...

Page 1 州工業大学学術機関リポジトリ *kyutaca 『 Kyushulnstitute of

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

Page 1 州工業大学学術機関リポジトリ *kyutaca 『 Kyushulnstitute of
九州工業大学学術機関リポジトリ
Title
Author(s)
Issue Date
URL
日本における「ひとり親家族と子ども」研究の動向と課
題
松浦, 勲
2000-03-31T00:00:00Z
http://hdl.handle.net/10228/3570
Rights
Kyushu Institute of Technology Academic Repository
83
日本における「ひとり親家族と子ども」研究の動向と課題
(平成11年12月7日 受理)
人間科学講座松浦 勲
The trend and current issues on the study of one parent and children in japan
Kyushu Institute of“chnology Isao MATSUURA
はじめに
「単親」「ひとりおや」家族とは,日常的に聞き慣れない言葉であろう。これは,「ワン
ペアレント・ファミリー」注ωの訳語である。イギリスの「ワンペアレント・ファミリー
に関する委員会報告(ブイナー報告)」が従来の両親が揃っている家族を基準とし,母子
家族,父子家族は欠損家族で不正常な家族であるというとらえ方に対して,ワンペアレ
ント・ファミリーとツウペアレント・ファミリーは,ともにありうる形態としてとらえ
る視点を打ち出して以来,母子,父子福祉でも使われるようになってきた。わが国にお
いて,「単親」が最初に使われたのは1982年の東京都児童福祉審議会の意見具申が初めて
であると言われているが,「単親」が「単身」と取り違えられることもあった。その後
1985年,東京都単親家族問題検討委員会が「ひとり親家族」の用語に統一して用いるこ
とを提案している。
ところで,OECDは「家族は長い間,社会的,経済的組織の基本単位として考えて
きたが,近年,急激でしかも大きな変化に直面している。子どもがいる,いないにかか
わらず,夫と妻が同じ世帯で生活する伝統的家族は今日でも多数を占めるタイプである
が,全家族数に占めるその割合は低下してきており,反面,単独世帯(single−person
unit)とワンペアレント・ファミリーの割合が急増している。このうち,最も大きな関
心,懸念を惹起しているのが,増大しているワンペアレント・ファミリーの問題であ
る。」注ωとワンペアレント・ファミリーの増大を大きな関心事としてとりあげている。
それは,ワンペアレント・ファミリーの全体的研究を進めているBradshawの研究注(3)
をみれば明らかなように,1990年代のアメリカ注(4),イギリス注(5),ノルウェー,スウェー
デンではそれぞれ,子どものいる家族に占めるワンペアレント・ファミリーの割合が
25%,19%,19%,19%になっており,その原因も離婚によるものが圧倒的である。そ
のワンペアレント・ファミリーの児童手当,生活保障などの政策的対応の増大から
OECDではとりあげるようになってきたといえよう。そして,ワンペアレント・ファミ
リーの研究成果も多く蓄積されている。上記の国々に比べると,日本はワンペアレント・
ファミリーの割合は全体の4%にすぎない。OECDの中では割合としては少ないが,し
かし日本では離婚によるワンペアレント・ファミリーの増大によって児童扶養手当など
84 松 浦 勲
の現金給付の点において削減の方向で議論されている。そのワンペアレント・ファミリー
の研究蓄積は驚くほど少ないにもかかわらず,その全容が分析されていないにもかかわ
らず,「くさいものにはブタを」という政策的対応が見うけられるのである。しかし,平
成10年版「厚生白書」は「少子社会を考える」というテーマで,日本社会を分析したが,
その一項目に「ひとり親家族」をあげるようになってきた。
この小論においては,日本におけるひとり親家族の動向と研究成果をあとづけ,今後
の課題を明らかにするものである。また,筆者の研究関心は「ひとり親家族における子
どもの社会化」という視角である。従来から日本では「ひとり親家族」は母子家族=欠
損家族,片親家族として位置づけられ,「母子世帯一欠損世帯一正常(標準)世帯からの
逸脱→父親の欠損一子どもの人格形成に欠損一非行化」という短絡的枠組みに基づく社
会的偏見が強く,子どもの就職結婚において社会的差別が横行してきたといえよう。
日本において,十分な実証的研究がなされていないままに,強固な標準家族という社会
規範にからめとれていた実態があったといえる。
例えば,子どもの発達社会学を提起する住田は「子どもの発達社会学」の基本的立場
は子どもの発達的,文化的条件によって規定された社会的所産とみるところにあり,そ
の基本的な分析視点は社会化を子どもの所属集団の集団的過程としてみることにあると
する。子どもが,一定の集団のなかで,集団成員からいかなる働きかけを受け,いかな
る作用を受けているのか,そしてその結果として子どもはいかに発達するかを究明する
ことが「子どもの発達社会学的課題である」と住田は大著「子どもの仲間集団の研究」
の意義と目的において述べ,家族集団,学校集団の実証的研究が数多くなされているに
もかかわらず,仲間集団の実証的研究の欠如,とりわけ仲間集団の構造的側面の実証的
研究の欠如を指摘する。注(6)
確かに,住田の指摘のように,仲間集団の実証的研究は貧困であり,その意味での住
田の「子どもの仲間集団の研究」の貴重さはいうまでもない。実に綿密な仲間集団の形
成,発展などの構造的過程の分析に多くのことを学んだが,しかし,住田が指摘するよ
うに,家族集団,学校集団に関しては,十分な実証的研究が積み重ねられているのだろ
うか。住田は家族の実証的研究は「家族は一定の物理的空間において形成され,集団の
所在は明確である」と指摘するが,ここで前提とされているのはどんな家族であるのだ
ろうか。今や,形態,構成のみでは家族とはいえないとする論者も多い。注(7)住田の指摘
にみられるのは,従来の子どもの発達にとっての家族集団は「生物学的両親と子ども」
という概念のもとでの「家族」研究がほとんどではなかっただろうか。そういう意味で
は子どもの発達社会学としての家族集団の実証的研究は積み重ねられていたといえよ
う。しかし,今や,日本においても既にみた西洋諸国においても,いわゆる近代社会の
国々において,「家族」が一様ではないという指摘が多い。ここで取り扱う「ひとり親家
族」もその家族の多様化の一つであり,既にみたようにひとり親家族の増加がみられる
のは周知の事実である。
まず,「ひとり親家族」の概念について検討することにする。既述したように「ひとり
親家族」とは一般に聞き慣れない言葉である。聞き慣れないということは,「ひとり親家
族」が定着しているとはいいがたいことを示している。その内容は母子世帯に相当する。
日本における「ひとり親家族と子ども」研究の動向と課題 85
従来母子世帯は共働き家族,アルコール依存症家族などと同等に「正常家族」に対して「欠
損家族」として位置づけられてきた。それが1981年,東京都福祉局「単親家族の福祉に
関する提言」,1986年東京都単親家庭問題検討委員会の「単親家庭の問題に関する福祉施
策のすすめかた」を通じて,「単親」という言葉が使われ出した。しかし,「単親」と
「単身」は同じ発音であるため区別がつけがたいということになり,「ひとり親」という
言葉になったという。注(8)以後,東京都内,周辺自治体は従来の「母子世帯等」を「ひと
り親」として扱うようになっている。
この言葉の変化は一体何に由来するものであろうか。それは既にみた日本も参加して
いるOECDの影響も大きいがそれを受け入れざるを得なかった日本の家族の変化,なか
んずく,戦後の日本の家族の変化に求められる。
従来,母子家庭はあっても,父子家庭はなかった。現実に存在しなかったわけではな
い。例えば,妻(母)の病死蒸発追い出し婚などにより存在したが,父系の直系家
族制のもとでは,親の離婚に際しても子どもは父親の元に残り,父親の母,あるいは姉
妹などにより母の役割を代替する人がいて,家族が危機に瀕することなく生活を継続さ
れてきた。注(9)
従って父子家庭問題が社会的に認識されることがなかったといえよう。一方,母子家
庭はどうだったろうか。「ボシカテイ」という呼び方には一定の価値的響きをもって一般
化されてきた。それは「貧しい」「かわいそう」「健気な」など,暗くて悲惨なイメージ
として定着していた。それは何故であろうか。単に家族構成上のメンバーを欠く以上に
深刻な欠損を抱えていたからであると庄司洋子は指摘している。注ωそれは,「母子家庭」
を「欠損家庭」とみなすのは重要な稼ぎ手を欠くこと,更に家長としての夫(父)は家
計の責任を持つだけでなく,妻の生き方,子どもの教育の方向づけ,家族外に対しては
イエを代表する故に,深刻な「欠損」であり,一家の働き手を失うことは,生活苦に直
結し,父系の直系家族にあってはその存在基盤注ωを持たない家族として位置づけられ
たのである。以上のような母子家庭の位置づけのもとに,すでに戦前において母子保護
法が制定されている。注⑫
かくて母子家庭には「暗くて悲惨なイメージ」が定着していたのであるが,それが戦
後の家族の変化に伴い,以下のように変化してくる。我々は戦後の家族の変化を第1の
転換期(戦後の制度改革によって,形態,機能,人間関係の変容),第2の転換期(経済
の「高度成長」下,農民層の分解が進み,雇用労働者の増大の時期),第3の転換期
(1970年代以降)としているが注o①第1期は,戦前の連続にあり,第2次世界大戦による
大量の「戦争未亡人」によって母子世帯が創出される。更に,第2期には「高度経済成
長期」に核家族をモデルとする近代家族が増大するが,ここにおいて女性にも一定の自
立条件が生まれ,従来の戦争未亡人など死別による母子世帯のみならず,離婚による母
子世帯も出現する。しかし,近代家族観のもとでは,父親母親,子どもによる家族的
世帯こそ「正常」あるいは「標準」家族とされ,母子家族は典型から逸脱した不完全な
家族として「欠損家族」あるいは「片親家族」が定着する。この第2期の核家族のころ
から,父子家族も社会問題化するようになる。蜘
更に,オイルショック以後の第3期以降,多様化する家族として「ひとり親家族」が
86 松 浦 勲
誕生するのである。それは,離別母子家族の増大によって,死別母子家族との葛藤が生
じ,単に女性を被害者や,差別された存在とみなすことに対しての抵抗,また父子家族
の顕在化により,今までの「欠損」「不完全」という言葉に含まれた価値的含意も問題に
されるようになり,「欠損家族」「片親家族」の使用が控えられて「単親家族」が行政側
からも使われだした。とりわけ,女性政策からの提言が大きいとみられる。注㈲従って,
「ひとり親家族」の用語は,従来の価値的含意を排除するのに有効であったといえる。そ
して,本論で展開する「ひとり親家族と子どもたち」の問題を明らかにするために必要
不可欠の概念になったといえよう。
以下ではまず,「ひとり親家族」をめぐる動向を全国母子世帯等の調査をもとに明らか
にし,次に今までの「ひとり親家族と子どもの研究」の領域と蓄積を考察し,課題を提
起する。
1.ひとり親家族をめぐる動向
現在,日本において,ひとり親家族(母子家族父子家族)はどのくらい存在するの
かを明確に把握するのは難しい。というのは,行政統計のそれぞれにおいて定義が異なっ
ているためである。ひとり親家族を示すと思われる主要な行政統計は厚生省児童家庭局
が全国規模で5−6年に1回行う全国母子世帯等調査であり,更に,厚生省大臣官房統
計情報部が毎年調査する「国民生活基礎調査」である。この二つにおいても母子世帯の
定義が異なっているし,全国母子世帯等調査は既述したように,5−6年に1回調査さ
れている継続調査であるが,開始当初より今日までみると,少しずつ変化している。そ
れは,調査の題や調査対象世帯の変化などがみられるし,子どもの年齢,子どもの祖父
母が同居する三世代世帯を含めた世帯などの変化もみられる。更に,この全国母子世帯
等調査でわれわれがひとり親家族の一つとする父子世帯については,1983年(昭和58年)
調査からであり,1988年(昭和63年),今回の1993年(平成4年)と三回にすぎない。父
子世帯に対しての全国レベルの関心が薄かったことが伺える。
1993年に調査された概要が1995年の秋に発表されたが,そのデーターから日本のひと
り親家族の概略を把握しておこう。母子世帯数は78万9900世帯,父子世帯は15万7300世
帯で双方ともに前回調査(1988年)より5万9300世帯,1万6000世帯それぞれ減少して
いる。国民生活基礎調査の全世帯数(4182万6000世帯)との割合では,それぞれ出現率
が1.9%,04%となっている。ひとり親家族になった原因でみると,母子世帯では,死別
32.2%,離別62.6%,未婚の母47%,その他42%であり,父子世帯では,死別32.2%,
離別626%,その他29%で,いずれも死別より離別が上回っている。母子世帯では,昭
和48年より毎回離別が増大している。父子世帯においても,父子世帯調査が始まった昭
和58年より一貫して離別の割合が高くなっている。今回,特に母子世帯における未婚の
母の増加が著しく,前回比より23.4%の増となっている。
ひとり親家族の収入では,母子世帯の平均が215万円(死別254万円,生別202万円)で
一般世帯648万円の約30%であり,父子世帯の収入は,423万円で一般世帯の約70%であ
り,いずれも一般世帯より低位にあり,ひとり親家族の共通の問題であるといえよう。
現在,困っていることは,母子世帯では,「家計」「住居」「健康」「仕事」があげられ,
日本における「ひとり親家族と子ども」研究の動向と課題 87
父子世帯では,「家事」「健康」「家計」であり,所得に関する問題健康に関する問題は
共通である。
このデーターと今までの経年変化から主要な特徴をまとめると以下の三点が指摘でき
る。第1は,ひとり親家族は実数で増加傾向にあるということである。昭和48年を100と
して今回の平成5年の約20年間をみると,126になっている。今回の調査が前回より,母
子世帯数では減少(59,300世帯の減少)しているが,しかし国民生活基礎調査の子ども
のいる世帯数が大幅に減少していることからすれば,子どものいる世帯における母子,
父子世帯数の割合は高くなっているといえよう。第2として,ひとり親家族の原因では,
調査の度ごとに,母子世帯,父子世帯ともに死別より離別が大きく上回っていることで
ある。第2次世界大戦後の「戦争未亡人」とその子による母子世帯が主要な構成をなし
ていたが,1979年に死別と生別がほぼ同数になり,1984年に生別が死別の3倍と逆転し,
以後一貫して生別,とりわけ離別が増加し続けている。今回の特徴として非婚母子世帯
の増加も新しい傾向として注目に値する。第3番目にいえることは,所得格差拡大の中
で,母子世帯,とりわけ離別母子世帯,非婚母子世帯が一段と低位に位置づけられ,し
かも大量に存在している事実である。この問題は単に,日本だけの現象に留まらず,イ
ギリス,アメリカにおいても同様な傾向にあると指摘できる。蜘
2.ひとり親家族と子ども研究の動向
日本において,発達社会学の視角からひとり親家族における子どもを正面にすえた研
究は皆無であるといっても過言ではない。ひとり親家族そのものについての先行研究も
十分蓄積されているとはいえない。そのわずかなひとり親家族をめぐっての研究が行わ
れている領域は,社会学,社会福祉学,心理学,精神分析学,法律学が挙げられるが,
しかしそれぞれの領域において,先行研究の豊富な蓄積がなされているとは言い難い。
とりわけ,家族に焦点化した家族社会学においても,1980年代の後半までは,ひとり親
家族についての学術的な単行本は見当たらない。それは何故であろうか。すでにみたよ
うに,家族研究においては,ひとり親家族は「欠損家族」あるいは「異常家族」,「崩壊
家族」,「病理家族」として位置づけられてきた。形態,構成において「正常」でない家
族として研究されている。更に,「欠損家族」は形態上,母子家族,父子家族,孤児家族
に類別され,その病理性を指摘する研究などがある。これらの研究は正常に対して異常
という価値付与を与えている。唯一つ例外的に大橋薫の『病理家族』研究においては,
母子家族,父子家族を病理家族に含めつつも,特別な価値付与をラベリングせずに「単
親家族」問題として紹介している。このように,「ひとり親家族」の概念が出る前の研究
は家族を焦点化している家族社会学においてすら,上記の視角からのものであった。
ここでは,ひとり親家族をめぐっての先行研究を子どもの発達社会学に焦点を当てな
がらも,各学問領域というより研究対象を以下に定めて,日本での研究の現状を明らか
にしていく。研究対象は,ひとり親家族総論ひとり親家族の子ども,離婚と子ども,
離婚と家族システムである。これらはこの範疇のみのもの,それぞれに重複するものも
あるが,どこにポイントを置いているかによって分類した。
(1)ひとり親家族論:家族社会学の領域では,1980年代後半から1990年代に入って,
88 松 浦 勲
以前の性別分業を基礎とした家族病理,逸脱家族としての視角ではなく,新たな視角で
の研究が出現する。それは,新しい家族論としての春日キスヨ『父子家庭を生きる』(広
島県で行われている父子のつどいで,父子家庭男性の語った声を分析する。)それは
シュッツの現象学社会学,Rバーガーの日常社会の構成,山口昌男の文化と両義性のそ
れぞれの理論を下敷きとしたとらえ方に特徴がある。注⑰吉積京子編『非婚を生きたい』
(「婚外子差別と闘う会」のメンバーたちによるもので,婚外子出生自体が病理なのでは
なく,婚外子を差別する社会こそ病理であるという視角から,選択的に非婚の事例と明
治以降からの子の法的位置づけ,各国比較などを盛り込む)注⑱庄司洋子,渡辺秀樹,大
日向雅美『ひとり親家族に関する研究』(東京女性財団による「女性問題調査研究報告」
であるが,現代日本のひとり親家族の研究動向を踏まえて,一般の都民のひとり親家族
に対する意識調査,専門家の聞き取り,ひとり親家族の親の聞き取りを通じて,実証的
にひとり親家族の実像を浮かびあらわしたもの)注⑲などが挙げられる。
社会福祉学に関するものとしては,ひとり親家族の問題としてよりは母子家族問題と
して確立している。それは社会福祉の中で,母子福祉が領域として確立しているからで
あろう。ここでは母子家族は貧困であるという,一般的,歴史的通念のもとに伝統的な
母子家族観から出発している。その基本には女性の問題女性労働の問題が存在する。
ひとり親家族の動向で既述したように,母子家族の低所得,貧困は現在でも事実であり,
この母子家族の貧困に対応する研究が多い。水島宏明『母さんが死んだ』(離婚を契機と
して,母子寮に入り,生活保護を受けながら,仕事をみつけ,生活を安定させて行く過
程で,自立するが,政策として生活保護が打ち切られ,そして再び生活が不安定になり,
ついには母親が餓死するプロセスを分析している。注⑳)同じ対象を『福祉が人を殺すと
き』として注⑳寺久保光良も分析している。田辺敦子他『ひとり親家庭の子どもたち』
(ひとり親家族に直接援助にかかわる機関,施設,団体の職員が,各施設,機関の機能を
利用した実践の展開と考察を行った事例を中心にひとり親家庭の問題と実践の課題を整
理したもの注㎝),中田照子,杉本貴代栄他『日米のシングルマザーたち』(「貧困の女性
化」に焦点化した日米のシングルマザーの実証研究注㈱),平野隆之他『父子家庭一くら
しの実態と当事者組織への道一』(枚方市の社会福祉協議会の援助で成立した父子家庭の
当事者組織の活動を分析したもの注⑭)などがみられる。
更に,家計経済研究所編による『ワンペアレント・ファミリーペアレント(離別母子
家庭)』に関する6ケ国調査が最近の労作として挙げられる。アメリカ,イギリス,ス
ウェーデン,オーストラリア,香港の5ケ国と日本を経済生活の水準・生活保障・離別
に至るまでのプロセスのケース・スタディ・生活意識・家族規範などを中心としながら
比較検討している。著者らの問題意識は「ワンペアレント・ファミリーの生活世界をトー
タルにとらえる」という点においてユニークである。注㈱社会福祉の観点からの研究とし
て,古典的母子世帯問題として忘れてはならないものとして,林千代の『母子寮の戦後
史』注⑳が挙げられる。
(2)ひとり親家族と子ども,離婚と子ども:ひとり親家族が子どもに与える影響につ
いての研究はその発生原因によってことなる。一つにはそれが親の病気,交通事故など
日本における「ひとり親家族と子ども」研究の動向と課題 89
による死別によるもの,他の一つは生別によるものなどである。前者には交通遺児を対
象とした一連の調査報告がある。注⑳離婚と子どもについての研究は精神衛生の観点か
らの池田由子『引き裂かれた子どもたち一親の離婚と子どもの精神衛生一』(臨床相談で
出会う子どもの問題として離婚が及ぼす影響を分析する。注㈱),円より子『〈離婚の子
ども〉レポート』(親が離婚した子どもたちに対してアンケート調査を行い,子どもの視
点,立場から子どものための離婚プログラムの必要性を明らかにする。注⑳),法律学の
観点から,椎名麻紗枝他『離婚・再婚と子ども』(親権者の決め方,養育費の支払い,面
接交渉を行うルール,など弁護士の立場から提案する。)注⑳,佐藤隆夫『離婚と子ども
の人権』(子どもの人権の尊重という観点から,有子離婚と他の離婚を区別し,独自の離
婚制度を提起している。)注⑳などの単行本がある。直接的ではないが,子どもの非行と
家族 とりわけ離婚家族を関連させた研究論文は多い。それは非行と家族構造(離婚な
どのひとり親家族)に原因を求めたものである。しかし,徳岡秀雄は『家族病理の社会
学』の中で、補導歴のある少年と一般の中学生との比較分析を通じて家族構造と非行と
の関連はなく,家族機能との関連を指摘している。注働,有地亨編『現代家族の機能障
害』注㈱も,この視点に立っている。
同じく「ひとりの親家族」のタイトルではなく,「学校と子ども」という視点から離婚
母子家庭の子どもの生活破壊,再生のプロセスを分析した久富善之編著『調査で読む学
校と子ども』蜘がある。
(3)動向の特徴
問題を整理すると以下のようになる。かつて,吉田が「母子家庭の問題」醜(1979年)
において,母子世帯の基本的論点として母子世帯の生活水準,生活関係,生活時間,生
活空間をあげ,母子世帯の経済的貧困におちいりやすい状況を就労問題とかかわらせて
女性の低賃金だけではなく,母子世帯となった時に,子どもの問題などを含み,更に生
活時間の問題と相まって,就労に不平等になり,結果的には経済的貧困に陥りやすい状
況を提起している。
更に,生活関係の中でまず母子世帯発生原因別によって,家族関係,近隣関係の現れ
方は異なることを指摘しながら,とりわけ,父親の不在が子どもの発達に影響を与える
論点を提起しているが,その依拠するのはL.ベンソンの『父親の社会学』であり,父親
の不在が子どものパーソナリティにおよぼすマイナスの影響について述べるが,しかし,
「母子家庭に普遍的に妥当するとみることは慎まなければならない」と警告を発している
のは重要な指摘であると言える。
1979年に,吉田が提起した課題はすでにみてきた研究対象別の研究成果においては,
どの点においてあきらかにされてきたのであろうか。
前者の母子家庭の経済的貧困化については,既述した(1)ひとり親家族総論での研
究成果においては,更なる分析を加えられ,それらは,主として社会福祉の領域の中で
明らかにされている。また,この研究領域をフォローしている色川の「日本におけるワ
ンペアレント・ファミリー研究の現状と課題一生別母子世帯を中心に」醐の論文におい
て,詳細に論じられているので割愛する。後者の生活関係の中で生じる社会規範=父の
go 松 浦 勲
不在,子どもの発達,対人関係,情報関係については,(2)離婚と子どもでみたが,色
川の指摘にもみられるように,十分に展開されているとはいえない。但し,庄司等の研
究が馴明らかにしたように多くの人々がひとり親家族を「特別な」「自分とは違う」家
族としてみているが,実証研究では,ひとり親家族とそうでない家族との共通性,連続
性がみられ,現代家族(近代家族)が受容している強固な性別分業体制に根源があるこ
とを明らかにしたのは重要な指摘であり,例えば,ひとり親家族の親子間に起こりがち
な状況,子どもの問題行動をひとり親固有のものとしてとらえることに対して疑問を呈
しており,先の吉田のLベイソン「父親の社会学」の紹介への疑問にも連動する。
更に,庄司洋子はひとり親家族をとらえる視角として注㈱「貧困の担い手としての母子
家族一女性労働の視角」「「欠損」家族としてのひとり親家族一性別分業の視角」「マイノ
リティとしてのひとり親家族一家族差別の視角」の3点をあげているが,これらは,ど
れも相互関係にあるが,より,前面にどの視角からみるかにかかわっていると思われる。
その意味で言うならば,前二者は比較的研究の蓄積は見られるが,三点目は少ないと言
えよう。とりわけ,ひとり親家族,特に離別家族は子どもの人格形成への悪影響を及ぼ
すという言説が広まっているがゆえに,より研究を困難にしてきたといえる。離婚が増
大しているとはいえ,離婚に対するマイナスの価値付与は日本では十分に弱まっている
とはいえない。小論において離婚そのものの研究は割愛したが,最近のフェミニズムの
論の視角からは,女性の解放,個の自立の一つの指標として,多くの蓄積があるが,し
かし,フェミニズムと子どもの養育の問題については,十分に展開されてはいない。蜘
今後の課題
近年の日本において「ひとり親家族と子ども」の研究動向を見てきたが,最後に今後
の課題を述べよう。
まず,「ひとり親家族」を定位家族として成長してきた子どもの社会化条件を実証研究
において明らかにする必要がある。
今までみてきた数少ない実証研究においても,対象はひとり親家族の母親父親から
の分析であり,ひとり親家族で成長した子どもの側からの分析は円より子の研究以外み
あたらない。いうまでもなく,いつひとり親家族になったか,子どもの発達段階によっ
ても,子どもに与える影響は異なるであろうし,死別か,生別か,あるいは父親不在か
母親不在かによっても与える影響は異なるであろう。方法論としては,生活史分析が必
要である。人格の形成においては,横断的分析よりも,縦断的分析がより好ましい。そ
して,ひとり親家族を統計的に分析する必要(普遍化する意味で)があるが,何よりも
ミクロな質的なインティンシブな事例の実証研究がまず求められている。アメリカを中
心とした日本に紹介された翻訳本注⑩だけでも『子どもが書いた離婚の本』『愛しあって
いたのになぜ?一両親が離婚した子どもたちの声』『親の離婚一ひきさかれたこどもたち
へのガイド』『シングル.ファーザー 子育てする父親たち』『未婚の母たち一女ひとり
子育てレポートーPart 1, Part 2』『離婚と子ども』『ひとり親とこどもたちへ』『ひと
り親家族一1980年代における北米の動向』『シングルマザーを選ぶとき』『セカンドチャ
ンス 離婚後の人生』など多数にのぼる。1980年代のひとり親家族の研究をフォローし
日本における「ひとり親家族と子ども」研究の動向と課題 91
ている先の『ひとり親家族』をみても500を超える研究がみられる。
日本における「ひとり親家族」への家族差別の強さから研究を研究を遅らせてきたと
いえよう。
注釈解説
注(1)イギリスのBradshaw(ヨーク大学教授)は,ワンペアレント・Familyの全般的な研究を行っ
て著名であるが,彼女は,Lone Parentという用語を使用している。それは彼女の著書「Lone
Parent:Policy in Doldrum, Occasional paper, Family Policy Studies Center」(1989)で明ら
かであるが,それは,不在,非養育親(absent non−custodial parent)の責任を不問にしないと
いう配慮のようにみうけられる。しかし,公式的には,フィナー報告にみられるようにone parent
であるので,筆者はone parentを使用する。ちなみに,筆者が1992,1995年と調査を行ったス
ウェーデンでは,英訳するとSolo parent Familyであった。
注(2)OECD「Lone−parent Families:The Economic Challenge」(1990)
注(3) ワンペアレント.ファミリ_の特徴
ワンペ ン
g・ファミリー
国
ワンペ ノ ・ファミ ー
人口学的背景
ノなった理由別構成割合(%)
性別
フ割合1)(%)
の
1980
1990
ベノ ー
11.
fンマーク
tランス
hイツ
Mリシャ
Aイルランド
Cタリア
泣Nセンプルク
S6.0
Iランダ
│ルトガル
Xペイン
Cギリス
PL4
R{LO
Iーストラリア
倦l8
坙{
mルウェー
Aメリカ
Xウェーデン
1
2)’
1
の
ы〟i%)
Q8.4
P5.5
Q.O
撃Q.6
U.3
P2.9
P4?
Pα0
kl
Sα9
Q5.0
Sτ0
ы〟i%)
51
11
@26
@10
@7
@14
@19
獅=
獅=
@l6
@17
@12
@20
@24
@35
@53
@13
獅=
獅=
@12
@34
@25
@61
獅=
@50
@33
@62
84
@6
@8
@31
na
na
獅=
@6
@25
@60
@40
@10
獅
獅
@ −
@62
@85
@86
@80
@87
@87
@89
@86
@gl
@89
@83
@90
@84
@5
獅=
32
34’
U1
Q
獅=
@1 3
29
6
注)1.子どものいる家族総数に占める割合
2.人口千人当たり離婚数、1990年。
出所:Whiteford and Bradshaw(1994)
注(4)アメリカのワンペアレント・ファミリィの増大は1960年代に増加しはじめ,1970年代に倍増
し,1990年代には,子どものいる家族の25%がワンペアレント・ファミリィであるといわれてい
る。我妻 洋『家族の崩壊』(文芸春秋 1985年)
注(5)1995年,ロンドン市内にあるワンペアレント・ファミリー・センターの調査に行った時に,すで
に様々な政策を打ち出していた。
注(6)住田 正樹『子どもの仲間集団の研究』(九州大学出版会 1995年 p3∼9)
注(7)上野千鶴子「ファミリイ・アイデンティティ」『変容する家族』(岩波書店1994年)
注(8)吉田 恭爾「母子家庭の問題と母子福祉施策」
『現代のエスプリー母子家庭Nα142』(至文堂 1979年 p5)
注(9)柳田 國男は戦前において,父をなくし,母のもとで育てられた過程を明らかにしている。「妹の
92 松 浦 勲
力」柳田國男全集(未来社)
注⑩ 庄司 洋子「ひとり親家族の貧困」『貧困・不平等と社会福祉』(有斐閣 1997年)
注OD 柳田 國男 前掲書
注⑫ 一番ヶ瀬康子編集・解説『日本・婦人問題資料集成第6巻保健・福祉』(ドメス出版 1978年)こ
の文献において戦前の母子福祉についての豊富な資料が蒐集・解説されている。
注⑬ 布施 晶子「いま,日本の家族は」布施他編『現代家族のルネサンス』(青木書店 p114∼134)
この著書において,筆者は「現代の親子」「現代の老親ノ子」を執筆しているが,親子,老親子関
係をとらえる時代区分を布施の家族変化と同じとらえ方をしている。
注⑭ 細川 公夫,小笠原 信之,喜多 義廣『消えたエプロン』(大月書店 1981年)
注⑮ 鈴木 敏子「「母子家庭」および「父子家庭」をめぐる概念の種類と変遷」『高知大学教育学部研
究紀要第2部M39』(1987年)鈴木は「欠損家庭」「片親家庭」「単親家庭」「ひとり親家庭」「母子
家庭」「父子家庭」「母子父子家庭」「親を欠く子の家庭」の用語がいつ頃からどのように使用され
ているかを文献、福祉政策、実態調査、統計等から整理している。
注⑯ 中田照子,杉本喜代栄『日米のシングルマザーたち』(ミネルヴァ書房 1997年)
注⑰ 春日キスヨ『父子家庭を生きる』(勤草書店 1989年)
注⑱ 善積 京子『非婚を生きたい』(青木書店 1992年)
注⑲ 庄司 洋子・渡辺 秀樹・大日向 雅美『ひとり親家族に関する研究』(東京女性財団 1993年)
注⑳ 水島 宏明『母さんが死んだ』(ひとなる書房 1990年)
注OD寺久保 光良『福祉が人を殺すとき』
注⑳ 田辺 敦子他編『ひとり親家族の子どもたち』(川島書店 1991年)
注㈱ 中田 照子,杉本 喜代栄他『日米のシングルマザーたち』(ミネルヴァ書房 1997年)
注⑭ 平野 隆之他編『父子家庭一くらしの実態と当事者組織への道』(ミネルヴァ書房 1987年)
注㈱ 堰稿 教他編『ワンペアレント・ファミリー(離別母子世帯)に関する6ヶ国調査』(財団法人
家計経済研究所 1999年 3月)
注㈱ 林 千代『母子寮の戦後史一もう一つの女たちの暮らし』(ドメス出版 1992年)
注⑳ 交通遺児育英会編『交通遺児家庭の生活実態調査』(1987年)『交通遺児高校生の生活史調査』(1988
年)『交通遺児家庭の生活危機と生活不安』(1983年)
注㈱ 池田 由子『引き裂かれた子どもたち』(弘文堂 1989年)
注⑳ 円より子『〈離婚の子ども〉レポート』(フジタ 1985年)
注e① 椎名 麻紗枝他『離婚,再婚と子ども』(大月書店 1989年)
注eD 佐藤 隆夫『離婚と子どもの人権』(日本評論社 1988年)
注働 徳岡 秀雄『社会病理の分析視角』(東京大学出版 1987年
注㈱ 有地 亨編『現代家族の機能障害』(ミネルヴァ書房)筆者も上記の調査に参加し,科学研究報告
「離婚」に執筆しているが,独自にまとめたものとして,布施晶子,松浦勲,津田『私たちが創る
私たちの家族』(学習の友社 1990年)があり,そこでは,離婚を家族解体ではなく家族再組化で
あることを分析している。
注⑭ 久富 善之編著『調査で読む学校と子どもたち』(草土文化社 1993年)久富 善之編『豊かさの
底辺に生きる』(青木書店 1993年)
注⑮ 吉田 恭爾 前掲書
注㈱ 色川 卓男「日本におけるワンペアレント・ファミリィ研究の現状と課題一生別母子世帯を中心
に一」(家計経済研究所 1999年)
注㈱ 庄司洋子,渡辺秀樹,大日向雅美 前掲書 p174∼177
注㈱ 庄司 洋子「ひとり親家族の貧困」『貧困,不平等と社会学』(有斐閣 p90∼91)
注㈲ 渋谷 敦司「「多様化」する家族のかたち」『現代家族のルネサンス』(青木書店 1992年)拙稿
「現代の親子」『現代家族のルネサンス』(青木書店 1992年)
日本における「ひとり親家族と子ども」研究の動向と課題 93
注⑩・エリック・ロークス編 円より子訳『子どもが書いた離婚の本』(コンパニオン出版 1982年)
ジル・クレメンツ 箕浦万理訳『愛しあっていたのになぜ一離婚した子どもたちの声』(楷成社
1986年)
・アンドリュー・リチャーズ他 円より子訳『親の離婚一ひきさかれた子たちへのガイド』(ブレー
ン出版 1986年)
・ローゼンソールド,ケシェット・H 小池美佐子訳『シングル・ファザー子育てをする父親たち』
(人文書院1988年)
・アンジェラ・ホロキンソン 五味百合子・高極高宣編訳『未婚の母たち一女ひとり子育てレポー
トーPart1Part2』(連盟出版 1980年)
・ゴールドスタイン『離婚と子ども』(晶文社セレクション 1986年)
・『とり親と子どもたちへ』
・ベンジャミン・シュレジンが一 日本総合愛育研究所 第9部記『ひとり親家族一1980年代におけ
る北米の動向』(全国社会福祉協議会 1986年)
・ジェーン・マチス 鶴田知佳子訳『シングルマザーを選ぶとき』(草思社 1996年)
・ジュデイス・S・ウオーラー
スタイン サンドラ・フェレイクスサー『セカンドチャンス 離婚後の人生』(草思社 1997年)
・サンドラ・S・ヴォルギー編著 臼井和恵 監訳『女と離婚・男と離婚一ジェンダーの相違によ
る別居・離婚の実態』家政教育社(1996年)
Fly UP