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次世代ネットワークを拓く複合機能集積PLC技術
複合機能集積光モジュール 光ネットワークを支えるPLCデバイス技術 マルチチップPLC集積技術 光レベル調整機能付AWG 次世代ネットワークを拓く複合機能集積PLC技術 か ね こ あきまさ ど い よしゆき 金子 明正 /土居 芳行 次世代光通信ネットワークでは,さまざまな機能を持つ光部品が従来より や ま だ も小型かつ低コストであることが求められています.NTTフォトニクス研究 山田 所で研究開発を進めてきた石英系プレーナ光波回路(PLC)技術は,小型, 量産性に優れており,市場要求を満足する有力な技術として期待されていま た む ら たかし お が わ い く お 貴 /小川 育生 やすあき 田村 保暁 す.本稿では異なる機能を持つ石英PLCをマルチチップPLC集積技術により 集積化した複合機能集積光モジュールの最新動向について紹介します. 複合機能集積PLCモジュール NTTフォトニクス研究所 ダ(MZ: Mach-Zehnder)干渉計で 実現されるVOA,波長無依存カプラ NT T研究所では,高密度波長多重 ( WINC: Wavelength Insensitive 通信(DWDM: Dense Wavelength Coupler)を用いた光タップ回路,モ Division Multiplexing) 用 途 の高 ニタフォトダイオード(PD: Photo 機能光モジュールを小型,かつ,低コ Diode) ,AWG合分波フィルタとこれ ストに実現する実装・プラットフォー らの光部品をインテリジェントに制御 ム技術として,複数のプレーナ光波回 する電子制御ボードから構成されてい 路 (PLC: Planar Lightwave Circuit) ます. VOA AWG タップ回路 ● ● ● を直接接続するマルチチップPLC集積 NT Tフォトニクス研究所では,マル 技術を提案し,さまざまな検討を行っ チチップPLC集積技術の最初の適用 (1) モニタPD 図1 光レベル調整機能付AWG (V-AWG) てきました .この技術により,モノ 先として,V-AWGの研究開発を精力 リシック集積化された光回路では大き 的に進めてきました .マルチチップ な問題となっていた歩留まりの低下や PLC集積技術は,従来必要であった MSA( Multi Source Agreement) で 汎用性がない点は容易に解決され,ま ファイバ取り回しのスペースやファイ 定められたモジュールサイズのわずか20 た各機能を持つ個別光回路は,最適 バどうしを融着接続した部分の収納ス 分の1で同一機能を実現することに成 な設計と最適な製造条件を用いて製造 ペースを不要とするため,モジュール 功しました. することができるため,より高性能な サイズを大幅に小型化することが可能 またAWGには温度調整回路が不要 モジュールを実現可能となります. です.また小型化に有利な高屈折率差 なアサーマルAWGを採用し,VOAに 複合機能を集積したPLCモジュール (Δ)を持つ光導波路を用いた場合,シ は断熱溝構造を最適化した低消費電 で最初に実用化されたものが,図1に ングルモードファイバとの接続点が減 力構造を採用した結果,最大消費電 示 すような光 可 変 減 衰 器 ( V O A : るため,挿入損失も全体としては大幅 力も制御ボードに必要な電力を含め Variable Optical Attenuator) と に改善するというメリットがあります. て,わずか0.8,Wまで低減することに (2) アレイ導 波 路 型 回 折 格 子 ( A W G : 実際に作製した超小型8チャネル 成功しています.さらに光学特性は挿 Arrayed Waveguide Grating)波長合 V-AWGモジュールの内部構造写真と 入損失5dB,波長依存損失(PDL: 分波フィルタを組み合わせた光レベル 透過スペクトル特性を図2,3に示し Polarization Dependent Loss)は 調整機能付AWG(V-AWG)です.こ (3) ます . 15,dB減衰時に0.4,dB以下と実用上 のモジュールは,熱光学(TO: Thermo モジュールサイズは,70×45×14 mm 十分な特性を持っており,V-AWGが Optic)効果を利用したマッハツェン と非常に小型であり,業界標準規格の 従来から適用されていた基幹系ネット 20 NTT技術ジャーナル 2005.5 特 集 (dB) 0 ー10 制御ボード ー20 FFC モニタ PD 透 ー30 過 率 ー40 ー50 VOA+タップ Shut-off ー50 AWG 10 mm ー60 1548 接続部 1550 1551 1552 波長 1553 1554 1555 1556 (nm) 図3 超小型8チャネルV-AWGモジュールの 透過スペクトル特性 図2 超小型8チャネルV-AWG モジュールの内部構造 AWGチップ 1549 スイッチチップ パス切替部 ゲートスイッチ部 (a) 内部構成 (b) Compact PCI準拠DWCSボード外観 図4 32チャネルダイナミック波長チャネルセレクタ(DWCS) ワークだけでなく,低消費電力や小型 チの駆 動 電 流 を0 . 5 , m s 以 下 で切 り であり,制御ボードを含むボード全体 な複合機能集積モジュールを必要とし 替 えられる駆 動 回 路 を組 み込 んだ のサイズも235 ×160 ×40,mm(6U, ているメトロネットワークへの適用も Compact PCI( Peripheral Compo- 2スロット幅)と比較的小型なボード 今後期待されています. nent Interconnect) 規 格 準 拠 の を実現できました.挿入損失は5.8∼ DWCSボードと内部構成を図4に示 7.2,dB,隣接チャネルクロストークは します. −35,dB以下と実用上十分な性能で 続いて,AWGと32 ×1光スイッチで 構成される32チャネルダイナミック波 長チャネルセレクタ(DWCS: Dynamic AWGと光スイッチは,小型化を実 した.今後,ゲートスイッチの段数を Wavelength Channel Selector)にマ 現するため最小曲げ半径2mm以下を 増やすことでさらなる低クロストーク化 ルチチップPLC集積技術を適用した研 実 現 可 能 な1 . 5 % Δ 導 波 路 と し, も十分可能です.またチャネル切り替 AWG部はフィルタリングによるスペク え時間は2ms以下と優れた特性を実 DWDM信号の任意の1波長を選択 トル歪みを抑制するため,フラットトッ 現しました. 的 に透 過 することができるため, プAWGを採用しました.またスイッチ DWDMネットワークではネットワーク 部には消光比を改善するため,各入力 の品質管理に必須である多チャネル光 ポートに1段のゲートスイッチを接続 モニタを小型かつ低コストに実現する した5段ツリー構成の32 ×1光スイッ マルチチップPLC集積技術は,これ ことが可能となります. チを使用しました.光モジュール部分 まで紹介してきた石英系PLCどうしの のサイズは24 × 64,mmと非常に小型 複合機能集積モジュールを実現するだ (4) 究成果を紹介します .DWCSは, A W G の温 度 調 整 回 路 と光スイッ 複合機能集積ハイブリッド PLCモジュール NTT技術ジャーナル 2005.5 21 光ネットワークを支えるPLCデバイス技術 けでなく,異種材料を用いた機能モ を入出力する構成となっています. ました.そのときの最小受光感度は ジュールをハイブリッド集積し,光ネッ A W G の透 過 スペクトル波 形 は合 −12,dBmであり,VSR要求仕様を十 トワークで求められるさまざまな機能 波・分波用それぞれに最適化され,特 分満足する結果を得ることができま を実現することが可能です. に分波用AWGは,出力導波路をマル した. まずは,短距離光インタフェース チモード化することで,低損失かつ非 続いて,周期分極反転ニオブ酸リチ ( VSR: Very Short Reach) 向 けに 常にフラットな透過波形が得られる回 ウ ム ( PPLN: Periodically Poled マルチチップPLC集積技術を用いて開 路 を採 用 しています. またプラット Lithium Niobate)導波路と1 × 4 発した10,Gbit/s × 4チャネルWDM フォーム用PLCにはTx用DFB-LDと カプラおよび遅延線回路から構成され Rx用屈折入射型PDをパッシブアライ る石英系PLCをマルチチップ集積した (5) 送受信モジュールを紹介します . *1 メント で搭載し,導波路はファンア 超高速光時分割多重(OTDM: Opti- な発展に伴い,局内ルータ間を高速に ウト形状 *2 cal Time Domain Multiplexing) 短距離相互接続するため,40,Gbit/s 光および電気クロストークを抑圧する 級の高スループットを持つ光伝送装置 工夫をしています. 近年,アクセスネットワークの急速 が必 要 とされ始 めていますが, O I F にすることでチャネル間の Tx特性としては,10,Gbit/s直接 (6) 向けモジュールを紹介します . モジュール構成を図7に示します. 2つの石英PLC導波路とPPLN導波 ( Optical Internetworking Forum) 変調時に−3dBm以上の光出力値が 路がマルチチップPLC接続されており, で標準化された10,Gbit/s ×4チャネ 得られ,発振波長とともに要求仕様を 1 × 4カプラで4分岐された40,GHz ルVSRはその有力候補と考えられてい 満足する結果が得られました.また クロック光 は, それぞれ4 0 , G b i t / s ます.この規格は,Coarse WDMとい R x 特 性 としては, 受 光 感 度 は約 NRZ( Non Return to Zero) 信 号 われる1 , 3 0 0 , n m 帯 の波 長 間 隔 0.4,A/Wと高感度かつフラットな受光 光と合波され,PPLN導波路に入射さ 2 4 . 5 , n m の4 チャネルを用 いて送 信 特性が得られました.また3dB受信 れます.PPLN内で発生した波長変換 (Tx)・受信(Rx)を行います.我々 帯域は9GHzで,21,dB以上の隣接 の検討したモジュール構成を図5に示 チャネルクロストークが得られました. します.合分波用AWGとLD/PDが 作製モジュールの10,Gbit/s × 4チャ ハイブリッド実装されたプラットフォー ネル対向伝送実験(ファイバ長5km) ム用PLCをマルチチップPLC接続し, の結果を図6に示します. LDドライバ/PDプリアンプICが搭載 全チャネル同時駆動の状態で,10 −12 されたプリント基板を介して電気信号 以下までのエラーフリー動作が得られ LD(PD) ドライバIC (プリアンプIC) *1 *2 パッシブアライメント:位置合わせマーカ などを利用して画像認識によりLDやPDを 高精度に搭載する方法.一方で,LDやPD の光信号が最大となるようにモニタしなが らアライメントする方法はアクティブアラ イメント. ファンアウト形状:狭い間隔で並んでいる 複数の光導波路を隣どうしの光導波路が干 渉しない距離まで広げている部分. 10−4 Ch1 単駆動 Ch1 全駆動 Ch2 全駆動 Ch3 全駆動 Ch4 全駆動 10−5 10−6 符 号 −7 誤 10 り 率 10−8 AWG 電気配線 基板 マルチチップ PLC接続 10−9 10−10 全チャネル 駆動 単チャネル 駆動 10−11 10−12 −25 −20 −15 入力光強度 図5 VSR用10 Gbit/s×4チャネルモジュールの構成 22 NTT技術ジャーナル 2005.5 −10 −5 (dBm) 図6 10 Gbit/s×4チャネル 対向伝送実験結果 特 集 1×4 カプラ 2×1 カプラ 4×1 カプラ 光遅延線 (a) 40 Gbit/s NRZ signal OTDM PPLN 導波路 PLC-L PLC-R P CNV (OUT) (b) 40 GHz optical clock P CLK(IN) Clock, Signal, P SIG(IN) (c) 160 Gbit/s OTDM signals 図7 OTDM-MUXモジュールの構成 光は,遅延線を経て4×1カプラで合 波され,OTDM出力光となります. マルチチップPLC集積技術の展開 波長変換光を高効率に発生させる メトロネットワークへの適用が期待 ためには,石英PLC導波路とPPLN導 されている再配置可能な光アドドロッ 波路の接続損失を最小化する必要が プ(ROADM: Reconfigurable Optical あり,石英PLCはPPLN導波路の扁 Add-Drop Multiplexing)リングネッ 平 な電 界 分 布 と整 合 を取 るため, トワークでは,複数のROADMリング 1.5%Δ導波路と横テーパスポットサ ネットワークを接続するために任意の イズ変 換 器 ( SSC: Spot Size Con- 波長を任意の出力ポートに出力可能な verter)を適用しました.その結果, 波長選択スイッチ(WSS: Wavelength 一般的な0.75%Δ導波路では,1dB Selective Switch)モジュールが今後必 の結合損失がありましたが,0.3,dBま 要になるといわれています.WSSのよ で低減することに成功しました.また うな高機能光モジュールをタイムリか 1.5%ΔPLC採用により回路レイアウ つ低 コストに実 現 する技 術 として, トも小型化され,全体サイズは85 × 我々はマルチチップPLC集積技術が非 10,mmと小型なモジュールが実現で 常に有効な手法と考えており,今後も き,挿入損失も約2分の1に低減す 研究開発を推進していく予定です. ることができました.波長変換効率は ■参考文献 約300%/Wが得られており,このうち (1) M. Ishii: “ PLC multi-chip integration technologies,”Proc. OECC’ 2003, 16A4-1, 2003. (2) S. Suzuki, Y. Inoue, S. Mino, M. Ishii, I. Ogawa, R. Kalahari, Y. Doi, Y. Hashizume, and T. Kitagawa:“Compactly integrated 32channel AWG multiplexer with variable optical attenuators and power monitors based on multi-chip PLC technique,” Proc. OFC’ 2004, ThL2, 2004. (3) A. Kaneko, Y. Hashizume, S. Kamei, Y. Doi, R. Kasahara, Y. Tamura, I. Ogawa, M. Ishii, T. Kominato, and S. Suzuki:“Ultra small and low power consumption 8ch variable optical attenuator multiplexer (V-AWG) using multichip PLC integration technology,”Proc. OFC’ 2005, OTuD3, 2005. (4) 笠原・石井・井上・高橋・鈴木・柴田・日比 野:“マルチチップPLC構成を用いた32chダ イナミック波長チャネルセレクタ,”2004信学 PLC-PPLN結合損失および損失改善 分 は1 0 0 % / W 程 度 であるため, モ ジュール波長変換効率は接続損失低 減の工夫により,約1.5倍向上したこ とになります.160,Gbit/s OTDM出 力波形を図8に示します.ビット間隔 バラつきのない良好なアイ開口が確認 され,マルチチップPLC集積技術が将 来の超高速光通信にも有用な技術で あることが確認できました. 図8 160 Gbit/s OTDM出力波形 ソ大,C-3-67,2004. (5) 土居・大山・橋本・亀井・大木・石井・柳 澤・美野:“PLCハイブリッド集積技術を用 いた10Gb/s×4チャネルWDM送信・受信モ ジュール,”2004信学ソ大,C-3-12,2004. (6) 山田・石井・美野・柴田・大原・高良・社 家・川西・ルセーブ・クルツ・パラメスワラ ン・フェイヤー:“1.5%ΔPLC-PPLN接続を 用いたOTDM-MUXモジュール,”2003信学ソ 大,C-3-98,2003. (上段左から)金子 明正/ 土居 芳行/ 山田 貴 (下段左から)小川 育生/ 田村 保暁 マルチチップPLC集積化技術は,低コス ト化と高性能化という相反する市場要求を 同時に満足できる光部品の重要要素技術と 私達は考えております.これからもブロー ドバンドネットワーク実現に向けて,研究 開発を加速していきます. ◆問い合わせ先 NTTフォトニクス研究所 複合光デバイス研究部 TEL 046-240-4068 FAX 046-240-4528 E-mail [email protected] NTT技術ジャーナル 2005.5 23