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下水道財政の仕組みと 財政運営の基本的な考え方

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下水道財政の仕組みと 財政運営の基本的な考え方
下水道財政の仕組みと
財政運営の基本的な考え方
三菱総合研究所 2006 年度自治体等研修生
和田一晃(派遣元/川崎市)
●地方公営企業と下水道財政
地方公営企業とは、自治体が実施する上下水道
●下水道財政の仕組み
下水道事業は、初期投資として多額の建設投資
事業、交通事業、病院事業などについて、企業の
が必要となる。その一方で、施設が完成すれば、
能率的経営を確保し、
経済性を発揮するとともに、
長期的な収入が見込める。このことから、建設投
公共の福祉を増進するために自治体の内部に設け
資の財源は企業債の発行で賄い、施設の供用開始
られる特別な経営組織である。
後に下水道使用料収入により企業債を償還してい
近年、財政再建団体に指定された夕張市の事例
くのが通常である。
など、地方公営企業や第三セクターの経営状況の
下水道事業においては、下水道財政研究委員会
悪化により自治体の財政が圧迫されるケースが増
[*1]の提言に基づいて、
「雨水公費、汚水私費の
えている。財政健全化を急ぐ地方財政において、
地方公営企業の経営は大きな課題となっている。
原則」が採用されている。
「雨水公費」は、
雨が自然現象によるものであり、
また、2007 年度に成立した地方財政健全化法にお
雨水の排除は生活環境の改善や浸水の防除に効果
いても、従来の一般会計の収支に関する財政指標
を発揮し、その受益が広く市民に及ぶことから税
に加えて、連結実質赤字比率や将来負担比率など
金で負担するという考え方である。
「汚水私費」
は、
の地方公営企業や第三セクターの収支を含めた財
汚水が日常生活および生産活動により生じるもの
政指標が定められており、地方公営企業の経営状
であるため、その排出量に応じて使用者が負担す
況について関心が高まっている状況にある。
るという考え方である。こうした考え方に基づい
しかしその一方で、地方公営企業における基本
て、雨水処理にかかる経費は一般会計からの繰入
的な財政の仕組みについては、あまり知られてい
金(税金)で負担し、汚水処理にかかる経費は下水
ない面がある。そのため、ここでは地方公営企業
道使用料で負担するのが原則となっている。
の中でも財政規模が大きいとされる下水道事業に
しかし、全国レベルにおける下水道管理費の収
ついて、財政の仕組みと財政運営の基本的な考え
支状況をみると、支出面においては下水道管理費
方について紹介していきたい。
(約 3.5 兆円)のうち汚水処理にかかる経費が約
2.2 兆円となっているのに対し、収入面においては
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自治体チャンネル No. 115 20 09 寄 稿
皆様からのご寄稿をお待ちしております。宛先は p.50 の「談話室」をご覧ください。
RTNERS
fr o m P A
[図表 1]下水道管理費の収支状況(2006 年度決算)
下水道管理費 約3.5兆円
汚水処理にかかる経費
2.2兆円
雨水処理にかかる経費
1.2兆円
支出
その他 0.1兆円
不足分
一般会計繰入金等
2.1兆円
収入
下水道使用料
1.4兆円
資料:社団法人日本下水道協会「平成 18 年度版 下水道統計」
(2008 年 8 月)をもとに筆者作成 下水道使用料が約 1.4 兆円となっている。つまり、
業債支払利息など投下資本維持にかかる経費
下水道使用料では汚水処理にかかる経費の約 6 割
(資本費)を、下水道使用料により回収した割
しか回収されておらず、不足分を一般会計繰入金
等で賄っている状況となっている[図表 1]。
合を示す指標
「使用料回収率」とは、汚水私費の考え方に基
づいて、下水道使用料により汚水処理にかかる経
●財政運営の基本的な考え方
費をどの程度まで回収できているかを表す経営指
○使用料設定にかかわる 2 つの経営指標
標であり、汚水処理全体における収支状況を判断
このため、下水道事業が健全な財政運営を行う
ためには、下水道使用料を適正な水準に設定し、
するための指標として用いられている。
一方、下水道事業は施設型事業であることか
汚水処理にかかる経費を下水道使用料で回収して
ら、汚水処理にかかる経費のうち、施設の維持管
いくことが基本的な考え方となる。しかし、下水
理にかかる経費(維持管理費)よりも、減価償却
道使用料の引き上げは住民負担の増加につながる
費や企業債支払利息など、投下資本維持にかかる
ことから、下水道使用料をどの水準に設定するか
経費(資本費)の割合が多い傾向がある。この点
については、下水道事業の経営状況や住民の負担
を考慮して、下水道使用料により資本費をどの程
割合を考慮しながら、慎重に判断する必要があ
度まで回収できているかに着目した経営指標が
る。この点、下水道使用料を適正な水準に設定す
「資本費回収率」である。これは、財政運営の持続
るための経営指標として、
「使用料回収率」
「資本
可能性を判断するための指標として、また使用料
費回収率」が一般的に用いられているので、以下
改定の基準として用いられている[図表 2]。
に紹介したい。
資本費回収率について、話をわかりやすくする
・使用料回収率
ために一般家庭にたとえると、維持管理費が生活
汚水処理にかかる経費のうち、下水道使用料に
費に当たり、資本費が住宅ローンの元金(減価償
より回収した割合を示す指標
・資本費回収率
汚水処理にかかる経費のうち、減価償却費・企
*1 財団法人日本都市センターに設置されている委員会。下水
道財政のあり方に関して、五次にわたって提言を行ってい
る。
寄 稿 自治体チャンネル No.
115 20 09
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却費)と利子(企業債支払利息)の返済額に当た
年数などにより多寡があるものの、
「処理区域内人
る。このため、資本費回収率が 100% ということ
口密度が高い事業ほど回収率が高く、逆に密度が
は、給料収入により生活費を支出したうえで、さ
低くなるにつれ回収率が低下していくという相関
らに住宅ローンの元金・利子についても返済がで
がみられる」ことが指摘されている(総務省自治
きていることを示している。
財政局「今後の下水道財政の在り方に関する研究
下水道事業は、施設型事業であるため、初期投
会報告書」2006 年 3 月)。
資として多額の企業債の発行が必要となることが
図表 3 をもとに、全国の自治体における下水道
多い。しかし、企業債の発行額が多い場合であっ
事業の経営状況を簡単にまとめると、以下のとお
ても、資本費回収率 100% を維持していれば、使
りとなる。
用料収入により企業債の償還費用(元金・利子)が
①下水道施設の維持管理費にかかる費用について
賄われており、財政運営の持続可能性がある程度
は、人口規模が少ない自治体において不足が生
担保されている、とみることができる。
じているものの、それ以外の自治体では、概ね
下水道使用料で賄うことができている(使用料
○全国の自治体における下水道事業の経営状況
これらの経営指標をもとに、全国の自治体にお
収入>維持管理費)。
②一方で、下水道施設の建設にともない発行した
ける下水道事業の経営状況について紹介すると、
企業債の償還費用(元金・利子)については、
図表 3 のとおりとなる。全国平均では使用料回収
ほとんどの自治体で不足が生じている(資本費
率が約 79%、資本費回収率が約 66% となってい
回収率が 100% 以下)。
る。しかし、自治体の人口規模に応じて差異が生
③また、経営状況について地域間格差があり、と
じており、とくに資本費回収率についての差異が
くに自治体の人口規模に比例して資本費回収
大きくなっている。この点については、下水道施
率が高くなる傾向がある。
設の種類や自然的・地理的条件、供用開始後経過
つまり、下水道事業の経営状況は、人口規模に
[図表 2]使用料回収率と資本費回収率(2006 年度決算)
(公共下水道のみ)
汚水処理原価 168.69円(汚水1m を処理する経費)
3
うち維持管理費 65.91円
使用料回収率
うち資本費 102.78円
使用料回収率 79.0%
不足分 21.0%
(使用料単価133.25円)
(35.44円)
100%
資本費回収率
維持管理費回収率 100%
資本費回収率 65.5%
不足分 34.5%
(65.91円)
(67.34円)
(35.44円)
100%
資料:総務省自治財政局「平成 18 年度 下水道事業経営指標・下水道使用料の概要」
(2008 年 3 月)をもとに筆者作成
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自治体チャンネル No. 115 20 09 寄 稿
[図表 3]自治体における下水道事業の経営状況
(公共下水道のみ)
5千人未満
5千
∼1万人
1万
∼5万人
5万
∼10万人
10万人以上
使用料収入単価(円/m3)
145.40
144.79
139.28
129.06
131.16
134.23
133.25
汚水処理原価(円/m3)
444.61
352.47
252.03
190.04
168.86
129.45
168.69
うち維持管理費
178.64
135.39
94.94
75.74
63.16
53.82
65.91
うち資本費
265.97
217.09
157.10
114.31
105.70
75.63
102.78
使用料回収率(%)
32.7
41.1
55.3
67.9
77.7
103.7
79.0
資本費回収率(%)
▲12.5
4.3
28.2
46.6
64.3
106.3
65.5
2,869
2,702
2,494
2,145
2,042
1,946
2,480
処理区内人口
【参考】
月20m3使用した
場合の使用料(円/20m3)
政令指定都市など 全国平均
資料:総務省自治財政局「平成 18 年度 下水道事業経営指標・下水道使用料の概要」
(2008 年 3 月)をもとに筆者作成 より差があるものの、全体的には財政運営の持続可
能性が担保されているとはいえない状況にある。
上記のとおり、総務省は下水道事業について、
世代間負担の公平化を図るために適正な原価を算
出するとともに、汚水処理原価を回収できない事
○使用料の適正化に向けた国の考え方
業にあっては、使用料収入単価を 150 円/㎥、家
総務省は、このような下水道事業を取り巻く環
庭用使用料を 3,000 円/ 20 ㎥・月まで引き上げる
境を踏まえ、使用料の適正化に向けた考え方を示
など、早急な使用料の適正化が必要との考え方を
している。
示している。
「下水道事業における使用料の適正化(2005 年 1
月 21 日全国財政課長・市町村担当課長合同会議
資料)
」より一部抜粋
◎汚水処理原価の算出にあたっては……資本費
平準化債[* 2 ]の活用などにより世代間負担
●財政運営の持続可能性の確保に向けて
下水道事業は、市民の安全で快適な暮らしを実
現するために必要不可欠なライフラインであり、
長期的・安定的にサービスを提供していくことが
の公平化を図り、適正な原価を算出すること
最も重要である。そのため、今後の下水道事業に
◎現在の使用料単価では汚水処理原価を回収で
おいては、上述した使用料回収率や資本費回収率
きない事業にあっては……まずは使用料単価
などの経営指標に基づいて、下水道使用料を適正
を 150 円/㎥(家庭用使用料 3,000 円/ 20 ㎥・
な水準に設定するとともに、経営の効率化により
月)に引き上げること
◎特に、資本費等汚水処理原価が著しく高くか
つ経費回収率の低い事業にあっては、早急な
経営基盤を強化し、財政運営の持続可能性を確保
していくことが重要となるだろう。
使用料の適正化が望まれること
*2 企業債の元金償還期間(約 30 年)が減価償却期間(約 44
年)より短いために生じる資金不足額に対して発行を認め
られた起債のこと。
寄 稿 自治体チャンネル No.
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