計用 せん 断力 係数を 引き 上げ たこ と である 。な お、 この 耐 震規定 の見 直し 作業 は 表 7.1.1 に示 すと お り極め て迅 速に 行わ れ たが 、そ の背 景には 、中国に おけ る耐 震基 準 は 10 年程 度を 目安 に 改 定 さ れ る こと に な っ て お り 、 も とも と 今 年 は そ の 改 定 予定 時 期 に 近 く 、 必 要 な検 討 に すでに 着手 して いた と いった よう なこ とが あ るよう であ る。 表 7.1.1 四川 地震 後 の耐震 設計 基準 見直 し 作業状 況 時期 作業状 況 5月 12 日 四川地 震発 生 6月4 日 国務院 によ る汶 川地 震 の震災 後の 復興 対応 条 例( 第 45 条、 第 50 条) に基 づき 、建設 部が 改定 に関 す る意見 を 提出 6月 10 日 建設部 が第 1回 の会 合 を開催 し 、改 定原 案に ついて 関連 部局や 団体 から の意 見 聴取を 実施 6月 14 日 建設部 が第 2回 の会 合 を開催 し 、意 見聴 取の 結果を 踏ま えて改 定原 案を 修正 7月2 日 (指導 者の 指示 によ り )耐 震等 級の 分類 と耐 震設計 基準 の改定 を第 1段 の作 業 として 実施 7月 10 日 学識経 験者 や専 門家 に 対する 意見 聴取 を実 施 7月 19 日 審査会 を召 集し 改定 案 を完成 (7 月 30 日 公布 ) 7-1 本 章 で は 、 これ 以 前 の 主 要 な 耐 震 設計 基 準 の 改 定 と 、 現 行の 耐 震 設 計 基 準 に つ いて 簡 便に示 す。 7.2 中 国の 耐震 設計 基 準の変 遷 (1) 四 川地 震以 前の 制 定・改 正( 2001 年 まで ) 表 7.2.1 に 、1959 年 以降の 耐震 設計 基準 の 一覧 7-2) を示 す。 これ らは施 行さ れた 年に よって たと えば「 59 規 範」と通 称さ れて おり 、表 中で もそ れに 従っ ている 。なお 、これ らの基 準の ほか 、組 積 造(GB50003)、鉄 筋コ ンクリ ート 造(GB50010)など の各 種構 造ご と や 付 随 す る試 験 方 法 等 に 関 し て 、さ ら に 詳 細 な 構 造 規 定が 別 途 定 め ら れ て い る場 合 が ある。 表 7.2.1 耐震 設計 基 準の変 遷 年 規格名 称 制定の 背景 1959 中 : 地 震 区建 筑 1954 年 から 建築 物の 震 災 ①旧ソ 連の 基準 を参 考 に制定 规范( 草案 ) 防止の検討を開始、当時 ②建築 物に 加え て道 路 、水利 、給 日 : 地 震 区域 建 の旧ソ連の基準を参考 築基準 (案 ) * に、これと同様な静的地 震力の考え方を導入した 基準を 作成 した 。 規範の 概要 排水な ども 対象 ③烈度7∼9地域の建築物は要 求性能 を1 段階 下げ る ④応答スペクトルによる地震力 算定手 法 1964 同上 59 規範 につ いて 、さ ら に ①地盤 種別 を4 種類 に 区分 中国の特徴を反映した基 ②実際の地震記録に基づき平均 準とし て改 定 加速度を定め、延性因子(靭 性?) に基 づき 低減 す る ③以降の耐震設計基準の基本的 考え方 を示 した 1974 同上 住戸や工場等に甚大な被 害をも たら した 1966 年 の ①建築 物及 び煙 突・給 水塔の 基礎 の基準 を改 正 河北邢 台地 震、 1970 年 の ②地盤種別分を4種類から3種 云南通海地震の被害調査 類に変 更し 、砂 質土 の 液状化 判 結果に 基づ き改 定 定式を 導入 ③要求性能を1段階下げる場合 でも、烈度 7を 下回 ら ないこ と 1978 中 : 工 业 与民 用 1975 年 の遼 寧海 城地 震 及 ①唐山 大地 震後 に改 定 建 筑 抗 震 设计 规 び 1976 年の 河北 唐山 地 震 ②組積 造に 対し て、耐 震要素 の量 范(TJll-78) (唐山大地震)の被害を 日 : 工 業 及び 民 踏まえ 、74 規範 を部 分 的 間 建 築 物 用耐 震 に改定 設計基 準 7-2 を増や すこ とと する ③64 規範 を踏 襲 1989 中 : 建 筑 抗震 设 1970 年 代の 一連 の被 害 地 ①「建 築耐 震設 計基 準 」に改 名 计规范 震(特に唐山大地震)以 ②「小 震不 壊・中 震可 修・大 震不 (GBJ11-89) 降、豊富な地震被害調査 倒」の原 則に 基づ き 、多遇地 震 日 : 建 築 耐震 設 に基づく耐震設計及び地 (訳注 :烈 度 1.5 度 低 い地震 ) 計基準 震動の推定精度の向上が に対す る弾 性設 計を 行 うほか 、 あり、1982 年よ り 78 規 範 倒壊に 対す る設 計を 細 分化し 、 の全面改定に着手した。 ラーメン構造については稀遇 さらに 1984 年に 国家 地 震 地震(訳 注:烈度 1度 高 い地震 ) 局が新たに地震ゾーニン に対す る変 形を 計算 す る グを作成し、これと合わ ③設防 烈度(設 計震 度 )の概 念を せて基準を改名、公布し 導入。近い 地震 及び 遠 い地震 そ た。 れぞれに対して設計用スペク トルを 設定 し、烈度 6 度以上 の 場合に 耐震 設計 を行 う ④地域 区分 の分 類に あ たり 、せん 断波速度及び表層の層厚の2 要素を 考慮 ⑤地盤 種別 を4 種に 戻 し、簡易な 液状化 判定( 危険 度評 価)を導 入 2001 同上 20 世 紀の 最後 の約 10 年 ①重要度係数の調整と対応する ( GB50011-2001 間に中国内外で発生した 設計用加速度を規定するととも ) 大きな 被害 地震(1988 年 に、89 規範 の近 震、遠 震を設 計 雲南瀾滄―耿馬地震、 用周期特性区分として改め、基 1996 年 雲 南 麗 江 地 震 、 準の位置づけを最低要求として 1999 年 台 湾 集 集 地 震 、 明確化 1995 年 兵庫 県南 部地 震 、 1999 年 イ ズ ミ ッ ト 地 震 (トルコ)等)で得られ た新たな知見、地震・耐 震工学 の進 歩、さら に WTO 加盟に伴う参入障壁の解 ②地域 係数 、液 状化 判 定、地 震影 響係数 など を修 正 ③不整形な建築物に対する計算 の導入 等 ④組積 造、鉄筋 コン ク リート 造に 関する 基準 の修 正 消のための技術基準の対 ⑤鋼構 造、コン クリ ー トブロ ック 応の要求に合わせて、 造、免 震等 に関 する 基 準の追 加 1997 年 から 開始 され た 89 ⑥平面 形状 や高 さ制 限 のほか 、特 規範の検討に基づき改定 に極端に不整形な建築物の制 基準を 交付 した 限を強 化 ⑦煙突 、給 水塔 など の 規定を 他の 基準に 移動 *…中 国に おけ る基 準 名に仮 の和 訳を 付し た 。 7-3 中国 の耐 震設 計に お いて 、ど のよ うな 構造 方法に 主眼 が置 かれ て いるか の参 考と して 、 建 築 物 耐 震 設 計 基 準 (GB20011-2001) の 目 次 を 掲 げ る と 、 次 の と お り で あ る 。 な お 、こ れ ら の 項 目 はす べ て 義 務 規 定 と し て扱 わ れ て い る わ け で はな く 、 規 格 の 制 定 時 にど の 部 分が強 制さ れる かど う かが示 され る 7-3) こと に なって いる 。 な お 、 以 下の 目 次 に お い て ★ 印 を付 し た 章 に つ い て は 、基 準 を 和 訳 し た も の を本 報 告 の付録 6と して 収録 し た。 第1章 総則 第2章 技 術用 語 第3章 耐 震設 計の 基 本要求 第4章 敷 地、 地盤 及 び基礎 第5章 地 震作 用及 び 耐震計 算 第6章 多 層・ 高層 鉄 筋コン クリ ート 構造 第7章 多 層組 積造 等 第8章 多 層・ 高層 鋼 構造 第9章 単 層工 場構 造 第 10 章 単層 開放 構造 第 11 章 土造 、木 造及 び石造 第 12 章 免震 構造 第 13 章 非構 造要 素 (★ ) (★) 付録A 主 要地 域の 耐 震設計 烈度 、設 計用 加 速度及 び地 震分 類 付録B 高 強度 コン ク リート 構造 の耐 震要 求 付録C プ レス トレ ス トコン クリ ート 構造 の 耐震要 求 付録D 柱 梁接 合部 の 耐震設 計 付録E ピ ロテ ィ構 造 の耐震 要求 付録F 小 規模 コン ク リート ブロ ック 造の 耐 震要求 付録G 多 層鋼 構造 工 場の耐 震要 求 付JH ク レー ンを 有 する単 層工 場の 地震 力 の調整 付録J 単 層鉄 筋コ ン クリー ト柱 形式 工場 の 耐震設 計 付録K 単 層組 積柱 形 式工場 の耐 震設 計 付録L 免 震構 造の 簡 易計算 及び 組積 造の 免 震措置 (2) 四 川地 震に よる 基 準改正 概要 表 7.1.1 に 示さ れた ように 、四 川地 震後 に 国務院 より 条例 が出 さ れ、建 築物 耐震 分類 標 準 (GB50223) 及 び 建 築 物 耐 震 設 計 基 準 (GB20011) の 改 正 が 行 わ れ て い る 。 具 体 的な 改正が あっ た主 要な 項 目を、 それ ぞれ 表 7.2.1 及び 表 7.2.2 にま と めた。 7-4 表 7.2.1 建築 物耐 震 分類標 準( GB50223)の 改正概 要 条 1.0.3 項目 建築 物 の 設計 に 当た っ て耐 震 分 類と 設 計条 件 を示 さ ね ばな ら ない ことと した 。 3.0.2 建築物 の重 要度 を4 つ に区分 した 。 ① 特 殊 建 築 物 ( 甲 類 ): 多 数 が 使 用 す る 等 で 、 地 震 に よ り 重 大 な 二次災 害が 発生 する 恐 れのあ るも の ② 重 点 建 築 物 ( 乙 類 ): ラ イ フ ラ イ ン 等 、 地 震 に よ り 重 大 な 被 害 が発生 する 恐れ のあ る もの ③標準 建築 物( 丙類):「大震 不倒」を満 足す べ きもの 。多 くの 建 築物が これ に該 当す る ④ 適 度 建 築 物 ( 丁 類 ): 倒 壊 等 に よ っ て 人 的 被 害 を 生 ず る 恐 れ の 低いも の 3.0.3 3.0.2 条で の分 類に 従 い設計 クラ イテ リア を 定めた 。 ① 特 殊 建 築 物 ( 甲 類 ): 烈 度 を 1 増 加 さ せ る ほ か 、 烈 度 が 9 以 上 の地域 にお いて は、 地 震安全 性評 価を 受け る こと ② 重 点 建 築 物 ( 乙 類 ): 烈 度 を 1 増 加 さ せ る ほ か 、 烈 度 が 9 以 上 の地域 にお いて は、地 盤・基 礎等 につ いて さ らに別 途定 める 基 準を満 足す るこ と ③標準 建築 物( 丙類 )は、烈度 に対応 する 地 震動加 速度 に対 して 倒壊等 の被 害を 生じ な いこと 。 ④ 適 度 建 築 物 ( 丁 類 ): 烈 度 を 1 度 低 減 で き る 。 た だ し 、 6 ま で とする 。 4.0.3 地方級 の病 院は 、乙 類 (以上 )と する 。 4.0.7 地震時 の避 難施 設と し て使用 する 建築 物は 、 乙類以 上と する 。 6.0.8 幼稚 園 、 小学 校 、中 学 校の 校 舎 、食 堂 、宿 舎 につ い て は、 乙 類以 上とす る。(さ らに 、地 震力割 増等 の措 置を 講 ずべき ) その他 駅、運 動場 など 集客 施 設の人 数の 上限 を定 め た。 7-5 表 7.2.2 条 3.3.1 建築 物耐 震 設計基 準( GB20011)の 改正概 要 項目 危険 な 敷 地に は 甲類 ・ 乙類 の 建 設を 禁 止し 、 丙類 も 好 まし く ない とした 。 3.3.5 山地で は支 持層 に注 意 すべき こと とし た。 3.4.1 不整 形 な 建築 物 につ い ては 特 別 な検 討 を行 っ て強 度 を 増す べ きこ ととし た。 3.5.4 高層建 築物 の床 は現 場 打ちと し、 プレ キャ ス トを禁 止し た。 3.6.6 構造計 算に おい て階 段 の影響 を考 慮す るこ と とした 。 4.1.8 斜面 地 な ど、 地 盤条 件 の良 く な い場 合 は、 地 震力 増 大 係数 と して 1.1∼1.6 程度 の数 値を 設定す べき こと とし た 。 その他 ①義務 規定 を追 加し て 指定し た。 ②観測 地震 動に 基づ き、各地の 設計 用地 震動 加 速度を 増大 させ た。 例) 北川 、都 江堰 、 汶川: 0.10g→0.20g 綿竹 、彭 州: 0.10g→0.15g ③階段 の具 体的 な構 造 方法を 定め た。 等々 7.3 ま とめ 中 国 に お ける 建 築 物 の 耐 震 設 計 基準 の 実 態 に つ い て と りま と め た 。 四 川 地 震 後に 速 や か な 改 定 作 業が 行 わ れ た 背 景 と し て、 基 準 類 の 見 直 し 作 業が 定 期 的 に 実 施 さ れ てお り 、 日 本 に お い ても 、 最 新 の 知 見 の 蓄 積や 技 術 の 発 展 を 迅 速 に取 り 入 れ る 仕 組 み が 必要 で あ ると考 えら れる 。 参考サ イト 7-1) 中華人 民共 和国 住房 和 城郷建 設部: 关 于 做好《建 筑工 程抗 震设 防分 类标准 》和《 建 筑抗震 设计 规范 》实 施 工作的 通知 (建 标函 [2008]225 号 ) http://www.cin.gov.cn/zcfg/jswj/bzde/200808/t20080805_176407.htm 7-2) 杜晓霞 他: 砌体 结构 抗 震设计 规定 的变 迁, 第 8回日 中建 築構 造技 術 交流会 論文 集, pp.98-110, 2008.10 7-3) 中華人 民共 和国 建設 部 : 关 于 发布 国家 标准 建 筑抗震 设计 规范 的通 知, 建标[2001] 156 号 , 2001.7.20 7-6