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交通サービスにおける利用可能性と オプション価値の計測

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交通サービスにおける利用可能性と オプション価値の計測
研究員の視点
〔研究員の視点〕
交通サービスにおける利用可能性と
オプション価値の計測
運輸調査局 副主任研究員 小熊 仁
※本記事は、『交通新聞』に執筆したものを転載いたしました
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交通サービスにおける利用可能性
利用可能性は、消費の競合性を持たない上に
わが国の運輸部門では 1990 年代後半よ
それによって便益を受けている人とそうでな
りすすめられてきた需給調整規制の撤廃以
い人を識別することができない点で社会欲求
後、事業者にはこれまで以上に採算性を重視
財に相当する。
した戦略の展開が要求されることになった。
公共財における不確実性とオプション価値
事業者は不採算路線の統合・休廃止をすすめ
利用可能性は公共財的な性質を持っている
つつ、従業員のリストラクチャリングや資産
ことから、その便益については潜在的な利用
の売却も行っている。このような傾向は需給
者も含め全ての利用者が享受できる。従って、
調整規制撤廃から約 10 年経過した現在にお
全ての利用者にとっての最適な行動とは支払
いても継続し、最終的にサービスの休廃止に
い意思を正直に申告しないこと(= フリーライ
至った路線では運転免許証を保有しない高齢
ダーとなること)であるために、利用可能性を
者、学生、及び主婦を中心に移動機会の制約
反映したサービス供給体系を構築することは
を大きく受けている。
困難であると言われている。しかし、1986
ところで、交通サービスには、サービスを
年にノーベル経済学賞を受賞したブキャナ
実際に利用した場合に得られる便益と“今は
ン、およびスタブルバイン(J.M.Buchanan
利用しないが将来においては利用する可能性
and Wm.C.Stubblebine) によれば、全ての財
がある”という先物需要としての便益があ
には消費の外部性がみられ、社会の経済単位
る。とくに、後者は利用可能性(Availability)
全てに便益を及ぼすような財を公共財として
と呼ばれ、その便益については地理的な制約
いる。利用可能性についても交通サービスの
があるものの、実際の利用者のみならず潜在
存在そのものから派生する外部効果と言い換
的な利用者も享受することができる。周知の
えることができる。それゆえに、たとえフ
ように、公共財には消費の競合性がなく、特
リーライダーが生じるとしても、外部効果を
定の人を排除することが困難な社会欲求財
内部化することが資源配分上望ましい。その
(Social wants)と消費の競合性、あるいは排
ためにはフリーライダーに起因する需要の不
除可能性の性格を持ち得るにも関わらず、外
確実性やサービス供給の持続困難性から生ず
部効果や所得再分配上の理由から支払い意思
る供給の不確実性がみられる中でも、消費者
を有さない人にも供給することが望ましい価
の純粋な支払い意思を明らかにする手法を検
値欲求財(Merit wants) の 2 つがみられる。
討することが必要である。この点で、オプ
研究員の視点
図
交通サービスにおけるオプション価値
図 交通サービスにおけるオプション価値
運賃(P)
PD
実際の交通サービス利用者の消費者余剰
PC
B
PB
PA
E
オプション価値
C
D"
O
QB
D
Q
QA
交通サービスの供給量
ション価値は示唆的なコンセプトであると考
る。
えられる。図に図示されているように、オプ
オプション価値の計測と問題点
ション価値とは①状況の発生する確率を問
オプション価値を計測するにあたっては被
わず、将来、財、サービスを確実に消費す
験者にオプション価値の導出を前提とした質
るために支払ってもよいと考える最大支払
問表を配布し、計算を試みるか、あるいは沿
い意思額(= P D ; オプション価格) と現行にお
線住民の事業存続のための寄付行為をオプ
いてサービスからの消費者余剰を確実に得
ション価値と言い換え、分析を展開するケー
るために必要となる支払額(= P C )との差分
スが一般的である。例えば、青森県鯵ヶ沢町
(O P D - O P C )、あるいは、②利用者がオプ
の弘南バス深谷線沿線住民を対象としたオ
ション価格を支払うことによって発生する期
プション価値の検出では、地域全体におい
待消費者余剰(P D C PA )から現在の消費者余
て 1 ヶ月あたり 11 万 7,616 円という結果
剰(P C E P A )を差し引くことによって求めら
が得られている。富山県高岡市の万葉線利用
れる(=P D C E P C )。オプション価値を計測す
者のオプション価値については沿線自治会に
る上での具体的な用件としては、第 1 にサー
おいて約 820 円、それ以外の自治会では約
ビスは収支均衡を達成していないこと、第 2
400 円という成果が出されている。ここで
にサービスの供給をいったん廃止、減少させ
問題とされるのは、以上のオプション価値を
れば、サービスの再開には多大な時間を要す
どのようにサービス供給体系の中に組み込む
ること、第 3 にサービスに対して現在は利
かである。オプション価値を考慮したサービ
用しないが将来的には利用する意思を持つ利
スの供給は将来的なサービス継続に向けた消
用者が存在することの 3 点が取り上げられ
費者の純粋な支払い意思を反映しているため
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研究員の視点
に、サービスの維持においても資源配分の公
あるとしても、将来的な利用可能性を反映し
平性・効率性の視点からも望ましい。しかし
た運賃は現行水準以上の値上げを伴うため
ながら、こうした支払い意思は(潜在的) 利
に、それが現実的に利用者に受容されるか否
用者ごとに異なることから、事業者が全ての
かは疑わしい。最終的には政府の財政補助と
情報を収集し、それを反映させることは、事
地域負担の按分(= 財政補助と地域住民による回
務的コストや時間的なコストを要するため
数券の一括購入)に用いるのが最善であると考
に、実際のところは困難であると言わざるを
えられる。
得ない。さらに、たとえ利用者支払い意思が
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