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招 待 論 文 1 まえがき 2 移動通信システムの発展
招 待 論 文 周波数領域における変復調技術,多元接続技術および空 1 まえがき 間領域における周波数リユース技術が重要な役割を果た 日本の本格的な公衆移動通信システムは,1979年12月 してきた。周波数リユースはセルラーコンセプトに従っ に自動車電話システムとして導入され,その後は携帯電 ている。このコンセプトは,エリアをセルに分割し,セ 話として飛躍的に発展した。その30年の発展の概略を振 ルの集合であるクラスタ単位で同じ周波数を場所的に繰 り返るとともに,無線アクセスに関連する技術のトレン り返し,更にそのセルが需要に応じて細胞のように分裂 ド,技術課題を考察してみよう。 していくというものである1), 2)。この空間領域の技術は, 時間・周波数領域の技術と密接に関係しており,周波数 利用効率により定量化されている。 2 移動通信システムの発展 2.1 2.2 概 略 周波数利用効率 周波数利用効率は,以下の観点から検討されてきた3)。 移動通信システムの発展の概略を,第1図に示す。この 発展は,高い利便性を実現するための周波数利用効率向 ● スペクトル利用効率,ηf [bit/s/Hz] 一定の帯域と送信電力のもとで,なるべく多くのビッ 上技術と,より高い無線周波数への移行による帯域拡大 ト情報を伝送できる高能率変調技術の指標 がもたらしたものである。ハードウェア実現という観点 から,半導体集積回路技術の発展が必須であったことは ● 場所的利用効率,ηs [1/km2] 同じ周波数をなるべく近距離で再利用できる耐干渉技 言うまでもない。周波数利用効率向上のために,時間・ 現在 導入期 拡大期 アナログ デジタル 1G FDMA 2G TDMA 自動車電話 携帯電話 グローバル化 マルチメディア化 シームレス化 ユビキタス オールIP 3G CDMA 3.5G 3.9G 4G (OFDMA?) (5G?) IPV6 高速伝送 マルチメディア 端末・モジュール 世界共通 UIM 全国拡大 セル 無線モジュール Open Platform VoIP, SIP マイクロセル ピコセル セクタ ノート パソコン 利便性 モデム Fax ISP フェムトセル MU-MIMO コグニティブ 無線 セルラ-WLAN デュアル端末 WLAN セキュリティ ・持ち運びに便利な大きさ ・サービスエリアが広い ・音声が送れる 多様な ネットワーク センサ 遠隔制御 アドホック ・なければ生活が 極めて不便 ・充電周期が長い ・マルチメディアに対応 ・グローバル化/シームレス化 第1図 移動通信システムの発展の概略 4 IP : Internet Protocol IPV6 : Internet Protocol Version 6 FDMA : Frequency Division Multiple Access CDMA : Code Division Multiple Access OFDMA : Orthogonal Frequency Division Multiple Access VoIP : Voice over Internet Protocol SIP : Session Initiation Protocol UIM : User Identity Module ISP : Internet Services Provider WLAN : Wireless Local Area Network 移動体通信特集:移動通信システムの発展と技術課題 術の指標 ● 10 G WRC-07 - 3.4-3.6 GHz - 2.3-2.4 GHz - 698-806 MHz - 450-470 MHz 時間的利用効率,ηt 多くのチャネルを多くのユーザーが時間的に効率よく 1G 共用する多元接続技術の指標 4G あり,総合的にはシステム全体の利用効率ηT=ηfηsηt により評価される。 IEEE802.11n 情報伝送速度 [bit/s] これらの効率は独立ではなく,トレードオフの関係に 2.3 (5 G?) LTE (3.9 G) 100 M IEEE802.11g IEEE802.16e IEEE802.11a, j HSDPA (3.5 G) 10 M IEEE802.11b 情報伝送速度 特 集 周波数利用効率ηT は,そのシステムの質を評価する 1M ために重要である。このηT とシステムの無線周波数帯 1 W-CDMA (3 G) GSM (2 G) 域幅Ws との積ηTWs が,システムのユーザー数または情 100 k 報伝送速度を直接規定する。情報伝送速度の推移を,第2 PDC (2 G) 図に示す。EthernetTM (注1)の高速化に伴って,無線LAN,セ 1 2 ルラーも高速化している。すでに実験レベルでは,単一 3 4 5 6 8 10 無線周波 [GHz] セルのセルラー伝搬環境において5 Gbit/sが実現されてい る4), 5)。 第3図 無線周波数とビットレート するように,将来の数Gbit/s を実現するシステムは4 GHz 10 Gbit/s Gigabit Ethernet Ethernet 1G 以上であろう。 4G Hotspot FTTH Fast Ethernet 100 M IEEE802.11a Radio LAN Ethernet IEEE802.11b 伝送速度 [bit/s] 10 M 1M 4G Cellular 3.5 G 10 k GHz RF(Radio Frequency)回路と,最大10 Gbit/sのベ IMT2000 2 Mbit/s ISDN 64-128 kbit/s ースバンド回路とを一体化したICチップの設計法を確立 Guaranteed Mobile IMT2000 Subscriber 384 kbit/s し,実現することである。ICの低電圧化に伴う,ミリ波 回路雑音による伝送特性劣化を低減する技術が必要であ る。 PHS 64 kbit/s なお,送信電力は同じ到達距離ならば高速化に伴い一 PDC 11.2 kbit/s 過去 (1990) Metal Oxide Semiconductor) の fT( 遮 断 周 波 数 ) が 600 Best Effort 100 k PHS 32 kbit/s 検討されている6)。2015年頃にSi-CMOS(Complementary GHzに達すると見積もられており,ここでの課題は,60 ADSL Telephone Subscriber Line Mobile Systems GSM 270 kbit/s トでは,数Gbit/sから10 Gbit/sの60 GHz帯ミリ波システムが 3.9 G VDSL 端末機器周辺の無線接続に用いられるローカルコネク 般的には増加する。広帯域線形送信電力増幅器について 現在 (2000) 将来 (2015) FTTH : Fiber To The Home VDSL : Very high-bit-rate Digital Subscriber Line ADSL : Asymmetric Digital Subscriber Line GSM : Global System for Mobile communication PHS : Personal Handyphone System PDC: Personal Digital Cellular は,CMOS-IC化とは別に,引き続き高い電力効率を追求 する必要がある。 2.5 将来のセルラー方式 第4世代(4G)セルラーシステムへの周波数割り当てが 第2図 移動無線システムの高ビットレート化 ITU(International Telecommunication Union)の世界無線 通信会議(WRC : World Radio communication Conference) 2.4 無線周波数 で2007年に採択されて以来,4Gに向けた議論が盛んであ 帯域幅Ws を広げるために,移動通信用無線周波数の高 る 7), 8)。 4Gは , ITU-R( International Telecommunication 周波化が進められてきた。従来のシステムのビットレー Union-Radio communication sector)ではIMT- Advanced とよ トと無線周波数との関係を,第3図に示す。この図が示唆 ばれている。 情報伝送品質は移動速度に大きく依存する。移動速度 に関するパラメータは,モビリティとよばれている。第4 (注)米国Xerox 社の登録商標 図は,モビリティと情報伝送速度との関係を示す。サポ 5 (Offset QPSK),HPSK(Hybrid Phase Shift Keying)が使 屋外 モビリティ 高速 わ れ て い る 。 HSDPA( High Speed Downlink Packet 3G W-CDMA PDC Access) で は 適 応 変 調 符 号 化 ( AMC : Adaptive 3.9 G LTE 歩行 GSM 4G Modulation and Coding) が 採 用 さ れ 16QAM( 16 Quadrature Amplitude Modulation) も 用 い ら れ る 。 さ ら PHS 静止 に , LTEで は OFDM( Orthogonal Frequency Division 屋内 ホール 無線LAN Multiplexing)が採用され,サブキャリア変調に64QAMも ミリ波LAN (802.11a,b,g,n) (802.15.3c) 部屋 1k 10 k 100 k 1M 10 M 100 M 1G 10 G 用いられる。このような時間・周波数領域の変復調技術 により,初期の1 bit/s/Hzから6 bit/s/Hzに向上している。 情報伝送速度 [bit/s] LTEでは送受信機にそれぞれ複数のアンテナを配置し,空 第4図 モビリティと情報伝送速度 間多重を行うMIMO(Multiple Input Multiple Output)が 採用されている。屋外実験レベルでは12×12 MIMOによ ート領域が世代ごとに右方向へシフトしている。将来,屋 り,50 bit/s/Hzを超えることも可能である5)。 内とホットスポットでは無線LANと4Gが競合することも あり得る。 フェージングによる振幅,位相変動が激しい移動通信環 境において,高能率変復調における誤り率を低減するため 3GPP( Third Generation Partnership Project) は , W- に,空間・時間・周波数ダイバーシチ技術が駆使されてき CDMA(Wideband Code Division Multiple Access),HSPA た。具体的には,アンテナ・ダイバーシチ受信,適応等 ( High Speed Packet Access) か ら LTE( Long Term 化,RAKE,誤り訂正,ハイブリッドARQ(Automatic Evolution)へ,更にLTE-Advancedへとセルラーの高度化 Repeat reQuest)などがある。最近では,インターネット に向けてシステム仕様の標準化を進めている。そのロー におけるQoS(Quality of Service)を確保するために遅延 ドマップを,第5図に示す。 に関するRTT(Round Trip Time)の短縮も検討されてい る。 フェージング変動条件でMIMOを含む高能率変調方式の 3 伝送技術 3.1 伝送特性を確保するため,信号を復調する際にチャネル 変復調技術 の正確な測定を適応的に行う。第6図に,そのための基本 スペクトル利用効率 を上げるために,移動通信用の高 構成を示す。パケットの最初のトレーニング信号区間に 能率デジタル変調技術が研究・実用化されてきた。TDMA おいて無線チャネル推定を行い,その結果を用いて続く ( Time Division Multiple Access) で は GMSK( Gaussian データ区間で送信された信号を検出する。変動の激しい filtered Minimum Shift Keying), π/4シ フ ト QPSK 条件では,検出された信号で無線チャネル推定をアップ ( Quadrature Phase Shift Keying), CDMAで は OQPSK デートしなければならない。この繰り返しにより高速モ 4G 3.9 G (Rel. 10?) (Rel. 8) DL : 1 Gbit/s DL : OFDMA, 100 Mbit/s UL : 500 Mbit/s UL : SC-FDMA, 50 Mbit/s U-planeレイテンシ : ∼5 ms ----OFDM 高性能MIMO スケジューリング SAE 3.5 G HSDPA + HSUPA = HSPA W-CDMA HSUPA HSPA+ HSPA++ (Rel. 7) (Rel. 6) DL : 28 Mbit/s (Rel. 8) UL : 5.7 Mbit/s UL : 10 Mbit/s DL : 42 Mbit/s (Rel. 5) DL : 14.4 Mbit/s RTT : ∼50 ms RTT : ∼30 ms RTT : ∼100 ms --------MIMO 適応変調符号化 (AMC) HSDPA (Rel. 99 & Rel. 4) DL : 384 kbit/s UL : 384 kbit/s RTT : ∼150 ms ----Turbo符号 Txダイバーシチ 第5図 3GPPにおけるロードマップ 6 LTE-Advanced LTE 3GPP Track 3G IMT-Advanced IMT : International Mobile Telecommunication DL : DownLoad UL : UpLoad SC-FDMA : Single Carrier FDMA SAE : System Architecture Evolution HSUPA : High Speed Uplink Packet Access 移動体通信特集:移動通信システムの発展と技術課題 チャネル 推定 推定された チャネル応答 模なフェムトセルのネットワークでは,伝搬環境は極め 受信信号 信号 チャネル 雑音 応答 信号検出 一時的に形成されるアドホックなネットワーク,小規 検出された 信号 (候補) 検出された 信号 てローカルであり,またセル形状やセル相互の干渉条件 などは比較的短期間に変化するので,中央制御で干渉制 御を最適化することは難しいと考えられる。アクセス制 御,パケットスケジューラ,経路制御などを考慮した干 第6図 チャネル推定と信号検出との基本的な関係 渉制御の最適化には自律分散制御による自己組織化ネッ トワークが不可欠であろう。このとき,周囲の状況をモ ビリティを確保するが,実際には処理量をにらみながら ニタするためにアンテナアレー技術は必須と考えられる。 特 伝送系に合わせた最適化が必要である。 MIMO技術はこのような状況の最適化にも有効と考えられ 集 る。 1 3.2 周波数リユースと干渉制御技術 〔3〕マルチホップ・リレー 高能率変復調方式の性能を引き出すためには,同一周 干渉を増やさずにセルエッジにおける高速伝送を確保 波数を利用する他セルからの同一チャネル干渉が十分抑 するために,マルチホップ・リレー方式の導入は必須で 制されている必要がある。以下では,3つの観点から考察 ある。受信された信号を,復号せずにそのまま中継する する。 AF(Amplify and Forward),復号してから中継するDF 〔1〕セルサイズの低減 周波数リユースは,第1図に示したようにセルのクラス (Decode and Forward)がある。遅延と周波数有効利用の 観点からネットワーク・コーディング,DPC(Dirty Paper タ単位のものから始まり,セルを扇形に分割するセクタ Coding)による協力中継などが検討されている。さらに, 方式,セルサイズを縮小したマイクロセル,ピコセルが MIMOの伝送特性を引き出すためにはマルチパスが多いこ 利用されている。最近ではフェムトセルも検討されてい とが必要であるが,その条件を満たさない環境では,リ 9) る 。このようにエリアを小さくするとき,基地局アンテ レー技術を適用して人工的にマルチパス環境を生成する ナは低い位置に設定されるので,ビルなどの遮蔽(しゃ ことも考えられる。これらの最適化のためには,確率を へい)により電波伝搬が複雑になるとともに,電波の強 ベースとしたファクタ・グラフによるメッセージ・パッ 弱の差が大きくなる。今後,フェムトセルが屋内へ導入 シングの分析,ベイズ理論による最適化も必要になるで されれば,この傾向はますます強まる。そのため,基地 あろう。 局数を増やせば,希望波レベルが高く,干渉波レベルが 低い場所を容易に形成でき,高能率変調が有効になる。ま 4 むすび た,限られた範囲だけ電波が届くように送信電力制御を すれば,基地局周辺は干渉を受けにくくなる。これは,セ 移動通信システムの発展について概略を述べた。周波 ルをリング状に分割するリユース・パーティションと同 数利用効率,無線周波数,モビリティの観点からシステ 等であり,高い周波数利用効率が得られる。 ムの動向を述べた。また,最後に干渉抑圧という観点か MIMOでは,無線チャネルの固有モードに基づく更にき め細かな周波数リユースが可能である。そのため,MIMO ら今後のシステムの技術課題について考察した。 高度な無線技術のハードウェア実現を可能にしたのは, の大きなキャパシティを複数のユーザーでシェアするMU- 半導体集積回路技術である。60 GHzミリ波システムに向 MIMO(MultiUser-MIMO)の検討は非常に重要である。 けて研究・開発されているような十分高性能化されたSi- 〔2〕ローカルなネットワークの制御 CMOS IC化 技 術 は , 将 来 の 無 線 通 信 技 術 に お け る 小さなエリアの代表であるIEEE802.11無線LANは, MIMO,リレーシステムなどの高度化・小形化に大いに貢 CSMA-CA( Carrier Sense Multiple Access with Collision 献すると考えられる。 Avoidance)によりパケット衝突を回避しているが,アク セスポイントの密度が高くなり,パケットの発生頻度も 高くなるとスループットが極めて低下し,遅延も増大す る。また,隠れ端末問題,さらされ端末問題がある。 Gbit/sをハンドリングでき,かつアクセスポイントが増大 しても,セルラーのように干渉を制御可能なシステムが 必要である。 7 参考文献 《 プロフィール 》 1)V. H. MacDonald : The cellular concept. Bell Syst. Tech. Jour. 鈴木 博(すずき ひろし) 58,No.1,pp.15-42 (1979). 2)中嶋信生 : セル構成技術の進展 NTT DoCoMo テクニカ ル・ジャーナル 1,No.2,pp.21-29 (1993). 1972 東京工業大学 大学院 修士課程修了 1974-1996 日本電信電話公社,(株)NTT, (株)NTTドコモ 3)H. Suzuki. et al. : Spectrum efficiency of M-ary PSK land mobile 1986 radio. IEEE Trans. on Commun. COM-30,No.7,pp.1803-1805 1996-現在 (1982.7). 5)A. Hashimoto, et al. : Roadmap of IMT- Advanced development. IEEE Microwave Mag. 9,No.4,pp.80-88 (2008.8). 6)ソサイエティ特別企画 : CK-2. ミリ波実用化に向けたデバイ ス・回路・システム技術の現状と将来 電子情報通信学会ソ 大会 (2008.9). 7)パネルセッション ABP-2. IMT-Advancedの要求条件および技術 課題 電子情報通信学会ソ大会 (2008.9). 8)総務省電波政策懇談会資料 http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/denpa_seisa ku/(参照2009.3.5). 9)IEEE Globecom, Topic: DD15W2 : Femtocells: Implementation challenges and solutions. (2008.12). G. Harikumar, S. K. Pemmaraju (http://www.comsoc.org/confs/globecom/2008/downloads/DD/DD15 W2%20Femtocells/DD15W2_HarikumarG.pdf) (http://www.comsoc.org/confs/globecom/2008/downloads/DD/DD15 W2%20Femtocells/DD15W2_Pemmaraju%20S.pdf) (参照2009.3.5). 8 東京工業大学 大学院 理工学研究科 IEICEフェロー,IEEE会員,IEICE論文賞 (1995,2006年) efficiency over 30 bit/second/Hz using MLD signal detection in Spring,pp.2129-2134 (2007.4). 東京工業大学 工学博士 集積システム専攻 教授 4)H. Taoka, et al. : Field experiments on ultimate frequency MIMO-OFDM broadband packet radio access. IEEE VTC2007- 東京工業大学 工学部卒業 1974 主な著書: 移動通信の基礎(共著)(電子情報通信学会,1986) ディジタルコミュニケーション(共訳) (科学技術出版,1999) 適応フィルタ理論(共訳)(科学技術出版,2000)