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活者のた涙

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活者のた涙
匹Ⅰ
萱
匪払
連合総合生活開発研究所
I
」
∴
生 活 者 の た め の
金
融
制
度
改
連合総合生活開発研 究所
革
目
次
吹
はじめに
要
約
第 Ⅰ部
総論 :金融市場改革 と国民生活
1. 序論 :エ ン ド・ユーザー ・アプローチ と金融改革
--------・
・
・ 1
2. 預金市場 と消費者 ローン
6
3. 証 券 市 場
9
4. 銀行行政 と証券行政
1
5
5.結 び
2
2
第 Ⅱ部 家 計 と金 融
1. 家計からみた銀行のあり方
2
5
(
1) 銀行の役割 と機能
2
5
(
2) 金融環境の変化 と銀行経営
28
(
3) 金融自由化の家計貯蓄への影響
31
(
4) 預金者利益増進のためのありうべき方策
34
2. 家計からみた証券市場改革の方向
39
(
1) 家計 と証券市場 との関わりの増大
39
(
2) 家計の株式投資
40
(
3) 個人投資家対策の必要
46
(
4) 配当について
48
(
5) リスクと収益の多様化 一 規制緩和
51
(
6) 規制緩和の方向 一 金融制度改革について
53
(
7) 投資家保護のための制度
55
(
8) 機関投資家の効率化
5
8
(
9) コーポレー ト・ガバナンス
6
3
3. 消費者信用 ・住宅金融の課題と政策
65
(
1) 消費者信用の拡大
65
(
2) 狭義の消費者信用をめぐる課題 と政策
68
(
3) 住宅金融をめぐる課題 と政策
73
(
4) ま
と め
8
0
4. 公的金融の役割 とあり方
82
(
1) 公的金融の仕組み
82
(
2) 公的金融への関心の高まり
84
(
3) 金融システムの効率性 と公的金融
88
(
4) 官業の民業補完論
9
2
(
5) 郵便貯金の民営化論
94
(
6) 公的金融の効率性に関する 2つの議論
95
(
7) 公的金融の見直 し ------------------------ 1
00
は
じ
め
に
金融 自由化 ・グローバル化 が進展 す るなか、我 が国で は 1980年代 後 半 以 降 のい
わゆるバ ブルの発生 と 91年以降のバ ブル崩壊 が起 こ り、 そ れが実体 経 済 に も大 きな
影響 を及 ぼ して きた。
連合総合生活 開発研 究所 では、 1992年 6月 に 「
金融 と国民生活研 究委員会 」(
主
査 :岩 田-政東京大学教養学部教授) を発足 させ、′
約 1年 間研 究 を進 め て きたが 、 こ
の度委員各位 の分担執筆 によ り、本報告書 を取 りまとめ ることがで きた。
これ まで金融 自由化 ・グローバ ル化 の影響 や対応 につい て は、 政府 ・大蔵省 主 導 や
金融業界 ・産業界 の視点か ら論 じられ るこ とが多 か ったが、 本報 告 書 にお い て は生活
者 の家計 とい う視点 か らこれ を検討 してい る。 す なわち、
・預金金利 の 自由化等金融 の 自由化 が預金者 の利益 、 リス クに どの よ うに関係 す るか
資金 の借 り手 としての家計 に住宅金融 や消費者金融等 にお け る金 融 自由化 の メ リ ッ
トをどの ように還元 してい くか
・金融資産保有者 としての家計 の視点 か ら、
証券市場 を どの ように改革 してい くべ きか
ヽ
・公 的金融 の役割 とあ り方 は どうあるべ きか
について研究 ・検討 して きた。
さらに、 国民生活全般 の立場 か ら、
・金融、証券 、保 険等 に関 し行政府 の関与 のあ り方 は どうあるべ きか
・中央銀行制度 や金融政策 の運営方法 は どうあるべ きか
を検討 して きた。
本報告書 は、金融経済 の動 向 に今後 ます ます影響 を受 け る勤 労 者 ・生 活者 の視 点 か
ら望 ま しい金融 システムの方向の提示 を試 みた ものであ る。
最後 に本研 究委員会 にご参加 いただいた研 究委員 の方 々、 研 究 員 会 の ヒヤ リ ング等
にご協力 いただいた各方面 の方 々 に心 か ら感謝 申 し上 げ ます。
1993年 9月
所 長
栗
林
世
金融 と国民生活研 究委員会
(
研 究委員会 メ ンバー と執筆分担)
主
査
岩
田 -
政
東京大学教養学部教授 (
総論)
委
員
鴨
池
治
東北大学経済学部教授 (
第 Ⅱ部 .
4)
委
員
紺
谷
典
子
(
財) 日本証券経 済研 究所主任研 究員 (
第 Ⅱ部 .
2)
委
員
鹿
野
嘉
昭
筑波大学社会工学系助教授 (
第 Ⅱ部.1)
委
員
小
塩
隆
士
∫.
P.
モルガ ン経済調査 部 (
第 Ⅱ部 .
3)
(
研 究委員 会事務局)
主任研 究員
田
研
高見揮
究
員
中 孝
博
文
之
要
約
要
1..
総論 :金融市場改革 と国民生活
(
金融制度改革の基本方向)
金融制度 の抜本的 な改革 のためには,
第一 に、金融 に関す る自由で公正 な競争 ルールを確立す ること
第二 に、金融 の国際化、証券化 、金融サー ビスの総合化 な どへ の対 応 が 困難 とな った
従来 の縦割 り行政 を改 め、競争 ルール を監視 す る横 断的 な行政体 制 を確立す ること
第三 に、金融商品や金融機 関、証券会社 の活動 について、 エ ン ドユ ーザ ー に十分 な情
報 を開示す ることが必要 である。
(
エ ン ドユーザーアプローチ)
日本 における金融市場 の規制 は、公式的 には 「
信用秩序 ・決済制度 の維持 」 と 「預
金者 ・投資家の保護」 の必要 による もの とされているが、 現行 の規 制 は異 な る種 類 の
金融機 関 (
業界) 間の競争制限 に よる利害調整 の側面が強 く、 必 ず しも預 金者 ・
、
投資
家の利益 に沿 った もの となっていない。
92年 の金融制度改革 も、競争強化 による預金者 ・投 資 家利益 の増 進 とい う面 か ら
評価 すれば、不徹底 な もの といわ ざるを得 ない。業者 の保 護 を中心 と した規 制 や縦 割
決済制度 ・信用秩序推持」 とい った金融サー ビスの公 共財
り型 の 「
業界行政」か ら、 「
としての側面 に着 目 した 「
市場行政」へ と金融行政の視 点 が転換 され なけれ ば な らな
いのは当然 である。 本論 では、 それに加 えて、金融サー ビスの利用者 (
エ ン ドユーザー)
の利益 をいかに増進す るか とい う視点 (
「エ ン ドユーザーアプローチ」
) か ら、 現在 の
金融制度 の問題点 を検討 し、金融制度改革 の方向 を提言す る。
(
子会社方式 による相互参入 の問題点)
現行 の改革 における子会社設立 による相互参入 は、独 占禁止法 にお け る金融機 関 の
株式保有規制のな し崩 し的な変更であ り、公正 な競争 ルー ルの確 立 とい う観 点 か ら問
題 である。 競争 ルールの設定 において 5%ルール (
本文 1
1ペー ジ参 照) の見 直 しな ど
1
抜本的な対策が必要である。 また、子会社方式 は不公正取 引 の発 生 防止 や利益相 反へ
の防壁形成が困難 などの問題 がある。
(
市場志 向型包括監視体制の整備)
エ ン ドユ-ザ-の立場 にたって、金融市場 における真 に自由で公 正 な競 争 を促 進 す
るとい う観点か らすれば、現行 の改革の ように銀行 ・証券 ・信託 が相 互 に一定 の制約
の下で相互参入 を認 め合 うよ りも、非金融業の事業会社 に自由な参入 を認 め る方 が望
ましく、 また、金融サー ビス統合化 の中で、エ ン ドユーザ ー に最 も効 率 的 に金融 サ ー
ビスを提供 出来 る組織形態 は何 か とい う視点が重要である。行 政 の監督 において も」
これ までの縦割 り型 「
業者行政」 を脱 し、金融 システム全体 を管理 出来 る 「市場志 向
型」包括監視体制の構築が求 め られてお り、大蔵省 か ら独立 した 丁金融庁 」の設立 は
-らの提案 として注 目に値す る。
(
情 報 開 示)
現在 の金融 ・証券市場では、横並 び慣行 か ら金融サー ビスの料 金 や金利 な どにつ い
て自主規制 や競争制限的な措置が とられてお り、 また、 エ ン ドユ ーザ ー に対 して金融
に関す る情報 に透明性が欠如 している。 最近の金融不祥事発生の基本的原 因の一つ は、
金融サー ビスに関す る情報 の決定的 な不足、そ して業者 と行 政当局 との関係 の不 透 明
さにあった。
企業情報 ・金融情報 の透明性 を高 めるためには、 日本 の会計制度 を国際 的 な会計 制
度が主張す る時価主義 を基準 とす ることが必要である。特 に、 金融資産 に関す る時価
主義 の採用 を早急 に実施すべ きである。金融 自由化 の進展 に伴 って企 業 や金融機 関の
リスクティキ ング行動 に関す る規制 を緩和す るのであれば、 それ に付 随す る リス クを
時価情報 で監視 で きる体制 を整 える必要がある。
2.家計 か らみた銀行のあ り方
(
銀行 の機 能)
銀行 は、預金者か ら委託 された貯蓄資金 を運用す る金融仲介 サ ー ビス生産主体 、 支
払 い手段 としての預金通貨の供給主体、一国の決済機構 の運営主体 とい う三つ の機 能
要 約
を担 って、家計 の生活向上 を金融面か ら支 えている。 この三 つ の機 能 は、 リス ク と安
定 に関 してあい矛盾す る面 をもっている。銀行 システムの安定性確保 のため には、 節
度 ある経営、 自己資本の充実、資産内容 の健全性維持、内部 管理体 制 の充実 な ど銀行
が 「自己責任 の原則」に基づいた行動 をとることが基本である。
(
金融 自由化 の銀行経営への影響)
金融の 自由化 は、利鞘縮小 による収益性 の悪化、 自由金利調達比率
\上昇 を背景 とす
る収益変動性 の増大、 な どの影響 を銀行経営 に及ぼす。 これに対 して、 銀行 は、 金利
リスクの きめ細 かい管理、調達利率上昇分 の貸 出金利への転嫁 、 経 費削減 に よる コス
ト吸収 な どに努 めて きた。 しか し、8
0年代後半大 口定期預 金金利 の段 階的 自由化 な ど
による利幅縮小 に対 して、不動産 関連融資 な どの量的拡大 し
こよって埋 め合 わせ る行動
にでるな ど、信用 リスク管理 を軽視 し、 このため、バ ブルの崩壊 に よって、 巨額 の不
良債権 を発生 させ ることとなった。
(
不良債権 の処理)
現在 、共同債権買取機構 をつ うじた償却 な どによ り、不 良債権 の処理 が進 め られて
いるが、情報開示 を回避 したまま納税者負担 を増大 させ た、 担保不動 産 が塩 漬 け状態
で流動化 していない、 など問題がある。金融機 関の資産再評価 や債務 の証券化 な どを
不良債権処理 に応用す ることも考 えてい く必要がある。
(
銀行監督 ・規制 の方向)
銀行経営 の健全性 を確保 し、銀行 システムの安定性 を維持 してい くための公 的規制
は、 これ までの ように銀行 の資産運用行動 を直接統制す るので な く、 個 々の銀行 が 自
己責任 の原則 に基づいた節度 ある経営 に努めるよう 「
市場 をつ う じて規律 づ け る」方
向 をとることが望 ましい。 そのためには、個 々の銀行 の資産 内容 、 経営 の良 し悪 Lが
そのまま預金金利、銀行収益 にはねかえるような制度的枠組 み を構 築 す る とと もに、
投資家や家計が個 々の銀行 の経営状況 を正確 に判断で きる会計 制度 の整備 ・充実 、 不
良債権残高や含み損益 などを含 め経営情報 の開示 などが必要である。
公 的当局 による監督 ・規制 は、 こうした市場 を通 じた規律 づ け を補 完 す る もの とす
る必要がある。公 的当局 の監督 ・規制 には、 自己資本強化 に よる銀行経営 の健 全性確
保 を狙 い とした BIS自己資本比率規制 の ような 「事 前 的規 制 」、 預 金保 険 の ような
●
●●
1
1
1
「
事後 的規制」 がある。 こう.
した規制、 と りわけ預金保 険 な どには、銀行 の 自己責任意
識 の後退 を招 く可能性 があ り、具体 的運用形態 は慎重 に検討す ることが必要である。
なお、理論 的 な可能性 としては、銀行 の決済機 能 と貯蓄機 能 とに対 応 して、 決 済機
能 を もつ 「マ ネー を供給 す る銀行 」(コアバ ンク) と市場型金融機 関 にわけ、前者 には
運用資産内容 の制 限や預金保 険 を課す一方、後者 は専 ら市場機 能 に よる監視 を強化 す
ることに よ り、
.銀行 システムの もつ システ ミック リス ク とモ ラルハザ -下の問題 の矛
盾 を解決す るこ とも考 え られ る。
(
金融 自由化 の家計貯蓄へ の影響)
金融 自由化 は、市場実勢 にみあった金利 の預金- の適用 、 利 用 可 能 な金融 商 品 の選
択 の幅 の拡大 な どをつ うじて、家計 の よ り効率 的 な資産運用 を可 能 にす るメ リ ッ トを
もつ 。
しか し一方、金融 自由化 の進展 とともに元本 の保 障 され ない リス ク大 きい資 産 を銀
行 が保有 す る ようになれば、金融商品多様化 の進展 とともに元 本 の保 障 され ない リス
「
劣後預金 」
) を も銀行 が発行 す る ようになる。 従 って、 家計 には、 金利
ク高 い商品 (
の高低 ばか りで な く、銀行 の資産 内容 の健全度 な ど 「
銀行 をみ る眼」を函養す るこ と、
資 産運用 に関す る 自己責任 意識 を高 め る こ とが これ まで以 上 に求 め られ る こ とに
なる。
(
預金者利益増進 のためのあ りうべ き方策)
多様 な貯 蓄商品の中か ら家計 がその 目的 にあった商品 を適切 に選択 で きる よ う、 以
下 の ような方策が必要 である。
①
各種貯 蓄商品の内 容比較 に関す る競争 の促進 (
比較広告 な ど)。
② 貯蓄形成 にかんす る専 門的 ア ドバ イザ ー としての フ ァイナ ンシ ャル ・プ ラ ンナー
の育成
③
ひ とつの店舗 、 窓口で数多 くの金融商 品 を同時 に取引 しうるな ど、 利 用 者 に とっ
で利便性 の高 い金融制度へ の変革 (
ユニバ ーサルバ ンキ ングな ど)
1
V
要
約
3.家計か らみた証券市場改革の方向
家計 は、 自分 で株式 に投資す る 「
直接投資 」
、 自分が預金 した銀行 や保 険契約 を して
いる生命保険会社 な どが証券投資 を行 う 「間接投資」、 の二 つのルー トで証券市場 に参
加 してお り、 それ らをつ うじた証券市場 との関わ りはか って ない ほ ど大 き くな ってい
る。 証券市場改革 の方向 もこの二つのルー ト毎 に考 えてい くことが必要 である。
(
個 人投資家対策 の基本的視点)
発行株式残高 に占める個人の比率 の低下 な どによ り、個 人投 資 家 の株 式市場 離 れの
進行が指摘 されて きたが、個人の金融資産残高 に占める株 式投 資 の比率 は必 ず しも減
少 してお らず、直接投資 に関わる問題 の重要性 は低下 していない。
これ まで個 人投資家対策 は、株価形成 の安定性 や証券市 場 の効 率化 を 目的 に論 じら
れ、家計 の直接 的 なメ リッ トの視点 に欠 けていた。 また、個 人投資家 を 「
長期投資家」
と同義 に見 な した り (
平均 的には個 人 は、最 も売買頻度が高 い投資家である)、個 人が
配当 を重視 している とい う固定観念 に とらえ られて きた。 しか し、 家計 の資 産 ス トッ
クが厚 くなった今 日、機 関投資家や法人投資家が得 てい るの と同 じチ ャ ンス を個 人 に
提供す る とい う視点が必要 になってい る。 た とえば先物 ・オ プシ ョン取 引 な どへ の個
人投資家 の参加 の道 を開 くことが望 まれる。
(
投資家保護 のための制度)
家計 ・個 人の直接投資 において重要 なのは、資産力 ・情 報 力 にお い て相対 的 に非力
な個 人が、機 関投 資家、法人投資家 とくらべ て不利 とな らない ような仕 組 み を市場 参
加者全体 (
あるいは国民経済全体) の コス トでつ くってい くことである。
こうした改革 の方向 としては、「
情報 の公 開」 が最 も重要である。債権格付 け機 関の拡
充、証券 アナ リス ト・投資顧 問業 の情報 の質 の向上 な どに よ り 「フ ァンダメ ンタルズ
に関す る情報」 - のアクセス を高 める とともに、市場情報 を集約 した 「
取引情報 」(ど
の投資家が どうい う売買注文 を出 しているか な ど) へ入手 につ い て も個 人 と機 関投 資
家 な どの公平 を保 つ必要がある。 また、投資技術 の進展が著 しい今 日、 一般投 資 家 の
理解 しやすい形 で情報 を提供す ることが必要 である。
また、証券取引法 を厳格 に運用 し、投資家 を保護す るた め に民事 的救 済制度 を充実
Ⅴ
(
証券 関係 における私 人 の訴訟手続 きへ の行政の援助 な ど) が必要 である。
(
機 関投資家の効率化)
「
投資信託」 については、運用期 間 を自由化 し、換金化 シス テムの改善 の ため投信
流通市場 の整備 や会社型投信 の導入 な どを検討す る必要があ る。 また、 運用 成績評価
の公表、 ラ ンキ ング、評価機 関の育成 な ど運用効率評価 の仕 組 み を整備 してい く必 要
がある。
さらに証券会社 をつ うじた販売 ばか りでな く、販売 ルー トを多様化 してい くこ とも
検討 すべ きである。
「
年金基金」 の
「
5- 3- 3- 2ルール」(
本文 60ペ ー ジ参 照) な ど機 関投 資家 の
資産運用へ の直接 的規制 (リーガル リス ト方式) は効 率 的 な運用 の障害 になってお り1
これ を廃 して、 「ブルーデ ン トマ ンルール」(
本文6
0ペー ジ参照) を確 立 してい くこ と
が必要 である。
機 関投資家の受託者 としての側面 について も、信託銀行 にお い てみ られ た フ ァン ド
トラス トの利益 つけか えな どの利益相反 を除去す るために、 受託 フ ァン ド毎 の運用 、
管理 の独立性 の確保 、運用情報 の開示 な どが必要 である。
(
規制緩和 の方向)
総論 でみた ように金融改革 の方向は、規制 を緩和 し、市場 メ カニズ ム を十全 に発揮
す る方向 に向かわなければな らないが、四社寡 占が問題 に され る ように、 証券 業 で は
規模 の経済 の問題が発生 し、参入 の 自由化 が直 ちに競争 を促 進 す る とはか ざらない。
このため、一定規模以上 の証券会社 の分割、引受業 と仲介業 の別会社化 な ど、独 占化 、
寡 占化 を抑制す る手 当が必要であろう。
4.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
消費者信用 は、消費財 、サー ビスの購入 に係 わる狭義 の消 費者信用 と住 宅金融 に大
別 される。家計 の負債 の中では、住宅金融 の占める割合 が依 然 と して圧倒 的 に大 きい
が、狭義 の消費者金融が比重 を拡大 しつつあ り、 また、 90年代 にはい って、 自己破
産 や多重債務 の問題 が急速 に増加 している。
Vl
要 約
(
狭義 の消費者信用 の課題 と政策)
狭義 の消費者信用 において最 も重要 な課題 は、顧客 の経 済力 や債権 ・債務 残 高状 況
など、信用 の基準 となる個 人信用情報 を整備 す ることであ る。 個 人信 用 情報 につ い て
は、現在 4つの機 関があ り、漸次情報 の整備 につ とめてい るが、 そ の 中心 は 「ブ ラ ッ
ク」 と呼ばれる事故情報 であ り、「ホ ワイ ト」 と呼 ばれ る残高情報の整備 は遅れている。
多重債務 な どの問題 を未然 に防 ぐためには、残高情報 の整備 が不 可 欠 で あ る。 また、
消費者金融 には、 これ までの発展 の経緯で、銀行系 、消費者金融系 (
以上大蔵省管轄)、
信販 ・クレジ ッ ト系 (
通産省管轄)、 とい う 3つの系列があるが、各業態 の利害 と縦割
り行政の弊害か ら、残高情報が これ らの業態 を超 えて交換 され る仕 組 みが存 在 してい
ない。
こうした状況 を改善す るための政策 としては、第一 に、 全 業態 をカバ ーす る立場 か
ら、政府が信用情報 の整備 、利用 ・交換 について一定 の ガ イ ドライ ンを提 示 す る こ と
が必要 である。 第二 に、 これ と同時 に、 こうした消費者信 用 に関す る個 人情 事酎こつ い
て、 プライバ シー保護 のための法律
(
「
消費者信用情報整備法 」
) を整備 してい くこ と
であ・
る。
(
住宅金融 の課題 と政策)
日本 の住宅金融 システムの特徴 は、公 的金融 (
ほ とん どが住 宅金融公庫 ) の比 重 が
高い ことである。欧米 では公 的機 関は住宅 ロー ンの流動化 を通 じた住 宅金融市 場 へ の
資金供給 の促進、借 り手 の信用 を公 的 に補完す るな ど」 間接 的 な手段 で住 宅金融市場
に関与 している。
住宅金融 は、 「
借 り手 」 としての消費者が金融 自由化 のメ リッ トを最 も享受 で きる分
野 のはずであったが、 その参入 によって競争 を高 めるこ とが期待 され た住 宅金融専 門
会社 (
住専) は、バ ブルの中での都市銀行 な どとの競合 や不健 全 融 資 に よって体 力 を
弱 め、おそ らく縮小 ・再編 の道 をた どることになろ う。
長期 的 な展望 として、銀行以外 の様 々な業態が市場 に参 入 し、 顧 客獲 得 の ため に競
争す ることがで きるようにす るための一つの方法 として、 「
住宅 ロー ン債権 の証券化」
を促進す ることが有効 であろ う。 住宅抵当証券、住 宅 ロー ン債権信 託 、 抵 当証券 な ど
の形 で始 まっている住宅 ロー ン債権 の証券化 を推進 してい くため には、 証券 化対 象債
Vl
l
権 が固定金利 に限定 されているな どの硬直的な現在 の仕組 み を弾力化 してい くととも
に、住宅金融公庫 などの公 的機関が、 アメ リカなどの ように買取 り ・保証 な どに よ り
住宅 ロー ン債権証券化 を促進す る方向が検討 されるべ きであ る。 また、 現在 までの と
ころ問題 は表面化 していないが、住宅金融 の規模が今後 ます ます増大 してい けば、信
用 リスクへ の対応が重要 となる。 狭義 の消費者金融 同様、個 人信用情 報 な どのイ ンフ
ラ整備が必要である。
5.公的金融の役割 とあり方
近年、金融 自由化 の進展、人口高齢化 による公 的年金財政 の悪化 の懸念 、 社会資本
充実の要請、景気後退への財政投融資 の景気浮揚効果への期待 、 郵貯 シ フ トの発 生 と
マネーサ プライ今の影響 な ど、い くつかの原 因か ら、財 政投融資制度 や公 的年金へ の
関心が高 まっている。
(
公 的年金 の役割 と効率性)
公 的金融 の役割 は、金融サー ビスの利用機会 についての公平性 を高 か め る こ とを も
含 め金融 システム全体 の効率性 を高 めること、競争 を通 じて、 民 間金融機 関の保 守 的
行動 を牽制す ること、 にある。
公 的年金 は、店舗整理、合理化 な ど民 間部 門の金融 自由化 の進展 に伴 いが ちな過疎
地住民 や経済的弱者へのサー ビス低下 の可能性 に対 して、 全 国民 が少 な くとも基本 的
な金融サー ビスを享受で きる体制 を提供 していること、 また、 資金配分 にお け る市場
の失敗 を是正 し、政策上必要 と思 われる分野 に、優先的 に資金供給 を行 ってい る こ と
など、利用者 の便益 や資源配分上 の観点か らみた効率性 に独 自の役割 を果 してい る。
金融仲介費用 を引 き下 げ、 また、経済状況の変化-対応す る とい う観 点 か らは、 規模
の経済や多角化 の利益 を発揮 しているかが問われる。 この点、公 的金融 には、 時代 ・
環境 の変化 に応 じた融資先 の機動 的な修正、類似分野への融資機 関の統合 な ど、今後
改善 しなければならない課題がある。
公 的金融 については、民 間金融 の補完 に徹すべ きであ る との議論 も・
しば しば な され
る。 こうした議論 の多 くは、官業が民業 に比べ て非効率 であ るこ とを前提 と してい る
Ⅵ.
l
l
要
約
が、政府 の様 々な規制や 「
護送船団方式」 とよばれる金融行政 の下 で、 民 間金融機 関
は必ず しも効率的 とはいえない。 また、政策的 に必要 な分 野 に資金配分行 う とい った
公 的金融 の役割 はな くな らない。
公営企業民営化 の潮流 の中で、郵便貯金の民営化 もしば しば議論 になってい る。 し
か し、残高 170兆円 を超 える郵便貯金 を民営化す る場合 には地方 の中小 金融機 関 と
の競合関係-の考慮 が必要である。 また、民営化 のため には財 政投 融資 の資 金調 達機
構 の新 たな整備が必要である。
公 的金融 については、財投 の使 い残 し、政府系金融機 関へ の一般会計 か らの補助 金
の存在 などを理 由に非効率 である とす る議論 もある。 しか し、財投 の使 い残 しは市場
金利 と政策金利 の関係 か ら十分 な資金需要が喚起 されない ことが原 因であ りうる こ と、
政策的に資源配分 を誘導す るための コス トとしての負担 は元 来一般 会計 が負 うべ きで
あることな どを考 えれば、財投 の使 い残 しや補助金 の存在 が直 ち に非効率 を意 味 す る
ものではない。
(
公 的金融 の見直 し)
郵便貯金の金融 自由化への対応、公 的年金 の高齢化社会 へ の対応 、 政府系 金融機 関
の有効 な政策金融 な どの諸要請 に応 じ、公 的金融 の効率性 を高 めてい くため には、公
的金融 に市場性 を導入す ることが必要である。
公 的金融 の資金調達費用 は市場 の資金調達費用 と同 レベル となるべ きであ .
り、一方 、
政策金融 に係 わる費用 は、全 国民が租税 の形 で負担す ることが必要 である。
しか し、その前提 として、政府系金融機 関 も、最 も有利 な資金調達 を心 が け納税 者 の
負担 を最小 にすべ きである。 そのためには、「
財投機 関債」市場 を導入整備 し、政府系
金融機 関な どの資金調達行動 をよ り自由化す ることによ り、公 的金融 の効 率化 を図 る
ことか必要である。
1
Ⅹ
第 Ⅰ部
第 Ⅰ部
総論 ・金融市場改革 と国民生活
総論 :金融市場改革 と国民生活
1
∴ 序論 :エン ド・ユーザー ・アプローチと金融改革
(
1) 規制 の役割
金融市場 は規制 の多い市場 である。 日本の金融市場 もその例外 で はな く、 他 国 の市
場 と比べ て も規制が多い ことはよ く知 られている。規制 は、 市場 取 引 の制度 的枠 組 み
を形成す る上で決定的に重要 な役割 を演ず る。 日本 におけ る金融市場 の規 制 は、 公 式
の必 要 に よる もの とさ
的 には 「
信用秩序 ・
決済制度 の維持」と「
預金者 ・投資家の保 護 」
れている。 しか し、本当に現行 の規制が これ らの目的に適 った もので あ るか どうか は
疑問が多い。従来の金融規制や金融制度 は、 「
専 門金融機 関制度」 や 「
金融機 関の証券
業務禁止」(
1
9
48年 に成立 した証券取引法 65条) にみ られ る ように異 な る種類 の金融
機 関の間で競争 させ ない ことが預金者 ・
投資家 の保護 になるとの考 えに立 っていたといっ
て も過言ではない (
注 1)。
さらに日本 における 「
専 門金融機 関制度」 に基づ く規制 や業者行 政 を中心 と した規
制 は、事実上 「
護送船団方式」の下での不効率 な金融機 関の温存 であった り、預金金利
低位 固定 による預金者か ら銀行部 門、 または大 口顧客へ の暗黙 の補助 金供 与 で あ った
りした可能性が強い。 また、株式市境 における個人投資家の減少 も、 企 業 間の株 式持
ち合 いが支配的であったこと、 な らびに寡 占的な市場構造 の下 で個 人投 資家 の利益保
護が十分行 われなかったことに、
よる可能性 が強い。
郵便貯金制度 に対す る民 間銀行 の批判が必 ず しも国民的 な合 意 とな らないの は、 こ
れ まで民 間銀行が不効率 な一部 の銀行温存 のために超過利 潤 を得 てい た り、 金融 自由
化 の過程 において過度 にリスクの大 きい資産運用 を行 った こ とが影響 してい る。 逆 説
的ではあるが、金融 自由化が、公 的金融 システムの民 間金融 システ ム に対 す や補 完性
を明瞭 に した とも言 える。 また、個人投資家が株式市場 に参加 す る上 で重要 な手段 で
ほか
ある 「
投資信託」 が、十分 に魅力 のある商品 になっていないめ は、 規 制 の存在 の′
に、証券会社が個 人投資家の利益 よ りも企業 間の安定株 主体 制維持 を優 先 した結 果 で
1
ある可能性 が強 い。
(
2) 金融制度改革 とエン ド ・ユ ーザー ・アプローチ
預金者や投資家 の保護 のためには、金融市場 や証券市場 にお い て規 制 を強化 す る よ
りもエ ン ド ・ユーザ ーの立場 に立 って、 「
競争 」
を強化す る方 が望 ま しいので はなか ろ
992年 に行 われた金融制度改革 は、そ うLf
s観点か らみ る と、一歩前進 した郵 ま
:
うか。 1
ある ものの なお極 めて不徹底 な ものである と言 わ ざるをえない。 それ は この改革 が、
銀行 、信託 と証券 とい うこれ までの規制 の下で既得権益 を享受 して きた業界 の間 にお
ける既得権益 の再配分 とい う色彩 が強い ものであったか らで あ る。 業界 の既得権益 の
パ イの切 り方 を少 し変 えたか らといって 日本 の金融 ・
証券市場 における競争が促 進 され
る とは限 らない。 レン ト ・シーキ ング活動 による権益 のパ イの配分変更 は、改革 の名 に
値 しない。 それは金融業界 内部 での利害調整で しかないか らで あ る。 従 来 の金融行 政
な らびに今 回の金融改革が、 エ ン ド ・ユーザー (
利用者) 不 在 で あ る との批 判 が生 ず
るのは、既存 の異 なる金融機 関の間での利害調整 のみに精力 の大 半 を費 や して きたか
らであると
本命 は、 エ ン ド・ユーザ ーの立場 か ら金融制度改革 の望 ま しい姿 を検 討 す る こ とを
狙 い としている。 これ を金融制度改革 に関す る 「エ ン ド.
・ユ ーザ ー ・アプ ローチ」 と
呼ぶ ことに したい (
注 2)。
今 回の金融改革 においては、業態間の参入方式 について、(
1)本体 での相互乗 り入 れ方
式(
2)業態別子会社 (
3)特例法方式 (
4)持 ち株会社方式 (
5)ユニバーサ ル ・バ ンキ ング方
式 の 5つカチあった。 この 5つの選択肢 の うち、 (
2)の業態別子会社 (
持 ち株会社 の存在
しない イギ リス ・カナ ダ型ユニバーサル ・バ ンキ ング) が採用 され た。 しか し、 証券
業務へ の参入 について、 当初参入出来 るのは、長期信用銀行 、信託銀行
な どに限 られ、
!
J
都市銀杏 は一年程度新規参入が出来 ない ことになってお り、 さ らに銀行 は当面株 式 関
連 の業務 を行 うことが出来 ない とされてい る (
注 3)。
(
3) 競争 ルール と金融改革
エ ン ド・
ユーザーの立場 に立 って、金融市場 における真 に自由で公 正 な競 争 を促 進 す
る とい う観点か らすれば、銀行 ・
証券会社 ・
信 託 が相 互 に一定 の制約 の下 で相 互参 入 を
認 め合 うよ りも、非金融業 の事業会社 に自由 な参入 を認 め る方 が よ り望 ま しい と考 え
2
第 Ⅰ部
1. 序論 :エ ン ドユ ーザ ー ・アプローチ金融 改革
られる 。 さらに金融サー ビスの総合化 の流 れの中で 金融機 関が エ ン ド・ユ ーザ ー に最
も効率的 にサー ビスを提供 出来 る組織形態 は何 か とい うこ とが よ り重要 な問題 で あ る。
金融制度 の抜本的な改革 を行 うためには、まず第一 に、金融 に関す る自由で公正 な競
争 ルールを確立す ることである。 第二 に、金融 の国際化、証券化 、 金融 サ ー ビスの総
合化 を考慮す る と、従来型 の縦割 り行政では どうして も対応 す る こ とが 困難 で あ り、
競争 ルールを監視す る横 断的 な行政体 制 の確立が必要 である。 第三 に、 金融 商 品 や金
融機 関、証券会社 の活動 について、エ ン ド ・ユーザ ー に対 して十分 な情報 開示 を行 う
ことが重要である。
競争 ルール との関連 で注 目され る点 の 1つ は、業態別 に子 会社 の参 入 が行 われ る場
0%以上株式保有 の子会社 が生 まれ ることである。 独 占禁止法
合 に、
銀行 や証券会社 が5
11条 1項 は、金融機 関や証券会社 が他 の会社 の株式 をその発行 済株 式 総 数 の 5%以上
を取得 ・
保有す ることを禁止 している。 公正取引委員会 は、今 回の金融改革 に ともな う
子会社 について、個別の事例 ご とに競争政策 の観点 か ら審査 を行 う との立壕 を とって
他社」とは言 えない場合 (
金融会社 の固
いる。 従来か ら公正取引委員会 は、当該会社 が 「
有業務 である業務 を子会社 に行 わせ る場合、例 えば現金 ・
小切手 の整理輸送、営業用不
動産の所有、賃貸保守業務 な ど)に、金融機 関にその会社 の 5%以上 の株式保有 を認 め
て きた。今 回の改革 によ′
り業態別子会社 は「
他社」であるが、競 争 政策上 50%以 上 の株
式保有 を認可す る とい うことになる。 しか し、本質的 には、 「他 社 」
で あ って もな くて
も、競争 ルールの設定 において従来の 5%ルールその もの の見 直 しが問 われ てい る と
言 って よい。
さらに金融機 関のみな らず非金融事業会社 の株式保有 につい て、 独 占禁止 法 で は、
当初 これ を禁止 していたが、 その後緩和 され、競争 を実質 的 に制 限す る こ と とな る場
977年の改正 において も、 非 金融事 業会社 につ い
合 にのみ禁止 されることになった。 1
ては 「
資本金 または純資産額 のいずれか多 い方 を越 える株式 を保 有 して は な らない」
との制限がおかれたが、適用 除外規定 も多 く存在 してお り、 実効性 に乏 しい。 この た
め法人間の株式 の持 ち合 いが進展 し、株式市場 か らの個 人投 資家離 れ を引 き起 こ した
ばか りでな く、株式市場 における価格形成 を歪 める結果 を もた らしている。
加 えて、業態別子会社 の出現 による不公正 な取引の発 生 を防止 す る こ とや利 益 相 反
3
に基づ く弊害防止措置 も同時 に強化す る必要がある。前者 には、親会社 に よる子会社 の
不 当 な支援行為 、
事業者 に対 す る支配力 の強化 な どが含 まれる。 また、 後 者 には、 「メ
イ ン ・バ ンク規制」(
メイ ン ・バ ンクが親会社 である証券子 会社 は引受 け主 幹事 とはな
れない)、 「
抱 き合 わせ取引の禁止」(
親金融機 関が相手方 に子会社 と取 引 を行 わせ る こ
と)、 「アームズ ・レンクス・ルール」(
親子 間であって も独立企業 間 と同 じ条件 で取引 す
ること)が含 まれる。問題 は、利益 が相反す る業務 の間の障壁 (フ ァイア ・ウォー ル)
や従業員 を異 なる業務 に分 けることに よって情報 の流 れ を防 ぐ防壁 (
チ ャイニーズ ・
ウォール) をいかに構築す るかであろ う。 子会社方式 の 1つ の問題 は、 これ らの防壁
を形成す る ことが困難 なことにある。
(
4) ビジネス慣行 と情報開示
さらに金融 ・
証券市場 においては、 しば しば横並 びの慣行 か ら金融サー ビスの料金 や
金利 について 自主規制や競争制限的 な措置が採 られることが多 い。 しか し、 顧 客 に対
す るサー ビスについて競争制限措置が搾 られ ることは、 エ ン ド ・ユ ーザ ー の立場 か ら
みて問題 が多 い。 また、エ ン ド .ユー,
粛 」 に対 して金融 に関す る情報 に透 明性 が欠如
しているこ とも日本 の特徴 の 1つであ る。
翻 って考 える と、 日本の独 占禁止法違反 の最初 の例 は、 1
9
4
7
年 の2
7の銀行 に よる貸
出 ・預金金利 に関す る最高金利協定であっ美 。 この最高金利協 定 につ いて は 「臨時金
利調整法 」が制定 されたために、独 占禁止法 の適用が行 われなか った。 この こ とは、
競争政策 と規制 の関連 を考 える上 で示唆 的 な事件 である。 同様 の問題 は、振替手数料 、
CD ・ATM使用手数料、証券発行 に際 しての受託手数料 や引受手数料 、 証券 の売買
に関す る委託売買手数料 (
大蔵省認可 の下で証券取引所 が定款 の中で定 め、 「
割引 き、
割戻 しを してはな らない」 と規定 されている) な ど各種 の手数料 に も存在 してい る。
イギ リスで委託手数料 の 自由化 が進展 したのは、公正取 引庁 が証券取 引所 規 定 に委
託手数料 が記載 されていることを問題 に した ことが 1つの契機 になってい る。 さらに、
保険業 について も保 険料 は、全社共通 の横並 び価格 となってい る。 石油価 格 に関す る
カルテル事件 は、 カルテルが行政指導 に基づ く場合 で も、 そ れが競争促 進 と矛盾 を引
き起 こす場合 には独 占禁止法 の適用 を免 れることは出来 ない こ とを示 して い る。 金融
4
第 Ⅰ部
1. 序論 .
:エ ン ドユ ーザー ・アプローチ金融改革
資本市場や保険業 について も、独 占禁止法 の適用 除外 や これ まで適用対 象 と考 え られ
ていなかった分野がい くつか存在 している。 しか し、適用 除外 そ の もの も規 制緩和 の
進展 につれて、競争政策の観点か らの見直 しが必要 となっている。
最近の金融証券不祥事が発生 した基本的な原 因の 1つ は、 金融 サ ー ビス に関す る情
報 の透明性が決定的に不足 していたことであ り、業者 と規 制 を行 う行 政 当局 との関係
が不透明であったことである。 情報 の透明性 を高 めるどころか、 ヴェー ル をかぶせ る
ような行政当局 の対応がみ られたことは残念 なことである。
例 えば、銀行が 自らの不 良債権 の額 を発表す ることは、 銀行 の株 主 や預 金者 に対 す
る当然 の義務 である と考 えられる。 しか し、 そ うした義務 を果 したの は、 アメ リカで
上場 しているために、 SECの監視下 にある民 間銀行 (1行) のみで あ った。 日本 に
おける情報開示制度が、いかに株主や預金者 の利益 を尊重 してい ないか を示 す象徴 的
な事件 ともいえる。
(
5) 企業の会計情報の透明性確保
日本 において企業情報が、投資家 に十分公 開 されてい ない こ とは銀行 に限 った こ と
ではないが、私有財産制度 の下で市場が健全 な機能 を発揮 す るため には、 十分 な情 報
の開示が不可欠である。 金融 に関連 した情報 の透明性 を高 めるとい う観点か らす れ ば、
金融商品に関す る情報提供 も一層充実す ることが必要であ る。 企 業情報 ・金融情 報 の
透明性 を高 めるためには、 日本の会計制度 を国際的な会計 制度 が主張 す る時価 主義 を
基準 とす ることが必要である。特 に、金融資産 に関す る時価 主義 の採用 を早急 に実施
すべ きである。
現実 には、 日本の金融機 関や企業 は、株式 について 「
益 出 し決算」 を通 じて窓意的、
かつ変則的な形 で再評価 (
時価主義 の部分 的採用) を行 ってい る。 変則 的 な資 産再評
価 によって、公認会計士 に とってす ら企業 の財務状況 を把 捉 す る こ とが困難 にな って
いる。年金基金 な ど機 関投資家 に関す る様 々な規制 も、 それが簿価 主義 で行 われ てい
ることが、多 くの問題 を引 き起 こしている。
現在、 日本では、上場有価証券 お よび上場先物 ・オーブシ ョン取引 について時価 情報
が提供 されている。 しか し、特定金銭信託 や指定金外信 託 の含 み損 は開示義務 が ない
5
とされてお り、 また投機 目的の先物取引 な ど多 くのオフ ・バ ラ ンス取 引 につ いて時価
で適時開示す ることが義務ずけ られていない。金融 自由化 の進展 に伴 って企 業 や金融
機 関の リス ク ・ティキ ング行動 に関す る規制 を緩和 す るのであれば、当然 それに付 随す
る リス クを時価情報 で監視 出来 る体制 を整 える必要がある。
2.預金市場 と消費者 ローン
(
1) 預金市場 の 自由化 と決済機 能の維持
預金金利 の 自由化 は, 1
979年 の CDの導入 に遡 る。 それか ら1
4年後 の 1993年秋 に よ
うや く小 口の定期預金金利 が 自由化 されることになった。金利 の 自由化 に当 って は、
段 階的 自由化 と一挙 の 自由化 の 2つの選択 があったが、結局、「
信用秩序 の維持 ・預 金
者 の保護」 とい う名 目の下で金融機 関の利害が優先 された。 その 自由化 の過程 で は、
MMCなど中間的 な金融商品が販売 されたが、預金者 のニーズ に十分 答 える もので は
なか った。商品設計 の 自由化 については、現在 も専 門金融機 関制度 の下 で なお多 くの
制約が残 されている。
銀行 が元本 と利子 が固定 した資産 を保有 しているのであれ ば、 預 金 もまた元 本保 証
で固定金利 が望 ま しい。 しか し、金融 自由化 の過程 において銀行 の資産の側 が、
株 式保
有 を含 め変動 リス クの大 きい ものに変化す る とすれば、
負債 の側 もそれに見合 った もの
にな らざるをえない。現実 に、貸付 けにおける変動金利制度 の採用 は、同時 に預金金利
の 自由化 を伴 わ ざるを得 なかった。
金融 自由化 の進展 とともに元本 の保証 されない リス クの大 きい資産 を銀行 が保有 す
る ようになれば、金融商品多様化 の進展 とともに元本 の保証 され ない 「
劣 後預 金」 の
発行 も論理的帰結 として発生 して来 る と考 えられる。 しか し、 この こ とは銀行 の健全
性 の維持 を軽視 して よい とい うことを意味 してはいない。 銀行 が、 預 金者 に対 して提
供す るサー ビスは、高 い収益率 のある金融商品の提供 み な らず決済 サ ー ビス も含 まれ
ているか らである。 この決済サー ビスは、 その外部性 の ため にシステ ミックな リス ク
にさらされやすい。
ここで、重要 なことは預金 の決済機能 と貯蓄機能 を区別 し、 決済機 能 にかかわ る預
6
第 Ⅰ部
2.預金市場と消費者ローン
金 は、 元 本 を保 証 し、 預 金保 険 の対 象 に含 め る こ とが必 要 で あ る 。 ブ ラ イ ア ン ト
(
1
989年) のい う 「コア ・バ ンク」 も、決済機 能 を もつ・「マ ネー を供 給 す る」 銀行 と
市場型金融機 関 (
や フ ァイナ ンス ・カ ンパ ニイ (
LBO、 リー ス な ど大 口の企 業 金 融
を行 う金融会社) を区別す るこ との重要性 を示唆 してい る。 「コア ・バ ンク」に つい て
は、決済機能維持 のため に、資産運用 については国債 、政府保 証 債 、 格付 けの高 レナコ
マー シャル ・ペーパー に限定すべ きである (フリー ドマ ンのい う 「
1
00%準備銀行」 が
ここでの コアバ ンクに対応す ることになる)。 コア ・バ ンクには預金保 険 をつ けるべ き
であるが、 それが利用 されることはほ とん どないであろ う。
市場型金融機 関 については、行政 による監視 よ りも市 場 機 能 に基 づ く監視 を強化 す
べ きである。 市場機 能 における監視 については、 まず第一 に、 株 主 に よる監視機 能 を
強化す ること、第二 に、純資産 を毎 日公 表す るよう義務 ず け る こ とに よって、 危 険 な
金融機 関の倒産が、金融 システムに与 える波及効果 偵 の外 部性 ) を小 さ くす る.
こと
(
純資産 を毎 日公表 し、純資産がマ イナス となれば閉店す る とい う 「
純資産銀行 」制度
の採用)、第三 に、格付機 関の機能強化 を図 る こ とが重要 で あ る。 また、 第 四 に、・
倒
産 リス クに対 しては、債務保証機 関の機 能強化 を図 るべ きであ る。
(
2) 消 費者 ロー ン
991
年末 に一世帯 当 り51
1
万 円 とかつてない程
日本 における消費者 ロー ンの残高 は」 1
1
991年 に 自己破 産 申告 者 は
高 い水準 に達 してい る。 同時 に自己破産 や多重債務 問題 (
2.
3
万人 に達 している) が多発 してい る
。
しか し、消費者信用 はエ ン ド・ユーザーにとっ
て十分 に利用 しやすい もの となってい ない。 それは、 1つ には消 費者信 用 が銀行 系 、
信販 ・クレジ ッ ト系 、消費者金融系 (
サ ラ金 な ど) の 3つ に分 れ てお り、 相 互 に排 他
性 が強 いか らである。 そ して、排他性 を強 めてい るのが、消 費者信 用 に関す る縦 割 り
行政である。 自己破 産 や多重債務 問題 を解決す るためには、 個 人 の プ ライバ シー保 護
を適切 に確保 しつつ個 人情報 の収集整備 を行 うこ とが不可欠 で あ る。 銀 行 系 、 消 費者
金融系 (
サ ラ金) を除 く、 ク レジ ッ ト系業界 は、 1
992年 6月か ら顧 客 の残 高情報 を交
換 し始 めた。 しか し、 まだ個 人 の過去 の歴史 に関す る情 報 収 集 に関す るイ ンフ ラス ト
ラクチ ュアは整 え られていない。
7
また、住 宅 ロー ンについて も民 間銀行 の取組みは、依然 として横 並 びで あ り、 融資
条件 もほ とん ど同一であって不十分 な点が多 い。住宅信用市場 へ新規参入 を促 進 す る
上か らも住宅 ロー ンの証券化が有用 であろう。 ただ し、 この証券化 を実行 す るため に
は、公 的金融機 関 (
住宅金融公庫) が小 口の債権 を集め債務保証 を行 うこ とが必 要 で
あろ う。
さらに 日本では、教育 ロー ンがほ とん ど供給 されていない。 か りに民 間 におい て教
育 ロー ンが不十分 に しか供給 されない とすれば、郵貯がパ ー ソナル ・フ ァイナ ンスの
一分野 として補完的な役割 を演 じる余地が生ず ることになる。
(
3) 郵便貯金の役割
0
0%準備 を備 えた「コア ・
郵便貯金制度 は,
日本 において事実上安全 なマ ネーを供給 し1
バ ンク」 の役割を演 じている。 1927年の金融恐慌 を始 め と して 日本 の銀行 制度 が
確立 してゆ く過程 において、郵便貯金 は 「セー フ ・ヘブン」 と して機 能 した。 バ ブル
の崩壊 に伴 って民 間銀行 に不 良債権 が累積 した時期 に も、郵便貯金が顕著 に増加 した。
この増加 は、必ず しも 「
定額貯金」の商品設計上 の有利性 のみ に よる もの とは言 えな
い。危険 な銀行 ・信用金庫 か ら郵便貯金への逃避が一部発生 した ように見 える。
しか し、郵便貯金が教育 ロー ンを始 め個人の金融サー ビス提供 のため に資産運用 す
る余地 は限 られている、
。郵便貯金が本格的なパー ソナル ・フ ァイナ ンス に乗 り出す の
であれば,郵便貯金の民営化 を含 め財政投融資制度全般 について抜本的改革 を検討 す る
ことが必要 になる。財政投融資制度 は、資金調達 の面で は郵便貯 金 について は市場 金
よる資金運用 の面 で は
利連動型 にな りつつあるのに対 して (
注 4)、政府系金融機 関に、
硬直的な運用 しか出来 ない現状 にある。加 えて、財政投 融資 の運用 面 も本来財 政 で行
うべ きことを 「
財投 回 し」 した結果、返済困難 な債権 をかかえてい る。 例 えば、 国鉄
6兆円、林野庁特別会計へ は2.
5兆円の資金が貸 し出 されてい る。
清算事業団へ は、 ll.
他方、預託金利 で郵便貯金 に貸 し出 されている自主運用資金 は、 1
992年度 末 で累積 20
兆円存在す る。 1
996年度末 には、 自主連用資金 は40兆円に も達す る予 定 で あ る。 財 政
投融資制度 における資金運用面での柔軟性、効率性 を高 め るため には、財投投 資機 関
に財投債発行権 を与 え、財投債 の発行 を行 うことが望 ましい (
注 5)。
8
第 Ⅰ部
3.証 券 市 場
3.証 券 市 場
(
1) 投 資 信 託
1
9
93年 5月に投資信託 の残高 は、47.
88兆円あ り、 その うち株式投資信託 は、21.
3兆
989年 には、株式投 資信託 は、45
.
5
兆円あった。
円ある (
注 6) 。 バ ブルが ほ じける前 の1
300本程度存在 している。
額面割れ を起 こ している株式投資信託 は、
手数料体系 については、
・現在見直 しが行 われてい るが、 契 約 時点 で の販 売手 数料 が
高いので、手数料稼 ぎのために証券会社が短期 で乗 り換 えを勧 めることが多 い。 また、
証券会社 が投資信託委 託会社 の資産運用 に介入 してい る こ と も投 資信 託 の商 品 の魅 力
を減殺 している。現在 の ように証券会社 を通 じての販売 ばか りで な く、 販 売 方法 の 自
992年か ら投資信託委託会社 は,
証券会社 を経 由せ ず直接 販
由度 を高 める必要がある。 1
売す ることが可能 になったが、まだ直接販売 を行 ってい る委託会社 はない。電話 で の販
売や郵便局 やス ーパーな どで も販売す ることが可能 になれ ば、 もっ と投 資 家 の需 要 に
答 える運用 を行 うようになるであろ う。
●
情報 開示 について も、運用成績 を評価す る機 関が存在 してい ない。 運用 成績 を評価
す る適切 なベ ンチマー クが必要である。 さらに投資信託 の運用機 関 につ い て も通常 3
- 5年 とされているが、実際 には 2年程度 で解約 されることが多 い。解約 されるこ とが
多 いのは、証券会社 に とって手数料収入が増 えるか らである。 さ らに証券 会社 は、 株
価上昇期 には営業特金や個人投資家向けファン ドの利 回 りが 8% を越 える と手 数料 を
稼 ぐために回転売買 を行 った と言 われている。
1
992年 8月か ら運用期 間が 7年物 の フ ァン ドが販売 され ることになった 。 しか し、
よ り根本的 には、日本では会社型 の投資信託が法制度上 の理 由か ら存在 していない こ と
である。 さらに 日本では専 門的 な教育訓練 を受 けたファン ド ・マ ネ ジ ャーが不足 して
いる。 さらにファン ド ・マ ネジャー を補完す る証券 アナ リス トを育 て る努力 が必 要 で
ある。証券 アナ リス トも個人 の責任 を明瞭 に し、独立 した形 で営 業 出来 る こ とが望 ま
しい。
また、銀行 による企業活動 の監視 が弱 まるにつれて、資 本市場 を通 じる企 業 活動 の
モニ ターの必要性が強 まってい る。 バ ブルの時期 に企業 に よる財 テ クが横行 したの は、
9
株主 を無視 しえたか らである。 余裕資金 は、本来株 主 に還元すべ きであった。傘業 が、
本業 をお ろそか に して営業特金 (
企業 や銀行 、保 険会社 な どが、 証券会社 に株 式 、 価
980年 の国税 庁 に よる
格 な どにつ いて顧客 が指定 しない一任売買 をさせ るフ ァン ドで 1
「
簿価分離 」通達 に よ り、持 ち合 い株 とは独立 に株式運用が可能 となった)やファン ド・
トラス ト (
信託銀行 が運用す るファン ドで委託者 に運用 してい る株 式 ・債券 の ま ま返
還す る点 で営業特金 と異 なる) な どリス クの多 い投 資 を行 った こ とは、 株 主 - の背信
行為 に も等 しい。 しか も、営業特金 は、証券会社 に よる 「
利 回 り保 証付 き一任 勘 定 」
をその本質 としてお り、投資家 の 自己責任原則 に も反す る もので あ った。 営 業特 金 の
もつ様 々 な問題 は、損失補填 として噴出 したは記憶 に新 しい。 最終 的 には、 個 人投 資
I
家が投資信託 を通 じて企業活動 をモニ ター しえる ようになる ことが望 ま しい。
(
2) 社 債 市 場
国内発行市場 においては受託手数料 が高 い こと、並 び に国内 の無担保 普通社 債 が純
資産 の額 を越 えて発行 出来 ない とい う発行 限度枠 が あるため に (これ は欧米企 業 に な
い制約 であ る)、社債発行市場 が ロン ドン- シフ トして しまった。他方、海外 で発行 す
る場合 や、担保付 き社債 、
転換社債 、 ワラ ン ト債 については純資産 の 2倍 が限度 とな っ
993年 6月の商法 の改正 (
1
0月施行)に よって発行 限度額 は撤 廃 され た 。 しか
ていた。 1
し、大蔵省 は、 国内社債市場 の空洞化 を回避 す るために発行 後 90日は 日本 に持 ち込 め
ない とい う規制 を行 ってい る。 さらに引受 け主幹事 が四大証券 の寡 占状態 にあ るこ と、
な らびに公募債 の適債基準 が厳 しい とい った問題 も残 されてい る。 また、 社 債 の流 通
市場 の整備 が遅 れてい ることも問題 である (
注 7) 。
(
3) 機 関投 資家 の規制
年金基金 な ど機 関投 資家 の投資行動 については、現行 の リー ガル ・リス ト方式 を廃
止 し、 「ブルーデ ン トマ ン ・ルール」 を明確 に し、時価主義 に基づ くパ フォーマ ンス評
974年
価 を確 立す ることが重要 である。 ここで 「ブルーデ ン トマ ン ・ルール」 とは、 1
にアメ リカの ERISAで採用 された考 え方 であ る。
「
同 じ能力 を持 ち、問題 に精 通 し
た慎重 な人 間が同 じ得失 と同 じ目的 をもつ資産管理 にお い て直面 してい う状 況 下 で用
10
第 Ⅰ部
3.証 券 市 場
いるであろ う注意、技術 、慎重 さお よび勤勉 を もって義務 を果す ことを受託者 に課す 」
とい うものである。
同時 に、
機 関投資家 の投資行動 に関す る様 々な規制 を撤廃 す る必要がある。 例 えば、
(
∋ 簿価基準 の予定利 回 り慣行 を撤廃す る。
年金基金 における大蔵省銀行局長通達 「5- 3- 3- 2ルール」(
元本が保証 され
②
た安全資産 (
5
0%以上)、外貨建 て資産 (
30%以 内)、株 式保 有 (
30%以 内)、 不 動 産
(
20%以内)) を簿価基準 か ら時価基準 に改 め る。
③
生保 ・
損保 におけるイ ンカム・
ゲイ ン配当原則 を撤廃す る。
ことが望 ま しい。
③ については、 これ まで も特別配当や変額保 険制度 の導 入 に よってそ の原則 が部分
的 に崩れていたが、特金や ファン ド ・トラス トを簿価分離 とした時点 で、 保 険業法 86
条 の規定 (
株式 の値上 り益 は積立金 とし、契約者 の配当 に回 して ほな らない とす る規
定) について、事実上 の抜 け道 を監督官庁が認 めた ことを意味 してい る。 また、 生命
保 険会社 における一般勘定 に関す る一層 の情報 開示 (
経理 ・運用 の明確 化) や配 当 の
自由化 も遅 れてお り、 その早期実施が求 め られてい る。
(
4) 株式市場 の特徴
多 くの論者 は、 日本 の株式市場 は、欧米 の市場 と比べ て以 下 の よ うな欠 陥 を もって
いる と指摘 している。
(
∋ 選択 の幅が狭 い。
(
∋ 取引 コス トが高 い。
(
参 リス クとリター ンの関係 が不 明瞭である。
④
市場 の運営 ルールが不透明である。
⑤
流動性 が低 い。
この うち② の取引 コス トについては、有価証券取引税 の存在 や販 売委託 手 数料 が高
水準 にあったことが作用 してい る。 ③ の リス クとリター ンの関係 につ い て は、 これ ま
Ham
での 「
資本資産市場価格付 け理論」 や 「
裁定価格理論」な どに基づ く実証研究 (
1
990)、Sakaki
bar
ae
tal(
1
988)) の示す ところでは、 日本 とアメ リカで大 き
ao (
l
l
な差異 はない ようである。 ⑤ の流動性 は、マ クロ的な流動性 と ミクロ的 な流動性 に分
け られる。 1
987年 1
0月の株価暴落 の時 に売 りたいのに買手がつ か ない銘柄 が多数存在
したことは、マ クロ的流動性欠如 の例 である。 この々 クロ的流動性 の不足 は、 他 の欧
米市場 で も発生 してい るが、現実 に活発 に取引 されている銘柄 が 限 られてい る こ と。
(
1
5
0-200銘柄) は、(
丑の選択 の幅が狭 い こ ととも対 応 してい る。 ミクロ的 な流動性
とは、十分 な数の売 り買 いの指値注文が比較的狭 いスプ レッ ドに集 中 してい る こ とを
「
取 引所正会 員 の注文
指す。 日本 では、株式市場 における競争売買 は, ザ ラバ方式 」(
を呼 び値別 に注文控 に記入 し、条件 の一致 した ものにつ い てそ の都 度 契約 が締結 され
る方式) を とってお り、 アメ リカにおけるようなマーケ ッ ト ・メー カー は存在 してい
ない (
英米 では 「スペ シア リス ト方式 」が とられてお り、マ ー ケ ッ ト ・メー カーが 自
己勘定で売買す る制度 となっている)。取引高 の多 い主要銘柄 については、 日本 の株 式
の ミクロ的 な流動性 が低 い とは必ず しもいえないが、取 引価 格 と均衡 価格 の禿離 や取
引完了時間 を縮小 す る との観点か らすれば、マーケ ッ ト ・メー カーの機 能 を高 め る こ
とが望 ま しい。
これ らの欠陥は、行政当局 による規制 の他 に法人間で株式 の もち合 いが あ る こ と、
株式発行市場が四大証券 に よる寡 占状態 にあること (
注 8)、 固定手数料制度が存 続 し
てい ることと深 く関連 している。 株式 の持 ち合 い
まず、株式 の持 ち合 いは、 1
991
年 に1
70兆円、全株式 (
430兆 再) の約40% を占めて
いる (
高頭 (
1
991年)
)。 この株式持 ち合 いは、新株発行 に際 しての安 定株 主工作 (
発
行会社 が他 の企業 に自社 の株式保有 を依頼す ること) は、 安 定株 主 に増 資株 の一部 を
割 り当てる 「
親引 け」 とも相 まって株式市場 における価 格 形 成 を歪 め る要 因 となって
いる。 さらに浮動株 の少 ない ことは、仕手 グループによる 「グ リー ン ・メイ ル」 (
買
い占め株 の肩代 わ り要求) や不公正取引 を生む基本的背景 となっている。
この株式持 ち合 いは、戦後直後 の財 閥解体後 の時期 と1
960年代 後 半 の資本 自由化 の
時期 に大 き く拡大 した。 さらに、 1
965年 の証券不況時点 に設立 され た共 同証券 、 保有
組合 の株 が放 出 され るに際 して、発行会社 が引 き取 り、 それ を安 定株 主 にはめ込 む こ
とが行 われたことも株式持 ち合 い拡大要 因 となった。
1
970年代 に入′
る と、乗 っ取 り防止 としての持 ち合 いは、高株 価経 営 の手段 と して便
1
2
第 Ⅰ部
3.証 券 市 場
われるようになった。す なわち、企業 は安定株主工作 (
安 定株 主 に浮動株 を買 って も
らうこと) を通 じて高株価 をつ くりだ し、高株価 を背景 として時価発 行増 資す る。 公
募増資 をす る場合 には、払 い込み価格 を市場価格 よ りも低 目に設定拡 大 した上 で安 定
株主 にはめ込む (これ を 「
親引 け」 とい う)。発行時点で これ を行 うと株価操作 になる
ので、上場会社 は証券会社 の助 けを借 りて恒常的に株主安 定工作 を行 うようになった
(
注 9)。
「
親引け」については、公募 の原則 に反す る とい うことで、 自主規制 ルールが強化 さ
れ、 1
9
82年 には原則 として行 わない ことになった。 しか し、公募株 が誰 に割 り当 て ら
れたか公表 されてお らず、実質的 には親引けが行 われてい る可 能性 が強 い。 いず れ に
して も株式価格 のバ ブル化 も、安定株主工作 の下での時価発行 時点 にお け る過大 な価
0)。 もちろん、
格付 け (
企業間での相互補助金供与) が寄与 した ように思 われる (
注1
フアL
ンダメ ンタルか ら乗離 した高株価 をいつ まで も維持 出来 るわけで はないので、株
価 は下落す る。問題 は、その下落 による損失 を誰が負担す るかで あ る。 情報 の欠如 し
た個人投資家 にそのシワ寄 せが行 った可能性 は、投資信託 の収益 率 の低 さを見 る限 り
否定 しに くい。
他方、証券会社が ア ンダー ライター、 ブローカー、 ディー ラー (自己売買) と して
の業務 を兼務出来 ることも株式持 ち合 いを促進 した。証券会社 は, 企 業 が時価発行 し
た株式 を引受 け、法人営業部が他 の企業 に取 り次 ぐとい う二 つの業藤 か ら発行 手数料
と仲介手数料が入 る。 発行手数料 は、現在 2.
9%であるが、浮動株 を吸収 し安定株主 に
はめ込む工作 も行 うので必ず しも高い とは言 えない。
いずれに して も時価発行増資 に際 しての手数料収入が、 株 式持 ち合 い促 進 と損失補
填問題 の裏側 に存在 している。 ここでアンダー ライター業務 とブ ロー カー業務 との利
益相反の問題が存在す ることを見逃 してはな らない。 ブロー カー と しては投 資 家 の利
益 を優先すべ きであるが、 アンダー ライター としては発行 会社 の利益 を優 先 しなけれ
ばならないか らである。 1
9
89年 に 「イ ンサ イダー取引規制」が導入 苧れ、 証券 会社 は
法人部 門を資金調達 (
引受)部門 と資金運用部門に分割 したが、 この 「チャイニーズ ・
営業特金」 においては、資金引受部
ウォール」 が機能 しているか どうか疑問が多 い。 「
門に属す る営業マ ンが、 同時 に法人か ら預 かった資金 を運用 したので、「
チャイニーズ ・
1
3
ウォール」 は存在 しないに等 しか った (
注11
)。
(
5) 固定手数料 と損失補填
証券市場 における固定手数料 は、健全 な資本市場 の機能 を損 な うばか りで な く、 損
失補填 問題 の 1つの原 因 ともなっている。 四大証券 による損失補填 は、 競 争 政策 の観
点 か ら不 当 な利益 による顧客誘引 (
「チ ャーニ ング」
) であ り、不公正取引 (
独 占禁止法
1
9条一般指定 9項) と認定 された。 しか し、本来競争的であ るべ き証券市場 で高額 の
損失補填 を行 えること自体 がおか しい。証券会社 が損失補填 を行 え るため には、 高 い
固定手数料 で超過収益 をあげてい るか、 または小 口投資家 か ら収益 を大 口投 資家 に移
転す るほか に方法 はないはずである。 1
992年 の証券取引法改正 にお い て、 損 失補 填 を
禁止す る (
50条 の 2) との事後 的 な損失補填条項 を加 えたが、 なお基 本 的 な問題 は解
決 してはい ない (
注1
2
)。
(
6) 先物市場 と株価 の不安定性
また、 固定手数料制度 は、先物 と現物 の手数料 の差 を利用 した さや取 り取 引 を拡 大
させ た。 と りわけ外 国証券会社 は、先物 の売買手数料 が低 いため に現物株 式 と先物 指
数 を組 み合 わせ た裁定取引 (
先物指数裁定取引) を活発 に行 った。 先物株価 指 数 と し
ての 日経 イ ンデ ックスは、価格加重方式 で作成 されてい るため に市場 で の価 格操作 の
影響 を受 けやすい。例 えば、1
9
88年 1
2月 に先物指数裁定取引 に誘発 され た先物 買 い は、
99
0年 2月か ら 3月 にか けて は、
現物株式買 い をもた らし、株価 が高騰 した。 また、 1
この さや取 り取引 は、現物 と先物株価 のスパ イラル的な下落 を もた ら した 。 現物 の買
い と先物 の売 りを組み合 わせ た指数裁定取引残高が大 きくなる と、 現物株 価 指 数 と先
物株価指数 の差が縮小 す る。 そ こで、指数裁定取引 の解消が行 われ、 現物 の売 りと先
物買 いが発生す る。 その結果、現物株価指数 と先物株価 指 数 の差 が再 び拡 大 す るはず
であるが、先物売 りが多 く出れば、先物価格 は低下 し、現物 の売 りと先物 買 いが持 続
す ることになる。 その結果、現物株価 は大幅 に下落す る。 この時、 逆 の指 数裁定取 引
(
先物売 り、 コール ・オーブシ ョンの買 い とプ ッ ト ・オーブシ ョンの売 りの組み合わせ)
が行 われていれば、株価 の下落 は もう少 し小 幅 になったか もしれ ないが、 そ う した裁
定 は行 われ なかった。
1
4
第 Ⅰ部
3.証 券 市 場
先物市場 の存在 その ものが株価 の浮動性 を高 めた どうか は、 なお立 ち入 った実証分
析 が必要 であるが、 日経 イ ンデ ックスの作成方法 に問題 が あ った こ とは確 か で あ る よ
9
9
1
年 7月 に この さや取 り取 引 を
うに見 える。 証券取引所 は、大蔵省 の指導 の下で、 1
抑 えるために先物取引 の手数料 ・委託証拠金 を引 き上 げた。 しか し、 手 数料 ・証 拠 金
の引 き上 げに よって先物取引 はシ ンガポールへ と流 出 し、
社債市場 の空洞化 と類 似 した
現象 が生 じてい る。
よ り根本的 な問題 は、先物市場 の取引拡大 は、安定株 主工作 を通 じた株価 コン トロー
ル を困難 にす ることである。 浮動株 の吸収 に よる株価 つ り上 げ は、 現物 の株 を必 要 と
しない先物市場 では通用 しないか らである。 高株価操作 を行 うこ との ない株 式持 ち合
いのメ リッ トは先物市場 の発展 に よって減少 してゆ くことに なろ う。 他 方 、 か りに 自
社株 の売買、保有 を認 め ることにすれば、不必要 な持 ち合 いか な り解消 しよう。 また、
持 ち合 い株 を売却 して 自社株 を買 い、 この 自社株 を自己資 本 の減額 とせ ず 、 準 備 金 に
組 み入 れ るよう会計処理す るこ とにす れば (ドイツ型会計 処 理) 自己資 本 の充 実 に役
立つ ことになる。 銀行 に とっては BIS規制 の達成 もよ り容易 となろ う。
4.銀行行政 と証券行政
(
1) 不良債権 の処理
1
9
9
3
年 3月期末 に都市銀行 な ど2
1
行 が公表 した不 良債権 (6カ月以上 の利払 い延滞債
2
.
7
兆 円であった。 しか し、 この額 には金利減免 を行 っている住 宅専 門金
権)の額 は、 1
融機 関 に対 す る貸付 け (
約 5兆 円)や系列 ノンバ ンクに対 す る貸付 けは含 まれてい ない。
アメ リカの SEC基準 に よれば、連結対象子会社 の分 も含 め るこ と、一部利払いを行 ら
てい る延滞債権 、金利減免 、返済猶予先へ の債権 も含 まれ る。 この SEC基準 に従 っ
2.
7
兆 円の 2-3倍 (
25-3
8兆 円)あ る と推 定 され
て計算 す る と、実際 の不 良債権額 は1
3
0兆 円程度 あるので、 その 3割程度 が不
るO不動産 ・ノンバ ンク ・建設融資総額 は、 1
良債権 とい うことになる。 加 えて、都市銀行 にはアメ リカにお ける商業用不動産 関連 、
レバ レッジ ・バ イアウ ト関連 の不 良債権 が 2-3兆 円ある と言 われ てい る。 さ らに累
積債務 国 に対 す る債権 (
大部分有税 の特定海外債権 引当勘定 の対 象 とな る債 権 ) は、
1
5
都市銀行、長期信用銀行 など1
4行 で1.
2-1.
3兆 円存在 してい る。 また、 銀行 に よる消
費者 ロー ンは近年増加 してお り、 その不良債権 も多重債務 問題 か ら増加傾 向 を示 して
いる。 さらに超過債務が過大であるために経営再建が困難 な銀行 ・信用金庫 1
1
3行庫 の
不 良債権 は 7.
3兆 円、 債務超過額 は 3.
8兆 円程度 あ る とい わ れ て い る (
安 田 -川 本
(
1
9
93年) の推定)。
これに対 して、預金保険機構 (
預金保険料 0.
01
2% :アメ リカは 0.
2%) には5000億
円 (さらに 日本銀行 か ら5
000億 円の借入れが可能 なので これを加 えると 1兆円)、信用
金庫 の相互援助金 は2
000億 円 しか残高がない。預金保険機構 の積立金 は、 本来 6000億
9
92年度 に東洋信金 の解体吸収 と東邦相 互銀行 と伊予銀行 の合
円あったのであ るが、 1
併、 1
993年度 には釜石信用金庫 と大阪府民信用組合 の合併 のために支援金 として 1000
億 円使 われ七いるか らである。
また、 21
行 の債権償却特別勘定引当金 (この うち担保控 除後 の予 定貸倒 額 の50%以
下が無税 で積 み立 て られるが、対象債権 の規定が複雑 で あ り償却証 明取得手続 きは厳
7兆円 しかない (
都市銀行 の場合 1
.
5兆円、法定繰入率 0.
3%の一般貸
格 である) は、 3.
倒引当金 は 1
.
7兆円)。 全国銀行 の有価証券含み益 は22兆円 (日経平均株価 1万9000円
を前提 に した試算)、土地保有 による含み益 は、
都市銀行 だけで 1
0.
7兆円 (
1993年 9月)
ある と言 われてお り、狭義 の自己資本 は 7.
8兆 円ある。 これ らを活用すれば銀行 は自力
1
0-1
2兆円) は可能である。
による不 良債権 の償却 (
例 えば、 この含 み益 を資産再評価 し、準備金 に組み込み、 さ らに この準備 金 を株 式
分割 によ り資本金 に組み込む とすれば償却 は一層容易 となる。
しか し、資産再評価 の うち土地再評価 については、 い くつかの問題 が あ る。 まず第
一 に、評価益 に対す る課税 を行 うのか どうか (
課税が行 われれば再評価 をお こな うメ
リッ トは、 ほ とん ど消失す る)、第二 に、営業用土地 を再評価す ることは、実現 される
ことのない収益 を時価評価す ることなるが、 それはに妥当で あ るのか どうか (
国際基
準 で も土地 については時価主義 を採用す ることを勧 めてはいない)、第三 に、銀行 の場
合 BiS規制 によれば、株式分割 は自己資本 の基本項 目とな らず、 補完 的項 目に分類
され てい るため 自己資本規 制 を大 幅 に緩 和 す る要 因 とは な らない とい った問題 も
ある。
16
第 Ⅰ部
4.銀行行政 と証券行政
(
2) 不良債権 の処理方法
不 良債権 の処理 については以下 の 7つの案が考 え られる。
(
丑 銀行が 自力で有税 の貸倒引当金 によって償却 を行 う。
②
銀行 の発行す る優先株 を公 的機 関が引受 ける (
1
933年 にアメ リカの復興金融公社
が行 った措置でスエーデ ン、 フィンアン ドな どで も実施)。
ー
③
買上 げ機 関に持 ち込 まれた不動産 を担保 に した政府保 証付 債券 を発行 し、 公 的
金融機 関 (
郵便貯金 ・簡保資金) や民 間機 関投資家が これ を保有 す る。 また公 的機 関
が買上 げ機 関に直接融資す る (
安 田-川本提案)。
④
整理信託公社 が、経営改善が見込めない金融機 関 を業務停止 とし、倒産 させ る。
信託公社が管財人 となって債権 を売却 し、売れ残 った不 良債権 を買上 げる (
1
989年 にア
メ リカの整理信託公社 が行 った措置)。
⑤
買上 げ機 関に持 ち込 まれた不良債権 に大幅 な無税 の償 却 を認 め る (
安 田 -川本
提案)。
⑥
不 良債権 を証券化 し、
市場 で売却す る。
⑦
新出発会計 を採用す る (
1
982年 にアメ リカの
呂危機 に陥っ
た S&Lに認 めた不動産の再評価)。
① が最 も望 ましい方法であるが、現実 に日本で とられた措置 は、買上 げ資金 につ いて
は公 的資金の導入 は行 わず に金融機 関が 自力で資金 を集め、 1993年 1月 に不 良不動 産
担保債権 の共同債権買取機 関 を設立 したことである。 その際 、 償 却 について超低利 融
資 による金利減免 や債権放棄、資金贈与 について課税 の対象 とせず、債権償却特別勘 定
への無税 による繰 り入れ対象 を広 げることが認 め られた (
注1
2) 。
これ らの措置 の基本的な問題 は、 まず第一 に、情報開示 を回避 した まま納税 者 の負
担 が増大 したことである。 第二 に、 この買上 げ機 関における不 良債権 は、 所有 が変 更
になっただけで塩漬 け状態 にある。不動産が流動化 しない限 りは、 不 良債権 問題 は解
決 しない。
7つの解決方法 の うちで注 目に値す るのは⑦ の 「
新 出発会計 」で あ る。 経 営危機 に
陥 った金融機 関の営業用 の土地 ・建物 の再評価 の差額 を自己資本 に組 み入 れ る こ とを
認 める。 この時、金融機 関は、株主の持 ち分 をいったん整理 し、 保有 してい る純 資産
17
の現在価値 を再計算 し、株主 に払 い戻 しを した上 で、再 び株 主 が 同額 の資金 を新株 の
購入資金 として企業 に支払 った と考 える会計処理 を行 うこ とにな る。 つ ま り法律 の上
では、企業 が更生す ることに準ず る扱 い を受 けることになる。 日本 で は、 商法 に よる
取得原価主義 の適用が厳 しいためにその適用 は不可能 となってい る。
現在 、 日本の銀行が活用 出来 る手法 は、関係会社 に当該不動 産 を売却 し、賃借 す る と
い う 「リースバ ック方式 」である。 この結果不動産 は流動化す る。 この流動化 による資
金 を買上 げ資金 とし、買上 げによって確定 した不 良債権 の損 失 を優 良不動 産 の売却益
と相殺す ることが可能である。 アメ リカのい くつかの銀行 は、 持 ち株 会社 を利用 して
不動産 の リースバ ックを行 い不 良債権 問題 を解決 している。
(
3) 債務 の証券化
第二 に注 目されるのは、債務 の証券化 である。 この証券化 は、 債権 か ら離 れ たい者
と債権 を保有す る者 を市場 で不 良債権 の価値 を評価 させ る こ と通 じて分離 させ る とこ
ろに特徴 が ある。
企業 の破 産法 は、 1
9
78年 にアメ リカで見直 しが行 われたが、 そ の中心 的 な論点 は、
企業が破産す る場合 に、企業が保有 している市場価値 の減少 を最小 限 に止 め る ような
仕組み をどうすれば よいか とい うことにあった。 株主 による退 出 と参 入 の決 断 を市場
メカニズム を活用 して行 わせ る とい う発想 は、 中南米 の累積債務 国 の不 良債務 を解消
す るために も活用 されてい る。 債務 の証券化 は、債権 一債務 関係 か らの退 出 一参入 の
決断 を市場 における価格決定 を通 じて行 わせ ようとい うものである。
現在 日本 では、信託方式 による銀行 の貸 出債権流動化が行 われ てい る。 これ は銀行
が生保 ・
損保 な どに額面価格以下で債権 を売却 し、信託銀行 が受益権証券 を小 口化 して
年金基金、機 関投資家 に販売す る ものである。債権 が債務不履 行 とな った場合 には、
生保 ・
・・保 が債権 を買 い戻 す とい う条件 がづいている。不 良債権 について もこの手法 を
応用す るこ とは理論的 には可能であるが、不動産貸付 けにつ い て は信 託方式 に よる証
券化 が認 め られていない。
加 えて、不動産の証券化 が成功 す るためには、プロパティ ・インプルーブメン トによっ
て賃貸料収入が確実 に入 って くることが必要 である。 しか もそ の証券 の収益 率 が市場
1
8
第 Ⅰ部
4.銀行行政 と証券行政
利子率 に近い ものであること、ない しは証券保有 によるキャピタル ・ゲイ ンに対 す る税
制上の優遇措置が必要 である。 さらに、証券 の評価 を行 う格付機 関の存在 が必 要 であ
る。
(
4) 持 ち合 いの解消 と持 ち株会社
最後 に、今 回の不動産融資 の失敗 を繰 り返 さないためには、 金融子 会社 に対 す る監
視 を強化 し、全体 としての リスク管理や事業のポー トフ ォ リオ ・ミックス を強化 す る
必要がある。金融持 ち株会社 の設立 は、 グループ としての監視 を可 能 に し、 金融 サ ー
4)。 日本では専業持 ち株 会
ビスの総合化 に対応 しやすい とい う点で検討 に値す る (
注1
社 は禁止 、
されているが、兼業持 ち株会社 は多数設立 されてい る。 金融持 ち株 会社 の問
題点 は、その株主 の構成 にある。 一般機 関投資家が少 な くとも株 主 の50% を しめ、 企
業活動 を監視 出来 る体制 を整備す る といった工夫が必要で あ ろ う。 さ らに持 ち株 会社
を認 める場合 には、企業間の株式持 ち合 い を禁止す るか、 または投 票権 のつ か ない株
式 のみ持 ち合 い を認 める とい う体制 にすべ きであろ う。 そ して、 金融持 ち株 会社 が、
他 の非金融持 ち株会社 (
多角的持 ち株会社) が、金融持 ち株 会社 を子会社 と して保有
5
)。
で きる形 にす ることによって、非金融業の企業 による参入 を確保すべ きである (
注1
(
5) 公的資金 と経営破綻銀行
最後 に支払 い能力 を失 った銀行 について どの ような処理 を行 うか とい う問題が あ る。
これまで東洋信金 の解体合併方式が取 られて きたが、 これか らも同 じ方式 で解 決 が可
能か どうか疑問である。合併 す る大手銀行 にその資金力 が不足 す る こ とも予想 され る
か らである。 経営破綻銀行 については、早 目にその処理 を進 め る必 要 が あ る。 アメ リ
カと同様 に整理信託会社 を設立 し、当該銀行 の資産 を処分 し、 売 れ残 った不 良資産 を
公 的資金で買い取 ることも必要 になるであろ う。 イギ リス にお け るジ ョンソ ン ・マ セ
イ銀行 に対す る 「
救命艇 」作戦 では、金融 システム崩壊 を回避 す るため に中央銀行 か
らの資金注入が行 われたことも留意すべ きである。
日本の企業 は、株式市場 における情報 開示 は不十分 であ ったが、 メイ ン ・バ ンクを
通 じる監視行動 によ りその弱点 を補 って きた。 しか し、 1
97
0年代 後 半以 降 の大企 業 の
1
9
銀行離 れや企業 の金融 の 自由化 の進展 に よ り銀行 に よる企 業行動 の監視 は不 十分 な も
の となった。他方、銀行 は大蔵省 の監視 の下 にあるが、金融 自由化 の進展 の伴 い そ の
業者行政」 を脱 し、 金融 シス テ ム全
監視機 能 も低下 してい る。 これ までの縦割 り型 「
体 を管理 出来 る新 たな 「
市場志 向型」包括 的監視体 制 の構築 が求 め られ てい る。 大 蔵
省 か ら独立 した 「
金融庁 」は 1つの提案 として注 目に値す る。
(
6) 証 券 行 政
大蔵省 は、 固定手数料 、証券業務 の免許制度 な どに よって既存 の証券 会社 を保 護 す
「
業者行政」
) しか し、 本 来 目指 すべ
るこ とを主 な目的 として証券行政 を行 って きた (
き目的 は 「
投資家 の保護」 にある。証券取引法 が存在 していて も、 不公 正 な取 引 や イ
ンサ イ ダー取引、株価操作 もひんぽんに行 われて きた。 また、 銀行 と証 券 会社 の業務
分野 の争 い によって、証券 であ りなが ら証券 として個 人投 資 家 が保 有 で きない証 券 も
い くつか存在 してい る。
もちろん、行政当局 は、証券会社 を保護す るばか りでな く、 通達 な どを通 じて、 証
券会社 に対 して以下 の ような制約 を加 えている。
(
ヨ フ ァイナ ンス銘柄 を自己勘定 で購入す るこ とを禁止す る
②
自己勘定取引 においてカラ売 りか ら入 ってはいけない
③
店舗 の規制
④
店頭市場 における成行 き注文 (
値段 を きめずその場 で買 い指 示 をす る こ と) も
禁止 されてい る。
日本 の株式市場 における ミクロ的 な流動性 を高 め るため には、 空売 り制 限 を緩和 し
た り、店頭市場 での成行 き注文 を解禁す ることが望 ま しい。
しか し、 よ り問題が多 いのは、大蔵省 の金融機 関決算 の会計 原則 に対 す る介 入 で あ
る。 従来、大蔵省 は、金融機 関が保有す る国債 や株式 の時価 が原価 を割 り込 んだ場 合
980年
には、帳簿価格 を時価 まで引 き下 げ る 「
低価法 」を義務 ず けて きた。 しか し、 1
3月期 には国債 の評価 を 「原価法 ・
低価法選択制 」に変更 した。 この時、資金運用部 を
通 じる買 い戻 し付 き国債買 いオペ レーシ ョンに よって事実上損失補填が行 われ た とい っ
988年 3月期 には金融機 関の特定金銭信託 に関す る簿価 での引 き取 り(
現引 き)
て よい。 1
2
0
第 Ⅰ部
4,銀行行政 と証券行政
を認 め、特金 ・フ ァン トラの決算- の低価法適用 を一年 間延期 した。 1
992年 8月 には
総合経済対策 で株式評価損 を計上せず 1
993年 3月期 まで先送 りす る こ とに した。 いず
れの場合 も金融機 関の益 出 し行動 を規制す ることを目的 と してい たが、 この会計原則
変更 の結果、会計情報 の公表 による経営 に関す る監視機 能 が働 かず 、 行 政 当局 と金融
機 関の持 たれ合 い を通 じる リスク管理 の不徹底 とい う問題 を引 き起 こ した。
987年 の NTT株 発 行 にお い
さらに市場 に対 す る政府 の介入 も多 くの問題があ る。 1
て大蔵省 は、証券会社 にNTT株 が売 り越 しにな らない よ う、 機 関投 資家 には NTT
を通 じて一定株数 を購入す ることを要請 した。 この結果、 NTT株 を市場価 格 を上 回
る高値 で販売 した ことは、 その意図 は どうあれ、明 らか に市 場 にお け る株価 操作 で あ
る。 投資家 に対 して公正 なルールで取引 を行 った とは言 えず 、 市 場 の機 能 を阻害 す る
ものであった。
さらに1
9
93年度予算 において簡易生命保 険、郵便 貯 金 、 公 的年 金 で 2.
8兆 円 の株 式
993年 4月 の総合経
組み入れ制限のない単独運用指定金銭信託 の設定 を認 めてお り、 1
済対策 において も公 的資金 の株式運用枠 を拡大 した。確 か に、 金融 システム に危機 が
発生 している場合 に、株式市場 において株価下支 え介入 を行 うこ とは意義 が あ り、 長
期 的 には銀行が純資産銀行- と変貌 を遂 げた場合 には、株 式 市場 にお いて公 開市場操
作 が必要不可欠 な政策手段 なる事態 も予想 しえる。 ただ し、 株 式市 場 にお け る PKO
活動 は、短期 には有用 な ものである として もその副作用 が大 きい こ とを忘 れては な らな
い。 まず第一 に、介入政策 は、
常 に成功 す る とは限 らない し、失 敗 した場合 、誰 が責任
をとるのか不 明確 である。 第二 に、 PKO活動 を有効 な もの にす るため に先物市場 の発
達 を抑制 した り、先物市場 と直物市場 との裁定取引 につい て も介 入 せ ざる を得 な くな
ることである。
最後 に、証券取引法 を厳格 に運用 し、投資家 を保護す る ため に民事 的救 済制度 を充
実すべ きである。 この 目的 を達成す るには、証券 関係 にお け る私 人 の訴訟手続 きに関
す る行政 の援助 が必要である。 また、 イギ リス, オース トラ リア な どで実施 され てい
る 「
金融 オ ンブズマ ン」制度 の導入 によって、金融商品情 報 の不 完全 性 に関す る紛 争
を解決すべ きである。
2
1
5.結
び
日本 においては、従来か ら業者 の利益保護 を中心 とした規 制 や縦割 り型 の 「業者行
政」 が行 われて きた。 「
業者行政」 は、市場 の 「決済制度 ・信 用秩 序維持 」 とい った
金融サー ビスの公 共財 的 な側面 に着 目す る 「
市場行政」 - と転換 すべ きで あ る と言 わ
れてい る (
坂野 (
1
993年))。本論 においては、 この市場 か ら出発 す る考 え方 (
「
市場
アプローチ」) とはやや視点 を異 にす る金融サー ビスの利用者 か ら見 た 「エ ン ド・ユ ー
ザ ー ・アプローチ」 の重要性 を強調 した。 もちろんこの 「エ ン ド ・ユーザー ・アプロー
チ」 は、 「
市場 アプローチ」 と矛盾す る ものではな く、相互 に補 完 的 な役 割 を呆 すべ
きである と考 え られ る。 しか し、 これ まで 日本ではエ ン ド ・ユ ーザ ーの利益 は余 りに
軽視 されて きたのではなかろ うか。 日本の金融市場 や金融制度 について、い まだ真 にエ
ン ド ・ユーザ ーの立場 に立 った改革 は行 われていない。金融 の国際化 、 証券化 、 金融
サー ビスの総合化 の進展 に よって銀行 と証券 の区別や資 本市場 と貨 幣市場 の区別 も余
り意味 のない ものになっている。 さらに金融業 の競争 を真 に確 保 す るため には、 非金
融業 の企業 に よ り自由な参入 を可能 にすべ きである。 これ までの金融 に関す る規 制 や
行政 は、業者 ごとの縦割 り型 であったが、 これ をエ ン ド ・ユ ーザ ーの立場 を基礎 とす
る横 断型 に改 める必要がある。他方、エ ン ド ・ユーザ ーの側 も、 自己責任原則 を明確
に した上 で金融 自由化 の メ リ ッ トを享 受 す る との認 識 を新 た にす る こ とが重 要 で
ある。
〔注 〕
(1) 投資家 は、扱 われている有価証券が証券 として認定 されない場合 には、投資家保護が受 け られ
ない。例 えば、住宅抵 当信託 や銀行 ロー ン債権 は、証券化 されているが、銀行 のみが扱 える金融
商 品 とされ たため に投 資 家 は、証券取引法 で規定 され た投 資 家保 護 を受 け る こ とが 出来 ない
(
Kanda(
1
9
9
3
)
)。
(2)
A 「エ ン ド ・ユーザ ー ・アプローチ」の名称 は、 ゴー ラン ド(
1
9
9
0年)に基づ くものである。
(3) ただ し、 1つのぬけ道がある それは、救済合併 に限って銀行 と証券 の相互買収 を認 めたこ と
。
である。 買収 された銀行系証券子会社 は当然流通市場 で株式 を扱 うことになる。
(4)大蔵省 と郵政省 との合意 では、期 間 3年以上の定額貯金 の金利 を1
0年物 国債金利 と 3年物定期
預金金利 か ら算 出す る指標金利 を目安 に郵政省が金利 を決定す る。逆 イール ドの場合 は、 長期 の
22
第 Ⅰ部
5.結
び
国債金利 を重視す る とされてい る。
(5) しか し、その場合留意すべ きことは、
財投債 の金利 がい くらになるかであ ろ う。 国 が政 府保 証
債 で資金 を集 める場合 と郵便貯金 で集 め、
財投基準金利 で運用 す る場合 とを比 べ る と、国債 を基 準
に レー トが決定 されてい る財投基準金利 の方が低 くなってい る。
(6) 投資信託 は、小 口の資金 を集 め、
株式 や公社債 に投資 し、得 られた収益 を出資 金 な どに応 じて
投資家 に配分す る金融商品である。投資信託 には、
会社型 と契約型 が あ り、 日本 には契約型 しか存
在 していない。会社型 は、欧米 の ミューチ ュアル ・フ ァン ドや イ ンベ ス トメ ン ト ・トラス トな どに
代 表 される ものであ り、投資家 は証券投資 を行 うことを目的 として設立 され た会社 の株 式 を購 入
す る。契約型 の投資信託 は、
投資信託 に投資す る受益者、信託財産 の運用 を担 当す る投 資信 託委 託
会社 、委託者 の指 図 に従 って信託財産 を管理す る信託銀行 の三者 の契約 によって構成 され る。
(7) まず、国債 について も流通市場 が十分 に発達 していない ことであ る。 国債 を中心 とした利 回 り
形成 が行 われるためには、満期期 間に応 じて基準 となる利 回 りを もつ国債が必 要 で あ る。 また、
債券貸借市場 が未発達 であ り、決済方法 と・
して受渡 しに代 えて近代 的 な集 中決 済 シス テ ム の確 立
が必要 である。
(8) 1
9
65年以降、証券業 に新規参入 した企業 は例外 的である。例外 の 1つ は、西部 セゾ ングルー プ
(
新西洋証券) である。
(9) 1
9
7
2年 に共 同飼料 は、時価発行増資 に際 して 自社株 を買 い、安定株主 にははめ込 み、株価操 作
(
証券取引法 1
25条違反) として摘発 された。 しか し、安定株 主工作 自体 が、 発 行 会社 と証 券 会社
が株価 を引 き上 げる工作 を行 うこ とであるか ら、外 国投資家か らみれば、 イ/
/サ イ ダー取 引 、 株
価操作 である。
(
1
0
) 新株発行時点 における株価 のアノマ リーについては、岩 田 (
1
993年) を参照 されたい。
(
ll
) さらに自己売買 を行 うディー ラー業務 (
証券会社 の利益優先) とブローカー業務 (
顧客 の利 益
優先) の利益相反 の問題 もある。
(
1
2
) 1
9
91
年 の損失補填 問題 は、国税庁 に よる告発 が引き金 となったが、実 は損失補填額 の余 りの大
きさに驚 いた大蔵省 が証券会社 の倒産 防止 のために顧客 の名前 を公表 し、損 失 補 填 を しな くと も
1
992年)
)。
よい ように した とす る見方 もある (
ゼ レンスキー-ホロウェ イ (
(
1
3
) 銀行が1
0
0億 円の不 良債権 を もち、7
0億 円 しか回収 出来 なか った として も、 今 回 の優 遇 措 置 で
3
0億 円の うち約半分 (
法人実効税率分) は、税負担軽減 となる。 ノ ンバ ンクの債 権 を銀 行 が買 い
取 った場合 も、同 じ扱 いが認 め られた。
(
1
4
) 公正取引委員会 は、野村証券 が野村土地建物 が、事実上持 ち株会社 としての機 能 を果 してい る
7条 を適用 し、野村土地建物 の株主 に 「
野村証券 の承諾 な しに譲 渡 しな い」 と
として独 占禁止法 1
規定 している譲渡制限の特約 を破棄す る よう勧告 した。銀行 について も系 列 不 動 産 会 社 が銀行 の
持 ち株会社 の機能 を果 してい る との見方 もある。 いずれ に して も、 アメ リカや欧州 で認 め られ て
い る持 ち株会社 について、競争政策 の原則 に立 ち戻 って議論す る必要 がある。
23
(
1
5
) 金融 サ ー ビス持 ち株会社 と多角的持 ち株会社 の関係 についての考 え方 は、 アメ リカの 「金融 シ
ステム近代化法案」(
財務省 1
9
9
ユ年 3月) によっている。
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2
4
第 Ⅱ部
第 Ⅱ部
家 計 と金 融
家 計 と 金 融
1. 家計 か らみた銀行の あ り方
(
1) 銀行の役割 と機 能
(
銀行 t
L
は何 か)
銀行 とは何 か。 この間題 に対 しては、法制上 の定義等種 々の観 点 か ら論 じうるが、
ここでは銀行 をひ とつの経済主体 として捉 え、その社会 的機 能 に着 冒 して考 え る こ と
にす る。一般 に、家計 と「
い う貯蓄超過主体 (
黒字主体) と企業等 の投 資超 過 主体 (
赤
字主体) との間に立 って、資金融通 の円滑化 ・効率化 を図 る とい う金融仲介 業務 を営
む機 関の こと金融仲介機 関 とい う。 そ して、 そのなかで も金融仲介業務 とともに預金
(
信用)創造 の源泉 となる要求払預金 を業 として取 り扱 う機 関 (
預金取扱機 関) の こ と
を、 とくに銀行 と呼ぶ。銀行 は、金融仲介サー ビスの専 門的生産者 と して預 金 者 か ら
貯蓄資金 の運用 を委託 されているほか、支払手段 としての預金通貨 の供給主体 として、
また一国の決済機構 の運営主体 として、家計 の生活向上 を金融面 か ら支 える うえで重
要 な役割 を果 た している。
す なわち、銀行 は、 その資産運用 に関す る専 門的能力 に基 づ き、 家計 が資 産 の運用
に際 し直面す る困難 の克服 に要す る費用 を節約す ることを通 じて、 家計 の限 りあ る資
源の効率的配分 を助 けるとい う、社会的機能 を果 た してい るので あ る。 企 業等 の赤字
主体が債務証書 の発行 を通 じて将来所得 による支払 を約束 して、 家計等 の黒字 主体 か
ら現在所得 の提供 を受 けることを一般 に、金融取引 とい う。 家計 が金融取 引 を直接行
う場合 には、家計 自らの手で、金額、期 間、利子率等 の資金運用 ニーズ に丁度見合 っ
た借 り手 を探 し出 さなければな らないのはい うに及 ばず、 あ る一定 の費用 を支払 って
借 り手 の返済能力 や債務履行努力 を分析す ることや、将来所得 が約束通 りに支払 われ
ない可能性 (
信用 リスク) について も自ら負担す ることが求 め られ る。 こ う した困難
あるいは金融取引実行 に要す る取引費用 を、効率的な方法 で解消 あ るい は軽 減 す る こ
2
5
とを狙 い として考案 された社会的組織 が金融仲介機 関であ り、 具体 的 には銀行 、 証券
会社 な どが挙 げ られる。 そ して、金融仲介機 関のなかで もと くに銀行 の場合 には、 預
金 とい う元本 ・利息 の支払 が保証 された、安全 、確実 な資産 を家計 に提 供 す る とい う
かたちで、家計 の直面す る金融取引上 の困難 を解消す る とともに、 確 実 な貯 蓄手段 を
家計 に供給 す る とい う機能 を果 た してい るのである。
また、 当座預金、普通預金等 の銀行 が供給す る流動性 の高い預金 (
要求払預金) は、
現金通貨 との等価交換 が銀行 によ り保証 されていることか ら、 企 業 間 の大 口取 引 や隔
地間の資金決済 に用 い られるな ど、支払決済手段 として重要 な役 割 を果 た してい る。
要求払預金 が通貨 として機能 しうるのは、銀行 に運用 を委 託 した資金 は安全 ・確 実 な
方法 で投資 されている結果、預金 はいつで も現金 として引 き出す こ とが可能 で あ る と
家計 や企業が考 えているか らである。 その意味で、現行 の銀行 制度 は、 個 々 の銀行 に
対 す る預金者 か らの信認 によ り支 え られている。 なお、銀行 の決済機 能 とい うの は、
銀行組織 が全体 としてひ とつのネ ッ トワー クを構成、運営 して は じめて機 能 しうる も
のであ り、 そ うした銀行 に対 す る信認が万が一 に も揺 らげば、 銀行預 金 は決 済手段 と
して機能 しえな くなる とい う点 には留意す る必要があろ う。
この ように銀行 は金融仲介 お よび預金通貨 の供給 とい う公 共 的性格 の強 い業務 を営
んでい るこ とに加 え、不 良債権 の大量発生-銀行取付 の頻発 とい った事 態 に至 れ ば国
民経済や家計生活 に悪影響 が及ぶ ことか ら、資産 の運用 に際 しては、 私 的企 業体 と し
ての収益性 の追求のほか、公共性 や安全性 が経営 の原則 として求め られることにな る。
す なわち、銀行 は、家計 や企業 に対 し適切 な貯蓄手段 を提供 す る とともに、 安全 ・確
実 な資産運用 に努 める必要がある。 また、銀行 は、預金者 か らの支払 要請 に応 じて、
いつで も額面通 りに預金 を返済で きる支払能力 と流動性 を維持 す る必 要 が あ るの はい
うまで もない。 そのために も銀行 に対 しては、運用資産 の健全性確保 を狙 い と した収
益 ・リス ク管理 の厳格化、 自己資本の充実が求め られることになるのである。
(
政府 による監督 ・規制 の根拠)
この ように銀行 は、金融仲介 と預金通貨 の供給 とい う 2つ の異 なった業務 を同時 に
営 んでいるが、 その こと自体 、内在 的 に矛盾 した側面 を有 してい る点 には留 意 す る必
2
6
第 Ⅱ部
1.家計 か らみた銀行のあり方
要がある。 銀行取付 の発生が示す ように、預金者が一斉 に預 金 を引 き下 ろせ ば、 銀行
は支払不能 -倒産 とい う事態 に追 い込 まれるな ど、現行 の銀行 シス テ ム は直 ち に成立
しえな くなるのである。 とい うの も、銀行 は、資産運用 に伴 う各種 の リス クを負 担 す
ることによ り預金者 に対 し預金 と現金 との完全交換 を保証 す る一 方 で、 預 金 の大部分
を高利 回 りの非流動資産 に投資 し、支払準備 としての現金 につ い て は一定比率 の限 ら
れた金額 しか手元 に留保 していないか らである。
こうした内在 的不安定性 に もかかわ らず、現行 の銀行 シス テ ムが 円滑 に機 能 してい
るのは、家計等個 々の預金者が銀行 を信頼 した うえで安心 して取 引 を行 ってい るか ら
である。 そ して、取引先企業の大型倒産発生 に伴 い銀行 の資 産 内容 が大 き く悪化 す る
とか、 「あの銀行 は危 ない」といった噂話 によ り預金者 の信頼 が大 きく揺 らぐと、銀行
取付 が発生す ることになる。銀行 システムの崩壊 は、銀行 に よる金融仲介機 能 の 中断
だけでな く、銀行 が組織全体 として提供 してい る支払 ・決 済 シス テ ムや リス ク ・シ ェ
ア リング機構 の機能低下 を意味 し、 その結果、設備投資活動 の停 滞等 を通 じて実体 経
済活動 に悪影響 を及 ぼす ことになる。 換言す る と、銀行 システ ムの安 定性 は、 国民経
済が健全 な発展 ・成長 を遂 げるうえで欠 くことの出来 ない大 きな条件 で あ る とい え よ
う
。
このため、銀行 システムの安定性 あるいは信用秩序 の維持 が経 済 政 策上 の問題 とな
る とともに、信用秩序 の維持 を狙 い とした公 的当局 に よる介 入 -銀行 に対 す る監督 ・
規制が実施 されることになる。 わが国 をは じめ として各 国 にお い て は銀行 組織 の効 率
化政策 とともに、銀行監督 ・規制 あるいはブルーデ ンズ政策 と称 され る、 各種 の施 策
が公 的当局 によ り講 じられているが、 そ うした措置 は、 この ような銀行 業務 の国民経
済的側面 に着 目 した もの と考 え られる。
(
望 ま しい銀行規制のあ り方)
もっ とも、銀行 システムの安定性 を確保す るうえで最 も重要 なの は、 銀行 が 自 らの
責任 において健全 な行動 をとる とい う 「自己責任 の原則 」 である 。 そ して、 そ う した
民 間銀行 ベースでの対応が不十分 に しか機能 しえない ときには じめ て、 それ らを補 完
す る もの として公 的当局 による監督 ・規制が必要 になるとい え よ う。 す なわ ち、 銀行
27
間の競争 を促 し、経済効率 の向上 を図 る一方で、銀行 シス テ ム に対 す る信認 を確保 ・
維持 して行 くためには、 なによ りも個 々の銀行 が 自己責任 の原則 に基 づ く節度 あ る経
営 を行 い、 自己資本 の充実、資産内容 の健全性維持、 内部 管理体 制 の充実等 に努 め る
ことが重要 となる。 そ して、 こうした観点か らは、銀行 に対 し、 貸 出先 に対 す る審査
能力 の充実 ・強化 、各種 の リス ク管理体制 の整備 ・拡充等 が求 め られる。
また、,これ と同時 に、預金者 や一般債権者が個 々の銀行 が保 有 す る資産 の リス ク度
をよ り正確 に評価 しうる体制 を整備す る必要がある。 そのため に も、 銀行 の経営 実態
が財務諸表 において適切 に把握 で きるよう会計制度 の整備 や、 銀行 に よる経 営 内容 の
開示 (
デ ィー
_
スクロージャ-) の充実が必要 となる。 デ ィス クロージャーが進めば、個々
の銀行 の資産内容 あるいは経営 内容 の善 し悪 しに関す る預 金者 の判 断 を反映 す るか た
ちで預金金利 が形成 され、 その結果、健全 な銀行 と資産 内容 に問題 のあ る銀行 とで は
預金金利 に格差が生 じることになる。 このため、銀行 が よ り有利 な条件 で資金調達 を
行 うためには、銀行経営 の健全性 を確保 ・維持す ることが強 く求め られることにな り、
銀行 システムの安定性 あるいは信用秩序 の維持 に も良 い影響 が及 ぶ と考 え られ るか ら
である。
(
2) 金融環境 の変化 と銀行経営
(
預金金利 自由化 の進展状況)
近年 における預 金 金利 自由化措 置 の推 移 は、 昭和 60年 3月 の市場 金利 連動型預 金
(
MMC)の導入 によ り始 まった。 MMCの最低預入金額 は当初 、銀行経営へ の影響 を
,
000万 円 と高 めに設定 され てい た。
なるべ く小 幅 な ものに止 めることを狙 い として、 5
その後 、 MMCの最低頭入金額 は段 階的 に引 き下 げ られて きたが、 後 で述べ る大 ロ定
期預金 の最低預入金額 の引 き下 げに伴 い、大 ロ定期預金 に吸収 され るか たちで平 成元
年1
0月か らは新規取扱 いが中止 された。 この間、昭和 6
0年 1
0月 には金額 10億 円以上 の
大 ロ定期預金 の金利 が 自由化 され、 その後、 MMCと同様 に最低頭 入金額 が段 階的 に
,
000万 円以上 の大 ロ定期預金 については金利 が完全 に 自由
引 き下 げ られ、現在 では、 1
1月 には預 入金額 300万 円以 上 の 自由金利 商 品 と して
化 されている。 また、平成 3年 1
28
第 Ⅱ部
1.家計か らみた銀行のあり方
「スーパー定期」 が登場 し、 これによって300万円以上 の定期預 金 につ いて は預 金金利
の自由化 が実現 している。
一方、小 口の定期預金金利 の自由化 については、大 口預 金 に次 いで漸進 的 に進 め る
とい う方針 に沿 って、平成元年 6月、完全 自由化 までの過 渡 的商 品 と して小 口MMC
(
最低預入単位 300万円) が導入 された。 この小 口MMCの最低預 入単位 も数度 に亙 っ
て引 き下 げ られ、平成 3年 4月以降 は50万 円 となっている。 そ して、 平成 5年 6月以
降、すべ ての金額 階層 において定期預 金金利 が完全 に 自由化 され、 これ に伴 い小 口
MMCは同月をもって廃止 された。 また、当座預金 を除 く流動性預金金利 について も、
金利 自由化 の定着状況 を見極 めつつ、遅 くとも平成 6年 中 には金利 の完全 自由化 を図
る とい う自由化 スケジュールが大蔵省 よ.
り公表 されている。 この流動性預 金 の金利 自
由化措置 の第 1段 として、平成 4年 6月には新型貯蓄預金 が導入 され、 さ らに 5年 に
はスイ ングサー ビスの付与、最低預入残高制限の緩和 とい った商 品内容 の 自由化 が行
われることになっている。
(
金融 の 自由化 と銀行経営)
次 に、 こうした預金金利 の 自由化 が銀行経営 にどの ような影響 を及 ぼ しつつ あ るの
かについて考 えることに しよう。 預金金利 の 自由化が銀行経営 に影響 を及 ぼす経 路 と
しては、①利鞘の縮小 に伴 う収益性 の悪化、(
彰自由金利 調達比率 の上昇 を背景 とす る
収益変動性 の増大、 の 2つが指摘 しうる。 実際、銀行 の利鞘 を昭和 50年代 のそ れ と比
較す る と、かな りの縮小 を余儀 な くされているほか、銀行 の仝 資金調達 に占め る 自由
金利商品の比重 も最近では約 6割 に も達す るなど、金利 の 自由化 に伴 い、 銀行 経 営 は
中長期 的にみて厳 しい状況が続 くもの と見込 まれる。 この ような経営環境 の構 造 的変
化へ の対処方法 として、銀行 では、 ALM等 による金利 リス クの肌 理細 か な管理 、 資
金調達利率上昇分 の貸 出金利への転嫁 、お よび経費の削減 に よる調達利 率上昇分 の吸
収、 に努 めている。
とりわけ、昭和 60
年1
0月以降の大 口定期預金金利 の段 階的 自由化 が銀行経営 に及 ぼ
した影響 については、次 の ようにまとめるこ七が出来 よう。 す なわち、 銀行 で は都 市
銀行 を中心 として金利 自由化 の下での資金運用力 の強化 を標模 しつつ、 中小企 業 向 け
29
貸 出や長期貸 出 を積極 的 に推進 し、運用利 回 りの引 き上 げあ るい は利 鞘 の確 保 に努 め
て きた。実際、都市銀行 の総貸 出 に占める中小企業向け貸 出比率 をみ る と、 昭和 60年
頃 までは50%程度 であったのが、 その後急上昇 し、平成元年以 降 は ほぼ70% の水 準 を
維持 してい る。一方、都市銀行 の長期貸 出比率 の推移 をみ る と、 同 じ く平 成元 年 頃 の
35%か ら急騰 を続 け、現在 では総貸 出の55% を占め るまでに至 って い る。 この うち中
小企業向け貸 出の拡大 は、 これ まで都市銀行等大手銀行 の主 た る借 り手 で あ った製造
業 を中心 と して、大手有力企業 が株 高局面 の中で資金調達 市場 を資 本市場 へ と転換 す
る とい う 「
銀行離 れ」 へ の対応措置 とい った側面 も伴 っていた。 また、 そ う した貸 出
の多 くが、折 りか らの地価上昇 を背景 として、不動産 ・ノ ンバ ンク向 け融 資等 の不 動
産関連融資 で占め られ る、 あるい は貸 出増加額 のかな りの部分 が特 定 の業種 に集 中す
るな ど、銀行 の信用 リス クに対 す る認識 が不十分 であった点 は否定 しえない。
この間、 ノンバ ンクに よる資金調達 は、 そのほ とん どが銀行借 入 に依 存 してい る と
い って も過言 ではない状況 にあ り、 それが また、貸 し手 と して借 り手 の行 動 を監視 し
なければな らない銀行 の リス ク意識 の後退 と相 まって、過剰 な まで の不 動 産 関連 融 資
の拡大 を招 いた一因 を形成 した と考 え られる。 平成 5年 7月か ら認 め られ た ノ ンバ ン
クに よる CP発行 は、資本市場 に よる監視 とい う市場 か らの規律 づ け を通 じて、 ノ ン
バ ンクに対 し節度 ある経営 を促 す と考 え られ ることか ら、 この よ うな事 態改 善 の ため
の一方策 と して評価 しえ よう。
(
不 良債権 問題発生 の原 因 と解決 の方向)
こう した銀行 における リス ク意識 の後退 は、利鞘 の縮小 とい う金利 自由化 に伴 うマ
イナス効果 を、不動産関連融資 を主体 とす る貸 出残高 の量 的拡 大 で埋 め合 わせ る とい
う意識が蒔 く働 いていたこ とを示唆 している。実際、 昭和 61年 か ら62年 にか けての銀
行貸 出増加額 の過半 は、建設 ・不動 産お よび ノンバ ンク向け貸 出で 占 め られ てお り、
その結果、銀行 の経営体 質 は地価 の動 向 に左右 されやす くな った とい う意 味 で脆 弱化
した と考 え られ る。 この間、都市銀行等 においては、地価 が急騰 をみ た昭和 60年度 か
ら62年度 にかけては、不動産 関連融資 の伸長 な どか ら預 金金利 の 自由化 に もかか わ ら
ず、 かつ てない高収益 を享受 したが、 これが また、借 り手企 業 に対 す る審査 や与信 管
3
0
第 Ⅱ部
1.家計 か らみた銀行の あり方
理 を後退 させ る方向で作用 した点 は見逃せ ない。
しか しなが ら、平成 2年度以降の資産価格 の下落 に伴 い、 不動 産 関連企 業 を中心 に
倒産が大幅 に増大す るな ど、不動産関連融資 に潜 んでいた信用 リス クが顕 現 し、 銀行
収益 お よびその資産内容 は悪化 を余儀 な くされることにな った 。 例 えば都 市 銀 行 の平
成 3年度決算 をみ る と、金利低下 に伴 い業務純益 が前年度 比 32% 増 とい う大 幅 な増益
となったに もかかわ らず、経常利益 は貸 出金償却負担 の増 加 か ら前 年度比 1
4%減 の減
益 となった。 また、
L利息 の支払 が 6ヶ月以上滞 った不 良債権残高 は、 都 ・長銀 、 信 託
合計 で平成 4年 9月末現在 、 1
2兆円に も達す るな ど銀行経 営 上 の大 きな重石 とな って
いる。 こうした状況下、都市銀行等 では、巨額 の不 良債権 の処理 を現 下 の最 大 の課題
として位置づ ける とともに、その償却促進 を狙 い として、 平成 5年 1月 には銀行 等 か
ら不動産担保債権 を買 い取 る 「共同債権買取機構」 を設立 し、 不 良債 権償 却 制 度 の整
備 ・拡充 を図 るな ど、資産内容 の改善 と経営 の安定イヒに向けて努力 してい る。
いずれに して も、 これ らの出来事 は、業容 の拡大が重視 され る一方 で、 審査 ・与信
管理が なお ざ りにされて きたことを反映 した ものである とい う点 は否 めず 、 金 融仲 介
における信用 リス ク管理 の重要性 を端 的 に示す もの と考 え られ る。 この ような リス ク
管理 の重要性 を改 めて認識 させ られることになった銀行界 で は現在 、 与信 先 の経 営 内
容 や返済能力 を十分審査 した うえで貸 出の適否 を判断 した り」 担保 評価 の厳 正化 を図
るな ど、社会 か ら付託 された金融仲介サー ビスの生産者 と しての本 来 あ るべ き姿 へ と
回帰す る動 きをみせ ている。
(
3) 金融 自由化の家計貯蓄への影響
(
金利 自由化 の意味す る もの)
以上 の ような銀行 の役割 や機能、 お よびわが国におけ る銀行 を取 り巻 く環境 の構 造
変化 を踏 まえた うえで、金融 の 自由化 が家計 の貯蓄 に対 しどの ような影響 を及 ぼ しう
るかについて、家計 の貯蓄動 向 を簡単 に振 り返 った後、検討 す る こ とに しよ う。 表 1
は、貯蓄広報 中央委員会が毎年実施 している 「
貯蓄 と消費 に関す る世論調査 」 の うち
平成 4年実施分 の調査結果 の概要 を取 りまとめた ものである。 この調査 に よる と、 わ
3
1
(
表 1) わが国の家計貯蓄残 高 と貯蓄資産 内訳 (
平成 4年現在)
(
万 円)
(
a) 貯蓄総額 と種類別貯 蓄保有額
貯蓄総額
全
国
平
均
種 類 別 貯 蓄 保 有 額
(
預
除 く郵貯)
貯 金.郵便貯金
保
険
そ の 他
1,
25
9
49
9
.
1
9
8.
・
31
3
551
(
%)
(
b) 貯蓄資 産 に対 す る選好度合
預 貯 金
2
49
年間
(
税引後)
手取り収入
保
険
そ の 他
(
出所)貯 蓄広報委員会 「
貯 蓄 と消費 に関す る世論調査」
が国 における家計貯蓄残高 は平成 4年現在、 1世帯当た り平均 1,
259万円、税 引後 の年
3倍 とかな りの高水準 にある。 しか も、 その うち約 6割 は、銀行 や郵便局 \
平均収入の 2.
等が提供す る預貯金で運用 されている とい う特徴 を有 している。 また、 約 75% の家計
が、貯蓄の運用 に際 しては、今後 も引 き続 き安全 でかつ流動性 の高 い預貯 金 を重視 す
る としてい る。 この ようにわが国 においては、家計 の貯 蓄 は主 と して銀行 や郵便 局等
の預貯金で運用 されているため、預金金利 の 自由化 は、貯 蓄金利 収 入 に対 す る効 果 な
どを通 じて、家計 の所得 や生活 に少 なか らぬ影響 を及 ぼす ことになる。
こうした家計貯蓄 の大宗 を占める銀行等 の預金金利 の 自由化 が家計 の生活 あ るい は
貯蓄行動 に及 ぼす影響 を論 じる前 に、預金金利 に対 す る金利 規制 が家計 の貯 蓄資 金運
用 に対 しどの ような効果 を有 していたかについて簡単 に振 り返 る こ とに しよう。 す な
わち、預金金利規制 の存在 は、預金金利 を市場 での実勢 ′
よ りも低 い水準 に据 え置 くこ
とによ り、本来家計 が享受 しうる金利収入 の稼得機会 を人為 的 に放棄 させ る一方 、 銀
行 に超過利潤 の獲得機会 を提供す る とい うかたちで、家計 と銀行 との間の所得 分 配 を
歪 める とともに、家計 に対 しては非効率 的 な資源野分 を強 い る こ とになる。 預 金金利
規制 の撤廃 は、市場実勢 に見合 った金利 が預金 に適用 され る こ とを意味す るため、 家
計 はよ り効率的 な資源配分 を達成 しうるな ど、家計 の生活 に対 して はプ ラスの影響 を
3
2
第 Ⅱ部
1. 家計 か らみた銀行の あ り方
与 える もの と期待 される。
この ように預金金利 の 自由化 は家計 の貯蓄行動 や生活 に対 し望 ま しい効 果 を有 して
いるが、金利 が 自由化 された世界 においては預金金利 の水 準 は各 銀行 毎 に異 な りうる
ため、最 も有利 な条件 を呈示 している銀行 を見 つけ出す には、 個 々 の銀行 が呈示 して
いる預金金利 に関す る情報 を収集 ・分析す ることが求め られ るな ど、 家計 自体 もあ る
程度 の コス トを負担 しなければな らない。 さらには、運用 資産 の抱 え る リス ク度 が高
い銀行 ほ ど、市場 か らの資金調達 に際 しては よ り高 い金利水 準 の呈 示 を求 め られ るた
め、家計 が預金取引銀行 を選択す るに当たっては、単 に預 金金利 水 準 の高低 を比 較 す
るだけでな く、個 々の銀行 の資産内容 の健全度 に も留意 の うえ判 断す る こ とが重 要 と
銀行 を見 る眼」を普段 か ら函養 す る よう心掛 け る
なる。 換言すれば、預金者 自身 も 「
ことが求 め られ よう。
(
金融 自由化 に伴 う運用機会 の拡大)
また、金融 の 自由化 の流 れの中で、銀行 が家計 に提供 しうる金融 商 品 の種類 も多様
化 し、家計 に とって利用可能 な金融商品選択 の幅が広が る とともに、 運用 目的 に適 し
た貯蓄商品 を選択 出来 るようにな りつつある。 このほか、 利 息支払 額 が預 金者 の為 替
相場予想 の的中度合 いによ り変動す る外貨預金等 、各種 の金融取 引 を組 み合 わせ た家
計 向けの 「
複合金融商品」 も種 々開発 され るに至 っている。 もっ と も、 貯 蓄手段 の多
様化 が大 きく進 んでいるアメ リカ と比較すれば、 わが国 にお い て家計 が利用 しうる貯
蓄商品は 「品揃 え」 の面 では見劣 りしてい る とい う点 は否定 しえない。 アメ リカでは、
預金商品のほか、住宅 ロー ン等 の貸 出資産 を担保 とす る有価 証券 (
い わ ゆ る資 産担保
証券) を新 たな貯蓄運用資産 として、銀行 が家計 に対 し発行 す る こ とが認 め られ てい
る。 その結果、 アメ リカの家計 は、預金金利 よ りも高い貸 出金利 に近 い水 準 で の貯 蓄
資産 の運用 が可能 となっている。 家計生活 の向上 を図 るための ひ とつ の手段 と して、
わが国 において も今後、 デ ィス クロージャーの充実等体 制 の整備 ・拡 充 を図 った うえ
で、 そ うした金融商品 を開発 ・導入す ることが期待 され よう。
(
求め られる自己責任意識)
この ように金融 自由化 を背景 として貯蓄 を巡 る環境 は大 き く変化 してい るが 、 そ の
3
3
中で 自由化 のメ リッ トを活 か しつつ、安全 、有利 な貯蓄商品 を選択 す るため には、 貯
蓄商品の内容 や一般金融経済情勢 について、個 々の家計 が これ まで以 上 に詳 し く研 究
す ることが求め られる。 多種 ・多様 な貯蓄商品の中か ら自 らの貯 蓄運用 目的 に見合 っ
た商品 を選択す るため には、個 々の商品の内容 ・仕組み の違 い につ い て十分 理解 す る
ことが重要 となるか らである。 また、金利変更の弾力性 が高 まっている状況 の下では、
目先 の金利水準 だけでな く、例 えば 1年後 といった将来の金利 動 向 を も予想 しつつ、
貯蓄商品 を選択す ることの重要性 が高 まっている。 このため、 家計 にお い て も普段 か
ら一般金融経済情勢 に対 す る関心が求 め られる と考 え られるのである。
この間、金融 の 自由化 の流 れの中で新 たに登場 した貯蓄資 産 の なか には、 銀行 が提
供す る ものであって も、外貨預金 の ように預金者 たる家計 が運用 に伴 う各種 の リス ク
を直接負担 す る仕組み になっている商品 も含 まれてい る とい う点 に も留 意 す る必 要 が
ノ
ある。 そ う した金融商品での貯蓄資金 の運用 に際 しては、 (
∋金融 商 品 の内容 を子細 に
検討す る とともに、②不 明 な点 については銀行 か ら説明 を求 め るな ど して個 々の商 品
の収益 ・リスク構造 を十分理解 し、(
彰わが国や海外主要 国 の金融経 済情 勢 の先行 き動
向 を研究 した うえで、行 うことが求め られ よう。 いずれに して も、 これ らの こ とは、
金融 自由化 に伴 うメ リッ トを十分享受す るためには、家計 に対 し貯 蓄運用 に関す る 自
己責任意識 が求 め られるこ とを示唆 している。
(
4) 預金者利益増進のための あ りうべ き方策
(
銀行監督 ・規制 のあ りうべ き方向)
最後 に、金融 の自由化 、家計 による金融資産蓄積残高 の累増 とい う、 新 しい環境 の
下で、預金者 としての家計 の利益 を維持 ・増進 を図 るため の方策 につ い て考 える こ と
に しよう。 先 に指摘 した ように、家計貯蓄 の大宗が銀行等 が提 供 す る預貯 金 商 品 に振
り向け られている とい う事実 を踏 まえる と、銀行経営 の健 全性 を どの ようなか たちで
確保 ・維持 してい くかが重要 な課題 になる。 この課題 を達 成 す るため には、 各種 の規
制 によ り銀行 の資産運用行動 に対 し直接 的な制約を課す よ りも、 個 々 の銀行 が 自己責
任 の原則 に基づいた節度 ある経営 に努 めるよう市場 を通 じて規律 づ け る とい う方策 の
3
4
第 Ⅱ部
1.家計 か らみた銀行の あり方
ほうが望 ま しい。
す なわち、銀行 が 自己責任 の原則 に基づ き節度 ある経営 に遇進 す る よう規律 づ け る
ためには、個 々の銀行 の資産内容 あるいは経営 の善 し悪 しが そ の ままス トレー トに預
金金利形成 ひいては銀行収益 に影響 を及 ぼす制度的枠組み を構 築 し、 資 産 内容 の健全
性維持 を怠 った銀行 は、資金調達 コス トが高 くなるな ど、 市場 にお い てペ ナ ライズ さ
れるメカニズムを確立す る必要がある。 そ して、 そ うした枠 組 みが有効 に機 能 しうる
ためには、不良資産 の償却 ・引当制度 の弾力化 、投資家 や家計 が財務 諸表 か ら個 々 の
銀行 の経営状況 を正確 に判断出来 るよう会計制度 を整備 ・充 実 す る こ とと併 せ て、 不
良債権残高 や有価証券等 の含 み損益 の状況 といった経営情 報 が広 く開示 され るデ ィス
クロージャー体制 の拡充、 といった環境づ くりを積極 的 に推 し進 め る こ とが求 め られ
よう。 この ように銀行 の資産運用態度 を市場 を通 じて規律 づ け る と、 銀行 も自 ら貸 出
先 に対 す る審査 能力 の充実 ・強化 、各種 の リスク管理体 制 の整備 ・拡 充等 を図 る よう
にな り、 その結果、資産内容 の健全性 が維持 される と期待 されるか らである。
(
セー フテ ィ ・ネ ッ トとしての預金保 険のあ り方)
もっ とも、そ うした市場 を通 じる規律づ けだけで銀行経 営 の健全性 が保 証 され る と
はいい難 いの も事実であ り、 ここに市場規律策 の補完措置 として公 的当局 による監督 ・
規制が求 め られる といえよう。 ただ し、 こう した規制 ・監督 も市場 に よる環律 づ け と
同様 に万全 な ものではな く、 モ ラル ・ハザ ー ドの発生 と称 され る ように銀行 経 営 者 の
自己責任意識 の後退 を招 き、本来 カバー され るべ きリス クが カバー されな くなる とか、
銀行 間の競争が阻害 されるおそれが ある といった負 の効 果 を有 してい る点 に も留 意 す
る必要があるのはい うまで もない。
公 的当局 による銀行監督 ・規制 は、 自己資本比率規制等 銀行経営 上 の裁量性 を保 証
しつつ過度 の リス ク ・ティキ ング行動 を未然 に防止 しよう とす る事 前 的規 制 と、 預 金
保 険等特定の銀行 に生 じた問題 が銀行 システム全体へ と波 及 す るの を防止 しよ う とす
る事後 的な措置であるセー フテ ィ ・ネ ッ トに大別 される。 ここで留 意 を要 す るの は、
事前的規制、事後 的措置 とい う分類 はあ くまで も便宜 的 な もの に過 ぎない とい う こ と
である。 事後措置が預金 の安全性 あるいは銀行 システムの安 定性 を確 保 ・維持 す る う
3
5
えで十分 な ものである と家計等 の預金者が事前的に判断すれば、事後的な対応策であっ
た として も、銀行取引 に対す る信頼感 を補強す る方向で作用 す る側面 が あ る と考 え ら
れるか らである。
わが国 をは じめ先進主要国において近年導入 された BIS自己資本比 率規制 は、 事
前的規制 の代表的な ものであ り、 自己資本 の強化 を通 じた銀行経営 の健 全性確保 を狙
い とす る ものである。 これに対 し、預金保険 とは一般 に、政府 に よる預 金債務 に対 す
る支払保証 であ り、預金者 に自らの預金債権 の安全性 を確信 させ る こ とを通 じて銀行
取付 の発生 を防止 しようとす るものである。 しか しなが ら、預 金保 険 は、 こ う した プ
ラスの効果 とは裏腹 に、個 々の銀行 の経営状況 に対す る預 金者 の関心 を失 わせ る方 向
で作用 した り、銀行経営者 の自己責任意識 の後退 を招 くとい った問題 を内包 してい る
点 は否定 しえない。 したが って、預金保 険制度 の具体 的運営形態 につい て は、 そ う し
た問題発生 の可能性 に十分留意の うえ、市場 を通 じる銀行 の規律 づ け を阻害 しない よ
うなあ り方 を模索す るなど、慎重 に検討す る必要がある。
(
預金者利益増進 のための具体 的方策)
金融 の 自由化 の進展 を背景 とす る貯蓄商品の多様化、 よ り有利 な条件 での資金運用
機会へのアクセス度合 いの拡大 といった自由化 のメ リッ トを享受す るため には、 先 に
指摘 した ように、個 々の家計が各種貯蓄商品の内容 を十分理解 の うえ、 それぞれの貯
蓄 目的 に応 じて使 い こなす ことが求め られる。 しか しなが ら、 現在 まで の ところ、 す
べての家計 が貯蓄商品の内容 を比較 ・検討す るうえで必要 となる情報 を常 時簡単 に入
手 しうる状況 にある とはいい難 く、 その結果、最 も有利 な貯 蓄運用資 産へ の投 資機 会
を逸 して しまうおそれがある。 こうした事態 の発生 を未然 に防 ぐとともに、 家計 が金
融 の自由化 に伴 う利益 を十分享受 しうるためには、以下 に掲 げるような方策 に基づ き、
多種多様 な貯蓄商品の中か ら貯蓄 目的に適 した商品 をそれぞれの家計 が選択 しうる よ
うな体制 の整備 が求め られ よう。
第 1には、各種貯蓄商品の内容比較 に関す る競争 の促進が挙 げ られる。家計が多種 ・
多様化 した貯蓄商品の中か ら、 自らの貯蓄 目的 に最 も適 した もの を選択 しうるため に
は、個 々の貯蓄商品の仕組み と、 その収益 ・リスク構造 を一覧表等 のか たちで家計 に
3
6
第 Ⅱ部
1.家計 か らみた銀行のあり方
対 し明確 かつわか りやすいかたちで提示す る とい った環境 の整備 が求 め られ るの はい
うまで もない。 そ うした環境整備策 の中で もとくに重要 なの は、 マ ス ・メデ ィア等 を
通 じた貯蓄商品の内容比較 に関す る情報提供 の充実 であろ う。 この情 報提 供 につ い て
は現在 で も個 々の銀行等 が実施 してい るが、家計 の立場 に立 った公 正 な比 較情 報 の提
供促進 を狙 い として、銀行 間あるいは銀行 と他業態 との 間 の貯 蓄 商 品 に関す る比 較広
告 を解禁す る とい った方策 も検討 に催 しよう。
第 2には、 フ ァイナ ンシャル ・プランナーの育成 ・充実 が指摘 しうる。 家計 の貯 蓄
目的 をみ る と、病気等不測 の事態 に備 えて貯 蓄 を行 うとい うのが大宗 を占めてい るが 、
住 宅購入資金、子供 の教育資金、老後 の生活資金 の確保 とい った、 個 々 の家計 に固有
な特定 の 目的達成 のために貯蓄 を行 うとい う側面 も無視 す る こ とは出来 ない 。 後 者 の
ような目的貯蓄 を計画通 りに達成す るため には、家計 にお い て は、 将 来 に亙 る生 涯 生
活設計 (ライフプラ ン) との関連 で貯 蓄計画 を立 て る とともに、 そ う した貯 蓄計 画 に
最 も適 した商品 を選択 す ることが望 ま しい とい える。 しか しなが ら、 生涯 生 活 設計 に
照 らし合 わせ なが ら貯 蓄商品 を選択 す ること自体 、 か な りの専 門的知識 を必 要 とす る
ため、●
個 々の家計 か らみ る と、 そ こには無視 しえない コス ト負 担 が生 じる可 能性 が あ
る。 これ らの コス トを節約す るためには、家計 に対 し貯 蓄形 成 や貯 蓄運用 に関す る専
門的 な助言 を行 うフ ァイナ ンシャル ・プランナーの登場 が求 め られ よう。 そ して、 貯
蓄形成 に関す 為専 門的 ア ドバ イザ ー としての フ ァイナ ンシ ャル ・プ ラ ンナー の育 成 ・
充実策 の実施が求 め られ る。
第 3には、預金者 に とって利便性 の高 い金融制度 とい う観 点 か ら、 金融 制 度 の あ り
方 を検討す ることも求 め られ よう。家計 か らみた場合 、最 も利 便 性 の高 い の は、 ひ と
つの店舗 もしくは窓口で数多 くの貯蓄商品 を同時 に取引 しうる体 制 と考 え られ る。 こ
うした利便性 を家計 に提供 しうる金融制度 としては、 ユ ニバ ーサ ル ・バ ンキ ング制 度
があ りうるが、 それが唯一 の選択肢 とい うわけで はない。 例 えば現行 金融 制 度 の枠 内
であって も、 同一 フロアーの中で銀行 、証券 、生命保 険等 が 間仕 切 な しに窓 口営 業 を
行 うとか、異種金融機 関同士が相互 に取次業務 を行 うとい った方 策 が考 え られ よ う。
現在 、 そ う した営業 窓口の相互 開放 は認 め られてい ないが 、 家計 の利 便性 向上 を図 る
とい う観点か ら、 これ らの方策 について も検討す る必要が ある と思 われ る。 もっ とも、
37
そ う した場合 に も、貯蓄運用資産 の収益 ・リス ク構造 を正 し く評価 しえない家計 が過
大 な リス ク負担 を強 い られた り、運用上 の不利益 を蒙 る こ とが ない よう、 各種 の業務
の間 に適切 なフ ァイアー ・ウォール (
業務 隔壁) を設 け る こ とが求 め られ るの はい う
まで もない。
以上 の ような家計 の貯蓄運用 に関す る体制 の整備 を図 るだ けで な く、 家計 か らみ て
安全 、確実 な運用資産 の開発 ・確保 をどの ように進 めるか とい う問題 につ い て も検 討
す る必要 が あろ う。 この点、先 に述べ たアメ リカの事例 が参考 にな りうる。 す なわち、
アメ リカで は、住 宅 ロー ン、 自動車 ロー ン等銀行 の貸 出資 産 を担 保 とす る資 産担保 証
券 を、銀行 が家計 に対 し貯蓄商品 として販売す ることが認 め られ てい る。 そ の結 果 、
アメ リカの家計 は、預金金利 よ りも高 い貸 出金利 に近 い水 準 で の貯 蓄資 産 の運用 が可
能 となってい る。 家計 の生活 向上 を図 るためのひ とつの手段 と して、 わが 国 にお い て
も今後 、 デ ィス クロージ ャーの充実等 を通 じて預金者 が預 金以外 の貯 蓄商 品 の内包 す
る リス ク度 を正 しく判断 しうる よう環嘆 の整備 を図 る一方 で、 そ う した金融 商 品 の 開
発 ・導入 を検討 す る ことが求 め られ よう。
3
8
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
2. 家計か らみた証券市場改革の方向
(
1) 家計 と証券市場 との関 わ りの増大
本稿 で取 り扱 うのは、家計 と証券市場 との関わ りであ り、 家計 か ら見 た証 券 市 場 の
問題点 とその改革 の方向 を明 らか にす るこ とである。
日本 の家計 と証券市場 との関わ りはかつてないほ ど大 き くな ってい る。 証 券 市 場 が
拡大 し、 その結果 として、証券市場 の経済全体 に与 える影響 は大 き くな ってい るか ら
である。証券投資 な どいっさい行 ってい ない とい う家計 も、 間接 的 に は証券 を保 有 し
/
ている。家計 が預金 を した銀行 や保 険契約 を してい る生命 保 険会社 が証券投 資 を行 っ
ているか らである。 家計 に とっては預金 や保 険で も、 そ の資 金 が運用 され る段 階 で証
券投 資が行 われてい る とい う意味で、 間接 的 に証券保有 してい るの で あ る。 現 に株 価
の下落 に よって、保 険金が下が った り、保 険料 が上が った りとい う影響 を受 けてい る。
株価下落 は、景気 の悪化 とともに金利 の政策 的低下 を誘 ってお り、 そ の結 果 と して預
金金利 も低下す る とい う結果 も出てい る。
証券市場 のあ り方 と証券市場 のパ フォーマ ンスは、家計 にお い て きわめ て重要 な意
味 を持 っているのである。 しか も、 それは資産形成 において だ けで は ない。 株 価 の暴
落が景気悪化 の要 因 と言 われる ように、株式 をは じめ.
とす る証 券 市 場 の あ り様 は、 景
気 とい うルー トを通 して、生活全般 に影響 を及 ぼ し得 るのであ る。 したが って、 日本
経済 にお ける証券市場 の ウェイ トの増大 は、 さまざまな形 で、 日本 の家計 に大 きな影
響 を与 えるようになって きている とい え よう。
80年 (
年末) 金融資産総額 が ようや く年 間所得 を上 回 った 日本 の勤 労 者 世帯 は、 81
年 に5
00万 円、 90年 に1
000万 円、 92年 にはその資産残高 は 1187万 円 に な ってい る。 勤
2年 の 日本 の家計 の金融資産残高 は、 1
5
0
労者世帯 だけではな く全世帯平均 でみれば、 9
0万 円 を超 えてお り、 これは年収 の二倍以上 にあたる。 日本経済 は成長 の結果、 これ だ
けの資産蓄積 を果 た した。証券市場 と家計 との関わ りを論 じる と き、 この事 実 は大 き
な意味 を持 ってい る。 万一 に備 えて何 が なんで も安全 に維持 しなけれ ば な らない、 な
けな しの資金ではな く、 た とえ リス クはあって も利益 の大 きい チ ャ ンス に賭 け る こ と
ので きるゆ とりのある資金 を、家計 は持 てる ようになった とい う こ とを意 味 して い る
3
9
か らである。
家計 と証券市場 との関わ り方 は、 2通 りある。家計が 自分 で株 式 に投 資 す る 「直接
投資」 と、預金 や保険 を経 由 した 「間接投資」 の 2通 りである。以 下 で は まず、 家計
の直接投資 について論 じよう。証券 に もいろいろあるが、家計 の直接投資 においては、
もっ とも重大 な問題が生 じ得 るのは株式投資である。株式投 資 の利 回 りは きわめ て不
確定 であ りそれだけ リス ク も大 きいか らである。 株式市場 のあ り方 は、 家計 の資 産形
成 の リス クを大 きく左右す る。 直接投資 において古
も」株式取引 の仕 組 みや市場 の状 態
が重要 な要素 となって来 るが、 間接投資 においては、 それ だけで は な く機 関投 資 家 の
行動 が家計 の資産形成 に深 く関わって来 る。 間接投資 の問題 と して、 機 関投 資 家 の行
動 を論 じてお く必要がある。
(
2) 家計の株式投資
株式市場 における家計 の動 向 は個 人投資家動向 に読み取 れ る。 個 人投 資 家 の株 式市
場離 れが進 んでいる と言 われるが、事実 は違 う。上場株式 の分 布状 況調査 に よる と、
確 か に、個 人投資家の株式保有 シェアは年々減少 している (
表 1、図 1)
。取引所 が再
開 され?
=1
9
5
0
年 (3月末) には7
0%近 くあった個人のシェアだが、 ほぼ一貫 して減少
1
年 には3
0%を割 り、9
2
年 には?
3・
2%に低下 している。 株 式保 有 や売買 にお け る
し、8
個人株 主 の シェアが減少 しているのは事実であ り、 しば しば報 じられ る通 りで あ る。
法人化 、、
機 関化 が進展す る とい うことは、個人投資家の シ ェアが減少 してい る こ とと
表裏 をな している。
しか し、 この事実 を以 て、個 人が株式市場 か ら離 れている とい うの は、 必 ず しも正
しくない。個 人の金融資産残高 に しめる株式投資 の比率 は必 ず しも減少 して はい ない
か らである。 (
表 2、図 2)
総務庁 「家計貯蓄動 向調査」 による と、個 人の金融資産 に占める株式投資 の割合 は、
戦後 もっ とも古 いデー タが得 られる1
9
5
9
年で2
5%を超 えていた。 ち なみ に、 この年 の
株式市場 での個 人の株式保有 シェアは、4
7.
8%である。 その後株式投資比率 は減少 し、
7
7
年 には最低 の5
.
5%に低下 した。 しか し、84年か ら増加 し始 め、特 に8
6
年以降 は大 き
く上昇 し、 8
9
年々末 には1
7.
8%になっている。 これは、 65年 の証券不 況 の前 の株 式投
4
0
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
表 1 所有者別持株比率 の推移
昭2
4
2
5
2
6
2
7
2
8
2
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0
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3
3
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5
5
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1
6
2
6
3
平1
2
2
.
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.
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0
0
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7
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0
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2
0
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3
0
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.
2
0
.
2
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0.
2
0.
2
0.
2
0.
2
0.
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9
1
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6
1
3
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8
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6
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3
1
6
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7
1
9.
.
5
2
1
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7
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1
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4
2
2
.
4
2
1
.
7
2
3
.
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2
1
.
4
2
1
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5
2
1
.
4
2
1
.
6
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3.
4
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9
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9
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6
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2
1
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4
1
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3
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2
1
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6
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6
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4
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9
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1
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1
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6
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5
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6
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2
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0
0
.
2
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2
0
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2
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8
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.
9
0.
8
0.
7
0.
7
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.
6
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7
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.
9
4
1
.
7
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2
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2
4
2
.
5
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6
1
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1
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0
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1
3
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8
1
.
9
■
1
.
9
2
.
0
2
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2
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5
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0
1
.
7
2
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0
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2
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1
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2
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2
2
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8
2
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2
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2
2
3
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9
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6
2
2
.
4
2
2
.
6
2
3
.
1
5
.
1
6
.
3
6
.
1
5
.
7
4.
7
3
.
6
4.
0
3
.
9
4.
2
-
(
注) 昭和6
0年度以降は、単位数ベース。
(
出所) 「
株式分布状況調査 」全 国証券取引所協議会。
-
図 1 所有音別持株比率の推移
政府 ・
地 方公共 団体
昭25
3
0
3
5
4
0
45
5
0
5
5
(
注) 1.
昭和 6
0年度以降 は、単位数ペース
2.
金融機関は投資信託 を除 く。
6
0平 1 3
年度
(
出所) 『
株式分布状況調査』 全国証券取 引所協議会
資比率 を上 回る大 きさである (
表 2、 図 2)。 しか し、 そ の後 、 バ ブルの崩壊 を受 け
て9
2
年度 には8
.
7%にまで低下 した。
同 じデー タを勤労者世帯 のみ についてみ る と、 5
9
年 には2
8% と全 世帯平均 よ り高 い
株式保有率 である。 これは戟後 の財 閥解体 に よる証券民 主化 運動 が従 業員持株 の推 進
を通 して行 われたためであろ う。 しか し、 その後 、勤労者 世帯 の貯 蓄 に占 め る株 式 の
0
年 には5
.
8%の最低 を記録 した。 その後 8
9
年 には1
3%まで上 昇 し
ウェイ トは低下 し、 8
たが、 9
2年 には再 び6.
1%にまで低下 してい る。
8
0
年代 に上昇 した株式投資比率 は、 9
0年代 になって低下 してい る
。
この デー タが時
0
年代 の投資率 の上昇 が株価 の上昇 に、 9
0年以 降 の低 下 が株 価
価 デー タで あるため、 8
の下落 に多 くを依存 しているのは明かである。 しか しなが ら、図 2に明 らか な ように、
家計貯 蓄 における株式投資比率 は、株価 の上昇下落 とともに変動 しなが ら も、 一 定 の
趨勢 を持 ってい ることが分 か る。 70年代後半 まで低下 して きた株 式 へ の投 資 割合 は、
42
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場 改革 の方 向
表 2 家計貯蓄 に占める証券 ・株式 の投資割合 (
%)
午
有価革券
1
9
5
9
1
9
6
0
1
9
61
1
9
6
2
■
1
9
6
3
1
9
6
4
1
9
6
5
1
9
6
6
1
9
6
7
世
全
株
勤
帯
式
株
(
投信含)
式
有価証券
労
株
者
世
式
帯
株
(
投信含)
式
3
2.
9
3
0.
4
3
4.
5
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8.
8
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6
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6
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1
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1
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5
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6.
2
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0
3
0.
1
25.
7
2
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8
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0
2
8.
3
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2
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27.
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1
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1
1
9.
9
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注 :『
貯蓄動 向調査 報告』 総務庁統計局 よ り
43
図 2 家計貯蓄に占める投資割合
全世帯
-
一一一株式
有価証券
- 一株式 (
投信含)
図 3 家計貯蓄に占める投資割合
勤労者世帯
% 2
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- - 株式 (
投信含)
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へヽ
、
、ヽ
ヽ
、
、ヽ
ヽ
、
ヽ
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
それ以後上昇 に転 じ、90年代株価下落 とともに低下 した ものの趨 勢 と して は、 上昇 の
傾 向 を持 っている と言 えよう。戦後、財 閥解体 を契機 とした家計 の株 式投 資 は、 家計
の 自然 な資産選択 による結果でなかった こともあって、株価上昇 とともに手放 され た。
つ ま り、 日本の家計 は株式 の ような リスク資産 を保有す るほ ど十分 な資産蓄積 をまだ
持 たなかったのである。 しか し資産蓄積が進む とともに、金利 選好 が高 ま り、 多少 の
リスクはあって も利 回 りの良い株式保有 に意欲 を見せて きた。
確 かに、90年 の株価暴落 は、 そ うした家計 にとって、株式投 資 の意欲 を殺 ぐに十分
であった。 また、 あいつ ぐ証券不祥事が株式投資への警戒 を強 め たで あ ろ う。 鳴 り物
入 りで売 り出 され多 くの個人投資家 を呼 び集めなが ら大暴 落 した NTT株 式 の存在 も
株式投資 を忌避 させ るに十分である。
しか し、 よ り長期 的 にみるな らば、家計 における株式投 資 の ウェイ トは高 まるで あ
ろう。資産蓄積 のス ピー ドは所得 の伸 び よ りも大 きく、所得 に対 す る資産 の ウェイ ト
は年々大 きくなっている。 それだけ資産運用 の重要性 は高 まってい る と言 え よ う。加
えて、高齢化社会 の到来 は、資産所得 に頼 る階層 を増加 させ るか ら、 老後 を頼 る資産
を少 しで も大 きくしてお きたい とい う気持 ちか ら、ハイ リス クで もハ イ リター ンの証
券投資、 中で も株式投資志向 を高 めている と考 え られる。 家計 が運用利 回 りに敏感 に
な り、安全性 よ りも利 回 りを重視す るようになって きてい る とい うこ とは、 各種 ア ン
ケー ト調査 などに明かである。株価暴落や不祥事 によって殻 が れ た投 資意欲 が持 ち直
す にはい くらかの時間が必要か も知 れないが、株価 の見通 しさえつ けば、投 資比率 は
再 び上昇す るのではないだろうか。 1
987年 のブラックマ ンデー の際 、 機 関投 資家 が静
観 を決め込 んだに もかかわ らず、割安 と判断 した個人投資家 の買 いが市場 を支 えた。
日本の家計 の中には、 そ うい うしたたかな投資家が育 っている。
株式市場で事件 が生 じると、新 聞雑誌 は投資家の意見 を求める。 そ こで、.
「もう株 式
投資 をやめる」と語 っているのは、一般 のサ ラリーマ ン∴OLや主婦 である。 「
個 人の
株式離れ」 を強調 しようとい う記事 自体 が、株式投資の一般 へ の浸 透 を明 らか に して
いるのである。 株式投資 は、い まや一部 の特殊 な人が行 う特殊 な ものではな くなった。
家計 の貯蓄動向調査 はまた、株式投資 を行 う世帯が増加 してい る こ とを示 してい る。
現在、約 2割 の家計 が株式 を保有 している。個人投資家のシェアは減少 してい・
る が、
4
5
個 人株主数 は確実 に増大 している。特 に8
0
年代後半 の増加 は著 しい。 一 人一 人 は少額
で も数多 くの人たちが株式市場 の一翼 を担 い始 めた と言 えるのか も知 れ ない。 クロス
ワー ドパズル を解 くように株式投資 を楽 しむ資産生活者 の存在 が指摘 され る米 国 ・英
国型 の株式市場 に日本 もようや く近づいて きた と言 えよう。
自分 で銘柄 を選 び自分 で売買 タイ ミングを図 りたい とい う個 人投 資 家 は今後増加 す
ることはあ って も減少 は しないであろ う。少 な くとも、 自分 で直接株 式投 資 を しよう
とす る潜在 的 な株式投資需要 は小 さ くない し、 これか らも基本 的 には増加 して行 くで
あろ うことは間違いない。
(
3) 個 人投資家対策の必要
証券市場 で個人投資家対策が熱心 に論 じられるのは、市場 が低 迷 してい る ときで あ
る。 まさ しく、困 った ときの 「
個 人投資家頼 み」 であ り、 したが って、 喉元過 ぎれ ば
熱 さを忘 れて、相場が良 くなって来 る と個人投資家対策 は閑却 され る。 個 人投 資 家 が
株式市場 に不信感 を持 つの も無理 のない ところである。
証券会社 の商い を離 れた ところで個 人投資家対策が論 じられ る こ ともあ るが、 そ の
目的 は、株価形成 の安定や証券市場 の効率化 のためである。 近年 にお け る株 価 の不安
定性 の増大 は、株式市場 の機 関化 が進 み、株式取引が一方 向 に偏 りが ちで あ る こ とに
起 因 してい る。多数の投資家 に よる判断が戦 わ される厚 み のあ る市場 を形 成 す るため
には、機 関投資家の運用 の自由度 を高 め、投資行動 のバ リエ ー シ ョンを確保 す る よう
な制度改革 と同時 に、個 人投資家層 の拡大 な ど、投資家 の多様化 が 同時 に図 られ る必
要がある、 とい うのである。
しか しなが ら、株価 の安定 や市場 の効率化 のための個 人投 資 家対 策 も、 家計 か らみ
れば勝手 な話 である。 た とえ、 トー タルでみれば、株価形成 の安 定性 や証券市場 の効
率化 は、経済の安定 と効率化 とい う意味で家計 に もプラスの効果 をもた らす として も、
家計 の直接 的なメ リッ トとい う観点がす っぽ り抜 け落 ちているか らである。
家計 に とって重要 なのは、家計 自身のための個 人投資家対策であ り市場対策であ る。
家計 の株式投資 を行 いたい とい う需要 を満 たす環境作 りが必 要 で あ るO これが、 個 人
株主対策 の本当の 目的でな くてはな らない。 その結果 として、株 価 の安 定 や市場 の効
46
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
率化 が図 られる とい うのではな くては、話が逆 であろ う。 個 人 が キ ャ ピタルゲ イ ンあ
るいはよ り高い利 回 りを得 る 「チ ャンス」の提供 を十分 受 けてい るか どうか につ いて
論 じられることは少 ない。機 関投資家や法人投資家が得 て い るの と同 じチ ャ ンス を個
人 に も提供 しようとい う視点 は もっ と重視 されて も良いのではないだろ うか。
個人投資家 に とって株式投 資 は権利 であ り、公正 なルー ルの もとで株 式投 資 を行 うl
権利 を持 っていることを忘 れるべ きではない。 この点 を考慮 す る と、 これ まで の個 人
株主対策 には、微妙 な視点 のずれがあるように思 われる。従来、 個 人株 主対 策 は 「
株
式投資 を もっ と魅力的 に して市場 に個人 を呼 び戻 そ う」とい う視 点 を掩 ってい た よう
に思 う。 しか し、 「
個人 も株 で利益 を得 たい と思 っているのだか ら、 そのチ ャンス を公
平 に提供 しよう」 とい う視点 をとるべ きである。両者 は似 ているが、 しか し、 非 なる
ものである。前者 は、投資家 は (
現状 では)株式投資 に十分 な魅 力 を感 じてい ない と
考 えている。 後者 は、魅力 はあるがチ ャンスが十分 でない、 あ るい は公 平 で ない と考
えている。 「
需要 を喚起 しよう」とい う視点 と 「
需要 に対応 しよう」 とい う視点 は同 じ
ではない。
個人投資家が さまざまなタイプの投資家 によって構成 され てい るに もかか わ らず、
時 によって、個 人投資家 を 「
長期投資家」 と同義 に用 いていることが あ る。 しか し、
個人投資家の多様 さは、機 関投資家や法人投資家 の比 では ない。 個 人投 資 家 の売 買 回
転率 の高 さを忘 れてはな らない。.
ほ とん ど売買 を しない個 人投 資 家 も多 いだ ろ うが、
短期売買 を繰 り返す個 人投資家 も決 して少 な くない。 いず れ に しろ、 平均 的 には個 人
は、最 も売買 の頻度 の高 い投 資家 なのである。 株式投資 は、本 来 、 長期投 資 に適 した
投資対象 であ り、長期投資 をす ることによって株価変動 の リス クのか な りの部分 が相
殺 されるが、 しか し、投資家 の好 みが さまざまであることは許 され るべ きで あ る。 家
計 はそれぞれの資産形成 の 目的や段 階 に応 じて、 また好 み に応 じて、 さまざまな投 資
態度 を とるであろ う。 長期投資 を志 向す る投資家 と短期投、
資 を志 向す る投 資 家 の両方
があって良い。 そ うである とすれば、長期投資 を前提 とした個 人株主対 策 は、 片 手 落
ち とい うことになるか も知 れない。
家計 の資産蓄積 は長期 的視点であ るべ き、 リスクは小 さ くあ るべ き、 とい うの は余
47
計 な干渉である。 また、市場運営 の観点か らも、短期売買 が必 ず しも悪 いわけで はな
い。短期売買 を志向す る個人投資家 も、決算期 やパ フォーマ ンス評価 の拘 束 を受 け な
い とい う意味では、長期投資 の個人投資家 と変 わ りな く、 市場 の流動性 と価格形 成 の
厚 みに貢献 し得 るのである。
00%達成可能であるとすれば、それで個 人投 資
仮 に機 関投資家の多様化 と効率化が1
家対策 の必 要性 は な くなるのだろ うか。 そ うで はあ る まい。 機 関投 資家 に委 託 せず
「自分 で」株式投資 を したい とい う個人が、 それで もいるか らである。 いかに機 関投 資
家の運用が効率的である として も、個人が 自分 で株式市場 に参加 し、 自分 の選 んだ銘
柄、 自分 の選 んだ投資戦略 を `
楽̀ しむ'
'道が (
事実上)狭 め られるのは好 ましくない。
個人が一般 的に情報力 ・資金力 において劣 るのは事実 だが、 そ うであ る とす れ ば なお
の こと、 その劣位が、利益 のチ ャンスの喪失、不 当な損夷 につ なが らない ような環境
が整備 され る必要があろう。条件 の悪い個 人投資家がその条件 の悪 さをカバ ーす る よ
うな枠組みが提供 されなければな らない。 自分 で株式投資 に参加 したい投 資家 には、
適正 なコス トで公正 なサー ビスを受 け られるような方策 を講ず る必要がある。
小 口投資家である個人の コス トが割高 につ くのは事実で あ る。 その点 をカバ ー しよ
うとすれば、市場 としてなん らかの コス トを負担せ ざるを得 ないだろ う。 しか し、 株
式市場 には、 その コス トを負担す るインセ ンテ ィブがある。 「
価格形成の公正 と安定」
「
資本市場育成」 とい うインセ ンテ ィブである。 これ らの 目的 を達成す ることが、株 式
市場 の関係者全体 お よび国民経済的見地か らみて利益 があ る とす れば、 市場全体 と し
て個 人投資家のためにコス トを負担す るイ ンセ ンテ ィブはあると考 えられるので あ る。
(
4) 配当について
個 人投資家対策 とい うと十年一 日の ごとく論 じられるの豆、 配 当政策が ある。 しか
し、個 人が配当 を重視 している とい うの も固定観念 である。各種 のアンケー ト調査 は、
個人投資家が、配当 よ りもキャピタルゲイ ンを重視 してい る こ とを示 してい る。 配 当
を重視す る投資家 もいるだろうが、 キャピタルゲインを重視 す る投 資家 もい る。 キ ャ
ピタルゲイ ンだか らと言 って必ず しも、短期 の ものばか りとは限 らない。長期的なキヤ
4
8
第 Ⅱ部
2.家計からみた証券市場改革の方向
ピタル ゲイ ンを目的 に投資 を行 う個 人投資家 も多 いはずである。 「
投 資家が配当 を重視
「
しないのは配当があ ま りにも低 いか らだ」 配当が大 きければ配当 を重視す るはず で あ
る」との議論がある。 しか し、 この議論 が主張 していることは、 ウェイ トの大 きい も
のには関心が高い とい うことと、配当 とキ ャピタルゲイ ンが代替的である とい うこ と、
に過 ぎない。配当が重要 である との証 明 にはな らない。利益 が配 当 とい う形 で得 られ
るか どうかに、投資家 はそれほ ど大 きなこだわ りを持 たないので は ない だ ろ うか。 配
当が欲 しい とい う投資家 も、配当の低 い ことが投資利益 の多少 に関 わ ってい る と考 え
るか らこそ重要 なのではあるまいか。 おそ らく、投資家 に とって もっ とも重要 なのは、
総利益 の大 きさであろう。 投資家 は倫理家 ではない。市場 の透 明性 も、 証券 会社 の公
正性 も、すべ てはこの点 に関わっているか らこそ問題 なのである。
配当重視 の考 え方 は、株式市場 が流通性 を持 たない昔 の ままの考 え方 に未 だ に引 き
ず られてはいないだろ うか。永久出資証券 であ り、容易 に転 売 で きない とす れ ば株 主
が手 に入 れ られるのは配当だけである。 そ うい う状況 な ら配 当が大 きい ほ ど良 い とい
うことはあろ う。 しか し、完備 された流通市場 を持 つ現代 にお い て は、 現 金 が欲 しけ
ればいつで も転売で きる。定期 的 に所得 が得 たければ、預金 も債 券 もあ る。 株 式 とそ
れ らへの投資 を併せ て行 うことによって、投資家 は、いつで も好 きな 「配 当率 」 を実
現 で きる。 そ うで きるほ どの資産残高 を持 って もい るのである。
配当は確実 だがキ ャピタルゲイ ンは不確実 だか ら配当が望 ま しい、 とい う意見 もあ
る。 しか し、両者 は同 じ時点で比較 しなければな らない。値 上 が り益 を実現 させ ず将
来 に持 ち越す な ら不確実 で当然 だか らである。 株主 は、 配 当が確 定 した 日に株 式 を売
却す ることがで きる。 変動す る ものか ら固定す る もの を除 い て も変動 の大 きさは変 わ
らない。全体 としての収益 の大 きさと変動 は配当のいかんに関わ らず同 じである。
そ もそ も、配当 とキ ャピタルゲイ ンは択一的な関係 であ る。 キ ャ ピタルゲ イ ンは変
わ らない まま配当だけが多 くなるな ら、誰 だって配 当は多 い方 が望 ま しい。 しか し、
配当 を多 くすれば株価 はその分下が る。 配当 として支払 った分 だ け企 業資 産 が減少 す
るか らである。 配当 を多 くすればキ ャピタルゲイ ンが減 るか ら投 資 家 の総収益 は変 わ
らない。配当 をす る とい うことは、企業か ら資金が流 出す る とい うこ とで あ る 。 株 主
の持 ち分 はそれだけ小 さ くなるか ら、株価 はそれ を評価 して低 くな り、 そ の分 、 キ ヤ
49
ピタルゲイ ンは減少 す るのである。
企業 は、資金 を集 め有利 な投資 を行 うための仕組みであ る。 流 通市場 で価 格 が形成
され、企業利益 が株価 に反映 される仕組み になっている今 日で は、 資金調達 を行 い な
が ら配当 を支払 うとい うことは、 まった くの無駄 である。 配 当支払 い には コス トが か
かる。 資金調達 に もコス トがかかる。 株主 は留保 として投 資 され ていれば全 額 自分 の
ものになった利益 を、配当 を受 けることによって、配当支払 い のための経 費 、 資金調
達 のための経費 として第三者 にその一部 を渡す ことになって しま う。 企 業 が行 な う投
資事業 自体 が株主 に とって歓迎すべ きでない非効率 な もの とい うな ら論外 で あ る。 し
か し、 や るべ き投資、調達すべ き資金 の必要があ りなが ら配 当す るの は、 却 って株 主
に とっては損失 で しかない。
配当せず に内部留保 す ることの是非 は、投資機会 との関連 にお い て評価 され るべ き
ことである。 株価 を成長 させ るような (
少 な くとも低下 させ ない ような) 投 資機 会 を
持 つ企業が配当 をす ることは、上述 の理 由か ら株主 に とって損 失 で あ る。 株 価 を維持
で きるような投資機会 を持 たない企業が、配当せず に留保 す ることが問題 なのであ る。
投資機会 との関連 で考 えれば、 日本 の企業 の配当性 向が 国際 的 に低水準 で あ る 辛い
うだけで、企 業 を非難す るのは当た らない とい うことが分 か る。 日本 の企 業 は、 一般
に高 い成長 を実現 し十分 な投資機会 を持 っている。 少 な くとも、 配 当性 向が比較 され
る先進諸 国 との比較 においてはそ うであるノ。 日本企業が他 国 よ り投 資機会 に恵 まれて
いた とい う事実 に鑑 みれば、 日本の配当性 向が低 いのは必 ず しも非合 理 な こ とで はな
い。配当性 向 をか りに1
00%に してみて も、配当利 回 りは、定期預金金利 にはるかに及
ばないに もかかわ らず、有利 な投資機会 を犠牲 に してまで配 当性 向 を高 め よ、 とい う
声 が これほ ど高 いのは、事実 について十分知 らされていないため としか思 えない。
また、配 当 とい う形 で株主 は利益 の使途 を自分 で決める権利 を持 つべ きだ、 とも言
う。 もしそ うな ら、配当な どと小 さなことは言 わず に全部 を換 金 す る (
つ ま り株 式 を
売却す る)
.方が、 自由度 ははるかに大 きいはずである。 株 主 はそ の権利 を持 ってい る
し、実行可能で もある。
配当利 回 りの低下 と個 人株主 のシェアの減少が同時 に生 じてい る こ とか ら、 配 当利
回 りの低下が個人投資家 の株式離 れを招 いた と指摘 され るが、 両者 は時系 列 デー タに
5
0
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
あ りがちの見せかけの相 関 を見せ てい るに過 ぎない。配 当利 回 りが 1% を割 って久 し
いが、その間 も個 人投資家 は株式投資 の ウェイ トを高 めて きてい るので あ る。 また、
昨年来、株価 の暴落 の結果、配当利 回 りが上昇 したが、個 人株 主 は一 向 にそ の シ ェア
を伸 ば していない。 キ ャピタルゲイ ンが期待 で きないか らであ る。 この点 か ら も、 重
要 なのは配当ではな く総投資収益 が低下 しているのが問題 である ことがわか る。
戦後41
年間の株式投資収益率 は、年 あた り1
6.
8%である。 この投 資収益 の大 きさは、
国際的に比較 して決 して低 い数値 ではない。 む しろ高い と言 って も良 い。 日本 の株 主
は、 もちろん個人株主 も含 めて、十分報 われて きた とい うべ きであろ う。収益全体 を1
0
0とす る と、 この うち現金配当の比率 はたった1
3.
3であ る。 配 当 は株 式投 資収益 の 2
割 に も満 たないのである。 多 くの投資家 はキ ャピタルゲ イ ンを得 よ う と して株 式 を持
つのではあるまいか。売 り時 を逃 さないために名義書換 を しない投 資 家 も少 な くない
と聞 く。 つ ま り、配当は無視 し得 る もので しかないのである。 配 当 を主 た る 目的 とす
る投資家が果 た して どれほ どいるだろ う。 いずれにせ よ、 そ うい う投 資 家 は比較 的利
回 りの高 い電力株 な どを持 つ ことがで きる。 債券投資 な ら利 回 りが高 い上 に株 式 よ り
安全 である。
9
0
年以降、 日本 の株式市場 で古
事株式 の時価発行 が事実上禁止 され て きたが、 時価発
行増資 の再開にあたって、配当性 向 に下限 を設 け ようとい う動 きが あ る。 日本 の企 業
が株主利益 を必ず しも重視 して こなか った過去 に鑑 みれば、 この規 制 は必 ず しも間違
い とは言 えないが、株主 に とって重要 なのは、 あ くまで も効 率 的 な企 業経営 に よって
利益 を成長 させ ることである とい う点 を忘 れてはな らないだ ろ う。 そ して、 企 業 の利
益成長が正 しく評価 されるような株式市場 であることが重要 である。
(
5) リスクと収益 の多様化 一 規制緩和
家計 の好 みはさまざまである。 豊 かな社会 とは少数の意見 や晴好 が無視 され ない社
会 であろう。 ▲
画一的 な商品が大量生産 される時代 は終 わった。 人々が求 めているのは、
それぞれの個性 と時好 に適合 したバ リエーシ ョンではない だ ろ うか。 金融 商 品 も例 外
「
ではあ りえない。 もっ とも回避すべ きは 「
個 人 は配当 を好 む はず」 配当性向何 %以上」
とい う画一的なお仕着せではないだろ うか。企業が効率 的 に運営 され てい るか否 か の
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1
チ ェ ックは重要 だが、画一的な量 的規制 は避 けるべ きである。 家計 に とって、 望 ま し
いのは自由に選択 で きることと、選択肢 の多 さである。
安全第一 の投資 もあれば、 リス クの大 きな投資 もある。 家計 はそれぞれの資産形成
の 目的 と噂好 に応 じてさまざまなメニューか ら選択可能である とい うこ とが、 証券市
場対策 の基本である。 こうした点 を考慮す るな ら、株式発行 のバ リエ ー シ ョンを増 や
す こと、社債 の発行市場 の規制緩和 な どやるべ きことは多 い。 発行証券 の多様化 だけ
でな く、発行証券 とサー ビスの組合せ、新金融商品の提供 について証券 関連 業務 の 自
由度 を高 めるべ きである。証券会社 や金融機 関の ビジネスチ ャ ンス、 利益 のチ ャンス
を見 つけ ようとい う努力が投資家 のニーズ を掘 り起 こす。 それが 自由 な市場経 済 の最
大 のメ リッ トのはずである。証券業務 の 自由化、規制緩和 こそが、 もっ とも本質 的 な
投資家対策 であろう。
ところが、現状 では、む しろ無用 な規制が多 い。 た とえば、 先物 ・オプシ ョン取 引
に、個 人投資家 は事実上参加で きない。指数先物 ・指数 オプシ ョン取 引 は、 市場 を売
買す る取引 である。 指数 を取引す ることは、市場 の全銘柄 に分散投 資 す るの と同 じこ
とである。 市場 の全銘柄 を一度 に取引で きれば、個人投資家 に とって は、 たいへ ん便
利 なことである。個人 は全銘柄 に分散投資す るほ どの資金 を持 たない。 また、 どの銘
柄 が割安 で どの銘柄が割高か判断す る情報 も機 関投資家 に比べ十分 で はない。 現状 で
は、情報力 と資金力 を持 たない個 人投資家が、銘柄選択 の リス クを負 わ ざる を得 ない
仕組 みになっているのである。個 人が実質的に指数取引 か ら締 め出 されてい る とい う
ことは、 ある意味では 「
話が逆」 である。 もし個人が容易 に指 数取引 に参加 で きる よ
うになれば、個人投資家 も、市場全体 の将来見通 しを利益 のチ ャンス と して生 かす こ
とがで きる。 現状 の先物取引 は機 関投資家 な ど法人 プロの市場 であ り、 個 人 を参加 さ
せ に くい とい うことであれば、主 として個人 を対象 とした指数売買 の場 を別 に提供 す
る こ とも考 え られ よう。 個 人 に も 「市場 」 を取 引 で きるチ ャ ンス を提 供 す べ きで
ある。
また、 オプシ ョン取引 は、宝 くじの ような取引である。 大 きな利益 を得 るチ ャンス
がある一方 で、損失 は一定の少額 に限定 されるか らである。宝 くじの人気 を考 える と、
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第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
オプシ ョン市場 に対す る個人投資家の潜在 的ニーズは小 さ くない と思 われる。 「
損失が
限定 されているとはいえ投資額がゼ ロになる可能性 が低 くはない」「
個人 には リス クが
大 きす ぎる」 とい うのが個人 を参加 させ ない理 由である。 しか し、 も しそ うで あ るな
ら、宝 くじの市場 か らも個人 は排斥 されるべ きであろう。 ロ ッ トが大 きいか ら損 失 の
打撃が宝 くじと比較 にな らない とい うな ら、 ロッ トを下 げ る工夫 をす れ ば良いで あ ろ
う。 「リスク」 に参加 したい とい う個人のニーズ を無視すべ きではない。個人投資家 は
さまざまである。 た とえ元 も子 もな くして も、 それが許容範 囲 に限定 された損失 な ら、
大 きな利益 のチ ャンスに賭 けたい とい う投資家 は少 な くないはずだ。宝 くじで 1万、 1
0万 を捨 てて も構 わない とい う人 は多いのだか ら、 その位 の ロ ッ トで、 オプシ ョン取 引
を可能 にす る道 を開 くべ きではないだろうか。 オプシ ョンは、 宝 くじよ りも当 た った
時の利益 は小 さいが、当たる確率 はず っ と大 きい投資対象 である。
(
6) 規制緩和の方向 一 金融制度改革 について
いかなる商品 を提供す るか、いかなるサー ビスを提供す るか は原則 的 には、 自由 な
市場 メカニズムに委 ね られるべ きである。 しか し、市場 は時 に失敗 す る。 証券 業 の四
社寡 占が しば しば問題 とされるが、 この事実 は、証券業 に規模 の経 済 が あ る こ とを意
味 している。 とすれば、 自由化がその まま競争化 を意味す るわけで はない。 金融 制度
改革法が施行 され、金融 ・証券 の相互乗入れが決 まったが、 参加 者 の数 が増 え る こ と
が即 ち競争化 であろうか。 自由化 と競争化 は同 じではない。
現在、証券業 も、金融業 も、保険業 も、信託業 もすべ て横並 び行政が行 われてお り、
本当の意味の競争化 は行 われていない。 そ うした状況で参加 者 の数 を増 やす こ とが、
本当 に意味のある改善だろうか。証券業 ・金融業 に規模 の経 済 が あ るな ら (
あ る とい
うのは実証的に も明かである)、参加者 の変更 は寡 占者 を入 れ換 えるだけである。 一定
以上 の規模 の証券会社 は分割す る とか、引受業 と仲介業 は別会社 にす るな ど、 規模 の
経済 による独 占化、寡 占化 の手当が論 じられるべ きであろ う。
証券不祥事 ・金融不祥事 を思 い起 こせば、 そ こで生 じてい たの は、 利益相 反 の問題
であ る。信託銀行 に生 じたファン ドトラス トの利益 のつけ替 えな ど、 関係 者 な ら誰 で
も知 っている重大 な顧客 の利益 の侵犯 であるが、公 にはその事実 は認 め られていない。
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3
各業態内部 の競争化 、公正化 が不十分 なまま、業態 間の垣根 を取 り払 うこ とは、 利 益
相反 のチ ャンス と手段 を増 やす だけである。 か りに、私 たち国民 が証券 ・金融業務 を
一つの企業 が行 うユニバーサルバ ンキ ングを選択 した として も、 すべ ての業態 につ い
て競争化 の条件 が整 った後 でなければ意味が ない。少 な くとも、 同時 で なければ な ら
ない。
ユニバーサルバ ンキ ングは、 ようや く銀行 と証券 の競 争 的 な 2つ の資金調達 ル ー ト
を得 た企業 に とってはむ しろマイナスである (
資金調達 でのユ ニバ ーサ ルバ ンキ ング
化 に賛成す る企業 はほ とん どない)。 た しかに、銀行業務 と証券業務 のグ レーゾー ンに
属す る業務 が増 えた。 しか し、 その弊害 となってい るのは、銀行 ・証券 の垣根 よ りも、
新商品開発 が 自由に行 えず、許認可方式 になってい ることで あ る。 既 成業界 の利益 調
整 ばか りで投資家 の利便 に対 す る配慮 が欠 けてい る。
とはいえ、個 人 に とっては、ユニバーサルバ ンキ ング化 は意 味 が あ りうる。 かつ て
デパー トはいろいろなメーカーのいろいろな商品 を店員 の ア ドバ イス を受 け なが ら選
べ る とい う利点があった。 しか し、 メーカーか らの派遣店員 が一般化 した今 日、 異 な
るメー カーの品 についてア ドバ イス を受 けることは容易 で はな くな った。 ー
同 じこ とは
資産形成、金融商品 について も言 える。 ひ とつの店 で、 い ろい ろな金融 商 品 か ら自分
に もっ とも適合 した組合せ を選ぶ ことがで きるな ら、非常 に便利 で あ ろ う。 特 に、 金
融機 関 ・証券会社 の少 ない地方では、ユニバーサルバ ンキ ング化 のメ リッ トは大 きい。
しか し、・
現在進 んでいる、ユニバーサルバ ンキ ング化 は、 この方向 にはない。
む しろ、 700億 円の借入金 を抱 えたコスモ証券 の大和銀行 の子会社化 の経緯 は、 日本
における金融制度改革がいか に投資家不在 の ものであるか、如実 に示 した。 7
00億 円 の
借入金 を株式保有 に替 え子会社化す る とい う計 画で、 コスモ証券 は大和 銀行 に対 して
第三者割 当 を実施 したが、 その発行価格 は市場価格 の半分 であ った。 その結果 、 コス
モ証券 の旧株主 は多大 な損失 を被 った。株価 は、第三者割 当 の発 行価格 とそれが発 表
される以前 の市場価格 のち ょうど中間 とな り、 旧株主 は旧市場価格 と新市場価格 の差
額 だけ損 を し、大和銀行 はち ょうど同 じ金額 だけ得 を したことになる。
しか も、 700億 円 を超 える 「
飛 ば し」 の現実が投資家 にはい っさい知 らされないまま、
コスモ証券 と大和銀行 と大蔵省 だけが こうした計画 を実行 に移 した とい うことは、デ イ
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第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革 の方 向
ス クロージャーの観点 か ら見 て も、 きわめて問題 は大 きい。 コスモ証券 の株 主 は、 重
大 な事実 を秘 匿 されただけで な く、第三者割 当て を株価 を通 して評価 す る とい うチ ャ
ンス も与 え られなか った。 だ まって、 そ もそ も、 この ような問題 を起 こ した証 券 会社
を救済す る必要が どれほ どあったのか、 当局 の説明 はまった く説得 力 を持 た ない。 市
場 の効率化、競争化 とまった く逆行 す る施策 としか思 えない。
投資家 のためであるはず の金融制度改革 の推進 で、投資家 の利 益 を損 な って い る。
当局 は業界 の利益 の調整 とい う批判 に どう答 えるのだろ うか。 業界 間 の利益 調 整 で は
ない投資家 のための改革 を目的 とす るな ら、 まず、各業 態 の業務 の 自由化 を行 うべ き
で ないだろ うか。横並 び行 政 を排 して、各業態 内での競争化 が進 んだ後 に、 業 態 間 の
自由化 を議論すべ きと思 われる。
金融機 関や証券会社 が新商品 ・新 サー ビス を提供 す る 自由 を持 ってい る とい うこ と
は家計 に とって重要である。 利益 のチ ャンス を得 よう、競争 に勝 とうとする金融機 関 ・
証券会社 の行動 が、顧客 であ る家計 のニーズ を汲 み上 げるか らで あ る。 ニ ーズ の ない
商品 ・サー ビスを提供 して も利益 につ なが らない。利益 を上 げるためには、顧客 のニー
ズ を くみ取 らなければな らないか らである。 企業 の利益 の チ ャ ンス を得 よ う とす る行
動 が家計 のニーズ を汲 み取 って行 く、 とい うのが資本主義経済 の眼 目である。
(
7) 投資家保護 のための制度
家計 ・個 人の直接 的 な証券市場参加 において、重要 なのは、資産力 ・情報力 (
分析 ・
評価 も含 む) において相対 的 に非力 である個 人が、相対 的 に強者 で あ る機 関投 資 家 、
法人投 資家 とイコール フ ッテ ィングにな らない とい うこ とである。 もちろん、「ゴルフ」
の ように弱者 にハ ンデ ィをつけるこ とばか りが正 しい方策 である とは限 らない。「
相撲」
の ように小 よ く大 を倒 し柔 よ く剛 を制す とい うことが ない とは言 えないか らで あ る。
非力 であることを承知 の個 人 だけが市場 に参加すれば良い とい う考 え方 もあ ろ う。 し
か し、個 人投資家 の市場参加 が、株価形成 の公正 と安定お よび市 場 の効 率化 に寄 与 す
る とす れば、市場参加者全体 あるいは国民経済全体 として、 個 人投 資 家 の参 加 を促 進
す るコス トを負担す る理 由はある。
た とえば、米 国で行 われてい る■
ような、売買執行 において 「
小 口取 引 を優 先 」す る
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5
とい うようなシステムを とる とい うこともひ とつの可能 な手段 で あ る。 また、 小 口取
引 と大 口取引 を分断す る とい う方法 も考慮 されて よい。 いず れ に しろ、 資産力 ・情報
力 を持 たない個 人投資家が、 その.
故 に、不 当な損失 を被 らない よ うにす る仕 組 みが必
要である。
「
情報 の公 開」が もっ とも重要である。情報 には企業や経済全体 の 「フ ァンダメ ン
タルズに関す る情報」 と 「
取引情報」の二つがある。 専 門豪 で は ない個 人が専 門家 と
同様 な質の高い情報 と情報分析技術 を手 に入 れ られるような仕 組 みが必 要 で あ る。 債
券 の格付 け機 関の拡充、証券 アナ リス ト ・投資顧 問業の情報 の品質 の上昇 (
所属機 関
か らの独立 とアナ リス トの ランキ ング) な ど、個人投資家 の情 報 力 の不足 を助 け る方
策が検討、拡充 されるべ きである。 同時 にデ ィスクロジ ャー シス テムの完備 とイ ンサ
イダー取引 の摘発 ・排 除 に もっ と努力 されなければな らない。
「
取引情報」つ ま り、 どの投資家が どうい う売買の注文 を出 したか あ るい は出 して
いるか とい う情報 は、 ある意味では もっ とも重要 な情報 であ る。 フ ァンダメ ンタルズ
情報 の収集 ・分析 の結果が売買注文 とい う結果 として集約 され てい るか らで あ る。 そ
れだけではない。株価 は必 ず しもファンダメ ンタルズだけで決定 されるわけではない。
ケイ ンズが 「
美人 コンテス ト」 に擬 らえた ように、 ファンダメ ンタルズ のいか ん に関
わ りな く売 りの勢 いが強 ければ下が り、買 いの勢 いが強 けれ ば上 が るのが株 価 だか ら
である。売 りと買 いの需給 の動 向 を示すのが 「
手 口情報」と言 われ る 「取 引情報」で あ
る。現在、個 人投資家 は機 関投資家や法人投資家 に比べ取 引情 報 入手 の便 宜 を持 た な
い。証券会社 や大 口の機 関投資家が入手可能 な取引情報 を小 口の個 人投 資 家 は利 用 で
きない。個 人投資家 に も同 じ情報 を提供す るか、証券会社 や機 関投 資 家 に も与 えない
か、 どち らかに し、 「
情報機会」 の公平 と公正 を保 つ システムを作 らなければならない。
情報提供 とい う点 に関 しては、 デ ィス クロ-ジヤだけではな く、 「
啓蒙」 も重要 で あ
る。重要 な情報が提供 されていて も、 その重要性 が理解 され な くて は意 味 が ないか ら
である。
∫R東 日本 の公 開にあたって、証券業協会 は、 目論見 書以外 の情 報文書 を投
資家 に提供 す る事 を禁止 した。
「
売 らんかな」 の誤解 を与 える情報 を排 し正確 な情報 の
み を提供 しようとい うのがその 目的であったが、 しか し、 これで は本末転倒 で あ る。
分厚 い 目論見書 を読みその情報 を評価す る力 を持つ個人投 資 家 は少 ない。
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∫R東 日本
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
が負 っているリス クの情報 な ど正確 に投資家 に伝 え ようとす るな ら、 最低 限必 要 な情
報 を簡潔 に示 した簡便 なパ ンフレッ トの ような もの を用 意 すべ きで あ ったので は ない
だろうか。証券会社 の与 える情報 に不安があるな ら、協 会 が チ ェ ックす る シス テ ム を
とれば良い。
また、投資技術 の進展 は 「
先物」 ・ 「オプシ ョン」 などの新 しい取 引 システ ム を生
んだが、 これ らについて一般投資家 は必ず しも十分 な知識 を持 た ない。 これ らの取 引
「
について解説 し、周知徹底 す る とい うことが必要 である。 知識 の普及」 が十分 でない
段 階で導入す ることは、専 門家でない一般投資家 に とって公 平 で は ない。 よ く分 か ら
ない先物 ・オプシ ョンに対 す る嫌忌が個 人投資家 を市場 か ら遠 ざけ、 個 人投 資 家 の選
択肢 を狭 める結果 に もなっている。 先物 ・オプシ ョンな どの新 しい取 引 が どうい う取
引であるか とい う点 だけでな く、 それが市場 の価格形成 に どうい う影響 を与 え得 るか
とい う点 について も十分 な情報が提供 されな くてはな らない。 この場 合 、 十分 な情報
丁
とい うのは単 なる量 の問題 ではな く 分 か りやすい」 とい うことが非常 に重要であるb
この重要性 が認識 されていれば JR東 日本 の売 り出 しにお け る よ うな情 報提 供 は もっ
と改善 されていたであろ う。
先物 ・オプシ ョンに関 しては啓蒙 どころか、現実 には、 従 来 の取 引 で あ る現物 取 引
よ りもなお情報 の公蘭 が不十分 であった。先物取引 につい て は専 門家 の 間で も情 報格
差が存在 し、改善 されつつ はある もののい まだ不十分 であ る。 新 しい取 引 で あれ ば な
おの こと情報提供 に努力 しなければな らないであろ う。
商 人投資家 に とって解決 されるべ きもう一つの問題 は、 なん らか の トラブルが発 生
した とき交渉力が弱 い とい う点である。 この解決 のためには、 証券 業協 会 が苦情 窓 口
の設置や斡旋 を行 なってい るが、 トラブルを未然 に防 ぐ手 だて と同時 に、 トラブルが
発生 した とき個 人投資家 の交渉力 のなさを公 的 に補 う方策が とられなければな らない。
トラブルの発生 を小 さ くす るためには、商品性 の説明が十分 であ る よ うな体 制 が とら
れるべ きである。外務員 や営業窓口に専 門教育 を施す こ とや資格 認 定 も考 え られ る方
策であろう。 た とえばワラン トについてはその価値 がゼ ロになる説 明が まった く十分
ではな く投資家 との間で多 くの トラブルが発生 している。 十分 な説 明 を受 け たか どう
か をチ ェックす るためのシステム、 た とえば重要項 目を大 きな活字 で分 か りやす く書
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いた説明パ ンフレッ トを投資家が見 た とい う確認 を取 引 にお け る必要手続 きとす る こ
と、紛争が生 じた ときは協会 に届 けるように と大書 され たポス ター な どを店頭 の見 や
すい位置 に貼 る、 な どの措置 も考 え られ よう。 この ような措置が一種 の圧力 となって、
不公正 な勧 誘や トラブルの発生 を未然 に防 ぐ効果 も持 つであろ う。
一部 には、情報力 ・資金力 に劣 る個 人投 資家 は しょせ ん機 関投 資家 の敵 で は ない の
だか ら、機 関投資家 に運用 を任せ た方が良い、 それが個 人投 資家 の ためで もあ る、 個
人投資家増大策 な ど無用 とい う見方 もある。現在 の ところ、機 関投資家の運用パ フォー
マ ンスは、規制や、競争 の不足 のため必ず しも機 関の利 点 を活 か した もの とは言 い難
いが、金融 の 自由化 が進展 し、競争化 されれば、個 人が直接株 式投 資 を行 な う理 由 は
ない、 と言 う。 しか し、それは誤 りである。 機 関投資家が資金 を預 か って運用 す る受
託者 である以上、委託者 の利益 のためその行動 はおのずか ら規 制 を受 け る。 機 関投 資
家行動 の多様化 の必要が十分認識 され、規制緩和 が進 んだ として も、 なん らか の規 制
の必要 は残 る。 横並 び排 除のため、機 関投資家 の 自主的創 意工夫 に よる多様 化 が促 進
され るような競争が行 われるべ きだ し、 そのための規制緩和 は必要 で あ るが、 それで
もなお、受託者 としてなん らかの運用上 の制約 を受 けず にはおかないであろ う。
加 えて、毎期 の決算報告 や運用パ フォーマ ンスの評価 をな しに済 ます わ け には行 か
ない。決算期 を各機 関投資家 ごとにず らした らどうか とい う意見 もあ るが 、 決算期 の
変更 は現実 的にはか な り困難であろ う。 とすれば、決算期 末 を控 えてのパ フ ォーマ ン
ス確保 のための横並 び行動 は、完全 には排 除 し得 ない。
機 関投資家 の ファン ドマネージャーがサ ラリーマ ンであ り、 組織 と しその制約 を受
けて行動 しなければな らない とい う点 も、改善 はされて も、 完全 に とい うわけ には行
かないであろ う。 機 関投資家 の行動 の多様化 が完全 に行 われ る とは期待 で きない。 投
資家層 のバ リエーシ ョンの確保 のためには、個 人投資家 の直接 参加 の道 を確 保 し改 善
してお くこ とはやは り必要 と思 われる。
(
8) 機 関投資家 の効率化
間接 的な証券市場参加 の手段 としての、機 関投資家へ の運用委託 につ い て も改 善 の
5
8
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
余地 は大 きい。
「
投資信託」 は、 間接 的な証券投資 の基本的形 であるに も関 わ らず、 委 託 ・受託 の
関係 に多 くの問題 が生 じている。 まず、投資家が選択す るための選択肢 が多様 で あ る
か といえば、商品数が多 いに も関わ らずそのバ リエーシ ョンは必 ず しも十分 ではない 。
投資家 の選択 基準 は さまざまで あ る。 運用期 間 の長 さ、 どの程 度 の リス クを好 む か
(リス クは高 くて も高い利 回 りを望むか安全性 を重視す るか)、 運用期周 中の分 配 を望
むか望 まないか、 な ど多 くのバ リエーシ ョンが考 え られる。
た とえば最大運用期 間が短す ぎ、 それが運用 の制約 にな ってい る こ とは しば しば指
摘 されている。 流通手段 がな く、解約 システムを とってい るため に解 約 に対 応 す るた
めの流動資産の確保 が必要であるだけでな く、時間が経 過 す れ ばす るほど運用 資 金 が
小 さ くな り運用 の 自由度が一層縛 られ る とい う問題 がある。 運用 期 間の長短 を 自由化
し、その一方で換金化 のシステムを改善す ること、 た とえば投 信 の流 通市場 を整備 し
た り会社型投信 を導入す ることが考慮 されて よい。解約 の ための流動性 を常 に確 保 す
ることは、運用 ポジシ ョンを制約す る。投資家が リス クの高 い運用 を望 んで もそ れ に
十分対応 で きないか らである。 そのため、 イ ンデ ックス フ ァン ドが イ ンデ ックス と等
しい運用成績 をあげることがで きない原 因に もなっている。
商品性 について も中身にふ さわ しい説明が されているか どうか、 あ るい は逆 に標梼
された商品性 に適合す る運用が されてい るか どうか、 とい う点 に も改 善 の余 地 は大 き
い。 もっ とも重要 な商品性 の要素である リス クの大 きさにつ いて投 信協 会 はそ の負 担
リス クの ランクを示す ことを決 めたが、単 なる リス ク ・ラ ンクの表示 だけで な く、 リ
スクに応 じた運用 を具体 的 に どう行 な う方針 であるのかについての説明 も必要 で あ る。
説明 された商品性 に適合 した運用 が なされているか どうか とい う点 につ い て は、 ま
ずそれ をチ ェックす るための情報が十分提供 されていない。 現在 は年 に 2- 4回 の頻
度 で行 なわれる資産価値 の表示 だけではな く、 いつ どうい う売買 が行 なわれ たか とい
うポジシ ョン変更 の内容 とタイ ミングについての頻度 高 い十分 な情 報 の提 供 が不 可 欠
である。現在 は取得原価 の公 開 も、証券 の売買 コス ト、信 託 手 数料 な どの開示 も行 な
われていない。 これでは運用効率 を判定す る十分 な情報 を投 資 家 は持 つ こ とが で きな
5
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い。
また、結果 としての運用効率 をあげるためには、運用効 率 を評価 す るための成績 の
公表 とその ランキ ング、評価機 関の育成 な ど評価 システムが完備 され る必 要 もあ る。
また、 フ ァン ドマ ネージャーに成功報酬制度 をとる とい うこ とも一 つ の方策 で あ る。
すでに一部 では実行 されている担 当 ファン ドマネージャー名 の公 表 は、 一種 の商 品性
の情報 開示 として も効果 ある手段 である。 ファン ドマ ネー ジ ャー名 の公 表 は、投 資家
に選択 の基準 を与 えるだけでな く、成績 の良い ファン ドマ ネー ジ ャーの顧客 を多 くし
報酬 を増加 させ る とい う形 で、 ファン ドマ ネージャーに効率 的運用 の動機 を与 える。
現在 問題 になってい る額面割 れ投信 の多発 も、 こうした シス テムが完備 していれ ばか
な りの部分 が未然 に防 ぎ得 たか もしれないのである。
運用成績 の低 さの要 因の一つ は販売証券会社 との関係 の固定化 にあ る とい う指摘 も
あ り、 そ うである とすれば、販売 ルー トの多様化 も必要 である。 いず れ に しろ、投信
については不要 な運用規制が多す ぎる。参入者 を増 やす と同時 に、 業務 とサ ー ビス提
供 について、業者 の 自由度 を高 めることが必要である。 必 要 な商 品性 は市場 が決 め る
べ きである。規制が必要 である とすれば、投資家の利益 が侵犯 される利益相反 の排 除、
情報提供 の推進 にこそ向け られるべ きである。
「
年金 」 について も、 いわゆる 5 ・3 ・3 ・2ルール (リーガル リス ト方式) な ど
量 的運用規制が効率 的運用 の大 きな障害 になってい る。 この ため に、 それぞれの年金
資産がそれぞれの フ ァン ドの成熟度 (
積 み立 て と支払 いのバ ランスのバ リエーシ ョン、
積 み立 てのバ ランスが大 きければ成熟度が低 い) に見合 った運用 が困難 な状 態 になっ
てお り、 この規制 のために自由で効率 的 な運用 が阻害 され てい る。 量 的規制 を撤 廃 し
て、商品性 に適合 した運用が なされているか どうかのチ ェ ック体 制 が確 立 され な くて
はな らない。長期運用 ・リスクの高 い運用 が可能であるか どうか は各 年金 の成熟度 に
よって選択 され るべ きである。
「
量的運用規制 を撤廃」 して
「ブルーデン トマ ンルール」
を適用 す る とい う必要性 は年金 に限 らずすべ ての機 関投 資 家運用 にあては まる問題 で
ある。 量 的運用規制 は資産 の安全性 ばか りを重視す る結果 で あ るが、 リス ク受容度 の
相違 な どの ファン ドの多様性 をまった く無視 した規制 である。
β
〃
第 Ⅱ部
2.家計か らみた証券市場改革の方向
しか も、 この量 的規制が、年金 の ファン ドごとではな く各委託機 関 ご とに適用 され
るため、各機 関投資家 の運用特性 、得意不得意 を生 か した運用委 託 が行 えない仕 組 み
になっている。 た とえば債券運用 が得意 な受託機 関、株 式 運用 が得 意 な受託機 関 とい
う選択 がで きない。各年金 フ ァン ドの 「自主性」 が大 きく阻害 され るだけでな く、 「
運
用機 関の競争化」 とパ フォーマ ンスの改善 を妨 げるな ど、 運用 の効 率 をむ しろ低 下 さ
せ る大 きな要因になっていることに留意 し、 この量 的規 制 は一 日 も早 く撤 廃 され るべ
きである。 量的規制が時価 ではな く簿価 でお こなわれてい る こ とは、 この規 制 のマ イ
ナスを助長 してい る。 しか し、 これ を時価規制 に代 えれば良 いか、 とい う とそ うで は
ない。量的画一的規制 の問題 はそれだけで は解決 されないか らである。
年金 の成熟度 に応 じた量的規制 とい うアイデア も一部 には出 てい るが、 フ ァ ン ドの
自主的運用 とい う点で問題 が多 い。他律 的 に しなければ な らない積極 的 な理 由が ない
か らである。 なによ りも、年金 フア'
( ド自身が 自主的 に フ ァン ドの運用 方針 を決定 で
きない とい うことはおか しなことである。
しか し、各 ファン ドの 自主性 を尊重す るためには、一方 で各 フ ァン ドレベ ルで の資
産運用担 当者の専 門性 を確保す るための教育や 「
資格認定」も必 要 で あ る。 そ うで な
ければポー トフォリオの 自主運用 ばか りで な く運用機 関 の評価 ・選定 さえ もが 困難 で
あるか らである。
また、受託側 の機 関投資家 の問題 も大 きい。信託銀行 にお いて フ ァン ド トラス トの
利益 のつけ替 えが行 なわれた と指摘 されているが、各 ファン ドの運用 の独 立性 な ど、
あるいは信託勘定 の売買 に先 ん じて 自己勘定取引 を行 な う よ うな フロ ン トラ ンニ ング
な ど利益相反か らの防衛 のシステムが整備 されな くてはな らない。 各 受託 フ ァ ン ドご
との管理が独立であ り、費用 と成果が各 フ ァン ドごとに明確 にな ってい る とい うの は
委託受託 関係 の基本 であるが、現在 はまった くそ う した仕 組 み にな ってい ない。 典 型
的 には、生保 の一般勘定での運用 である。 一時期 は、一般 勘 定 の含 み益 が企 業 年金 の
利 回 りの向上 に寄与 したが、 これは年金顧客 と保 険契約者 との あい だの 「
利益相 反」
の問題 が発生 していることを意味す る。 そればか りではない。 そ う した 「どんぶ り勘
定」 が可能である受託者 とそ うでない受託者 との間の公正 な競 争 を さまたげ、 そ の結
果 として運用努力 を阻害 し 「
安易 な運用姿勢」 が正 されなか った こ とが、 今 日の成績
6
1
悪化 の大 きな要 因 となってい る と考 え られ る。
受託者側 である機 関投資家 としては、 た とえば、情報 開示 な ど投 信 の場 合 とまった
く同様 の問題 を指摘 し得 る。 信託銀行 の場合 には、顧客 か らの預 か り資 産 が公 正 に運
用 されてい るか どうか をチ ェ ックす る仕組 みが十分 ではない。 また、生保 については、
契約資産 の運用 の独立性 が ほ とん どな く、生命保 険 と一部年金 の運用 が合同運用 になっ
てお り (
一般勘定 と呼 ばれ る)、 そのため運用成果 の配分 が不透 明 になる とい う問題 が
あ る。 もちろん、合 同運用 も選択肢 としてあるべ きだが、合 同運 用 が基 本 とい うので
は困 る。 フ ァン ドの運用 の独 立性 が ない ことと、運用 内容 につ い て の情 報 開示 の不 足
は表裏一体 をな している。 投信 で述べ たの と同様 、情報 開示 の促 進 、 そ れ に基 づ く効
率 的競争 的運用 のシステムの構築が望 まれ る。
年金 については、戦後一貫 して変更 されて こなか った運用 のベ ンチマ ー ク と しての
予定利率 の存在 を検討すべ きである。 年金 の支払 い、掛金 を左 右 す る予 定利 率 が 5.
5% に固定 されていることに問題 はないであろ うか。 もう少 し弾 力 的 で かつ多様 性 を
持 ってい る必要があるので はないか。 また、運用成績 を示 す利 回 りの計 算 方法 に も問
総利 回 り」 は実現利 回 りで あ り、 売却
題 が ある。 もっ とも一般 的 に用 い られてい る 「
され ない証券 のキ ャピタルゲ イ ンを考慮 していない。 つ ま り、 保 有 証 券 は簿価 で計 算
され ることになる。 これで は、含 み益 も、含 み損 も明かでな く、 フ ァン ドの運用 成績
を正確 には示せ ない。最近 の ように株式相場 が悪化 してい る と きには、 含 み益 の出 て
い る証券 か ら売却 し、 それで総利 回 りを確保 す るため、含 み損 の生 じてい る証券 ばか
りが残 され、資産内容 が どん どん悪化 していて も、総利 回 りで はそ の間題 を明 らか に
で きない。 そ こで、最近 で は、含 み益 、含 み損 を計算 にいれた、 つ ま り資 産価値 を時
価 で計算 す る 「
総合利 回 り」 の採用 が提 唱 され、評価 に用 い られ る様 にな りつ つ あ る
9年度 か ら91年 度 にか けての信 託 銀
が、 この普及一般化 を早急 に進 める必要がある。 8
総利 回 り」 は、本来 の運用利 回 りである 「
総合利 回 り」を 5%以 上 も
行 8行 の平均 「
2年 11月 2日)。 総合利 回 りが普及
上 回 ってい ることが報告 されてい る (日経金融新 聞9
していない とい う意味で、年金 は投信 よ りも情報 開示、 成績評価 が さ らに遅 れ てい る
とい えよう。
米 国で は、年金 の コンサ ルテ ィング会社 のサー ビス利用 も行 われ てい る。 コ ンサ ル
6
2
第 Ⅱ部
2.家計 か らみた証券市場改革の方向
テ ィング会社 は、年金 の運用 デー タの収集分析 ・運用評価 の ほか資 産 配分 や受 託 金融
機 関の選定 な どにア ドバ イス を行 う。 独立 の年金 フ ァン ドの運用 評価 機 関 も生 まれ て
いるが、 その活動 は まだ十分 な ものではない。 コンサル テ ィ ング会社 の育 成 ・利 用 の
促進が積極 的 に進 め られれば、 それは基金運用 の効率化 に大 き く寄与 しよう。
(
9) コーポ レー ト・ガバナ ンス
最後 に、企業経営 と証券市場 に関わる問題 として コー ポ レー ト ・ガバ ナ ンス の問題
に触 れてお こう。 コーポ レー ト ・ガバ ナ ンスは企業 は誰 の ものか、 とい う問題 であると
日本 の企業 はこれ まで、株主利益 を軽視 して きた と言 われ る。 株 式持 合 あ るい は安 定
株主工作 による企業集団が形成 され、集団内で互恵取引 を行 うため に、 企 業経 営 の効
率 が損 なわれて きた と指摘 されてい る。 しか し、安定株 主構 造 が、 日本企 業 の非効 率
を結果 した とは一概 には断定 で きない。安定株 主が長期 的 な視 点 で の企 業経 営 を可 能
に した側面、 リス クの大 きな投資 に果敢 に取 り組む ことを可 能 に した側 面 も否 定 で き
ないか らである。 株主へ の分配が少 なか った点 に関 して も、 日本 の企 業 が他 の先 進諸
国 よ りも成長 し、成長資金 を必要 として きた こ とを考慮 す れ ば一概 に非 難 す る にはあ
た らない。株主 に分配 されなか った利益 が経営者 に分配 され たわ けで もない か らで あ
る。 分配 されなか った利益 は内部留保 あるいは資産 の含 み益 として企業 内 に蓄積 され、
企業経営 のバ ッファとしての役割 を果 た して きた とい う見方 もある。
しか しなが ら、 80年代後半、十分 な投資機会 を持 たない に も関 わ らず大量 の資 金調
達 を行 い財 テ クに走 った企業が少 な くなか った こ とは、株 主利益 を無視 した、 非 効 率
な行動 と非難 されて も仕方 のない面 もあった。 こう した、 企 業 の安 易 な資 金 調 達 と投
資行動 をチ ェ ックす る専 門的投資家が、 日本 には育 ってい なか らた こ との問題 が大 き
い。機 関投資家が投資家 として機能せず、企 業 の監視 の役割 を果 た さなか った 。 機 関
投資家 は、年金運用契約 ・保 険契約 を得 るこ との利益 を重視 す る余 り、 資 産 運用 利 益
についではそれほ ど厳密 ではなかった。前節 で述べ た ように、 資 産運用 利 益 の評 価 と
その.
競争 が 日本 ではほ とん ど行 われて こなか ったか らである 。 そ の ため に」 専 門家で
ある機 関投資家 の企業評価 、企業監視 の機能が ほ とん ど働 かなか った。 そ の つけ は、
機 関投資家 に資金 を委託 している預金者 ・信託契約者 ・保 険契 約者 な どの低 収益 を結
6
3
果 した。 それだけではない。大 口株主である機 関投資家が沈黙 す る こ とに よって、 個
人株主 の利益 も侵害 されて きた。 わが国の企業が非効率 な経営 を許 されて きた とす れ
ば、それは株式持合 に代表 される安定株主構造 の結果 であ り、 株 式持合 を可 能 に した
のは、機 関投資家 の運用成績評価 の不在 、競争 を阻害す る横並 び行政である。 た とえ、
企業が株主 の利益 を無視 した増資 や投資 を行 お うとして も、投 資 家 が それ をチ 土 ツク
す る機能 を果 たす な らば、 それは不可能であったはずだか らである。
その意味 で、 日本企業が株主 を尊重す るようなシステム を構 築 す る こ とは、 資産運
用者 としての家計 に とって きわめて望 ま しい ことである。 しか しなが ら、 家計 は同時
に勤労者 であ り、企業 の従業員 で もある、 とい う側面 を忘 れ て はな らない。 日本 の企
業 は英米 の企業 とは異 な り、必ず しも株主 の利益 を最大 にす る ようには経営 され て こ
なかったか も知 れないが、 だか らといって経営者 の利益 が最大化 され たわけで もない
か らである。 日本 の企業 は、 ボーナスシステムな どを通 じて、 企 業利益 を従 業員 に も
分 け与 えて きた。 日本 の労働者 は必ず しも英米型 の賃金労働 者 で は な く、 長期 雇用 を
通 して企業経営 の リスクと利益 を分担 して きた と言 えるか も知 れない。 ある意味で は、
株主 よ りも大 きな リス クを従業員 は負担 して きた と言 って も良 い。 一方 で 日本 の労働
者 は固定的 な賃金契約 だけではな く、 ボーナスシステムを通 して、 利益 の増 加 に応 じ
た報酬 (
十分 とは言 えない ものであって も) を企業 か ら受 け取 って きた。 あ る意 味 で
は、 日本 の労働契約 は、株主契約 と同様企業 との運命共 同体 とい う側 面 を強 く持 って
い るのであ る。
そ うした点か ら、最近の株主利益尊重 の動 きを見 る と、必ず しも、勤労者家計 にとっ
てプラス とばか りは言 えない ように思 う。 コーポ レー ト・ガバ ナ ンスの問題 は、 株 主
利益 の擁護 とい う観点か らのみ論 じられているが、実 は、 日本 の企 業経営 お よび従 業
員利益 の根 本 に関わる問題 と関連 しているのである。 ひ とつ の利益 をわけ合 う とい う
意味で株主 と従業員 とは利益 を共有す る と同時 に利害が対 立 す る とい う関係 にあ る。
最近、 「
従業員持株制度」 の拡充が議論 されているが、単 に資産形成 の多様化 の側面 か
らだけでな く、従業員 の権利保護、経営参加 ・利益分配- の参加 の権利 を確 保 す る と
い う観点か ら議論 されて も良い問題 であるように思 われる。
6
4
第 Ⅱ部 ・3.消費者信用 ・住宅金融の課題と政策
3.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
は じめ に
経済 のス トック化 は、家計部 門の金融資産 だけで な く金 融負 債 の拡 大 も伴 って進行
してい る。 家計部 門はネ ッ トで見 る とつねに資金 の 「
貸 し手」 で あ り、 金融 自由化 の
家計部 門 に対 す る影響 を議論す る場合 も資金 の 「
貸 し手 」に とっての メ リ ッ ト ・デ イ
0年代以降の消費者信用 ・
メ リッ トが問題 にされることが多 い。 しか し、 その一方 で、 8
住宅金融 の量 的拡大 を背景 として、 「
借 り手」 としての家計 部 門 に とって望 ま しい金融
システムのあ り方 を考 えることも重要 になって きてい る。 例 えば、 バ ブルの崩壊 とと
もに現在多発化 してい る多重債務 や 自己破産 は、今後 とも続 くと予想 され る家計 部 門
の負債 の拡大傾 向 に対 して、現在 の金融 システムが十分対 応 して い け ない こ とを示 唆
してい る と言 え よう。
本章で は、 まず、第 1節 で家計部 門の負債 が最近 どの よ うな変化 を遂 げ て きたか を
簡単 に振 り返 る。 次 に、第 2節及 び第 3節 で現在 の消費者信 用 ・住 宅 金融 シス テ ムの
抱 える問題点 を整理 し、 「
貸 し手」 としての家計部 門 に とって望 ま しい金融 システ ム を
実現す るための政策 の方向 を考 えてみ る。 最後 の第 4節 で、本章 の議論 を要約す る。
(
1) 消 費者信用 の拡大
消費者信用 は、消費財 、サー ビスの購入 に関わる狭義 の消 費者信 用 と住 宅 金 融 に大
0年 ほ どの 間 に大 き く拡 大 した
きく二分 され る。 これ らの消費者信用 はいずれ もこの1
が、 まずその状況 をマ クロ的 に見 てお こう。 表 1は、経済企画庁 の
『
国民経 済計 算 年
報』 に基づいて消費者信用 の動 向 を示 した ものであ るが、 これか ら次 の 2点 が指摘 で
きる。
第 1に、広義 の消費者信用 は、 8
0年度 には可処分所得比 で41% で あ った ものが 91年
度 には7
2% になるに至 ってお り、消費者信用 の衰計 にお け る重 要性 は飛 躍 的 に高 まっ
0年代後半 のいわゆるバ ブル時代 にその規模 は大 き く拡 大 し、 91年
ている。 と くに、8
4兆円、 1世帯 当た り511万 円 にのぼ ってい る。
度末時点 で消費者信用残高 は約 21
第 2に、消費者信用 の中身 を見 る と、住 宅金融 の全体 に占め る比 重 は80年度 の73%
6
5
表
年度
1
合残 計 高
住宅
ロ_
-ン
(
兆円)
消費者信用の拡大
-SNAベース
令世帯当り
.計 住宅ローン
1
の̀残高(
万円)
合
計 住宅 ローン
家計可処分所得比(
%) ・
住宅ローンの
負債
める比率
全体 に占
(
%)
81
82
83
8
0.
4
89.
7
9
8.
9
5
8.
1
6
4.
1
6
9.
4
21
8.
2
2
3
9.
6
2
6
0.
7
1
5
7.
7
1
71.
3
1
8
3.
0
・
43.
9
46.
7
49.
1
31.
7
3
3.
3
3
4.
4
7
2.
3
71.
5
7
0.
2
85
1
1
31
8
7
8.
6-
2
9
2.
0
2
01.
6
5
0.
9
3
5.
2
6
9.
1
8
6
8
7
8
8
8
9
9
0
91
1
23.
8
1
3
8.
0
1
5
7」
2
1
8
0.
9
2
0
0.
9
21
3.
5
_
31
3.
0
3
49.
1
3
6
2.
9
4
4
4.
6
48
8.
0
51
0
.
9
21
5.
6,
2
3
9.
1
2
6
3.
4
2
9
7.
8
3
25.
1
3
41.
4
5
3.
与
5
7.
6
6
2.
6
6
8.
1
71.
4
71.
5
3
6.
8
3
9.
4
42.
0
45.
5
■
47.
5
47.
8
6
8」
8
6
8」
5
6
7.
0
6
6.
8
6
6.
6
6
6.
8
85.
2
■
9
4
.
5
1
05.
4
1
2
0.
8
1
3
3.
8
1
42.
7
(
出所)経済企画庁 『
国民経済計算年報』
か ら9
1
年度 には6
7%- と若干低下 してい るが、依然 として高 い。 た しか に、 最 近 の消
費者信用 の拡大 は狭義 の消 費者信用 に よる ところが大 き く、 ジ ャー ナ リズ ム等 にお け
る議論 もそれ に関す る ものが圧倒 的 に多 い。 しか し、住 宅 金 融 の比 重 が依 然 と して高
い とい う事 実 は、消 費者 に とっての金融 自由化 の意味 を考 え る上 で住 宅 金融 の あ り方
について も問い直 してみ る必要 が ある ことを示唆 してい る。
一方 、勤労者世帯 の負債 の動 向 を総務庁 の 『
貯蓄動 向調査 報 告』 に よって見 てみ る
と、次 の ような点 が指摘 で きる。
第 1に、勤労者世帯 の 1世帯 当 た り負債残高 は9
2
年末時点 で3
1
1
万 円 となってお り、
9
0年 に3
4
0
万 円 とピー クを打 った後 はやや低下傾 向 にあ る (
図 1)。 そ の結 果 、 負 債 の
年収比 も4
1%まで低 下 してい る (ピー クは9
1
年 の5
0%)。 しか し、 長期 的 に見 れ ば、
家計 にお け る負債 の重要性 は明 らか に高 まっている。
第 2に、勤労者 の負債全体 の うち、住 宅 ・土地 のための負債 は 1世帯 当 た り2
7
6
万円
で全体 の8
9%とい う高 い比率 を示 してい る (
9
2
年末時点)
。住 宅金融 の重要性 が ここで
も確 かめ られ る。
しか し、 これ ら.
の平均値 での議論 は実際 には意味が な小 。 住 宅 ・土 地 の た め の負 債
6
6
第 Ⅱ部
3.消 費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
図 1 勤労者世帯の 1世帯 当 り負債残高
(
万円)
(
%)
78
79
80
81
82
83
8
4 8
5
8
6 8
7 8
8
8
9
9
0
9
1
9
2
(
出所) 総務庁 『
貯蓄動向調査報告』
を保有 している勤労者世帯 は全体 の約 3分 の 1であるが、 それ らの世帯 の平均 負 債 残
高 は8
61
万円 (うち住宅 ・土地 のための負債 は8
22万 円) であ り、住 宅 ・土 地 の ため の
負債 を保有 していない世帯 の平均負債残高32万円 を著 しく上 回っている (
図 2)。 つ ま
り、住宅 ロー ンを抱 えてい るか どうかで、家計 の負担 は大 き く異 な る こ とにな る。 さ
らに、 これは、住宅金融 を公 的 にサポー トす る場合 、 その メ リッ トを受 け る者 とコス
トを負担す る者 との関係 をどう考 えるかが重要である とい うことも示唆 している。
以下では、 こうした状況 を念頭 において、狭義 の消費者信 用 と住 宅金融 につ い てそ
れぞれの現状 と問題点 を整理 し、望 ま しい政策の方向 を考 えてみ よう。
67
図 2 住 宅 ・土地 の ための負債 の比重 一 勤労者世帯 (
1
9
9
2年)
平
均
住宅・
土地のための
負債保 有世帯
(
全体 の3
3.
6%)
住宅・
土地のための
負債 を保有 しない
世帯
(
全体 の6
6.
4%)
0
1
0
0
2
0
0
3
0
0
4
0
0
5
0
0
6
0
0
7
0
0
80
0
9
0
0万円
(
出所) 総務庁 『
貯蓄動向調査報告』
(
2) 狭義 の消 費者信用 をめ ぐる課題 と政策
(
多発化 す る自己破産 ・多重債務)
日本の消費者信用 の家計部 門における比重 は、 カー ド社 会 と言 われ て久 しい アメ リ
カの水準 をすで に超 えてい る。 消費者信用残高 の可処分所得 比 は80年代 に急速 に上昇
し、91
年度末 には2
4% とアメ リカの1
9% (
91
暦年末) を上 回るに至 っている。
なぜ、 この ような消費者信用 の量 的拡大が見 られたのだろ うか。経済企画庁の リポー
ト『
消費者信用 の増加 と個人消費』 (
92年 11月) は、 その背景 を次 の ように ま とめ て
いる。 まず、需要側 (
家計部 門) の背景 としては、①将来 よ りも現在 の消 費 を重視 す
る とい う消費者 の意識 の変化 (
時 間選好率 の高 ま り)② 決済手段 と しての消 費者信 用
の利便性 が評価 された こと③ 8d年代 の資産価格 の急上昇 を受 けて家計 部 門が資産 と負
債 を両建 てで増加 させ た こと、が挙 げ られる。 一方、供給側 の背景 と して は、① 消 費
者信用 を供給 す る各業態が消費者 に とって利便性 の高 い カー ド利 用 を積極 的 に進 め た
こと②余資 の増加 を背景 に とりわけ民 間金融機 関が消 費者 ロー ンを積極 的 に取 り入 れ
6
8
第 Ⅱ部
3.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
たこと、が考 え られ る。 つ ま り、バ ブル期 の消費 ブーム とカネ余 り状 況 の なか で、 消
費者信用 は需要側 と供給側 の思惑が うま くマ ッチ した こ とを受 けて急速 に拡 大 した こ
とになる。
ところが、バ ブルの崩壊 が始 まった9
0、 91年頃か ら、 それ まで順 調 に拡 大 して きた
消費者信用 に変化 が生 じる。 8
4年以降減少 を続 けて きた個人 の 自己破 産件 数 は90年以
年 には 2万 3千件台、 9
2年 にはさらに 4万 3千件 台 に も達 してい る
降上昇 に転 じ、91
(
図 3)。 この92年 の水準 は、84年のいわゆる 「サ ラ金パニ ック」 時 の水 準 (
約 2万 4
千件) をはるかに超 えている。
この ような今 回の状況 は、サ ラ金パニ ック以上 に本質的 な問題 をは らんで い る。 消
費者信用業界 は、大 きく分 ける と銀行系、信販 ・ク レジ ッ ト系 、 消 費者 金融 系 とい う
3つの業態 によって構成 されている。サ ラ金パニ ックはそ の うちの消 費者金 融 系 に不
良債権 が集 中 して発生す る とい う一極集 中型 であ り、消 費者 金融系 の問題 とい う側 面
が強かった。 これに対 して今 回の 自己破産多発化 は、消費者 金融系 だけで は な く、 他
図 3 急増す る自己破産申請件数 (
個人分)
8
2
8
3
8
4
8
5
8
6
8
7
8
8
8
9
9
0
9
1
9
2
(
出所) 最高裁判所 『
司法統計年報』
6
9
の業態 も含 めた消費者信用業界全体 に広 が ってい る ところに特 徴 が あ る。 つ ま り、 経
済 のス トック化 の中で急速 に拡大 した消費者信用 の システ ム全 体 に、 どこか大 きな問
題 が あ る とい うこ とになる。前述 の企画庁 リポー トは、 消 費者信 用 の拡 大 を主 にそ れ
が個 人消費 の抑 制 につ なが るか どうか とい う観 点 か ら評価 してい る。 しか しよ り本 質
的 な問題 は、現行 の消 費者信用 システム 自体 が どこまで経 済 の ス トック化 の波 に耐 え
うるかであ ろ う。
(
必要 な個 人信用情報 の整備)
消費者 はつ ね に合理 的である とは限 らない。 自 らの支払 い能力 を超 える消費 を行 p、
次 か ら次 に借 金 を重 ねて 自分 で 自分 の首 を絞 めてい く多重債 務 の悲劇 は、 や は り借 り
手側 にこそ基本 的 な責任 が ある と考 えざるを得 ない。 しか し、 消 費者信 用 シス テ ムの
なか にそ う した悲劇 をそ もそ も生 じさせ ない ような仕組 みが あ れ ば、 問題 を予 め最小
限 に抑 える ことがで きる。 カー ド時代 において最 も重要 なのは、顧客の経済力や債権 ・
債務残高状 況 な ど、信用 の評価基準 となる個 人信用情報 の整備 であ るこ とは疑 い ない 。
それ さえあれば、消 費者 がか りに非合理 的であ って も金融機 関 に よるチ ェ ックが あ る
程度 はた ら くか らである。残念 なが ら、 この点 で現行 の シス テ ム は後 述 す る よ うに き
わめて不 十分 であ る と言 わ ざるを得 ない。 そのため に、安 易 な与信 に よって借 り手 だ
けで な く貸 し手 自 らも被 害 を受 ける危 険性 がつね に残 されてい る。
個 人信用情報 につ い て は、 現在 4つ の機 関 が存 在 してい る。 す なわ ち、 銀行 系 の
CIC)
、消
「
個 人信用情報 セ ンター」、信販 ・ク レジ ッ ト系 の 「
信用情報 セ ンター」(
I
費者金融系 の 「日本情報 セ ンター」(∫ C) とい う業態別 の 3機 関のほか に、消 費者
金融系 の大手 を中心 に残高情報 の完全登録 を目指 して設立 された 「セ ン トラル ・コ ミュ
ニケー シ ョン ・ビ1'
- ロー」(
CCB)があ る。 しか しなが ら、 この ような 4機 関体 制
には以下 の ような問題 が あ る。
(
多重債務体 質 を防止 で きない現行 システム)
第 1に、個 人信用情報 の中心 はいわゆる 「ブラ ック」 と呼 ば れ る事 故 情 報 で あ り、
「ホ ワイ ト」 と呼 ばれ る残高情報 の整備 はか な り遅 れてい る。 事故情報 をい くら蓄積 し
て も、多重債務者 の発生 を未然 に防 ぐこ とには限度 が あ る。 また、
-債 務 者 が い わ ゆ る
「回 し」 を続 けていれば、支払 いは表面上 スムーズ に進 む こ とになるので、事故情報 と
7
〃
第 Ⅱ部
3.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
してキ ャッチす る こ とは難 しい。気 がつ けば どうに もな らない事 態 に陥 って しま って
い る とい うことも往 々 に してあろ う。 しか し、今 の ところ前 述 の業界 系 の 3機 関 の 中
で残高情報 の登録 が比較 的進 んでい るのはサ ラ金パ ニ ック を経 験 した消 費者 金 融 系 の
JICだけであ り、 ほかの 2機 関 は まだ まだ とい う状 態 である と言 われてい る
。
また、
残高情報 の充実 を目指す CCBに して も、会員数 が現在 の ところ1
0
0
社前後 とカバ レ ッ
ジの面 で まだか な り問題 が ある と言 わ ざるを得 ない。
ただ し、最近 で は残高情報 の整備 に向 けてい くつかの前進 が見 られ る。 ク レジ ッ ト
カー ド業界 では、 日本 クレジ ッ ト産業協 会 が 中心 になって92年 6月 に教 育 ロー ンな ど
の 目的 ロー ンやキ ャ ッシ ング (
小 口貸付) の残高情報 の交換 を始 め た 。 これ らの残 高
情報 は業界 の信用情報機 関であ る CI
Cに集積 され る こ とに な って い る。 また、 対 応
が最 も遅 れていた銀行系 も、全 国銀行協 会連合会 が9
4年 度 上 半期 をめ どに個 人顧 客 へ
の貸 出残高情報 を協 会 内の個 人信用情報 セ ンター に登 録 す る こ とを正 式 に決・
め てい る
(
93年 3月)。残高情報 の整備 は、顧 客情報 が他社 に漏 れ る とい う思 惑 や不 安 が あ って
い ままで なかなか進展 しない面が あ ったが、多重債務 ・自己破 産 の多 発 化 で各 業 態 と
も早急 な対応 を迫 られてい る (
注 1)。
(
遅 れ る業態 間の情報交換)
第 2の問題 は、 そ う した残高情報 が業態 を超 えて交換 され る仕 組 み が まった く存 在
してい ない とい う点 である。 上 に見 た ように、銀行 、信販 ・ク レジ ッ ト、 消 費 者 金融
各業態 において残高情報 の整備 が進 みつつ あ るが、 それ だ けで問題 が解 決 され るわ け
。
ではない。多重債務 は業態 をまたが って発生す る可能性 が高 いか らである (
注 2)
・い ままで業態 間の情報交換 が進 まなか った最大 の理 由 は、 日本 の消 費者信用 産 業 が
業態別 に発展七 、各業態 に強 い独 自性 あ る∴
い は排他性 が あ る こ とで あ る。 ・そ うい う状
態 の下 で は、各業態 におけ る残高 の整備状 況が あ る程度 そ ろ って い ない と、 情 報 交換
は情報 が整備 されていない業態 を整備 され てい る業態 に比 べ て一 方 的 に有利 にす る こ
とになるため、業態 間の足並 みが なか なかそろ わ ない。 と くに 、 銀 行 業界 で残 高 情 報
へ の取組 みが著 しく遅 れてい る現状 で は、業態 間の情報 交換 が進 展 す るメ ドは ほ とん
ど立 て られ ない。
さ らに、業態別 に所管官庁 が異 な り、行 政側 の対応 が遅 れが ちな こ と も問題 解 決 を
7
1
先送 りしている。信販 ・ク レジ ッ ト業界 は通産省 の管轄、銀行 業界 、 消 費者 金融業界
は大蔵省 の管轄 となってお り、行政が リー ダーシ ップを とって消 費者信用 の情報整備
を統一的 に進 める とい う体制 になっていない。 いわゆる縦 割 り行 政 の弊 害 が ここに も
出て きてい る。
(
信用情報整備 のガイ ドライ ン提示 を)
消費者信用 は もともと、消費者 の流動性 に係 わる制約 を軽 減 し、 消 費 の平準化 に寄
与す る ものである。 したが って、多重債務 問題 の発生 な ど消 費者信 用市場 の持 ってい
る脆弱性 を除 くことがで きれば、消費者 はそのメ リッ トを最大 限 に享受 で きるはず で
ある。 しか し、上 に見 て きた ように、その ような条件 は現在 の ところほ とん ど満 た さ
れてい ない。 そのため、消費者信用 が無節操 に拡大 した り、 逆 に多重債務 問題 な どが
発生すれば金融機 関の与信態度 が抑制 されて市場規模 が急 速 に収 縮 した りす る危 険性
がつねにあ る。
この ような状況 を打 開す るために政策面で とくに求め られ るの は、 信用情 報 の整備
やその利用 ・交換 について一定 のガイ ドライ ンを提示す る こ とで あ る。 信用情報 の整
備 については、業態別 には大蔵省 ・通産省 によって個別 にあ る程 度議 論 が進 め られて
きてい る。 しか し、問題が業態 間にまたが る以上 、 省 庁 を超 えた場 1-た とえば首相
の諮問機 関である国民生活審議会 - での議 論 が是非 とも必 要 で あ る。 消 費者信用 の
各業態 に共通す る信用情報整備 のルールがいったん出来上 が れ ば、 各 業態 内 の取組 み
も加速化 す るだろ うし、 さらに業態 間の情報交換 に向けての動 き も大 幅 に前進 す る こ
とが期待 で きる。現行 の体制 を前提 としてい くら審査基準 や カー ド発行枚 数 ・使 用 上
限額 の制 限 を強化 して も、問題 の本質的な解決 にはけっ してつ なが らない。 また、 い
わゆる消費者教育や業界 団体 に よる広告 な ど消費者 に対す る啓蒙活動 (
注 3)、多重債
務者- の カウンセ リング も充実 させ る必要があるが、 これ ら もあ くまで も補助 的 な対
策 で しか ない。
(
消費者 の プライバ シー をどう保護す るか)
個 人情報整備 の面で消費者 の観点か ら見 て特 に議論 を深 め る必 要 が あ るの は、 個 人
のプライバ シーや 自由の保護 をどう確保 してい くか とい うことであろう (
注 4)。個 人
情報 の提供 は個人のプライバ シー を侵害す る危険性 が高い ため、 信用 情報機 関 に よる
7
2
第 Ⅱ部
3.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
情報処理 には法律 上 の明確 な規定が欠かせ ない。 いわば 「
消 費 者信 用 情 報 整備 法 」 と
で も言 うべ き法律 が制定 され る必要 が ここにある。 この点 に関連 して は、 80年 に OE
CDが 「プライバ シー と個 人の 自由の保護 にかか る原則」 とい う勧 告 (い わ ゆ る
「
O
ECD 8原則 」
)を公表 したの を契機 に して、大蔵省 をは じめい くつかの省庁が個 人 の プ
ライバ シー保護 に関 して各種 の提 言 や通達 を行 って きた。 しか しなが ら、 実 際 に法律
として制定 されたのは 「
布 政機 関の保有 す る電算機処理 に係 る個 人情報保護法」(
8
8
年)
のみであ り、 しか もこれは民 間情報機 関の保有す る個 人情報 に関す る法律 で はない。
消費者信用 に関す る個 人情報 につ.
い て、 プライバ シー の保 護 とい う観 点 か ら法律 上
明文化 しているのは、支払 い能力 または返済能力 の調査 以 外 の 目的 の ため に使 用 す る
貸傘業規制法」 第 30条 第 2項 のみ
ことを禁止 してい る 「
割賦販売法」 第42条 の 2と 「
である。 そのほかの事項 については、各業界 を管轄す る大蔵省 、 通 産省 の通 達 や各 業
界 の 自主規制 に委 ね られてい るにす ぎない。 欧米 では、個 人情報 におけるプライバ シー
保護 その もの を目的 とす る法律 がすでに生 まれてお り (
例 えば アメ リカの 「
公 正信 用
)、 この面 で 日本 の状況 は立 ち遅 れてい る と言 わ ざるを得 ない。
報告法 」
プライバ シーの保護 については、情報機 関 に厳格 な情 報 管 理 を求 め るの は言 うまで
もないが、 その他 に、 OECDの勧告が指摘 す る ように と くに次 の 2点 が重 要 で あ ろ
う。 第 1に、 どの ような情報 を収集 し外部 に提供 してい るか を不利益 情 報 を含 め てす
べ て本人 に開示す る とともに、本人がそれ らの情報 に異議 を申 し立 て修 正 を求 め る権
利 を与 えること。 第 2に、情報機 関 を監督指導す る行 政側 の体 制 を整 わせ るた め に、
情報機 関 を登録化 す る とともに、各種規制 の実効性 を高 め るため の罰則 規 定 を明文化
す ることである。
(
3) 住宅金融 をめ ぐる課題 と政策
一方、住宅金融 の問題 は、 自己破 産や多重債務 の ように問題 が表 面化 してい る狭 義
の消費者信用 の場合 と違 って、消費者 にはなかなか分 か りづ らい面 が あ る。 負 債 返 済
の延滞率 もいわゆるアパー ト ・マ ンシ ョン ・ロー ンな ど投 機 的色彩 の強 い部 分 を除 く
と低水準 で安定 してい る とされてお り、信用 リス クの面 に限 って言 う と現行 の シス テ
ムにそれほ ど大 きな問題 はない ように も見 える。 しか し、 住 宅 ロー ンに関 わ る 自己破
7
3
産 についてはデー タはほ とん ど入手 で きないので実際 の ところは よ く分 か らない し、
か りに問題 が ない として も現行 のシステムが今後 さらに進 む で あ ろ う金 融 自由化 の動
きと整合 的であ り続 けるか とい う問題 は残 る。 また、金融 自由化 の メ リ ッ トを消 費者
が認識す る場合 、住宅金融 システムの変化 を通 じて とい う部分 が あ って もけ っ してお
か しくないのだが、 はた して実際 にメ リッ トが発生 してい るの だ ろ うか。 銀 行 が 自分
の ところの融資条件 の有利 さを消費者 にア ピール して 互 い に競 争 し合 ってい る とい う
話 はあ ま り聞か ない。
以下で は、 日本 の住宅金融 をめ ぐるい くつかの論点 を整理 す る とともに、 消 費者 か
ら見 て望 ま しい改善 の方向 を簡単 に考 えてみ よう。
(
公 的融資 の比重高 い現行 システム)
日本 の住 宅金融 システムは、欧米 に比べ る と公 的金融 の比 重 が か な り高 い こ とにそ
年末 時 点 で約 4割 と
の特徴 が あ る。 住 宅 ロー ン残高全体 に占める公 的機 関の比 重 は91
なってお り、 そのほ とん どが住宅金融公庫 に よる融資 であ る。 約 4割 とい う比 重 は欧
米 の水準 をはるか に越 えてい る。 例 えば、 アメ リカの場合 、 政府 関係 機 関 の モ ー ゲ ー
ジ (
住宅 ロー ン債権) の保有比率 は91
年末 で全体 の 7%弱 にす ぎない。 こう した差 は、
住宅金融 における公 的機 関の役割 の違 い を反映 してい る。
欧米 の場合 、公 的機 関はお もに(
∋住 宅 ロー ンの流動化 を通 じて住 宅金 融 市 場 - の資
金供給 を促 進す る(
参借 り手 の信用 を公 的 に補完す るこ とに よって住 宅 ロー ンを借 りや
す くす る、 とい う間接 的 な手段 で住 宅金融市場 に関与 してい る。 欧米 で は住 宅金融 の
伝統 的 な担 い手 は民 間の住宅金融専 門機 関であ り、 かつ て は商業銀行 な ど他 の金融機
関の住宅金融市場へ の参入が政策的 に制約 されていた。 そ の後 、 住 宅、
金 融市 場 の障壁
が取 り除かれた り住宅金融専 門機 関 に対 す る優遇措置が廃 止 され た りした ため、 商業
銀行 な ど他 の業態 の市場参入が可能 とな り、市場 の競争状 態 が高 まった。 欧米 にお け
る公 的機 関 は、 この ような金融 自由化 に伴 う住 宅金融市場 の活性 化 を側 面 か ら援 助 し
てい る と言 うこ とがで きる。
一方、住 宅金融公庫 を中心 とす る 日本 の公 的機 関は、 郵便貯 金等 を原 資 とす る財 政
投融資 の一環 として、消費者 に低利 で直接融資 を行 ってい る点 に特徴 が あ る。 た しか
に、民 間金融機 関は長期 的 に見 て消 費者 に対 す る融資 な ど リテー ル化 に力 を注 い で き
7
4
第 Ⅱ部
3.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
表 2 住宅金融における公的 ・民間融資の比率
80
81
82
8
,
3
8
4
85
86
87
8
8
89
・9
0
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0
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4
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4
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2
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6
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(
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(
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1
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0)
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(
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2
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0
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2
93.
1p
1
06.
9
11
8.
3
(
出所)住宅金融公庫 『
住宅金融公庫年報』
てお り、高度成長期 に比べ る と住 宅金融 にお け る民 間金融機 関の重要性 はかな り高 まっ
て きてい る。 しか し、 8
0
年代後半 の住 宅 ブーム期 において も、 公 的機 関 は シ ェア をほ
とん ど落 としてい ない (
表 2)
。
(
官民 間の競合 問題)
現行 の住 宅金融 システムについては、 い くつかの論 点が あ る 。 第 1の論 点 は、 公 的
機 関 と民 間機 関 との競合 問題 である。 郵貯 をめ ぐる議論 が 「
入 り口」(
調達) にお ける
官民 の役割分担 に関わ る ものであ るの に対 して、 これ は 「出口」(
運用) のそれ に相 当
す る。 金融市場 におけ る競争 の高 ま りの中で、民 間の金 融 機 関 はお そ ら くリテ ー ル業
務 を今後 とも拡大 させ ざるを得 ないであろ う。 したが って、 リス クが比 較 的少 な く、
しか も収益性 の高 い住 宅金融 の シェアを高 め る とい うイ ンセ ンテ ィブが 当然 は た ら く
と見 られ るが、 その場合 、公 的融資 に よって民 間融資 の クラ ウデ ィ ング ・ア ウ ト (
締
め出 し) が起 こるので はないか とい う懸念 が あ る。実際、住 宅 の一次取得 の場合 には、
住 宅金融公庫 の融資 といわゆる社 内融資 あ るい は財形 か らの融 資 を合 わせ る とほ とん
ど事 が足 りるので、民 間か らの融資が入 る余地 が ない とい う批 判 を よ く耳 にす る 。 ま
た、住 宅金融公庫 に よる融資 のか な りの部分 は、銀行 に よるいわ ゆ る 「
代 理 貸 し」 の
7
5
形態 を とってい るが、 これ も顧客 のメイ ンバ ンクにな りやす い とい うメ リッ トが あ る
ものの、銀行 に とって収益面 での有 り難 みはあ ま りない とされてい る。
しか し、現行 の体 制 を正 当化 す る見方 ももちろんあ る。 例 えば、 ① 住 宅 ロー ン融 資
残高 に占め る公 的機 関の ウエ イ トは ここ1
0年 間で3
0-4
0%で安 定 的 に推 移 してお り、
(
参新規融資 について も公 的機 関が民 間のシェアを大 き く奪 ってい る とは言 えない、 と
い った事実 を指摘 した り、③公 的融資 は民 間融資 に比べ て安 定 的 で あ り、 政策 目標 に
そ った対象 を中心 に融資 を行 って民 間 を補完 してい る、等 の主 張 が な され る場合 が多
い (
注 5)。
この間題 は、住 宅 ロー ンを借 りる消費者 に とって どの よ うに と らえ るべ きで あ ろ う
か。 「
金利 コス トが低 いか ら、 まず公 的融資 を利用 す るのは当然 だ」 とい うこ とだけで
片づ け るこ とはで きない。公 的融資 の調達 コス トも合 わせ て考 え る必 要 が あ るか らで
ある。現行 のシステムでは、郵貯 を中心 とす る原資 コス トに比 べ て融 資 の金利水 準 を
低 く抑 えてい るので、 そのギ ャップを埋 めるため に、一般 会計 か ら利 子補給 が行 われ
055億 円 にの
てい る。 ちなみ に住 宅金融公庫- の利子補給額 は、 93年度 当初 予算 で 4,
ぼってい る。 同様 の利子補給 は他 の政府金融機 関で も見 られ、公 的金融 (
財政投融資)
の問題 を議 論す る場合 つね に出て くる問題 である。
ここで は、公 的金融全体 の問題 に立 ち入 る余裕 はないが、 と りあ えず以 下 の 3点 を
指摘 してお きたい。
第 1は、 一般会計 か らの利子補給 が認 め られてい るため に、 他 の公 的金融機 関 と同
様 、調達 ・運用両面 を貫 いて市場 メカニズ ムが効率性 を高 め る とい う仕 組 みが十分 に
公 共性」 の形式 的 な主張 をい くら政策 当局 者 が
存在 しない こ とである。 公 的融資 の 「
繰 り返 して も、 それ をその まま受 け入 れ ることはや は りで きない。
第 2に、利子補給 が た とえ国民経済的 に見 て妥 当であ る と して も、 それ は国民全体
の負担 で公 的融資 を受 ける者 の負担 を肩代 わ りす る ことを意 味 す るか ら、 つ ね に公 平
性 の観 点 か らのチ ェ ックが必要 になる。 したが って、十分 に資 金調 達 能力 の あ る者 に
まで低利融 資 を行 う必要 はな く、①融資対象者 の所得制 限 を厳 し くす る こ と② 所得 水
丑
準 に よって金利水準 を調整す ること、 な どの工夫 が政策的 に求 め られ る。 と くに、 (
について言 うと、住 宅金融公庫 の融資 を受 けた世帯 の うち、 第 Ⅳ、 第 Ⅴ分位 の高所 得
7
6
第 Ⅱ部
3.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
層 の比率 が約 3割 に達 してお り (
第 Ⅴ分位 は 1割程度、 (
注 6))、 どこまで公 的機 関が
面倒 を見 る必要があるか とい う問題 は改 めて議論す る余地が ある。
第 3に、一般会計 を通 じた利子補給 に よる低利融資 で は な く、 税 制 に よる優 遇措 置
(
税額控 除な ど) に よって借 り手 を直接優遇 す る制度 にシフ トすべ きである とい う意見
、ては、財 政負担 の比 較 や所 得 再分 配効 果 を考
も検討 に値す る。 ただ し、 この点 につし'
慮 した分析 が必要 である (
注 7)。
(
競争 が進 まない 日本 の住 宅金融市場)
住宅金融 システム をめ ぐる第 2の論点 は住 宅金融市 場 の競 争状 態 が十分 で あ るか ど
うかである。 もともと住 宅金融 は、 「
借 り手 」としての消費者 が金融 自由化 のメ リッ ト
を最 も享受 で きる分野 のはずである。 民 間金融機 関 に して も、 リテ ー ルの拡 大 は金 融
市場 の競争 の中で最 も中心 的 な役割 を果 たす もの と考 え られてい た 。 た しか に、 80年
代後半 には、各民 間機 関は資産 の有効活用 をうたい文句 に、 アパ ー ト ・マ ンシ ョン ・
ロー ンや根抵 当権型 ロー ンとい った不動産担保 ロー ンを強力 に推 進 した 。 しか し、 こ
れ らは消費者 の住 宅取得 に関わる純粋 な意味での住宅 ロー ンで は な く、 しか もバ ブル
の崩壊 とともに急速 にその規模 が収縮 した。 住 宅 ロー ン金利 や融 資 条件 は どの銀 行 に
行 って もほ とん ど同 じで、 旧態依然 とした横並 び状態 が続 いてい る 。 さ らに、 どの銀
行 を選 ぶかは事実上宅建業者 に よって決定 されてい るこ と も多 く、 消 費者 は どの銀行
にロー ンを借 りたのか払込 みの指示があって初 めて知 らされ るケース もある らしい。
こう した現実 は、 アメ リカ とは対照的である。 前述 の ように ア メ リカで は、 金 融 自
由化 に よって住宅金融市場 に従来 の住宅金融専 門機 関 だけで な く他 の業 態 も参 入 す る
ようにな り、競争 が激化 した。 それが、住 宅 ロー ンの証券 化 と も相 ま って住 宅資 金供
給 を拡大 させ、 また、消費者 に対 す る住 宅金融サー ビスの向上 に もつ なが ってい る。
金利 や融資条件 も各機 関でそれぞれ特色 があ り、各地域 で そ れ らを比 較 す る情 報 を消
費者 に提供す る ビジネス (
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e
ar
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ngho
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e
)す ら存在 す る。
日本 の場合 、個 人向け住 宅 ロー ンを専 門に扱 うために1
970年代 以 降、 住 宅金融専 門
会社 (
住専) が銀行 、生命保 険、農林系金融機 関 な どが出資 して設 立 され、 市場 に参
入 してい る (
現在 8社)。住専 の参入 は市場 の競争 を高 めるはずであったが∴実際には、
都市銀行 な どが個 人向け住 宅 ロー ンに積極 的 に乗 り出 した影響 で、 住 専 は個 人 向 けで
7
7
はな く住宅 開発業者 な ど企業向けの不動産関連融資 を拡大 してい った 。 これ は、 住 専
の出資元 である都市銀行 な どが、総量規制 のかかってい た不動 産 関連融 資 を住専 な ど
ノンバ ンクを通 じて間接 的 に延 ばそ うとしたためであ り、 バ ブルの崩壊 とともに不 良
債権 の大量発生 につ なが ってい る。 したが って、住専 の参入 は結局住 宅 ロー ンの借 り
手 としての消費者 にそれほ ど大 きなメ リッ トを与 えなかったことになる。
(
市場 の競争状態 を高 めるために- 住宅 ロー ン債権 の証券化)
公 的金融 を除 くと、銀行 が住 宅金融 の中心 的な担 い手 となる現在 の状 態 は、 しば ら
くの間続 くとみ られる。 大量 の不 良債権 を抱 えて じり貧 の住専 は、 お そ ら く縮小 ・再
編成 の道 をた どることになろ う。 しか し、住宅金融 の よ り長期 的 な展望 を考 える場合 、
銀行以外 の さまざまな業態 が市場 に参入 し、顧客獲得 のため に競 争 す る こ とが で きる
ような仕組 み を検討 してい くことはやは り重要である。
そのための一つの方向は、住宅 ロー ン債権 の証券化 であろ う。 住 宅 ロー ン債権 の証
券化 が一般化すれば、他業態 か らの住宅信用市場へ の参入 も可 能 とな り、 市場 の競 争
状態 も高 まることが期待 され るか らである。 アメ リカでは、銀行等 が融資 した住宅 ロー
ン債権 を、資金 に余裕 がある機 関投資家 に販売 し、 それ を売 った資金 を再 び住 宅 ロー
ンに回す とい うことが一般化 している。住宅 ロー ンはその性格 上 長期 貸付 で あ るが、
銀行 の原資 は 3-5年 とい う比較的短期 の預金が中心 であ るた め、 住 宅 ロー ン債権 の
証券化 は調達 と運用 のイ ンバ ランスを調整す ることになる。 アメ リカで は、 政府抵 当
GNMA)、連邦抵 当金庫 (
FNMA)、連邦住宅貸付抵 当公社 (
FHLMC)
金庫 (
等 の政府系機 関が、民 間金融機 関の発行 した住宅 ロー ン債権 (
モー ゲー ジ) を取 りま
とめ、政府保証 を行 った り、 あるいはそれ を担保 として自ら証 券 (
モ ーゲー ジ担保証
券) を発行 した りして、債権 の証券化 を積極 的 に行 っている。
日本 で も、住宅抵 当証書、住宅 ロー ン債権信託、抵 当証券 とい う 3つ の形 態 で、 住
宅 ロー ン債権 の証券化 は始 まってい るが (
注 8)、住宅 ロー ン残高 の規模 に比べ る とほ
とん ど存在 していない と言 っていいほ ど発展 が進 んでいない。 最大 の原 因 は、 証券化
の対象 となる債権 が固定金利 に限定 されてい るか らである。 民 間金融機 関が現在 行 っ
てい る住宅 ロー ンのかな りの部分 は変動金利型であるため、 証 券化 が進 み に くい仕 組
み になっている。
7
8
第 Ⅱ部
3.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
住宅 ロー ン債権 の証券化 を進 め るためには、① こう した証 券 化 自体 の仕 組 み を改 め
る とともに、②住 宅金融公庫 な どの公 的機 関が、 アメ リカの上記機 関 の よ うに買 い敬
り ・保証 を通 じて住 宅 ロー ン債権 の証券化 を促進す る とい う方 向が検 討 され るべ きで
ある。 従来型 の直接金融 に よらず とも、 こうした証券化 を通 じて政 策 目的 に沿 った住
宅金融 もある程度誘導 で きる と思 われる し、市場 メカニズ ム を活 かす とい う点 で もこ
の方が優 れている。
(
信用 リス クへ の対応)
住宅金融 については、狭義 の消費者信用 と違 って、信 用 リス クの問題 はい まの とこ
ろ表面化 していない。 やは り消費者 に とって も、長年 にわ た って拘 束 され る住 宅 ロー
ンを組む場合 は、通常 の耐久消 費財 やサー ビスの購入 の た め に ロー ンを組 む場 合 に比
べ て慎重 にな らざるを得 ない とい うことなのか もしれ ない。 しか し、 住 宅金融 の規模
が今後 ます ます拡大 していけば、信用 リス クへ の対応 は どこか で検 討 しなけれ ば な ら
ない問題 である。
ところが、現在 のシステムは信用 リス クに対 して十分 で あ る とは考 え られ ない。 た
しか に、公 的融資 については住 宅金融公庫 の住 宅融資保 険 や公 庫 住 宅融 資保 証協 会 の
保証、民 間融資 については損保会社 の住宅 ロー ン保証保 険 や保 証会社 の住 宅 ロー ン保
証 な どの制度 はある程度 そ ろってい る。 しか し、融資 その もの の条件 を見 る と、 消 費
者 の債権 ・債務状況 やいわゆるク レジ ッ ト ・ヒス トリー はほ とん ど審査 の対象外 となっ
ている。住宅金融公庫 の場合 、 「申込 み本人の月収が、公庫借入金 の毎 月の返済額 の 5
倍以上」といった フローの所得水準がチ ェックが され るだ け だ し、 民 間 の場 合 もこの
点ではほぼ同様 であ る。
こう した状況 は、金融機 関が住宅 ロー ンを融資す る際 に残 高状 況 や ク レジ ッ ト .
ヒ
ス トリー を厳格 に審査 し、 またそ う した信用情報 を提供 す るサ ー ビスが確 立 して い る
アメ リカ とは、大 き く異 なってい る。 消費者金融 の場合 と同様 に、 個 人信 用 情 報 の イ
ンフラが整備 されてい なければ、住 宅信用市場 のシステ ム全 体 が大 き く揺 るが され る
危険性 がつねにづ きま阜 う。 前節 車述べ た ような信用情 事良の整備 を 目指 した政 策 面 の
取組 みは、住宅金融 において も同様 に重要 である。
7
9
(
4) ま と め
本章での主要 な論点 を要約すれば、以下 の ようになろ う。
80年代以 降 (
狭義 の)消費者信用 は飛躍 的 に延 びて きてい るが、 これ は、 大型 景気
下での消費需要 の高 ま りや株式 ・土地 な ど- の資産運用 を行 うための資金調 達 とい っ
た家計 サ イ ドの行動が、金融緩和 を背景 とす る民 間金融部 門の積極 的 な与信 行動 とう
ま くマ ッチ した ことが大 きな要 因 となってい る。 一方、住 宅信用 も住 宅 ブー ム に乗 っ
て この間順調 に拡大 してお り、その消費者信用 に占める重要性 は依然高い。
しか し、 この ような市場 の量的拡大 に もかかわ らず、消費者信用 、 住 宅金 融 と もに
政策的 に取 り組 まなければな らない課題 は多 い。現行 のシス テムで は、 今後 そ の進展
が予想 され る経済 のス トック化 や金融 自由化 に十分対応 してい くことがで きない。
消費者信用 については、個人の信用情報 に関す る基盤 が きわめ て不 十分 で あ る とい
うことが最大 の問題 である。 この点 については消費者信用 の各 業態 で個 別 に対 応 が進
みつつあるが、問題が業態 をまたが る性格 を持 つため、信 用情報 の整備 に関す る統 一
的 なガイ ドライ ンの提示が政策的 に強 く求 め られる。 その場合、消費者のプライバシー
の保護が厳格 に保証 される仕組み を検討す る必要がある。
住宅金融 について もこうした信用情報 の整備 は重要 な課題 で あ るが、 その他 に、 住
宅金融公庫 を中核 とす る公 的金融 に大 きなウエ イ トを置 い てい る現行 の シス テ ム を維
持 してい くべ きか どうか を改 めて検討す る必要がある。 また、 住 宅金融 を通 じて金融
自由化 のメ リッ トを消費者が享受 で きる ようにす るためには、 住 宅 ロー ン債 権 の証券
化 を通 じて市場 の競争 を促進す る とい う方向 も検討すべ きである。
〔
注〕
(
1
)
各業態 における最近 の取組み については、 『
月刊消費者信用』 1
992年 5月号が詳 しい。
(
2)
実際、国民生活 セ ンターによる と、全 国の消費者生活 セ ンターに相談 に来 た多重債務 者 の約 4分 の
。 『月刊消費者信用』 1992年 7月号。
1は、 2つ以上 の業態 に債務 を負 っている (
91年度 )
(
3)
行政側 の対応 としては、消費者信用 をめ ぐる消費者教育 の指針 を示 した経済企 画庁 『カー ド社 会 を
1
992年) な どがある。
生 きるあなたへ』 (
(
4)
以下 の点 については、藤森正敏 『カー ド業界 』 (
1
991年、教育社)第 5章、島田和夫 「OECD勧告
β
〃
第 Ⅱ部
3.消費者信用 ・住宅金融の課題 と政策
再考」(
『
月刊消費者信用』 1
9
9
3
年 4月号) を参考 に した。
(
5
)
例 えば、住宅金融公庫 ・住宅金融研究 グループ編 『
新版 ・日本の住宅金融』 (
1
9
9
3
年、住宅金融普及
協会)第 5章 を参照。
(
6)
住宅金融公庫 「
公庫融資利用者調査報告 (
個人住宅建設資金編)
」 による。
(
7
)
本間正明 『日本財政の経済分析』 (
1
9
9
1
年、創文社)第 3章 は、住宅建設 に対す る同一の効果 をもた
らすのに必要 な財政負担 を、①公庫 の貸出金利 の引下げ②公庫 の融資額の拡大③ 税額控 除 の対象期
間の拡大の 3つのケースについて比較 している。
(
8
)
住宅 ロー ン債権 の証券化 の実際 については、岡崎泰造 ・占部勲司 『
住宅金融 の知識』 (
1
9
9
1
年、 日経
文庫)Ⅳ、住宅問題研究会 『
1
9
9
0
年代 における住宅金融の課題(
2
)
』(
1
9
9
2
年1
1
月、住宅金融普及協 会
/住宅問題調査会) 5.を参照。
8
1
4. 公的金融の役割 とあり方
(
1) 公的金融の仕組 み
財 政投融資 の定義 は、大蔵省理財局 の方 々が編集 した 『
図説財政投融資』 (
平成 4年
度版) に よる と、 「国の制度 ・信用 を通 じて集 め られ る各種 の公 的資金 を財源 に して、
国の政策 目的実現 のため に行 われ る政府 の投融資活動 の こと」 とされ てい る。 この定
義 は、厳密 にい うと、公 的 な機 関 (
の集合体) に よる金融仲介 を意味 してお り、公 団、
事業団等 の財投資金 を使 ってサー ビス を提供 してい る機 関 は含 まれ てい ない、 とい う
意味で不十分 である。
しか し、財政投融資機構 を、上 の定義 の ように、公 的金融仲 介 を軸 と して考 え る こ
とは、問題 点 の所在 を明 らか にす る意味では、極 めて有意義 であ る。 以 下 、 公 的 な機
関で金融仲介 を行 ってい る組織 を公 的金融仲介組織、略 して公 的金融 、 と呼 ぶ こ とに
す る。
最初 に、全体 の金融機構 の中で、公 的金融が どの ような位 置 にあ りどの ような組織
になってい るか をみてお こう。 金融機構 を簡単 に定義す る と、 そ れ は資 金余剰 主体 か
ら資金不足 主体 に資金 を流す仕組 み と捉 えることがで きる。 図 1は こ う した機構 を簡
略化 して措 いた ものであ り、 図 2は、 この中の公 的金融 の部分 をやや詳 し く見 た もの
である。
公 的金融 は、資金 の受入機 関である郵便貯金、簡易保 険、公 的年金 (
厚 生 年金 、 国
民年金)、 これ らの機 関の受 入 れた資金 を統合管理す る大蔵省資金運用部、 そ してそれ
ぞれの 目的 に応 じて投融資 を行 う政府系金融機 関、 と相 互 に独 立 した機 関 か ら構 成 さ
れてい る。 財政投融資計画 に含 まれる国 (
琴別会計) や地方公 共団体 、 公 団、 事 業 団
等 は、公 的金融 に含 まれず、 これ らは、図 1の資金不足主体 に分類 され る。 公 的金融
の最 も大 きな特徴 は、 こう した機 関がそれぞれ独立 に (
機 関 に よってそ の強 さは異 な
るが) 収支相償 の条件 を課せ られてい ることと、公 的金融全体 と して、 特 に政府系 金
融機 関 を窓口 とした政策金融 を行 う役割 を併 せ て課せ られてい ることである。
8
2
第 Ⅱ部
金
図
1
融
機
4.公的金 融 の役 割 とあ り方
構
(
S< Ⅰ)
(
S> Ⅰ)
図
2
(
不足主体)
国
(
財投協力運相)
資 金 余 剰 主 体
J
-
-
_
r
貯
郵
保
簡
i
r
厚
金
生
年 民
金
年
国
I
,
I
'
r 蔀
運
金
餐
用
(
自主運用)
収益重視
他
公
日.
日本輸
公
本
の営
開
融出入
発
資
公機
庫庫
関
銀銀
政府保証債
行
r
(
2) 公的金融に関する関心の高 ま り
近年、財 政投融資制度 あるいは公 的金融 に対す る関心が高 まってい る。 この理 由 と
しては、 い くつか考 え られるがそれ らを列挙す る と、①金融 自由化 の進展 、② 人 口の
高齢化 に よる公 的年金財政 の悪化 の懸念、(
彰社会資本の充実 の要請 、 ④ 最近 の景気 の
落 ち込 み に対 す る財政投融資 の景気浮揚効果 の期待等、⑤ 1
991年度後 半 か らのい わゆ
る郵貯 シフ トの発生 とマ ネー ・サ プライへ の影響、 といった ものであろ う。
①
金融 自由化 の進展
まず最初 に挙 げ られるのは、金融 自由化 の進展 であ る。 預貯 金 金利 の 自由化措
置 として、本年 6月21日よ り、定期預金 の金利 が預金高 にかか わ らず完全 自由化
され、郵便局 の定額貯金 の金利 もまた 自由化 される。 流動性預 金 につ い て は、 金
利 自由化 の第一歩 として、昨年 6月、 2つの タイプの新型貯蓄預金が導入 された 。
来年春 頃には、流動性預金金利 の完全 自由化 が予定 されてい る。 さ らに、 民 間銀
行 は、資金 の調達 と運用 の機 関 ミスマ ッチによる金利 変動 リス クを少 な くす るた
め、 また、定額貯金 に対抗 す るため、 中長期 の定期預金 の導入 を検討 している。
他方 で、金融機 関の間の業務分野規制 も緩和 され、限定付 きで はあ るが、 金融
機 関は、子会社 をつ くり他業態 に参入で きることになった。 長期信 用銀行 や大手
の都市銀行 は証券子会社 を設立 し、 四大証券会社 は信 託銀行 子 会社 を設立 す る意
向である。
こう した金融 の 自由化 は、時代 の流 れの中で引 き返 す こ とので きない変化 で あ
るが、 同時 に、金融 システムの効率性 の向上、小 口 と大 口の預貯 金者 の間で の公
平性 の確保 、国際的 になった金融取引- の対応等 の観 点 か ら、 好 ま しい進展 方 向
と考 え られている。 ただ し、金融機 関間や金融機 関 と企 業 の間 の競 争 条件 の片 寄
りとか利益相反 といった望 ま しくない事態 の発生 を、 例 えば フ ァイヤー ウ ォー ル
の ような何等 かの手段 で、押 えることが必要 である。
ところで、金融仲介機構 の一翼 を担 っている公 的金融 は、 どの ように して、 金
融 自由化 の流 れに対応すべ きであろ うか。郵便貯金金利 の 自由化 は、長期 的 には、
公 的金融 としての調達 コス トを引 き上 げる効果 をもつ と思 われ る。 か とい って、
郵便貯金金利 を民 間銀行 の預金金利 と横並 びに しなければ、 郵便 貯 金 が集 ま らな
8
4
第 Ⅱ部
4.公的金融の役割 とあり方
くな り、財政投融資 に必要 な資金量 を集 め るのにに支 障 を きたす こ とに な りか ね
ない。 もっ と根源 的 には、個 人貯蓄 の 3割弱 を有 す る郵便貯 金 が金 融 自由化 に積
極 的 に対応す ることに よ り、 国民 の資産選択上 の厚 生 を高 め る こ とが必 要 で あ ろ
う。
金融 の 自由化 の進展 に対 して、他 の財投機 関 も対応 を迫 られ てい る。 1
991
年6
月の金融制度調査会報告 「
新 しい金融制度 について」 において も、 「政府 関係 金融
機 関 をめ ぐる問題 は、単 に金融制度 の問題 に とどま らない もので あ るが、 今 後 に
おいて も、金融制度 の見直 し等 をも踏 まえ、 その幅広 い性格 に も十分留 意 しつつ、
長期 的 な観点か ら、引 き続 き見直 しを行 ってい くこ とが必要 であろ う。 」とされ、
この間題 が今後 の重要 な検討課題 であることが記 されてい る。
② 人 口の高齢化 による公 的年金財 政へ の懸念
9
8
5
年 には、 6
.
7人 の働 き手 (生 産 年
厚生省 の人口問題研 究所 の推計 に よる と、 1
齢 人口) が一人の老人 を養 っていたが、 2
005年 には3.
5人 の働 き手 、 201
5年 には
2
.
7人の働 き手 が老人一人 を養 うことになる とい う。
現在 の公 的年金制度 は、 その大半が、若 い世代 が老齢 者 の年金 を負 担 す る 「
賦
課方式 」に依存 してい る。若 い世代 に比べ て老齢者 の数 の増 大 は、 若 い世代 の負
担 を著 しく高 めるか、 あるいは、年金 の給付水準 を著 し く低 め る こ とにな る。 厚
生省 が本年 3月 に年金審議会 に報告 した年金財 政 の暫 定 試 算 結 果 に よる と、 厚 生
0歳支給 開始 を維持 した場合、毎 月 の保 険料 は現在 の 1
4.
5%か ら
年金 は、現行 の6
2
0
2
5
年 には 3
4.
2%に上昇 し、 また支給 開始 を段 階 的 に65歳 に引上 げ て も2
8.
8%に
,
700円 か ら201
5年 に
なる とい う。 国民年金 に関 して も、毎 月の保 険料 が現 在 の 9
は'
1
9,
8
0
0円 になる とい う。 また、麻生良文民 の試算 に よれば、厚生年金 に関 して、
1
9
2
0
年生 れの人 は、現在価値 で、 3
8
8
万 円の保 険負担 に対 し、 5
,
61
7万 円 の給 付 を
9
4
0
年生 れの人 は、 1
,
41
3万 円の負担 に対 し、3,
2
3
7
万 円の保 険給付 を得 るが 、
得、1
1
9
8
0年生 れの人 は、2,
2
3
3
万 円の負担 に対 し、 1
,
7
2
2
万 円 の給付 、 2
000年 生 れ の人
,
7
9
9万 円 の負 担 に対 し、 わず か 1
,
293万 円 の給 付 しか受 け られ ない とい う
は、 1
4巻、 1
9
91
、 8月号 」
)。
(
郵政研 究所 「
調査 月報 3
厚生年金お よび国民年金 の積立金 の総額 は、平成 5年度 には、 1
0
0兆 円 に もな る
8
5
と予想 され るが、 こうした積立金の運用収益 を増大 させ る こ とが、 若 い世代 の負
担 の軽 減、老齢者 の給付水準 の低下抑制 には、重要 な課題 となっている。
(
参 社会資本 の充実の要請
財政投融資 に関す る関心 の高 ま りの第三 の理 由 として、 日本 が 「生活大 国」 に
なるためには、社会資本 の充実が不可欠であ り、財 政投 融資 がそ の役 割 の一端 を
担 う必要がある とい う認識が高 まっていることが挙 げ られる。
平成元年九月か ら開かれた 日米構造協議 において、 日本 の社会 資本 の充実 の重
要性 が議論 され、 これ を踏 まえて、 1
9
9
0年 6月、 「公 共投 資基 本計 画」 が策定 さ
9
9
1
年度 か ら2
0
0
0
年度 までの 1
0年 間
れた こ とは、記憶 に新 しい。 この計画では、 1
に公 共投資 を約430兆円行 い、その中で、 下水 道 、公 園、 廃棄物処 理施設 、 厚 生
0%
福祉施設、文教施設 といった生活環境 ・文化機能 に係 わ る公 共投 資 の割合 を6
程度 と、過去 1
0
年 間の5
0%台前半か ら増加 させ ることが うたわれ てい る。 また、
そのために必要 な資金 の財源 については、 「
租税 、公債 、財 政投融資資金、民 間資
金等 を適切 に組み合 わせ る」 とされている。
この財源 の内、民 間資金 は、JRや NTT等民営化 した企 業 の投 資資金 で あ り、
これ を別 にす る と、無償 の税収 を基本的 な資金源 とす る財 政資金 (
公債 も結局 は
租税 で元利金が支払 われる) と、有償 の資金 である財投 資金 が用 い られ る こ とに
なるが、 どの ような基準 によ り、二つの資金 を使 い分 け るかが は っ き りしてい な
い。特 に、公 共的 な社会資本 は、無料 もしくは投下費用 よ りも低 い使用料 で国民
に提供 され ることが多 く、財投資金 を使 づた場合 には、 財投 機 関 の収 支相償 を満
たす ため、最終的 には、 その差額 を一般会計 が負担す る こ とになる。 この意 味 で
は、財投資金 を財源 とす ることは、公債 の発行 と変 わ りが ない といえる。
公 共投資)、 出資、貸付以外 の 目的で公債 が発
財政法第 4条では、公 共事業費 (
行 され ることを禁 じている。 公共投資 は社会資本 を増加 させ 、 現在 の世代 だ けで
な く将来の世代 もその便益 を享受で きるので、 その費用 の一部 を将 来 の世代 の負
担 として も、世代 間の公平性 は損 われない、 とい うのが この条文 の基礎 にな って
い る考 え方である。 この考 え方か らすれば、租税 と■(
公債 +財投資金) の比率 は、
社会資本 に関す る世代 間の負担 の公平性 の観点か ら決 め られるべ きであろう。
β
β
第 Ⅱ部
4.公的金融の役割 とあり方
④ 財政投融資 の景気浮揚効果へ の期待等
第四の理 由 として、最近 の景気 の落 ち込 み に対 して、 財 政投 融 資 が景気 回復 の
有効 な手段 として期待 されていることが挙 げ られる。 公 団、 事 業 団等 の行 う公 共
事業 は、乗数効果 を通 じて有効需要 を高 め、 また、政府系 金融機 関 の固定金利 に
よる低利貸 出は、民 間の設備投資 を誘発 し、 やは り有効需要 を増加 させ る。 また、
民 間銀行 が不動産 を中心 とした不 良債権 を抱 えている こ と、 株 価 下 落 に よ り含 み
益 が大幅 に減少 しBI
S基準 を達成 す るため に リス ク ・ウエ イ トの高 い資 産 の増加
に慎重 になっていることか ら、民 間銀行 の貸 出が抑 え られ てお り、 ク レジ ッ ト ・
クランチ (
金融 の逼迫) の生 じる危 険性 に対 して、政府系 金融機 関が積 極 的 に民
間の資金需要 に応 じる状況が生 じている。
政府系金融機 関の融資 は、借入時か ら返済時 まで金利水 準 が変 わ らない固定金
利 であるため、市場 の金利水準が低 くなる と、借入期 間全体 の資 金 コス トが低 く
抑 え られる可能性が高 くな り、民 間の設備投資 を誘発す る効果が大 きい。
また、財政 と異 な り、起動 的伸縮的 に追加融資 を行 え る点 も景気対 策 と して財
政投融資が期待 される理 由で もある。
⑤
いわゆる郵貯 シフ トの発生
第 5の理 由は、 1
9
91
年後半 か ら∴郵便貯金 の大幅 な伸 び と民 間銀行 の預 金 の伸
び悩 み、 いわゆる郵貯 シフ トが生 じたことである。 郵便貯 金 の約 8割 を占め る定
額貯金 は、最長 1
0間固定金利 で預 けることがで き、金利 が高 い水 準 か ら低 下 す る
局面で人気化す る性質があ り、 1
9
80年頃 に も同 じ現象が生 じ、 郵貯 問題 と して話
題 となった。 この時期、定額貯金 に対抗 して期 日指定定期預金が創設 されてい る。
今 回は、マ ネー ・サ プライ (
M2+CD) の歴史的 に低 い伸 び率 の原 因の 一 つ と
して取 り上 げ られ、 また株価 の低迷 をもた らした要 因の一 つ とされ、 問題視 しさ
れることがあった。
M2+CDに郵貯 が含 まれない ことは、M2+CDが期 中の平均 残 で表 わ され るの
に対 し郵貯が期末残 デー タで表 わ されてい ること等、 か.
な り技術 的 な問題 で あ る
が、マネー ・サ プライが重要視 され るのは∴ それが経済成長率 、 雇 用 、 物 価 等 の
経済 の実体面 の動 きの先行指標 であるか らである。 金利 の 自由化 等 に よ り、 民 間
87
銀行預金、貸付信託、金融債、証券会社 の投資信託、郵便貯 金等 の間で資金 シフ
トが生 じる可能性 が高 まっている現在、マネー ・サ プ ライの概念 の再検討 が必要
であろ う。
(
3) 金融 システムの効率性 と公的金融
公 的金融 は、官業 による金融仲介であるが、その役割 は、① 金融 システム全体 の効
率性 を高 めること (この中には、金融サー ビスの利用機会 に関 し、 利用者 間の公 平性
を高 めることも含 まれる)、(
む競争 を通 じて、民 間金融機 関の保守的行動 を牽制す る こ
と、 にある と言 えよう。
金融 システムの効率性 に関 しては、以下の 4つの側面が考 え られ る。 第 1は、 資金
余剰主体 か らみて、資産運用 や受 け られる金融サー ビスの満足 度 が高 いか どうか に関
す る ものであ りポー トフォリオ効率性 と呼ぶ ことがで きる。 第 2は、 資金不足 主体 か
らみて、資金調達 に関す る満足度が高いか どうか、そ して不足 主体 間での資金配分 が
効率的か どうか とい うものであ り、配分効率性 と呼ぶ ことがで きる。 第 3は、 金融仲
介費用 に関す る もので、伸介費用効率性 と呼ぶ ことがで き、 第 4は、 経 済状 況 の変化
に対応 して、上記 3つの効率性が如何 に早 く回復 されるか とい う もめで、 ダイナ ミッ
ク効率性 と呼ぶ ことがで きる。 以下、公 的金融が これ らの効率性 とどの ように関 わ っ
ているか を検討 しよう。
(
3
ト① ポー トフォリオ効率性
第 1は、 資金 を運用す る主体 の観点か らみた もので、 資産選択 や受 け られ る金
融サー ビスについての満足度が大 きい程効率性が高い。 金融 の 自由化 の進展 は、
金融機 関の間の金利 や商品 ・サー ビスの開発競争 を通 じて、 利用 者 の効用 を高 め
ることが期待 されるが、反面、採算 の悪 い店舗 の整理が な され、 また口座管理料
の設定等サー ビスの受益者負担が徹底 され、過疎地域 の住 民 や経 済 的弱者 に対 す
るサー ビスの低下が生 じる懸念 もある。 こうした金融 自由化 の影の部分への配慮 、
す なわち、全国民が少 な くとも基本的な金融サー ビス を享受 で きる体 制 を整 える
000の郵便局 を持 ち、
ことが必要である。官業である郵便貯金 と簡易保険 は、24,
こうした機能 を果 たす役割 を担 っている。
8
8
第 Ⅱ部
4.公的金融の役割 とあり方
さらに、郵便貯金 の主力商品である定額貯金 は、 1
0年 間固定 金利 、 半年後 はい
つで もペネルティー無 しで解約可能、貯金 を担保 とす る借入 (
総合通帳サー ビス)
が可能、全 国の郵便局 で利用可能、 とい う収益性、流動性 、 利 便性 を兼 ね備 えた
金融商品で、人気 を博 しているが、 こうした商品 を提供 す る こ とに よって、公 的
金融が、第一 の意味の効率性 の向上 に役立 って きたことは事 実 で あ ろ う。 今 後 、
金利 の自由化 に対応 し、定額貯金金利 も自由化 されなけれ ば な らないが、 固定金
利 を推持す る とすれば、市場金利が高 い場合 にはその金利 を低 く設定 し、 逆 に市
場金利 が低 い場合 にはその金利 を高 く設定す ることが必 要 とな るで あ ろ う し、 ま
た、変動金利 の定額貯金 も考察 に値す る。
この定額貯金 は、民 間では提供 で きない商品であ り、 その見 直 しが必 要 で あ る
とい う考 えが よ く見受 け られるが、上記 の ように、金利 の設定 を変 えれ ば、 信 託
銀行 の ヒッ トや証券会社 の中期 国債 ファン ド、 MM F とか な り似 通 った もの とな
り、民 間で も十分提供 で きる商品 となろう。
(
3ト ②
配分効率性
効率性 の第 2の側面 は、資金不足主体 の観点か らで、 資金 を調達 に関す る高 い
満足度が得 られるか、そ して、社会的 にみて、望 ましい資金配分 が達成 され るか
どうかである。 公 的金融 は\資金配分 における市場 の失敗 を是正 す る機 能 を持 っ
ているが、それは、政策上必要 と思 われる分野 に、政府系 金融機 関が、優 遇 的条
件 で貸 出を行 うことで実施 されている。
市場金利 よ りも低 い金利 で安定的 に貸 出 を行 う政策金融 は、 借 入者 の資金 コス
トを低下 させ、その投資 を誘発す る効果 を持 っている。 借 入者 の投 資 の増加 は、
様 々な産業の生産物 に対す る需要 を増加 させ る波及効 果 を生 み、 さ らに人 々 の所
得 を増加 させ消費支出 を増 や し、経済 の生産の拡大 を もた らす こ とになる。 これ
が、景気 の浮揚対策 として財政投融資が期待 される所以 で あ るが、 その際 に も、
資金配分 の効率性 を考慮すべ きであることは言 うまで もない。
現在 、財政投融資資金が用 い られている分野 として、①保護 ・育成すべ き産業 、
企業の分野 (
技術 開発、エネルギー、農林 漁業 、 中小企 業等)、② 国民 の生 活上
必要 な長期資金 の分野 (
住宅、教育等)、(
彰社会資本の充実 に関す る分 野 (
道路 、
8
9
運輸 ・通信 、都市整備 ・地方 開発 、環境保護等)、④海外 との経済交流 に関す る分
野 (
貿易金融、経済協力) がある。 これ ら分野-の資金供給 の必 要性 は、 今 後 と
も続 くと思 われるが、詳細 な内容 については、社会 ・経 済環境 の変化 に対 応 して
見直 しが図 られなければな らない と同時 に、第 2節 で述べ た ように、 財 政資 金 で
行 うべ き分野 と財投資金 を投入すべ き分野 の区分 けを再考察す る必要 もある。
例 を、住宅 に取 ってみてみ よう。 地方公共団体 が アパ ー トを建 築 し住 民 に賃貸
す る直接供給方式 は、民 間アパー トに比べ て安 い家賃 で住 民 に賃 貸 す るため、 入
居す る人 とそ うでない人 との間に不公平が生 じる。 した が って、 低所得 者 に対 す
る社会福祉 的な政策 と位置付 け られる。
これ に対 し、持家促進 のための低利 による住宅金融方式 は、 人 々が 自己資 金 や
民 間金融機 関か らの借入 を併用 しなが ら住宅 を建築す るので、 政策 に要 す る費用
が少 な くて済み、 しか も、 それぞれの好 みにあった住宅 が建 て られ、 かつ個 々人
の財産 になる とい う利点がある。 他方、 自己資金や借 入能力 を持 た ない人 か らみ
れば、不公平 に感 じられるであろ う。 特 に、市場金利 と低利 融資 の際 の金利 差 が
税金か ら賄 われる場合 にはなお さらである。 しか し、大部分 の国民 が、 それぞれ
の ライフ ・ステージのある段 階で、低利融資が受 け られ るので あれば、不 公 平感
は、ず っ と少 な くなるであろ う。
(
3ト (
卦 費用効率性
金融 システムの効率性 に関す る第 3の側面 は、金融仲介 の費用 を どの程 度逓 減
させ ているかに係 わっている。 資金余剰主体 か ら不足 主体 に資金 を流 し、 逆 方 向
に金融資産 を流す にあた り、
.要す る費用 を少 な くす る程 よ り効率 的である。
金融仲介機 関の経営効率が高 いか どうか、
■そ して、証券市場 での取 引 費用 が低 い
か どうかが、 この効率性 を評価す る基準 とな り、金融機 関の間の競争 が この効 率
性 を高 める と考 えることがで きる。
金融業 においては、規模 の利益 と多角化 の利益 が大 きい とされている。 後者 は、
金融業務 を営むのにコンピュー タが必要不可欠 にな り、 金融業 が装 置 産業化 した
こと、銀行業、証券業等 の業務 内容 が接近 して きた ことが そ の要 因で あ るが、 金
融仲介 の効率性 を高 めるためには、規模 の大 きい金融機 関が多様 な金融 サ ー ビス
9
0
第 Ⅱ部
4.公的金融の役割 とあり方
を提供す ることが望 ま しい反面、寡占状況が進 み競争 が制限的 になる恐 れが あ り、
この点 に関す る配慮 が必要 となろ う。 また、金融業 には、専 門性 (
分 業) の利益
もあ り、 中小 め金融機 関は、木 目細 かいサー ビスの提 供 と他 の金融機 関 との提 携
によって規模 の大 きい金融機 関 と対抗 してい く必要がある。
さて、公 的金融 に関 しては、 この効率性 と関連 して、 民 営化 と統廃合 が議 論 の
対象 となろ う。 この うち、民営化 に関 しては、第 5節 で検討す ることに しよう。
(
3ト (
彰 ダイナ ミック効率性
金融仲介機構 の効率性 に関す る第四の側面 は、経済 の様 々 な変化 に対 応 して、
るか どうか とい うこ と
これ までに述べ た 1- 3を短時間で回復 させ るこ とが で き・
である。
資金余剰主体 の資産選択 に関す る選好 の変化 、資金不足 主体 の資 金 ニーズ の変
化 、金融仲介技術 の変化等 は、常 に見 られる ところであ るが、 金融 シス テ ム は こ
れ らの変化 にフレキシブルに対応 しなければな らない。
家計 の資産選択 は、資産水準 の上昇 によ り、
.従来 の安全 一辺倒 か ら、 多 少 の危
険は負担 して も高収益 を望 む姿勢 に変化 して きた。 また、 資 金 の運用 だ けで は な
く、資金 の借入 に対す る需要 も増加 している。 1
990年以 来 の株 価 の大 幅 な下 落 に
よ り、安易 な危険負担 や借入 に依存 した資産運用 の危 険性 が再認識 されてい るが、
長期 的 な趨勢 としては、 (
多少 の危険 を覚悟 しての) 高収益選好 の高 ま り、資産 と
負債 の両建 て化 は、進行す ることが予想 される。
資金調達 に関 しては、昭和 30年台前半 ∼45年頃の高 度経 済成 長期 にお い て は民
間企業 のニーズが高か ったが、 その後第一次石油 シ ョック時 を ピー ク と して財 政
の資金 ニーズが大 きくなった。 近年 は、政府部 門は赤 字 主体 か ら黒字 主体 に変 っ
て きている。 (
尤 も、国民年金 や厚生年金 を政府 の収入 とし政府貯蓄 に加 えてい る
ので、 これ を控 除す る と赤字 になる。 ) また次年度以 降景気対 策 の財 政資 金 需要
が高 ま り、赤字主体 になることが予想 される。 この ように、 政府 と民 間 の 問、 そ
して企業 間、企業 と家計 の間で資金 のニーズは時 と共 に変化す る。
金融 に関す る技術 も、 コンビュタ-の利用 に よ り飛躍 的 に進 歩 して きた。 例 え
ば、総合 口座 サー ビス、 オプシ ョン、 ス ワップの開発等 、 利 用 者 に対 す る新 サ ー
9
1
ビスの提供 は言 うまで もないが、 同時 に、金融仲介 に係 わ る費用 の低 減 に も大 き
く貢献 して きた。
こう した変化 に金融 システムが機敏 に対応 してい くこ とが効率性 の第 4の側 面
であるが、 この効率性 を高 めるためには、価格機構 の活用 と金融機 関の間の競 争
が特 に有効 である。
もちろん、資金配分 を市場 にのみ任せておいためで は社 会 的 な観 点 か ら必 要 な
分野 に資金が流 れない 「
市場 の失敗」 が生 じて しまうので、 それ を補 う必要 が あ
り、 その役割 を担 っているのが政府系金融機 関である。 したが って、 政府系金融
機 関 も時代 `環境 の変化 に応 じて融資先 を適正 に修正 してい く必要がある。
この ような観点 か ら、比較的似通 った分野 に融資 す る機 関 は統合 す る こ とが望
ま しい。融資 の判断 を行 うに当たっては、情報 の蓄積 が必 要 で あ り、 規模 の利益
が大 きい こともこの理 由 として挙 げ られる。 国民金融公庫 、 中小 企 業金融公庫 、
商工 中金 とい った中小企業対象金融機 関は、一定 の棲 分 けが な されてい るが、 そ
れぞれの ノウハ ウを結合 させ ることで、 よ り効率 的 な政策金融 が行 える可 能性 が
ある。
また、問題 に よっては、 国、地方、政府系金融機 関の間で協 調 した り、 相 互乗
入 れ を した りす る必要性 も出て こよう。 例 えば、人 々 の生活 に密着 した住 環境 の
整備 や都市計画 は、重要 な政策 のテーマであるが、 国、地方、 住 宅公 庫 、 中小 企
業公庫等 の協調 が大 いに役立つ と思 われる。
(
4) 官業の民業補完論
公 的金融 の果 たすべ き役割 に関 して、公 的金融 の活動 は、 民 間金融 の補完 に徹 すべ
きである とい う議論が よ くなされる。 この議論 は、郵便貯 金 や簡易保 険 とい った公 的
金融 の資金 の受入 口に関 して、 また政府系金融機 関 につい て もな されてい る。 そ こで
は、民 間金融が既 に提供 している商品やサー ビスについて は、 公 的金融 は新 た に提 供
すべ きではな く、民 間金融 と競合 しない分野 に限 って進 出すべ きで あ る とい う議論 、
公 的金融が既 に提供 している商品 ・サー ビスで も、民 間金融 が 同 じもの を提供 で きる
状況 になれば、公 的金融 は撤退すべ きである といった議論が なされる。
9
2
第 Ⅱ部
4.公的金融の役割 とあり方
こうい った議論 の前提 には、官業 は民業 に比べ て経営効 率 が悪 く、 また新 しい状 況
の変化- の対応が著 しく劣 る とい う考 えがある。 マ ネ タリス トのM. フ リー ドマ ンは、
市場機構 に全幅 の信頼 を置 くが、市場 の失敗 を認 めないので はな く、 その費用 よ りも、
それ を是正す る際の非効率 的 な行政的費用 が はるか に大 きい とい う判断 を してい る。
昭和 56年 8月の 「
金融 の分野 における官業 の在 り方 に関す る懇談会 」(
座長 ・有沢広
巳氏) 報告 では、 「国が行 う事業 は、市場原理 だけに委 ねてお くこ とが適 当で ない分 野
においてのみ、民 間業務 を補完 しつつ、適切 な役割 を果 た してい くこ とを基 本 とすべ
きである」としている。
しか し、 この見解 には、民 間金融機 関の私 的 な収益 ・費用 と社 会 的 な便益 ・費用 の
間 に生 じるギ ャップに関す る認識 の不足 がみ られ、 また、金融仲 介 業務 にお い て、 官
業 よ りも民業 の方が効率 的である とい う前癌 が当然 の こ と と して置 か れ てい る こ とに
注意すべ きである。
金融 システムは、政府 の最大 の干渉 と統制下 にある部 門であ り、 そ の規模 、 そ の価
格 、危険回避 、 その貸 出先 に対 して詳 しい規制が なされてい る、 とい うの は、 英 国 の
経済学者 レヴェルの言葉 であるが、 その極 めて強 い外部性 の故 に、 社 会 的便益 お よび
費用 が私 的 な便益 お よび費用 と乗離す るため に、金融 シス テ ム は政府 お よび 中央 銀 行
の厳 しい規制下 にあ り、 また公 的金融 が存在 し活動 を行 ってい る。 元 々、 金 融 シス テ
ムは、有沢報告 が前提 に してい る よ りも遥 か に、市場原 理 に任 せ る こ とが 困難 な部 門
なのである。
我 が国 において も、近年 に至 るまで、大蔵省 、 日銀 は、信 用秩 序 の維持 を 目的 と し
て、経営効率 の最 も悪 い金融機 関で も経営 を続 けることので きる 「護 送船 団方 式 」 と
呼 ばれる金融行政 を行 って きた し、金利規制、業務分野規 制等最 近緩 和 されつ つ あ る
諸規制 も競争 を制限 し現存 す る金融機 関 を保護す る色彩 の強 い ものであ った。
金融 の 自由化 で表現 され る金利規制 お よび業務分野規制 の撤 廃 ・緩和 も、 他 方 で、
BIS規制で代 表 される自己資本比率規制、監督官庁 の監視 の強化 、 預 金準 備 制 度 の
強 化 ・拡 充 等 の融 の規 制 を伴 っ て お り、 正 確 に は、 規 制 の撤 廃 ,緩 和 と再 規 制
(
De
r
e
gul
at
i
o
nandRe
r
e
gul
at
i
o
n)である。 ただ し、最近 の この動 きが 、・
信用秩序
の維持 を図 りつつ、 で きるだけ市場原理 を導入 し、金融機 関 の間 の競 争 を促進 させ る
9
3
ことに目的があることは疑 いが ない。
民 間金融 は、
.様 々な規制下で、 自己の利潤 をで きるだけ高 い水 準 でかつ安 定 的 に確
保す るよう行動 している。金融機 関の間の競争 を促 す規制 の変更 を行 って も、 社 会 的
に必要 な度合 いに従 った資金配分 が行 われる保証 はない等 「市 場 の失敗 」 が な くなる
ことは無 く、公 的金融 の役割 は依然 として存続す る と考 え られる。
日本経済 を動 か してい る中心 的主体 は民 間であることは もち ろんで あ り、 金融 活動
の中心 となっているのは民 間金融 であることも言 うまで もない。 金融分 野 にお け る官
莱 (
公 的金融) の民業補完 は、上 の ような議論 よ りも広 い視点か ら、 M. フ リー ドマ
ンの前提 を も含 めて、金融機構全体 の効率性 をよ り高 め るか どうか とい う観 点 か ら判
断すべ きである。
(
5) 郵便貯金の民営化論
さて、公 的金融 に関 しては、 その効率性 と関連 して、民営化 と統廃合 が よ く議 され
る。 この うち、民営化 に関 して考 えてみ よう。
昭和56年 に設置 された第 2次 臨時行政調査会 の答 申を経 て、 電信 電話公社 と専 売公
社 が民営化 され、国鉄が分割民営化 された。 これ らの会社 は、 民営化 され て経営効 率
が高 ま りサー ビス も向上 した と評価 で きる。
公営企業が民営化 され ることの利点 として、①法律 に よ り規 制 され てい た営 業 内容
が 自由にな り、状況 にマ ッチ した機動 的経営戦略が採用 で きる ようになる こ と、 ② 政
治的 な利害 関係 による調整 か ら免 れ、企業 の利益 を中心 とした経営 が可能 になるこ と、
③賃金体系等、労働者 の労働意欲 を高 める政策が採 れるこ と (
親方 日の丸 的意識 の払
拭)、が挙 げ られる。 つ ま り、公営企業 の民営化 は、企業の営業活動 に関す る規制 の緩
和 ・撤廃 と経営 についての 自己責任 の明確化 を志 向す るものである。
公 的金融組織 の内、 よ く話題 となる郵便貯金 の民営化 について考 えてみ よう。
話 は昭和 4
3-4
4年 にさかのぼる。 当時、郵政事業公社化構想 が巻 き起 こった。 郵 政
事業 の建 て直 し、近代化 のために、郵政省 が事業 を公社化 す る構想 を打 ち出 したの に
対 し、民 間金融機 関 と大蔵省 は、絶対反対 の態度 を採 った。
その際の論拠 は、特 に郵便貯金事業 と簡易保 険事業が、公 社化 に よ り企 業 と しての採
9
4
第 Ⅱ部
4.公的金融の役割 とあり方
算性が重視 されるようになれば、庶民 の零細 な貯蓄の受入 れ に止 ま らず、 また与信 業
務 にも進出す ることにな り、公共性 の観点か ら民 間金融機 関 を補 完 す る とい う本来 の
役割か ら逸脱す ることになる、 とい うものであった。結局、郵政審議会 の答 申が、 一
部 の反対者の意見 によ り公社化 に対 して明確 な結論 を出す こ とがで きず、 そ の ま まに
夫邦宏治著 「郵貯vs銀行」(プ レジデ ン ト社) に
なって しまった という経緯がある。 (
詳 しい。)
最近 は、む しろ民 間銀行 のサイ ドか ら郵貯 の民営化 を促 す声 が強 く聞 えるが、 当時
と見解 を変 える大 きな状況の変化が生 じている とは思 われ ないの に何 故 で あ ろ うか。
・
郵貯が分割民営化 された場合、民 間金融機 関、特 に、地方 の中小 金融機 関 との競合 を
考慮する必要 は、金融 の 自由化が進展 し、 これ ら金融機 関の経営環境 が厳 し くな りつ
つある現在 のほ うが高 まっている といえるのではないだろうか。
上述の ように、民営化 は規制の緩和 ・撤廃 を意味 し、郵貯 が積極 的 に商 品 ・サ ーゼ
スの多様化 と貸 出・
業務への進出 を、 自らの判断 と責任 において行 うこ とになる。 一部
に、公共債投資機 関 として資金運用 を公共債 に限 った上 での民営化 を進 め る考 え方 も
あるが、経過措置 は別 として、民営化が なされる以上 は、経営 の 自由度 を高 め る方 向
での改正、す なわち、運用 に関す る自由度 を高 める制度改正 で なければ な らない。 現
在、郵貯 は、個 人や企業 に対す る貸 出 を行 ってお らずその ノウハ ウを持 って はい ない
(と思う) が、規模 の利益 を武器 として、早晩、民 間金融 に劣 らない知識 を修得す るこ
とも想像 に難 くない。
1
7
0兆円を超 える残高 を持つ郵貯 を、仮 に1
0の機 関に分割 した として も、平均 して 1
行1
7兆円の規模 の銀行 がで きることになる。 東京関東圏では、 第一勧 銀 を上 回 る50兆
円規模 の銀行が出現す るか もしれない。民営化 を議論す る際 には、 こ う した民 間金融
機 関 との競合 関係 を視野 に入れてお くことが重要である。
さらに、郵貯 は、財投資金 の調達機 関 としての役割 も担 ってい る。 郵貯 の民営化 に
あって は、財投資金の調達機構 を・
どの ように整備す るか も、重要 な論点である。
(
6) 公的金融の効率性 に関す.
る 2つの議論
公 的金融組織 の効率性 に関 し問題 とされる点 として、①財投 資金 の使 い残 し、.
②政
9
5
府系金融機 関へ の一般会計 か らの補助金がある。 これ らの問題 について検討 しよう。
(
6)
-(
∋ 財投資金 の使 い残 しの問題
財投 資金 の使 い残 しは、昭和 59年度 か ら62年度 にかけて激増 し、公 的金融 の非
効率性 を示す現象 として大 きな関心 を集 めた。 この時期 の不用額 は毎 年 1兆 円、
計画額 の 5%位 になった。 この原 因は、金融緩和 に伴 い、 民 間金融 が豊富 な資金
を比較 的低利 で貸 出 したため、政府系金融機 関の貸 出金利 と市場 金利 の差 が減少
したことにある。
財投計画 は、基本的には、年 に一度各財投機 関の翌年 の資金需要予 測 をベ ース
に して作成 される。 ところが、資金需要 は経済の景況や市場金利 の影響 を受 け、
正確 に予測す ることは殆 ど不可能である。 さらに、各財投機 関が予算 を増分 主義
で要求す る傾 向があ り、景気が落込み金利が低 い状況 で は、使 い残 しが発 生 す る
可能性 が高い。
政府系金融機 関は、国民経済的視点か ら資金の必要 な分野 で民 間の資金 が十分
に回 らない分野 に資金 を融資す ることを目的 としてい る。 こう した分 野 にお け る
資金需要 を掘 り起 こす ために、優遇的な条件 での融資 を行 う必要 が あ るが、 その
条件 を金利面でみると、次 の ようになる。
い ま、例 えば住宅の取得 の ような特定 の 目的のため に、 Ⅰだけの支 出 をす る主
・体 に対 して、 ∂の割合 の政策融資 を行 う場合 を考 える。 市場金利 を R、 政府系 金
融機 関の貸 出金利 (
政策金利) を ∈とし、
元利均等返済 を行 うもの とすれば、全額 を市場金利 で借 りた場合 との比 較 で節 約
される返済金 の (
市場金利)
_による割引現在価値 は、 もし返済期 間が十分 長期 に
及ぶ際 には、
R一言 ∂Ⅰ
R
の ように近似 される。 低利融資 によって、 この額 だけの補助金 を受 け、 支 出額 が
有斐 閣) 参照)。 例 を
少 な く済む計算 になる。 (
浜田 ・鴨池編 「金融論 の基礎 」 (
あげる と、住宅 を購入す る家計が、 2千万円の住宅公庫 の融資 を受 け る場合 、 市
場金利 を 6%、公庫金利 を 5% とすれば、約33
0万円の補助 を得ていることになる。
9
6
第 Ⅱ部
4.公的金融の役割 とあり方
ただ し、政策金利 は人々の運用利 回 り (
代表的 には、税 引後 の預貯 金金利) を
上回っていることが望 ましい。 とい うのは、 ある目的 の ため に政府系 金融機 関か
らの借入 を行 って も、様 々な理 由で金融資産 の運用 を行 ってい るのが普通であ り、
間接 的 にせ よ、政策金融 を利用 して利 ざや を稼 ぐ行為 は好 ま し くない と判 断 され
るためである。 政府系金融機 関か ら低利 に よる融資 を受 けてい る主体 が余裕 のあ
る資金 をその都度返済 し、その資金が別 の主体へ の政策 的 な融資 に回 る方 が、 政
策金融 の受益者 間の公平性 を高 める訳 である。
ともあれ、 こうした補助 によって政府系金融機 関 は民 間の支 出 を誘発 す るので
あるが、 この誘発効果が大 きければ、政府系金融機 関の使 い残 しは生 じず、 む し
ろ借 りたい主体 が借 りられない とい う信用割当の発生が予想 される。
したが って、政府系金融機 関の使 い残 しは、市場 金利 に比 較 して政策金利 が十
分低 く無 く、民 間の支出を計画額 だけ誘発す ることがで きず に生 じた現 象 とい う
ことがで きる。
ただ し、十分低 い政策金利 で も計画の需要が喚起 され ない状 況 のあ る こ とはい
うまで もないが、それは、誤 った計画策定 に依 る もので あ り、 その̀計 画 に従 うこ
と自体 が非効率 であって、む しろ使 い残 しの出ることが当然 で あ り、 また よ り効
率的である。
▲
要す るに、政府系金融機 関の融資 に関す る計画の策定 にあた って は、 社 会 的 な
観点か ら真 に政策金融 の必要 な分野 の確定 を行 うと同時 に、 融資計 画額 とそ れ を
誘発す るに足 りる政策金利 を考慮す ることが重要 であるこ ただ し、 この ときに大
切 なのは、上 に示 した式で表 わされるように、政策金利 の絶対 水準 で はな く、 民
間の市場金利 との相対 的な関係 である。 固定金利 か変動金利 かの議論 は別 に して、
政策金利 の市場金利連動型が必要 と考 えられる所以 である。
政府系金融機 関の使 い残 しの原 因 として、郵便貯 金 の集 り過 ぎが挙 げ られ る こ
とがある。郵貯 の大 きな伸 びが期待 される とき、財投計 画 で政府系 金融機 関 の予
算が必要以上 に大 きくな り、その結果、使 い残 しが発生す る とい う考 えである。
これは、郵貯資金の うち自主運用分 を除 くかな りの額 が てすべ て (
本来 の意 味
での)財投 の源資 として計画 されてお り、公 的金融 に入 る資金量 と政策 的 に必 要
97
な財投 資金 の量 との調整 の不十分 さと、事後的 な意味 で、 実際集 め られた郵貯資
金が財投資金 として支出 されるべ きであるとい う誤解 か ら生 じている。
郵貯 、簡易保 険は、人々の 自由な意志決定 に基づいて な され、公 的年金 もその
本来 の 目的のためになされてお り、政策的 に必要 な資金額 とは関係 が無 く、経 済環
境 の変化 にフレキシブルに対応す るために も、制度 的な見直 しが必要 な点であ る。
郵貯 、簡保、公 的年金 を通 じて公 的金融 に集 まる資金 の量 が、 必 ず しも財投 に
必要 な資金量 と同額 ではない ことは既 に述べ たが、一方 で、 公 的資金 の使 途 につ
いては、公共的色彩 の強い分野 に制限すべ きである とい う考 え方 が根 強 くな され
ている。
資金運用部資金法第一条 (目的) では、 「・・その資金 (
資金運用部資金) を
確実且 つ有 利 な方法で運用す ることによ り、公共の利益 の増進 に寄与せ しめ る こ
とを目的 とす る。
」とされているが、 これは、資金 の使途 を公共的用途 に限るこ と
を意味 しているのではない。例 えば、 中小企業や農林 漁業 を保護育成す るための
低利融資 は、公共的用途 とは言 えないが、公共 の利益 を増進 させ る こ とを目的 と
しているのである。
近年 のバ ブルの崩壊 に伴 い、民間の銀行 や住宅金融専 門会社 が担保 の差 し押 え
等 で保有 している土地 の売鈍 (
流動化) が進 まず、貸 出 しに支 障 を きた してい る
ので、土地買取機 関 を創設 し、銀行等 の保有す る土地 を流動化 す る構想 が進 んで
お り、 この土地買取機 関に、 日銀信用 や財投資金 の融 資 を行 うこ とが適 当か どう
かの議論が行 われた。結局、土地の買取機 関ではな く、 不 良債権 の買取機 関が誕
生 したが、 その際、非金融 の産業界 を中心 として、本 来 自己 の経営責任 に着 すべ
き失敗 に対 して、安易 に公 的援助 を行 うのは、従来 の保護行 政、 護送船 団方式 の
発想 に変 りがない、 とい う批判がなされ、銀行 サ イ ドも公 的資金 に依存 せず、 自
分 たちの出資で必要 な資金 を賄う ことになった。 しか し、 大手 の都市銀行 は とも
か く、地方 の中小銀行 はその負担が重 く、買取機 関 に不 良債権 を買 い取 づて もら
えない状況 にある と聞いている。
銀行 は、 その後、金利低下 の下で預金金利 の低下程 には貸 出金利 を下 げず業務
利益 を拡大 し、不 良債権 の償却 を図っている。 公定歩合 の引下 げの景気 浮揚効果
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第 Ⅱ部
4.公的金融の役割 とあり方
を著 しく減殺 した。
この ような とき、財投資金 を買取機 関に融資す るこ とは、公 共 の利益 の増 進 に
つながると思 われる。 ただ し、過度 な銀行保護行政 を避 けるため、融資 の金利 は、
財投金利 より若干高 めに設定 し、資金 の量 による補助 (
量 的補 完) を中心 とすべ
きである。
(
6ト ②
政府系金融機 関への一般会計 か らの補助金 の問題
政府系金融機 関は、場合 によ り、財投金利 (
調達金利) よ りも低 い金利 で政策
的融資 を行 い、逆鞘 になることが しば しばある。 この逆鞘分 や融資 に伴 う様 々 な
費用 は、政策金融 の コス トとして、一般会計 の負担 となるべ きものである。
一般 に、民 間では、収益 が長期 にわたって赤字 であ る企 業 が営 業 を続 け る こ と
は、生産効率 と資源配分 の面で非効率 であ り、 この よ うな企 業 を政府 が補助 しな
が ら存続 させ る政策 は好 ま しい ものではない。
しか し、政府系金融機 関に関 しては、政策金融 に係 わるコス トの分 は、 元 来 、
一般会計 の負担 であ り、政府 の補助があるか らとい って非行率 で あ る と言 うこ と
はで きない。 ただ し、政府補助 -非効率的経営 ではない に して も、 非効 率 な部分
を政府補助 で補 っていない ことを否定 で きる訳 ではない。 政府系 金融機 関が、 こ
うした観点か らのデ ィスクローズ を進 めることを期待す る ものである。
さて、政策金融 の其 の費用 は、逆鞘分 と融資 に係 わ る費用 だけで表 わ され るの
ではないことに注意すべ きである。 低利融資 による政策金融 は、借 入主体 の資金
コス トを引下 げ、その投資 を誘発す る効果 を持 つ。借入主体 の投資の増加 は、様々
な産業の生産物 に対す る需̀要 を増加 させ る波及効果 を生 み、 人 々 の所得 を増 加 さ
せ、乗数効果 によ りさらに経済の生産 の拡張 をもた らす こ とになる。 これが、 最
近の ように、景気 の浮揚対策 として財嘆投融資 (
その うち政策金融) が期待 され
る所以であるが、生産 したが って所得 の拡大 は、政府 の税収 の増加 をもた らす。
したがって、政策金融 の純費用 としては、前 に述べ た政策金融 の直接費用 か ら、
それによって生 じる税収 の増加分 を差引 くことが必要 で あ る。 政策金融 の適 正 な
水準の決定 にあたっては、その直接 的な効果、他 の産業等へ及ぼす間接 的 な効果 、
そ してこの政策金融 の純費用が勘案 されなければならない。
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もっ とも、 これは政策金融 に限ったことではな く、 政府 の公 共投 資 につい て も
当ては まる。政府 (
大蔵省) は、財源不足 を理 由に して公 共投 資 を削減 す る こ と
を主張す るのではな く、公共投資が生み出す税収 の増加 を十分 に考慮 した議 論 を
展 開す る必要がある。
(
7) 公的金融の見直 し
着実 に進行 している金利 の 自由化 は、資金運用部資金 の 6割弱 を占め る郵便貯金金
利 の上昇 を促 し、 また、公 的年金 も人口構成 の高齢化 に伴 う年金財 政 の悪化 に対 処 す
るため、高利 回 りを追求せ ざるを得 ない。現行 のシステムで は、 これ らの 自主運用額
を大幅 に引 き上 げるか、 あるいは少 な くとも、運用部 の預託金利 を市場 金利 と同水 準
にす ることが必要 になろう。 前者 の場合 には、本来の財 政投 融資 に用 い られ る資金量
が減少 し、不足分 を政府保証債 の発行 で賄 うとすれば、財投原資 の調達 コス トが上昇
す る。 いずれの場合 で も、政策金融 を行 う政府系金融機 関か らみれ ば、 調達資金 コス
トの上昇 につなが って しまい、低利 での融資が困難 にな り、 円滑 な政策金融 の遂行 が
期待 で きな くなる恐 れが生 じる。 こうした公 的金融 における要請 、 す なわち郵便貯 金
の金融 自由化へ の対応、公 的年金 の高齢化社会への対応、 政府系 金融機 関の有効 な政
策金融、 に応 えることが公 的金融 の見直 しとい うことでは極 めて重要である。
公 的金融 に関す る効率性 を高 めるためには、組織 の内部 に市場性 を導入す る こ とが
必要である とい うのが、私 の考 えである。
現在、着実 に進行 している金利 の 自由化 によ り、 資金運用部資金 275.
8兆 円の56%
を占める郵便貯金 (
平成 3年度末) の金利 の上昇 は、長期的には避 け られず、 また公
的年金 (
同3
2.
5%)、 も人口構成 の高齢化 に伴 う年金財政の悪化 を多少 とも緩和す るた
め、高利 回 りの運用 を追求せ ざるを得 ない。
財投資金 は、公共の利益 の増進 のために用 い られ、 この観 点 か らみれ ば、 その資金
費用 は低 い ことが望 ましいが、資金 を預 ける側 か らすれば、代 替 的 な資金運用 と少 な
くとも同 じ収益率 を確保 したい と望むのは当然 の ことであろう。
郵便貯金 は、民間銀行 の預金や金融債、信託等 と代替的であ り、 人 々 は 自 らの意志
で資産 を選択す ることがで き、郵便貯金金利が他 の資産 に比べ て少 な くと も同程 度 の
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4.公的金融の役割 とあり方
収益性 を持 っていなければ、郵貯資金 は枯渇す ることになる。
一方、公 的年金 は、加入が義務付 け られているが故 に、 もっ と深刻 で あ り、 年金加
入者 として当然要求す る資金の市場並 み収益確保 (
可能 な らば高収益 追 求) を実現 し
なければな らない。
つ ま り、公 的金融 の資金調達費用 は、市場 における資金調達 費用 と同 レベ ル にな ら
ざるを得ず、公 共の利益 のための政策費用 は、彼等 ではな く、 全 国民 が租税 の形 で負
担す る とい う形で、公 的金融 の市場並みの資金調達 と公 共 的運用 を両 立 させ る こ とが
必要 となる。
現行 のシステムでの対応 として、郵貯 や公 的年金の 自主運用額 を大幅 に引上 げるか、
あるいは少 な くとも、資金運用部 の預託金利 を市場金利 と同水準 にす る こ とが考 え ら
れる。
前者の場合 には、本来の財政投融資 に用 い られる資金量 が減少 し、 不足分 を政府保
証債 で賄 うとすれば、財投源資調達 の費用が上昇す る。 後者 の場合 で も、 資 金運用部
への預託金利 ・
(
財投金利) が現行 の国債 の表面金利 ではな く、 市場 にお け る流通利 回
り等 の市場金利 と同水準 で変動す る必要があ り、 やは り、資金調達 の費用が上昇す る。
いずれの場合 で も、政策金融 を行 う政府系金融機 関か らみれば 、 資 金調達 費用 が上
昇 し、一般会計 か らの補助が適正 になされない限 り、低利 での融資 が 困難 にな り、 円
滑 な政策金融の遂行 が期待 で きな くなる恐 れが生 じる。
資金 コス トの上昇 とい う点では同 じであるが、資金運用 の面 か ら考 える と、 前者 の
方が望 ま しい ことは強調 しておかなければな らない。 とい うの は、 この方 が資金運用
の自由度がはるかに高いか らである。
年金の場合、長期 にわたる資金運用が原則 となるが、許容 可能 な範 囲で リス クを負
担 しつつ、分散投資 を しなが ら、高収益 を志向す る方が高 いパ フ ォーマ ンス を期待 で
きる。郵貯資金 も、資金量が巨大で、 日々の出入 りの資金 に比べ て底 溜 りの資金 が多
いので、やは り長期 の運用が可能である。 資金運用 については、膨 大 な フ ァイナ ンス
理論 の研究成果があ り、それ らを有効 に利用す ることがで きる。
他方、公 的金融 の資金運用機 関である政府系金融機 関に対 しては、 内外 の証券 市場
での調達等、状況 によ り有利 な調達 の手段 があればそれ らを積極 的 に利用 す る こ とに
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よ り、資金調達費用 を節減す ることが求め られる。 政策金融 に係 わ る費用 が、 一般財
政 の負担 で賄 われるべ きであることは、私 の意見 として既 に述べ たが、 その前提 と し
て、政府系金融機 関 も、最 も有利 な資金調達 を心掛 けて、納税 者 としての国民 の負 担
を最小 にすべ きである と思料す るのである。
ここで、財投資金 の統合運用 の原則 にふ れてお こう。 公 的金融 に集 る資金 は、 簡保
資金 を除いて、資金運用部 に預託す ることが義務付 け られ てお り、 統合 管理 され る こ
とに なっているが、 これは、第二の予算 としての財投計 画 の財 政 との済合性 や資 金 管
理 の効率性 (
二重の支 出の排 除等) を目的 とした ものである。 しか し、 明 らか に、 こ
れ らは本来 の財投 の支 出分 に関す る ものであ り、 自主運用分 につ いて当 て は まる とは
考 え られない。
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用部資金 の統今管理 の維持 よ りも重要ではないのだろ うか。 もちろん、 本来 の意 味 で
の財投資金 の使途
については、一般財政 との関わ りで、全体 的 な計 画 が必要 な こ とは
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以上 の観 点か ら、政府保証債 を発展 させ た 「
財投機 関債」 の市場 を導入 し、 そ の市
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場 をオープ ンに し、
っ っ、資金調達機 関お よび政府系金融機 関の行動 を (
一定 の制 約 を
置 きつつ も) よ り自由化す ることによ り、公 的金融 の効率化 を 目指 す ご とが、 重要 な
制度改革 の方向である と考 える。
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第 Ⅱ部
図
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4.公的金融の役割 とあり方
生活者のための金融制度改革
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3年1
1月 1日
編集 財団法人 連 合総 合生 活 開発 研 究 所
所長
栗林
世
〒1
0
4 東京都 中央区新 川 1丁 目2
3番 4号
Ⅰ
・
Sリバーサ イ ドビル 2F
TEL 03(
3
29
7
)36
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㈹
FAX 03(
329
7
)3620
制作
太 平 印 刷 株 式 会 社
〒1
06東京都港 区東麻布 1-1
2-9
TEL 0
3(
35
82
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FAX 03(
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