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Changing the world for the better! 研究開発は永続的な企業の成長を
View from the Top トップインタビュー 尾上 誠蔵 NTTドコモ 取締役常務執行役員(CTO) R&Dイノベーション本部長 Changing the world for the better! 研究開発は永続的な企業 の成長を支えるエンジンだ モバイル業界において革新的な技術を生み出 してきたNTTドコモ.2020年を見据えて第5 世代移動通信システムの技術開発はすでに動き 出しています.厳しい経営環境を乗り越え,自 社の強みを最大限に活用し何を生み出そうとし ◆PROFILE:1982年日本電信電話公社入社.入社より移動 通信方式の研究開発に従事.2008年NTTドコモ執行役員研 究開発推進部長,2012年取締役常務執行役員 研究開発セ ンター所長を経て,2014年 7 月より現職. ているのか尾上誠蔵取締役常務執行役員に伺い ました. し,設備投資などのコスト効率化も順調に進められてい 6 お客さまの近くにいる強みを新しいサービス 開発につなげる ます.今年度当初にはNTTドコモはパートナーとドコ ◆NTTドコモを取り巻く環境についてお聞かせください. 決」や「地方創生」などのテーマで貢献をしていきます. 経営環境においては,近年厳しい競争が続いています パートナーの皆様の強みに,ドコモの持つさまざまな が,₂₀1₅年度第 ₃ 四半期の決算では営業収益は対前年同 ビジネスアセットの強みをプラスすることで新たな価値 期1.₇%増の ₃ 兆₃₈₃₅億円,営業利益は同1₆.₈%増の₆₈₅₅ を創出します.私は研究開発を担当していますので,R 億円と ₂ 四半期連続で増収増益を確保できました.ス &Dの側面でも「+d」を考えます.ドコモのアセット マートライフ領域は好調に展開することができました というと顧客基盤のようなビジネス的観点のアセットが NTT技術ジャーナル 2016.3 モが「協創」しながら新しい価値をお客さまにお届けす る取り組み「+d」を打ち出しました. 「社会的課題の解 想起されますが,技術アセットも立派なアセットで,思 わぬところからR&D側面での協創が生まれてビジネス に発展するという成果がすでにいくつか出てきました. 一例として,株式会社タカラトミーと共同開発したコ ミュニケーショントイ「OHaNAS」 (オハナス)に,しゃ べってコンシェルなどで培ってきた「自然対話プラット フォーム」の技術が組み込まれています.競争環境は依 然厳しい状況にありますが,ドコモ自身が成長すること によって,より良いサービスをお客さまに提供し続けら れる好循環をつくり出していきたいと思います. ◆厳しい環境を乗り越えてきたドコモの強みはどこにあ るのでしょうか. した取り組みの成果がOHaNASにつながったように,新 企業であるからには利益を生み出し続けなければなら しいサービスを生み出すときにお客さまの近くにいるの ない一方,将来への投資も必要です.厳しい環境におい がドコモの強みだと思います. ては,将来の投資が制約されぎみですが,私は,将来に 向けて企業が永続的に成長し続けるエンジンは研究開発 にあると考えています.この数年,研究開発自体の方法 の見直しやコスト効率化にも取り組みましたし,その中 で制約があるからこそ新たな工夫が生まれて効率的に開 発成果を出し続ける体質に変わってくることができたと 思っています. しかし,先行投資,先行研究への判断は難しいですね. 世界の20年先を見据えて走り続ける. 第5世代で世界に貢献する ◆ドコモは今後どこへ向かって進んでいくのでしょうか. ご存じのとおり,ドコモはモバイルの世界から出発し ています.第 ₂ 世代までは各国,各社バラバラの仕様で したが,第 ₃ 世代からは世界共通のシステムにするとい ご存じのとおり,ドコモの研究開発は,現在提供してい うのが業界の悲願でした.₃G,LTEは世界標準の実現 るサービスの改善や改良,ネットワークの運用や技術サ を果たしましたが,その過程でドコモは世界の牽引役と ポートなどを含む幅広いものです.過去から積み上げて して評価されています.特に海外での評価は高く,昔, きたものに関しては着実に継続する必要がありますし, 欧州の政府要人が経営トップに面会に来たのは,R&D 技術トレンドを考慮しながら ₅ 年あまり先を見据えて のおかげと言われたことがあります.もちろんこれが目 成長のためのエンジンを用意するようにしていくつも 的ではなく事業につながる貢献やお客さまへのより良い りです. サービスの提供を目指していきます. ドコモは現在,インフラの開発では,第 ₅ 世代移動通 ところが,世界的にモバイル業界というのは評判が非 信システム(₅G)をはじめ, LTE-Advancedの高度化,ネッ 常に低いのです.利便性を高めるのはもちろん,社会貢 トワークの仮想化などの研究開発に注力しています.こ 献にも積極的に取り組んでいるのですが,あまり一般的 れまで₃G,₄Gにおいても世界をリードしてきたという に認知されていないのが現実なのです.このあたりを払 自負がありますし,₅Gにおいても₂₀₂₀年のサービス実 拭するためにも,具体的なかたちでモバイル技術が社会 現を目指して,世界の主要ベンダと協力して技術の標準 の役に立つこと,世界全体に貢献できることをしっかり 化へ貢献するための実験などを実施しています. と見せていきたいですね. さらに,サービスをどうつくり上げていくかもキーに 先日,ミス ・ インターナショナルの各国代表に₅Gを なるでしょう.ビジネスとして大きな期待を寄せている 体験していただいたところ,携帯電話の普及が遅い地域 のがIoT,ビッグデータ,AI(人工知能)です.この分 の方々からも,「早く自分の国で₅Gを使いたい」 「世界 野ではドコモは,早くから取り組み,実際にお客さまに をより良く変えていってほしい!」というメッセージを 提供しているサービスもあります.しゃべってコンシェ 数多くいただきました.世界の幅広い層から,やはり大 ルからスタートした自然対話のエンジンは,NTTの研 きく期待されているのだという実感を持てたと同時に, 究成果を最大限に取り込んで成長させてきました.こう 世界へ貢献する責任感を強く感じました. NTT技術ジャーナル 2016.3 7 これまでの移動通信システムは,約1₀年ごとに新しい れてしまうと,もう後戻りができなくなりますよね.よ 世代の技術が生まれてきており,次は₅Gの₂₀₂₀年開始 り便利な環境を提供されればユーザがその環境に適した がターゲットです.先進市場の日本では₂₀年で第 1 世代 使い方を考案してくれるという好循環が生まれ,今では や第 ₂ 世代のシステムは運用停止しており技術の移り変 世界有数のモバイル環境が提供されています.₅Gは過 わりは早いのですが,世界全体としては₂₀年でやっと普 去に経験がないほど,標準化の議論が本格化する前の早 及がピークを迎えるというのが過去の歴史でした.つま い段階で盛り上がっています.これは予想していた以上 り,新しい世代の技術開発は,₂₀年後の世界に最大の恩 のものですが,一時的な盛り上がりで終わることのない 恵をもたらすことをしているともいえるのです. ように,ゴールまでの期間に着実に技術をつくり上げて インフラ系の進化について ₅ 年または1₀年先の技術ト いきたいと思っています. レンドはある程度読めます.しかし,サービスの ₅ 年先 もう 1 つ,夢に野望も含ませて意図的に外部へ発信し を読むというのは正直申し上げて難しいです.大企業で ていることがあります.携帯電話システムベースの技術, イノベーションは起きないと言い切る人もいますが,今 いわゆるセルラー技術をあらゆる用途で使われるよう用 後重要になるのはこの分野であり,ドコモが自らイノ 途を拡大して世界制覇することです.しばらくは複数の ベーションをどんどん起こしたいと思っています.現行 技術が補完的に使われたり,互いに連携した運用が続け のサービスとは別の仕組みでサービスを生み出すことを られたりしても,私の理想はセルラー技術 1 つに収れん ねらいとして,組織変更も実施して新たな体制と開発プ することです.₃₀年周期の長いスパンでみると,現実は, ロセスを設けました.ここでは,オープンな開発環境が 最終的にまた発散の方向になるのが,ありそうだと予想 重要で,外部の力を活用しコラボレーションによって, しています.ただ,今後 ₅ 年はLTEベースのセルラー技 情熱のある人を中心に新しい価値創造に取り組んでい 術へ収束する方向になることは確信しています. ます. ₅Gの話に戻りますが,一般的に,新しい世代の検討 を開始するころには,今の世代のシステムでも収益は上 がっているのだから,あえて新しい世代に変える必要は あるのか,新しいインフラに莫大な費用をかける意味は すぐに到達できた成果は陳腐化も早い. 確信の持てないことを目標に ◆「LTEの父」と呼ばれる尾上常務から,後輩の技術者, あるのかというネガティブな反応があります.₃Gのと そして社員の皆さんに一言お願いします. きには「 ₂ Mbit/sは何に使うのか」と問われ,その後, 情熱があれば何でもできると感情論ですべてを済ませ LTEのときには「1₀₀Mbit/sも必要あるのか」とよく聞 るわけにはいきませんが,情熱を持ち続けることはとて かれました.ドコモは率先して技術開発して投資に踏み も大切です.各人の気質にもよりますが,技術者がこだ 切りました.人は一度快適な環境におかれて,それに慣 わりや大きな夢を持って挑み続ける姿勢は大切です.過 去の自分を振り返ったときに,私がそうであったかとい うと目の前のことに夢中に取り組んだだけともいえま す.しかし,私の経験から,少し高めの目標を設定する ことの大切さを実感しています.目標のハードルを低く してしまうと,すぐに達成はできますが,同時にすぐに 陳腐化してしまうのです. 「できそうもないこと」 「確信の持てないこと」が ₅ 年 先の目標レベルにちょうど良いと思っていて,₅G関係 では私自身があまり確信がない難しいことを実現してほ しいと常日頃から研究チームに伝えています.例えば, 高い周波数帯域を使っても 1 kmは電波が届くセルラー システムを目指すように伝えていますが,実現性には半 分ほどの確信しかありません.私も「こんなことできる はずがない」と思いながらも夢中で取り組んでいたら「あ 8 NTT技術ジャーナル 2016.3 れ?できちゃった!」という驚きを経験していますから. 何でも自分たちだけでやるのはNTTグループのDNA と言われることもありますが,ベンダとオペレータとの 関係や技術,エコシステムの変化に対応して,自分でや るべきところ,こだわりを持つところを見極めながら, どんどんやり方を変えていかなければ生き残れない時代 がきます.世界では,技術はベンダが牛耳る傾向にあり ますが,それに対するオペレータの不満の声を聞くこと もあります.ドコモは良い意味でのこだわりで世界の動 きに大きな影響を与え続けたいと思います.そして,顧 客を知り,グローバルな視点を持つことはとても大切で す.世界で何が起きているかを知らずに日本だけを見て やネットワークの仮想化などドコモが牽引役を担う部分 何かを創り出すことはナンセンスです.これらを踏まえ もあるでしょう.今後もグループ全体の価値を最大化す て,自分で考えて発信し,技術者の気概としては世界を るために連携を強くしていきたいですね. リードする姿勢を貫いてほしいですね. (インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也) 最後になりましたが,NTTグループ内の研究開発の 連携も密にしていきます.NTTの研究所はセキュリティ 分野などでトップレベルの技術があり期待しています. グループ内で連携して,お互いに優れた技術を活用し合 い,世界を変えていくサービスを生み出していきたいで すね.よりがっちりとタッグを組んでいきます.AIを 構成する対話技術や翻訳技術,位置情報のサービス基盤 インタビューを終えて 約 1 時間というインタビュー時間ではどうしても垣間見られないトップの 人柄を知るために,過去の講演記録などの参考資料を拝借することがありま す.今回も尾上常務の作成されたスライドを拝見する機会に恵まれました. 驚きました! LTEの父と呼ばれる尾上常務がご自身で作成されたと聞いてい たそのスライドには,まるで欧米諸国のマンガのようなユニークなアニメー ションや演出が施され,めくるたびにわくわくするようなストーリーが展開 されていたからです. 「スライドは自分でつくりますよ.面白くするのは関西人のDNAかもしれま せんね」とまるで子どものような笑顔で語る尾上常務.スライドづくりは趣 味の域,どうでも良いことだとおっしゃりながら,講演をお聞きにくる方を 喜ばせるために心血を注がれている姿を垣間見ました.一方で, 「役に立つ情 報をいかに仕入れるかを考えて本を貪ることもあるが,ゆっくり本を読む時間はつくっていない.これではいけ ないなと思っています」と語られるときの口元は決して緩んではおらず,世に新しいものを生み出される責任感 と強い意志がにじんでいました. NTT技術ジャーナル 2016.3 9