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フェアトレード消費における消費主義的側面
フェアトレード消費における消費主義的側面 ――運動の変容と消費者層の変化を通して―― 早稲田大学 1 畑山要介 目的 本報告の目的は、日本におけるフェアトレード消費の普及を消費主義と関係づけて理解すること にある。フェアトレード消費は倫理的消費(ethical consumption)のひとつとして位置づけられ、近 年においては「消費者の市民化」という文脈で把握されてきた。しかし、倫理的かつ公共的なそれ ら商品が人々を魅了していることのすべてを、市民意識の高揚や消費者の理性化に還元できるわけ ではない。本報告では、「今日のフェアトレード消費が消費者の市民的側面や理性的側面に基礎付 けられているだけではなく、また消費主義的側面にも基礎付けられている」という仮説を、フェア トレード運動の変容と消費者層の多様化に関する質的分析を中心として検討していく。 2 手法 上記の目的達成のためのアプローチは大きく2つ挙げられる。第1のアプローチは、1980 年代 以降のフェアトレード組織の戦略的変容の分析である。この分析は、文章資料と2つのフェアトレ ード組織への聞き取り調査で得られたデータを用いておこなわれた。そこでは、フェアトレード運 動の中心的枠組みが、経済的対抗圏への志向から、商業主義的手段によるプラグマティックな目的 達成への志向へと移行していく過程に着目し、その移行がいかなる結果をもたらしたかを焦点とし ている。そして第 2 のアプローチは、今日におけるフェアトレード消費における消費者層の分析で ある。そこでは、フェアトレード商品の購入者に対する聞き取り調査で得られた質的データを用い た。1980 年代以前においては市民運動への積極的な参加者・賛同者が購買層の中心をなしていた が、2000 年代後半においては販売手段の多元化にもともなってその層は多様に分化している。こ の分析では、従来であれば対極のものとして扱われてきた市民運動的なエートスと消費主義的なエ ートスが、ともに今日のフェアトレード消費を基礎付けているという現状に焦点を当てている。 3 結論 分析の結果、フェアトレード消費が消費者の市民主義的側面、理性的側面だけに基礎付けられて いるわけではなく、消費者の消費主義的側面、感性的側面にもまた基礎付けられていることが明ら かとなった。まず、第 1 の分析においては、フェアトレード組織戦略が主として「理念主義」から 「現実主義」へと移行している傾向が明らかとなった。それにともなって、商業主義的手段が利用 されることとなったが、その結果として生じたのが「商品のメディア化」である。それは商品のデ ザイン操作を通して、フェアトレード製品の生産が象徴的な意味の生産として機能するようになっ たということを意味している。また、第 2 の分析においては、今日のフェアトレード消費者は必ず しも貧困問題への問題意識という「理性的側面」のみに基礎付けられているわけではなく、商品へ の象徴的意味付けを通した「感性的側面」にも基礎付けられていることが明らかとなった。これら の結論が示唆するのは、日本における倫理的消費の普及の可能性は、消費主義への対抗のなかにで はなく、むしろ消費主義との共存のなかにあるという視座である。