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100ギガビットイーサネット用変調器集積光源

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100ギガビットイーサネット用変調器集積光源
R
100ギガビットイーサネット
電界吸収型変調器集積光源
R&D
&
D
ホ
ッ
ト
コ
ー
ナ
ー
InGaAlAs系歪量子井戸
100ギガビットイーサネット用変調器集積光源
NTTフォトニクス研究所
ふじさわ
藤澤
たけし
ふじわら
な お き
たどころ た か し
か の う
ふみよし
剛 /藤原 直樹 /田所 貴志 /狩野 文良
次世代の超高速ネットワークの実現に向けて,光信号を用いた100ギガビット
イーサネット(100GbE)に関する議論が進められています.ここでは100GbE
を実現するための超高速光源,および,それを用いた光ファイバ上での長距離(40
km)伝送を世界で初めて達成した成果について紹介します.
100ギガビットイーサネット
現在,次世代の超高速ネットワーク
直接変調レーザと電界吸収型
変調器集積レーザ
速EMLを構成する技術について紹介し
ます.
デバイス設計
を構成する規格の1つとして1 0 0 ギガ
100GbE用の光源として有望視されて
ビットイーサネット(100GbE)に関す
いるものには,直接変調レーザ(DML:
長距離用100GbE光源を実現するた
る議論が進められています .一口に
Directly Modulated Laser) と電 界
めには,変調器部分に関して,以下の
100GbEといっても,信号の形態(電気
吸収型変調器集積レーザ(EML: Elec-
条件を満たす必要があります.
または光),伝送距離に応じていくつか
tro-absorption Modulator integrat-
の規格があります.そのうち,光を信号
ed with DFB Laser)の2つがありま
(1)
(2)
① 25 Gbit/sという高速の変調動作
が可能なこと
として用いる規格については,ラック間
す .DMLは半導体レーザへ注入する
(∼100 m)のデータのやり取りをする比
電流を直接変調することで光の出力を変
較的伝送距離の短いものから,中・長
調するもので,構成が簡単であり,作製
距離のビル間(∼10 km),遠隔ビル間
も容易ですが,電流値の変動に伴う半
(∼40 km)のデータのやり取りをする
導体の屈折率変化(チャーピング)を避
ものがあります.この中で,中・長距離
けることが困難であり,大きな消光比を
の通信を行う100GbEの規格はそれぞ
得にくい,という欠点があります.一方,
れ,100GBASE-LR4,-ER4と名付け
EMLは,半導体レーザと電界吸収型変
層には,量子井戸と呼ばれる特殊な構
られており,送信側では,規格で定めら
調器という2つのデバイスを1つのチッ
造が用いられます.量子井戸とは図1
れた4つの光の波長に対し,それぞれに
プに集積したもので,作製する工程は
に示すようにエネルギーギャップの異な
25 Gbit/sのデータを乗せた後,重ね合
DMLに比べて複雑ですが,大きな消光
る異種半導体材料を積層した構造であ
わせて100 Gbit/sの信号を生成すると
比を得やすく,レーザと変調器をそれぞ
り,電気を運ぶ担い手(電子,正孔)
いう,LAN-WDMと呼ばれる方法が用
れ独立に最適化できるという利点があり
をエネルギーギャップの窪み(井戸)に
いられます.つまり,100GbEを実現す
ます.LR4規格にはDML,EMLのどち
閉じ込めることによって,さまざまな機
るためには, 送 信 側 において, 2 5
らも適用可能と思われますが,ER4規格
能を実現できることが知られています.
Gbit/sの信号を生成することが可能な
には,LR4規格よりもより大きな消光比
電界吸収型変調器では,量子井戸に電
4つの光源が必要となります.
が必要であるため,EMLの使用が必須
圧を印加することにより,その吸収端が
と考えられます.ここでは,特に長距離
長波長側にシフトする現象(量子閉じ
用1 0 0 GbEへの適用を目的とした,高
込めシュタルク効果)を用いて,変調動
②
規格により定められた消光比を達
成できること
ここでは,これらの条件を満たすため
のデバイスの設計について述べます.
デバイス設計−量子井戸
通常の電界吸収型変調器の光の吸収
NTT技術ジャーナル 2010.11
65
化させることができることが知られてい
作を実現します.つまり,図1に示すよ
悪影響を及ぼすことも知られています.
うに,半導体レーザから入射された光
一方,InGaAlAs(インジウムガリウム
ます.ここでいう歪とは,基板の格子定
が,電圧が印加されない場合には光は吸
アルミニウムヒ素)系材料の量子井戸で
数と異なる格子定数を持つ(通常1%
収されず,電圧が印加された場合には
は,伝導帯バンドオフセットが大きく,
以下)半導体の薄膜を成長させること
光が吸収されることで,変調動作を実
価電子帯バンドオフセットが小さい,と
により発生するもので,薄膜の格子定数
現します.このとき,電圧がONとOFF
いう電界吸収型変調器に適したバンド構
が基板の格子定数よりも大きい場合に
の間での光の強度の差(消光比)が大
造を持っていることが分かります.
は,薄膜を圧縮する力が働き,小さい場
きいほど,信号の伝送には有利になりま
次に,量子井戸の設計についてです
す.消光比を大きくするための方法とし
が,量子井戸層に意図的に歪を導入す
ては,変調器の長さを長くする,もしく
ることにより,その光学特性を大きく変
合には引っ張る力が働くため,それぞれ,
圧縮歪,引張歪と呼ばれます.図3に
は量子井戸の井戸数を増やすという方
(meV)
法が一般的ですが,変調器の長さを長
くすることは電気信号に対する寄生容量
を増加させるため,変調帯域を制限す
400
電圧印加無
電圧印加有
InGaAlAs
InGaAsP
ΔEc
ΔEv
300
ΔEc , ΔEv
る要因になります.また,井戸層の数を
200
増やすことは光信号の挿入損失を増加
させるため,1つの井戸当りの吸収量を
100
増加させるような量子井戸の設計が,高
帯域,高消光比の電界吸収型変調器に
0
0.95
は重要です.ここでは,量子井戸に用
いる材料,そして,井戸層に導入する
歪によって,問題の解決を図りました.
従来,III-V族半導体 *を用いた光半
1
1.2 (μm)
1.1
バリアバンドギャップ波長
図2 InGaAsP 系,InGaAlAs 系量子
井戸の伝導帯,価電子帯バンドオ
フセット
図1 電界吸収型変調器の動作原理
導体デバイスでは,InGaAsP(インジ
ウムガリウムヒ素リン)系の材料が主に
用いられてきました.しかし,図2に示
(eV)
0.05
(eV)
0.05
すように,InGaAsP系の材料では,伝
導帯バンドオフセット(ΔE c )の値が小
さいため,高電圧印加時には,伝導帯,
価電子帯の波動関数のオーバーラップが
小さくなり,消光比が小さくなる,とい
う問題点がありました.また,価電子
LH1
0
HH1
エ
ネ
ル −0.05
ギ
ー
エ
ネ
ル
ギ
ー
HH2
LH1
HH1
−0.05
HH2
−0.1
−0.1
帯バンドオフセット(ΔE v )が大きいた
めに,光を吸収したときに発生する正孔
が井戸内に溜まってしまい,変調特性に
−0.15
0
0.2
0.4
0.6
0.8
−0.15
1(nm−1)
0
0.2
0.4
0.6
波数
波数
(a)圧縮歪
(b)引張歪
0.8
1(nm−1)
HH:ヘビーホール
LH:ライトホール
* Ⅲ-Ⅴ族半導体:AI,Ga,Inなどの周期表Ⅲ族元
素と,N,P,AsなどのⅤ族元素を用いた半導体.
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NTT技術ジャーナル 2010.11
図3 半導体量子井戸のバンド構造
R
&
D
ホ
ッ
ト
コ
ー
ナ
ー
圧縮・引張歪を持つ半導体量子井戸の
典 型 的 な価 電 子 帯 バンド構 造 を示 し
ます.
の低減を図っています.
タフライパッケージに実装し,40 ℃で各
種の測定を行いました.
デバイス特性
図5に作製したEMLの光出力特性を
示します.しきい値電流は20 mA程度,
圧縮歪の場合には,価電子帯の第1
図4(b)に完成したデバイスの表面写
バンドはヘビーホール(HH)のバンド
真を示します.図中,左側が半導体レー
注入電流100 mAで10 mW程度の光出
であり,第2バンドとの間のエネルギー
ザ部,右側が変調器部となっており,端
力が得られています.また,図6には消
差が大きいため,バンド端での状態密度
面をそれぞれ,高反射,無反射コーティ
光カーブを示します.印加電圧を大きく
が小さく,吸収係数としては大きくなり
ングしています.作製したデバイスをバ
するにつれ,光が吸収されていくのが分
かり,16 dB以上の消光比が得られてい
ません.
ることが分かります.図7に小信号周波
一方,引張歪の場合には歪量を適切
に設定することで図3(b)に示すように,
LD pad
バンド端において,2つのバンドのエネ
HR
数応答を示します.InGaAlAs系材料
の量子井戸,BCB埋込みの光導波路を
DFB LD
ルギーを近接させることができます.こ
の場合,バンド端近傍での状態密度は
BCB
EAM
(mW)
10
大きくなり,吸収係数も大きくなるた
め,1井戸当りの消光を増やすのに有効
です.
EAM pad
8
AR
(a)模式図
デバイス設計−光導波路
光
出
力
図4(a)に今回作製したデバイスの模式
図を示します.光半導体デバイスでは,
40 ℃
6
I th = 20 mA
4
2
光を効率良く伝送するために,光を横方
0
向に閉じ込める,いわゆる光導波路の構
造が必要です.通常,光半導体デバイ
スに用いられる導波路は,高屈折率な半
(b)表面写真
0
20
40
60
80
100(mA)
電流
図4 デバイスの模式図と写真
図 5 EML の光出力特性
導体のコアの周りを,それよりも少し屈
折率の小さな半導体で埋め込んだ,いわ
ゆる埋込み型の導波路がよく用いられま
(dB)
0
(dB)
0
す.しかし,半導体の屈折率は3以上
−3
と比較的大きく,パッド電極下の寄生
容量が増加するため,高速変調用デバ
イスには向いていません.そこで,図4
消
光
比 −10
E/O
応
答
40 ℃
I LD = 100 mA
−6
−9
40 ℃
ILD = 100 mA
のように,半導体のクラッドをエッチン
−12
グしてメサをつくり,そこに低屈折率の
有機材料(BCB: Benzocyclobutene)
を埋め込んだリッジ型導波路を採用しま
した.さらに,より小さなパッド電極を
−18
−15
0
1
2
印加電圧
3
図6 EML の消光カーブ
4(V)
0
10
20
30
周波数
40
50(GHz)
図7 小信号周波数応答
変調器に採用することにより,寄生容量
NTT技術ジャーナル 2010.11
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system,”IET Electronics Lett., Vol.45, No. 17,
pp.900-901, August. 2009.
BTB
10−5
BTB
10 km
40 km
10−6
10 km
10−7
B
E
R 10−8
10−9
10−10
10−11
40 km
10−12
−30
−25
−20 −15
受信電力
−10(dBm)
図9 BER 特性
動的消光比は8.2 dBでした.ビットエ
図8 アイパターン
ラーレート(BER)を図9に示します.
1 0 ,4 0 k m 伝送後もB T B に対するパ
ワ ーペナルティはほとんどなく, 2 5
用いることにより,3dB帯域として,33
Gbit/sでのエラーフリー伝送を達成でき
GHzという非常に大きな帯域を得ること
ていることが分かります.
に成功しました.33 GHzというのは,
25 Gbit/sの変調には十分な帯域です.
伝送実験
作製したデバイスを用いて,シングル
今後の展望
100GbEという超高速ネットワークを
実現するための最新のデバイス技術とそ
の性能について紹介しました.今後は,
モードファイバ(SMF)上での伝送実
本デバイスのさらなる高性能化,100
験を行いました.25.78125 Gbit/sの
GbEに必要な4波分のEMLの集積技術
31段疑似ランダムNRZ(Non Return
などを研究していく予定です.
to Zero)信号を用い,バックツーバッ
ク(BTB),SMF上10,40 km伝送後
のアイパターンを図8に示します.10,
40 km伝送後もアイパターンはほとんど
変化せず,非常に綺麗な波形が得られ
ていることが分かります.また,このと
きのEMLの送信時光出力は2.6 dBm,
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NTT技術ジャーナル 2010.11
■参考文献
(1) http://www.ieee802.org/3/ba/
(2) T. Fujisawa, M. Arai, N. Fujiwara, W.
Kobayashi, T. Tadokoro, K. Tsuzuki, Y. Akage,
R. Iga, T. Yamanaka, and F. Kano:“25-Gbit/s
1.3-μm InGaAlAs-based electroabsorption
modulator integrated with DFB laser for
metro-area (40 km) 100-Gbit/s Ethernet
(左から)狩野 文良/ 藤原 直樹/
藤澤
剛/ 田所 貴志
次世代ネットワークを構成する新規光デ
バイスを研究開発していきたいと考えてい
ます.
◆問い合わせ先
NTTフォトニクス研究所
フォトニックデバイス研究部
光半導体機能デバイス研究グループ
TEL 046-240-3532
FAX 046-240-2859
E-mail fujisawa aecl.ntt.co.jp
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