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自由の社会的分配とジェンダー不平等
自由の社会的分配とジェンダー不平等 首都大学東京 内藤 準 1.背景・目的 今日の日本社会において,社会的資源や地位の分配に男女の不平等があることは否定できない.し かし社会階層研究・階層意識研究には,資源分配のジェンダー不平等と「世帯・個人」の関係をめぐ る論争がある.階層研究では 70 年代の Acker による批判以来,男性稼ぎ手の職業で「世帯全員」の階 層的地位を代表させる主流の分析枠組みが,女性「個人」の地位を捉えられないと疑問視されている. 対して近年では「社会のなかの女性の階層」は世帯単位で暫定的に測定しつつ,男女の差は「世帯の なかの異質性」として扱う議論が展開されている.だがそれでは,世帯単位の階層の測定では世帯内 に限らず社会全体を貫く男女間の格差を扱えないという理論的批判への回答にはなっていない. その一方,階層意識研究における「階層帰属意識」や「生活満足度」の分析では,世帯単位で階層 を測ることの妥当性をある意味で裏付ける結果が報告されている.社会的諸資源の分布に明らかな男 女差があるにもかかわらず,階層帰属意識や生活満足感について女性の方が低くなる傾向は現れない. これは階層帰属意識や生活満足度が「世帯収入」など世帯単位の変数に規定されることによる.だが この結果を素朴に受け容れると今度は,世帯単位の測定では女性個人の不利な立場を扱えないという 理論的批判が説得力を持ちえた理由,女性がおかれる閉塞的状況を理解できなくなってしまう. そこで本報告の目的は,男女間にある社会的資源や家庭責任の不平等の問題性を, 「自由の分配」と いう視角から検討することである.近現代社会の個人主義的価値である「自由」に着目し,その男女 への分布のあり方と,「個人」に対する資源分配の重要性を考察する. 2.方法 本報告では階層意識研究の手法をとる.とくに,(a)自らの生き方を自分自身の考えで決めることが できる「自律的選択の自由」と,(b)社会のあり方の決定に参与できるという「(広義の)政治的自由」 の自己評定指標に着目する.分析には 2005 年「福祉と公平感に関するアンケート調査」(東京大学社 会学研究室)データを使用する(全国 20~79 歳男女 3,000 名,有効回収数 1,320(44.0%)). 3.結果と考察 分析の結果,上述の2つの意味での自由について,それぞれ男性の方が有利/女性の方が不利な立 場を報告しやすいことが明らかになった.つまり,男性よりも女性の方が,「生き方を自分で選べる」 とか,「自分の社会的活動には有効性がある」と考えづらい状況にいることが多い. これらの社会経済的規定因を調べると,(1)本人収入,(2)教育年数,(3)主観的健康,という個人的 資源が有意な効果を持つ.ポイントは「世帯収入(本人以外)」には有意な効果がないことだ.つまり, 生活水準を一にする「消費の単位」は世帯でも,他人の収入は,本人の生き方の選択肢を増し社会活 動の有効性を高める資源とはならない.そのため,生活満足度や階層帰属意識とは違い,自由につい ての自己評定は男女の資源分配の差をある程度反映したものになると考えられる.重要な個人的資源 である本人収入には,女性に不利な職場慣行や家族責任の非対称性と絡みあった男女格差がある.単 なる生活水準ではなく「個人の自由」に着目する本報告の結果は,職業や家族の文脈が絡まりあうな かでの地位や資源の不平等が,男女の非対称的な状況を広く社会にもたらしていることを示唆する.