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「星の王子さま」の世界

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「星の王子さま」の世界
「星の王子さま」の世界
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは目
に見えないんだよ。」
「砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ……」
(内藤濯 訳)
「星の王子さま」は、英語版 WIKIPEDIA によれば、世界の250の言語・方言
に翻訳され、世界で2億冊が販売された、「聖書」に次いで人類に読まれている本で
す。上に抜粋したような人生の真実に関する示唆に富む言葉、人々に「童心とその
大切さ」思い起こさせるストーリーや登場人物、そして、作者の(サン・テグジュ
ペリ Antoine de Saint-Exupéry(1900/6/29–1944/7/31)自身が描いた数多くの挿絵な
どで、世界の子供たちだけでなく大人たちも魅了し続けています。
この本は1943年4月にニューヨークの Reynal & Hitchcock 社から出版されま
した。サン・テグジュペリは当時アメリカに亡命中だったので、アメリカで、フラ
ンス語版と英語翻訳版が同時に発売されたのです。発行部数が何部であったかは把
握できていないのですが、サン・テグジュペリ本人の署名入り限定版は、フランス
語版が260部、Katherine Woods が翻訳した英語版が525部しか発行されてい
ません。
サン・テグジュペリは作家ですが、郵便輸送パイロットとして、欧州-南米間等
の飛行航路開拓などに携わったり、第2次世界大戦中には、飛行教官や偵察飛行隊
のパイロットをしたりしました。彼は、ヴィシー政権がドイツと講和した後、1941
年から1943年にかけてアメリカに亡命、滞在先のニューヨーク、ロング・アイ
ランドで、
「星の王子さま」をほぼ1942年1年間で書き上げ、出版とほぼ同時に、
アルジェの偵察飛行隊に戻ります。ただ、彼は戦闘機の操縦については skillful でな
く、あるとき着陸時に新型機を壊したため、予備役として地上に降ろされてしまい
ます。しかし、祖国フランスのために戦うことに生きる意義を見出していた彼は、
あらゆる手を使って現場復帰を画策し、5回だけという条件が付いた特別の出撃許
可をもらって、1944年5月に飛行隊復帰を果たすのです。以後彼は、7月18
日までに(約束に反して)8回の出撃を行い、さらに7月31日には、無許可で単
機で偵察飛行に出発。地中海上空で行方不明となり、帰らぬ人となりました。
話を「星の王子さま」に戻します。もうお分かりのことと思いますが、このよう
な行動型のサン・テグジュペリが書いたこの本は、単なる「童心礼賛」の本ではあ
りません。童心をなくし、「人間」というものを見失っている大人への批判が随所に
見られ、それもこの本で彼が伝えたかったことの一つなのですが、彼はこの本の中
に、彼を取り巻く世界のすべてに対する思いを様々な形で表現しているのです。こ
こで、そのすべてについて書くことはできませんし、またそうすることは、まだこ
の本を読んでいない人に余計な先入観を与えてしまうことになるので、慎まなけれ
ばならないことだと思います。ですから、次のページの最初に少しだけ言及します
が、自分の頭で考えたいと思う人は読まないでくださいね。(文字は小さくしておきます。)
例えば、英語版ポップ・アップ本の開いたページにある、抜き取るのを延ばし延ばしにしていた怠
け者の星をついには破裂させてしまった「3本のバオバブの木」。これは、ドイツのナチズム、イタ
リアのファシズム、日本の帝国主義を表していると言われています。また、ある日バラの花とけんか
したことをきっかけに、王子は他の星をいくつか訪れるのですが、そこで次のような6人の人物に出
会います--大人はすべて、このどれかに属しているという意味が込められているのかもしれません。
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自分の体面を保つことに汲々とし、命令を下すことに生き甲斐を感じる王様
褒め言葉しか耳に入らない自惚れ屋
酒を飲むことを恥じ、それを忘れるためにまた酒を飲む男
夜空の星を自分のものだと主張し、その数の勘定に日々を費やす実業家
1分に1回自転する星で、1分ごとにガス灯の点火や消火をしている点燈夫
自分の机を一度も離れたことがない地理学者
最初の星の王様を取り上げると、これは、祖国のためにナチスと戦い続けることを主張する彼に、訳
の分からない理屈でアメリカに亡命することを勧め[命じ]たヴィシー政権のペタンを表していると
考えられます。アメリカに着いて間もなく、ヴィシー政権が彼を国会議員に任命し特使として派遣し
たというニュースに、サン・テグジュペリは驚かされるのです。
このように、「星の王子さま」に登場する物や人物は、当時彼を取り巻いていた政
治情勢を批判的に象徴しています。しかし、この本が単なる政治的批判の書だとし
たら、このように世界中の人々に愛される本にはなっていません。前述のとおり、
王子さまはバラの花とけんかをし、バラの気持ちをつかみかねて自分の星を離れる
のですが、このバラは彼の妻コンスエロを表していると考えられます。王子さまは
旅の中で様々なことを考え、結局は、自分の命をかけてまで自分の星に--バラの
元に--戻ろうとします。詳しくは自分で読んで感じて欲しいのですが、この本は
バラ、つまり妻に対する彼の愛情に溢れています。(バラを彼の愛する祖国フランス
と解釈する読み方もあります。)また、この本は、巻頭の献辞で彼の友人レオン・ウ
ェルト--彼の一番の親友であり、当時フランスで苦しい思いをしていた人物--
に捧げられています。この親友ウェルトを慰めるためにこの本が書かれていること
も、また、彼への信頼・感謝の念が随所に表れていることも、繰り返し読む中で感
じられます。
(この本を短くまとめることなど何の意味もないかもしれないのですが)この本
は、童心の大切さ、当時の政治情勢に対する批判、彼を支える人々への思い、そし
て祖国フランスのために命を捧げることを決意した彼の覚悟などが凝縮された本だ
と私は考えています。
本の読み方は個々人で違って当然で、記してきたような深読みを皆さんがする必
要は全くありません。本文中の示唆に富む言葉一つを、大切な宝物として心に留め
置くのもよいでしょう。また、可愛らしい挿絵に愛着を感じ、何か温かい気持ちに
なってグッズを集めたりするのもいいと思います。それらすべてが、サン・テグジ
ュペリがこの本に込めた思いに通じるものだと私は思います。ただ、この本が本当
に気に入り何度も読み返すことになったら、ぜひ、サン・テグジュペリの別の著作
を読むとともに、彼の人生や彼を取り巻く環境・人々について調べてみてください。
この本の魅力が増すことと思います。「星の王子さま」は彼の人生と切り離すことの
できない本なのですから。
H. Fujita
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