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東レ経営研究所 中国ビジネス研究会 上海駐在レポート 中国における
東レ経営研究所 中国ビジネス研究会 上海駐在レポート 中国における企業の文化活動についての一考 カネボウによるアンティークコンパクトコレクションを見学して 東レ経営研究所 中国ビジネス研究会 研究員 横川 美都 去る 10 月 29 日から 11 月3日までの 6 日間、上海久光百貨店の2階フロアにて、佳麗宝 (カネボウ)中国による「世界のアンティークコンパクトコレクション展 惊世粉盘缔造 佳丽传奇」が開催された。今回のエキジビションは、カネボウ美容研究所が所蔵する世界 的にも価値の高いアンティークの化粧コンパクト 1074 点の中から一部を無料で公開したも の。コンパクトコレクションの海外での公開は、香港・台湾・そして昨年の北京に続いて のもの。規模としては過去最大の 220 点が公開された。初日にはオープニングイベントが 行われた。ステージでは今回のイベントのためにコラボレートした中国人アーティスト KIM 氏がライブでペインティングパフォーマンスを行った後、日本から今回のコレクションの ために上海入りをしたカネボウ美容研究所の平尾清香主任によりコンパクトの歴史が紹介 された。また、展示されたコンパクトの中から特に特徴的な数点が実際どのように使用さ れていたかが分かるように、モデルによるデモンストレーションによって披露された。 「コンパクトのデザインは、女性の社会進出という歴史的背景と社会における地位、ライ フスタイルの変化に大きく影響しています。女性の社会進出が著しく中国国内においても お化粧に対する興味が強い上海において、今回の展示が多くの女性の共感を得られると思 っています」と平尾さんのコメント。また、中国でこのようなイベントを行うことになっ たきっかけについて質問したところ「以前に香港の代理商の方が研修で日本を訪れた際に、 美容研究所の所蔵されているこれらのコレクションを見て、ぜひ、何らかの形で香港の人 たちにも見せられないか、というお話をいただいたのがことの始め。その後、香港台湾そ して北京の百貨店で展示をしましたが、今回の上海が最大規模です」とのことであった。 一方、展示会場では簡単なアンケート用紙が配布されており、それを持って1階のカネ ボウのカウンターに行くとサンプルをもらえるようになっていた。 「来場したお客様にカネ ボウをご理解頂き、興味を持っていただいたうえで、カウンターでのカウンリングを体感 していただきたい、という思いからです」と今回の企画を中国側で担当した佳麗宝中国の 西岡麻衣子さん。 筆者は土曜日の昼間、数時間ほど会場にいさせてもらったが、観客の入りは非常に良か ったように感じる。たまたま、通りかかった人だけではなく事前に今回の展示会のことを 知ってわざわざ足を運んだ、という方も少なくなかった。年配の男性(60 歳くらい?)は 「骨董品が大好きで、自分でも収集している。海外にも友達がいるよ」と言いながら、持 参した骨董関係の著書を見せてくれた。平尾さんによると北京での展示会のときも、こう した方が数名いたそう) 。また、自身のお爺さんらしき男性と二人連れで来た 20 代前半の 女性は、会場にいた平尾さんに矢継ぎ早に質問をしていた。「これらは全部、カネボウの所 蔵するものなのか?」という質問をしたのは彼女のお爺さん。そうですよ、と平尾さんが 答えると「日本の企業はすごいですね。まだ、こうした文化的なことを出来る企業は中国 には少ないです」と話していた。日本ではかつてバブルの時代に企業のメセナ活動という ことが流行し、企業が競い合うかのようにいろいろな形で文化活動を行ったりアート作品 を購入したりしてきたが、中国ではまだこうしたことが一般的ではないのであろう。 また、上海で筆者が知る限り日本の企業がこうした非常に文化的な活動を行っているの を体験したのは始めてである(コンサートやショーなどの共同スポンサーというのはたま に見かけるが)。一方、フランスやイタリアなどの企業が自国の文化と自社のブランドを上 手く結びつけて、大型ショッピングモールで簡単なエキジビションを行ったり、ブランド が美術館などで正規のエキジビションを行ったりしている(筆者は過去に、プラダ、フェ ラガモ、ヴィヴィアン・ウエストウッド、LV グループなどのエキジビションを見てきた) 「カネボウが女性の化粧文化、歴史を大切に思い女性の美を応援していることを今回のエ キジビションを通じでより多くの中国女性に知ってもらえたら」という西岡さんの言葉の とおり、カネボウは“単なる化粧品を売る会社”ではなく歴史と文化を持った企業、長年 にわたり女性と彼女たちのために“美”について研究してきた企業である、と会場を訪れ た消費者たちに印象付けたことであろう。 最近訪れたある大手中国メンズブランドのグループ企業でも“弊社の企業文化は…”と いう話があった。経済が厳しくなる一方、消費者の選択の幅が広がる状況においては、嗜 好品であればあるほど消費者が購買をする際にブランド価値に注目することは中国でも同 じであろう。今後、日本企業が今後中国の消費者に訴求をしていく際には、こうした企業 文化、社会貢献ということまでもしっかりとアピールをしていく必要があるのではないだ ろうか。 左)久光百貨 2 階吹き抜けのイベントフロアに展示室が設置された 行われた 右)オープニングは屋外の会場にて アーティストによって真っ白なキャンパスにひとつの作品が仕上げられていく 左)ステッキの握り部分にコンパクトが隠されている からは時代背景などの紹介がされた 右)こちらはペンダント型。平尾さん(写真左) 左)ピアノの形。オルゴールのようだ 右)こちらはカメラ型。実際にフィルムを入れて撮影も可能。ド イツのカメラメーカーによるもの。 左)ショーでモデルが手にしていたのがこちらのステッキ型コンパクト、1900 年ごろのもの 右)1920 年 30 年代のもの。当時、黒人ダンサー、ジョセフィン・ベーカーが一斉を風靡。展示を見ていくと、時代 背景がコンパクトのデザインに大きく影響していることが分かり非常に面白い。 左)こちらは中国のもの 右) “Bird In Hnad”という名が付けられたサルヴァトーレ・ダリによるデザ イン。羽の部分が開き、ファンデーション(粉)が入る。首の部分も取れて中からリップスティックが出 てくる仕組み。当時はお粉だけでなく口紅もケースとはバラ売りされており、メーカーやブランドに関係 なく購入後自分の好きなケースにセットすることが出来たそう。今考えると非常に“エコ”なスタイルだ。 展示会場の最後のスペースには、日本人と中国人のメイクアップアーティストによるお試しコーナーが。 最初遠巻きに見ていた人たちも、誰かが始めると興味深そうに近づき気がつくと人だかりが…。 「ぜひ、日 本の人にお化粧してもらいたい」という女性たちも多く、日本からやってきた原田氏(写真左)は休むま もない忙しさだった。 会場で配布されていたタブロイド版のパンプレット。非常に丁寧な作りになっている。展示会場にも中国 語日本語ふたつの表記がされていた。