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米経済「2015年も拡大」続けるこれだけの理由
エコノミスト Eyes 2014.12.19 米経済「2015年も拡大」続けるこれだけの理由 みずほ総合研究所 欧米調査部 エコノミスト 山崎 亮 2014年の米国経済は物足りなさが残る1年だったが、2015年は民間需要がけん引し、 景気拡大の本格化が期待される。原油安・ドル高の経済全体への影響は軽微なものに とどまると考えられるが、エネルギー産業への依存度が高い地域経済への悪影響に留 意が必要だ。海外経済の減速や地政学リスクの高まり、政治の混乱にも警戒したい。 雇用増と消費の「好循環」に、ガソリン安の追い風 2014年の米国経済は、本格的な景気拡大に向かう動きが期待されていたものの、結果としてはやや 物足りなさが残るものとなった。2014年の実質GDP成長率は、年初の大寒波による下押しなどが影 響し、2013年並みの前年比+2%前半の水準となりそうだ。こうした経済状況のなか、「経済の長期 的な成長力が低下しているのではないか」という、サマーズ元財務長官が提起した「長期停滞論」が 大きな話題となり、今後の成長に対する懐疑的な見方が燻るようになった。これもまた、景気拡大に 向かう動きの物足りなさと無関係ではないだろう。 他方で、中国経済の減速など、これまで世界経済をけん引してきた新興国の成長率が鈍化するなか、 米国経済に対する期待は高まっている。では、2015年の米国経済はどうなるのだろうか。物足りない 成長が続き、 「長期停滞」がいよいよ意識されることになるのだろうか。それとも2015年こそ景気拡 大の動きが本格化するのだろうか。みずほ総合研究所では、2015年の米国経済は民間需要主導で拡大 傾向を強めていくと考えている。 まず米国のGDPの7割を占める個人消費についてみてみよう。個人消費を見通す上で重要なポイ ントは所得環境であり、それを決める労働市場の動向である。労働市場では、失業率が6%を割り込 む水準まで低下し、非農業部門雇用者増加数は1995年以来となる10カ月連続の前月差+20万人超えを 記録するなど、安定的な雇用増を実現している。パートタイム労働者や長期失業者の多さなど、労働 の「質」の問題は依然残存しているものの、2015年も労働市場の回復基調は続いていくだろう。企業 側の労働需要を示す欠員率も、2007年頃の水準まで高まり、労働需給の引き締まりを示唆しているほ か、賃金を含む広範な所得環境の動向を示す雇用コスト指数には持ち直しの兆しがみられる(図 みずほ総合研究所 総合企画部広報室 03-3591-8828 [email protected] 1 © 2014 Mizuho Research Institute Ltd. All rights reserved エコノミスト Eyes 2014.12.19 1) 。こうした点を踏まえれば、所得環境は着実な改善が予想され、個人消費を下支えするだろう。 加えて、最近の金融市場の動きも個人消費に対して追い風となりそうだ。夏場以降の原油価格の大 幅な下落によって、全米平均ガソリン価格は1ガロン=3ドルを大幅に割り込む水準まで下落してお り、米連邦準備理事会(FRB)が12月3日に公表した『地区連銀経済報告(ベージュブック) 』で は、「ガソリン価格の値下がりが消費支出を後押ししている」と報告されている。さらに、株式市場 もおおむね堅調な推移を続けており、資産効果を通じた個人消費の押し上げにつながると評価できる。 これらを踏まえて2015年を展望すれば、個人消費は年間を通じて前期比年率+3%近傍の堅調な推 移が続く見込みだ。 住宅投資も設備投資も、投資比率は上昇を予想 金融危機による爪痕が最も大きく残った市場の一つだった住宅市場は、2012年に住宅価格が底打ち して以降、回復が続いている。その主因は、力強い賃貸需要である。 労働市場などの改善に伴い、若い世代を中心に世帯形成を望む人々が多く、持ち家の購入意欲が高 まるはずだが、なぜ賃貸需要が高まっているのか。背景には、住宅ローンの貸出基準の厳しさがある。 貸出基準の厳しさについては、バーナンキ前議長のコメントが興味深い。報道によれば、バーナンキ 前議長は2014年10月に開催された住宅に関するカンファレンスの席で、 「最近、住宅ローンの借り換 えを行おうとしたが、うまくいかなかった」と発言したという。 バーナンキ前議長ですら断られる貸出基準は、持ち家を購入する上で大きな障害である。米国の多 くの人々は持ち家ではなく賃貸住宅への入居を選択することで、こうした問題を回避している模様だ。 賃貸住宅への強い需要を表すように、賃貸空室率は2014年7~9月期に7.4%と19年ぶりの低水準を 示しており、需給のひっ迫が顕著である(図2) 。2015年はこうした需給のひっ迫がさらなる住宅の 図1 欠員率と雇用コスト指数 (欠員率、%) 4.0 図2 賃貸住宅市場の需給ひっ迫 (雇用コスト指数(前年比)、%) 雇用コスト指数 (前年比、右目盛) 企業側の労働需要は 金融危機前の水準を回復 (賃貸空室率、%) (持ち家空室率、%) 11 5.0 3.5 賃貸 空室率 3.5 4.0 10 3.0 3.0 3.0 9 2.5 2.5 2.0 8 2.0 1.0 7 0.0 6 欠員率 賃金上昇率にも 持ち直しの兆し 2.0 1.5 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 持ち家 空室率 (右目盛) 2002 2004 2006 2008 2010 (資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成 (資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成 2 1.5 1.0 2000 (注)欠員率、雇用コスト指数はいずれも民間部門。 空室率は低下し、賃貸空室率は 1995年以来の低水準を示す 2012 2014 エコノミスト Eyes 2014.12.19 供給を促し、住宅建設の堅調な増加が見込まれる。住宅着工件数は増加傾向を維持し、販売件数も緩 やかに増加していくだろう。 企業部門に目を転じれば、設備投資は緩やかな回復が続いているものの、そのペースは過去の景気 回復局面に比してゆっくりとしたものであった。この間、米国の企業は豊富な資金を配当や自己株買 いに向けることで、株主の期待に応えようとしてきたといえる。 配当や自己株買いによる株主還元の動きは今後も続くと考えられるものの、足元では中長期的な成 長を企図した設備投資への期待を感じさせる動きがみられる。企業の設備投資マインドは2014年後半 以降、おおむね底堅い推移を示しており、商工業(C&I)ローンの貸出基準は住宅ローンと異なり 大企業向け、中小企業向けともに緩和が進んでいる。さらに、C&Iローンの前年比伸び率も上昇傾 向にあり、2015年には設備投資が拡大することを期待させる。住宅投資、設備投資とも2015年は拡大 基調となり、GDP比で見た投資比率は上昇していく予想だ。 「エネルギー産業」「海外経済」「財政問題」――ダウンサイドリスクは残る 金融市場では、原油価格の下落とドル高が進展し、注目を集めている。筆者はこうした変動が米国 のマクロ経済へどのような影響を与えるのかについて、11月上旬時点での最大変動幅を用いてVAR モデルに基づいた試算を行った(注1) 。その結果、原油価格下落が個人消費を押し上げる一方、ド ル高が輸出にマイナスに寄与するとの結論を得た。このため、実質GDPへの影響は個人消費のプラ スと輸出のマイナスが相殺され、軽微なものになる見込みだ。また、より拡張的な大規模マクロモデ ルによる試算においても、今回の金融市場の変動は、米国の内需を押し上げる一方で外需の下押し圧 力となり、実質GDPで見た影響は軽微なものにとどまる結果となった。こうした分析を踏まえれば、 足元の金融市場の変動は2015年の米国経済の大きな重石にはならないと考えられる。ただし、エネル ギー産業への依存度が高いテキサス州などで、開発見直しによる雇用の減少や、建設・土地開発向け などの貸出が不良債権化するなど、悪影響が波及する可能性には注意が必要だ(注2) 。 加えて、海外経済、特に中国経済や欧州経済の減速やウクライナや中東地域などにおける地政学的 リスクの高まり、財政問題を巡る政治の混乱なども先行きのリスク要因として挙げられよう。海外経 済の減速や地政学リスクの高まりについては、ドル高などの影響で下押し圧力がかかる輸出を一層引 き下げる可能性があるほか、企業マインドの悪化につながれば、設備投資を委縮させる懸念もある。 一方、財政をめぐる問題に関しては、連邦債務残高の上限引き上げ問題が注目点となろう。債務残高 上限は、2015年3月15日に適用免除が失効となる。2016年の大統領選挙への影響を考えれば、大きな 混乱は回避される公算が大きい。しかし、上限引き上げなどの措置に手間取れば、米国債のデフォル ト懸念が再燃するおそれがあり、消費者や企業のマインド面に悪影響を及ぼす可能性があるという点 で警戒が必要だ。 (了) (注)1.山崎亮「金融市場変動の米国経済への影響~原油価格下落、ドル高は米国経済の重石になるか~」 (みずほインサイト、み ずほ総合研究所、2014 年 11 月 18 日) 2.小野亮「問われるシェールの競争力~金融的波及にも警戒が必要~」 (みずほインサイト、みずほ総合研究所、2014 年 12 月5日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 3