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スーパーハイビジョン用の2重変調方式 広ダイナミックレンジプロジェクター

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スーパーハイビジョン用の2重変調方式 広ダイナミックレンジプロジェクター
報告
スーパーハイビジョン用の2重変調方式
広ダイナミックレンジプロジェクター
日下部裕一
High−Dynamic−Range Projector with Dual Modulation
for Super Hi−Vision
Yuichi KUSAKABE
要約
スーパーハイビジョン(SHV:Super Hi­Vision)の映像を約110万:1の非常に広いダイナ
ミックレンジで表示できるプロジェクターを開発した。このプロジェクターは,色変調を行う第
1変調部と,輝度変調を行う第2変調部を直列につなぐ2重変調方式を特徴としている。色変調
には解像度の低い表示素子を用い,輝度変調に解像度の高い表示素子を用いることで,高解像度
なカラー画像が表示可能である。また,2重変調方式では,黒信号に対する光の出力レベルを大
幅に下げることができるので,非常に広いダイナミックレンジが実現できる。開発したプロジェ
クターの解像度特性,ダイナミックレンジ,階調特性などを測定した結果,SHVに対応した解像
度特性を持つこと,非常に広いダイナミックレンジを実現していること,12ビット相当の階調特
性を持つことなどが確認された。
ABSTRACT
We have developed a projector which can display high­resolution images of Super Hi­Vision
(7,680×4,320 pixels)and has a high dynamic range of 1.1 million to 1. This projector features
a serial combination of two modulation blocks:the first block for chrominance and the second
block for luminance. This configuration enables the projector to output high ­ resolution color
images by combining three low­resolution devices for chrominance modulation and one high­
resolution device for luminance modulation. In addition, the dynamic range is dramatically
improved because this dual modulation scheme minimizes the black levels in projected images.
We measured some characteristics of the projector, which are modulation transfer function,
dynamic range, and tone reproduction. We found that the projector can resolve Super Hi­Vision
images and that it has an extremely high dynamic range and a fine 12­bit tone reproduction.
NHK技研 R&D/No.137/2013.1
49
報告
第1変調部
(色変調)
第2変調部
(輝度変調)
R用素子
光源
+
色分解
G用素子
リレー
レンズ
B用素子
色変調信号
(3,480×2,160画素)
スーパーハイビジョン
映像
(7,680×4,320画素)
輝度用
素子
投射
レンズ
輝度変調信号
(7,680×4,320画素)
信号処理
1図 広ダイナミックレンジプロジェクターの構成
1.まえがき
な階調表示が可能となった。
当所では,ハイビジョンを超える臨場感と実物感を提供
本稿では,まず,広ダイナミックレンジプロジェクター
する次世代のテレビ放送を目指して,ハイビジョンの16
の構成や仕様,信号処理について報告する。次に,実際に
倍の約3,300万画素(7,680×4,320画素)の画素数を持つ高
開発したプロジェクターのダイナミックレンジ,階調,解
精細映像と,22.2マルチチャンネルの3次元音響から成る
像度などの特性について報告する。
スーパーハイビジョン(SHV)の研究・開発を行ってい
る1)2)。
2.広ダイナミックレンジプロジェクター
これまでに,SHVの画素数に対応した撮像素子や表示
素子を用いた撮像システムや表示システムの開発を進める
光を2重変調する広ダイナミックレンジプロジェクター
とともに,システムパラメーターを策定するための人間の
の構成を1図に示す。このプロジェクターは,低解像度
3)
視覚特性に関連する研究 や,符号化・伝送に関する研究
4)
の色変調を行う第1変調部と高解像度の輝度変調を行う
を行っている 。また,規格化に関する取り組みも進めて
第2変調部を直列につないでいる。ランプからの光は最
おり,SHVの映像フォーマットはRec. ITU­R BT.2020
初にRGBの3色に分解され,第1変調部でそれぞれの色
5)
に対応する映像信号で変調される。次に,各色で変調され
で規格化されている 。
SHVは非常に高精細な映像を大画面に表示することで
た光を結合し,リレーレンズで輝度用素子上に再結像さ
視聴者に高い臨場感を提供するシステムである。映像の質
せ,再結像させた光を輝度変調信号で変調し,投射レンズ
感を更に高くするためには,画素数の向上だけでなく,広
を通して投射する。
いダイナミックレンジ(表示可能な白と黒の輝度比)や正
光を2重変調することの利点として,以下の2つが挙
げられる。1つは,プロジェクター全体のダイナミック
確な階調再現,広い色域なども重要と考えられる。
そこで,当所では,高解像度と広ダイナミックレンジの
レンジが,それぞれの変調部が持つダイナミックレンジの
両方を実現する表示装置として,SHV用の広ダイナミッ
積となり,ダイナミックレンジを飛躍的に改善できるとい
クレンジプロジェクター(以下,広ダイナミックレンジプ
うことである。他の1つは,人間の視覚特性は輝度に対
6)7)
。広
しては高い空間周波数特性を持つが,色相や彩度に対して
ダイナミックレンジプロジェクターは通常のプロジェク
は低い特性しか持たないということを利用して,色変調に
ターとは異なり,光源のランプからの光を表示素子で2
用いる素子を入手が容易な低解像度の素子にしても,輝度
回変調して投射する2重変調方式を特徴としている。2
用の素子を高解像度にすることで,高解像度なカラー画像
重変調方式を採用することで,SHVの画素数に対応する
を表示できるということである。
高解像度な画像表示と,約110万:1の非常に広いダイナ
2.2 構成
ロジェクターと記す)の研究・開発を行ってきた
ミックレンジと,暗部でも12ビットに相当するきめ細か
50
2.1 概要
NHK技研 R&D/No.137/2013.1
1図に基づいて広ダイナミックレンジプロジェクター
第1変調部
(色変調)
ランプ
波長板
コンデンサー
レンズ
インテグ
レーター
G用素子
B用素子
Blue
PBS※
フィールド
レンズ
ミラー
フィールド
レンズ
第2変調部
(輝度変調)
輝度用素子
波長板
投射レンズ
ワイヤー
グリット
Green
PBS※
アナライザー
コールド
ミラー
ミラー
波長板
ダイクロイック
プリズム
クロスダイクロイック
ミラー
ミラー
R/Gダイクロイック
ミラー
フィールド
レンズ
波長板
1:1
リレーレンズ
Red
PBS※
R用素子
※ Polarized Beam Splitter
(偏光ビームスプリッター)。
2図 広ダイナミックレンジプロジェクターの光学系
1表 色変調および輝度変調に用いた素子の仕様
第1変調部(色変調)
素子
サイズ
画素数
第2変調部(輝度変調)
反射型液晶素子(LCOS)
対角1.7型
対角1.75型
4,096×2,160
8,192×4,320
(3,840×2,160を使用) (7,680×4,320を使用)
画素ピッチ
9.5μm
開口率
4.8μm
90%以上
3図 広ダイナミックレンジプロジェクターの外観
2表 広ダイナミックレンジプロジェクターの仕様
ランプ
キセノン(2KW)
光出力
1,200 lm
表示素子※
反射型液晶素子(LCOS)
入力映像信号
色変調
12×HD­SDI
輝度変調 16×HD­SDI
フレーム周波数
60Hzプログレッシブ
されたことも,LCOSを使用した理由である8)。色変調お
サイズ
1,100mm
(W)
×1,650mm
(D)
×450mm
(H)
よび輝度変調に用いた素子の仕様を1表に示す。輝度変
※ 1表を参照。
調するので,通常のプロジェクターと比較して光の利用効
率が若干劣る。そのため,光の利用効率が高い反射型液晶
素子(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)を使用した。
また,SHVの画素数に対応する高精細なLCOS素子が開発
調用の素子の画素数は8,192×4,320画素であり,その中の
7,680×4,320画素を使用した。また,色変調用の素子の画
の光学系を設計した。2図に示すように,ランプからの
素数は輝度変調用素子の縦横共半分の4,096×2,160画素で
光はダイクロイックミラーでRGBの3色に分解され,各
あり,その中の3,840×2,160画素を使用した。なお,2種
素子でそれぞれの色に対応する映像信号で変調される。各
類の素子のサイズはほぼ同一であり,リレーレンズには投
色で変調された光は,ダイクロイックプリズムで結合され
影比が1:1のものを使用した。
る。ここまでは通常のプロジェクターと同一の構造であ
実際に開発した広ダイナミックレンジプロジェクターの
る。広ダイナミックレンジプロジェクターでは,結合され
仕様を2表に,外観を3図に示す。広ダイナミックレン
た光をリレーレンズを通して輝度用素子上に再結像する。
ジプロジェクターからの出力光をゲイン*11.0の100型ス
再結像した光を輝度変調信号で再び変調した後に,投射レ
ンズを通して投射する。
広ダイナミックレンジプロジェクターでは光を2回変
*1 完全拡散板(入射した光の全てをあらゆる方向に均一に反射する板)
に光を当てた場合の輝度を1とし,同一条件で光を当てた場合のス
クリーン上の輝度。
NHK技研 R&D/No.137/2013.1
51
報告
スーパーハイビジョン R
G
映像
B
LPF
+
サブサンプル
①
( 階調 12ビット
) 画素数 7,680×4,320 輝度作成
×
②
画素ごとに
RGBの
最大値検出
色変調信号
⑤
⑥
係数作成
③
(
階調 10ビット
画素数 7,680×4,320 デフォーカス
フィルター ⑨
輝度作成
⑦
⑪
)
⑧
④
÷
(
階調 10ビット
画素数 3,840×2,160 ⑩
Y
輝度変調信号
⑫
)
4図 広ダイナミックレンジプロジェクター用の信号処理
クリーンに投影した場合の輝度のピーク値は約150cd/m2
し,リレーレンズの影響を模擬したデフォーカスフィル
であった。
ター(4図の⑨)を通した信号を使って色変調信号の輝
2.3 信号処理
度成分 Ycol を算出する(4図の⑩)
。Yin と Ycol の比(4
広ダイナミックレンジプロジェクターでは光を2重変
調するので,1つの入力映像信号から2つの変調信号,
図の⑪)を算出した後,ガンマ補正を行って(4図の⑫)
,
輝度変調信号を得る。
すなわち,第1変調部用の信号(色変調信号)と第2変
このような処理を行うことによって,プロジェクターか
調部用の信号(輝度変調信号)を生成する必要がある。た
らの出力信号の輝度成分は入力信号の輝度成分と一致す
だし,第1変調部の色変調信号にも輝度成分が含まれる
る。また,色成分は4画素ごとの局所平均を持つことに
ので,色変調信号にある輝度成分と輝度変調信号の積が入
なる。出力信号の色成分に関する解像度は低いが,輝度成
力映像信号の輝度成分と一致するようにした。入力映像信
分の解像度が高いので,通常の観視条件では画質の劣化が
号の輝度成分の平方根を色変調信号と輝度変調信号に割り
分からないことを主観評価実験で確認している9)。
当てるために,入力映像信号(7,680×4,320画素,12ビッ
ビット)と高解像度の輝度変調信号(7,680×4,320画素,
3.広ダイナミックレンジプロジェクターの
特性
10ビット)を生成する処理を考案した7)。
3.1 ダイナミックレンジ
ト)から,低解像度の色変調信号(3,840×2,160画素,10
信号処理の詳細を4図に示す。4図の①に示すように,
52
SHV映像をリアルタイムで表示する広ダイナミックレ
まず,逆ガンマ補正を行って入力映像信号をリニア領域の
ンジプロジェクターを製作した。そのダイナミックレンジ
信号に変換する。次に,色変調信号を算出するために,ダ
を測定するために,プロジェクターから全白(第1およ
ウンサンプリング(低域通過フィルター(LPF:Low
び第2変調部に信号レベル1,023(10ビット)を付加する)
Pass Filter)+サブサンプリング)を行って,色変調信号
と全黒(第1および第2変調部に信号レベル0を付加す
の画素数(3,840×2,160画素)に変換する(4図の②)
。次
る)を表示したときの,スクリーン上での照度および輝度
に,画素ごとにRGBの最大値 MAX を検出し(4図の
を測定した。しかし,全黒を出力したときの光出力は極め
③)
,その平方根の逆数をかけることによって,色変調信
て小さく,スクリーン上での照度および輝度の測定は不可
号に入力映像信号の輝度成分の平方根を割り当てる(4図
能であった。そこで,全白と全黒を表示し,そのときの照
の④,⑤)
。最後に,ガンマ補正を行って(4図の⑥)
,色
度を投射レンズから10cmの距離で測定し,その値からダ
変調信号を得る。なお,RGBの最大値の平方根の逆数を
イナミックレンジを算出することにした。結果を3表に
かけて,入力信号の彩度が高い場合においても,色変調信
示す。全白と全黒を表示した場合の照度の比から算出した
号が飽和しないようにした。
ダイナミックレンジは約110万(=245,200/0.22)
:1であ
輝度変調信号を算出するために,まず,入力映像信号の
る。この値は,第1変調部のダイナミックレンジ約940
。一方,色変調信号
輝度成分 Yin を算出する(4図の⑦)
(=206/0.22)と第2変調部のダイナミックレンジ約860
を逆ガンマ補正(4図の⑧)してリニア領域の信号に戻
(=190/0.22)の積808,400に近い値である。通常のプロ
NHK技研 R&D/No.137/2013.1
3表 照度の測定結果と算出したダイナミックレンジ
10
測定値
第1変調部
ビデオレベル
(10ビット)
第2変調部
ビデオレベル
(10ビット)
照度※(lx)
0
0
0.22
ダイナミックレンジ
‒
1,023
0
206
940:1
0
1,023
190
860:1
1,023
1,023
245,200
1.1×106:1
※投射レンズから10cmの距離で測定。
照度( lx )
1
0.1
0.01
1,000
測定値
回帰曲線
0.001
10
照度( lx )
100
100
入力ビデオレベル(12ビット)
6図 暗部での階調特性
10
1
ターと同じガンマ特性であることが分かった。
次に,暗部の階調特性を測定した。通常のプロジェク
ターでは暗部の階調を正確に再現できないものがある。そ
0.1
100
1,000
10,000
入力ビデオレベル(12ビット)
こで,5図の破線で囲った部分の階調特性を測定した。
具体的には12ビットの入力信号を0から256まで1レベル
5図 ガンマ特性
ずつ変化させて,スクリーン上の照度を測定した。結果を
6図に示す。6図は入力信号レベル30以上で照度が指数
ジェクターのダイナミックレンジは数千:1であり,広
関数的に増加することを示している。入力信号レベル30
ダイナミックレンジプロジェクターのダイナミックレンジ
以下では指数関数からはずれているが,入力信号レベルの
は格段に広いことが分かった。
1ビットの変化に対して照度が変化している。このよう
2
輝度のピーク値150cd/m とダイナミックレンジの測定
に,暗部でも12ビット相当の階調表示が実現できている
値から,全黒を表示したときの100型スクリーン上での輝
ことが分かった。すなわち,広ダイナミックレンジプロ
−4
2
度は約10 cd/m と推定される。人間の視覚が感知する
−3
2
ジェクターでは,非常に低い入力信号レベルから非常に高
最小の輝度は暗順応していない場合,約10 cd/m であ
い入力信号レベルまでほぼ正確に階調が表示できることが
るので,全黒の輝度はこの値以下である。実際に暗室で全
分かった。
黒を出力した場合には,スクリーンを知覚できないほどの
3.3 MTF
漆黒であった。
広ダイナミックレンジプロジェクターの解像度特性を調
3.2 階調特性
べるためにMTF(Modulation Transfer Function)*2を
広ダイナミックレンジプロジェクターのガンマ特性(入
測定した。広ダイナミックレンジプロジェクターでは,リ
力信号レベルと光出力との関係)を測定した。光を1回
レーレンズを通った後の第2変調部で変調された光が投
だけ変調して投射する通常のプロジェクターのガンマ特性
射レンズから投射されるので,全体のMTFは第2変調部
は指数関数であるが,広ダイナミックレンジプロジェク
を含む,それ以後の光学系でほぼ決まると考えられる。こ
ターでは光を2回変調して投射するので,ガンマ特性が
のことを確認するために,広ダイナミックレンジプロジェ
指数関数にならない可能性がある。そこで,12ビットの
クター全体のMTF(MTFT)と,第1変調部だけで光変
信号を入力して,100型スクリーン上で照度を測定した。
,第2変調部だけで光変
調を行った場合のMTF(MTF1)
結果を5図に示す。実線は回帰曲線である。5図では
調を行った場合のMTF(MTF2)をそれぞれ測定した。
入力レベルと照度の関係を両対数で示しており,スクリー
ン上の照度は入力信号のレベルの増加に伴って指数関数的
に増加していることが分かる。すなわち,広ダイナミック
レンジプロジェクターのガンマ特性は通常のプロジェク
*2 表示系を構成する要素(レンズや表示素子など)の空間周波数(単
位長当たりの波数)の伝達特性を表す関数。MTFは対象となる要素
を通過したときのコントラストの低下量に対応し,コントラストの
低下が全く無い場合が1,コントラストが低下し,白黒の濃淡が全
く無くなった場合が0である。
NHK技研 R&D/No.137/2013.1
53
報告
4表 MTFの測定条件
MTF
測定条件
第1変調部
第1変調部のG用素子だけを正弦波で駆動し,
輝 度 用 素 子 を 白(レ ベ ル1,023(10ビ ッ
ト)
)で駆動する。
第2変調部
第2変調部の輝度用素子だけを正弦波で駆動
し, RGB素子を全て白(レベル1,023(10
ビット)
)で駆動する。
プロジェクター全体
4図に示す信号処理を行った正弦波で,G用素
子と輝度用素子を駆動する。
1
8図 投影画像の例
MTF1
MTF2
MTFT
0.8
レスポンス
いこと以外に,リレーレンズで解像度が低下することが挙
0.6
げられる。先に述べたように,人間の視覚は色相や彩度に
対して,比較的低い周波数特性しか持たないので,MTF
0.4
が低くなる第1変調部で色変調を行う構成は妥当だと言
える。
0.2
MTFT とMTF2 は全ての周波数でほぼ等しい値となっ
0
0
500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000
ている。このことは,プロジェクター全体のMTFは主に
第2変調部以後のMTFで決まることを示しており,予想
空間周波数(TVL)
7図 広ダイナミックレンジプロジェクターのMTF
したとおりの結果である。
3.4 投影画像
広ダイナミックレンジプロジェクターで投影した画像の
MTFの測定では,広ダイナミックレンジプロジェク
例を8図に示す。この画像は16枚のハイビジョン画像で
ターでさまざまな正弦波をスクリーンに表示し,その振幅
構成されている。テストチャート部のハイビジョン画像か
10)
からMTFを算出する正弦波法 を用いた。振幅の測定に
ら,広ダイナミックレンジプロジェクターがSHVの画素
はデジタルカメラ(4,288×2,848画素)を用い,スクリー
数に対応していることが分かる。
ン上の1画素がデジタルカメラの5画素に対応するよう
投影した画像の一部を拡大したものを9図に示す。9
にセッティングした。また,MTFは4表に示す条件で測
図は8図の右端の上から2番目のハイビジョン画像の四
定した。
角で囲った部分を撮影したものである。9図(a)は第1
結果を7図に示 す。7図 の 横 軸 はTVL(Television
変調部を色変調信号で駆動し,第2変調部を全白で駆動
Lines:テレビ本)で表した空間周波数,縦軸はレスポン
したときの画像である。色変調信号が低解像度であること
スである。なお,第1変調部に用いた素子の画素数は
やリレーレンズなどの影響で若干ぼけたカラー画像になっ
4,096×2,160画素なので,2,160TVLを超える周波数での
ている。9図(b)は第1変調部のRGB素子を全白で駆動
MTF1 の値はない。また,スクリーンを撮影したデジタ
し,第2変調部を輝度変調信号で駆動したときの画像で
ルカメラのMTFの影響を較正した。
ある。高解像度であるが白黒画像である。9図(c)は2
MTFT の4,320TV本の場合の値は0.17である。画像を
解像する
*3
10)
限界はMTFが約0.1の場合なので ,広ダイ
ナミックレンジプロジェクターは7,680×4,320画素の画像
を解像できていることが分かる。
MTF1 の値は全ての周波数でMTF2の値より小さい。こ
の理由として,第1変調部に用いた素子の画素数が少な
重変調を行ったときの画像で,高解像度なカラー画像であ
る。9図は輝度変調信号を高解像度にすることで,高解
像度なカラー画像が表示できることを示している。
広いダイナミックレンジを持つ画像11)を広ダイナミック
レンジプロジェクターで投影した例を10図に示す。10
図は投影画像をデジタルカメラで絞りを固定(F4)し,
シャッタースピードを変えて撮影したものである。シャッ
*3 画像を小さく分解する能力のこと。解像限界とは区別可能な最小単
位(画素)で画像を分解して表示できる限界のこと。
54
NHK技研 R&D/No.137/2013.1
タースピードの最も速い10図(a)では,壁の絵など暗い
部分は全く写っていないが,ステンドグラスなど明るい部
(a)色変調信号だけで変調した画像
(b)輝度変調信号だけで変調した画像
(c)2重変調した出力画像
9図 8図の四角で囲った部分を拡大した画像
(a)1/2秒
(b)5秒
(c)25秒
シャッタースピード
10図 広ダイナミックレンジプロジェクターの投影画像を撮影した例(絞り:F4で固定)
分はきれいに写っている。シャッタースピードを5秒に
特性を測定し,約110万:1の広いダイナミックレンジを
した10図(b)においても暗い部分はまだ不鮮明で,明る
持ち,暗部でも12ビットに相当する階調特性を実現して
い部分は飽和しているように見える。シャッタースピード
いることを確認した。更に,MTFを測定し,広ダイナ
を更に遅くした10図(c)では,暗い部分の細部はきれい
ミックレンジプロジェクターがSHV画像を解像している
に写っているが,明るい部分は完全に飽和している。すな
こと,全体のMTFが第2変調部以後の光学系で決まるこ
わち,10図は広ダイナミックレンジプロジェクターが広
とを示した。広ダイナミックレンジプロジェクターでは,
いダイナミックレンジで暗い壁の絵から明るいステンドグ
色変調を先に行い,その後,輝度変調を行った。理論的に
ラスまでを鮮明に表示していることを示している。なお,
は逆の順序も考えられるが,MTFの測定結果から色変調
デジタルカメラの1枚の撮影画像で暗部から明部までを
を先に行う方が良いことを示した。また,実際に投影され
鮮明に写すことができなかった理由は,プロジェクターで
た映像から,SHVの画素数に対応したカラー画像を表示
表示している画像のダイナミックレンジがデジタルカメラ
できること,広いダイナミックレンジで画像を表示してい
のダイナミックレンジよりもはるかに大きいからである。
ることを示した。今後,高フレームレートや広い色域に対
応するSHV表示装置を開発していく予定である。
4.あとがき
光を2重変調するSHV用の広ダイナミックレンジプロ
ジェクターを開発した。開発したプロジェクターは,解像
なお,広ダイナミックレンジプロジェクターの開発は,
(株)JVCケンウッドと共同で行ったものであり,ご協力
いただいた関係各位に深く感謝する。
度の低い3枚の素子を用いる色変調部と,解像度の高い
1枚の素子を用いる輝度変調部を直列につなげた構成で
本稿は,映像情報メディア学会誌に掲載された以下の論文の内
ある。この構成に合わせた光学系を開発し,入力信号から
容を元に加筆・修正したものである。
色変調信号と輝度変調信号を取り出す信号処理方式を考案
日下部,金澤,野尻,配野,古屋:
“スーパーハイビジョン用
した。
二重変調方式広ダイナミックレンジプロジェクタ,
”映情学誌,
実際に製作した広ダイナミックレンジプロジェクターの
Vol.65, No.7, pp.1045­1056(2011)
NHK技研 R&D/No.137/2013.1
55
報告
参考文献
1) M. Sugawara, M. Kanazawa, K. Mitani, H. Shimamoto, T. Yamashita and F. Okano:“Ultrahigh­
Definition Video System with 4000 Scanning Lines,
”SMPTE Motion Imaging, Vol.112, No.10/11,
pp.339­346(2003)
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”J. of SID, Vol.15, No.10, pp.837­843(2007)
3) M. Sugawara, K. Masaoka, M. Emoto, Y. Matsuo and Y. Nojiri:
“Research on Human Factors in Ultra­
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く さ か べ ゆういち
日下部裕一
1999年入局。金沢放送局を経て,2002年か
ら放送技術研究所において,スーパーハイビ
ジョンの表示装置および信号処理に関する研
究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式
研究部専任研究員。
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NHK技研 R&D/No.137/2013.1
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