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芸術におけるイメージの概念

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芸術におけるイメージの概念
芸術におけるイメージの概念
純 丘 曜 彰
教 授
芸術計画学科
平成 24 年度
創作とイメージ
して彫刻の構想を練るようなとき。しかし、それ
芸術論の多くは、すでに作られた作品を論じて
は、より正確に言えば、彫刻がネコの似姿である
いる。だが、作品は、創作の結果にすぎない。し
がゆえにであって、イメージが似姿であるからで
たがって、それは、かならずしも芸術家が作り出
はない。
そうとしたものとは一致していない。では、作品
創作におけるイメージは、むしろまさに雲をつ
以前に芸術家は作ろうとしていたものを持ってい
かむように、形の無いところに形を見いだしてい
たのか。ウィットゲンシュタインなどに言わせれ
く作業である。それは、無ではないが、存在でも
ば、そんなのは言葉のアヤであって、事実問題で
ない。プラトンの言う、実在の作品が目指してい
はない、と言うだろう。
た理念ですらない。もしそれが目指すべき理念で
しかし、これは作為的な哲学の誤謬だ。実在す
あるならば、アリストテレスが批判したように、
る作られた作品と同様のものとして作ろうとして
イメージそのものを作るのにもまた、そのための
いたものがある、というのであれば、これは、そ
イメージが必要になって、無限後退に陥ってしま
の存在の定義から自滅的に否定される。作られた
うからである。そうではなく、イメージを作るこ
作品のようなものとはまったく別様に、少なくと
とそのものが、創作活動の本質を意味している。
もまったくの無の状態ではないものとして、なに
かが志向されてはじめて創作が始まる。このよう
な存在次元を我々は「イメージ」と呼ぶしかない。
イメージとジャンル世界
創作する対象、イメージは、その創作以前には
イメージという術語は誤解が多い。というの
形が無い。だが、足場としてのジャンル世界を利
も、イメージの方こそが、実在するものの似姿を
用するのが一般的だろう。たとえば、彫刻、とい
意味しているからである。なにものも実在する前
うのもまたそれであり、さらには、その作風や伝
に、その似姿があらかじめあるとなると、創作者
統、潮流というものがある。自分のこれまでの作
は、あたかも実在するものを知っていて、その似
品群もまた、それに成りうる。このようなジャン
姿を思い浮かべているかのような循環が生じて
ル世界は、部品としての様式を提供するだけでな
しまう。もちろん、そのような場合もないではな
く、その欠落、不足として、つまり、まだ他の芸
い。たとえば、ネコを知っていて、ネコの似姿と
術家が手がけていないものとして、そのジャンル
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世界で埋め進むべきイメージを陰画として浮かび
し、分岐するとともに、容易に融合し、葛藤を内
上がらせる。
包する。
しかし、ではジャンル世界は、どのような存在
そして、より重要になるのが、ジャンル世界の
形式なのか。それは、実在の作られた作品群を意
問題だろう。構造主義においては、構造化された
味しているのか。いや、これ自体が一種の公理系
イメージの連関こそが、その場となるが、力動的
のような、一種のイメージであって、その実在の
なイメージにおいては、その展開は、場こそが導
作品も、それであるわけではない。逆に、むしろ
く。しかしながら、その場そのものは、いまだい
あるたった一つの実在の作られた作品が、それを
かなるイメージによっても埋められてはおらず、
契機に広大なジャンル世界を拓くことは、よく知
闇のように直接に把握しがたい。
られているところだろう。その作られた作品の実
しかし、創造の現場においては、この闇のよう
在の模倣ということではなく、その作品が従って
な余地こそ、探索の興味をそそるものであり、す
いるジャンル世界そのものが、広大なフロンティ
ぐれたアーティストは、なんらかの、この闇の存
アに目を見開かせるからである。
在を見いだす方法に熟達しているものと思われ
では、作品のイメージと、ジャンル世界という
る。彼らは、作品や作品に先駆するイメージを創
イメージと同じ存在次元にあるのだろうか。そう
るだけでなく、それらが成り立ちうる場を知るこ
ではない。ジャンル世界の広がりによって、そこ
とに長けている。
に想像すべき作品の余地が生まれるのであって、
我々の思考は、むしろ過剰な言語知に冒され、
ジャンル世界そのものは具体性に欠ける。一方、
想像力豊かなイメージの思考を失いつつある。言
そのジャンル世界の中に展開される作品のイメー
語知の同語反復的なトートロジーの閉塞を打ち
ジは、その世界とのせめぎ合いによって、創作の
破っていくためにも、力動的なイメージの力、そ
過程の進行とともに、より具体的なものへと結晶
して、それが解放へと向かいうる闇の世界の広が
していく。
りを、芸術においてだけでなく、一般にも理解す
ることが、いま求められている。
ジャンル世界の探索
表象文化論にせよ、ナラトロジーにせよ、構造
主義の強い影響下にあって、我々はイメージその
ものの連関ばかりに気を配ってきた。しかしなが
ら、それは表現されたものから逆算的に措定され
た理念的イメージであって、創造の場における力
動的イメージとは、ありようが根本的に異なって
いるのではないだろうか。力動的イメージについ
てはベルクソンなどがその考察の先鞭をつけてい
るが、それは、不定形であるばかりでなく、分裂
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