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交通事業 比較広告への一考察

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交通事業 比較広告への一考察
研究員の視点
〔研究員の視点〕
交通事業 比較広告への一考察
運輸調査局 副主任研究員 森田尚人
※本記事は、『交通新聞』に執筆したものを転載いたしました
消費者の比較が普及、交通選択はコスト比較
る。交通事業においても消費者に対し比較を
わが国では利用者が選択できる交通手段の
意識した広告の展開が求められる状況である
多様化により、交通市場内ではモード間の競
だろう。
争が展開されている。それゆえ各交通事業者
は、一般の企業と同様にさまざまな広告宣伝
比較広告の手法があるが、なぜ普及していな
を実施しており、自社サービスの認知度の向
いのか?
上や利用促進を図っている。
他社との比較を訴求する広告は比較広告と
しかし、交通サービスにおける広告宣伝の
呼ばれ、 米国を中心に普及している手法であ
難しい点は、ジョイフルトレインなどの目的が
る。この手法が持つ効果を検証した研究とし
乗車となる場合やいわゆる観光キャンペーンな
て 1975 年の Wilkie と Farris らの論文が有
どの誘客の場合を除き、交通はあくまでも目的
名であり、 比較を入れることで受け手からの
地へ到達するための手段であり、利用者は純粋
注目度を高めることや商品情報が効率よく消
に目的地への過程で想定されるさまざまなコ
費者に伝わるなどのメリットが挙げられている。
スト(費用、所要時間、乗り換えが少ない、等)のう
しかし、消費者の反感を生むデメリットも挙げ
ち、自身が避けたいコストが最も低い経路を
られており、 実際にわが国では文化的な側面
比較検討して決めているため、自社の優位性
から特にこの点の影響が強く懸念されてきた。
を分かりやすく伝えるのは難しいことである。
歴史的な経緯では、1987 年に公正取引委
近年、携帯や PC を使用して目的地まで
員会が比較広告のガイドラインを制定したも
の経路検索を利用することが普及しており、
のの、20 年以上が経過した現在においても、
定価ベースではあるものの価格、時間などを
比較広告の手法はわが国で普及していない。
即座に比較検討できるようになっている。一
またガイドライン制定後の数年を中心にいく
方、交通以外の分野では ICT の技術向上に
つかの学術研究の報告がなされたが、その多
より比較サイトが消費者に活用され、これを
くは課題を指摘しつつもわが国における効果
利用しての消費が一般化しつつある。
に否定的な結論が多くみられた。
近年の広告のあり方については、比較サイ
しかし、当時は比較広告が目新しい時代で
トから流入する消費者が増加しており、以前
あったことに加え、現在のように比較サイト
のように広告が自社で提供するもので完結し
も普及しておらず、当時とは消費状況が大き
ていないことを指摘する研究論文も存在す
く異なっている。
研究員の視点
比較広告を使う際に押さえるべきポイント
ことである。
比較広告は近年の比較選択の状況で高い効
マーケティング分析に基づきターゲットの
果を生む可能性はあるものの、やはり注意しな
選択を行うとともに分かりやすい比較基準を
ければならないのは、正しい比較を分かりやす
呈示することが効果的な広告宣伝となる。
く伝えられるかという点である。 相手の批判に
満ちた比較広告では受け手が反感を持ち、 結
消費者に価格以外の側面に気づいてもらう
果として企業イメージに悪影響を与える。
交通事業の広告では消費者に見える商品が
比較文化の研究では、わが国の人々は欧米
きっぷ類であるため、特に地方の鉄道や高速
人と比べて印象呈示場面で劣った面に注目し
バスを中心に自社内での値ごろ感に特化した
やすい自己卑下傾向が指摘されている。背景
広告が目につく。
としてわが国文化は欧米に比べて集団におけ
確かに価格は利用者が最も気にする基準の
る関係性を重視し、他者より優れていると強
一つだが、 交通を手段として捉える多くの消
調する印象呈示があまり好まれない。
費者にとっては他にも関心のある基準がある。
比較広告の感情的な反感を抑える上では、
時間、 快適性、 定時性、 安定性などのさま
あからさまに自社が他社よりも優れていると
ざまな基準の中から、 自社が他の競争相手よ
いう表現は避けるべきで、さらに比較相手は
り優れている点について、 受け手の感情に配
明示せずに暗に気づける程度の表現に留める
慮しながら手法を工夫して伝えるべきである。
ことがわが国における比較広告の前提とな
比較広告はその名の通り、比較する内容を
る。また市場におけるポジショニングによっ
明確にして広告とするものであり、競争関係
ても比較広告の効果は異なる。リーダーであ
にあるライバルに対し自らの優位性がない場
る企業が比較広告を行った場合、消費者は強
合はこの手法を採ることは難しい。もし、優
圧的なイメージから反感を持つ。
位性がない場合は一般的な広告で需要喚起に
フォロワーやチャレンジャーが自らの特異
努める必要があるだろう。
性を伝えることは有用であることから、例え
比較広告は消費者に新たな判断基準を提供
ば自動車の分担率が公共交通よりも圧倒的に
したり、事業者が自社のサービス価値の主張
高い地方では、鉄道やバス事業者が比較広告
を可能にしたりするなど、双方に有用な面が
を出すメリットは少なくないと考えられる。
少なくない。実際に通信やエネルギーなど、
また、比較結果に信憑性を持たせるため、第
交通以外のインフラ事業者の一部では比較広
三者機関による結果を示すことや長所と短所
告と呼べる手法が見られるようになってお
の両面を呈示することも有効であろう。
り、効果の動向が注目される。
以上から、利用者に提示すべきことは次の
広告は見てもらわなければ何も始まらない
通りとなる。一つは自社のサービスが他社に
ため、比較広告の高い注目度で消費者の関心
比べて優れた部分を訴求することであり、も
を呼び、価格以外にも比較基準があることを
う一つは潜在的な利用者のニーズを把握し
利用者に提案する広告として、交通事業にお
て、そのニーズに対応した商品を開発したう
いても活用していくべきではないだろうか。
えで価格以外も含めた情報を的確に提示する
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