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CORPORATE NEWSLETTER 2016年2月号(Vol. 14)

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CORPORATE NEWSLETTER 2016年2月号(Vol. 14)
CORPORATE NEWSLETTER
2016 年 2 月号(Vol.14)
-会社法/税務-
インセンティブ報酬の設計をめぐる法務・税務の留意点の最新動向
Ⅰ. はじめに
森・濱田松本法律事務所
Ⅱ. インセンティブ報酬の全体像
弁護士 奥山 健志
TEL. 03 5220 1863
[email protected]
Ⅲ. 法務上の留意点
Ⅳ. 税務上の留意点
-平成 28 年度税制改正も踏まえて-
弁護士 小山 浩
TEL. 03 6266 8589
[email protected]
弁護士 梶元 孝太郎
TEL. 03 6266 8911
[email protected]
Ⅰ.
はじめに
コーポレートガバナンス・コードは、「経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全
なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、
現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」
(補充原則 4-2①)としてい
ます。
昨年末までにコーポレートガバナンス・コードの全原則の適用がある東京証券取引所
市場第一部・第二部に上場の 1,858 社がコーポレートガバナンス・コードに基づく開示
を行っています1。このうち、補充原則 4-2①を実施せず、実施しない理由の説明してい
る会社は 570 社(30.7%)となっています。全 73 原則のうち未実施(エクスプレイン)
の会社数が 4 番目に多い原則であり、多くの企業において、実施に向けた対応が難しか
った原則であると思われます。
また、補充原則 4-2①は、結論として中長期業績連動報酬や自社株報酬を導入するこ
とを必ず求めるものではありませんが、自社のおかれた状況を踏まえて、様々な要素を
考慮した合理的な検討を行うことが必要であると解されています。したがって、補充原
則 4-2①を実施していると判断し、実施しない理由の説明を行っていない会社において
も、自社に置かれた状況等を踏まえて報酬体系を継続的に検討することが求められてい
ます。
1
本文記載のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況につき、スチュワードシップ・コード及び
コーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議 第 5 回 資料 2 株式会社東京証券取引所「コ
ーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2015 年 12 月末時点)」
http://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20160120.html
当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。
© 2016 Mori Hamada & Matsumoto. All rights reserved.
CORPORATE NEWSLETTER
また、指名委員会等設置会社以外の会社においては報酬内容の決定には定款の定めが
ない限り株主総会の決議が必要であることから(会社法 361 条)
、報酬体系は、定時株
主総会に向けた準備の一環としても検討する必要があります。
そして、報酬を設計するうえでは、法務・税務上の取扱いを統一的に検討することが
不可欠です。法的安定性に欠ける、又は、会社若しくは役員に対して多大な課税リスク
があるというのでは、中長期的な企業価値向上という最終目的を達成することはできま
せん。したがって、報酬の設計には、法務と税務を統合した視点でメリット・デメリッ
トを検証することが重要となります。特に、本年は平成 28 年税制改正により、一部の
インセンティブ報酬について、税務上の扱いが変更される見通しであり、この見通しに
ついても把握しておくことが重要となります。
Ⅱ.
インセンティブ報酬の全体像
役員のインセンティブ報酬には様々な分類方法がありますが、大きく、報酬の交付物
が金銭かエクイティ(株式)かに分けることができます。
金銭報酬については、当期利益や ROE 等の経営指標を基礎として算定される業績に
連動する金銭報酬と、市場株価に連動する金銭報酬とに分けることができます。
エクイティ(株式)型報酬は、付与を受けたオプション(新株予約権)を行使するこ
とにより株式を取得するオプション型報酬と、オプションという仕組みを用いずに直接
株式が交付される株式型報酬に区別できます。前者のオプション型報酬の例としては、
ストック・オプションがその典型であり、現金を払い込むことなく付与されるストッ
ク・オプション(以下「無償ストック・オプション」といいます。
)がその基本となり
ます。ストック・オプションは、この他、新株予約権者が実際に手持の現金を払い込む
ことにより付与されるもの(以下「有償ストック・オプション」といいます。)もあり
ます2。後者の株式型報酬には、役員持株会を利用した株式取得目的報酬、株式交付信
託、現物株式があります。
2
有償ストック・オプションは、厳密に言えば、新株予約権者の手持の現金で、新株予約権の公正な対
価の払込みを実際に行い、その払込みの対価として新株予約権を受領することになる以上、厳密には報
酬そのものではないと理解されています。もっとも、業績又は株価に連動した行使条件が付されること
により、役員のインセンティブ・プランの一種として利用されていることから、本稿では、オプション
型報酬に含めています。なお、関連して、企業会計基準委員会において、
「権利確定条件付きで従業員等
に有償で発行される新株予約権の企業における会計処理の検討」として、会計上費用計上することの必
要性について、議論がなされており、今後の動向について留意が必要と思われます
(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/minutes/20151204/20151204_index.shtml)。
当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。
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インセンティブ報酬の概要は、下記の表のとおりです。
表
インセンティブ報酬の全体像3
交付
物
金銭
種類
具体例
内容
業績連動型
年次業績連動型賞与
短期(単年度)の業績目標の達成度に応じて金銭
を支給する
中長期の業績目標の達成度に応じて金銭を支給す
る
株価連動型
エ ク
イ テ
ィ
オプション
型
株式型
パフォーマンス・ユ
ニット(中長期業績
連動型賞与)
ファントム・ストッ
ク
ストック・アプリシ
エーション・ライト
(SAR)
役員退職慰労金
無償ストック・オプ
ション
有償ストック・オプ
ション
株式取得目的型報酬
株式交付信託
現物株式
Ⅲ.
会社の株式を付与したと仮想して、配当と売却益
を金銭で付与する
付与時と行使時の株価の差額を金銭で付与する
株価に連動した算定方式による退職慰労金
株式を予め設定した行使価格で取得できる権利を
無償で付与する(現物方式、相殺方式)
株式を予め設定した行使価格で取得できる権利を
公正な価額を対価として付与する
金銭報酬を役員持株会に拠出し、持株会が株式を
取得する
会社が現金を信託し、当該現金で株式を取得し、
役員は信託から株式又は現金の交付を受ける
報酬債権を現物出資し、会社が発行又は処分する
株式を取得する
法務上の留意点
1. 業績連動型金銭報酬
業績連動型金銭報酬には、短期の業績連動型報酬として用いられる年次業績連動型
賞与と、中長期の業績目標の達成状況に応じて支給されるパフォーマンス・ユニット
(中長期業績連動型賞与)があります。
業績連動型金銭報酬は、会社法上の「報酬等」
(会社法 361 条 1 項)に該当するこ
とから、定款に定めがある場合又は指名委員会等設置会社である場合を除き、株主総
会の決議によって定める必要があります。
この場合、株主総会決議の方法は、法的には二つが考えられます。一つは、株主総
会決議によって、最高上限額を定めた上で確定額報酬として決議し(会社法 361 条 1
項 1 号)
、その上限の範囲内において、取締役会において各取締役に対する配分額を
3
あくまでも実務的に利用されている一般的な例を整理したものであり、他の設計も十分ありえます(た
とえば、業績と連動する役員退職慰労金を設計することも可能である)。
当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。
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決定するという設計です。もう一つは、株主総会決議によって、不確定額報酬として、
業績連動型金銭報酬の算定方法を定める方法です(会社法 361 条 1 項 2 号)。
確定額報酬として決議した場合には、報酬枠の上限が設定されるため、当初の想定
よりも業績が上昇した場合であっても、当該報酬枠の上限を超えて報酬を支給するこ
とはできません。
他方、不確定額報酬として決議した場合には、株主総会決議で算定方法を定めてお
けば足りるため、上限の問題は生じません。もっとも、不確定額報酬として決議する
場合は、報酬等の「具体的な算定方法」
(会社法 361 条 1 項 2 号)を決議する必要が
あります。たとえば、取締役の恣意的操作が介在しない客観的なパラメーターが用い
られており、当該パラメーターの数値が確定することにより一義的に額が定まるもの
であれば、具体的な算定方法となると考えられます。また、不確定額報酬の方法で決
議する場合、議案を提出した取締役は、当該株主総会において、算定方法を相当とす
る理由を説明しなければなりません(会社法 361 条 4 項)
。実務上は、
「具体的な算定
方法」が株主総会で決議されていないとの疑義を防ぐために、確定額報酬として決議
した上で、算定方法についても任意に記載している例もあります。
2. 株価連動型金銭報酬
株価連動型金銭報酬の代表例として、ファントム・ストックとストック・アプリシ
エーション・ライト(SAR)があります。ファントム・ストックとは、現実には支給
しない株式を支給し保有しているものとみなした仮想株式について、それに対応する
現金及び株式配当や株価上昇分を積み上げていき、権利行使時にその合計額又は売却
益相当額を金銭で支給するという制度です。SAR もファントム・ストックの一種で
すが、支給される金銭の額が、権利付与時点の会社の株価と権利行使時点の会社の株
価の差額に相当する額である点に違いがあります。
株価連動型金銭報酬は、業績連動型金銭報酬と同様に、会社法上の「報酬等」
(会
社法 361 条 1 項)に該当することから、定款に定めがある場合、指名委員会等設置会
社である場合を除き、株主総会の決議によって定める必要があります。また、株価連
動型金銭報酬の場合においても、上限を定める確定額報酬として決議することも可能
であり、算定方法を定める不確定額報酬として決議することも可能です。
また、ファントム・ストックや SAR は、役員による株価向上に向けたインセンテ
ィブとして機能する一方で、現実に役員が株式を取得するものではないことから、イ
ンサイダー取引規制の適用を受けることはありません。エクイティ型報酬の場合、イ
ンサイダー取引規制との関係で取得した株式を売却できないという問題も生じ得ま
すが、ファントム・ストックや SAR ではこのような事態は生じないという点にメリ
ットがあります。
当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。
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3. オプション型報酬
(1)概要
オプション型報酬とは、いわゆるストック・オプションとして、その権利行使に
より株式が交付される報酬を指します。会社法上は、役員に対して新株予約権を報
酬として付与することになります。実務上は、権利行使価格を 1 円とする、いわゆ
る 1 円ストック・オプション(一般的に株式報酬型ストック・オプションと呼ばれ
る)や、権利行使価格を割当日における時価以上とする等の要件を満たすよう設計
されるいわゆる税制適格ストック・オプションが利用されています。ストック・オ
プションの場合、株価に連動した行使条件を付与することや、中長期の業績に応じ
て行使可能な新株予約権数を変動させるといった柔軟な設計も可能です。
また、実務上は、役員が手持の現金で実際に公正な発行価額(払込金額)を払い
込む有償ストック・オプションも利用されています。他のオプション型報酬と比較
すると、役員が新株予約権の発行に際して、払込金額を実際に金銭で払い込むこと
になる点が大きく異なります。
(2)株主総会の決議
無償ストック・オプションを発行する際の法律構成としては、
「無償構成」
(スト
ック・オプション自体を職務執行の対価と考え、金銭の払込みを要することなくス
トック・オプションを付与する方法)と「相殺構成」(ストック・オプションの公
正価値相当額の金銭債権を役員に報酬として付与するのと同時に、当該公正価値相
当額を払込金額としてストック・オプションを付与し、払込金額について会社が有
する債権と役員が有する金銭債権とを相殺する方法)の 2 つがあります。
相殺構成であれば、法的には、ストック・オプションの公正な価額相当額の債権
の払込みがあったと評価できることから、
「特に有利な条件」
(会社法 238 条 3 項 1
号)での発行とはなりません。他方で、無償構成の場合は、法的には払込みが存在
しないことから、
「特に有利な条件」での発行に該当するようにも見えますが、職
務執行の対価として新株予約権が付与される場合、役員が今後提供する職務を評価
したうえで、ストック・オプションが付与されるという関係になることから、相殺
構成と同じく、「特に有利な条件」での発行には該当しないと考えられています4。
無償ストック・オプションは役員に対する報酬の性格を有することから、役員に
対して付与する場合、役員報酬規制(会社法 361 条 1 項)の対象となります。
4
その結果、ストック・オプションは、相殺構成・無償構成にかかわらず、会計上は費用計上する必要
があります(企業会計基準第 8 号「ストック・オプション等に関する会計基準」参照)。
当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。
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まず、無償構成の場合、ストック・オプションは、金銭ではない財産であること
から、会社法 361 条 1 項 3 号の非金銭報酬に該当します。また、ストック・オプ
ションの公正な価額が算定できることから、会社法 361 条 1 項 1 号の確定額報酬
としての決議も必要であると解されています。なお、ストック・オプションの公正
な価値は日々変動すると考えられることから、ストック・オプションの価値ではな
く、個数に着眼して、会社法 361 条 1 項 2 号の不確定額報酬として設計すること
も可能と解されています。
次に、相殺構成の場合は、報酬として役員に対して支給されるのはストック・オ
プションそのものではなく、金銭であることから、法形式上は、会社法 361 条 1
項 1 号の確定報酬として決議すれば足りることとなります。しかし、その実質はス
トック・オプションを報酬として役員に付与することであるため、会社法 361 条 1
項 3 号の非金銭報酬と同様に、ストック・オプションの具体的な内容も示した上で
報酬決議を行うことが望ましいと考えられます5。
なお、有償ストック・オプションは、役員が付与時における新株予約権の公正な
価額を実際に払い込むことから、会社法上の報酬には該当せず、会社法 361 条の規
制の適用を受けないと理解されていますが、前記のとおり、現在、企業会計基準委
員会において、
「権利確定条件付きで従業員等に有償で発行される新株予約権の企
業における会計処理の検討」がなされており、仮に会計上の費用処理の要否につい
ての取扱いが見直された場合には、会社法上の報酬に該当すると見るべきかについ
ても、再度検討を要する可能性があると思われます。
(3)インサイダー取引規制
ストック・オプションを行使して株式を取得すること自体は、ストック・オプシ
ョンの行使により自己株式を交付された場合も含め、インサイダー取引規制の適用
対象外とされています(金融商品取引法 166 条 6 項 2 号)
。しかし、取得した株式
を売却する際には、インサイダー取引規制の適用対象となります。この点に関して、
昨年 9 月よりインサイダー取引規制について、いわゆる「知る前契約・計画」に係
る包括的な適用除外規定の追加のための内閣府令の改正が行われており、新たな適
用除外規定(取引規制府令 59 条 1 項 14 号)を利用して、取得した株式の売却に
ついても措置しておくことが考えられます6。
5
澤口実=石井裕介「ストック・オプションとしての新株予約権の発行に係る問題点」旬刊商事法務
(2006)1777 号 38 頁参照。
6
日本取引所の Web サイトにおいても、
「知る前契約・計画に関するよくある質問」が公表されており、
「知る前契約・計画」の活用に際して実務上参考になると思われます。
http://www.jpx.co.jp/regulation/ensuring/preventing/insider-faq/tvdivq0000000g32-att/sirumaefaq.pdf
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4. 株式型報酬
(1)概要
株式型報酬は、株式取得目的のために役員に対して金銭報酬を支給し、当該金銭
を原資として株式を取得するという形式をとります。
役員持株会を通じて株式の取得は、役員に支給された通常の金銭報酬の一部を役
員が任意に役員持株会に拠出し、取得する例が一般的ですが、この役員持株会を通
じた株式取得のための金銭報酬を、株主総会決議等を経て、通常の金銭報酬枠とは
別枠で設定することも考えられます。
近時は、信託を利用して株式又は(役員の希望により)株式の時価相当額の現金
を役員に対して交付する仕組み(
「株式交付信託」
)も導入されております。
また、我が国の会社法上、役員に対して自社株式を無償で発行したり、労務出資
を受けることはできないと解されておりますが
(会社法 199 条 1 項 2 号・3 号参照)
、
昨年 7 月に公表された経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方
に関する研究会報告書の「法的論点に関する解釈指針7」
(以下「経産省指針」とい
います。
)は、この点も踏まえて、役員に対して金銭報酬債権を付与し、当該債権
を現物出資(会社法 199 条 1 項 3 号)すること等により、役員に対して現物株式
を付与し、海外における Performance Share(業績達成条件付株式)や Restricted
Stock(譲渡制限付株式)といった現物株式による報酬を実現させることを提案し
ています。
(2)株式取得目的報酬
株式取得目的報酬は、いったんは金銭により会社が支出することになるため、株
主総会において役員報酬の決議が必要となります。確定額報酬の上限の範囲で支給
することも可能であるし、業績に連動する算定方法を決議することも可能です。
(3)株式交付信託
株式交付信託については、確定額報酬、不確定額報酬及び非金銭報酬のいずれの
性格も有していることから、他の役員報酬とは別枠で株主総会決議することが望ま
しいと考えられています。
また、株式交付信託には、自己株式取得規制や仮装払込みとの関係でも会社法上
の論点があるため、導入に当たっては慎重な検討が必要となります。一般的に、役
員を対象にした株式交付信託においては、自己株式取得規制の潜脱とならないよう、
受託者が議決権の行使を行わないという取決めがなされているようです。
7
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150724004/20150724004-4.pdf
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(4)現物株式
ここでは、経産省指針の内容に沿って、平成 28 年度税制改正(下記 IV)にも関
連する Restricted Stock(譲渡制限付株式)を念頭に紹介します。Restricted Stock
(譲渡制限付株式)は、報酬として付与する株式に一定期間以上の在任等を条件と
した譲渡制限を付すことにより役員に株式を継続的に保有させ、
(特に譲渡制限期
間中の)株価等を向上させるインセンティブとして機能することが期待されます。
① 株主総会の決議
直接に役員に付与されるのは、確定額の金銭報酬債権であることから、確定額
報酬として決議(会社法 361 条 1 項 1 号)することが可能です。他方で、実態と
しては株式が報酬として役員に交付されること評価し得ることから、非金銭報酬
として具体的な内容も決議(会社法 361 条 1 項 3 号)しておくことも考えられま
す。
なお、いわゆる有利発行に関する株主総会決議の要否について、払込金額を「特
に有利な金額」
(会社法 199 条 3 項)ではない金額に設定して、取締役会の決議で
発行することが可能です。
② 譲渡制限及びその解除の方法等
譲渡制限を付す方法として、会社と役員との契約により譲渡制限を付す方法、
種類株式を利用する方法があります。
種類株式を利用するためには、定款の変更が必要となることから、契約により
譲渡制限を付す方法の方が、実務的な負担は少ないものと思われます。
会社と役員との契約により譲渡制限を付す場合には、適切なインセンティブと
して機能させるため、一定期間以上の在任等を条件として譲渡制限が解除される
旨を、契約上合意しておくことが必要となります。他方、条件が成就しなかった
場合(たとえば、譲渡制限期間中に役員の地位を失った場合等)には、会社は役
員から株式を無償で取得できる旨を合意しておくことが考えられます。
③ 有価証券届出書の提出等
役員に対して株式を発行することは、
「有価証券の募集」に該当するため、発行
価額の総額が 1 億円以上の場合、原則として8有価証券届出書の提出等の金融商品
取引法に基づく開示が必要となります。
8
有価証券届出書の提出を要しない場合でも、臨時報告書の提出が必要となるときがあります(金融商
品取引法 24 条の 5 第 4 項)。
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Ⅳ.
税務上の留意点-平成 28 年度税制改正も踏まえて-
1. 業績連動型金銭報酬
法人税法は、会社が役員に対して支給する給与のうち、
(1)定期同額給与(法人税
法 34 条 1 項 1 号)、
(2)事前確定届出給与(同 2 号)及び(3)利益連動給与(同 3
号)に該当するもののみを損金に算入できると定め、損金算入を制限しています。そ
こで、役員報酬を設計する際には、会社側で損金算入できるかどうかを検討する必要
がありますので、以下で説明します。
なお、役員側では、役員報酬は原則として給与所得(所得税法 28 条 1 項)として
取り扱われることになり、退職に伴い支給されるものは退職所得(同法 30 条 1 項)
として取り扱われます。
(1)定期同額給与(法人税法 34 条 1 項 1 号)
「定期同額給与」とは、その支給時期が 1 か月以下の一定の期間ごとである給与
で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものと定義されていま
す。これはいわゆる月額で支給される報酬を指すものであるため、業績連動型金銭
報酬は、定期同額給与に該当するものとして設計することはできません。
(2)事前確定届出給与(法人税法 34 条 1 項 2 号)
「事前確定届出給与」とは、その役員の職務に就き所定の時期に確定額を支給す
る旨の定めに基づいて支給する給与で、届出期限までに支給時期や支給額を含む所
定の事項を記載した書類を所轄税務署長に対して届け出たものをいいます(定期同
額給与又は利益に関する指標を基礎として算定される給与を除きます。
)。
届出期限は、原則として、その給与に係る株主総会等の決議を行った日、又は、
その日が支給対象である取締役が職務の執行を開始する日後である場合には、当該
開始の日から 1 か月を経過する日とされています
(法人税法施行令 69 条 2 項 1 号)
。
このように、事前確定届出給与の支給時期や支給額は、取締役が職務の執行を開始
する前に事前に確定していることが必要とされているため、給与が過去の事業年度
の職務執行の対価である場合には、事前確定届出給与に該当しないと考えられます。
したがって、職務執行が行われた事業年度の業績をベースとして、当該事業年度の
職務執行の対価として業績連動型金銭報酬を支給する場合、当該報酬は事前確定届
出給与に該当するものとして設計することはできません。
(3)利益連動給与(法人税法 34 条 1 項 3 号)
「利益連動給与」とは、同族会社に該当しない会社が、業務執行役員に対して支
給する利益に連動する給与のうち、以下の表の要件①乃至③を充足するものをいう
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とされています(法人税法 34 条 1 項 3 号イ・ロ、同法施行令 69 条 10 項)
。利益
連動給与は、定期同額給与や事前確定届出給与と異なり、業績に連動した給与とし
て設計することが可能です。
① 算定方法が、当該事業年度の有価証券報告書記載の利益に関する指標を基礎とした客観的な
もの(下記ア乃至ウを満たすもの)であること
ア
確定額を限度としているものであり、かつ、他の業務執行役員に対して支給する利益
連動給与に係る算定方法と同様のものであること
イ
報酬委員会(業務執行役員等が委員になっているものを除く)が決定していることそ
の他これに準ずる適正な手続を経ていること
ウ
その内容が、上記の決定又は手続の終了の日以後遅滞なく、有価証券報告書等に記載
されて開示されていること
② 上記の利益に関する指標の数値が確定した後 1 か月以内に支払われ、又は支払われる見込み
であること
③ 損金経理をしていること
上記の表から分かるとおり、利益連動給与に該当するためには厳格な要件が設け
られているため、柔軟な設計が難しい状況です。特に、上記②の要件との関係で、
単年度の業績に連動するものしか利益連動給与に該当せず、中長期の業績に連動す
るものは、利益連動給与に該当しない点に留意が必要です。
もっとも、上記①の「当該事業年度の有価証券報告書記載の利益に関する指標を
基礎とした客観的なもの」との要件は、平成 28 年度税制改正において、
「利益の状
況を示す指標に記載されるべき事項による調整を加えた指標その他利益に関する
指標として政令で定めるもの」に拡大されることが予定されています(新法人税法
34 条 1 項 3 号イ)。かかる改正が実現した場合には、ROA や ROE といった指標に
連動する金銭報酬も法人税法上の利益連動給与の要件を満たし得ることになりま
す。
2. 株価連動型金銭報酬
株価連動型金銭報酬は、法人税法 34 条 1 項に定める定期同額給与、事前確定届出
給与及び利益連動給与のいずれにも該当せず、損金に算入することはできないと考え
られます。この点については、平成 28 年度税制改正によっても変更はありません。
すなわち、平成 28 年度税制改正によっても、株価に連動した役員報酬は、利益連動
給与に係る上記①の要件を充足しません。
なお、役員側では、業績連動型金銭報酬と同様に、権利が確定した段階で給与所得
(所得税法 28 条 1 項)として課税されることになります。
当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。
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3. オプション型報酬
オプション型報酬には、無償ストック・オプションと有償ストック・オプションが
あります。さらに、無償ストック・オプションは、実務上、1 円ストック・オプショ
ン(いわゆる権利行使価格が 1 円であるストック・オプション。税制非適格ストック・
オプションとなる)と税制適格ストック・オプションが利用されています。
(1)1 円ストック・オプション(非適格ストック・オプション)
① 役員側の課税関係
付与時において、1 円ストック・オプションに譲渡制限が付されている場合は、
役員に所得は実現していないと解されており、課税は生じません(所得税法施行
令 84 条)
。
権利行使時において、当該株式の時価からストック・オプションの取得価額及
び払込価額を控除した金額が付与対象者の所得となり(所得税法 36 条 2 項、所得
税法施行令 84 条 4 号)
、権利行使により取得した株式の取得価額は時価となりま
す(所得税法施行令 109 条 1 項 2 号)。当該所得の所得分類は、一般的には給与
所得とされ、源泉徴収の対象となります。ただし、国税庁が公表した文書回答事
例において、権利行使期間が退職から 10 日間に限定されているストック・オプシ
ョンの権利行使益に係る所得区分については、退職所得と取り扱われることが明
らかにされています9。実務上、退職慰労金に代えてストック・オプションを付与
する場合には、上記文書回答事例に基づいて、ストック・オプションの行使条件
として、退職から 10 日間に限定し、退職慰労金の場合の課税関係と同一にするこ
とも多いと思われます10。
しかし、会社の未公表の重要事実を知っている役員は、10 日以内に権利行使し
たとしても、インサイダー取引規制の観点から、取得した株式を売却することが
できないという問題があります。この場合には、権利行使した役員は、現金の収
入がないにもかかわらず、源泉徴収相当額を会社に対して支払う必要がある点に
は留意が必要です。なお、上記Ⅲ.3.(3)のとおり、
「知る前契約・計画」を利用
して、インサイダー取引規制の適用を受けずに、ストック・オプションの行使に
より取得した株式を売却することは可能と解されていますので、かかるアレンジ
を行うことも検討に値します(ただし、売却期日を権利行使日と関連付けて定め
ることは可能であるものの、その場合は権利行使日を特定して定めるか、
「裁量の
9
https://www.nta.go.jp/tokyo/shiraberu/bunshokaito/shotoku/07/02.htm
なお、役員の在任期間が 5 年以下である場合には、退職所得の金額を 2 分の 1 とするという優遇措置
を受けることができない点に留意が必要である(所得税法 30 条 2 項、4 項)。
10
当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。
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余地がない」方式で定める必要がある点は注意が必要です。)
。そして、役員が権
利行使によって取得した株式を譲渡した場合には、譲渡所得として課税されます
(租税特別措置法 37 条の 10 等)
。
② 会社側の課税関係
権利を付与した時点において、発行会社には特段の課税関係は生じず、権利が
行使された時点において、ストック・オプション費用に関し、役務提供の対価と
して会社の損金の額に算入することが認められています(新法人税法 54 条の 2
第 1 項)
。具体的には、発行会社は、ストック・オプションを付与された者に給与
所得等が生ずべき事由(給与等課税事由)が生じた日において、当該役務の提供
を受けたものとして、ストック・オプションの発行の時の価額に相当する金額(い
わゆるオプション・バリュー)を損金の額に算入することができます(新法人税
法 54 条の 2 第 1 項)
。すなわち、損金算入できる金額は、企業会計上のストック・
オプションの費用と原則として一致することになります。
(2)税制適格ストック・オプション
税制適格ストック・オプション(租税特別措置法 29 条の 2)の場合、役員側に
おいて、付与時及び権利行使時には課税はなく、権利行使により取得した株式を譲
渡する際の譲渡所得課税のみで課税関係は終了することになります。
会社側においては、1 円ストック・オプションと異なり、役員に給与等課税事由
が生じないため、会社において、オプション・バリューの損金算入は認められませ
ん(新法人税法 54 条の 2 第 2 項)
。
(3)有償ストック・オプション
有償ストック・オプションにおいては、税制適格ストック・オプションと同様に、
権利行使時点においては課税されず、行使によって取得した株式を譲渡するタイミ
ングまで課税が繰り延べられることになります。
また、有償ストック・オプションの場合、役員に給与等課税事由が生じないため、
会社において、オプション・バリューの損金算入は認められません(新法人税法
54 条の 2 第 2 項)。
4. 株式型報酬
① 会社側の課税関係
平成 28 年度税制改正により、法人が、個人から受ける将来の役務の提供の対価
として一定の譲渡制限付株式を交付した場合には、その役務の提供に係る費用の
額は、原則として、その譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業
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年度の損金の額に算入されることになる見込みです(新法人税法 54 条 1 項)
。そ
の要件の詳細については、法人税法施行令改正案の公表を待つ必要がありますが、
かかる譲渡制限付株式は、事前確定届出給与(法人税法 34 条 1 項 2 号)の一類型
として整理される予定です。これは、譲渡制限付株式が役員報酬債権と引き換え
に役員に対して発行されるものであり、役員報酬債権それ自体は役員の職務執行
の開始前に確定していることが根拠であると考えられます。もっとも、譲渡制限
付株式報酬は、通常の事前確定届出給与と異なり、事前確定の届出は不要とされ
る予定です。
また、現時点では法人税法施行令の改正案が公表されていないため、会社側で
損金算入される金額は明らかになっておらず、今後、施行令等により明らかにさ
れることになります。
また、譲渡制限付株式に係る譲渡制限が解除されなかった場合、会社が役員か
ら当該株式を無償取得することになりますが、次で述べるとおり、役員に給与等
課税事由が生じないため、会社において、損金算入できず、特に課税関係は生じ
ないと考えられます。
② 役員側の課税関係
現時点では所得税法施行令の改正案が公表されていないため、いつの時点で役
員側で課税が生じるのか、収入金額とすべき金額については明らかとなっており
ません。もっとも、ストック・オプションを付与された役員の課税関係との平仄
や、従前の裁判例に照らせば、原則として、譲渡制限付株式に係る譲渡制限が解
除された日の属する年度に、当該日の株式の時価が給与として課税される取扱い
とされることが考えられます11 。
また、譲渡制限付株式に係る譲渡制限が解除されなかった場合、会社が役員か
ら当該株式を無償取得することになりますが、この場合には、役員側では特に課
税関係は生じないものと思われます。
11
外国法に準拠して設立された法人が付与した譲渡制限付株式について、譲渡制限解除時に課税すべき
とした裁判例があります(東京地判平成 17 年 12 月 16 日等)
。なお、近時、ストック・ユニット(一定
期間の在職等を条件に株式を付与する報酬)について、株式付与後に一定期間の譲渡制限(譲渡制限の
内容は利益相反の回避や秘密情報の不正使用の防止等を目的とした全役職員向けの社内規則に基づくも
の)があった場合において、課税すべき時期を(譲渡制限の解除時ではなく)株式の付与時とした裁判
例(東京地判平成 27 年 10 月 8 日)があります。
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NEWS
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MHM ジャカルタデスク開設のご案内
森・濱田松本法律事務所は、インドネシアのジャカルタに MHM デスクを開設する
ことを決定いたしました。
経済成長著しい ASEAN 諸国の中でも、最大の人口を擁するインドネシアは、多く
の日本企業にとって非常に重要な海外事業拠点として位置づけられており、日本企
業のインドネシアにおけるビジネス活動はより重要性を増し多様化してきていま
す。インドネシアは、他の ASEAN 諸国と比しても、重要な法令改正が頻繁に行わ
れ、当局による運用の裁量も大きいことから、進出段階及び進出後の現地でのオペ
レーションいずれの側面においても、的確に法令及び運用を理解した上でビジネス
活動を行う必要性が非常に高い国と言えます。
森・濱田松本法律事務所は、従来からアジア諸国を含む海外に積極的に弁護士を派
遣し、いち早く中国(北京・上海)、シンガポール、ミャンマーへの進出を果たし、
昨年にはタイにオフィスを設けております。当事務所は、これらの活動を通じて培
った新興国特有の諸問題にかかわるノウハウと豊富なクロスボーダー案件の経験
を活かして、グローバルにビジネスを展開されているクライアントの皆様へリーガ
ル・サービスを提供してまいりました。このような体制をより一層拡充し、アジア
の最前線でのクライアントの皆様のビジネスにより貢献するために、今般、アジア
の新興国の中でも最も成長著しいインドネシアにおいて、提携関係を有している
ARFIDEA KADRI SAHETAPY-ENGEL TISNADISASTRA 法律事務所
(AKSET Law)
に、当事務所の弁護士が常駐するデスクを設けることにしたものです。
MHM ジャカルタデスクは、AKSET Law のオフィス内に設置され、同オフィスに駐
在する当事務所の弁護士が、AKSET Law と一体となって、インドネシア案件に関
するリーガル・サービスを提供いたします。当事務所は、2012 年よりインドネシ
アに弁護士を派遣し、2014 年からは AKSET Law に竹内哲弁護士が駐在しインド
ネシア業務をサポートしておりましたが、今回の AKSET Law との提携関係の強化
に伴い、同弁護士は AKSET Law から更なるバックアップを受け同事務所の圧倒的
なノウハウを活用しながら、より充実したサービスを提供いたします。また、竹内
哲弁護士に加えて、今年中ごろには細川怜嗣弁護士が赴任予定です。
当事務所は、今後とも、東京、大阪、名古屋、福岡、北京、上海、シンガポール、
バンコク、ヤンゴン、そして新たに加わるジャカルタの各拠点・全弁護士が一丸と
なって、より一層クライアントの皆様のお役に立てるよう尽力してまいりますので、
何卒よろしくお願い申し上げます。
(当事務所に関するお問い合せ)
森・濱田松本法律事務所 広報担当
[email protected]
03-6212-8330
www.mhmjapan.com
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