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1 1 1 1 - LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
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◆ 2014 年 10 月 17 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 民法(財産法)No.86
文献番号 z18817009-00-030861130
猫の里親を探すボランティアから猫を詐取した者の不法行為責任
【文 献 種 別】 判決/大阪高等裁判所
【裁判年月日】 平成 26 年 6 月 27 日
【事 件 番 号】 平成 26 年(ネ)第 367 号
【事 件 名】 損害賠償等請求控訴事件
【裁 判 結 果】 変更
【参 照 法 令】 民法 709 条・710 条
【掲 載 誌】 公刊物未掲載
LEX/DB 文献番号 25504354
……………………………………
……………………………………
基づく損害賠償請求については、YがX1らに対
して、既に他から複数の猫の引渡しを受けている
こと、引渡しを受けた猫をいずれも継続して飼養
していないことを秘匿して、本件各猫の贈与契約
を締結したことは詐欺による不法行為であると
し、X1 ら各人についてそれぞれ 10 万円の慰謝
料と避妊・去勢費用やワクチン接種費用などその
他の財産的損害の合計約 63 万円の支払いをYに
命じた。敗訴部分を不服として、X1らが控訴した。
事実の概要
1 事案
X1 ~X5 ら 5 人は猫の里親を探すボランティ
ア活動をしていたが、インターネットの里親募集
サイトや地域情報誌などを使って里親を募集して
いたところ、これに応じて里親になりたい旨を申
し出たYに対して、平成 22 年 11 月から平成 23
年 10 月までの間に、猫 5 匹(以下、本件各猫とい
う)を贈与し、引き渡した。X1らは、平成 24 年
1 月ごろ、Yによる猫の詐取被害が発生している
ことを知り、Yに本件各猫の返還を求めたが、Y
はそれに応じなかった。そこで、X1らは、Yは
猫を適切に飼養する意思がないのに、他にも複数
の猫を譲り受けていた事実があるにもかかわらず
そのような事実を秘し、猫を適切に飼養するなど
の虚偽の事実を告知してその旨誤信させ本件各猫
を詐取したとして、主位的に本件各猫の所有権に
基づき、予備的に本件各猫の贈与契約の取消しに
よる不当利得返還請求権に基づき、Yに対して本
件各猫の引渡しを請求するとともに、詐欺を理由
とする不法行為に基づく損害賠償を請求した。
3 当事者の主張
X1らは、第一審判決が本件各猫の引渡請求に
つき特定性が不十分であるとの理由で却下した点
について、本件各猫は、原判決添付別紙猫目録の
写真、名前、飼い主の認識において特定されてお
り、執行の困難性をもって、裁判官の個人的主観
のみで執行不可能として所有者への返還を認めな
いのは誤りであると主張した。また、X1らの損
害賠償請求についても、人と動物の共生のため猫
の里親を探す活動をしてきた同人らの精神的苦痛
を慰謝するためにも、また、同人らを欺いて猫を
奪ったYのような者による再犯を抑止する観点か
らも、X1ら 1 人につき 100 万円の慰謝料を認め
るのが相当であるとして増額を求めた。
これに対して、Yは、本件各猫については、虐
待したり逃がしたりするために譲り受けたもので
はなく、最後まで面倒を見るつもりで譲り受けた
として第一審と同様の主張を繰り返し、本件各猫
は死亡した 1 匹を除き全て逃げ出したのでX1ら
に返還することはできないとした。
2 第一審の判断
第 一 審( 大 阪 地 判 平 26・1・17 公 刊 物 未 掲 載、
LEX/DB 文献番号 25503120) は、本件各猫の引渡
請求については、原告から提出された猫目録記載
の、各猫の性別や毛色、写真などをもって第三者
が本件各猫を識別することは困難であり、給付対
象の特定が不十分でその執行が困難であるため、
不適法であるという理由で却下した。不法行為に
vol.7(2010.10)
vol.16(2015.4)
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新・判例解説 Watch ◆ 民法(財産法)No.86
保護して里親を探すボランティア活動をしていた
X1ら 5 名が、インターネットの里親募集サイト
や地域情報誌などを使って里親を募集していたと
ころ、これに応じて里親になりたい旨を申し出た
Yに対して、合わせて 5 匹の猫を贈与し引き渡
したが、その後になってYによる猫の詐取被害が
発生していることを知り、引き渡した猫の返還を
求めたという事例である。本件は、新聞でも「捨
て猫返還訴訟」として取り上げられた1)。本件同
様、猫の里親募集のボランティア活動をしている
者から、適切に飼養する意思がないにもかかわら
ずあるかのように装い猫の贈与を受けたという事
例で、詐欺を理由として贈与契約の取消しによ
る猫の返還請求を認めた判決がある(大阪高判平
判決の要旨
X1らからの猫の引渡請求にかかる訴えについ
ては第一審同様いずれも却下したが、原判決を変
更し、YのX1らに対する不法行為に基づく損害
賠償の額を増額しその支払いをYに命じた。
本件各猫の引渡請求については、目的物の特定
の程度は、動産引渡しの強制執行の実現が可能か
どうかという観点によって判断されるべきである
が、猫が広い範囲を自由に動き回るものであるこ
となどを考えると、Y宅に存するという場所的特
定は特定方法として不十分であり、本件各猫の個
別の特徴をもってこれを特定する必要がある。し
かし、原判決添付別紙猫目録を見ると、本件各猫
を識別するに足りる特徴が不足しており、また、
既に贈与されてから 3 年ないし 4 年近くが経過
しているため、本件各猫の外形が変化している可
能性もあることから、
「本件各猫の引渡執行を実
施する執行官が、現時点において、執行の現場で、
原判決添付別紙猫目録の情報だけで本件各猫を識
別し、執行対象の目的物であると判断することは
不可能ないし著しく困難」であり、給付対象の特
定が不十分であるとして、第一審同様、本件各猫
の引渡請求にかかる訴えを却下した。
Yの不法行為責任については、第一審同様これ
を認めたが、X1らに対する損害賠償額について
は、
「控訴人らの動物愛護のための活動は尊重さ
れ、法的にも保護されるべきものであること、被
控訴人の詐欺行為は、積極的かつ巧妙なもので
あって、およそ動物愛護の精神と相いれない悪質
な行為であること、その結果、控訴人らは、本件
各猫の救済のための努力と願いが踏みにじられ、
大きな精神的苦痛を被った」として、原判決では
各 10 万円であった慰謝料を各 20 万円に増額し、
その他の財産的損害と合わせて約 122 万円の損
害賠償請求を認めた。
19・9・5 消費者法ニュース 74 号 258 頁、LEX/DB 文
献番号 25471581)
。また、刑事事件であるが、同
様の猫の詐取で猫を譲り受けた目的が虐待であっ
た点がはっきりしていた事例につき、詐取された
猫を「財物」と見て詐欺罪(刑法 246 条)と動物
虐待罪(動物愛護法 44 条)との併合罪の成立を認
めた判決がある(横浜地川崎支判平 24・5・23 判時
2156 号 144 頁)2)。
二 猫の贈与契約
捨てられるなどして飼い主のいない猫は、無主
物として、所有の意思をもって占有を始めた者が
その所有権を取得する(民法 239 条)。X1 らは、
本件各猫を拾って保護し新たな飼い主が見つかる
までの間であるがその世話をしており、所有の意
思をもって占有を始めた者として、本件各猫の所
有者であるといえる。単なる猫の保護者である
X1らでも、所有の意思、すなわち所有者と同様
に猫を排他的に支配しようとする意思はあると考
えられるからである。
X1らは、里親募集に応じて連絡をしてきたY
に、本件各猫を無償で譲与しており、X1ら各人
とYとの間には本件各猫の贈与契約が締結され
た(同 549 条)。原判決の認定した事実によれば、
贈与契約に基づく猫の引渡しに際して、X1らは、
Yとの間で「契約書」、「譲渡契約書」、「誓約書」
等の書類を取り交わしており、そこには、本件各
猫を終生飼養すること、無断で第三者に譲渡しな
いこと、飼養ができなくなったときはX1らに連
絡することなどが記載されていた。受贈者に、終
生飼養するなどの一定の負担を負わせていること
判例の解説
一 裁判例
今なお多くの飼い主のいない猫が殺処分されて
いることから、殺処分ゼロを目指して、野良猫の
保護・里親探しや避妊・去勢手術などのボラン
ティア活動を行っている団体や個人が、日本各地
で増えている。本件は、このような野良猫などを
2
2
新・判例解説 Watch
新・判例解説 Watch ◆ 民法(財産法)No.86
や情報だけでは猫の特定が不十分であるとして、
猫の返還請求は却下された(大阪地判平 18・9・6
3)
判タ 1229 号 273 頁、
LEX/DB 文献番号 28112113) 。
しかしながら、高裁では、猫目録による猫の特定
には欠けることがなく、またこれ以上に原告らに
猫を特定するための資料の提出を求めることは不
可能もしくは困難であるとして、引渡請求の対象
の特定は十分であるとされた。この事例は、猫の
引渡しから 1 年半ほどと本件よりも引渡しから返
還請求までの期間は短かったが、引き渡された猫
が生後 1 か月から 6 か月までと幼齢であり、1 年
半でも外形の変化はかなり大きいと考えられる事
例であった。これに対して、本件の猫は、原判決
添付別紙猫目録によれば、5 か月から 5 歳までで
あり幼齢とはいえず、3 年から 4 年が経過しても
外形上の変化がさほど大きくなく特定するのは困
難ではないと思われる猫も含まれていた。同じ大
阪高等裁判所の判決であるが、猫の返還請求に関
し何が判断を分けたのか、その理由は不明である。
本件のYの主張によれば、X5から贈与された
猫は死亡し、他の猫は逃げたとのことである。判
決でも、Yは、X1らの約束に反して、本件各猫
をどこかに逃がすか、何らかの方法で処分してし
まったとされている。本件で返還請求が認められ
たとしても、実際に猫を見つけ出すことは困難で
あり、執行が困難であることは予想に難くないが、
原判決添付別紙猫目録以上の情報をX1らに求め
ることは酷であり、大阪高判平 19・9・5 と同様
に返還請求を認めることもできたのではないだろ
うか。
を考えると、これを負担付贈与と見ることもでき
るだろう(同 553 条)。負担付贈与と見れば、猫
を適切に終生飼養するという受贈者が約束した負
担を十分に果たさなかった場合には、債務不履行
を理由に契約を解除し猫の返還を求めることも考
えられる(同 540 条以下)。
しかし、本件では、Yが本件各贈与契約締結以
前に、あるいはこれらと並行して、別の猫の里親
を募集していた者から数匹の猫を譲り受けていた
ことを秘して本件各猫の贈与を受けたこと、猫を
飼ったことはないなどの虚偽の事実を告げて、里
親として適切かつ終生にわたって猫を飼養すると
X1らを誤信させていた点から、X1らは贈与契約
の公序良俗による無効ないしは詐欺による取消し
を主張して猫の返還を請求した。
この点について、第一審判決は、Yの不自然な
態度に照らして、Yは、X1らに対して、本件各
猫を終生飼養する意思がないにもかかわらず、そ
のような意思があると虚偽の事実を告げ、本件各
猫を適正に飼養するとX1らを誤信させ本件各猫
を贈与させたとして、詐欺を理由とする不法行為
責任の成立を認めた。しかし、詐欺による贈与契
約を取り消すことにより、X1らが所有権に基づ
き本件各猫の返還を求めた点については、猫の特
定性が不十分であるとしてこれを認めなかった。
本判決も同じく、詐欺による不法行為責任を認め
つつ、猫の返還請求については認めなかった。
三 猫の返還請求の可否
動産引渡しの強制執行では、当然、引渡しの対
象が特定している必要があるが、本判決では、原
判決添付別紙猫目録の情報だけでは猫の特定性が
不十分であり、その執行が不可能ないしは著しく
困難であるとする。
「本件各猫が贈与されてから
間もない時期の引渡請求(例えば、引渡しの仮処
分の執行)の段階であればともかく」、本件各猫
が引き渡されてから既に 3 年から 4 年近くが経
過しており、猫の風貌、体形などが猫目録の写真
に比べて変化している可能性があることを指摘し
ている。したがって、より早い段階で訴えを提起
していれば、返還請求が認められた可能性がある。
猫の里親募集のボランティアが猫の返還を請求
した本件と同様の事例である大阪高判平 19・9・
5(既出) では、猫の返還請求が認められた。こ
の事例も、第一審では、猫目録に記載された写真
vol.7(2010.10)
vol.16(2015.4)
四 不法行為による慰謝料
本判決では、YがX1らに、本件各猫を飼養す
る意思がないのに、そのような意思があると虚偽
の事実を述べ詐欺により本件贈与契約を締結させ
たものであり、YはX1らに対して不法行為責任
を負うとしている。その際、本判決は、判決文
に、X1らが動物愛護の精神に基づき、野良猫の
殺処分という事態を防ぎつつ、野良猫の保護や里
親探しのボランティア活動を行っている者である
ことを追加している。さらに、不法行為による精
神的苦痛に対する慰謝料額の算定に際しては、動
物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)の条
文を参照しつつ、動物の愛護と適正な飼育が法律
によって義務付けられていることから、X1らの
3
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新・判例解説 Watch ◆ 民法(財産法)No.86
料請求を認めるのが最近の裁判例である。ここ数
年の裁判例では、獣医療過誤を中心に飼い主の慰
謝料は徐々に高額化しており、ペットの品種な
どを問わず、飼い主 1 人に対して 20 万円から 30
万円の慰謝料が認められている5)。本件はペット
死傷に際しての飼い主の慰謝料請求とは事例が異
なるため、判決では動物愛護法の趣旨が援用され
ているが、X1らもたとえ里親に譲り渡すためで
あっても保護した本件各猫に愛着を持っていたと
考えられ、本件各猫の生死などを案じて大きな精
神的苦痛を被った点は通常の飼い主と変わらない
といえる。本件でも、X1らに、ペットの飼い主
の慰謝料と同等の 1 人 20 万円の慰謝料が認めら
れている。なお、本件と同様の大阪高判平 19・9・
5(既出) では、里親探しボランティア 1 人につ
き 15 万円の慰謝料が認められている。
動物愛護の活動は尊重され、法的にも保護される
べきものであり、これを踏みにじったYの行為
は、強い非難を免れないことを強調する。そして、
X1らは、本件各猫をYに委ねてしまったことを
深く後悔するとともに、本件各猫の生死・消息や
現在の境遇を案じながら現在に至っており大きな
精神的苦痛を被ったとして、慰謝料額を原判決の
1 人 10 万円から倍の 20 万円に増額している。
動物愛護法によれば、動物の所有者は、「命あ
るものである動物」(動物愛護法 2 条)の所有者と
して動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自
覚して、動物を適正に飼養し、動物の健康及び安
全を保持するように努めなければならず(同 7 条
1 項)、所有者の動物に対する終生飼養に関する
努力義務も定められている(同 7 条 4 項)。所有
者であったとしても、必要なく動物の命を奪った
り、傷つけたり、放置したりすることはできず、
動物虐待罪に問われる。愛護動物を遺棄した者は、
100 万円以下の罰金に処せられる(同 44 条 3 項)。
本判決は、このような動物愛護法の条文を参照し
つつ、Yの行為を非難するのである。
「物」が第三者により毀損・滅失せしめられた
場合、通常はその経済的価値が賠償されれば、そ
のことで精神的損害も賠償されたと考えられる。
理論的には慰謝料請求は可能でも、実務上、慰謝
料はほとんど認められない。しかし、民法上は単
なる「物」であるはずの動物については、交通事
故や獣医療過誤などにより死亡・負傷した場合に、
飼い主からの精神的損害の賠償請求を認める裁判
例が定着している。ペットについては、繁殖に用
いられるなどの理由で成体になっても高い経済的
価値を有する場合はあるが、通常、その経済的価
値は幼体の時が最高でその後はその価値を急激に
失う。本件のように拾って保護した猫であれば、
はじめから経済的価値はほぼゼロである。しかし、
飼い主はペットに愛情をかけてきたことでその死
傷に際して大きな精神的苦痛を受け、わずかな経
済的価値の賠償により精神的苦痛まで慰謝された
と考えることは難しい。ある判決では、「犬をは
じめとする動物は、生命を持たない動産とは異な
り、個性を有し、自らの意思によって行動すると
いう特徴があり、飼い主とのコミュニケーション
を通じて飼い主にとってかけがえのない存在にな
ることがある」
と述べられている4)。飼い主とペッ
トとの強い結びつきを重視し、飼い主からの慰謝
4
●――注
1)朝日新聞 2014 年 6 月 28 日大阪版朝刊 25 面。
2)同判決の評釈として、松宮孝明「判批」法セ 695 号(2012
年)131 頁、三上正隆「判批」愛学 54 巻 3 = 4 号(2013
年)117 頁、冨永雅満「判批」新報 120 巻 3 = 4 号(2013
年)543 頁がある。
3)同判決の評釈として、升田純「判批」Lexis 判例速報
14 号(2006 年)63 頁がある。
4)東京地判平 16・5・10 判タ 1156 号 110 頁。飼い犬(スピッ
ツ)の診療に当たった獣医師らに対する不法行為に基づ
く損害賠償請求において、飼い主夫婦に合わせて 60 万
円の慰謝料の支払いが認められた事例である。同判決の
評釈として、長谷川貞之「判批」リマークス 32 号(2006
年)52 頁がある。
5)例えば、大阪地判平 21・2・12 判時 2054 号 104 頁(雑
種の猫、18 歳、20 万円)、名古屋高判平 20・9・30 交
民集 41 巻 5 号 1186 頁(ラブラドールレトリバー、飼
い主 2 人に 40 万円)、横浜地判平 18・6・15 判タ 1254
号 216 頁(ミニチュアダックスフント、20 万円)、名古
屋高金沢支判平 17・5・30 判タ 1217 号 294 頁(ゴール
デンレトリバー、飼い主 2 人に 30 万円)。カッコ内の金
額は、それぞれの判決で認められた慰謝料額である。
明治大学教授 吉井啓子
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