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60 GHz帯をフルカバーした世界最小の無線装置を開発
60 GHz帯をフルカバーした世界最小の無線装置を開発 NTTは,60 GHz帯に割り当てられた4チャネルすべて ギガバイト級の大容量コンテンツを高速ダウンロードするた に対応した世界最小の小型無線装置の開発に成功しました. めの無線装置技術として期待されるものです(図2) . 今回開発した小型無線装置は,非接触で60 GHz帯の1チャ ■技術のポイント ネル当り最大3.8 Gbit/sの高速伝送を可能とします.また, 小型無線モジュールは,広帯域な平面アンテナやフィルタ 60 GHz帯の4チャネルを同時に使用した場合には,15 等の高周波部品を内蔵した多層LTCC基板にMMICを集 Gbit/s程度の高速伝送が可能となります. 積することにより実現しました.高周波部品の内蔵と基板 の高密度化により,量産時には低価格化を図ることが可能 ■研究の成果 となります. 本装置は広帯域な平面アンテナとMMICを集積化した小 アンテナは,多層LTCC基板にリング状の金属を電波を 型無線モジュールを使用することで無線装置の小型化を実 放射する面に向け直径を大きくしながら配置し,擬似的に 現しました(図1).また,60 GHz帯の4チャネルのうち 反射鏡面を形成することにより,サイズ約12×12×1(mm) 2 チャネルのみに対 応 していた従 来 の無 線 装 置 に対 し, の小型化かつ平面化を実現しました.また,放射器に給電 57∼66 GHzをフルカバーした小型無線モジュールにより4 線 を用 いた給 電 を行 わない素 子 を追 加 することにより, チャネルすべてに対応することが可能となりました. 57∼66 GHzの広帯域化,アンテナ利得10 dBi以上の高利 高速ファイル転送の実現には,無線の伝送速度だけでは なく,ストレージやメモリの性能を考慮する必要があるため, 得化を実現しました. 60 GHz帯フルカバーの鍵となる周波数変換MMICは, NTTでは高速バスとストレージを備えた市販のPCを用いて, 構成素子である移相器の広帯域化が重要になります.移相 ギガバイト級の映像コンテンツの読み込み・書き込みの実験 器については広帯域化のために多段構成とし,高い結合度 を行い,リアルタイムに高速ファイル転送が可能であること が必要な中心段に容量素子を用い広帯域化を図りました. を確認しました. その結果,比帯域15 %以上の広帯域化を実現し,60 GHz 本技術は,駅やコンビニエンスストア等に設置したキオス 帯の4チャネルすべてに対応することが可能となりました. ク端末や家庭内のDVDレコーダ等からスマートフォン等に MMICの実装には,ICの裏面を配線加工したMMICを レコーダ(屋内) 119 mm 受信 33 mm 送信 59 mm 1 2 3 4 5 6 1 1 1 * 0 # ネットワーク クラウド ホームゲートウェイ・ ホームサーバ(屋内) 60 GHz帯小型無線モジュール キオスク端末(屋外) 図 1 60 GHz 帯小型無線装置 70 NTT技術ジャーナル 2012.4 図2 将来サービスのイメージ 用い,位置精度の高い実装を実現するとともに,MMICと 多層LTCC基板との接続部の損失低減を図りました. 60 GHz帯で装置化する場合には,基板で扱う信号の周 波数が高くなるため,素子や配線間の結合が高くなり,間 隔が狭いと信号漏洩が発生します.そこで使用する基板の 多層化および素子配置の最適化により,素子間や配線間の ◆問い合わせ先 NTT先端技術総合研究所 広報担当 TEL 046-240-5157 E-mail a-info lab.ntt.co.jp URL http://www.ntt.co.jp/news2012/1201/120117a.html 結合を低く抑え,高集積化を実現しました. ミリ波で新しい世界を 研究者 紹介 川島 宗也 NTT未来ねっと研究所 ワイヤレスシステムイノベーション研究部 適応信号処理研究グループ 研究主任 本研究はミリ波回路技術やモジュール化に適した平面アンテナ技術といったハードの要 素技術からスタートし,2008年にラックサイズの装置,2009年にA4ボードサイズの 装置を実現し,今回の小型無線装置実現に至っています.私は入社以来広帯域な高周波回 路の研究に従事してきたため,小型無線モジュールの広帯域化および装置化を担当しまし た.小型無線モジュールについては,小型無線装置への実装性を考慮した材料選定と構造 決定を行い,4チャネルをフルカバーした小型無線モジュールを実現しました.小型装置 については,装置化で問題となっていた信号干渉および漏洩について,レベルダイヤグラ ムとブロックダイヤグラムを見直すとともに,部品配置や基板レイアウトの最適化を行う ことで,問題解決を図りました. 諸問題の解決にあたっては,諸先輩方から教わった高周波や無線の技術,またこれまで 培ってきたノウハウを活かすことができました.今後は私が引き継いだ技術やノウハウを 後進に引き継いでいきたいと考えています. 近年のスマートフォンやタブレットPC,ソーシャルネットワークサービスの普及により, 情報を伝達する形態が大きく変わろうとしています.60 GHz帯を使用した無線システムは,高速・大容量通信が可能であり,社会生 活を変える一助になると考えています.早期にサービスを実現し,新しい世界の実現に貢献したいと考えています. NTT技術ジャーナル 2012.4 71