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多様化するサービスに向けたアクセスシステム技術
FTTH つくばフォーラム2015 ワークショップ 光アクセスシステム技術 アクセスサービス 多様化するサービスに向けたアクセスシステム技術 ふじもと ゆきひろ 藤本 幸洋 NTTアクセスサービスシステム研究所 プロジェクトマネージャ NTTアクセスサ ービ スシ ステム 研 究 所 で は,FTTH(Fiber To The Home)サービス提供のためのアクセスシステム技術の研究開発に取り組 んできました.本稿では,商用展開されてすでに20年近く経過している FTTHのシステムの技術的特徴,および対象としてきたサービスを振り返 ります.また,多様化するサービスに向けたアクセスシステム技術の研 究開発の方向性について述べます. の通信系サービスは,電話系に限られ までになりました. この大きな理由は, ていたためFTTHシステムも16 Mbit/s LANにおける高速化技術が市中技術 程度の低速なものでした.しかし, として安価に利用可能となり,また, WDMによる光信号の多重とPON構成 それまで比較的独自仕様であったイン によるアクセスサービスの提供は,現 タフェース条件がIEEE802やITU-T インターネットアクセスの普及に伴い 在のFTTHでも用いられている技術で (International Telecommunication 拡大展開し,現在日本全体で2600万 す(図 1 ) . Union-Telecommunication ユーザ以上が利用する通信インフラと ■ブロードバンドアクセスとして Standardization Sector)の標準化規 アクセスサービスとシステム技術 の変遷 ■商用初期のFTTH FTTH(Fiber To The Home)は, しての地位を築きました.日本におけ のFTTH 格により規定され,数多くのデバイス るFTTHは1997年に商用導入が開始 2000年を境にアクセスサービスに 等が利用可能になったことも挙げられ され,提供されるサービスやシステム 大きな変化が起きました.従来の電話 ます(4).さらに,サービスをインター 技術もこの約20年の間大きく変わっ 系のサービスからインターネットアク ネットアクセスと限定することで,複 たものもあります. セスへの変化です.2000年初頭,前 雑な電話系インタフェースの装置への 初期のFTTHは,アナログ ・ ISDN 述のSTM-PONを用い最大10 Mbit/s 実装を省くことにより大幅なシステム 電話系通信とアナログ多チャネル映像 の帯域を利用できるシステムの開発 ・ の簡略化もでき,システムコストの大 配信サービスを提供していました.当 導入も行いましたが,ADSLに代表さ 幅な低減も可能となりました. 時のアクセスシステムは,電話系サー れる高速メタリック通信との速度的差 FTTHによるブロードバンドアクセ ビスのためのシステム(STM-PON: 別化を図るためにもFTTHシステムの スの本格的な展開が進むと,提供サー Synchronous Transfer Mode-Passive 高速化が求められました.そこで, ビス拡張への対応(NGN,マルチキャ Optical Network)と映像配信サービ 2002年にATM-PONをベースにデー スト,BS/CS信号) ,大量開通の稼働 ス の た め の シ ス テ ム(SCM-PON: タ通信のみに特化させ開発した 削減への対応(DYI化,ONU一体化) , (2) Sub-Carrier Multiplexing-PON)によ B-PON(Broadband-PON) ,さら 提供エリア拡大に向けた対応(長延 り構成され,波長多重技術(WDM: に,2004年にイーサネット技術をベー 化) ,ECO化(省電力化)などのシス Wavelength Division Multiplexing) ス に 開 発 さ れ たGE-PON(Gigabit テム機能追加と改善へと研究開発の対 を用い同一の光ファイバ上で 2 つの (3) Ethernet-PON) の 導 入 を 行 い ま し 象は移り,システムの成熟度を上げる サービスを提供していました .アク た.この間,アクセスシステムは, 技術開発を中心に現在まで行われてき セスネットワークは,光スプリッタを 2000年初頭の10数Mbit/sの速度から ました.これら技術開発は,現在約 用いた32分岐のPON構成です.当時 数年で 1 Gbit/sの速度をサポートする 1900万ユーザにサービスを安定的に (1) 74 NTT技術ジャーナル 2016.2 特 集 設備センタ 光スプリッタ 32分岐 お客さま宅 ONU 電話 STMONU 映像 VONU 1.3 μm WDM WDM 1.55 μm 電話網 STMOLT 1.3 μm 1.55 μm 光波長 映像配信 ヘッドエンド VOLT 1.3 μm 1.55 μm STM-PON: STM-OLTとSTM-ONUにより構成 SCM-PON: V-OLTとV-ONUにより構成 ONU: Optical Network Unit OLT: Optical Line Terminal 図 1 商用初期のFTTHシステム構成 提供する通信インフラとしての役割を 支えています(図 2 ) . (百万) アクセスシステム技術開発の現在 ユーザ数 の取り組み ■トラフィック増加に向けた技術 FTTHの本格展開から今日に至るま で,ブロードバンドトラフィックの伸 びは過去10年間で14倍となっていま す(図 3 ) .この傾向は高精細映像な 40 30 CATV 20 DSL 10 FTTH 0 02/03 す.一方,移動体通信のトラフィック は,スマートフォンなどの普及に伴い 05/03 ▲B-PON ▲GE-PON 通信系 FTTHシステム どのリッチコンテンツの普及に伴い今 後も増加することが容易に予想されま 03/09 映像配信系 FTTHシステム 06/09 08/03 09/09 11/03 12/09 14/03 ▲NGN対応(ONU+HGW一体化) ▲PON Multicast 対応 ▲DYI化 ▲V-ONU経済化 ▲省電力化 ▲長延化(37 dB) ▲V系広帯域化(BS/CS110°対応) ▲GV系一体化 図 2 ブロードバンドアクセスの伸びとFTTHシステム技術開発 ここ数年,毎年50%以上の大きな伸び をみせており,移動体ネットワークの バックボーンの帯域増強は大きな課題 動体通信のトラフィックの伸びに対応 さ れ て お り,IEEE802, お よ び です.現在の光アクセスネットワーク したアクセスシステムの高速化が必要 ITU-Tにおいても規格化されていま は,移動体基地局のバックボーンとし な技術の 1 つであることはいうまで す(5).しかし,爆発的なトラフィック ても利用されており,バックボーンの もありません.アクセスシステムの高 の伸びと,高速光アクセスシステムの 帯域増強への対応が求められます.こ 速化は,現在,10 Gbit/sの速度を伝 適用先の多様化を考慮した場合,より のようにブロードバンドアクセスと移 送するPONシステムが技術的に確立 柔軟な運用を可能とするシステムが求 NTT技術ジャーナル 2016.2 75 つくばフォーラム2015 ワークショップ TDM-PONを 4 波多重することによ せることにより,PONとは独立した り最大40 Gbit/sのPONとして運用す 占有型の通信の多重も可能となりま 複数のTDM-PONをWDMにより同一 る こ と が で き ま す. ま た, 任 意 の す.このような柔軟性は,同一のアク PON上に複数多重化するシステムで OSU(Optical Subscriber Unit) の セスネットワークで一般向けサービス す(図 4 ) .この仕様は,現在,ITU-T 通信波長をONUへ動的に割り当てる とビジネス向け,モバイル向けアクセ に お い てNG(Next Generation) - ことにより,柔軟な速度設定や故障時 スサービスを同時に提供することを可 PON2として規格化が進められていま の変更等が可能となります.また,ポ 能にすると考えられます(図 4 ) . す.それぞれのTDM-PONは2.5〜10 イント ・ ツー ・ ポイント(P2P)型の ■モバイルフロントホール利用に Gbit/sの 速 度 の も の が 用 意 さ れ, 通信波長を同時にWDMオーバレイさ め ら れ ま す.WDM/TDM(Time (6) Division Multiplexing)-PON は, 向けた技術 モバイルフロントホール(MFH: Mobile Front-Haul)は,基地局とな (Gbit/s) *1 るBBU(Base Band Unit) とアンテ 4000 *2 ナとなるRRH(Remote Radio Head) 3500 トラフィック ブロードバンド 総トラフィック (ダウンロード) 3000 2500 2000 が離れて設置される場合のリンク区間 を指します.MFHでは無線の信号を 光デジタル信号へ変換するにあたり, 約14倍 CPRI(Common Public Radio 1500 Interface)に準拠したインタフェー 移動通信 総トラフィック (ダウンロード) 1000 500 0 37.5% スを用います.CPRIは無線電波をそ 50.9% 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 図 3 インターネット・モバイルトラフィックの増加 のままデジタル化するため,通常無線 *1 BBU:デジタル信号処理,バックボーン ネットワークとの接続等を行います. *2 RRH:無線信号と光信号の変換等を行い ます. OSU # 1 一般向けアクセス OSU # 2 TDM-PON:2.5 ∼10 Gbit/s /波 WDM: 4 ∼ 8 波長 ビジネス向けアクセス OSU # 3 コア ネットワーク OSU # 4 WDM # 1 λ1 モバイル向けアクセス 波長 時間 WDM #n WDM/TDM-PON 最大40 Gbit/sのPONとして利用 λ4 帯域占有 帯域占有 P2P WDMオーバレイ 速度無依存の占有型通信として利用 図 4 WDM/TDM-PONの構成 76 NTT技術ジャーナル 2016.2 移動体 ネットワーク 特 集 の伝送速度の16倍以上の帯域が必要 として定義し,従来のCPRIと比較し さかんに行われており,新しいサービ となります.したがって,光伝送シス て90%以上の帯域削減が可能となる スやビジネスがすでに創出されつつあ テムによるCPRIの伝送には,非常に ようにします.これにより高速化する ります.現在自動運転の研究が多方面 高速なシステムが求められます. 今後, 移動体基地局に対し,経済的なMFH で行われていますが,仮に日本国内の 移動体通信は現在のLTEやLTE-Aか のシステム化の実現が期待されます. 自動車がネットワークに接続されると ら,10 Gbit/sをサポートする5Gへと 例えば,将来の5GのMFHであっても, 8000万台の「端末」が新たに生まれ 移行するにあたり,CPRIのままでは 商用のLANなどで用いられている ることになります.また,2020年ま アクセス区間に100 Gbit/sを超えるシ 10 Gbit/sの光インタフェースが利用 でに世界中で約500億個以上のセンサ ステムをMFH投入しなければならず, できるため,現在安価に入手可能な商 などのデバイスが「端末」化されネッ 経済的なRRHの展開のハードルとな 用技術を用いたシステム化が可能とな トワークに接続されるといった予測も ることが予想されます(図 ₅ ) .そこ ります.さらに,MFHをPONへ収容 出され,それでも全体の数%にも満た で,将来の移動体通信の高速化に対応 する形態も可能となり,さらなる経済 ないといわれています.このような莫 した経済的なMFHを実現するために, 化と効率的運用も期待できます. 大な数のデバイス ・ 端末がネットワー 従来のBBUの物理層の機能構成を見 クに接続される世界では,アクセス 次の研究 ・ 技術開発領域に向けて 直し,よりデータレートに近い速度の ネットワークの構成もこれまで構築さ ■新たなサービスとネットワーク 信号を光信号として伝送する技術を開 (7) れてきたFTTHとは大きく変わる可能 性があると考えられます.例えば, 発しています .具体的には,基地局 これまでの人と人を中心とした通信 の各機能構成を分解し,現在のCPRI に加え,この数年,M2M(Machine to M2Mにおけるアーキテクチャの中で で行われている基地局間の密な協調が Machine)やIoT(Internet of Things) 定義されているM2Mエリアネットワー 可能であり,かつ,帯域幅を大幅に削 といったモノとモノ,人とモノをネッ クや基幹ネットワークは,これまでの 減可能な部分を新たなインタフェース トワークでつなぐことに関する議論が アクセス ・ 中継といった区切りとは異 物理層分割伝送 現行のMFH構成 BBU BBU (bit/s) 上位層 100 Gbit/s超 光伝送 帯域削減 CPRI 100 G MAC層 (10分の 1 程度へ) 伝送速度 無線レートの16倍以上 10 G 1G 100 M 機能配備変更に より,無線デー タレートに近い 速度の信号を光 伝送する 3.9 G 3.9 G (LTE) 2010 5G MFH (CPRI) Mobile RRH 4 G(LTEAdvanced) 2020 MAC層 物理層 の一部 物理層 LTE-A LTE 225 Mbit/s 150 Mbit/s LTE 4G LTE 100 Mbit/s 75 Mbit/s 上位層 RRH 物理層 の一部 無線 送受信 無線 送受信 5G 端末 端末 図 5 モバイルフロントホールの帯域削減 NTT技術ジャーナル 2016.2 77 つくばフォーラム2015 ワークショップ 点での技術開発,さらに,これまでの M2Mアプリケーション 有線(FTTHなど) 無線( 3 G, LTE, WiMAX, 5 Gなど) M2Mプラットフォーム M2Mゲートウエイ 10年以上使われる 共通インフラ IEEE802.11, .15.xなど M2Mエリアネットワーク M2Mデバイス デバイス・利用に応じた エリアネット M2Mデバイス 図 6 M2Mの機能アーキテクチャ例 なるものかもしれません.また,適用 様に,PONを構成する個々の技術を されるネットワーク技術に関しても, 「部品」としてみなし他の分野への応 1 つに集約できるものでもないよう 用(光信号の衝突回避制御が物流の制 です(図 6 ) .さらに,モノが送受信 御に利用できる等)も十分考えられる する情報の特性がどのようなものにな と思います.逆に他分野で利用されて るのかも多種多様な議論があります. いる技術を「部品」とみなし,ネット このように,M2M,IoT時代のネット ワーク技術の不足する部分への組み込 ワークをどう実現するか,どのような み も 考 え ら れ ま す. 今 回 の つ く ば アクセスサービスとして提供できるか フォーラムでは, 「アクセスシステム は,非常に大きな研究開発テーマであ 技術」 「オペレーション技術」 「ネット り,次に向けた新たな領域になると考 ワーク技術」 「基盤技術」として研究 えています. 所で開発されている技術が紹介されて ■部品としての技術の適用 いますが,この技術分類にとらわれな NTTアクセスサービスシステム研 い「部品」として,何に利用できるか 究所では,現在に至るまでさまざまな も考えていきたいと思います.同時に 技術を開発してきました.各々の技術 各方面からの意見交換などを通し,新 に関して接近してみると,ネットワー たな領域でのコラボレーションも積極 ク以外の領域に利用できる技術もある 的に進めたいと考えます. かもしれません.例えば,光ファイバ の 損 失 を 測 定 す るOTDR(Optical 多様化するサービスの創出には,こ ファイバネットワークの故障を探索す れまで以上に研究開発のテーマの多様 るだけでなく,光ファイバの物理的変 化が必要となります.NTTアクセス 化を観測できるといった特徴を活か サービスシステム研究所では,高速 ・ し,河川堤防の状態や構造物の歪みな 広帯域化のアクセスシステム技術開発 どの観測にも用いられています .同 78 NTT技術ジャーナル 2016.2 ■参考文献 (1) http://www.ntt.co.jp/RD/OFIS/active/1998pdf/ tn.pdf (2) http://www.ansl.ntt.co.jp/history/access/ ac0109.html (3) 落 合 ・ 立 田 ・ 藤 本 ・ 田 中 ・ 吉 原 ・ 太 田 ・ 三 鬼:“Gigabit Ethernet-PON(GE-PON)シス テムの開発,” NTT技術ジャーナル,Vol.17, No.3,pp.75-80,2005. (4) Y. Fujimoto: “Application of Ethernet Technologies to FTTH Access Systems,” IEICE Trans. Commun., Vol. E89-B, No.3, pp.661-667,2006. (5) 可 児 ・ 鈴 木:“次 世 代10G級PONシ ス テ ム の 標準化動向,” NTT技術ジャーナル,Vol.21, No.9,pp.90-93,2009. (6) 浅 香 ・ 可 児:“次 世 代 光 ア ク セ ス シ ス テ ム (NG-PON2)の標準化動向,” NTT技術ジャー ナル,Vol.27,No.1,pp.74-77,2015. (7) 宮本 ・ 桑野 ・ 寺田 ・ 木村:“PONを適用した 将来モバイルフロントホールの光伝送容量に 関する一検討,” 信学技報,Vol.114,No.119, CS2014-18,pp.7-12,2014. (8) 藤橋 ・ 宮本 ・ 奥津 ・ 奥津:“光ファイバセン シング技術を用いた防災分野への取り組み,” NTT技術ジャーナル,Vol.19,No.9,pp.5256,2007. 今後の展開 Time Domain Reflectometer)は,光 (8) 広い研究開発にチャレンジしていきた いと思います. 基幹ネットワーク M2Mデバイス 領域を超えたところでの応用など,幅 に加え,M2M,IoTに向けた新しい視 ◆問い合わせ先 NTTアクセスサービスシステム研究所 光アクセスサービスプロジェクト TEL 046-859-5280 FAX 046-859-5514 E-mail fujimoto.yukihiro lab.ntt.co.jp