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ネットワークプロセッサの技術動向と RENA-CHIP
ネットワークプロセッサ 高性能・低価格なネットワークアダプタを実現するRENA-CHIP ホームゲートウェイ QoS ネットワークプロセッサの技術動向と RENA-CHIP こ い け けいいち 小池 恵一 1Gbit/sのアクセス速度に対応し,高性能な品質制御やファイアウォール NTTサイバーソリューション研究所 機能を提供するRENA-CHIPの誕生背景について述べます. RENA-CHIPとは ほど浸透してきたIPですが,当初はと IP処理性能の重要性 にかくインターネットにつながるという NTTサイバーソリューション研究所 インターネットで使われている通信 のが精一杯の世界でした.帯域は細く では今 後 のネットワークサービスを プロトコルであるTCP/IP(または単 不安定で,音声や動画を用いた通信な 踏まえ,1Gbit/sのアクセス速度に対 にIP)は,今や多くの通信基盤で使わ どはとても考えられませんでした.その 応 した「 R E N A - C H I P 」( R o u t i n g れるようになっています.個人のネッ 後 , ADSL( Asymmetric Digital Engine for Next generation network トワークアクセスから企業内や企業間 Subscriber Line)やケーブルモデム, Access CHIP:レナチップ)を開発し での通信業務までが,基本的に同じ手 そしてFTTH(Fiber To The Home) ました(図1).RENA-CHIPはファ 順で行われています.そしてこのIP化 と利用可能なアクセス網の帯域は劇的 イアウォールや品質制御など,処理に は,誕生から100年以上,基本的に同 に増大し,FTTHでは固定網と同じ 大きな負荷がかかる通信状況下にお 一の方式で続いてきた電話サービスさ 0AB∼J番号によるIP電話サービスも いても,上下方向それぞれを1Gbit/s えも代替しようとしています. 始まりました(図2) . で処理できる低価格の通信処理専用 それでは,そうしたIP電話サービス ネットワークの根幹を変えてしまう LSI(Large Scale Integration:大 規模集積回路)です.これまでソフト (Mbit/s) ウェアではコスト的に実現が困難な機 能をハードウェア化することで,高性 1 000 能と低価格を初めて両立しました.本 100 稿では,RENA-CHIPが開発された経 緯とその開発方針について述べます. 速 度 FTTH 10 ADSL ケーブルモデム 1 ダイヤルアップ ISDN 0.1 1994 1996 ▲ 商用インターネット開始 ▲ Windows95発売 図1 RENA-CHIP外観 8 NTT技術ジャーナル 2006.7 1998 2000 2002 2004 2006 ▲ GE-PON導入 ▲ ▲ IP電話(050) IP電話(0AB∼J) 図2 日本におけるインターネットアクセス方式の変遷 (年) 特 集 は利用できる帯域が増えたから可能に ムゲートウェイ(HGW)です(図3). IPv4ネットワークを対象にしていま なったのでしょうか.電話に必要な帯 HGWにはネットワークアダプタ(NW す.NWアダプタには組込型のCPU 域 は高 々 1 0 0 , k b i t / s で, 最 大 アダプタ:一般的呼称ではブロードバ か,それに通信向け機能を強化した 100,Mbit/sのFTTHの帯域が必要と ンドルータといわれる機器が有する主 ネットワークプロセッサ(NP)が使わ は考えられません.実はIP電話を固定 な機能)が持つネットワークの低位レ れており,構成は上記の機能や処理速 電話と同等のサービスにできたカギは イヤの処理機能と,上位のサービスを 度に最適化されているため,今後予想 QoS( Quality of Service: 品 質 制 中継,または終端するサービスアダプ されるさまざまなサービスに対応するに 御)にあります.従来の固定電話は, タ機能が備わっています(表) . は性能が不足しています.具体的には, 回線交換により呼ごとに64,kbit/sの 現在一般的なNWアダプタはホスト 帯域を専有して安定した通信が可能で へのアドレス付与やアドレス変換,パ ・ファイアウォール した.一方,IP網ではコストを下げる ケット転送,そして簡易なファイア ・QoS ためにさまざまな通信がネットワークを ウォールを備え,最大100,Mbit/sの などが1Gbit/sの速度に対応できねば ・パケット転送 共有して行われることが一般的です. そのため,音声データ(IPパケットと 呼びます)が他の通信による影響を受 け,遅れたり消失したりする可能性が VoIPアダプタ あり,これが原因で音声品質が劣化し 電話 (IPv4ではType of Service,IPv6 るネットワークがそれに基づき適切に TV HGW 中 に自 身 の優 先 度 を設 定 する規 定 ではTraffic Class)があり,中継す 家電制御 CODEC ていました.IPパケットにはヘッダの サービスアダプタ FTTH・ ADSL等 PC ONU・ ADSLモデム等 ネットワークアダプタ STB 転送処理を行うことで,サービス内容 ガス器具 に応じた異なる品質を実現できます. アドレス変換 FTTHによるIP電話では安定した通信 品質制御 が可能な光ファイバの特性に加え,音 声通信を優先的に取り扱うことで,IP 等 ファイアウォール パケット転送 図3 HGWの機能 を使っても従来と遜色のない品質を達 成しています. 表 HGWが持つ主な機能 QoSが考慮されたIPネットワークを ネットワークアダプタ機能 用いれば,これまで実現が困難であっ たサービスが可能になります.例えば, 1Gbit/sのFTTHならばCD1枚分の サービスアダプタ機能 ホストへのアドレス付与 VoIPアダプタ アドレス変換 映像CODEC 品質制御 SIPなどのシグナリング データを10秒足らずで送ることや,マ ファイアウォール 宅内プロトコル変換 ルチチャネルのハイビジョン映像を配 パケット転送 家電,ガス器具等の制御 信することも夢ではありません.こうし 暗号化,復号化 ユーザ認証 たサービスを家庭で利用するとき,IP 回線認証 無線アクセスポイント ネットワークの玄関口になるのがホー ※ ※電力線通信,ECHONET,IEEE1394等 NTT技術ジャーナル 2006.7 9 高性能・低価格なネットワークアダプタを実現するRENA-CHIP なりません.IP電話では遅延を抑える ためにパケットの長さを短く設定して コントロールプレーン フォワーディングプレーン います(ショートパケット).ショート パケットは同じ分量のデータを送るの に,繰返しの回数が多くなるために処 CPU ヘッダ解析 理負荷が増加します.同じ1Gbit/s 外部 インタフェースへ パケットエンジン群 検索 圧縮・伸張 であっても大きくなるため,NPに求め 内部高速バス られる性能要件はより厳しいものにな ります. メモリ インタフェース QoS 暗号化・復号化 MAC 2個以上 NPについて DRAMへ インターネットサービスプロバイダが USB UART PCI等 RHYへ 使うような大型のルータでは処理性能 UART: Universal Asynchronous Receiver Transmitter PCI: Peripheral Component Interconnect DRAM: Dynamic Random Access Memory PHY: Physical Iayer Controller MAC: Media Access Control が重 視 されるため, 専 用 のA S I C ( Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)が 図4 NPの一般的な構成 用いられます.ところが,ASICには処 理内容の変更に柔軟に対応できない という欠点があり,これを解決するた は組込CPUが実行します.低価格帯 めにCPUとパケット処理専用のハード のものではいくつかのハードウェアが省 ウェアを一体化し,処理をプログラム 略され,CPUで処理されることがあり 可能としたものがNPの始まりです.そ ます. RENA-CHIPの位置付け N P の主 なものの性 能 と価 格 帯 を 図5に示します.現在のNPの市場は, の後,ブロードバンドルータのような消 CPUと各パケットエンジンは高速な 性能が1Gbit/s以上の企業向け製品 費者向けの機器でも性能が必要とされ 内部バスで相互に接続され,処理速度 と100,Mbit/sまでの消費者向け製品 るにしたがって,一部にパケット処理 を最大化するような効率的な構造に で二極化しています. 専用ハードウェアを搭載したNPの構成 なっています.さらに一部のNPでは, を持つものが使われだしました. マイクロプログラムで機能を定義する に応じて早期から1Gbit/sを超える性 NPの一般的な例を図4に示します. ことでハードウェア処理の高速性とソ 能が必要とされたのに対し,消費者向 パケットのヘッダ解析,検索,QoS, フトウェア処理の柔軟性を持つ,プロ けではダイヤルアップからADSL,ケー 暗号化・復号化など,処理は単純で グラマブルなパケットエンジンを備えた ブルモデム,そしてFTTHと新しいア すが繰り返しが多く,負荷が大きい ものもあります. クセス方式が提供されるにしたがって, これはプロバイダなどではトラヒック フォワーディングプレーンと呼ばれる 次々と生まれる新しいネットワーク 段階を追って要求性能が上がってき 部分の機能はそれぞれ専用のハード サービスに素早く対応するには,開発 たためと考えられます.ブロードバン ウェア(パケットエンジン)が実行し 期間を短縮できるNPを用いることが常 ドサービスのユーザ側 の帯 域 は一 般 ます.またテーブル管理やアドレス付 識になっています.NPは今後ルータに 的 に1 0 0 , M b i t / s が最 大 なので, 与などの処理は複雑ですが発生頻度 とどまらずさまざまなネットワーク対応 100,Mbit/sを達成した時点で速度競 が少なく,負荷が比較的小さいコント 機器に適用される重要な部品というこ 争が落ち着いたことも一因です.また ロールプレーンと呼ばれる部分の機能 とができます. 従来のインターネット接続サービスで 10 NTT技術ジャーナル 2006.7 特 集 ・IPsec(IPv6カプセリング) (円) ・転送 100 000 企業向け I社-C ・フレーム生成 E社 A社 公 表 価 格 などの処理を専用のハードウェアエン X社 V社 ジンが行うことで可能となりました. I社-B 10 000 消費者向け I社-A 5 000 R社 F社 2 000 C社 50 M B社 100 M RENA-CHIPは競合する他のNPに 低 価 格 化 比べ,性能・価格・電力など多くの 点で優れており,NGNにおけるHGW のキーデバイスとして力を発揮し,よ 高性能化 500 M RENA-CHIP 1G りよいサービスの牽引役となることで 5G 10 G 40 G (bit/s) しょう. スループット性能 (1ドル=115円換算) 図5 主なNPの性能と価格帯 は品質制御のサービスはほとんど行わ ASICです.物理的にはNPのパケット れておらず,そのためこれまでのNWア エンジン部を切り出した構造となっ ダプタにQoSの実装はなく,ファイア ており,テーブル管理などの制御を行 ウォールに必要なパケット廃棄も簡易 う外 付 けのC P U と通 信 するインタ なもので,価格的にも機能的にも二分 フェースを持 っています. これは, されているのが現状です. HGWの開発メーカが持つ資産やソフ それでは, 今 後 N G N ( N e x t トウェアに求められる要求仕様に応じ Generation Network)で予定され て,CPUは性能や価格の観点で最適 ているような高 品 質 なサービスを安 なものを選択可能にすべきという設計 全・確実に提供するためにFTTHが 方針に基づいたものです. 1Gbit/sのQoSネットワークになった RENA-CHIPが持つ機能の詳細は 場合,HGWを構成するNPには何を 本特集『RENA-CHIPの機能概要』 用いるべきでしょうか.100,Mbit/s対 で説明しますが,ユーザの使用状況い 応 のN P を改 良 して1 0 倍 の速 度 を達 かんにかかわらず上下方向それぞれで 成するのは非常に困難で,根本的な構 1Gbit/sのワイヤレート(パケットの 造の変更が必要になるでしょう.一 長さにかかわらずインタフェースが出せ 方,企業向けのNPを消費者向けに用 る最大の速度)処理が可能です.多く いるには,価格と消費電力が問題と の消費者向け製品で使われている他の なります.RENA-CHIPはこの課題を NPでは部分的にしか備えていない, 解 決 するために開 発 されました. ・ヘッダ解析と検索 RENA-CHIPは1Gbit/sの速度に対 ・QoS 応した消費者向け価格帯のHGW用 ・廃棄 小池 恵一 本格的な光アクセスの時代を迎えつつあ る現在,安心・快適・簡単なサービスを実 現するためにRENA-CHIPが使われることを 願って研究開発を進めていきます. ◆問い合わせ先 NTTサイバーソリューション研究所 第一推進プロジェクト TEL 046-859-8601 FAX 046-855-1617 Email [email protected] NTT技術ジャーナル 2006.7 11