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スマートフォンの画面輝度が疲労度合いに及ぼす影響 AE12066 滑川聖 1. 研究背景 指導教員 入倉隆 示した。 近年スマートフォンの普及に伴い、眼疲労や首や肩の 画面輝度の条件は、スマートフォンに内蔵されている 痛みなどの健康被害を訴える使用者が報告されている。 明るさ自動調整機能で出力される画面輝度が一般的に設 主な原因としてスマートフォンの軽量さゆえに手に取 定される画面の明るさと考え、その値を主軸に常識的な りやすく、目とモニターの距離が近くなり過ぎることが 範囲内で設定した。尚、0lx時に明るさ自動調整機能で 挙げられる。近距離での光の凝視は目のピント合わせを 出力される輝度が3.5cd/m2、200lx時では40cd/m2である。 表1 実験概要 する毛様体筋肉に硬直状態を促す上に、まばたきの回数 条件1 が減少し目が乾燥する事から眼疲労を引き起こす。また 条件2 条件3 条件4 条件5 条件6 その際の偏った姿勢から首や肩の痛みを引き起こす。こ 作業面照度[lx] 0 200 の健康被害はスマホ症候群と呼ばれており、眼科専門医 姿勢 横になる 椅坐位 や整形外科医が注意を喚起している問題である。 2 3.5 画面輝度[cd/m ] 抑えられたという結果が得られている。スマートフォン 40 12 web漫画を読む 作業時間[s] 1800 眼疲労測定 フリッカー値計測 被験者 20代男女計8名 大高ら[1]の研究により、PC作業において適切な姿勢と 低い画面輝度を心掛ける事により、最大で疲労度を90% 12 作業内容 40 120 作業は使用環境が多岐に及ぶ為、適切な姿勢でスマート フォンを使用することが難しい場面があり、画面輝度を 調節することが眼疲労対策の主流になると考えられる。 しかし上記の通りスマートフォンの使用環境の問題上、 実験を行う際条件設定が難しく、スマートフォンと眼疲 労を関連付ける研究が行われていない。 そこで本実験は、スマートフォンが実際に使用される 場面を2つに限定して行った。画面輝度と眼疲労の関係 を定量的に示す基礎的研究として眼疲労対策に活用され 2.2 評価方法 疲労度合いを評価するに当たって、フリッカー値計測 と自覚症状アンケートを用いる。 フリッカー値計測は実験の前後にそれぞれ計測し、式 (1)でフリッカー値低下率を導出することにより眼疲労 を評価する。フリッカー値低下率は5%で作業の遂行に支 障をきたし,10%で作業困難になると言われている[4]。 フリッカー値低下率[%] る事を目的とする。 (フリッカー値(前)−フリッカー値(後))×100 = 2. 実験 2.1 実験概要 フリッカー値(前) …(1) 自覚症状アンケートは実験後に行い、筋肉疲労、精神 疲労に関する独自の質問に対して当てはまるものを「と 表1に本実験の概要を示す。 [2] インターワイヤード のスマートフォン使用に関する アンケート調査により、暗い部屋で横になりながらの使 ても感じる」「感じる」「感じない」の3段階で答えて もらう。「とても感じる」を2、「感じる」を1、「感じ ない」を0として疲労度を数値化し評価する。 用と明るい部屋で椅坐位の姿勢での使用が、最も多いス マートフォン使用環境である事が明らかになっている。 以上の使用環境を想定し、暗い部屋では作業面照度を 0lxに設定した部屋でベッドに横たわり使用、明るい部 屋では作業面照度を200lxに設定した部屋で椅子に座り 使用という条件で実験を行う。作業面照度はそれぞれ寝 室とリビングのJIS照度基準 [3]を参考に設定した。尚、 ベッドに横になる際の姿勢に関する指定はしていない。 椅坐位の姿勢に関しても指定はしていないが、スマート フォンを持つ手をなるべく机の上から動かさないよう指 2.3 実験手順 以下の手順で実験を行う。 被験者のフリッカー値を上昇法と下降法それ ぞれ 2 回ずつ計測する。 ② 被験者に視作業を 30 分間行わせる。 ③ 自覚症状アンケートに記入させる。 ④ 再び被験者のフリッカー値を同様に計測する。 ① 3. 実験結果 図2に各輝度条件下でのフリッカー値低下率(0lx)、図 3に各輝度条件下でのフリッカー値低下率(200lx)を示す。 図2より0lxでは、画面輝度を低くするほどフリッカー 縦軸はフリッカー値低下率、横軸は画面輝度、エラーバ 値低下率が低くなっている。3.5cd/m2条件では12cd/m2条 ーは標準誤差を示す。そして表2に0lxでのアンケート結 件より約30%、40cd/m2条件より約61%も疲労度を抑えら 果、表3に200lxでのアンケート結果を示す。 れている。分散分析の結果、3.5cd/m2と40cd/m2との間、 12cd/m2と40cd/m2との間に1%の有意差があった。 図3より200lxでは、40cd/m2条件で一番疲労度が少な い と い う 結 果 が 得 ら れ た 。 12cd/m2 条 件 よ り 約 25% 、 120cd/m2 より約13%疲労度を抑えられている。分散分析 の結果、画面輝度間に有意差は確認できなかった。 表2と表3より「手の疲れ」「首の疲れ」「肩の疲れ」 の項目では画面輝度が低くなるほど疲労度が高くなって いる。「目の疲れ」の項目では、それぞれ0lxは40cd/m2 条件、200lxは12cd/m2条件での疲労度が一番高い。これ は図2、図3の結果と同様である。「眠気」「目の霞み」 の項目では、画面輝度が低くなるほど評価が高く、逆に 図2 各輝度条件下でのフリッカー値低下率(0lx) 「いらいら」「集中力の欠如」の項目では、画面輝度が (** : p<0.01) 高くなるほど評価が高くなっている。 4. 考察 図2、図3の結果から疲労度を抑えるためには、ただ画 面輝度を低くする事が必ずしも良いとは言えないという 事が分かった。表2、表3より画面輝度が低くなるほど、 筋肉系の疲労度合いが高くなる事からも同様の事が言え る。このような結果が得られた理由として、暗い画面で 文字を判別する為に顔を画面に近付ける姿勢が首、肩、 目に負担を掛けてしまった事が主に考えられる。本実験 より画面輝度を低く抑える事で眼疲労に好影響を与える 図 3 輝度条件下でのフリッカー値低下率(200lx) が、低過ぎると筋肉疲労に悪影響を与える事が分かった。 画面輝度の実験条件を増やし最適な輝度条件を検討す 表 2 アンケート結果(0lx) 3.5 12 画面輝度[cd/m2] 手の疲れ 0.375 0.250 首の疲れ 0.250 0.250 肩の疲れ 0.375 0.250 目の疲れ 1.13 1.13 眠気 0.875 0.750 目の霞み 0.500 0.500 いらいら 0.125 0.125 集中力の欠如 0.125 0.375 表 3 アンケート結果(200lx) 12 40 画面輝度[cd/m2] 手の疲れ 0.375 0.125 首の疲れ 0.375 0.250 肩の疲れ 0.375 0.125 目の疲れ 1.50 1.13 眠気 0.500 0.375 目の霞み 0.750 0.375 いらいら 0.125 0.125 集中力の欠如 0.125 0.250 40 0.375 0.125 0.125 1.25 0.750 0.625 0.250 0.500 120 0.250 0.125 0.125 1.38 0.375 0.375 0.125 0.500 る事、筋肉疲労と眼疲労の相関を明らかにする事が今後 の課題となる。 参考文献 [1] 大高功 , 高林克枝 , 「モニターを使った作業と 疲労度合いについて」日本未病システム学会雑誌 vol.14 No.2 211-213 2008年 [2] インターワイヤード株式会社 , スマートフォン の使用と姿勢に関するアンケート http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2014/140 204/ [3] 日本工業標準調査会 , 証明基準総則 http://www.jisc.go.jp/app/pager?id=1786310 [4] 大久保暁夫 , 加藤象二郎編著 , 「初学者のため の生体機能の測り方」13章 pp.179-183