Comments
Description
Transcript
中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と
中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と 各国 地域の若者層の英語力の規定要因 ─ のデータをもとに─ 小 磯 かをる .はじめに .背 景 . の調査分析 .まとめと今後の日本の英語教育に対する提言 .はじめに 世界共通語としての英語の役割はますます拡大しており、英語の話し手は 億人に及ぶと も言われている。英語圏の人々とだけでなく、英語を母国語としない者同士のコミュニケー ションツールとして英語を使用する人々がアジアでも増え続け、アジアの中でも英語は極め て重要な国内・国際言語となっている。アジアの英語人口は 億 千万と言われ、この人数 は欧米の人口を上回り ) 、英語は政治・経済・文化などあらゆる分野でアジアの国々に浸 透している。このような状況の中、アジアの各国政府 地域は、英語教育に力を注いでお り、従来の文法教育からコミュニケーション中心の 実用英語 志向に移行している。英語 のコミュニケーション能力を持つ人物の養成が、今後の国力に結びつくと各政府は捉えてい る。英語学習の目的も、知識の受容のために英語を学習するということから、情報収集や自 己発信を積極的に英語で行う人物を育成することへと変化しており、このような傾向は今後 ますます強くなると思われる。 一方親の経済力により、子どもの学力に差がつくという問題も指摘されている )。つま り、経済的に余裕がある層は子どもに早い段階で英語教育を受けさせることができ、小学 校・中学校入学以前の親の経済力により子どもの英語力に格差が生じているということが日 本だけでなくアジアの各国でも問題になっている。 日本人の英語力はアジアの中でも最低に近いという 本人に衝撃を与えたが、これは すものではない。日本人の )例えば、本名信行( )例えば、刈谷剛彦( のデータが発表されて、日 の受験生のデータであり、国民全体の英語力を示 の点数が低いのは、受験者が多く、英語学習の動機づ ) 英語はアジアを結ぶ 玉川大学出版 を参照されたい。 ) 学力と階層 朝日新聞出版 を参照されたい。 大阪商業大学論集 けがそれほど高くない学習者も て、 第 巻 第 号(通号 号) を受験し、それによって平均点が下がるのであっ の点数だけで日本人の英語力を論じるのは早計であるという説 ) 回 ) もある。 今 で日本・韓国・中国・台湾における英語力を問う設問がなされた。 の調査と の結果には関連性があるのであろうか? また各国 地域の英語政策 が英語力にどのような影響を与えているのであろうか? るのであろうか? そこで、本稿では、まず 以上)の英語力を、年代別に分析し、 ぎに、近年の各国 カ国 経済格差により英語力に違いがあ 地域の成人(中国・韓国・台湾は 歳 の点数との関連性を視野に置き論じる。つ 地域の英語政策の影響を最も受けていると思われる若者層の英語力の規 定要因を世帯収入の視点も取りいれて分析する。最後にそれらを踏まえて、今後の日本の英 語教育への示唆を得る。 .背 景 各国の英語事情 日本 元来日本の英語教育は英米文化を学ぶものとして読解に重点を置いてきたが、昭和 年改 訂(中学校)と 年改訂(高等学校)で国際語として英語を捉えるようになった。同時に、 指導要領は従来の読解中心から聞くこと・話すことに重心を移行し始めて、外国語指導助手 ( )を教育現場に導入した は、 聞くこと と 話すこと プログラムが を別領域として規定し、コミュニケーションを図ろうとす る態度の育成を重視している。平成 年には、 構想 を発表し、 総合的な学習の時間 ) に始まり 、平成 らは小学校 ・ 年 月 年で週 年に開始された。平成元年の改定で 英語が使える日本人 の育成のための戦力 の活動の一つとして小学校での外国語教育が正式 日には小学校学習指導要領の改訂が告示され、平成 コマ 外国語活動 年 月か を実施することになった。しかしながら、日 本では小学校の英語活動の目的は異文化に親しむこと、英語に慣れることを目的としてお り、英語の学習に対しては明確な目標は設定していない。また中学と高校の英語学習の連結 もうまくいっているとは言えず、大学においては英語を履修しなくてもいいところもあり )、 また指導法も統一されていない。 一方、企業においても英語力が広く求められてきており、昇進の条件として、英語力を重 視する企業も増え、ユニクロや楽天は、英語を社内公用語とすると表明している。しかし、 採用の際に英語力を重視する企業はまだ多くない。 韓国 韓国では 年代の金泳三の 世界化 戦略により、英語学習時期の低学年化とコミュニ )例えば、 鳥飼久美子( ) テスト テストと日本人の英語力 講談社現代文庫を参照 されたい。 ) ( ) には日本・韓国・台湾・中国の各チームが参加している。調 査内容については を 参照されたい。 )平成 年では %の小学校で英語活動が行われており、平均授業時間は年間 時間である。 )大谷泰照(編)( ) 世界の英語政策 東信堂 ページ。 中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と各国 地域の若者層の英語力の規定要因(小磯) カティブな英語教育へ転換を明確にした。金大中大統領(当時)による、 世紀に入っての 新年の挨拶は 韓国がインターネット時代の国際語である英語をマスターしない限り、世界 競争に勝つことはできない 教育課程では、初等教育で と英語の重要性を訴えた )。それに伴い、 習得 次英語 年に英語を必修教科とし、段階的に授業時間、学習内容を増 やし、現在では小学校 年から週 年生は週 年の第 回の英語が正規授業として行われ、 年度からは 回の英語授業を行うことが決定された。また英語学習の目的を ・ 使える英語の つまり実用的な英語の習得であるということを明確にした。同時にこれまで、小・ 中・高に区切られていた教育課程は小学校 年次から高等学校 年までの 年間を国民共通 基本教育期間と呼び、一貫性あるものにし、中学・高校では週 回のコミュニケーション重 視の授業が行われている。教科書の内容は日本の 倍量ある。大学入試統一試験( ) では近年リスニング・ライティングなどのコミュニカティブ重視の傾向がみられる。 また、韓国では特にここ数年親の教育熱はすさまじく、塾通いや家庭教師による勉強は 私 教育 と呼ばれ、統計庁によると、家計支出の %を私教育を含めた教育費が占める )。 家計に占める教育支出の割合は世界一であり、就学前からの英語塾に通う者も多く、小学 年の児童のうち %が英語塾に通っていると言われている )。また、子どもに海外で英 語を学ばすために、子どもを(多くの場合母親も一緒に)海外に住まわせ、父親は国内で働 く、ギロギアップ(雁お父さん)と呼ばれる父親も多くなっている。 一方、企業でも英語を使える人物の需要は多く、多くの企業が海外研修を行なったり、社 員採用時に英語能力を重視したりする企業も増えている。特に 年以降、外国人労働者の 増加等により、国際化がより進むにつれて、英語の重要性は益々広がり、企業は社員採用に あたって韓国のトップクラスの大学の卒業生よりもアメリカの中堅クラスの大学の卒業生の 方を好むといわれている )。キャリア育成に英語力は欠かせず、米国への留学生は 万人以 上に上っている。 中国 外国語の普及は国の発展に不可欠であり、また、外国語の知識は個人の成功や栄達にとっ ても非常に重要なものと多くの中国人は考えている。この意識が中国人の外国語学習の動機 の源泉になっているともいえよう。そのため今や世界語となった英語の知識は必須であり、 英語は 世紀を生きるための基本的な条件のひとつだと認識されている。かつては読解力重 視であったが、 年以降、聴解力とコミュニケーション能力の育成に力をいれている。ま たエリート層の英語力はアジアで群を抜くとされており、大学の英語の授業の多くは英語で 行われている )。 年度には小学校への英語授業を取り込み、大都市部では 方では 年生から週 回を基準に小学校への英語授業を導入している。一人っ子政策の影響 年から、地 も受け子供の教育にかける親の熱は高く、北京・上海・広州などの大都市に住む 子供を持つ親へのアンケート調査では、家庭の消費の 歳の %が子供の教育費に、その半分 )例えば、河添恵子( ) アジア英語教育最前線 三修社 を参照されたい。 )読売新聞 年 月 日号 )河添恵子( )を参照されたい。 )井川好二、 、 際仏教大学紀要 号 、 。 )大谷泰照(編)( ) 世界の英語政策 東信堂を参照されたい。 四天王寺国 大阪商業大学論集 第 巻 第 号(通号 号) ) が英語教育にかけられているという報告 や、都市部の小学校の低学年から ) 塾で英語をならうという報告もある 。また )の %が補習 年に大学英語試験( レベル(バンド)が設定され、 の合格が卒業条件であり、毎年 万人 ) が受験するといわれている 。 また、 年 ( でなく、社会人にも広く英語学習を奨励している。 )を開発し、学生に対してだけ 年からは人民解放軍や中国銀行に職 を得るためには英語能力が必要となっている。 一方 地域格差、学校間格差が問題となっており、特に、都市部と内陸農村部で、教育条 件において大きな違いがある。また今後大学進学率が上がり、大学が大衆化することによ り、大学間格差も問題となると思われる。 台湾 台湾は国家予算に占める教育費が高い国であり、 ( )として、経済の自由化と国際化政策の柱として英語はあらゆる分野で重要視さ れている。このような状況の中、幼児英語教育も非常に盛んであり、子どもの %が小学校 ) 入学前に英会話塾へ通った経験があるという報告もなされている 。小学校では、英語は 年に台北市で導入され、 前は、国民中学の 年から全国で小 より実施されている。小学校期の導入以 年が開始学年であったが、 %が塾や英会話学校を通して既に、 ( )は台北市の国民小学 年生の ) か月以上英語を習っていると報告している 。 年には国民教育(小学と中学)の課程内容を一貫させ、小学と中学で語彙や学習内容が円滑 に接続できるように計画された。中学・高校では教科書・ワークブックとも大量であり、大 学入試センターではライティングも出題されている。 企業や官庁でも英語能力が必要とされており、 の受験者は毎年、 倍の ペースで伸びている。 以上述べた、各国の英語事情を表にすると表 のようになる。 各国の 点数比較 テスト( )は、 年に英語を母国語と しない人々の英語コミュニケーション能力を測るテストとして、世界中の英語検定テストの 中で、最も幅広い国々で受け入れられており、最もグローバルスタンダードなテストである といえよう。 は大学のキャンパスや教室でのコミュニケーションに必要な技能を 測定するのを目的としているところから、受験生は留学を目指している者が多く年齢層にも 偏りがあるが、ある程度の国の英語力を図る指針として用いられることも多い。 域の の点数の推移を表にすると図 パーベイステスト( ) 、 のようになる。この図は カ国 地 年まではペー 年まではコンピュータベイステスト( )矢野安剛、池田雅之(編)( ) 英語世界のことばと文化 成文堂 を参照されたい。 )河添恵子( )を参照されたい。 )本名信行、 、 中国、韓国の英語教育から日本が学ぶこと アジア英語研究 第 号 )矢野安剛、池田雅之編( ) 。 )大谷泰照(編)、 、 世界の英語政策 東信堂 。 ) 年 。 台湾 韓国 日本 中国 社 会 大 学 経済の自由化と国際化政策 ) 台北市 小学校 大学入試リスニング導入 三年生から英語授業 週 回 ) 社会人に広く英語学習 社会の国際化 英語熱 文化大革命 英語ブーム 卒業に必要 上海等大都市 年代 社 会 大 学 小学校 社 会 大 学 小学校 社 会 大 学 年代 . 年生 年より 年生より 週 回 構想 台北市 英語が使える日本人のための戦略 センター試験リスニング導入 週 回 小学校英語導入決定 総合的な学習の時間 加盟 第 次英語ブーム 中国銀行など就職に英語必要 大都市 年生地方 年生から週 時間 年代 表 小学校 年代 中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と各国 地域の若者層の英語力の規定要因(小磯) 各国 地域の英語事情 大阪商業大学論集 からはインターネットベイステスト( 第 巻 第 号(通号 号) )のテストの結果を採用し、各テストの結果を正 答率に換算したものである。テストの内容の変化により、 平均正答率が下がっている。日本人受験者の点数が最も低いのは、 が、 年には韓国の受験者の点数が台湾を抜き、 いる。 と受験者の 年以降同じである 年には中国をも抜きトップに立って の点数からみると韓国の伸びは目覚ましいものがある。 教育における経済格差 図 の点数の推移 ) 前項でも述べたように、学校教育においても企業においても英語が重要視されているなか で、新たな問題点も指摘されている。韓国においては経済的に裕福な親をもつ子どもは学校 教育以外でも英語を学ぶ機会が多く、小学校 年生までに、親の経済格差により学力、特に 英語の学力に差がついているという指摘もなされ )、日本でも親の経済力が子どもの学力を 左右しているという報告もなされている )。中国においても、家庭消費の %が子ども の教育費に使われており、その半分が英語教育に使われているとするならば、親の経済格差 によって子どもの教育に格差が現れると思われる。また、台湾でも子どもの %が小学入学 前に英会話塾等へ通っていると言われ、塾に通える経済力のある者とない者では英語力に差 がついていると報告されている )。 英語使用に対する積極的(主体的)態度 はじめに でも述べたように、各国 地域の英語教育の究極の目的は、英語を積極的に 使用し、情報収集や自己発信出来る人物の育成である。実際の英語に接しているかどうかと ) 軸は正答率 年と 年に正答率が下がったのはテスト形式と内容の変化により難易度が上がっ たためである。 )井川好二( ) 四天王寺国 際仏教大学紀要 号 を参照されたい。 )朝日新聞 年 月 日号。 )読売新聞 年 月 日号。 中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と各国 地域の若者層の英語力の規定要因(小磯) いうことが英語力に大きな影響力を持つことは言うまでもないことである。今回の調査を 行った カ国 地域では英語は外国語として学習しており、日常生活で英語に接する機会が あまりない。このような環境下において直接英語に接する機会が多いのはインターネットで あると思われる。実際インターネットで最も多く使用されている言語は英語であり、イン ターネット情報の %が英語で発信されているといわれている )。東アジアの高校生を対象 にした調査でも、韓国の学生は日本の学生に比べて学校外での英語経験が高く、特にイン ターネットなどメディアを通じて英語に接する機会が多く、それが韓国の高校生の英語力を 高める一つの要因となっていると指摘されている )。そこで次章では海外のニュースをイン ターネットで知るかどうかを英語を使う指針の一つとした。また。一方的な知識の伝達では なく、相互理解のツールとしての英語の役割は学校においても企業においても重要視されて いることから、外国人の友人がいるかどうかと、外国を訪問した経験があるかどうかも指針 の一つにいれた。 . の調査分析 英語能力 の英語力を問う質問 あなたは以下のことがどのくらいできますか の下位項 目の英語読解力、英会話力と英語を書く能力を尋ねる質問として、 英字新聞の短い記事を 読む 英語でおしゃべりする .非常によくできる ほどんど 全くできない よくできる 統合して .よくできる という 英語能力 平均値は中国 、中国 日本 .あまりできない 、日本 . )とし、英語読解力、会話力と書く能力を 最大値 ) 。各国の有効回 、韓国 、台湾 )である。英語能力の各国の 、 韓国 、台湾 で、中国、日本に比べて、台 ) 。 は年代層別の平均値である。どの国 は中国 .少しはできる という新しい変数を作成した(最小値 湾、韓国が有意に高い( 年代には カ国 が設けられている。それに対して つの選択肢が与えられている。数値を逆転して(非常に ほとんど 全くできない 答者数は(日本 図 英語で手紙を書く 地域に有意差はないが、 地域も若い年代の英語力が高い。 歳代では中国が有意に低い。 韓国・台湾 との間に有意な差が見受けられ、 歳代と 歳代では日本 国・台湾との間に有意な差がある。日本の調査は 歳以上が対象なので 歳代以上の 歳代で 中国 韓 歳代の者は含まれ ていない。若い年齢層になると他の国 地域は平均値がかなり高くなっているが、日本の場 合若い年齢層の英語力も他の国 地域に比べてあまり伸びておらず、その結果 歳代の平均 値は中国をも下回り最下位となっている。 の平均値においても、近年韓国の伸びが著しかったが、今回の の調査 においても若い世代、特に 歳代では韓国人の英語能力が高いという結果がでた。これは、 )矢野安剛、池田雅之(編)( )を参照されたい。 )東アジア高校英語教育 調査 年報告書を参照されたい。 大阪商業大学論集 図 第 巻 第 号(通号 号) 各国の英語能力 韓国では 年に小学 年生から週 回の英語の授業が導入されたこと、韓国社会での英語 熱が影響していると思われる。また中国は い。これは から週 年の 導入、 歳代よりも若い世代の英語能力の伸びが著し 年では大都市小学 年から、その他の地域も小学 年 回の英語の授業の導入が影響していると考えられる。台湾の英語力は高いがこれ は、台湾が早くから として英語に重点を置いてきたた めだと思われる。 このように 歳代より若い年齢層では、英語能力の伸びが高く、またこの年齢層は学習指 導要綱等の変化を始めとする各国の英語事情の影響を最も顕著に受けていると思われるの で、次項では、この年代層について英語能力の規定要因を カ国 地域別に分析する。 若年層における英語の規定要因 規定要因を論じるためには重回帰分析を使用することが多いが、今回は直接効果だけでは なく間接効果も得るためにパス解析を行った )。従属変数は前章で使用した を、説明変数には次に述べる 英語能力 つの変数を使用した。 説明変数 前章でも述べたように各国 日本を除く カ国 地域では 地域とも 年代の後半から英語教育に特に力を入れ始め、 年代に入ると大都市の小学校で、日本でも 語会話活動が始まった。今回の調査が行われた 年において、 年から外国 歳以下の者は各国の英語 )分析には を使用し、モデルには の値が一番低くなるモデルを選択した。 ( )はモデルの分布と真の分布との乖離を 自由度 あたりの量として表現した指標で、一般的に、 以下であれば当てはまりがよいとされている。 値 は有意でなければモデルは採用される。都市サイズはカテゴリー変数であるが、パス解析の目的で便宜上 共変量として扱った。分析に用いた回答者は、中国 人、日本 人、韓国 人、台湾 人である。 中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と各国 地域の若者層の英語力の規定要因(小磯) 熱の影響のもとで英語を学習している者である。その結果を反映しているのであろうか、 歳代以下の英語能力は各国とも他の年齢層よりも高い(図 参照) 。一方、 私教育 などの 経験には、家庭の経済格差の影響が見られる。そこで、若年層の英語力の規定要因を探るた めに、 世帯収入 りかなり上 の観点も踏まえてパス解析を行った。 世帯収入 、平均よりかなり下 は主観的収入(平均よ の五段階レベル)を投入した。同時に英語力には教 育年数が大きな影響力を与えているということが過去の研究でも明らかになっている ) の で教育年数を共変量で説明変数として投入した。また初等教育における英語の導入は大都市 近辺の方が早く行われており、私塾も大都市周辺に多くあり、寺沢( )も指摘している ) ように、都市サイズが英語力に及ぼす影響は大きいと思われるので 、都市サイズを、大都 市とその近郊 、市 、農村 と 段階に分けて共変量で使用した。 英語使用に対 する積極的態度 は海外のニュースを知るためにインターネットを使用するかどうか(する 、しない ) 、欧米を訪問した経験があるか、アジアを訪問したことがあるか、欧米 人の知人がいるかどうか、アジア人の知人がいるかどうかを、それぞれ、ある とし、この つの変数の合計し、 英語使用に対する積極的態度 、ない という変数を作成し、 使用した。 結果 中国 まず、中国のモデルを図 に示す。矢印の横の数字は標準化係数で、各変数の右上の数字 は決定係数を示す。 図 中国のモデル 有意なパスのみ描いてある。誤差変数は省略してある。 )杉田陽出( ) 英語の学習経験が日本人の英会話に及ぼす効果 研究論文集 第 号 。 及び 小磯かをる( 特徴と英語能力 と のデータから 日本版 第 号 。に詳しい分析が述べてある。 )寺沢 拓敬( 社会環境・家庭環境が日本人の英語力に与える影響 通して 日本版 研究論文集 第 号 。 のデータから 日本版 ) 日本人英語使用者の 研究論文集 ・ の 次分析を 大阪商業大学論集 第 巻 第 号(通号 号) 英語力に対する各説明変数の直接効果と間接効果を合わせた総合効果は以下のようになる。 中国では直接効果と間接効果をプラスした総合効果では学歴の影響力が飛びぬけて高い。 世帯収入 都市サイズ 教育年数 英語使用に対する積極的態度 直接効果 間接効果 総合効果 これは、中国の大学の質の高さを現わしているのではないかと思われる。英語使用に対する 積極的態度、世帯収入の影響力も高い。都市サイズは直接的には英語力に影響を及ぼしてい ないが、教育年数を通して影響を与えている。つまり、大都市周辺に住んでいる者は高等教 育を受ける機会がその他の地域よりも大きく、それが英語力向上につながっているというこ とである。 日本 次に日本のモデルを見てみよう。図 は日本のモデルである。 総合効果 図 日本のモデル 有意なパスのみ描いてある。誤差変数は省略してある。 日本では、教育年数の影響力よりも英語使用に対する積極的態度の影響力が高い。世帯収 世帯収入 都市サイズ 教育年数 英語使用に対する積極的態度 直接効果 間接効果 総合効果 入は直接には英語力の有意な予測変数ではないが、世帯収入が多い者は学歴が高く、また英 語に対して積極的にかかわる者が多く、間接効果として英語力に影響を与えている。都市サ イズは直接的には英語能力に影響を及ぼしていないが、教育年数を通して、影響を与えてい る。中国とは違って都市サイズは英語使用に対する態度にも影響を及ぼしていることから、 中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と各国 地域の若者層の英語力の規定要因(小磯) 大都市に住む者は教育年数が長いだけでなく、英語を使用する機会が多いといえよう。 韓国 次に韓国のモデルを示す。 総合効果 図 韓国のモデル 有意なパスのみ描いてある。誤差変数は省略してある。 韓国の場合、都市サイズの影響は直接効果・間接効果の双方で見られず、都市部の英語熱 世帯収入 都市サイズ 教育年数 英語使用に対する積極的態度 直接効果 間接効果 総合効果 の高さはこの場合英語力に影響を及ぼしていない。これは、今回の韓国の調査では、農村に 住んでいると回答した者が、 歳代以下の年齢層では 人中 人と少なく、 人中 人 が大都市周辺に居住していることが影響していると思われる。また教育年数の直接効果は見 られず、総合効果も低い。一方、英語使用に対する積極的態度の効果が非常に大きい。韓国 では大学を出ているかどうかというよりも、実際に英語使用に対して積極的な態度であるか ということの影響力が非常に高い。これは大学進学率が パーセントと高く、大学間格差が 大きく、大学に進学したかどうかよりも、留学などを通して、外国人の知人を持ったり、外 国を訪問したりして、英語を使っているかどうかの方の効果が大きいということであろう。 これは、世帯収入の影響力の高さにも通じるところがある。つまり経済的に余裕がある家庭 の者は留学等で実際に英語を使う機会が多くなり、英語力が向上するのであろう。 大阪商業大学論集 第 巻 第 号(通号 号) 台湾 次に台湾のモデルを示す。 図 台湾のモデル 有意なパスのみ描いてある。誤差変数は省略してある。 台湾の総合効果 世帯収入 都市サイズ 教育年数 英語使用に対する積極的 直接効果 間接効果 総合効果 台湾と日本のパス図はよく似ている。両グループとも世帯収入の直接効果はみられず、教 育年数と英語使用に対する積極的態度を通して間接的に影響を及ぼしている。同様に、都市 サイズも教育年数と英語使用に対する積極的態度を通して間接的に英語力に影響を及ぼして いる。しかし、日本と比較しても、世帯収入の効果はあまり強くなく、教育年数の影響力が 非常に大きい。 .まとめと今後の日本の英語教育に対する提言 の平均値においても、近年韓国の伸びが著しかったが、今回の の調査 においても若い世代、特に 歳代の韓国の英語力が高いという結果を得た。また台湾も 年、 年と の平均的が上昇しており、 が急上昇している。一方中国は に凌駕していたが、 のデータでも若者層の英語力 年までのペーパーベイスの試験では他の のデータでは カ国をはるか 歳代以上の年齢層では、各国 地域に比べ てはるかに低い。これは前述したように中国では一般の人々ではなく特定のエリート層が を受験していたのであろう。日本の場合 の平均的が低いのは受験人数が多 く、準備不足な受験者も多いからであるという説もあるが、 のデータからも日 中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と各国 本人の英語力が低いという結果がでている(図 においては 地域の若者層の英語力の規定要因(小磯) 参照)。受験者が限られていた中国の場合 の点数を国民の英語能力の指針にするのは危険であるが、今回の結果 から、特に若者層に限っては の点数はある程度その国 地域の英語力を現わして いるのではないかと推測できる。 次に各国 地域の若者層の英語の規定要因を見てみる。予測されたように教育年数は各国 地域に影響力を及ぼしている。特に中国では、非常に高い影響力がある。中国の大学進学 率は他の カ国 地域ほど高くないが、前述したように中国の大学では を導入し、大 学を卒業するためには高い英語力が必要であり、そのため高等教育を受けた者の英語力はか なり高いためだと思われる。一方韓国では、留学経験者が就職等に有利であり、国内の大学 を出たかどうかはそれほど英語力に影響を及ぼしていないのであろう。 カ国 地域とも都市サイズは英語力に直接的には影響を及ぼしていないが、中国では教 育年数を通して、また日本と台湾では、教育年数・英語使用に対する積極的態度を通して、 影響力がある。中国では大都市周辺に住んでいる者は高等教育を受ける者が多く、その結果 英語力が高いとみられ、日本と台湾では、大都市周辺の住民は高等教育を受ける者が多く、 また外国の人や文化に触れることによって実際に英語を使用する機会が多いと思われる。韓 国でも都市サイズが大きくなるにつれて、外国訪問経験者や外国人の知人をもっている者が 多いが )、英語力に対する都市サイズの影響は直接的にも間接的にも見られない。これは、 韓国では、若者は農村を離れて大都市周辺に住むものが多いためだと思われる。 世帯収入の影響は カ国 地域の全てで見られたが、台湾ではそれほど強くなく、韓国と 中国で比較的強い。各国 地域の英語熱が今後ますます高まると思われるので、世帯収入が 英語力に影響を与える傾向は今後も続くであろうし、各政府が公教育の一層充実を図らなけ れば、格差は拡大すると思われる。 各国 地域とも 英語使用に対する積極的態度 が英語能力に大きな影響を与えている。 今回の分析では、英語使用に対する積極的態度を図る変数として、海外のニュースを知るた めにインターネットを使用するかどうか、欧米を訪問した経験があるか、アジアを訪問した ことがあるか、欧米人の知人がいるかどうか、アジア人の知人がいるかどうかの を統合して、 英語使用に対する積極的態度 つの変数 という変数を作成し、使用したが、英語力を 従属変数にこの つの変数と教育年数、都市サイズ、世帯収入をそれぞれ独立変数として、 重回帰分析を行ったところ中国ではインターネットの影響力が強く、台湾では欧米人の知 人・欧米訪問経験の影響力が、韓国と日本では欧米人知人・欧米訪問だけでなくアジア人の 知人・アジア訪問が有意な影響力をもっていた )。このように、どの分野で英語使用に積極 的に取り組んでいるのかは、各国 地域により、少し違いがあるが、 英語使用に対する積 )韓国では、大都市周辺の居住者の %が外国訪問経験がある一方町村の居住者では %であり、外 国人知人があるものも大都市周辺では %、町村 %である。 )中国では海外のニュースを知るためにインターネットを使用するかどうかが %水準で有意な説明変 数であり、台湾、韓国と日本では %水準で有意であった。台湾では欧米人の知人があるかどうか、欧米 訪問の経験の影響力が強く、韓国ではそれに加えてアジアを訪問したことがあるかが、 %水準でアジア 人の友人がいるかどうかが %水準で有意であった。日本では欧米訪問は有意な説明変数でなく、アジア の知人がいるかどうかが %水準で、アジア訪問経験が %水準で有意であった。中国では欧米人やアジ ア人の知人がいるかどうかが有意であった。 大阪商業大学論集 極的態度 を養うことは各国 第 巻 第 号(通号 号) 地域の英語教育の柱であることは間違いがないであろう。 最後に今後の日本の教育に対する提言を述べたい。 の点数においても日本人の英語力は の調査においても、また カ国の中でも最も低いという結果がでてい る。日本政府がコミュニケーション主体の英語教育の重要性を認識して、改革に取り組み始 めた時期は他国に比べて遅くはない。しかし、他の国 地域が 方式 で小学、中 学、高校と一貫した、明確な達成目標をもって改革を行ったのに対して、日本では小学校へ の英語の導入は 総合的な活動 の時間の一部として、英語を教えるのではなく、国際感覚 を身につけるという年に数時間程度の授業であった。平成 年度から正式に小学校での英語 学習が導入されるが、その効果を高めるためには、小・中・高・大のシラバスの一貫性と明 確な目標が必要であろう。また日本人の英語力が低いのは、英語学習にかける時間とその学 習量の少なさにあるとも指摘されている。河添( )のデータによると、小学生が英語学 習にかける時間は塾や英会話学校での勉強時間を含めると中国の都市部では年間 台湾では、 時間、韓国 時間、日本 時間とされ、日本の小学生の英語学習時間の少な さが目立っている。また、小学生だけでなく、高校までの カ国 地域の学習指導要綱に示 された英語語彙数を比較すると、日本では、中学・高校を合わせて 中学・高校で 語、台湾 時間、 語(それにプラス 語、中国では小学・ 用の語彙数が相当ある)、韓国では ) 語となっており 、ここでも日本人の生徒の学習量の少なさが、目立ってい る。また日本の大学・短期大学では、外国語の授業数は、各大学や学部学科によって異な り、第 外国語としての英語の履修単位は 単位のところもあれば、 単位のところもあ り、履修しなくても良い大学もある。中国のように卒業にあたり全国レベルでの英語統一テ ストもなく、韓国のように留学に対して積極的な環境でもなく、大学に入っても全く英語を 学習しない学生も多く、学習に対する動機づけも低い。これは、日本の企業は他の国 地域 ほど採用にあたって英語を重視していないからであろう。しかし、今後国際社会でのビジネ スにおいて英語は不可欠であり、英語力を採用や昇進の基準にする企業は増えるであろう し、そうなれば大学においても英語力を伸ばすことが不可欠になり、卒業条件として、ある 程度の英語力を求めるように大学も政府も方針を打ち出すべきだと思われる。以上をまとめ ると、日本の若者の英語力を向上させるためには、 築、 小・中・高・大一貫のシラバスの構 公教育における英語教育の強化(学習時間・学習内容の大幅増) 、 語学力と共に海 外と積極的にコミュニケーションを図かる態度の育成が急務であると思われる。 )小池生夫、 等を中心として 、 欧州評議会、中国、韓国、台湾と日本の外国語、英語教育政策の比較 学習指導要綱 明海大学外国語学部論文集 第 号 。 中国・日本・韓国・台湾における成人の英語力の比較と各国 地域の若者層の英語力の規定要因(小磯) 参考文献 井川好二( ) 四天王 寺国際仏教大学紀要 大谷泰照(編) ( 号 。 ) 世界の英語政策 東信堂 刈谷剛彦( ) 学力と階層 朝日新聞出版 小池生夫( ) 欧州評議会、中国、韓国、台湾と日本の外国語、英語教育政策の比較 学習指導 要綱等を中心として 小磯かをる( ─ 明海大学外国語学部論文集 第 号 。 ) 日本人英語使用者の特徴と英語能力─ 日本版 と 研究論文集 第 号 。 河添恵子( ) アジア英語教育最前線 三修社 杉田陽出( ) 英語の学習経験が日本人の英会話に及ぼす効果 本版 寺沢 拓敬、 研究論文集 第 号 日本版 ) 日 ・ 次 。 研究論文集 第 号 テスト 東アジア高校英語教育 本名信行( のデータから 、 社会環境・家庭環境が日本人の英語力に与える影響 分析を通して 鳥飼久美子( のデータから 調査 の 。 テストと日本人の英語力 講談社現代文庫 年報告書 ) 英語はアジアを結ぶ 玉川大学出版 矢野安剛、池田雅之(編)( ) 英語世界のことばと文化 成文堂 の調査方法 日本 実施時期 調査方法 調査対象 抽出方法 年 韓国 月 面接・留置法の併用 歳の男女 層化 段無作為抽出 年 台湾 月 面接法 歳以上の男女 層化 段無作為抽出 年 中国 月 面接法 歳以上の男女 層化 段無作為抽出 年 面接法 歳以上の男女 層化 段無作為抽出 計画標本 有効回答数 回収率 % % % 月 %