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◆ 2015 年 12 月 25 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 刑法 No.97
文献番号 z18817009-00-070971292
組織的詐欺罪における「団体」
、
「組織」の意味(「岡本倶楽部」事件)
【文 献 種 別】 決定/最高裁判所第三小法廷
【裁判年月日】 平成 27 年 9 月 15 日
【事 件 番 号】 平成 27 年(あ)第 177 号
【事 件 名】 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件
【裁 判 結 果】 棄却
【参 照 法 令】 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成 23 年法律第 74 号に
よる改正前のもの)3 条 1 項 9 号、刑法 246 条・60 条
【掲 載 誌】 裁時 1636 号 4 頁
LEX/DB 文献番号 25447452
……………………………………
……………………………………
事実の概要
決定の要旨
被告人Xは、リゾート施設会員組織の運営、管
理、会員権の管理、販売及び各種観光地の開発、
企画などを業務目的とする株式会社A(以下「A」
という。
) の実質オーナーとして業務全般を統括
掌理していた者であるが、Aの役員らと共謀のう
え、真実はAが大幅な債務超過の状態にあり、施
設利用預託金の 5 年後の返還及び付与された宿
泊ポイントの未利用分の払戻しに応じる意思も能
力もないのに、虚偽の事実を申し向け、会員制リ
ゾートクラブであるB倶楽部の施設利用預託金及
び施設利用料の名目で、のべ 194 名の被害者か
ら総額約 4 億円の金員の交付又は振込入金を受
けるとともに、総額約 1 億 5 千万円の返還の履
行期限の延期を受けたとして、組織的犯罪処罰法
最高裁は、Aが組織的犯罪処罰法における「団
体」に当たることについては疑問の余地がなく、
また、B倶楽部の施設利用預託金及び施設利用料
を集める行為が、Aという団体の活動に当たるこ
とは明らかであるとしたうえで、上記行為が、
「詐
欺罪に当たる行為を実行するための組織により行
われた」といえるかにつき、以下のように判示し
た。
「原判決の認定によれば、被告人はもとより、
……Aの主要な構成員にあっては、遅くとも平成
21 年 9 月上旬の時点で、Aが実質的な破綻状態
にあり、集めた預託金等を返還する能力がないこ
とを認識したにもかかわらず、それ以降も、……
組織による営業活動として、B倶楽部の施設利用
預託金及び施設利用料の名目で金銭を集める行為
を継続したというのである。上記時点以降、上記
営業活動は、客観的にはすべて『人を欺いて財物
を交付』させる行為に当たることとなるから、そ
のような行為を実行することを目的として成り
立っている上記組織は、『詐欺罪に当たる行為を
実行するための組織』に当たることになったとい
うべきである。上記組織が、元々は詐欺罪に当た
る行為を実行するための組織でなかったからと
いって、また、上記組織の中に詐欺行為に加担し
ている認識のない営業員や電話勧誘員がいたから
といって、別異に解すべき理由はない。」
(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する
法律)3 条 1 項 9 号違反の罪である組織的詐欺罪
に問われた。
原々判決1)は、Aは遅くとも平成 21 年 9 月の
時点においてはいわば自転車操業の状態に陥り、
実質的に破綻状況にあったとし、遅くともこの時
点においては、
「AはB倶楽部の預託金及び施設
利用料名目で金銭を詐取することなどを共同の目
的とする団体に該当する状態にあり、かつ、本件
各行為は、Aという団体の活動として、詐欺を実
行するための組織により行われたと十分に認定す
ることができる」として、組織的詐欺罪の成立を
認め、Xに懲役 18 年を言い渡した。原判決2)が
控訴を棄却したため、Xが上告した。
vol.7(2010.10)
vol.18(2016.4)
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新・判例解説 Watch ◆ 刑法 No.97
であり、法整備の必要性としても、「暴力団組織
等による犯罪の特徴は、犯罪が組織的に行われる
ことから、その目的実現の確実性が高く、重大な
結果を生じやすいという意味で、極めて危険かつ
悪質な犯罪ということができる」3)という点が挙
げられている。同法 3 条 1 項に規定される組織
的犯罪の刑の加重根拠については、本決定も言及
するように、「団体の活動として、これを実行す
るための組織により行われる場合は、通常継続性
や計画性が高度で、多数人が統一した意思の下で、
指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分
担に従って、一体として犯罪を実行するという点
で、その目的実現の可能性が著しく高く、また、
重大な結果を生じやすい、あるいは、ばく大な不
正の利益が生ずることが多く、特に悪質であって、
違法性が高いと考えられる」4)という点に求めら
れている。もっとも、ここで指摘される傾向は、
そもそも、共犯現象一般に妥当する傾向ともいえ
るものであり5)、また、3 条 1 項に列挙された犯
罪に特徴的に顕在化するわけでもない。それゆえ、
「団体の活動」として刑を類型的に加重するため
には、刑法 60 条以下の共犯規定の適用を超える
独自の正当化根拠が必要であろう。このことは、
組織的犯罪として類型的に刑を加重することの正
当性にかかわる問題といえよう。
いずれにせよ、組織的犯罪処罰法の立法におい
て念頭に置かれていたのは暴力団組織等の反社会
的な組織による犯罪であり6)、組織的詐欺罪の適
用においても、会社組織を背景とした詐欺罪一般
を対象とするものではなく、暴力団組織等による
会社等の法人組織を利用した詐欺商法等7) が想
定されていたものといえる。
判例の解説
一 本件の争点
本件は、詐欺罪の成否とともに、被告人らの行
為が「団体の活動」として、「当該罪に当たる行
為を実行するための組織」によって行われたか否
かが争われたものであり、事例判断ではあるもの
の、この点に関する最高裁のはじめての判断であ
ると思われる。
組織的犯罪処罰法 3 条 1 項は、刑法典に掲げ
られた一定の犯罪について、当該罪が「団体の活
動」として、
「当該罪に当たる行為を実行するた
めの組織」により行われた場合(以下「組織的犯罪」
という。) について、法定刑を加重する旨を規定
している。最高裁が言及した法律上の論点は、組
織的詐欺罪が成立するためには、団体の構成員全
員が詐欺の故意を有し、詐欺行為の実行を目的と
している必要があるか、それとも、団体の主要な
構成員が「組織」を構成していれば足りるかとい
う点であり、被告人は、団体の構成員全員が、自
らその団体の活動に参加する意思を抱き、そのよ
うな構成員全員の意思が結合することで、犯罪組
織を形成する必要があるとの前提に立ち、Aの一
般の営業員や電話勧誘員には、詐欺行為に加担し
ているとの認識がなく、構成員全員の意思の結合
は認められないから、
「当該罪に当たる行為を実
行するための組織」には当たらないと主張したの
に対し、最高裁は、上記の判断を示したものであ
る。
本決定は、Aが「団体」に該当することは、
「疑
問の余地がない」とする。もっとも、本件Aを「団
体」といえるかについては、組織的犯罪処罰法の
立法趣旨、組織的犯罪の重罰根拠に照らした検討
が求められるように思われる。以下では、この点
も踏まえながら、本決定の意義について考えてみ
たい。
三 組織的詐欺罪の成立要件
組織的犯罪の重罰根拠をこのように解するなら
ば、暴力団組織等を背景とした企業組織と明示的
に認定されたわけではない本件Aを組織的犯罪処
罰法にいう「団体」と捉えうるかは、なお疑問の
余地が生じるように思われる。この点を検討する
前に、まず、組織的詐欺罪の成立要件を整理して
おこう。
組織的詐欺罪は、刑法 246 条の詐欺罪が「団
体の活動」として、「当該罪に当たる行為を実行
するための組織」によって行われた場合に成立す
る。「団体」(「組織」の定義を含む。) については
二 組織的犯罪の加重根拠
組織的犯罪処罰法は、組織的な犯罪が社会生活
全般の大きな脅威になっているとの状況認識を踏
まえ、我が国の組織犯罪対策のみならず国際連合
等における動向も受けて立法化されたものであ
り、平成 11 年 8 月に成立し、平成 12 年 2 月 1
日から施行されている。主に念頭に置かれていた
「組織的な犯罪」とは、暴力団組織等によるもの
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新・判例解説 Watch
新・判例解説 Watch ◆ 刑法 No.97
組織的犯罪処罰法 2 条 1 項に、
「団体の活動」に
ついては同法 3 条 1 項に、それぞれ、その意義
が規定されている。すなわち、「団体」とは、「共
同の目的を有する多数人の継続的結合体であっ
て、その目的又は意思を実現する行為の全部又は
一部が組織により反復して行われるもの」をいい、
「組織」とは、
「指揮命令に基づき、あらかじめ定
められた任務の分担に従って構成員が一体として
「団
行動する人の結合体」をいう(2 条 1 項)。また、
体の活動」とは、
「団体の意思決定に基づく行為
であって、その効果又はこれによる利益が当該団
体に帰属するもの」をいう(3 条 1 項)。
立案担当者の説明によれば、
「団体」は暴力団
その他犯罪の実行を目的とするものには限定され
ないが、
「団体」の要件のみによって加重類型に
当たる行為の範囲が確定されるわけではなく、正
当な目的を有する団体が通常行っている活動が
「団体の活動」として「当該罪に当たる行為を実
行するための組織」により行われるという要件に
該当することは、想定しがたい8)、という。また、
「当該罪に当たる行為を実行するための組織」と
は、ある罪に該当する行為を実行することを目的
として成り立っている組織、すなわち、当該行為
を実行するという目的が構成員の結合関係の根拠
となっている組織をいい、既存の組織であっても、
それがある罪に該当する行為を実行する組織とし
て転用された場合には、これに該当する9)。
ては存在しないにもかかわらず、これによる莫大
な事業収益があると誤信させて金員を交付させた
とされた事案(東京高判平 23・2・23LEX/DB 文献
番号 25472518[L&G 事件]
)
、⑤未公開株式の販売
について、当該株式が証券取引所に上場する具体
的予定がなく、また、発行会社の株価が上昇する
見込みもないのに、これがあるかのように装って
金員を騙し取ったとされた事案(千葉地判平 24・
9・4LEX/DB 文献番号 25482766) など、会社とし
ての事業の実体がないものや、会社組織の信用を
悪用して詐欺の実効性を高めようとしたと評価で
きるものが多いと思われる。他方、会社としての
事業の実体がないとはいえないと思われる事案
について、本罪を適用したものも見られる。例
えば、福岡地判平 25・12・18(LEX/DB 文献番号
25503174)では、商品先物を売買する権利である
オプションの取引を仲介することを業とする会社
の代表取締役らが、確実に利益を得られるかのよ
うに装ってオプションを購入させるなどして預託
金名目で金員を詐取したという事案について、本
罪の成立を肯定した。本件では、手数料収入を得
るために、「利益を出すのが極めて困難で損失を
被る可能性が極めて高い」取引であることを認識
しながら、それを秘して取引に勧誘したことが
詐欺罪(組織的詐欺罪)に当たるかが争われたが、
本件会社には、商品先物を売買する権利であるオ
プションの取引を仲介することを業とする会社と
しての事業の実体は認められたともいえよう。い
ずれにせよ、これらの裁判例は、暴力団を背景と
した企業活動として「団体の活動」が認定された
ものではない。
すでに見たように、組織的犯罪処罰法におけ
る「団体」の定義規定は、暴力団組織等のいわば
反社会的組織に限定することなく、会社等の組織
一般を包含できる内容となっている。しかし、同
法の立法目的を踏まえれば、暴力団等の反社会的
組織ないし犯罪的な組織が念頭に置かれ、このよ
うな「団体」の活動を加重処罰によって抑止しよ
11)
うとしていたことは明らかなように思われる 。
そうだとすると、
「団体」ないし「団体の活動」を、
会社組織一般に広げることは、加重処罰の正当性
の根拠を失うことになろう。また、本決定の論理
を敷衍すれば、例えば、経営危機に直面した会社
等組織が経営の立て直しのために行う金員の受け
入れが組織的詐欺罪として刑法 246 条の詐欺罪
四 「団体」の意義
組織的詐欺罪が適用された裁判例を見ると、会
社組織を背景とした事案については、例えば、①
ソフトウェア等を扱う会社の正常な取引を装っ
て新品パソコン等を騙し取った、いわゆる取り
込み詐欺の事案(横浜地判平 16・9・30 判タ 1170
号 139 頁)
、②新規公開株を購入する意思がなく、
交付を受けた金員は被告人らの用途に費消する意
図であったにもかかわらず、これを秘して新規公
開株の販売名目で金員を騙し取ったとされた事案
(東京地判平 19・1・23LEX/DB 文献番号 28145152)、
③もっぱら詐欺行為を行うために設立した会社組
織を舞台として、長期にわたり反復継続的に組織
的詐欺が行われたとされた事案(東京地判平 19・7・
2LEX/DB 文献番号 28145210[ジー・オーグループ事
10)
、④マルチ商法による物品販売等の会社
について、物品販売等による事業収益を得る手立
件])
vol.7(2010.10)
vol.18(2016.4)
3
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新・判例解説 Watch ◆ 刑法 No.97
よりも加重処罰されることにもなりかねない。し
かし、これを通常の詐欺罪及びその共犯よりも類
型的に重く処罰する理由はないであろう。「団体」
を暴力団組織等に限定する法文上の根拠はないと
して、これ以外にも適用を拡げるとしても、事業
の実体を有する法人等組織における資金等の受け
入れが詐欺罪に該当する場合には、これに加担し
た者の処罰は、刑法 246 条及び刑法 60 条以下の
共犯規定の適用によって評価されるべきであり、
それゆえ、会社としての事業の実体が認められる
場合には、「当該罪に当たる行為を実行するため
の組織により行われた」とはいえないとして、本
12)
罪の適用は否定されるべきであろう 。
めることには、加重処罰の正当性を見いだし得な
い。このような観点からは、Aが「実質的な破綻
状態」にあったかどうかではなく、問題となった
ホテル会員権システムに事業としての実体があっ
たかどうかの検討が求められたように思われる。
六 おわりに
本決定は、「詐欺罪に当たる行為を実行するた
めの組織」に当たるかについて最高裁として初め
て判断を示したものである。最高裁は、このよう
な組織といえるためには、組織が元々詐欺罪に当
たる行為を実行するためのものである必要はな
く、また、組織を構成する者全員が詐欺行為に加
担しているとの認識を有する必要がないとの判断
を示した。この点については、妥当といえよう。
もっとも、同罪の加重処罰根拠を踏まえれば、対
象となる「団体の活動」は、やはり、本来、いわ
ゆる「フロント企業」による事案など、暴力団等
の反社会的組織を背景とした活動に限定されるべ
きであるように思われる。
五 本件株式会社Aの「団体」性
原々判決の認定によれば、本件Aは、平成 18
年 10 月にB倶楽部の会員権システムを運営する
会社としてXらによって設立されたもので、B倶
楽部のホテル会員権制度は、会員にとって相当有
利な内容であり、事業計画自体に無理があったと
評価されるものであった。そのうえで、原々判決
は、事実の概要に示したように、Aは「遅くとも
平成 21 年 9 月の時点においては、いわば自転車
操業の状態に陥り、実質的に破綻状況にあった」
との事実を認定し、組織的詐欺罪の成立を認め、
また、原判決も、平成 21 年 9 月以降において「A
が詐欺行為の実行を目的とする団体に転化した」
として、その後の預託金の受け入れを、Aという
「団体の活動」
として「詐欺を実行するための組織」
により行われたと認定した。そして、本決定は、
Aが組織的犯罪処罰法にいう「団体」に当たるこ
とは「疑問の余地がない」として、もっぱら「詐
欺罪に当たる行為を実行するための組織により行
われた」といえるかを問題として、その要件につ
いての判断を示した。しかし、平成 21 年 9 月上
旬の時点でも、Aになおホテル会員権制度を運営
する会社としての事業の実体があったとすれば、
本罪の適用は抑制的であるべきであろう。
上記の観点から見れば、本件については、Aが
組織的犯罪処罰法の立法目的及び組織的犯罪の重
罰根拠を踏まえて「団体」といえるかどうかの実
質的検討が求められたように思われる。他方、
「団
体」を暴力団等の組織に限定する法文上の根拠が
ないとして会社組織一般に拡げるとしても、会社
としての事業の実体がある場合に本罪の適用を認
4
●――注
1)東京地判平 25・5・30LEX/DB 文献番号 25505603。
2)東京高判平 26・12・17LEX/DB 文献番号 25505571。
3)三浦守ほか編著『組織的犯罪対策関連三法の解説』(法
曹会、2001 年)2 頁。
4)三浦ほか・前掲注3)書 81 頁以下。
5)「団体」は 2 人以上の者が結合していれば認められる。
三浦ほか・前掲注3)書 61 頁参照。
6)このことは、3 条 1 項各号に列挙された、組織的な犯
罪として刑が加重される犯罪の一覧からもうかがえよ
う。
7)三浦ほか・前掲注3)書 1 頁参照。
8)三浦ほか・前掲注3)書 70 頁参照。
9)三浦ほか・前掲注3)書 88 頁参照。
10)本判決について、橋爪隆「会員による出捐を伏した求
人広告による組織的詐欺(刑事責任)」消費者法判例百
選(別冊ジュリ 200 号、2010 年)124 頁。
11)その意味で、同法は、
「行為」刑法ではなく、
「行為者」
関係的刑法であるといえよう。なお、「団体」を宗教団
体や暴力団等に見られる「強い内部統制」を及ぼすこと
のできる団体に限定しようとする理解を批判するものと
して、杉山徳明「判批」研修 652 号(2002 年)13 頁、
19 頁以下。
12)その意味では、前掲福岡地判平 25・12・18 が組織的
詐欺罪を適用したことについても、疑問の余地があるよ
うに思われる。
岡山大学教授 神例康博
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