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T B R 産 業 経 済 の 論 点
No.13-02
2013年1月22日
次世代自動車として注目される
天然ガス自動車(NGV)の台頭
「シェールガス革命」と日本企業の戦略(3)
福田 佳之
東レ経営研究所 産業経済調査部
シニアエコノミスト
TEL:047-350-6173
E-mail:[email protected]
<ポイント>
■ シェールガス増産による天然ガス価格の低下は、米国連邦政府の火力発電所に対する
排ガス規制とあいまって石炭発電から天然ガス発電へのシフトを促進する。米国エネ
ルギー情報局(EIA)によると、石炭発電のシェアは 2010 年の 45%から低下して 35
年には 38%となる一方、天然ガス発電のシェアは 2010 年の 24%から上昇して 35 年
には 28%に到達する。
■ 実際、発電産業は石炭から天然ガスに燃料シフトを進めており、また、発電装置メー
カーも米国に拠点を置いて関連需要の取り込みを狙っている。
■ 米国自動車産業への影響としては、天然ガス価格の低下は天然ガス自動車(NGV)
の魅力を高めている。燃費が劇的に改善したことで、主に大型車の分野でディーゼル
車から NGV への切り替えが進んでいる。自動車メーカーも大型車から中小型車まで
NGV のラインナップをそろえだしており、政府も、石油の海外依存度を下げるため
に、NGV の開発・普及に本腰を入れ始めた。今後、保有台数 1,000 万台といわれる
大型車の分野で NGV 需要が本格化しよう。
■ 一方、中小型 NGV の普及は遅々として進まない。中小型 NGV は普及に関する課題
を二つ抱えており、一点目は高い車両価格であり、二点目は、貧弱なガススタンド網
である。
■ 原油高・天然ガス安と環境規制が続き、上記二つの課題を解決するための連邦政府及
び州政府の支援が本格化すれば、中小型 NGV は次世代車として台頭する可能性が高
い。ただ現状は、上で述べた課題を解決するための政府支援が貧弱なこともあって、
中小型 NGV の台頭までにはしばらく時間がかかるだろう。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
-1-
前号では、シェールガス関連のインフラ需要増が内外の鉄鋼・機械産業を活性化させ、シ
ェールガス開発に伴う石油化学原料の安価調達が内外の化学産業を中心に米国内回帰・米国
シフトをもたらしていることを解説した。
本号では、シェールガス増産による天然ガス価格の低下が、燃料コストを抑えることに着
目し、その影響が大きい電力及び関連産業と自動車産業の動向について取り上げる。
構成
1.シェールガスとは
2.シェールガス開発に変化の兆し
以上、TBR 産業経済の論点 No.12-06
3. 「シェールガス革命」のインパクト
①鉄鋼・インフラ産業
②化学産業
以上、TBR 産業経済の論点 NO.12-09
③電力及び関連産業(本号)
④自動車産業(本号)
以下、次号
4.
「シェールガス革命」は続くのか
5.日本の製造業企業のシェールガス戦略とは
3.
「シェールガス革命」のインパクト(続)
③電力及び関連産業
天然ガス発電のシェアが増加
シェールガス増産による天然ガス価格の低下は、燃料としての石炭や石油から天然ガスへ
のシフトを発生させるだろう。加えて米国政府は燃料から排出される汚染物質に対する規制
を強化している1。
特に、火力発電から排出される汚染物質規制を強化しており、米国環境保護庁(EPA)
は 11 年 12 月に米国内の石油・石炭火力発電所 600 ヶ所から排出される大気汚染物質や水
銀の量を 9 割削減する規制(水銀及びその他大気有害物質基準:MATS)を発表し、12 年
4 月から施行している。MATS は、発電規模が 25 メガワット以上の既存・新規の発電所に
適用され、火力発電所は 15 年 4 月までに同基準を満たす必要がある。
このような規制を受けて発電会社は、これらの汚染物質の排出を抑える技術的な対策を打
つほか、老朽化した火力発電所を閉鎖して、燃料が安価で優れた環境性能2を持つ天然ガス
発電所を建設すると見られている。MATS 施行の結果、火力発電分野で従来の化石エネル
ギーから天然ガスへの燃料シフトが促進されるだろう。
米国エネルギー情報局(EIA)が 12 年に発表したエネルギー予測では、電気供給に占め
る石炭火力発電のシェアは 10 年の 45%から低下して 35 年には 38%となる。対照的に天然
ガス発電のシェアは 10 年の 24%から上昇して 35 年には 28%に達するとしている(図表
1
他にも、米国政府は、12 年 8 月には、自動車に対して 2017 年から 25 年までの新しい燃費規制を正式発
表している。25 年には平均して 23 キロ/リットルの燃費規制を課す予定となっており、現在の燃費水準(12
キロ/リットル)の 2 倍に相当する。また排出汚染物質に対する規制を加えているのは米国政府だけではな
い。IMO(国際海事機関)は、12 年 8 月からバルト海、北海、北米周辺で船舶燃料に含まれる硫黄分規制
を強化した。従来の 1.5%から 1%、そして 15 年には 0.1%に制限されることとなっている。また 2020 年
には全海域での船舶燃料の硫黄分を 0.5%以下に規制する方針を固めている。
2 天然ガスから排出される二酸化炭素の量は石油の 4 分の 3、石炭の半分くらいであり、窒素酸化物は石
油や石炭の半分以下、硫黄酸化物はゼロである。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
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図表1 発電に占める一次エネルギー別シェア
(10億キロワット)
6000
見通し
5000
15%
4000
10%
3000
28%
24%
2000
1000
45%
0
1990
石炭
95
石油
2000
05
天然ガス
10
38%
15
原子力
20
25
再生可能エネルギー
30
35
その他
(出所)米国EIA
1)。
再生可能エネルギーの台頭は、天然ガスの重要性を再認識
同じくシェアを上昇させているエネルギーに、
風力や太陽光など再生可能エネルギーがあ
る。10 年時点の 10%から上昇して 35 年には 15%に達するとしている。長期的には、再生
可能エネルギーのシェアはさらに上昇して既存エネルギーに取って代わるとの見方も出て
いる。
だが、再生可能エネルギーは、環境負荷は少ないものの、供給変動が大きく恒常的なエネ
ルギー供給源として単独で活用することは難しい。再生可能エネルギーの活用には、補完可
能なバックアップ電源を併用することが不可欠である。
そこで再びスポットを浴びるのは天然ガス発電である。天然ガス発電は他の発電方式に比
べて季節や昼夜の電力需要の変動に応じて柔軟に稼働できるために、
再生可能エネルギーに
対する補完的な役割を十分に果たすことができる。つまり、将来において再生可能エネルギ
ーが電力供給源として台頭したとしても、天然ガスは依然としてエネルギー供給の一翼を担
うことになるだろう。
ガスタービン需要増を見込んで海外メーカーも米国進出へ
事実、発電業界では天然ガスへの燃料シフトの動きを見せている。ジョージア州にある電
力会社のサザンカンパニーは発電燃料に占める天然ガス比率をこの 4 年で 46%まで引き上
げた。またオハイオ州にあるアメリカン・エレクトリック・パワーは 2020 年までに発電に
占める石炭の割合を現在の 67%から 50%まで軽減することとしている。
このような動きを受けて天然ガス発電の装置需要も増大している。ガスタービンメーカー
は米国内で生産拠点を増強しており、例えばシーメンスは 2011 年に 3.5 億ドルを投入して
発電用のガスタービンの製造拠点をノースカロライナ州に置き、700 人を採用した。同社の
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
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狙いは天然ガス発電の重要部品であるガスタービン需要の取り込みである。三菱重工業は
2010 年春頃からジョージア州にガスタービン関連工場を順次建設しており、12 年 10 月に
はついにガスタービンの初号機を米国エネルギー大手の企業に出荷した。
④自動車産業
実は「天然ガス自動車(NGV)小国」の米国
製造業でも天然ガスへの燃料シフトが進むと見られる。鉄鋼メーカーの中には、高炉では
なく、天然ガスを使って鉄鉱石を還元する「直接還元製鉄法(DRI)」に着目するメーカー
も出てきている。実際、米鉄鋼メーカー大手のヌーコアは、7.5 億ドルを投入してルイジア
ナ州に DRI の生産拠点を建設する予定である。また天然ガスを燃料とする船舶エンジンの
開発が急ピッチで進行しており、調査機関の IHS CERA は、2030 年までには世界の船舶
の三分の一が天然ガスを動力源としたエンジンで航行すると予想している。
なかでも天然ガスへの燃料シフトが最大のインパクトを与えるのは自動車産業であろう。
現在、米国で自動車メーカーの天然ガス自動車(NGV)の開発と投入が大型車だけでなく、
中小型車でも進んでおり、連邦・州政府も同車の開発と普及を後押ししている3。
NGV のメリットは、環境にやさしい点にある。米国環境保護庁(EPA)によると、NGV
はガソリン車などと比較して、一酸化炭素を 90-97%、二酸化炭素を 25%、窒素酸化物を
35-60%、非メタン系の炭化水素汚染物質を 50-75%削減するという。エンジン音などの騒
音も静かである。その上、燃料である天然ガスは国産のエネルギーを利用できるために、エ
ネルギーの自給率を高め、外国依存度を低下することができる。一方、NGV のデメリット
として車両価格の高さが挙げられる。セダンでも 5,000 ドル以上、大型トラックになると
ガソリン車やディーゼル車と比較して数万ドル以上も購入費用がかかると言われている。
その結果、NGV はビッグ 3 などによってさまざまな種類の自動車が生産されているもの
の、米国内での普及は約 12 万台にとどまっており、世界の NGV 大国と比較すると見劣り
がする(図表 2)。用途別に見ると、大型の公共交通バスが 1.1 万台と最も多いが、公共交
通バス全体の 13-14%程度に過ぎない。他にはごみ収集車(5,000 台)やスクールバス(3,800
台)など公共サービス用途や法人業務用用途の車両が占めているに過ぎない。
ガス価格低下で NGV の燃費が向上
しかし、NGV を取り巻く環境は急激に変化している。シェールガスの増産で天然ガス価
格が低下したことにより燃費が劇的に改善したのである。
圧縮天然ガスとガソリンの価格は
2006 年時点ではほぼ同じであったが、12 年 10 月時点では圧縮天然ガス価格(2.12 ドル
/GGE(ガソリンガロン等量))の方がガソリン(3.82 ドル/GGE))やディーゼル(4.13 ド
ル/GGE))よりも 4~5 割程度安価となっている4。確かに NGV は車両価格の高さなど初期
3
天然ガス自動車(NGV)には二種類あり、一つは、天然ガスに高圧(200 気圧程度)をかけて圧縮して
燃料容器に貯蔵して走行する CNG 車である。米国内に 12.3 万台存在する(2011 年時点)。規模に関わら
ず多くの分野で見られる天然ガス自動車であり、圧縮ガスを貯蔵できるようにタンクが頑丈で大きい。ま
た、燃料補給一回当たりの走行距離はガソリン車に劣る。もう一つは、天然ガスを液化して貯蔵した LNG
車である。米国内に 0.3 万台存在する(2010 年時点)。主に大型車に見られる天然ガス自動車であり、同
車のタンクは CNG 車に比べて 30%程度小さく、走行距離は CNG 車よりも長い。ただし、貯蔵などのコ
ストが高くなってしまうというデメリットがあるため、LNG 車の需要は、コンテナけん引など最大型ディ
ーゼル車の代替に限定されよう(Knittel(2012))。
4 さらに天然ガスの価格はガソリンと違って商品市況の変動に左右されにくい。燃料としてのガソリンコ
ストのうち、原油調達コストが 75%程度を占めるのに対して、燃料としての天然ガスコストのうち、天然
ガス調達コストは 25-30%程度に過ぎない。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
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図表2 2011年の天然ガス自動車(NGV)の国別ランキング
国
ランク
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
天然ガス
自動車数
イラン
パキスタン
アルゼンチン
ブラジル
インド
中国
イタリア
ウクライナ
コロンビア
タイ
米国
日本
韓国
フランス
英国
合計
(出所)NGV Globalホームページ
16
23
25
28
60
ガススタンド数 全車両に占める天
然ガス自動車比率
2,859,386
2,850,500
1,900,000
1,694,278
1,100,000
1,000,000
779,090
390,000
348,747
300,581
1,820
3,300
1,902
1,719
724
2,120
858
324
651
458
18.48%
63.60%
15.32%
3.46%
1.35%
0.71%
1.68%
5.08%
7.10%
1.22%
123,000
40,823
32,441
13,000
220
15,192,844
1,000
333
184
125
12
19,947
0.00%
0.05%
0.17%
0.03%
0.00%
1.18%
図表3 ガソリン車やディーゼル車と比較してNGVがもたらす差益
燃費(MPG)
NGV形態 ピックアップトラック
15マイル/ガロン
燃料代替による節約分全体・・・①
1年当たりの節約分・・・②
ガソリン車やディーゼル車との購入差
額・・・③
NGVがもたらす差益全体(①-③)
セダン
30マイル/ガロン
大型トラック
5マイル/ガロン
大型トラック
7マイル/ガロン
$15,171
$7,586
$186,828
$133,449
$1,138
$569
$37,366
$26,690
($5,500)
($70,000)
($70,000)
$2,086
$116,828
$63,449
($11,000)
$4,171
NGVによる節約分累計が、ガソリン車等
とNGVとの購入差額に達するまでの期間
(③÷②、年)
9.7
9.7
1.9
(注)ガソリン価格は$3.46/ガロン、ディーゼル価格は$3.81/ガロン、CNG・LNG価格は$2.09/ガロンで計算。
ピックアップトラックとセダンは年間1.5万マイル走行し、20万マイルで廃車。大型トラックは年間10万マイル
走行し、50万マイルで廃車。また、将来の費用と便益は割引価値としている。
(出所)Chiristopher R. Knittel, "Leveling the Playing Field for Natural Gas in Transportation"
The Hamilton Project Disucussion Paper 2012-03, June 2012
2.6
費用が高い。しかし、通算走行距離が長い業務用の車両であれば、燃費がガソリンや軽油よ
りも安価になることで長い目で見て採算に合ってくる。MIT の Knittel 教授の試算では、
NGV の燃費は、中小型車で 1 年間に 500 ドル~1,200 ドル、大型車で同 26,000~38,000
ドル程度、ガソリン車やディーゼル車よりも安価になるとしている。特に、大型 NGV の場
合、2~3 年程度乗車すれば、その燃料代節約累計で NGV 価格の割高分を賄うことができ、
比較的短期間で元が取れることになる(図表 3)5。
大型車の分野で NGV 需要が本格化
このような環境変化を受けて、米国では大型車の分野で天然ガス自動車シフトが起こって
5
情報サービス会社のブルームバーグの記事によると、商用車を一台、ガソリン車から NGV に切り替え
ると、年間 2 万ドルのコスト削減につながるとしている。チェサピーク・エナジーは、5,000 台の社用車
をガソリン車から NGV へ切り替えをすることで年間 1,400 万ドルのコスト削減につながると見ている。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
-5-
いる。米国全体で見ると、2011 年に調達されたごみ収集車の 40%、路線バスの 25%が NGV
となっている。特にロサンゼルスでは公共バスの調達でディーゼル車からの切り替えを積極
的に行った結果、保有バスの 99.6%の 2,211 台が NGV となった(2011 年時点)。大手の廃
棄物処理サービス業を営むウェイスト・マネジメントは既に 1,000 台の NGV を保有してい
るが、さらにごみ収集、運搬、リサイクルなどのディーゼル車両 18,000 台を NGV に改造
することを発表している(12 年 5 月)6。
現在、大型車は中小型車と違ってディーゼル車がその大半を占める。ディーゼル車は、燃
費も悪い上に、ガソリン車よりも有害なガスを排出していて好ましくないものの、これまで
代替の選択肢がなかった。そこで環境にやさしく燃費も良い NGV が登場したことで、ごみ
収集車、公共バス、配送トラックなどの大型車の分野でディーゼル車から NGV への切り替
えが進むと見られている。同車は、その通算走行距離の長さから燃費節約の恩恵は大きい一
方で、特定区間を走って街中でのガス補給を考えなくていいため、NGV の弱点である貧弱
なガススタンド網に影響を受けにくい。その結果、これらの大型車はディーゼル車から NGV
に切り替えやすい。
したがって、今後も米国内では大型車を中心に NGV ブームが続くだろう。大型車は、配
送用途などのトラックが 700 万台、長距離輸送用途などのトラックが 320 万台、合わせて
配送用途を中心にディーゼル車から NGV
1,000 万台程度、国内に存在するといわれており7、
への切り替えが進むと考えられる。
自動車メーカーも NGV のラインナップを投入
大型車では、現実に多くの受注が見込まれていることから、カミンズ、ウェストポート、
ボルボなどエンジンや車両メーカーは天然ガスのエンジンや NGV のラインナップを投入
する予定である。例えば、トラックメーカーのナビスターは、荷物配達用途の近距離から州
間輸送の長距離まで一連の天然ガストラックを 13 年末までに市場に投入する予定としてお
り、数年以内に同社が販売するトラックの 3 分の 1 は NGV になるとしている。
中型車については、ビッグスリーなどがピックアップトラックを生産している。いずれも
天然ガスエンジンだけを積んだ専用車ではなく、バイフューエル車といって天然ガス燃料で
もガソリンでも走ることが可能なエンジンを積んだ車両となっているのが特徴である。天然
ガスを補給できなくても、ガソリンで走ることができ、安心して長距離を連続走行すること
ができる。
小型車ではホンダが 1998 年からインディアナ州で生産した天然ガス仕様の Civic を 4 州
で販売していた。2011 年秋からは「Civic Natural Gas」と名を改めて販売先を 36 州にま
で拡大している。これまで「Civic Natural Gas」は年間 1,000 台程度の販売にすぎなかっ
たが、販売地域の拡大でひとまず倍増の 2,000 台を狙い、最大で 5,000 台程度の販売をも
くろんでいる。
大型 NGV の普及を見込んでいるのは、車両メーカーだけではない。ガス会社もガススタ
ンドの設置を急いでいる。輸送用ガス供給最大手のクリーン・エナジー・ヒューエルズは、
6
NGV へのシフトについて、買い替えの他に、改造という手段もある。米国にはガソリン車やディーゼル
車を NGV に改造するメーカーが 50 社以上あり、1.5~3 万ドル程度で改造が可能である。また、11 年 4
月に提出した「NAT-GAS」法案では改造メーカーに対しても税制優遇などの支援する予定となっている。
7 Smith Rebecca, “Will Truckers Ditch Diesel? Surplus of Natural Gas Prompts Some Fleets To
Switch; lack of Fueling Station” Wall Street Journal (Online) 24 May 2012
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
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-6-
図表4 ガススタンド設置などNGV普及に関する民間企業などの動き
発表年月
2012年1月
企業
・グリーン・エナジー・フューエルズ
(輸送用ガス製造販売)
・チェサピーク・エナジー
2012年3月 (天然ガス開発)
・GE
・グリーン・エナジー・フューエルズ
2012年3月 ・ナビスター
(トラック製造販売)
・シェル
2012年6月 ・全米トラベルセンター
(サービスエリア運営)
・デバルトロ・デベロップメント
2012年9月 (不動産開発)
・チェサピーク・エナジー子会社
内容
州をまたぐ高速道路にLNGスタンドを設置する計画「America's Natural
Gas Highway」を発表。12年に70ヵ所、13年に80ヶ所の設置を目指す。
CNGスタンドについて、同社は11年に63ヵ所設置しており、12年末までに
62ヶ所、13年末までに62ヶ所程度の設置を目指す。
NGV普及を加速させるインフラ事業を共同して行うことを合意。これを受
けてGEは12年秋から15年にかけて標準部品で構成されたガス補給装
置「CNG In A Box」を250以上のガススタンドに設置
NGV(トラック)拡販について提携し、ナビスターは格安なNGVリース契
約を、クリーン・エナジー・フューエルズはナビスターのNGVに対してガス
補給時の割引制度をそれぞれ発表
13年から全米トラベルセンターが運営する高速道路沿いのサービスエリ
ア100ヶ所以上にガススタンドの設置を開始
13年からの3年間で1,000ヶ所のガススタンドの設置計画を発表
(出所)各種メディア
年間 60 ヶ所程度の CNG ガススタンドを設置しているが、長距離トラックの NGV シフト
を促進するため、12 年と 13 年の両年で州をまたぐ高速道路に LNG ガススタンドを 150 ヶ
所設置する「America’s Natural Gas Highway」計画を発表している。この他にも、ガスス
タンドを設置する動きが相次いでいる(図表 4)。
NGV 普及を政府も後押し
連邦政府もエネルギー安全保障、雇用創出、公害対策の観点から NGV の開発・普及を後
押ししている。11 年 3 月末にオバマ大統領は演説を行い、国内石油・ガス資源開発と生産
の促進、自動車燃費の改善、クリーン電力の推進を通じて石油輸入量を 2025 年までに 3 分
の 1 削減するという目標を明らかにしているが、目標達成の有力手段として NGV の開発・
普及に期待している。
事実、連邦政府など8は事業者と購入者に対してさまざまなインセンティブを提供してい
る。連邦政府の措置だけを見ても、天然ガスなどガソリン以外の燃料スタンドの設置には、
設置費用の 30%の税額控除を認めているだけでなく、一般家庭用のガス補給装置の購入に
ついても最大 1,000 ドルの税額控除を与えている。またエネルギー省は、輸送部門の石油
消費削減を目的とする「クリーンシティプログラム」を実施しているが、その中で大型 NGV
の購入と LNG 供給設備の設置を含む 5 つの事業に資金支援している。
中小型の NGV などの購入者に対しても最大 4,000 ドルの税額控除を認めている。また
NGV 利用の際の実際のメリットとして、交通渋滞時に HOV レーン9の走行を許している。
つまり、NGV を運転すると HOV レーンを走行することで渋滞に巻き込まれずに済むので
ある。
さらに 2011 年 4 月に、NGV 普及のためのインセンティブを拡充した「米国民に解決策
を提供する新たな代替輸送機関法(NAT-GAS)」法案を議会に提出しており、NGV の開発・
普及に本腰を入れる。「NAT-GAS」法案は 2008 年、09 年にも提出されたものの審議未了
のまま廃案となっていたが、11 年に多数の議員提案による形で再提出された。
「NAT-GAS」法案には、自動車用天然ガス燃料に対する消費税減税(1 ガロンにつき 50
8
9
州政府について、ペンシルベニア州を始めとして多くの州が NGV の購入支援を実施している。
HOV レーンとは、一定数以上の人数が乗車している車両だけが走行できるレーンのことを指す。
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-7-
図表5 米国自動車の生産内訳(2011年)
大型トラック
24万台(2.7%)
大型バス
2万台(0.2%)
乗用車
297万台(34 .3%)
小型商用車
5 43万台(62.8%)
2011年自動車生産台数 865万台
(出所)OICA, "Production Statistics"
セント分)を 2016 年まで 5 年間延長するほか、天然ガス自動車購入に対する最大 80%の
税額控除制度の創設、天然ガスを含む代替燃料補給インフラ設置への税額控除の比率引き上
げ、そして NGV 生産に対する税額控除が盛り込まれており10、これまでの NGV 普及に対
する支援の期間延長ならびに支援額増額を図ることとしている11。
今後の焦点は中小型 NGV の普及
上で見たように、大型車の分野では優れた環境性能に加えて燃費の劇的向上から NGV へ
の切り替えが進むだろう。それに伴って石油の輸入も減少すると見られている。仮に米国内
の大型車 1,000 万台が全て NGV に切り替わった場合、減少すると見られるディーゼル燃料
の量は年間で 1.3 億トンに達する。これは、米国の石油輸入全体の四分の一に相当する。
一方、中小型車の分野に視点を移してみよう。実際、ビッグスリーやホンダが中小型車
NGV を開発・投入しているが、これらの企業の思惑通り中小型 NGV は普及していくのだ
ろうか。全米で中小型車 NGV への買い替えが本格化した場合、図表 5 で見るように中小型
車市場は大型車に比べて圧倒的なシェアを持っているため、その経済効果は莫大なものとな
るだろう。また、中小型車市場で NGV が普及していけば、環境問題の解決はもちろん、米
国の石油の中東依存を大きく低下させることにもつながる。
10
NGV の税額控除は車種によって最大 7,500~64,000 ドルまで与えられることとなっている。これまで
NGV に絞った税額控除はなかった。補給インフラの税額控除は最大 10 万ドル、家庭用の補給装置も最大
2,000 ドルとなっており、これまでの控除額を大幅に増加している。
11 ただし、その後の審議状況は芳しくない。他のエネルギー業者からの反対に加えて、
「財政の崖」を巡
る議会での党派対立のあおりを食ったためである。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
-8-
図表6 電気自動車(リーフ、ボルト)、NGV、ガソリン車、ハイブリッド車との性能比較
日産
「リーフ」
GM
「シボレー・ボルト」
ホンダ
「Civic CNG」
ホンダ
「Civic(ガソリン)」
ホンダ
「Civic HEV」
(電気自動車)
(電気自動車)
(NGV)
(ガソリン車)
(ハイブリッド車)
―
―
110
207
―
3,366
175
70
106
4気筒
1,400
149
273
―
3,755
177
70
106
4気筒
1,798
110
106
5段階オートマ
2,848
177
69
105
4気筒
1,798
140
128
5段階オートマ
2,705
177
69
105
4気筒
1,497
110
127
CVT
2,853
177
69
105
106
92
99
73
95/35
93/36
94/35
36/310
27
38
31
249
28
36
31
409
44
44
44
581
124-354
127-364/240
251
306
217
―
―
―
―
―
―
5,500
(11,240)
(9,625)
―
(16,740)
(15,125)
3,500
(13,240)
(11,625)
エンジン
排気量(cc)
馬力
トルク(ポンド・フィート)
変速機
重量(ポンド)
全長(インチ)
全幅(インチ)
軸距(インチ)
燃費(EPA推定、MPGge)
都市内
高速道路
混在
走行距離(マイル)
2
CO 排出量(グラム・マイル)
車両価格比較(ドル)
対「Civic(ガソリン)」
対「リーフ」
対「シボレー・ボルト」
(注)カッコ内の赤字額は当該車価格から電気自動車価格を差し引いた金額(マイナス)を示す。
シボレーボルトは電気自動車だが、ガソリンエンジンを搭載していてこれを使った充電及び走行が可能である。
(出所)Chiristopher R. Knittel, "Leveling the Playing Field for Natural Gas in Transportation"
The Hamilton Project Disucussion Paper 2012-03, June 2012
次世代中小型車として脚光を浴びる NGV
NGV の性能について、ガソリン車や次世代車といわれる電気自動車やハイブリッド車と
比較したものが図表 6 である。
ガソリン車との比較では、NGV は CO2 排出量では明らかにガソリン車に対して少ない一
方で、一階当たりの燃料補給走行距離はガソリン車の 6 割程度となっている。燃費はガソ
リン車とあまり変わらない。当然ながらガソリン車は原油から精製されるガソリンを燃料と
して走るため、エネルギーの海外依存度を低下させることができない。
次に、電気自動車との比較では、NGV は CO2 排出量で必ずしも劣るというわけではない
12。燃費については電気自動車の半分以下と劣位にある。一方、走行距離は、NGV
は「リ
ーフ」に対して 3 倍以上、「シボレーボルト」に対して 6 倍以上走行することができる。
最後に、ハイブリッド車と比較してみる。NGV は CO2 排出量でハイブリッド車よりも多
めの数値となっている。燃費についても劣っており、走行距離についてはハイブリッドの半
分以下となっている。
こうしてみると、次世代車の中ではハイブリッド車が優位に見えるが、ハイブリッド車で
はガソリン燃焼時の汚染物質に加えて、エネルギーの海外依存度を下げることができないと
いう欠点を持っており、次世代車としてハイブリッド車が優位というわけでない。むしろ、
現在、NGV の環境性能と燃費の良さと比較的長い走行距離がスポットを浴びつつあるとい
ってよい。
12
これは電気自動車の動力源である電力がどのような方式で発電されているかによる。例えば、石炭火力
発電による電力が電気自動車の動力源であれば、電気自動車の CO2 排出量は石炭火力発電所が排出するも
のが含まれるため、ガソリン車の同排出量よりも増えてしまう。
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2013. 1. 22
-9-
中小型 NGV 普及の課題(1)
高い車両価格
ただし、中小型の NGV の普及が進むためには、以下 2 つの課題を解決する必要があるだ
ろう。
まず、NGV の車両価格の高さである。ガソリン車と異なって気体燃料を蓄えるための高
圧タンクが必要なため、その設置の分だけガソリン車よりもコスト高となる。中型車で見た
場合、GM の天然ガスで動くピックアップトラックはガソリン車のそれに比べて 1.1 万ドル
高い。小型車のホンダの「Civic Natural Gas」を購入する場合でも、ガソリン車の Civic
に比べて 5,000 ドル以上も余計に払わねばならない13。通算走行距離が長い業務用であれば、
車両価格の高さは燃料コストの安さでペイするだろう。しかし、通算走行距離が比較的短い
個人用の場合、車両価格が低下してガソリン車の車両価格に近づかない限り、さらなる普及
は難しいだろう。事実、大型 NGV は 2~3 年の燃料節約分で購入費用をカバーすることが
できるのに対して、中小型車は 10 年近くかかってしまい、平均 3 年程度といわれるマイカ
ー保有期間内では NGV はまったく割に合わない。
車両コストを下げるには、車両台数の増産で規模の経済を実現して生産全体のコストを下
げることが考えられる。ただし、現時点では中小型 NGV の大増産に踏み切った自動車メー
カーは存在していない。自動車メーカーは中小型 NGV 市場の先行きについて慎重に検討し
ている段階であろう。
現在の天然ガスタンクにも問題点
また、NGV が高価になっているのは、ガソリン車にはない天然ガスタンク14の設置のせ
いであり、この製造コストを削減することで車両コストを引き下げることも必要である。た
だし、現在の天然ガスタンクは重量の割には容量が限られていて、一回の燃料補給当たりの
走行距離がガソリン車よりも短くなるという問題15を抱えているため、これらの問題点を解
消しながら製造コストを引き下げる必要がある。
最近の天然ガスタンクの研究開発について、既存のタンク性能を強化するものと低圧かつ
低価格の吸着型の新型天然ガスタンクを開発するものに分かれる。前者は、炭素繊維複合素
材と樹脂で構成される最新のタンクについてナノレベルからの軽量化及び大容量化を図る
ものである16。後者については、タンクの中に天然ガスを吸収する物質を入れることでタン
ク内の圧力を減らしてタンクの補強材料を削減することで低価格化を実現するものである。
連邦政府および州政府による研究開発支援が行われており、自動車メーカーや大学などの研
13
既存の小型のガソリン車を NGV に改造した場合でも 6,000~10,000 ドル程度の改造費用が必要である
(R. P. Stastny, “Natural Selection” Oilweek, March 2011)。
14 天然ガスタンクは、現在、4 種類存在しており、タンクの外側も内側も鉄製(タイプ I)
、鉄製タンクに
ガラス繊維巻き付けで補強したもの(タイプ II)、炭素繊維複合素材の外部容器に内側にアルミを採用した
もの(タイプ III)、炭素繊維複合素材の外部容器に内側に樹脂を採用したもの(タイプ IV)に分かれる。
新しいタイプが開発されるにつれて軽量化されており、例えばタイプ IV の重量はタイプ I に比べて三分の
一程度である。また、新しいタイプほど寿命も長くなり、安全性も確保される一方で、製造工程も複雑に
なっている。
15 今の天然ガスタンク容量では、一回当たり補給の走行距離がガソリン車(一回の補給で平均して 500 キ
ロ走行可能)の半分以下に抑えられてしまう。かといって既存の材料でタンクを大容量化すると重くなっ
て、燃費を悪くすると言われている。次世代タンクには軽量化と大容量化が不可欠といわれている。
16 ガス会社大手のチェサピーク・エナジーと 3M の間で 12 年 2 月に合意された研究開発で、炭素繊維複
合素材とナノレベルで増強した樹脂を使って従来のタンクを 10-20%程度、軽量化と大容量化することを
目指している。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
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究機関が吸着型の天然ガスタンク(ANG)の開発を行っている17。ただし、いずれも研究
開発段階であり、現時点では次世代天然ガスタンクの量産化による製造コスト削減がどの程
度か見込むことはできない。
こういった事情を踏まえると、NGV の車両価格の思い切った引下げは、当面難しいもの
と思われる。
中小型 NGV 普及の課題(2)
貧弱なガススタンド網
もう一つの課題は、ガススタンドなどのインフラ不足である。米国内に存在するガススタ
ンドは約 1000 ヶ所に過ぎず、そのうち民間に開放されているのは半分以下である。これは
同じく米国内にあるガソリンスタンド数(12 万ヶ所)の 1%に満たない。これでは、NGV
でドライブしたくても、燃料切れが怖くてできない。
また現在発表されているガススタンドの設置計画(図表 4、前掲)は主として高速道路や
社内駐車場が中心であって、一般道路での設置状況及び見通しは貧弱である。NGV を運転
するドライバーが街中でガススタンドを見つけるのはまだまだ容易ではないだろう。
ガススタンド普及のネックの一つはコストである。ガソリンなどの燃料スタンド建設には
平均して 230 万ドルかかり、ガススタンドに不可欠なコンプレッサーと貯蔵タンクの設置
で更に 50 万ドル程度必要である。ガスパイプラインが敷設されていない場合、その敷設費
用も必要となる。このため、燃料補給業者にとってコストが高くつくガススタンドの設置に
二の足を踏んでしまう。
自宅でのガス補給にも問題
一方、貧弱なガススタンド網を補うものとして、住宅用ガス補給装置が注目されている。
自宅のガス管からガスを集めて圧縮し、直接自動車にガスを補給するものである。代表的な
ガス補給装置に BRC FuelMaker が販売している「Phil」がある。「Phil」はガソリン 15
リットルに相当するガス量を 10 時間程度で補給することができる。騒音もエアコン以下で
あり、電気代も台所にある家電ほどかからない。また「Phil」はガレージの内外に取り付け
が可能である。
「Phil」など住宅用ガス補給装置の価格は設置工事費抜きで 4,000 ドル程度と高い。ただ
し、購入に関する税額控除が存在しており、また企業や大学が安価で信頼性の高い装置の開
発に取り組んでいることから18、価格が早晩低下する可能性がある。
WSJ 紙によると、自宅でのガス補給装置の価格が、研究開発成果と量産によるコスト削
17 これまでミズーリ大学の研究開発が有名であり、カリフォルニア州環境委員会が 08 年に 100 万ドルの
支援を決めている。ただし、ミズーリ大学の研究開発が始まったのは 11 年からであり、現在、ピックアッ
プトラックによる実証実験が行われたところである。最近では、12 年 7 月に米国エネルギー省エネルギー
先端研究プロジェクト局エネルギー部門(APRA-E)が発表した NGV に関する総額 3,000 万ドルの研究支
援計画の中でも取り上げられている。「自動車動力に関するメタンエネルギー(MOVE)」と呼ばれる研究
支援計画がそれであり、採択された 13 事業のうち、天然ガスタンクに関わるものが 9 事業、なかでも吸着
型天然ガスタンク(ANG)に関するものは、フォード(550 万ドル)、テキサス A&M 大学(300 万ドル)
など 4 事業にも上る。
18 2012 年 7 月に発表した米国エネルギー省の研究支援計画「MOVE」でも、自宅でのガス補給装置の研
究開発事業支援が 3 件採択されており、研究開発に拍車がかかるだろう。なかでも採択された GE は同じ
く採択されたイートンと組んで、廉価だが高効率で操作性の高いガス補給装置の開発に取り組むこととし
ている。目標価格は補給装置単体で 500 ドル、補給システム全体で 1,000 ドル程度を目指している。同社
はチェサピーク・エナジーと組んで標準部品で構成されるガス補給装置事業「CNG In A Box™」を行うこ
とを既に発表しており、「MOVE」の研究開発で得た成果を同事業にも生かす予定である。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
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減などで数年以内に 1,000~1,500 ドルまで低下すれば、ゲームチェンジャーになりうると
している19。つまり、その価格帯まで低下すれば、自宅でのガス補給装置が急激に普及し、
NGV の保有台数が急増すると見ているのである。
しかし、自宅でのガス補給装置普及に向けて解決されていない問題点もある。住宅用のガ
ス価格は産業用と比較して非常に高い点である。12 年 9 月時点でのガスのパイプライン価
格は千立方フィートにつき 2.71 ドルに過ぎないが、住宅用ガス価格は同 14.91 ドルと 5 倍
以上に達する。だからといって当局が住宅用のガス価格引下げに介入するわけにはいかない。
住宅用のガス価格が高い理由のひとつとして、
ガス会社がパイプライン敷設費用等について
住宅用のガス価格に上乗せしているためであり、この価格を強制的に引き下げることは、ガ
ス会社の十分なインフラ網を築くための原資を損ねることになりかねない20。
次世代車として中小型 NGV は普及するか
NGV は補給一回当たりで電気自動車の 3 倍程度の距離を走行できるだけでなく、クリー
ンエネルギーを使うことでガソリンよりも汚染物質を排出しない。騒音も静かである。なに
よりも NGV の普及は石油の海外依存度を低下させる。ただし、その普及には上で挙げた二
つの課題、高い車両価格と貧弱なガススタンド網を解決する必要がある。これらの二つの課
題について米国が真剣に取り組むかどうかが今後重要となってくるが、そのためには、現在
の外部環境が持続することと連邦及び州政府の支援が拡充することが前提となるだろう。
外部環境とは、現状のエネルギー価格体系が維持され、環境規制が強化されることである。
当面のエネルギー価格は、原油価格が新興国需要の趨勢的な増大を受けて高値で推移する一
方で、米国の天然ガス価格がシェールガスなどの増産でこのまま低位安定するものと見られ
る。一方、環境規制については、オバマ政権は火力発電所や自動車の排ガスなどに対する規
制を強めており、今後も規制強化に変化はないものと見られる。原油高と天然ガス安、ガソ
リン車などに対する環境規制の厳格化が続くとすれば、NGV のガソリン車など従来の輸送
機関に対する優位性は強まっていくだろう。
さらに、連邦政府等の支援で NGV 普及の弱点である車両価格の高さとインフラ網の貧弱
さが克服される必要がある。NGV のメリットが市場で織り込まれていないために、車両価
格やインフラが割高となり、関連投資が過小になっている可能性が高い。このような市場の
失敗を政府が補うことで、設備投資が適正な規模となり、NGV が普及に向かう可能性が高
い。自動車メーカーは、政府支援によるコスト削減を享受するだけでなく、政府の NGV 普
及に向けた本気の取り組みを受けて NGV 生産見通しの上方修正と、中小型車両や個人用車
両の本格生産と価格引下げに動くだろう。消費者もこのような政府の姿勢と支援を受けてガ
ソリン車から NGV へのシフトを本気に考えるものと見られる。
つまり、このまま天然ガス価格の低位安定と環境規制など外部環境が続き、「NAT-GAS」
法案の可決を皮切りに NGV の政府支援が本格的となったとき、中小型 NGV は普及段階に
突入してプラグインハイブリッド車や電気自動車といった次世代自動車の一角に食い込む
ことになるだろう。
19
Tom Fowler, “Innovation in Energy (A Special Report) America, Start Your Natural-Gas Engines:
Replacing gasoline in our cars could be an energy game changer; Here’s what we need to do to get
from here to there” Wall Street Journal, June 18 2012
20 MIT の Knittel 教授は、ガス会社にインフラ投資を行わせながら、NGV 用のガス価格を引き下げるた
めに、二部料金制度の導入を提唱している(Knittel(2012))。
東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」
2013. 1. 22
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ただし、現状では外部環境はさておき、連邦政府等の支援が不十分でかつ遅れており、中
小型 NGV が普及に向かうにはしばらく時間がかかるものと見られる。
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