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Ⅲ.実態調査からみた交通事故被害
交通事故被害者の支援 Ⅲ.実態調査からみた交通事故被害 本節では、1998年~99年に行われた「交通事故被害者実態調査」5)の結果をもと に、交通事故の被害者・遺族のおかれている状況についてみていく。 調査対象者は、茨城県および埼玉県において交通事故の被害にあい、死亡した 者の遺族および重傷を負った者である。いずれも事故から調査日までの期間が1 年以上 3 年以下の者である。 調査結果からは、交通事故が生活のさまざまな事柄に影響し、その被害が多岐 に渡ることが明らかとなっている。被害者のニーズもまた、損害賠償のみならず、 事件の詳細な説明、加害者の処罰など多岐に渡っている。以下では、調査結果を 詳細に見ていく 6)。 1.交通事故被害者の生活はどのように変化するか 交通事故の被害にあうことにより、遺族や被害者の生活にどのような変化がも たらされるのであろうか。また、精神的なダメージはどれほどであろうか。 (1) 生活の変化 調査の結果、変化した事柄として、「外出する回数が減った」、「趣味や遊びを しなくなった」と回答した人が多い。次に、「経済的に苦しくなった」ことをあ げる人が多い。また、遺族の中では、「家庭内の人間関係が悪くなった」と回答 する人が多い。 多くの人が、事故による負傷や精神的ショックといった「直接的被害」だけで なく二次的な被害を被っている。 5) 調査方法などは次のとおりである。 ・実施主体:交通事故被害実態調査研究員会(委員長:岩井宜子) ・調査方法:質問紙調査。手渡しまたは郵送により配布。回収は郵送。質問紙回収後に一部 面接調査を実施。 ・調査対象:交通事故遺族、重傷事故被害者。 ・集計回答者数:交通事故遺族 491 名、重傷事故被害者 580 名。 ・主な調査項目:事故の概要、生活の変化、精神的苦痛の状況、事故捜査および司法手続き に対する意見。 ・なお、平行して、警察官に対しても質問紙調査を実施している。 6) 本節で用いる図表は、交通事故被害実態調査研究委員会『交通事故被害実態調査研究報告 書』 (1999 年)によるものである。 28 第2章 交通事故被害の実態 (%) 0 10 20 30 40 41 外出する回数が減った 趣味や遊びをしなくなった 15 6 13 仕事・学校を休みがちになった 10 仕事・学校をやめた 8 事故の被害者になったことを非難された 職場での対人関係や友人関係が悪くなった 転居した 0 1 1 4 4 5 図-6 (2) 30 23 24 24 経済的に苦しくなった 家庭内の人間関係が悪くなった 離婚した 50 44 19 14 死亡事故遺族 重傷事故被害者 10 事故後の生活の変化 精神的なダメージ 次に、精神的なダメージについて遺族の場合と重傷事故被害者の場合について みる。遺族は、調査時においても「事故について思い出させるものにふれるとす ごく辛い」、 「事故に関わることは考えないようにしている」、「事故を思い出させ るようなものや場所を避けてしまう」、「事故のことについて考え込んでしまう」 といった回答が多い。 0 10 20 30 40 50 60 60 事故について思い出させるものにふれるとすごく辛い 47 事故に関わることは考えないようにしている 事故のことについて考え込んでしまう 42 42 事故を思い出させるようなものや場所を避けてしまう 40 突然に事故のときの光景がよみがえる 37 気持ちが落ち込む 33 また同じ事故にあうのではないかと心配だ 29 自分の身に起こったこととは思えない 26 自分ではどうにもならないと感じる 図-7 (%) 70 事故遺族の精神的ストレス(調査時) 一方、重傷事故被害者は「また同じ事故にあうのではないかと心配だ」、「事故 に関わることは考えないようにしている」 、「事故は偶然だったと思う」、 「事故を 思い出させるようなものや場所を避けてしまう」といった回答が多い。 (%) 0 10 20 30 40 46 また同じ事故にあうのではないかと心配だ 30 事故に関わることは考えないようにしている 30 事故は偶然だったと思う 29 事故を思い出させるようなものや場所を避けてしまう 27 突然に事故のときの光景がよみがえる 25 忘れるために仕事に熱中するようになった 図-8 50 重傷事故被害者の精神的ストレス(調査時) 29 交通事故被害者の支援 (3) 精神的健康度 精神的健康度を測る尺度に、GHQと呼ばれるものがある。このGHQにより、 交通事故遺族および重傷事故被害者の精神的健康度をみると、遺族の場合は 76.6%、重傷事故被害者の場合は 58.0%が精神的健康度が低いという結果が出て いる。 (4) 身体的後遺症 重傷事故被害者は、身体的な被害を負っている。さらに、「なんとなく体の調 子が悪い(39%)」、「身体の機能が損なわれている(30%)」、「目立つところに傷 あとが残っている(24%) 」といった後遺症に悩んでいる。 0 10 20 30 40 39 なんとなく体の調子が悪い 30 身体の機能が損なわれている 24 目立つところに傷あとが残っている 23 特に悪いところはない 3 身体の一部が失われている 21 その他 図-9 (%) 50 重傷事故被害者の後遺症 2.事故の相手に対してどのように感じているか 事故の相手に対して、重傷事故被害者は「相手の態度には誠意が感じられた (30%) 」 、 「相手を許そうと思う(28%) 」 、 「相手の辛い気持ちも分かるような気が する(25%) 」といった、事故の相手に対して一定の理解を示す感情が見られる。 (%) 0 10 20 30 30 相手の態度には誠意が感じられた 相手を許そうと思う 28 相手の辛い気持ちも分かるような気がする 25 相手が支払う金額が低すぎる 21 20 代理人を立てずに交渉してほしい こちらにも落ち度があった 20 相手がにくい 18 16 保険ではなく自分で賠償金を支払ってほしい 15 いくら賠償金をもらっても悲しみは癒えない 相手の刑罰が軽すぎる 相手にしかえしをしたい 図-10 11 4 事故の相手に対する感情(重傷事故被害者) 30 40 50 第2章 交通事故被害の実態 い それに対して遺族の場合は、「いくら賠償金をもらっても悲しみは癒 えない (73%)」との回答が多く、次に「相手がにくい(35%)」である。 事故の相手に対して求めているのは、賠償金の額だけではないことが分かる。 また、自由記述の回答では、事故の相手の誠意のなさや刑罰の軽さを訴える意見 が多い。 (%) 0 10 20 30 40 50 60 70 73 いくら賠償金をもらっても悲しみは癒えない 35 相手がにくい 29 相手の辛い気持ちも分かるような気がする 28 相手の刑罰が軽すぎる 27 相手の態度には誠意が感じられた 27 相手が支払う金額が低すぎる 26 保険ではなく自分で賠償金を支払ってほしい 20 代理人を立てずに交渉してほしい 相手を許そうと思う 15 こちらにも落ち度があった 15 11 相手にしかえしをしたい 図-11 80 事故の相手に対する感情(死亡事故遺族) 3.事故捜査にどのように感じたか 警察が行った事故の捜査に対して、遺族や被害者はどのような印象を持ったの であろうか。 重傷事故被害者の約 6 割は、「警察は事故原因を詳細に調べた」、 「警察の捜査 に納得している」としている。遺族の場合は 3 分の 1 程度である。 一方、遺族、被害者とも 3 分の 1 の人が「捜査のしかたは事務的な感じがし た」としている。 (%) 0 10 20 30 40 60 38 警察は事故原因を詳細に調べた 59 37 警察の捜査に納得している 59 33 35 捜査のしかたは事務的な感じがした 27 警察が信用できるようになった 34 29 事故の相手の言い分により捜査が進められた 図-12 50 24 事故捜査に対する印象 31 死亡事故遺族 重傷事故被害者 70 交通事故被害者の支援 また、警察官の接し方において、辛かったり、不愉快に思ったこととして、捜 査状況や捜査結果についての説明不足があげられている。 次いで、「思いやりや共感を示さない」、「無神経な言葉や失礼な態度で接す る」といった事柄をあげる人が多い。 4.どのようなニーズがあるか 事故後に相談に行った機関などとして、遺族の場合は「弁護士(26%)」、「市 役所などの交通事故相談所(22%)」がある。遺族に比較すると相談機関などを 利用する重傷事故被害者の割合は低い。 0 5 弁護士 10 交通事故紛争処理センター 1 精神科や診療内科 1 0 7 4 4 2 死亡事故遺族 重傷事故被害者 2 0 交通事故鑑定士 1 1 1 その他の機関 図-13 22 10 3 警察の交通事故相談所 (%) 30 25 26 13 日弁連交通事故相談センター 大学等の被害者相談室やカウンセリングセンター 20 4 市役所などの交通事故相談所 全国交通事故遺族の会 15 5 9 事故後に相談に行った機関 次に、警察の被害者対策に求めているものをみる。警察に期待する相談の内容 として、「事故発生状況や事故原因についての説明」、「示談交渉のしかたについ てのアドバイス」、 「保険制度の説明」といった事柄がある。 0 10 20 30 40 事故発生状況や事故原因についての説明 40 42 45 示談交渉のしかたについてのアドバイス 29 保険制度の説明 相談機関、専門家又はボランティアの紹介やあっせ ん 19 刑事手続きや裁判手続きの説明 心のケアやカウンセリング 図-14 10 15 1 1 警察に期待する相談の内容 32 61 33 15 7 (%) 70 60 28 25 9 民事裁判手続きの説明 その他 50 死亡事故遺族 重傷事故被害者 第2章 交通事故被害の実態 被害者の求めることの最後に、刑事手続きなどに関するものをみる。 遺族の意見として、「事故捜査の状況や結果をもっと説明してほしかった (48%)」、「殺人事件等にくらべて交通事故加害者の刑罰が軽すぎると思った (42%)」、「世間の人は交通事故の重大さを十分に理解していないと思った (41%)」、「警察や裁判所において、加害者は自分の言い分を主張できるのに、 被害者にその機会が少ないと思った(38%)」といった事柄がある。 一方、重傷事故被害者では、「事故捜査の状況や結果をもっと説明してほしか った(26%)」、「世間の人は交通事故の重大さを十分に理解していないと思った (26%)」という意見が多い。 0 10 20 30 事故捜査の状況や結果をもっと説明してほしかった 13 38 11 31 17 捜査の手続きや裁判の手続きをもっと説明してほしかった 30 10 裁判が開かれるなら、日時や場所を知らせてほしいと思った 27 6 専門家に相談したくてもどこへいったらよいか分からなかった 事情聴取、裁判、相手との示談交渉などのときに支援してくれるボランティア の人がいたら嬉しかった 弁護士や専門家に示談交渉の助言をしてほしかった 18 19 11 11 23 16 14 3 新聞やテレビに報道されて不愉快な思いをした 取り調べや裁判等になるべく関わりたくないと思った 8 9 14 16 12 10 10 11 図-15 事故捜査や司法手続きについての意見 33 41 26 警察や裁判所において、加害者は自分の言い分を主張できるのに被害者に その機会が少ないと思った 実況検分に立ち会いたかった 事故後の手続きを知らなかったために損をしたことがあった 48 42 世間の人は交通事故の重大さを十分に理解していないと思った カウンセラー等に精神的な悩みや辛さについて相談に乗ってほしかった 50 26 殺人事件等にくらべて交通事故加害者の刑罰が軽すぎると思った 裁判が開かれるなら、証人として出廷したいと思った 40 死亡事故遺族 重傷事故被害者 (%) 60