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指数関数の話(11pages)

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指数関数の話(11pages)
指数関数の話
内藤 敏機
1 の対数
指数関数およびその逆関数である対数関数の考え方について,歴史的な順序を追っ
て解説する.
15ー16世紀,ヨーロッパは大航海時代で天文学と航海術が発展し数値計算の
必要に迫られていた.スコットランドの はその時代に対数
表を刊行し,かけ算を足し算に還元する方法を著した.どのようにして対数表を作っ
たのであろうか?
初めに次の2種類の数列の対応を考えよう:
下段の数列の2項をかけてできる数は下段の数列の項中に現れ,対応する上段の数
列では項の足し算に還元される.たとえば,下段の数列の項のかけ算 には,上段の数列の対応する項の間の足し算 が対応する.一般に下段の
項 には上段の数列の項 が対応し,かけ算 に足し算 が対応する.
下段のような数列は等比数列(あるいは幾何数列)といわれる.即ち隣あう項の
比が一定である数列を等比数列という.そのような数列 は
とおくと,第 項 は であらわされる. を初項, を公比という.下
段の等比数列は初項 ,公比 である.
等比数列の2項 の積をとると である.し
たがってあらかじめ を計算してその表を作っておけば,その表のな
かにある項のかけ算は 対応する の和をつくり に対応する項をみつけ
倍すればよい. 倍というとまたかけ算がでてくるように思うかもしれないが,
として のべき をえらべば, 倍は小数点の位置を移動されることにす
ぎない.すなわち が正の整数ならば 倍は小数点の位置を 桁右にずらすことで
あり, が負の整数ならば 倍は小数点の位置を 桁左にずらすことである.
公比を上のように にとると隣あう項は隔たっているが,公比を に非常に近く
とると,項の変化はわずかで隣あう項の値は非常に近接する.したがって項の表に
は初項 の値から始まる近接する値がぎっしりとならび,設定した値またはそれに
非常に近い値を見いだすことが可能になる. を より大きくそして に非常に近
くとると から始まる 以上の数がならび, を より小さくそして に非常に
近くとると から始まる 以下の数がならぶ. は後者の場合の表を作った
のである.
実際には三角関数 の値に対して,対応する表を計算した.彼は斜辺の長さ
の直角三角形をとりその対辺の長さで をあらわした.した
がってその値は から までの数値で表される.よって ととり
の表を作ろうとしたのである.まず
に対して計算する.実際
を利用して,次のように求められる:
このようにして得た値に対して をその と言うことにしたのである.たとえば の ! は で, ! と書く.一般に であるとき,
! と書く.
この計算をいつまでも続けていけば良いのであるが,たとえば の半
分 に達するためには 回以上も繰り返さなければならない.そ
れを避けるため, ! の性質を利用して次のように工夫したのである. ならば であるから,比の値が同じならば ! の差
が同じである.上の表の最後の値は
であるから,こんどは
として,
の値を計算してみる:
そうすると ! 次に
であるから, の値を計算してみると において ,また において となる.したがって
! さらに
であるから の値を計算する.続けて
を計算し,上から 番目,左から
列の表ができる:
" 番目に の値を配列して、縦21行,横69
表の右下の成分において初めて, より小さい値に到達する.
この表の に対して
! ! ! であるから,右辺の二つの ! の値を知ればよい.そのおよその値は上にみ
たが,1次近似を用いてより詳しく計算すると
! ! この値をもちいて, は
! を得た.実際の値は
! 有効桁数7桁まで正しい値を得たのである.
2.自然対数と常用対数
は に を対応させたが,ある定数 をとり に を対応させて
も同様の結果を得る.すなわち等比数列に等差数列を対応させるのである.
と同時代に,スイス人の #! は にとり,対
応する表を構成し, より遅れて刊行した.
の表
#! の表
であるから,#! は まで計算した.
すでに述べたように, に のべきをかけてもこれらの表において小数点の移
動が起きるだけである.たとえば,#! の表において ととりなお
すと,次のような対応
#! の表ができる:
#! $
あらためて
$
とおくと
#! 同様に のかわりに とおいて
#! を考えてもよい.
ところで 一般に %
& で
定義される数列
は増加数列で,ある値に収束する.その極限値を ' は文字 であらわした.
今日では
! と定義し, ! を
に対して
の自然対数という.この形式の定義,またより一般に正の数 ! により ! を定義し, を底とする の対数としたのは前述の18世紀の ()
' である.それについては第5節で再び解説する.
話は前後するが,1615年英国の数学教授 *+ #!! は との討論に
より,いわゆる常用対数を導入した:即ち において において であるよう
な対数,つまり ! を導入した.そしてその 桁の対数表を から まで
と から までの数について刊行した オランダの ,) - ./
は から までの 桁の常用対数表を 年に著し,続く3世紀の間の
対数表の規範となった.
3.連続な値をとる対数
は対数表を計算する際,1次式による補間法を用いた.同時に対数関数の
非線形性をすくなくとも直感的に感じとり、より巧妙な補間法にとりくんだ.この
ため対数の値を連続的に定義しようとして,次のようなモデルを考えた.
二つの直線上を動く2点 をとる. は長さ の線分 上を から へ移動する.また は からでる半直線上を から移動する.
の時刻 における速度は の長さ にひとしく, の速さは一定 である
とする.時刻 における の長さを とするとき, に を対応させる対応を
! とおく.このとき においては
! を示した.
は幾何学的方法で証明してのであるが,微分方程式をたてると
これを解いて
! !
これをもちいて, の示した関係がでる.
! 対数の解析において重要な進展は,ベルギーのイエズス会信徒 0!+ 1 -.
により 年に刊行された次の発見による.
正の 軸上の閉区間 % & と双曲線 との間にある部分の面積を とする.このとき に対して
これを証明しよう.区間 % & を
をとる.各小区間 %
とおく 一方,点列
等分する点
& で高さ の棒グラフとり,その面積の和を は区間 % & を
ると
等分する.同様に棒グラフをとりその,面積の和 をと
を限りなく大きくすれば, は に限りなく近づき, に限りなく近づく.したがって
は
-. のこの発見を読み,その友人の ,, ) 1 はこの双曲線の下のある
部分の面積関数が,対数関数と同じ加法正をもつことに気づいた.即ち
のとき
のとき
と定義すると,対数関数と同じ性質
をもつ.たとえば ならば
じつは
! であるが,それがはっきりするには ' までかかった.
4.
の対数計算
対数と双曲線関数の面積との関係は,その面積の計算を促し級数の解析的研究と
結び付いた.2 は 年頃に双曲線
と,区間 % & の間の部分の面積 (すなわち3節の
して,いくつかの数の対数を計算した.
まずつぎのような割り算を限りなく続ける:
)を計算
したがって
2 は項別に積分して
そして,対数の性質が成り立つことをのべている:
この性質を使い,いくつかの数の対数について精度の高い計算をした.まず とおき,
を計算した( 桁まで).次に
であるから
を利用して を計算した.同様の方法で を
求めた.
微分積分の創始者 2 とは別に,. 3. は 年に
出版した著書において常用対数表を掲載するとともに,上記の面積の計算により
!
を発見している.彼は証明法を暗示したのみであるが,4 は 年に 3. の本の書評において 以下のように証明を明かにしている.
区間 % & を 等分し とおく. と区間 % & の間の部分の
面積をやはり棒グラフで近似して
の展開式により
これを代入して, のべきで整理すると
% % & % & % & & 4 自身の 年にだした公式
により, のときの極限をとり 3. の公式を証明した.4 の公式
を,彼は のときまで計算で確かめ一般の場合も成り立つと想定した.もち
ろん,定積分をつかって証明できることである.4 は !
のこの展開式
の右辺が収束するためには が必要条件であることも述べている.
と区間 % & の間の面積が対数 !
に比例することは,-.
1 の結果により 年代に次第に知れ渡っていたようである.3. は双
曲線の面積からきまるこの対数を自然対数と命名している().
5. による指数関数,対数関数
() ' はスイスのバーゼルで生まれ15才で大学教育を終え
た.牧師の父は息子に神学職を期待したが,息子は # に数学を学び天職とした.学究生活をペテルスブルグ とベルリン でおくり,純粋応用数学の全領域に渡って創造的,膨
大な業績を残した.彼の全集は75巻にものぼっている.
関数とは集合から集合への対応であるとする関数概念の確立は ' にはじまる.
17世紀の解析学の中心課題は幾何学的な曲線で,関数も曲線と結び付けて考えら
れていた.変数は曲線と関係していたのである.' は ある変数が他の変数が変
わるにつれて変化するとき前者を後者の関数であると定義し,現代につながる関数
概念を導入した.指数関数,対数関数もその考え方により明確に定義された.
第2節で述べたように ' は,正数 を底とする の対数 ! を となる指数 として定義した.' は無限小数,無限大数の存在をみとめ,ため
らいなく駆使している.たとえば に着目して 無限小数 に対して
とおいた( はじつは によらない定数となる).さらに与えられた有限数
して,無限大数 を導入すると
は無限大であるから,この式は
に対
と解釈される.また2項定理に類似の展開をすると
5
5
5
5
5
5
5
5
5
' は,数 を となる の値として導入し
5 5 5
と の関係は とおいて
5
は無限大であるから
として,次の式を導いた:
その少数展開を 桁まで求めた.
したがって
5 5
対数については,' の定義より ! 5
したがって
これより すなわち
2 の発見による2項定理と同様の公式
5
5
を代入し, は無限大であるから とおくと結局
5
5
したがって
! ここにおいて を底とする対数 ! は双曲線 と区間 % & と
の間の面積 ,即ち自然対数であることが明示された.
三角関数は ' 以前斜辺
の直角三角形の対辺の長さで表されていた.即ち
は,中心角 の扇型の弦の半分の長さとして,また . は中心からその弦
に引いた垂線の長さとして定義された.' は半径 の円をとり,孤の長さ に
対する中心角に対して . を定義した.即ち,孤度法による角を定義し三角
関数を定めた.直ちに
. が導きだされ,加法定理
. . .
. . を掲げている.この公式より,数学的帰納法により 6 37 の等式
. ! ! . ! ! が導きだされることを指摘している.
さて与えられた数 に対して,無限大整数 で を割って無限小
おくと, 6 37 の式において ! とおくと
と
. . . 無限小
にたいして,. と考えると
. こうして,' は三角関数と指数関数との有名な関係
. を見いだしたのである.左辺の実部,虚部をみるとただちにわかるように に対
応する複素数平面上の点は,' が三角関数を定義するのにとった点,即ち半径
の円周上で 軸とこの円との交点からの孤の長さ,つまり中心角が の点そのも
のである.
最後に,一般の複素数 ! にたいしては
. 即ち は絶対値 偏角 の複素数である.また " であるとき ! " ! と
定義して,複素数 " の対数も定義される.このようにして複素数の範囲にまで指数
関数,対数関数が拡張される.
対数,指数の簡単な話をするつもりであったが,微分積分学の方法の入門コース
になってしまった.大学に入学されてから改めて正確に勉強されることになると思
うが,今日の話をときどき思いだして頂けば幸いである.なお対数,指数は現代で
は行列の場合を初め,大幅に拡張され数学の様々な分野で基本的役割を演じている.
最後にこの稿はほとんど次の本の1部を紹介したものにすぎない.
8 * ')2) 9: *. 67 ; 8 . 9 1!
- ! 高校大学で学ぶ数学の由来を知る上でこの本は非常に有益である.
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