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コレクション日本歌人選

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コレクション日本歌人選
コレクション日本歌人選
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【編集】和歌文学会[編集委員=松村雄二(代表)
・田中登・稲田利徳・小池一行・長崎健]
×笠間書院
【価格】定価:本体�����円
(税別)
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[全
冊]
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第 回配本 † 刊行情報
紀 貫之[田中登著]
小野小町[大塚英子著]
藤原定家[村尾誠一著]
斎藤茂吉[小倉真理子著]
本 雄[島内景二著]
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笠間書院
〒�������� 東京都千代田区猿楽町�����
電話������������� ���������������� メール������������������������
ご挨拶
コレクション日本歌人選、
遂に創刊となりました。
全��冊、約�年にわたり刊行しつづけますが、
その間、
本紙[刊行情報]
にて、
毎月どんな本がでるのか、
出版情報を発信していきます。
既にこの
[刊行情報]
をお申し込みの皆様、
今後ともよろしくお願いいたします。
まだ、お申し込みでない皆様は、
ぜひご登録くださればと存じます。
お電話でも���でも、
メールでも構いませんので、
小社宛に
「コレクション日本歌人選 刊行情報」
希望としていただければ、
毎月郵送でお届けいたします。
さて、
本号は、初回刊行分全�冊の本を紹介させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
笠間書院
●次回(第2回)配本書目[2011.4.5頃刊行]
戦国武将の歌[綿抜豊昭著]
在原業平[中野方子著]
柿本人麻呂[高松寿夫著]
紀貫之
[田中登著]
��������������������� ������ (税別)
定価�本体�����円
ありとあらゆる事物の象徴であるところの言葉というものがつくる別天地が、かれにははっきりと認識されていたと
思われる̶̶大岡信
▼日本の和歌に漢詩に基づく機知的な表現を導入し、明治期まで続いた長い和歌伝統の礎を作った古今集歌人。受領階
級という低い官位のまま終わったが、
職能歌人として多くの屏風歌を提供、
晩年には仮名文の日記紀行
『土佐日記』
を著すな
ど生涯を表現者として過ごした。
『古今集』
仮名序の
「やまと歌は人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける」
と始まるその
文章は、
日本初の歌論として後世に多大な影響を与えた。
『百人一首』
に
「人はいさ心も知らず̶̶」
の名歌を残す。
【目次】
歌人略伝 略年譜 解説「平安文学の開拓者紀貫之」
(田中登) 読書案内
【付録エッセイ】
古今集の新しさ̶̶言語の自覚的組織化 について
(抄)
(大岡信)
【収録歌一覧】
01 夏の夜のふすかとすれば郭公鳴くひと声にあくるしののめ
02 桜花散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける
03 桜散る木の下風はさむからで空に知られぬ雪ぞ降りける
04 袖ひちてむすびし水の凍れるを春立つ今日の風や解くらむ
05 人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
06 桜花とく散りぬともおもほへず人の心ぞ風も吹きあへず
07 秋の菊にほふかぎりはかざしてむ花より先と知らぬわが身を
08 見る人もなくて散りぬる奥山の紅葉は夜の錦なりけり
09 夕月夜小倉の山に鳴く鹿の声のうちにや秋はくるらむ
10 行く年のをしくもあるかなますかがみ見る影さへにくれぬと思へば
11 むすぶ手のしづくに濁る山の井の飽かでも人に別れぬるかな
12 糸によるものならなくに別路の心細くもおもほゆるかな
13 小倉山峰立ちならし鳴く鹿の経にけむ秋を知る人ぞなき
14 吉野河岩波高くゆく水のはやくぞ人を思ひそめてし
15 世の中はかくこそありけれ吹く風の目に見ぬ人も恋ひしかりけり
16 人知れぬ思ひのみこそわびしけれわが嘆きをば我のみぞ知る
17 色もなき心を人に染めしよりうつろはむとは思ほえなくに
18 色ならばうつるばかりも染めてまし思ふ心をえやは見せける
19 玉の緒の絶えてみじかき命もて年月ながき恋もするかな
20 暁のなからましかば白露のおきてわびしき別れせましや
21 行きて見ぬ人もしのべと春の野のかたみに摘める若菜なりけり
22 花もみな散りぬる宿はゆく春のふるさととこそなりぬべらなれ
23 逢坂の関の清水に影見えて今や引くらむ望月の駒
24 唐衣打つ声聞けば月清みまだ寝ぬ人を空に知るかな
25 来ぬ人を下に待ちつつ久方の月をあはれといはぬ夜ぞなき
26 いづれをか花とはわかむ長月の有明の月にまがふ白菊
27 大空にあらぬものから川上に星かと見ゆる篝火の影
28 訪ふ人もなき宿なれど来る春は八重葎にもさはらざりけり
29 思ひかね妹がり行けば冬の夜の川風寒み千鳥鳴くなり
30 一年に一夜と思へど七夕の逢ひ見む秋のかぎりなきかな
31 今日明けて昨日に似ぬはみな人の心に春ぞ立ちぬべらなり
32 春ごとに咲きまさるべき花なれば今年をもまだ飽かずとぞ見る
33 吹く風に氷とけたる池の魚は千代まで松の蔭に隠れむ
34 かつ越えて別れも行くか逢坂は人だのめなる名にこそありけれ
35 明日知らぬ命なれども暮れぬまの今日は人こそあはれなりけれ
36 君まさで煙絶えにし塩釜のうらさびしくも見えわたるかな
37 石上古く住みこし君なくて山の霞は立ちゐわぶらむ
38 恋ふるまに年の暮れなば亡き人の別れやいとど遠くなりなむ
39 唐衣新しくたつ年なれどふりにし人のなほや恋しき
40 影見れば波の底なるひさかたの空こぎわたる我ぞわびしき
41 君恋ひて世を経る宿の梅の花昔の香にぞなほにほひける
42 なかりしもありつつ帰る人の子をありしもなくて来るがかなしさ
43 こと夏はいかが聞きけむ郭公こよひばかりはあらじとぞ思ふ
44 かきくもりあやめも知らぬ大空にありとほしをば思ふべしやは
45 霜枯れに見えこし梅は咲きにけり春にはわが身あはむとはすや
46 高砂の峰の松とや世の中を守る人とやわれはなりなむ
47 家ながら別るる時は山の井の濁りしよりもわびしかりけり
48 花も散り郭公さへいぬるまで君にゆかずもなりにけるかな
49 またも来む時ぞと思へど頼まれぬわが身にしあれば惜しき春かな
50 手にむすぶ水に宿れる月影のあるかなきかの世にこそありけれ
平
安
時
代
�
表
現
者
�
物
語
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和
歌
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任
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【著者プロフィール】
編
集
�
歌
論
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田中登(たなか・のぼる)
* 1949 年愛知県生。
* 名古屋大学大学院単位取得。
* 現在 関西大学文学部教授。
* 主要著書
『校訂貫之集』
(和泉書院)
『古筆切の国文学的研究』
(風間書房)
『平成新修古筆資料集』
(思文閣出版)
『王朝びとの恋うた』
(笠間書院)
『失われた書を求めて』
(青簡舎)ほか。
小野小町
[大塚英子著]
��������������������� ������ 定価�本体�����円
(税別)
わたくしは小町に関する先行の文献を渉猟(しょうりょう)
して、つくづくとそれらの中に、いかに実在の歌人と伝説
の女性がほしいままに混り合っているかを思い知らされた。̶̶目崎徳衛
▼平安初期の六歌仙にただ一人選ばれた女性。業平とともに色好みとして名を馳せ、後人による小町歌が加わり、美人落
魄伝説の主人公としてその名が各地に伝播した。生没年も出自も定かではなく、小町が残した歌で確かなのは
『古今集』
の
十八首だけだが、
その歌から九世紀中葉の宮廷と文化人の間で新しい歌が形成されていく時流の中心に生きた小町像が
浮かび上がる。唐代文学と新仏教の波を受けつつ仮名文字が生み出される渦中にあって、恋歌を詠い続けることで王朝女
流文学の先駆的存在となった。
「百人一首」
で有名な
「花の色は移りにけりな」
の歌は、
その実像と虚像の架け橋である。
【目次】
歌人略伝 略年譜 解説「最初の女流文学者小野小町」
(大塚英子) 読書案内
【付録エッセイ】
小野小町(抄)
(目崎徳衛)
【収録歌一覧】
01 思ひつつぬればや人の見えつらむ夢としりせばさめざらましを
02 うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものは頼みそめてき
03 いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣をかへしてぞ着る
04 うつつにはさもこそあらめ夢にさへ人目をよくと見るがわびしさ
05 かぎりなき思ひのまゝに夜も来む夢路をさへに人はとがめじ
06 夢路には足もやすめず通へどもうつゝにひとめ見しごとはあらず
07 秋の夜も名のみなりけり逢ふといへばことぞともなく明けぬるものを
08 あはれてふことこそうたて世の中を思ひはなれぬほだしなりけれ
09 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
10 秋風にあふたのみこそ悲しけれわが身むなしくなりぬと思へば
11 わびぬれば身をうき草の根を絶えて誘ふ水あらばいなむとぞ思ふ
12 おきのゐて身を焼くよりもかなしきは都島べの別れなりけり
13 人に逢はむつきのなきには思ひおきて胸走り火に心やけをり
(14) 阿倍清行 包めども袖にたまらぬ白玉は人を見ぬめの涙なりけり
15 おろかなる涙ぞ袖に玉はなす我はせきあへずたぎつ瀬なれば
16 今はとてわが身時雨にふりぬれば言の葉さへに移ろひにけり
(17) 小野貞樹 人を思ふ心の木の葉にあらばこそ風のまにまに散りも乱れめ
18 見るめなきわが身を浦としらねばやかれなで海人の足たゆくくる
19 海人のすむ里のしるべにあらなくにうらみむとのみ人のいふらむ
20 色見えで移ろふものは世の中の人の心の花にぞありける
21 岩の上に旅寝をすればいと寒し苔の衣を我に貸さなん
22 心から浮きたる舟に乗りそめて一日も浪に濡れぬ日ぞなき
23 あまの住む浦漕ぐ舟の梶をなみ世を海わたる我ぞ悲き
24 花咲きて実ならぬ物は海つうみのかざしにさせる沖つ白波
25 よひよひの夢のたましゐ足たゆくありても待たむ訪ひにこよ
26 ちはやぶる神も見まさば立ちさわぎ天の戸川の樋口あけたまへ
27 けさよりは悲しの宮の山風やまたあふ坂もあらじと思へば
28 あはれなりわが身のはてやあさみどりつひには野辺の霞と思へば
29 あるはなくなきは数そふ世の中にあはれいづれの日まで歎かん
30 陸奥は世をうき島もありといふを関こゆるぎのいそがざるらむ
31 秋風の吹くたびごとにあなめあなめ小野とはなくて薄おひけり
女恋
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文謎
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者包
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先�
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【著者プロフィール】
大塚英子(おおつか・ひでこ)
* 1933 年岡山県生。
* 東京大学文学部国文学科卒業。
* 元 駒澤大学講師(非常勤)
。
* 主要著書・論文
『古今集小町歌生成原論』
(笠間書院)
「嵯峨詩壇の成立に与えた白詩の影響
についてー「落花篇」と「新楽府」ー」
(和漢比較文学第4号)
藤原定家
[村尾誠一著]
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定価�本体�����円
定家において、歌は感情の自然の流露という趣(おもむき)を失った。心情の直接吐露が歌ではない。歌は現実生
活との断絶の上に始めて成立する。それが乱世乱代における定家の生き方であった。̶̶唐木順三
▼あの
『百人一首』
の編者。若くして才能を発揮し、
「達磨歌」
(だるまうた)
と揶揄(やゆ)
される前衛歌を詠んだ。古典の世界
の上に立ち、
失われた王朝美の再現を目指す唯美
(ゆいび)
的歌風が後鳥羽院の推輓
(すいばん)
を受け、
『新古今和歌集』
の 者の一人となる。以後、歌壇の第一人者として君臨した。承久の乱後『新勅 和歌集』
を し、
また王朝の古典テキスト
の継承に多大の功績を果たし、
子孫から神のように崇められてその権威を中世に長く誇ったことで知られる。
国宝の漢文日記
『明月記』
(めいげつき)
数十巻を今に残す。
【目次】
歌人略伝 略年譜 解説「藤原定家の文学」
(村尾誠一) 読書案内
【付録エッセイ】 古京はすでにあれて新都はいまだならず
(唐木順三)
【収録歌一覧】
01 桜花またたちならぶ物ぞなき誰まがへけん峰の白雲
02 天の原思へばかはる色もなし秋こそ月のひかりなりけれ
03 いづくにて風をも世をも恨みまし吉野の奥も花は散るなり
04 見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮
05 あぢきなくつらきあらしの声もうしなど夕暮に待ちならひけん
06 わすれぬやさはわすれける我が心夢になせとぞいひてわかれし
07 須磨の海人の袖に吹きこす潮風のなるとはすれど手にもたまらず
08 帰るさの物とや人のながむらん待つ夜ながらの有明の月
09 里びたる犬の声にぞ知られける竹より奥の人の家居は
10 問はばやなそれかとにほふ梅が香にふたたび見えぬ夢のただ路を
11 望月のころはたがはぬ空なれど消えけん雲のゆくへかなしな
12 さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫
13 あけばまた秋のなかばもすぎぬべしかたぶく月の惜しきのみかは
14 おもだかや下葉にまじるかきつばた花踏み分けてあさる白鷺
15 たまゆらの露も涙もとどまらずなき人こふる宿の秋風
16 なびかじな海人の藻塩火たきそめて煙は空にくゆりわぶとも
17 年も経ぬ祈る契りははつせ山をのへの鐘のよその夕暮
18 忘れずはなれし袖もやこほるらん寝ぬ夜の床の霜のさむしろ
19 契りありて今日宮河のゆふかづら長き世までもかけて頼まん
20 旅人の袖ふきかへす秋風に夕日さびしき山のかけはし
21 ゆきなやむ牛のあゆみにたつ塵の風さへあつき夏の小車
22 大空は梅のにほひに霞みつつくもりもはてぬ春の夜の月
23 霜まよふ空にしをれしかりがねの帰るつばさに春雨ぞ降る
24 春の夜の夢の浮き橋とだえして峰にわかるる横雲の空
25 夕暮はいづれの雲のなごりとて花橘に風のふくらん
26 わくらばに問はれし人も昔にてそれより庭のあとはたえにき
27 梅の花にほひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ
28 駒とめて袖うちはらふかげもなし佐野の渡りの雪の夕暮
29 君が代に霞をわけしあしたづのさらに沢辺の音をやなくべき
30 さくら色の庭の春風あともなし訪はばぞ人の雪とだにみん
31 ひさかたの中なる川の鵜飼ひ舟いかにちぎりて闇を待つらん
32 ひとりぬる山鳥の尾のしだり尾に霜おきまよふ床の月影
33 わが道をまもらば君をまもるらんよはひはゆづれ住吉の松
34 消えわびぬうつろふ人の秋の色に身をこがらしの森の下露
35 袖に吹けさぞな旅寝の夢も見じ思ふ方よりかよふ浦風
36 白妙の袖の別れに露落ちて身にしむ色の秋風ぞ吹く
37 かきやりしその黒髪のすぢごとにうちふすほどは面影ぞたつ
38 春を経てみゆきになるる花の陰ふりゆく身をもあはれとや思ふ
39 都にもいまや衣をうつの山夕霜はらふつたのした道
40 秋とだに吹きあへぬ風に色かはる生田の森の露の下草
41 大淀の浦にかり干すみるめだに霞にたえて帰るかりがね
42 名もしるし峰のあらしも雪とふる山さくら戸のあけぼのの空
43 鐘の音を松にふきしくおひ風に爪木や重きかへる山人
44 初瀬女のならす夕の山風も秋にはたへぬしづのをだまき
45 昨日今日雲のはたてにながむとて見もせぬ人の思ひやはしる
46 来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ
47 道のべの野原の柳したもえぬあはれ歎きの煙くらべに
48 しぐれつつ袖だにほさぬ秋の日にさこそ御室の山はそむらめ
49 ももしきのとのへを出づるよひよひは待たぬにむかふ山の端の月
50 たらちねのおよばず遠きあと過ぎて道をきはむる和歌の浦人
革
新
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求
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歌
人
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伝
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【著者プロフィール】
村尾誠一(むらお・せいいち)
* 1955 年東京都生。
* 東京大学大学院修了。博士(文学)
* 現在 東京外国語大学大学院教授。
* 主要著書
『中世和歌史論 新古今和歌集以後』
(青簡舎)
『残照の中の巨樹 正徹』
(新典社)
『新続古今和歌集』
(明治書院)
斎藤茂吉
[小倉真理子著]
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定価�本体�����円
実生活におけるもろもろの苦悩をあげて三十一字の微小な形式に注ぎこみ、自己のいのちを極限にまで膨(ふく)
れあがらせて行く̶そういう関係方式がここに成立している̶̶本林勝夫
▼東北山形から出て、
他の追随を許さぬ足跡を戦後まで残したアララギ派最大の歌人。
医者勤めを果たしながら、
子規以来
の写生説を独自に展開。処女歌集『赤光』
(しゃっこう)
は、寂寥(せきりょう)
に満ちた孤独な生命の息づきを万葉風の骨ぶと
な表現の中にうたい、芥川龍之介を始め、多くの人々に衝撃を与えたことは有名。
「写生」
を生の深奥にひそむ苦悩と融合さ
せた
「実相観入」
(じっそうかんにゅう)
の説は、近代短歌の一つの到達点を示している。刊行した歌集は十七に及んだ。小説
家北杜夫はその次男。
【目次】
歌人略伝 略年譜 解説「アララギ派中核としての歩み 斎藤茂吉」
(小倉真理子)
読書案内
【付録エッセイ】 『赤光』
の世界(本林勝夫)
【収録歌一覧】
01 ひた走るわが道暗ししんしんと堪へかねたるわが道くらし
02 たたかひは上海に起こり居たりけり鳳仙花紅く散りゐたりけり
03 死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞こゆる
04 のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳ねの母は死にたまふなり
05 山ゆゑに笹竹の子を食ひにけりははそはの母よははそはの母よ
06 ほのぼのと目をほそくして抱かれし子は去りしより幾夜か経たる
07 うれひつつ去にし子ゆゑに藤のはな揺る光りさへ悲しきものを
08 けだものは食もの恋ひて啼き居たり何というやさしさぞこれは
09 赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり
10 ちから無く鉛筆きればほろほろと紅の粉が落ちてたまるも
11 木のもとに梅はめば酸しをさな妻ひとにさにづらふ時たちにけり
12 飯の中ゆとろとろと上る炎見てほそき炎口のおどろくところ
13 ふり灑ぐあまつひかりに目の見えぬ黒き を追ひつめにけり
14 あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり
15 この夜は鳥獣魚介もしづかなれ未練もちてか行きかく行くわれも
16 足乳根の母に連れられ川越えし田越えしこともありにけむもの
17 朝どりの朝立つわれの靴下のやぶれもさびし夏さりにけり
18 ゆふされば大根の葉にふる時雨いたく寂しく降りにけるかも
19 尊とかりけりこのよの暁に雉子ひといきに悔しみ啼けり
20 いのちをはりて眼をとぢし祖母の足にかすかなる のさびしさ
21 やまみづのたぎつ峡間に光さし大き石ただにむらがり居れり
22 朝あけて船より鳴れる太笛のこだまはながし竝みよろふ山
23 命はてしひとり旅こそ哀れなれ元禄の代の曾良の旅路は
24 年々ににほふうつつの秋草につゆじも降りてさびにけるかも
25 山ふかき林のなかのしづけさに鳥に追われて落つる蝉あり
26 大きなる御手無造作にわがまへにさし出されけりこの碩学は
27 大きなる山の膚も白くなり渓のひびきを吸ふがごとしも
28 夜毎に床蝨のため苦しみていまだ居るべきわが部屋もなし
29 古き代の新しき代の芸術をあぢはふときは光を呑むごとし
30 かへりこし家にあかつきのちやぶ台に火焔の香する沢庵を食む
31 さ夜ふけて慈悲心鳥のこゑ聞けば光にむかふこゑならなくに
32 壁に来て草かげろふはすがり居り透きとほりたる羽のかなしさ
33 わが父も母もなかりし頃よりぞ湯殿のやまに湯はわきたまふ
34 よひよひの露ひえまさるこの原に病雁おちてしばしだに居よ
35 石亀の生める卵をくちなはが待ちわびながら呑むとこそ聞け
36 油燈にて照らし出されしみ仏に紅あざやけき柿の実ひとつ
37 過去帳を繰るがごとくにつぎつぎに血すぢを語りあふぞさびしき
38 ただひとつ惜しみて置きし白桃のゆたけきを吾は食ひをはりけり
39 上ノ山の町朝くれば銃に打たれし白き兎はつるされてあり
40 弟と相むかひゐてものを言ふ互のこゑは父母のこゑ
41 まをとめにちかづくごとくくれなゐの梅におも寄せ見らくしよしも
42 皇軍のいきほひたぎり炎だちけがれたるもの打ちてしやまむ
43 据ゑおけるわがさ庭べの甕のみづ朝々澄みて霜ちかからむ
44 小園のをだまきのはな野のうへの白頭翁の花ともににほひて
45 沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ
46 最上川の上空にして残れるはいまだうつくしき虹の断片
47 最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも
48 いつしかも日がしづみゆきうつせみのわれもおのづからきはまるらしも
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派
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中
核
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孤
独
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心
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詠
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成
功
者
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襲
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試
練
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【著者プロフィール】
小倉真理子(おぐら・まりこ)
* 1956 年千葉県生。
* 筑波大学大学院博士課程文芸言語
研究科単位取得。
* 現在 東京成徳大学准教授。
* 主要著書
『別離/一路(和歌文学大系)
』
(共著
明治書院)
『斎藤茂吉 人と文学(日本の作家
100 人)
』
(勉誠出版)ほか。
本
雄
[島内景二著]
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定価�本体�����円
少年時代、私は一通の手紙で彼と出会い、 彼の「楽園」に案内されたのであった。塚本邦雄は、実際に逢うまでは
実在の人物かどうか、私たち愛読者にさえ謎であった。̶̶寺山修司
▼前衛短歌運動の輝ける旗手として、詩歌の可能性を飛躍的に拡大し、戦後日本で「短歌には何ができるか」
を鋭く問いか
けた。
その苦闘の成果は、
世界的な混迷を深める二十一世紀で、
「芸術と人間は何をなすべきか」
を見いだすための手がかり
となる。
「前衛=難解」
という従来のイメージを払拭
(ふっしょく)
し、
塚本が追い求めた
「短歌」
の生命力に肉迫する。
そのために、
五十のキーワードに基づく秀歌五十首を選び、
塚本ワールドへの入口とした。
また、
それぞれの歌を多角的に理解するために、
本文では歌の鑑賞を行い、脚注では歌の背景を詳しく解説した。一首の歌を本文と脚注とで
「二度味わう」
ことで、塚本短歌
の発生と影響力が、
あますところなく解明される。
【目次】歌人略伝 年譜 解説「前衛短歌の巨匠 塚本邦雄」
(島内景二) 読書案内
【付録エッセイ】
ドードー鳥は悪の案内人̶̶
『塚本邦雄 歌集』
(寺山修司)
【収録歌一覧】
01 初戀の木陰うつろふねがはくは死より眞靑にいのちきらめけ
02 錐・蠍・旱・雁・掏摸・檻・囮・森・橇・二人・鎖・百合・塵
童子火のにほひ矜羯羅童子雪のかをりよ
03 サッカーの制
04 詩歌變ともいふべき豫感夜の秋の水中に水奔るを たり
05 革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液 してゆくピアノ
06 燻製卵はるけき火事の香にみちて母がわれ生みたること恕す
07 死に死に死に死にてをはりの明るまむ靑鱚の胎てのひらに透く
08 われがもつとも惡むものわれ、鹽壺の匙があぢさゐ色に腐れる
09 殺戮の果てし野にとり されしオルガンがひとり奏でる雅歌を
10 母像ばかりならべてある美 館の出口につづく火藥庫
11 帝王のかく閑かなる怒りもて く新月の香のたちばなを
12 紫陽花のかなたなる血の調理臺 こよひ食人のたのしみあらむ
13 桔梗苦しこのにがみもて滿たしめむ男の世界 く昏れたり
14 夏もよしつねならぬ身と人はいへたかねに顯ちていかに花月は
15 淚 そそぐ 木の夕影に なびく藤きみは 寂しき死を ねむる 蝶
16 玩具凾のハーモニカにも人生と呼ぶ獨 の二十四の窓
17 一月十日 藍色に睛れヴェルレーヌの埋葬費用九百フラン
18 桐に いづれむらさきふかければきみに ふ日の狩衣は白
19 昔、
男ありけり風の中の蓼ひとよりもかなしみと契りつ
20 おおはるかなる沖には雪のふるものを胡椒こぼれしあかときの皿
21 掌の釘の孔もてみづからをイエスは支ふ 風の雁來紅
22 ほほゑみに てはるかなれ霜月の火事のなかなるピアノ一臺
23 ディヌ・リパッティ紺靑の樂句斷つ 死ははじめ空間のさざなみ
24 世界の黄昏をわがたそがれとしてカルズーの繪の針の帆柱
25 馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ
かつてかく撃ちぬかれたる兵士の眼
26 風に生卵割れ、
27 にくしみに支へられたるわが生に暗綠の骨の夏薔薇の幹 28 夢の沖に鶴立ちまよふ ことばとはいのちをおもひ出づるよすが
29 櫻桃にひかる夕べの雨かつて火の海たりし街よ未來も
30 ただ一燈それさへ暗きふるさとの夜夜をまもりて母老いたまふ
31 はつなつのゆふべひたひを光らせて保險屋が遠き死を賣りにくる
32 蕗煮つめたましひの贄つくる妻、婚姻ののち千一夜經つ
33 子を生しし非業のはての夕映えに草食獸の父の齒白き
34 さらば百合若 驟雨ののちをやすらへる昧爽の咽喉ゆふぐれの腋
35 獻身のきみに殉じて寢ねざりしそのあかつきの眼中の血
36 玲瓏と の虹たつ 昨日まひる刎頸の友が咽喉を切られし
37 ロミオ洋品店春 の靑年像下 身無し***さらば靑春
38 建つるなら不忠魂碑を百あまりくれなゐの朴ひらく峠に
39 炎天ひややかにしづまりつ の日はかならず紐育にも 爆
40 日本脫出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも
41 おほきみはいかづちのうへわたくしの舌の上には烏 のしほから
42 モネの僞
「睡蓮」
のうしろがぼくんちの後架ですそこをのいてください
43 歌すつる一事に懸けて 秋のある夜うすくれなゐのいかづち
44 罌粟枯るるきりぎしのやみ綺語驅つていかなる生を寫さむとせし
45 七月の眞晝なれども紺靑のコモ湖こころのふかきさざなみ
46 右大臣は常に悲しく
「眼中の血」
の菅家「ちしほのまふり」實
47 イエスは架りわれはうちふす死のきはを天靑金に桃 きみてり
48 枇杷の汁股間にしたたれるものをわれのみは老いざらむ老いざらむ
49 皐月待つことは水無 待ちかぬる皐月まちゐし若 の信念
50 醫師は安樂死を語れども逆光の自轉車屋の宙吊りの自轉車
【著者プロフィール】
築
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人
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美
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言
葉
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王
国
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反
現
実
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島内景二(しまうち・けいじ)
* 1955 年長崎県生。
* 東京大学文学部卒業、
東京大学大学院修了。博士
(文学)
。
* 現在 電気通信大学教授。
* 主要著書
『源氏物語の影響史』
(笠間書院)
『
、柳沢吉保と江戸の夢』
(笠
間書院)
、
『楽しみながら学ぶ作歌文法・上下』
(短歌研究社)
『三島由紀夫 豊饒の海へ注ぐ』
(ミネルヴァ書房)
、
『北村
季吟』
(ミネルヴァ書房)
、
『中島敦「山月記伝説」の真実』
(文春新書)
、
『文豪の古典力』
(文春新書)
、
『光源氏の人間
関係』
(ウエッジ文庫)
、
『源氏物語ものがたり』
(新潮新書)
『教科書の文学を読みなおす』
(ちくまプリマー新書)
、
『短
歌の話型学 新たな読みを求めて』
(書肆季節社)
、
『小説
の話型学 高橋たか子と塚本邦雄』
(書肆季節社)
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